竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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二度目の。

 今でもカンパネラ(義姉さん)初めての家族(義姉さん)になったあの日を覚えている。そしてこの思い出は生涯忘れる事はないだろう。

 それからの日々は初めてで楽しく、辛くも笑い合えた。私は確かに幸せだった。

 

 

 

 だから、全てが失われたあの日も忘れられなかった。

 

 

 黒竜との戦いで多くの仲間たちが亡くなった。

 勢力を削られたファミリアはゼウス(神様)と生き残った皆が追放された。

 そして、覚悟を受け止めてもらえなかった。

 

 

 一度の喪失が大きすぎた。怒りはもう込み上げず、恨みは最初からなく、悲しみだけが溢れ上がる。でも悲しみだけなのがより辛かった。

 枯れるほどの涙は源泉の如く流れ続け、泣き続けた声は風のように漏れ続ける。それでも自分自身、その実感はなかった。悲しみが深すぎて涙と声はまだ出ていると言う認識しかない。火傷しそうな熱がどうにかつなぎ止めていた。

 

 

 何がいけなかったのだろう?

 私が弱かったせいなのか? 黒竜に挑んだのが早計だったのか? オラリオの立ち回りが失敗したのか? 

 違う、違う違う違う。そんな事じゃない。何かがいけなかったかじゃない。どこにもいけなかった事なんてなかった。ただこうなっただけ。どうしようもない宿命と言えるほどに。

 でもその事を認めるだけの強さがない。

 

 

心が拒絶している。―――認めるなと。

記憶が否定している。―――間違いだと。

魂が目を背けている。―――夢だと。

 

 

そうだったらどれだけ救われただろう。どれだけ幸福の中にいただろう。でも違うんだ。

認める強さがなくても認めてはいけない。弱くて苦しく辛くても、認めてはいけない。

 

 

 

 だって―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 それは冒険者である(えいゆうたる)(かぞく)生き様(ゆめ)を汚すから――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣いているのか? だが今は顔をあげろ。でないと小僧の限界がくるからな」

 

 

 

 誰かが、そう言った。

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

…………………

 

 

………

 

 

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 第24階層・食料庫(パントリー)

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『Gururu……』

 

 吠えたカレンは四つん這いになってその場に止まる。長く伸びた髪が顔を半分以上覆っているから表情は見えないけど周りを確認しているようだった。そして私、他の皆もあまりに不理解な出来事で動けずにいた。

 

「―――巨大花(ヴィスクム)ッ、食人花(ヴィオラス)ッ!!」

 

 その上で動けたのは食人花とその巨大化したモンスターたちだった。さっきの炎で若干動きが鈍い個体も反応していたけど従えられる状態じゃなく、動きも鈍い。そしてモンスターたちに命令を出しているのは同じあの男の人。

 

「行け! アレを仕留めろ!!」

 

 その腕の先にカレンを捉え、短く命じた。モンスター達は迷いなく襲い掛かる。

 対するカレンはモンスター達を認識し、

 

 

 

 ―――頁を切り取ったように姿が消え、

 

 

 

 

 

 ―――そしてすぐに嵐がこの食料庫の中で噴き暴れた。

 

 

 

 一瞬の出来事で何が起こったのかわからなかった。その中で最初にカレンに襲い掛かっていたモンスター達が細切れになってて、その次にあの女の子はいつの間にか半球体の壁に覆われて守られて、そして消えたカレンが反対側の壁に張り付いている姿を見つけた。ここまで見た光景から単純に、カレンが目に止まらない速さで反対側へ跳び、その間にモンスター達を切り刻んだと思えた。

 でも、それが出来るのかと疑った。その一番の理由は反対側に移動した速さ。アレは間違いなく、私やベートさんを超えていた。それにカレンは素手だ。あのモンスターは火や斬撃でしかダメージを与えられない頑丈さを持っている筈なのに、細切れだった。巨大なモンスターはそれ以上の筈だ。それを簡単にして見せた結果を見ても信じられなかった。

