魂が震える。心が燃え上がっている。体が今にも暴れそうだ。
瀕死になったから制限が解除しかけている。本来の力が外に出ようとしている。
「グゥゥウウウウウウウウ・・・・・・」
ただこれは暴走だ。理性が薄くなる。言葉が消える。闇が顔を出す。自分という意識は薄く遠く、この体から離れていくのがわかる。でも私は抵抗し、意識を保つ。
これは私の落ち度だ。この特異で目立つ場所で力を使えば気付かれる事は考えればわかることだった。
戦っていた【
「・・・・・・アナタ、私を知っている?」
不思議そうにこちらを見る少女――初めてその姿を見たダンジョンマスター。
色付いていない白肌、透けるように鮮やかな紅の長髪、オッドアイではなく蒼と翠の2色を瞳に宿した両目。外見はヒューマンだけど先の特徴がそれを疑わしくしている。現実離れした美しさを持つこともだが、何よりこのダンジョンで貫頭衣のような格好は流石にあり得ない。それはここが彼女にとってこの階層――いやダンジョンはそれだけ気楽にいられる場所の証、メイ―――。
「アァクソッ!!」
考えルほどにイ識が薄くナル。自ブンを見つめたままジャナないとすぐに持ってカレル。ナラ、ヤレる事をする。
「【グニタヘイズの穴蔵、その奥底に宝物を置きましょう――ミュニアストレジャー】!!【グニタヘイズより贈り物を】!」
先に出現させた竜具を回収。そして新たに鎖を出した。三大クエスト、隻眼の黒竜の動きすら封じる竜具を、
「アアッ!!」
ジブンに
「【
ヒさ々に誰カを名マエで呼ブ。タダ、一言。
「トメられタならトめて頂ダイよォ!!」
イシキはココデ、沈ンダ―――。
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第24階層・
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魔石を辿り、ようやく食料庫まで到着した私たち。そこは数多くの食人花のモンスター、そして冒険者たちと彼らと敵対している白装束の集団。でもその中にアイズさんの姿はなかった。
「おい、時間を稼いでやる。
ベートさんのまっすぐな言葉にアイズさんの姿を探していた私には少し理解が遅れたけどすぐに杖を構える。
「【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ。同胞の声に応え、矢を番えよ。】」
集中、ただ集中。この空間にいる食人花を全て撃ち払うだけの威力を、魔力を練る。
「【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢。 雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え】」
詠唱を終え、杖を掲げた。
「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」
魔法名を宣言。
「はぁ……、はぁ………」
「おーい! お前、レフィーヤじゃないか!?」
「え……、ルルネさん!」
さっきは魔法に集中していたせいで気づかなかったけど囲まれていたパーティーの中にルルネさんがいた。
「どうして貴女が――」
「おいっアイズはどうしたっ!!」
あ、あのベートさん。ちょっと強引―――。
「と、途中で分断されたんだ! 私たちと【剣姫】、それに【
………えっ、あの人もここに?
余計な手間で面倒くせぇが、あの野郎の目付きは気に入らねぇ。だったらブッ倒して吐かせてやる。仮面の野郎に向かいながらそう決めた。
踏み込む毎に加速して近づいていくと前から食人花のモンスターが襲いかかる。
「チッ、つまらねぇ真似すんじゃねぇ!! 邪魔だぁ!!」
双剣で斬り刻み、さらに近づく。
「クッ、冒険者風情がッ!」
仮面野郎の悪態が聞こえた所でお互いが間合いに入った。だが突撃だった俺よりも仮面野郎の迎撃が一歩早い。だが遅ぇ。
紙一重。その差で迎撃の一撃を躱し、こっちの反撃の体勢を整える。視界の隅で仮面野郎の二撃目の構えが見えたが、それも遅ぇ。顔面に向けて蹴りを放った。
「……ちッ!」
が、腕へ防がれた。だが今の感触、かなり頑丈な身体をしてやがる。防いだ腕もダメージを与えられた感じもしねぇ。
「貴様は【
【剣姫】――ここにいねぇアイズがここに向かっていた事を知ってる口ぶり。あの犬人が言ってた分断はこいつ等の仕業……!!
「おいてめぇ、アイズをどこにやった!?」
「【剣姫】なら私の同志が相手をしているだろう。今頃は片腕をもがれて可愛がれている頃だろう」
―――その言葉の直後、俺はいったい何を思ったか。ただ仮面野郎に技を打ち、そして一度離れて言った。
「殺すぞ!!」
どっちみち、こいつに手加減する気は失せた。遠慮なく行かせて貰う!!
