竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

35 / 44
第4章「成長の証明」
ただの、平凡な日


=====

 隠れ家

=====

 

 ―――チョキン。

 

「終わりました」

「ありがとう」

 

 鋭いハサミの音が心地よさを与えてくれてスッキリした気分になった。目の前に立てた鏡を見れば元の長さまで切りそろえられた私の髪が目に入る。ただ、やっぱり色だけは戻ることはなかった。だからこそこの魔道具を用意しておいた。

 

「色は……このくらいだったかしら」

 

 ダイヤルを回すと色が変わり、自分の前の色と同じにすると髪に装着する。すぐに手鏡を取ると輝かしい白から元の赤い髪に変わっていく。魔道具〈千紫万紅の一輪〉。変装用で髪の色を変える装備だ。見た目は華の髪飾りだけど意外にもこのサイズにするのは苦労したけど。

 

「見事ですね。特に色が無限に変わる特性が」

「無限に変わるから苦労したけどね」

 

 と言ってもコレは私の拘りでやった部分だ。変装用だから色が変われば同化して目立たなくなるのは飾りとしてはダメダメだけど。そう言ってくれたのは、誰だったかしら。

 

「哀しいですか?」

「懐かしいだけよ」

「人形の身の言葉ではありますが、時には素直に吐いた方がいいですよ。その身の果ては――」

「華」

 

 華の言葉を、強い声色で止めた。

咄嗟に、思わず、聞きたくなかったから。

 

「……失礼しました。以後は発言に気をつけます」

「うん。許す」

 

 今はその言葉を信じて今回は許しておく。

 さて、これから……、厄介事は来るでしょう。誰も彼も私の解放を察知しない訳がないしね。

 

「華。先に誰が来ると思う?」

「来て欲しくない方でしたらいますが、聞きます?」

「貴女が言うと1人しかいないでしょ。でも私だって来て欲しくないわね。来るって事は極東での目的を達成した事になるから、追っ手も付いてくる」

 

 華が気にする人物から浮かぶ顔は三つ。最年長のあの方はともかく、他の2人は煽り煽られてぶつかるのが目に浮かぶ。そうなると、大災害の結果しかならない。

 

「オラリオは大丈夫でしょうか?」

「怖いことを言わないで。想像したくない」

 

 力を抑え込んでいる私じゃ止められないし、だからといって解放するのは望まない。力以外で止めるとすれば。

 

「やっぱりあの人を連れていた方がいいわね」

「あの方をですか? それは向こうの目的に乗ると言う事ですか?」

「ええ、そうよ。もっともあの人が隙を見せる可能性は低い。逆に隙を見せたならそれは時代の流れよ。私のようにね」

 

 ダンジョンが閉じられて1000年。その遙か昔に開かれたその穴。止められた時間が動くと言う事なんでしょう。私と一緒で。いや、私のせい(・・・・)で動くのでしょう。

 

「――ちょっと教会に会いに行ってくるわ」

「わかりました」

 

 ふとあの子の顔が浮かんだ。やっぱり私はあの子の未来が最後になりそうだわ、義姉さん。

 身だしなみを整えてローブを纏う。ここで初めて装備が半壊したし、抑えたとは言え力も一部が開放されたから今までの装備はもう使えない。今は正真正銘、私の戦闘服だ。まぁローブもそれに合わせて布面積を増やして見えないようにしたけど。

 

「それじゃあ行って――」

「カレン」

 

 準備が終わって出掛けようとした所で華に呼び止められた。まだ何かあるのかと面と向かったが、華が身体のある場所に手を当てており、そしてその場所に何があるのか私はよく知っていた。

 

「封印を――」

「外す気はないわ」

 

 だからまた先んじて言葉を遮った。

 

「華。貴女は名もない誰かが遺した人形。それ以上でもそれ以下でもない。産まれて、そして朽ちていく。人のように(・・・・・)、ね」

 

 言うだけ言って足を動かす。そして外に出る間際、華の表情を盗み覗くと何も変わらない。何も、変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 訪れた廃教会は相変わらず人気がないからここでは堂々と顔を晒せる。廃墟とは言え堂々と歩けるのは気持ちが楽になる。見上げた空は変わらず青い。昔と変わらないまま。

 

「―――おっと」

 

 思わず感傷に浸っていた。コレも時間がなくなったせいね。さて、そろそろ廃教会が見えてきたけど、何だか言い争う声が聞こえる。片方はヘスティア神で、もう片方は……。

 

「失礼。取り込み中でしたら出直しますが」

 