 

「カレェエエエエエエエエエエエエエエンンンンッ!!!」

 

 そこへ力強い雄叫び。それと同時に立ち上る炎がモンスターの残骸を燃やし尽くす。その中心には1つの影でしか見えないけど、アレは【猛者(おうじゃ)】オッタルと言うことはわかった。そしてこの人も、これまで見たこともない力でその猛威を振るっている。

 魔剣らしき大剣を構え、カレンに向かって駆ける。カレンはそれに気付くけどただ静かに壁から地面へ降りる。

 迫るオッタル。迎えるカレン。その両者の刃と鱗がぶつかった。その一撃の音は大きく、それだけで体に重くのし掛かるほど。

 

「剣姫、こちらにっ!」

 

 その時聞こえた声はまるで夢から起こされるような物だった。それがアスフィさんの声だとわかったのは一瞬、すぐに足が動いて声の方へと跳んだ。カレンとオッタルが戦う音が気になったけどそれがこっちにくる気配がなかったからなんとが我慢して彼女の元に辿り着く。

 

「みんな、大丈夫だった?」

「は、はい。大丈夫です」

「合流できて幸いです。ところで【剣姫】、カレンはどこにいる(・・・・・・・・・)と思いますか?」

「え? あそこで【猛者】と・・・・・・」

「貴女も彼女が彼女と認識出来るんですね。あそこまで変わった彼女を」

 

 質問されたときは何を聞いてるんだろうと思ったけどすぐに返事を聞くと納得した。自分もあの姿のカレンをカレンだと認識した。そう言えばそう認識出来たことには少し違和感があった。あれだけ姿が変わっててもカレンと認識出来た。よく考えるとそれに似た感覚に覚えがある。

 それはまるで―――。

 

「おいアスフィ! 【白髪鬼(ヴェンデッタ)】がっ!!」

 

 その答えが出るよりも先にルルネの声が聞こえて消えてしまった。ただ慌てている感じがあったから思わず彼女に目を向け、その彼女が指さす先を見た。

 

「えっ・・・・・・!?」

 

 そこには白髪の男の人の胸元にあの調教師の女の手が埋め込められていた。何か会話しているみたいだったけどここからは聞こえず、そしてそれも長く続かずすぐに手を引き抜いた。その手には魔石が握られ、男性はモンスターのように灰となった。そして彼女は私を見た。魔石を咀嚼しながら。

 

 

 私が無意識に剣を盾に出来たのは経験だった。

 

 

 さっきまでとは違う速さで距離を詰めた調教師の女は力も違った。

 

「まさか、魔石で・・・・・・!?」

「しゃべる余裕がまだあるか。まだ足りないようだな」

 

 そっちこそと言いたいけど迫る凶手で言葉に出来きずに吹き飛ばされる。

 

「エニュオ! 不完全だがそれで十分だろう! 持って行けっ!!」

 

 その時、仲間が他にもいたのかと目を凝らすけど首筋に嫌な感じが生まれた。この感覚には覚えがある。それは、怪物の宴(モンスターパーティー)の予感。

 

「巨大花ッ!! 全ての力を持って産み続けろッ!!」

 

 そして聞こえたのは1つの鼓動と鳴動。見上げると植物の芽のような物から食人花のモンスターが産まれ落ちていた。

 

「どこを見ている?」

「っ!?」

 

 思わず見上げていたせいで一瞬、意識を逸れていたけど咄嗟に反応できた。今度は目を離さず意識を集中させ――

 

 

 

「待った」

 

 

 

 その時、彼女が檻に囚われた。

 

「っ!? なんだコレは!?」

「檻、だよ」

 

 私と彼女の間に入り込むようにあの少女が現れた。そうだった。カレンやこの調教師の彼女ばかり目立っててこの子の事を忘れていた。

 いまさらだけどこの少女は誰? ダンジョンにいるには武器も防具もない。魔法使いだとしても詠唱も魔法名も口にしていない。

 

「・・・・・・やはり地形を操る能力(ちから)。初めて見たが思ってたよりみずぼらしいな、ダンジョン」

「――え?」

 

 この子が、ダンジョン?