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食料庫・別視点
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「……………ッ!」
鋭い痛みに目が覚めた。ぼやける視界が捉えたのは肉の床。遠い耳が拾うのは戦いの音。それらが眠る前の事を思い出し、現状を理解させる。
「………キークス」
自分を助けるために己の身を顧みなかった仲間の名を呟く。もう言葉を交わすことも、共に冒険をする事もない仲間の名を。
だからこそ、ここで寝ているわけにはいかなかった。激痛と目眩でまた沈みそうな意識を保ちながら体を這わせる。目指す先はキークスが最後に遺したハイポーション。この傷を完治する量はなく、使ってもなんとか動ける程度でしょう。でもここで動かなくてはキークスの思いを―――
―――ガシッ。
ふと、手を伸ばすその先に足音が鮮明に聞こえた。
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食料庫・戦闘地点
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硬ぇ。しかもこの馬鹿力。速さで勝ってても押し切れねぇ。
「はぁ!」
「チィ!!」
いや、向こうが俺の動きに慣れ始めてきやがった。擦った所から僅かに血が流れる。だが、こちとらオラリオ『最速』なんて呼ばれてんだ。速度勝負じゃ負けるつもりはねぇ!
「ッラ!!」
「ぬぅ!」
さらに速く、遠慮なしの蹴りを打ち込む。手応えはある。だが堪えた様子は相変わらずない。おかげで反撃をする位だが速度を上げた俺に掠りもしなかった。
「チッ、
ペースが俺に戻ろうとしたとき、奴は大声で叫びやがった。仲間でも呼んだのかと周囲を警戒するが近くには誰もいなかった。だがそこに頭上――天井から僅かな音が聞こえた。見上げれば蕾だった食人花のモンスターどもがその花を開いていた。
「馬鹿めッ!」
だが俺はミスをした。モンスターに一瞬目を向けたせいで一撃を貰った。反射的にガードが出来たが足を浮かされて後ろに飛ばされた。着いていりゃ踏ん張りも効いたが浮いた以上は野郎の力分だけ体が後ろに追いやられる。
「行けっ!!」
しかもさっき俺が見たモンスター共が追いかけてくる。
「チッ!!」
悪態と同時にようやく足が着く。地下水路と違って双剣を持ってた今回は手こずる事はねぇが数が多い。野郎の所まで戻るには時間がかかる。
「鬱陶しいんだよッ!!」
その苛立ちは目の前のモンスター共にぶつける。剣を振り下ろせればその
「『――――――破邪の
そこにその声が聞こえた。初めて聞く言葉だったが内容から詠唱の言葉。それにこの声は、あのエルフの声―――!
「バ――――」
「『ディオ・テュルソス』!!」
やりやがった! あの頑丈さを見ていなかったのかよ!
なんて悪態を吐きながらも動いた。邪魔な物は退け、まっすぐにバカエルフの下へ。速く速く、近づいていく仮面野郎の姿が目に映るだけ焦りが生まれる。だから後先考えず、あいつを蹴飛ばして助けた後は考えていなかった。
避けられない自覚。そして見えたのは仮面野郎の不快な笑み。 死の影が目に見えていた。そう、目に見える世界に死がいた。
それを目に見えない何かが助けた。仮面野郎が何もない場所から避けた。それは不可解なものだった。
「クッ!?」
仮面野郎も不可解と思いながら避けた場所に反撃をした。
そして現れたのは、
「――何してんだ【
その叫びに余計な思考が消えた。
「らぁあああああああああああああああああああ!!!」
ただ殺す気で一撃一撃に力を込めた。
血が足りず霞む視界の中で【凶狼】が仮面の男を吹き飛ばす光景を見て僅かに安堵し、その気の緩みが抑えつけていた痛みが暴れ出した。
「っ……」
「大丈夫ですかアスフィさんっ!」
その時キークスが駆け寄ってくる。本当にダメージなどなかったかのような動きだ。
でも私は確かに見た。彼が食人花のモンスターによって殺される瞬間を。
「それをすんません! あのクソ野郎を殴る事出来ませんでした!」
「構いませんよ……。ただ失礼な事を聞きますが、本当にキークスなんですよね?」
「もちろんです! ……と言いた所ですが俺も不思議なんです。自分でもあのモンスターに殺されたって自覚はあるんですけど気づけば痛みもなければ寧ろ万全の状態だったんです」
キークスも自分が殺された自覚はあった。事実、体は回復しても破けた服や壊れた装備はそのままだった。まるで蘇生か、誰かが身代わりになったあの――-。
「キークス、人形はどうなっていますか?」
「人形?」
「【
「ああ、アレですね。それならここ、に……」
人形を取り出したキークスがそれを見て言葉を失い、私も同じく言葉が出なかった。その人形は何も変哲もない普通の造形だった。それが今はボロボロに成っている。キークスが負った筈の傷を
「……自信をなくしますね」
「いっ、いや、そんなこと」
「ああ、そういう意味ではありません。でも詳しい理由はまた今度に。まずは皆と合流しましょう。キークス、運んでもらえますか?」
「もっ、もちろんですっ!そしてアスフィさんの事は死守しますっ!!」
「バカですね。今度は死んではいけませんよ」
「はいっ!!」
何故かやる気と喜びに満ちていますけど今は良いです。私たちは全員、生き抜くために行動を。
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第24階層・食料庫付近
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「―――フッ」
「チィッ!!」
また一振り、彼女――【
「まだだぁ!!」
でもまた倒しきれない。人間離れした力と頑丈さ、何より無尽蔵とも思えるそのタフさ。序盤は確実に私が押し、それは変わらない。でも徐々に彼女の勢いが増してきている。
――怒り。それが彼女の大半を動かす原動力だ。
そんな彼女の一撃をまた避け、反撃する。
「グッ!」
間一髪で防がれた。でもあえて私は攻め続ける。
「グッ、ヌゥ……!」
突然の連撃に防御姿勢を崩せなくなった彼女。ただし私もこの連続の動きを落とさないためにこの場からは動けない。
でも私は知っていた。彼女の
バァアアンッ!!!!