 でも今回はさっさと対面することにした。廃墟故に至る所に穴が開いた教会の一つから入ってヘスティア神と彼女と言い争いをしていた彼女のそばで現れた。

 

「え? え、えっ!?」

「おわっ、竜人くん。急に現れるなんてビックリしたじゃないか」

「ってヘスティア様はこの方とお知り合いなんですか!?」

「え? サポーターくんはなんでそこまで慌ててるんだい?」

「だってこの方、【財宝竜(ファヴニル)】様ですよね! 事実上最強って言われてる元・冒険者の!」

「ええっ!?」

「はいはい。まずは落ち着いてね」

 

 サポーターと呼ばれたこの子は狼人(ウェアウルフ)、いや例の小人(パルゥム)の女の子ね。目立ったつもりはないけど竜人なんて他にいないから隠れるのは無理だし。それでもここまで情報を把握しているのは見事ね。どれだけ慎重にいたかわかるわね。

 

「貴女ははじめましてね。でも私の事は知ってるみたいだから自己紹介はいらないわね」

「はいぃ! リリはリリルカ・アーデと言いますっ!」

 

 優しく挨拶したつもりなのに距離を取られた上に土下座をする。そんな震える姿は心に刺さる。

 

「そんなに怯えなくていいでしょ。流石にヘコむわ」

「君、何をしたんだい?」

「今の二大ファミリアを単身で襲撃したぐらい」

「へぇ~、へっ!?」

 

 流石にこれは驚くような話だけどよく今日まで知らなかったわね。ベル以外に私の話を聞かなかったのかしら? 

 

「アーデちゃん、怖くないから戻っておいで。ゆっくりでいいから」

「は、はいぃ~……」

 

 怯えながらも本当にゆっくりと戻ってくる。最初にいた場所よりはまだ離れているけどしょうがないか。

 

「改めて聞くけど新しいファミリアの子?」

「い、いえ。リリは【ソーマ・ファミリア】所属です。今日はベル様のサポーターとしてヘスティア様にご挨拶をと」

「ああ、なるほど。【ソーマ・ファミリア】はゴタゴタしたから距離を取ったわけね」

「はい?」

「ん?」

 

 知っていたらあえて誤魔化したけどこの反応、アーデちゃんは知らないわね。確か【ソーマ・ファミリア】の眷属にはギルドが通達をしたって華が言ってたけど、この子は漏れたのでしょうね。

 

「じゃあ代わりに伝えておくわ。今、【ソーマ・ファミリア】は2件の不祥事が告発されてね。実行犯および協力者は恩恵剥奪とペナルティが与えられたそうよ」

「不祥事、ですか?」

「ええ。1件は団長【酒守(ガンダルヴァ)】ことザニス・ルストラによるファミリアの私物化。中には輸入禁止品の所有もあってオラリオを追放。ただソーマ神はこの監督不行き届きを自ら告白した上で捕縛の協力をしたから罰金としばらくの税金増額に収まるそうよ。もう1件は最近パルムゥを利用して窃盗をしていた3人組の逮捕ね」

「え?」

 

 2件目を教えるとアーデちゃんがワケわからない顔をしたが気付かないふりをして続ける。

 

「実はとある人物が探索帰りにしては不自然な三人組をこっそり目撃してね。その3人の会話から盗難の主犯だって事に気付いて、ダンジョンから出たところで盗難事件の犯人だって叫んだそうよ。取り押さえられて持っていたノームの金庫の鍵を調べると盗品と幾つか売っただろうお金が見つかったらしいから犯人と断定。本人たちはパルムゥが犯人だって言ってたそうだけど状況からダンジョンで始末されたそうよ。ああ、ごめん。最後のは後味悪い話だったわね」

「い、いえ。じゃあその3人は捕まったと言うことですか?」

「そうね。こっちの処罰はどうなるかさすがに知らないわね」

 

 まぁ【酒守】による上納金に関わってるから重い罰にならない可能性もある。冒険者の評価は下がるだろうけど。

 

「そうですか……」

 

 この話を聞いたアーデちゃんの声は控えめ、と言うより困惑していた。まぁ自分を搾取していた相手が自分の罪を被って捕まったなら複雑になるわね。

 

「もしかしてその3人組に心当たりが?」

「はい。ただいい関係ではありませんでした」

「……意図せず不快にさせたわね。ごめんなさい」

「お気になさらず。内心、ざまぁみろって思うリリがいますから」

 

 あら正直者。

 