 

 

 

 

 

 

 足りない。足りない。まだ足りないっ!!

 人類の頂点たるLv.7になった。鍛錬も欠かさず、慢心もなく。加えてこのオラリオですらない一級の魔剣を手にした。

 だが、それでもカレンに傷1つ付けられない!!

 

「ウォオオオオオオッ!!」

 

 力強く技で攻め手を休みなく、だがカレンはそれを全ていなす。獣のような姿勢で両手と尾を匠に使って捌く。炎も翼で跳ね返すか防ぐ。それがカレンだ(・・・・・・・)と言わんばかりに。

 いや、気付く――思い知らされるのはそれだけではない。カレンは落ち着いてきている(・・・・・・・・・)。先ほどまでダンジョンマスターと呼んでいた者に襲い掛かっていたのが今はその逆。襲い掛かる相手だけに対応している。

 カレンが暴走する直前に言った意味は『時間が経てば正気を取り戻す』と言うことだったのだろう。それを俺に言ったのは第三者として止められる可能性があるから――。

 

「ふざけるな!!」

 

 声が出た。第三者という屈辱に。

 あいつは俺を敵とも、強者とも見ない。どれだけの殺意と敵意を向けても受け流す。ああ、屈辱だ。これほどの屈辱があるものかっ!

 そう俺らしからぬ激情に技も荒れ、しかしこれまで以上の炎を放つ。だがそれもカレンの羽ばたきで横に逸れた。だがその一撃があの日の己を思い出させた。

 

 

 

………

 

 

…………………

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

『何者だ、貴様?』

『【ゼウス・ファミリア】、【助演者(パーティースタッフ)】カレン・デュラス。ファミリアの名誉のため、そして私自身の感情のため、敗北を与えに来た』

 

 俺以外の団員を乗り越えて現れた竜の娘。モンスターではなく、正真正銘のヒト。何故の疑問はなく、ここに乗り込んできた敵を排除するのみ。なんて事のない処理だと、思い上がった。

 勝敗は俺の惨敗。攻撃は届かず、力は押し負け、二撃で足が崩れた。圧倒的すぎた。名も知らない相手にこの俺が為す術がなかった。

 

『その大剣がアナタの愛剣ね。敗北の対価に貰っていくわ』

 

 その声が聞こえたのは、俺の意識が残っていた理由はわからない。この状態は幸運であり、そして屈辱なる物になった。

 

『はじめましてになるわね。名前はさっき聞こえたけど改めて名乗ってくれないかしら?』

『……直接お顔を合わせるのは初めてになります、フレイヤ神。私はカレン・デュラスと申します。貴女の宝物に値する品を奪いに来ました』

 

 穏やかな会話に、聞き捨てならない言葉を聞いた。この言葉を捨ててしまっては俺の中にある何かが崩れる。だが体が動かない。真上に大岩があるような重圧、もしくは根が生えたような束縛。いや違う。

 俺はこの娘――カレンを強者として畏れてしまっている。意志や体よりも心が完全に敗北を受け入れていたのだ。

 

『実を言うと貴女の事はゼウスやヘラと一緒にいた時に何度か見たことがあるわ。でも平凡な輝きだったから興味がなかったの。ごめんなさいね』

『いえ。でしたら今はどうでしょうか?』

『綺麗ね。紅く荒々しい色に変わったのに輝きは人を優しく包み込むように穏やか。欲しいほどに』

『そうですか。ですが――』

 

 フレイヤ様の賞賛に喜びも怒りも感じさせないカレンの声を耳が拾う。だがそんな言葉よりも俺の目は。

 

 

 

 無造作にフレイヤ様の首飾りを奪う光景を映し出した。

 

 

 