「っ!? しまった!!」
自分の武器の限界すら把握していなかった彼女の声が上がる。それは狙うべき隙。武器を破壊するまで連続に動かした剣を刹那に溜め、そして力強く放った。
「ガッ!」
嗚咽と共にその体が後ろへ吹き飛ぶ。その策は肉壁があり、叩き付けられた所で追い込もうと前に進む。そして彼女が壁に激突し、
その壁が更に向こう側へ崩れた。
思わず足を止め、向こう側へ落ちていく彼女の姿を眺めた。その時、これまで戦い続けた体に疲労を感じ始め、呼吸が乱れる。すぐに整え、少しでも体力を取り戻そうと規則正しく。その後でどの場所に出たのかを確認した。
ドーム状に広がる空間。その中心には巨大な植物に巻き付けられた
「アイズさんっ!!」
すると下から聞こえる筈のない声が聞こえ、顔を下ろす。そこには分断された皆や何故かレフィーヤやベートさん。それに知らないエルフの女の人がいた。そして、誰も死んでいない事を知って安堵した。
そう思っていたときに気配を感じた。気を引き締めれば巨大な食人花のモンスターが襲い掛かろうとしていた。
「――!―――――!!」
「――!!」
誰かが叫んでいたみたいだけどモンスターが起こす騒音にかき消されて聞こえなかった。でもちょうど良いかもしれない。このモンスターに【
襲い掛かるモンスター。でもその動きから見て充分に間に合う。
「行く―――」
そして渾身の一刀を振る。
そこで背筋が凍るような電撃が走り、その場から飛び降りた。その直後、反対側の壁から火柱が伸びた。
―――ドォンッ!!
続けて落下音、いや衝突音だった。さっき見た火柱が私に襲い掛かっていたモンスターにダメージを与えていた。食人花と同じ植物系モンスターだからその効果は抜群だった。
そこまでを考えて着地し、その直後に私より響く着地音が聞こえた。
「【
誰かの声か? でもその二つ名に思わず注目した。確かに【フレイア・ファミリア】団長の【猛者】オッタルがいた。ただ見慣れない大剣と、彼自身が激戦を抜けてきたような姿に一瞬の動揺が生まれる。
その中でオッタルが上を見上げ、その視線の先を追えたのは偶然だった。視線の先、視界の中に移ったのは熱で溶けた大穴と、宙にいる少女。
「・・・・・・女の」
子。と最後まで言えなかった。その少女がおもむろに両手を叩いたと思ったら大穴が同じ動きをして塞がった。
驚き以外はなく、見ていた全員も同じ事を抱いた筈だった。そんな中で少女の指を鳴らす音が鮮明に聞こえ、それに併せて足場のような石柱が伸びた。少女はちょっとしたジャンプを終えたようにその上に乗った。
でもまだ終わらなかった。塞がれた大穴があった所から大きな音が鳴り響き始めた。
「今度はなんだぁ!?」
声が聞こえ、それがベートさんの声だってわかった。この大きな音が響く中でハッキリ聞こえたのはそれ以外が静かにいたから。だからこの音が塞がれた大穴を再び開けようとする音だって事も理解できた。つまり、まだ何かがいる。
そしてその何かは見事塞がれた大穴に穴を再び開けた。さっきより小さいけど十分に大きな穴の向こうは闇で何も見えない。その中で、一本の赤い尾が顔を出していた。
それで誰なのか、わかってしまった。
『GYaAAAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!』
人じゃない、獣のような叫び。モンスターのようで、違う意味で近寄りがたい声。ただその声が開けた穴を更に広げた。そこでようやくその姿を見た。
肥大化した手足。長く伸びた尾。拡張した双翼。白銀の長髪。異様な姿、合致しない特徴だったけど私は確信した。
彼女はカレン・デュラスだと。モンスターと
・ベタニアルタ
拘束具の竜具。聞こえは良いが
(※元ネタ:聖人伝集『レゲンダ・アウレア』に記載されている聖女マルタ。ベタニアのマルタとも)
・『人形』→『献身たる雛姫』
所有者の身代わりとなる魔道具の人形。致死・即死状態でなければ発動しないが使えば全快するアイテム。
「持って行ってね」とカレンが
(元ネタ:ひな祭りの元、流し雛)
・暴走カレン
その身に宿る力が溢れ出ている状態。本来なら全力でも制御できるのだが能力を制限した上で即死の攻撃を受けたために暴走状態となった。ただし無意識下で安定を求めており、そう長くは続かない上に敵味方の区別が出来る。