「とにかく、今の【ソーマ・ファミリア】には近づかない方がいいわ。発表はまだだけどしばらく針のムシロになるでしょう。ただ細々したトラブルもあったから長くなる可能性もあるから」

「はい。元々、拠点(ホーム)からは遠ざかるつもりでした。ですが教えて下さりありがとうございます【財宝竜】様」

 

 ファミリアの情報を伝えたおかげがアーデちゃんの怯えが消えていたがそれでも距離を感じる。でもこのくらいがいいのかもしれないわね。

 

「ところでヘスティア神。私の用ですが、ベルはいますか?」

「おおう、ベル君かい。ベル君ならついさっきギルドに行ったよ」

「ギルドか……。今はちょっと行きたくはないですね」

「二度もビックリさせたんだから三度目はなしにしてくれよ」

「いえ、私はダンジョンの出入りは許可されてますが立場上は無所属。ファミリアこと冒険者を管理するギルドから見れば惜しい(・・・)身なので」

「??」

「誰でも知る実力者を遊ばせておくのは勿体ないと言う事ですよ、ヘスティア様。ファミリアに所属していない以上、ギルドが抱え込む事だってあり得ますから」

「ああ、なるほど」

 

 やっぱりヘスティア神は駆け引きとか無理な神様ね。自分たちの危機に対する警戒が薄い。まだ駆け出しのファミリアって事もあるだろうけど情報収集ぐらい……。

 と思ったら彼女には2億ヴァリスの借金があることを思い出した。そりゃあ他に目を向ける余裕も減るわ。

 

「じゃあしばらく待たせてもらいます。――ところで地下室の掃除はしていますか? ああ、しばらくジャガ丸君が主食だったでしょうから買い出しにも行った方がいいですね。あと洗濯物とかため込んでませんか?」

「「(キミ・貴女)はお母さんですか?」」

 

 ちょっと気になっただけなのにそんなことを言われた。

 

 

 

 

===============

 メインストリート・屋台通り

===============

 

「遠征かぁ……」

 

 団長から聞かされた未到達領域の59階層を目指す遠征。遠征、と聞けばまだ記憶に新しい一月前の出来事を思い出す。今回はない、なんて思えたら良かったけど、そんなのはあり得ないとわかってしまうのがダンジョン。

 

「まだ先なのに、もうメッチャ怖いっす……」

 

 今からビビってもしょうがない、のはいつものこと。なんだかんだで自分はダンジョンに潜って深層で必死に足掻いてきた。だからといって慣れたらそれはそれでヤバい人間になってしまう。

 前はあの芋虫のモンスターに遭遇して大変だった。またの遭遇はしたくない、は無理だろうし、それに今回の遠征はあのモンスターと関係している気もするし。

 

「やっぱり怖いっす……」

 

 ああ、どうか生き残れますように―――。

 

「グフッ!?」

 

 遠征からの生還を祈っていると首根っこを引っ張られる感触。いきなり首が絞められて変な声が出た。ただその締め付けは一瞬だったからすぐに解放された。

 

「ゲホッ、ゲホ……。だ、誰っすか!?」

 

 まさかファミリアの誰かが、と思って振り返るとそこにいたのは知らない誰かだった。頭のてっぺんから足先までローブで覆われて顔も服装は見えない姿だけど僅かに見える靴が土で汚れている上に剣の鞘先もはみ出ているから冒険者か旅人か。

 

「その先、危ない」

「へ?」

 

 観察しているとその人物、声から自分より年下の少女だと知れたがその少女が自分の後ろを指さし、その先を追って振り返るとそこは人の増えてきた露店の通り。

 

「あ、止めてくれたんすね」

 

 多少強引だったが理由を知って文句を言う考えはなくなった。むしろファミリアに迷惑が掛かっていたと思うと逆に感謝したいほどだ。

 

「考え事?」

「えっ? ま、まぁそうっすね。でも自分のような冒険者なら誰でも悩む事っすから大丈夫っすよ」

 

 なんて言ったが大丈夫なわけない。平凡な自分は恐怖を克服できる実力がない。必死になって足掻いて、命を拾って安堵する。その繰り返し。繰り返してもどうしようもなかった。見ず知らない相手に教える事でもなかったが、こうして愚痴ると言う事は思っていた以上に不安を抱えていたと認識出来た。

 

「誰でも同じだけど、誰も同じじゃない」

「へ?」

「冒険者の悩みなら大体わかる。でもどんな悩みでもその答えは誰も一緒じゃない。ただ行き着くのは、自分にとっての苦楽の分岐。楽を取る? 苦を取る?」

「………」

 