『この場は私が貰います。貴女からはこの首飾りを。作り手を除いて誰も触らせたことのないコレを』

『そう』

 

 フレイヤ様の返事はそれだけだったが、そのお顔が高揚としているのは理解できた。だがそれよりも俺の中には燃えたぎる怒りが生まれていた。動かなかった体がようやく動き出す。それは微々たるものだったが、俺はこれ以上に力を絞り出す。

 だがそれでも間に合わない。フレイヤ様の首飾りを奪ったカレンはこの場から立ち去ろうとしていた。

 

『――カレェン・デュラァアアスゥ!!』

 

 故に吠えた。目の前にいる強者(てき)に。今の俺では足下にも届かない(きょうしゃ)に。この声に足を止めたのは気まぐれか哀れみか。今はどちらでもいい。

 

『許さぬゥ!! この敗北、決して忘れぬ!! 何より我等が女神に無礼を働いたお前を決して許さぬゥ!! 必ずお前を我等が女神の前に跪かせるぞォ!!』

 

 これは俺の願いだ。俺の不忠だ。全てをフレイヤ様に捧げると誓った俺自身の反故だ。

 フレイヤ様と、カレン・デュラス。俺の魂が求める物が1柱と1人(ふたり)となった。これが敗者(おれ)始まり(ねがい)だ。

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

…………………

 

………

 

 

 

 

「お前の敵は俺だ!! お前を倒すのは俺だ!! 俺を、見ろっ!!!!!!」

 

 魂からの叫びだった。頂点(さいきょう)と呼ばれながらも燃え続けるのはリベンジだけだ。

カレンに勝ちたい。フレイヤ様の忠誠と共にあり続けた俺の願い。それが今、俺の魂を燃え上げさせている。

 勝利を。勝利を! 勝利をっ!!

 

 

―――ボオッ!!

 

 

そんな俺の渇望を写したかのように魔剣の炎が大きくなる。まるで俺の感情、勝利への渇望が燃料であるかのように。

 

「なら燃えろ! まだ俺の飢えは深く大きい! これだけの炎は足りぬっ!!」

 

 叫ぶと更に呼応するように更に燃え上がる。しかも今度は大きく広がるような燃え方ではなく一点に伸びるかのような燃え方となった。この状態で振れば余分な場所は燃えず、変わって集中する場所は溶けるように切り裂いた。モンスター共の一部も焼き切ったが気にすることではない。

 

「カレェェエエエエエエエエエエエエエエンっ!!!!」

 

 進み、近づく。こうしてカレンと俺の差を縮める事が実力差を埋めるかのように。そうして近づき、初めてその懐近くまで迫った。

 ここで一撃。その一念で魔剣を振り上げた。

 

 

 

 

その瞬間、カレンの目を見えた。何かに気付いたかのように俺から目を逸らした事実を。

 

 

 

 

それを認識した直後、振り下ろそうとした魔剣の軌跡が大きくずれた。それに気付いた時はカレンが片腕で弾いたのだと理解した。そしてその腕に傷や火傷どころか、焦げ跡すらない。

 

「ああ……」

 

 

 

 ―――まだ、届かないか。

 

 

 

 その現実を理解して次に見たのはカレンの尾が迫る光景だった。

 

 

 




・『誰か』
 十五年前、オラリオを出たカレンが出会った存在。彼女にとって運命とも言える出会いであり、そして心から拒絶したい真実を告げた者。ここで正体の一端を明かすなら、『存在しない者』



・オッタルの愛剣
 両刃の大剣。銘は『ヒルディスヴィン』。十五年前において第1級特殊武器の頂点であったがカレンに敗北後、奪われる。しかして偶然が重なり今、銘を変えて魔剣としてオッタルの手に戻った。
(※元ネタ:フレイアが所有するイノシシ。一説には人間オッタルが変身した姿とも)



・頂点の願い
 カレンに勝つこと。それは清算でありリベンジであり、そして本当の頂点の昇るため。


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