 助言のような事を口にしたかと思えば選択を突きつけられた。苦楽のどっちを取るのか。でもそんなのは決まってる。

 

「自分は苦を選ぶっす」

「それはなんで?」

「もちろん、そこでしか見れない、得られないものがあるからっす」

 

 今でも怖い。でもそれはいつものこと。怖くて怖くて、それでもあの地獄へついて行く。あの団長の姿を間近で見るために。

 

「ならもう大丈夫?」

「そうっすね。大丈夫、なんて言うにはまだ怖いっすけど背中を押された気分になれたっす」

「わかった。じゃあ――」

「さっそくお友達かしら、妹」

 

 後ろから目の前の少女の声が聞こえた。いや、突然だったがトーンに違いあった。似ているが別の少女の声だ。振り返れば同じローブで姿を隠していた。しかもまた同じようなローブを纏った人物がもう1人。見るからに少女の身内か仲間だろう。

 

「どうも~。妹と楽しく話をしてくれてありがとね」

「え、いや。そんな楽しい話をしてたわけじゃないっすけど」

「いやね、冗談よジョーダン」

「姉さん。からかいすぎだ」

「少しはノってもいいのよ、弟よ」

 

 弟、と呼んでいると言う事は姉弟なのだと知った。なんて事を考えているとすぐ横を少女が通りすぎで目の前の2人の所へ行く。

 

「お姉、お兄。巡りは終わった?」

「ああ、うん。終わった終わった。やっぱオラリオは色々とあったわ」

「その割には難癖が多かったけどな」

「そりゃあ明らかに質が悪いのを売ってる所もあったもん。一つや二つ言うわよ」

「明らかに冒険者の露店だっただろ?」

「ははっ。冒険者怖くて財布の管理が出来るかぁ!!」

 

 お姉さん、結構命知らずの事言ってるよ。弟さん妹さん、そこ止めなきゃ駄目な所だよ。ただこの3人が仲良しなのはよく伝わる。ダンジョンの恐怖が和らぐようだった。

 

「じゃあ行くわよ。――と言うわけで、時間ありがとうねお兄さん」

「あ、ああ。大丈夫っす。こっちも肩の力が抜けたっすからお礼を言いたくらいっすよ」

「そっか。じゃあまた会うになったならよろしくね」

「わかったっす」

「それじゃあね」

「じゃ」

「妹が世話になった」

 

 三人それぞれから挨拶を言われ、そのまま通りの人込みへ消えて――。

 

「あれ?」

 

 その姿が消える瞬間、どこか別の場所で見たような錯覚を感じた。でももう行ってしまったからあの子らから確かめる事は出来ない。気持ちは今でも軽くなっているが、なんとも言えない違和感だけが残った。

 

 

 

 

「で、どうするんだ姉さん。もうどこにいるかわかってるんだろ?」

 

 また通りに戻って喧騒が聞こえる中で弟がそんなことを聞いてきた。

 

「まぁ昔、こっそり隠し部屋を作ってた話を聞いてたからね。居場所はだいたい把握してるわ」

「じゃあすぐに?」

「焦らないの二人とも。どうせなら邪魔がないようにしたいでしょ」

 

 さっき露店を周りながら聞いたオラリオの配置だとどこを選んでも邪魔が入る可能性は出るからね。ダイダロス通りや廃墟の区画もあるそうだけど前者は確実に人はいるし、後者もいないとは限らない。

 

「わかった。待つ」

「姉さんに任せた。なら俺と妹は別の情報を集めておく。出来る限り漏れがないようにする」

「ええ、そうして頂戴。間違いなくいくつもの思惑が混じり合ってるはずだからね。そんなのに邪魔されたくないからね」

「「わかった」」

 

 さぁて、始めましょうか。一番乗りしたこのチャンス。逃さないように頑張ろう。

 

 

 

 この旅で得た私たちの成長、存分に見て貰わないとね。

 

 

 

 




・魔道具〈千紫万紅の一輪〉
 変装用アイテム。〈天狗の面〉より以前に製作している。七弁の華をモチーフにしてアクセサリーにも見える。中央のダイヤルで髪の色を変えられる。

・封印されし華の力
 発見当時の未完成部分であったがカレンとある人物により完成・性能向上を施されたが今の時代には強大すぎる力である為、カレンにより封印されている。もっとも技術による封印なのでそれを理解出来る人物なら解除が可能。

・3きょうだい、一番乗り
 クエストの一件から最初に到着した一行。姉、弟、妹の3人はすぐには接触せず、準備を行う。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。