竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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一週間の4日目

 ここ数日、いやベルが特訓を考えるなら4日目ね。オラリオへ来訪する影は未だ来ない。ただ『来ない』と考えないのは確信か、はたまた信頼かしらね。

 

『カレン。未だ目標は現れません。あとベル・クラネルの特訓は目に見えて成長してますね』

「そう。ちなみに気絶の回数は?」

『減っています。あと同じ数だけアイズ・ヴァレンシュタインが膝枕をしています』

「あの子は何がしたいの?」

 

 天然だとは思ったけど膝枕をする理由はわからない。いや、天然だから何か吹き込まれて変な方向に転がってる可能性ね。もしかして膝枕をさせるために気絶させてる? ありえそう。

 

「今日も来訪なし、ね」

『そうですね。その上でお尋ねしますが』

「何?」

『すでに来訪している可能性は?』

()()()()()()()

 

 考えてないわけないじゃない。

 

『ならオラリオを探さない理由は?』

「見付かると思ってないもの。私から隠れるだけなら誰だって出来るしね。だったら来る方を見張ってる方がいいの。最初、一週間って言ったのもそれもあるからね。それだけ間があるなら向こうから出てて来るだろうし」

『仕掛けてきますか』

「私に会うのが目的でしょうから間違いなく。願うなら派手にして欲しくないわね」

『それこそ無理なのでは?』

「ま、希望を言ってるだけだから。それじゃあ撤収しましょうか」

『わかりました』

 

 さて、今日の朝食はどこですませようかしらね。

 

 

 

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 オラリオ・城壁

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『だから姉さんは止めなさいベル』

『ベル、お爺ちゃんが探してたわよ』

『冒険者の話? うーん、少しだけでいいかしら?』

『ほら休みなさい。竜の鱗が所々あるから少し硬いかもしれないけど』

 

 

 

 

 

 懐かしい光景を見たと思ったら、目の前にアイズさんの顔が――。

 

「はぶあばあっ!?」

 

 思わず起き上がる。あっ、また気絶させられて膝枕させられている……。アイズさんは天然アイズさんは天然アイズさんは天然……。

 

「ねぇ」

「はっ、はいっ! 何でしょうかっ!?」

 

 気持ちを落ち着かせているとアイズさんが声をかけてきた。……はっ、もしかして僕、何かしちゃった……?

 

「あの人の知り合いなの?」

「えっ、あの人って誰のことですか?」

「……【財宝竜(ファヴニル)】、カレン・デュラス。カレン姉さんって寝言で言ってた」

「うわっ……」

 

 寝言でも姉さんって呼んでたんだ僕……。顔が赤くなってるかも知れないけどまずはアイズさんに答えないと。

 

「はい。よく僕の家に訪れて来てくれた人なんです」

「……もしかして親戚?」

「お爺ちゃんの養子だって聞いています。僕のお母さんの義理の妹らしいです」

「そう」

 

 軽く関係を伝えるとアイズさんは自分の頭、いや頭に付けた飾りに触れた。そう言えばあの髪飾り、前はなかったな。新しい装備なのかな?

 

「あの人が冒険者だったのは知ってる?」

「はい。でも詳しくは教えてもらってません。所属していたファミリアとか、二つ名とか。どういった生活をしていたぐらいしか知りません」

 

 ただここに来てから色んな事を知った。カレン姉さんが所属していたのは【ゼウス・ファミリア】だったとか。主神(ゼウス様)を追放した【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】を単身襲撃したとか。あれ、そうなるとアイズさんと関わってると更にマズい事になるんじゃ?

 

「そっか……」

「えっと、アイズさんはカレンね……おばさんに会ったことがあるんですか?」

「うん。強いし、色々な物を持ってるよね」

「カレンおばさんの魔法ですね。あそこからお土産とが出してくれてたんですね」

 

 最初は何もない所から牛が三頭も現れてビックリしたなぁ。その後、村のみんなで肉祭りしたは楽しかったなぁ。今だからわかるけどカレン姉さんのあの魔法、ダンジョンだとスゴく便利だったんだろうな。サポーターより荷物に制限はないだろうし、モンスターと戦う時だって荷物がないから身軽に戦ってたんだろう。あれ、何だから一緒にダンジョンに潜ってくれたらいいなって思えてきた。

 それにこのやり取り、アイズさん自身は特に問題なさそうだ。他の【ロキ・ファミリア】の人達はわからないけど。

 

「そう、でも秘密が多い人」

「秘密、ですか?」

「うん。ベルはそう思わない?」

「それは……、そうですね。カレンおばさんは自分の事はあまり話しませんから秘密は多いと僕も思います」

 

 お爺ちゃんなら知っていたかもしれないけどカレン姉さんは自分の事を話そうとはしなかった。オラリオの事を含めても、ここから去った後の事も。何も教えてくれなかった。

 

「……少し話しすぎたね。続き、しようか」

「はっ、はいっ!」

 

 つい話し込んじゃった。強くなるために時間はどれだけあっても足りないくらいだ。

 貴女に追いつくにはどれだけあっても。

 

「続き、お願いします」

「うん」

 

 気持ちを切り替え、鞘を構えたアイズさんに飛び込んだ。

 

 

 

==========

 黄昏の館・訓練場

==========

 

 

 

「ウラァッ!!」

 

 力と敏捷のアビリティ、筋力に速度を加えた蹴りは、一歩も動かせなかった。この前の戦いで折れた足だが今は十分に回復してるってのに。

 

「チィッ!」

 

 不発、いや単純に足りねぇから動かせなかっただけ。だがやっぱり不満から舌打ちをして離れる。

 

「なんじゃい。何が不満なんじゃ?」

 

 するとガレス(ジジィ)から文句を言われた。蹴りを防いだ腕を振り回しているがそれほど痛がってる様子がねぇ。ったく相変わらず硬ぇ体だ。

 

「なんでもねぇよ」

「そんなわけ無かろう。何年の付き合いだと思っとる、ベート。遠征の事もあるだろうが、あやつの事が頭にあるだろう」

「あぁ、誰の事を言ってんだよ?」

「言わねば認めぬか? この前の食料庫(パントリー)でカレンがいたのだろう?」

「……チッ」

 

 その名前を聞くとまた舌打ちをしちまった。

 確かにあの姿はいまでも鮮明に思い出せる。巨大なあのモンスターを軽々と倒した光景。【猛者(おうじゃ)】すら届かない高みにいると証明した戦い。あんなのを知っちまったら情けなくなる。まだ自分は弱いと。

 

「何があったのかは聞いておる。まぁ儂が思ったのは15年前と同じ、と言う事じゃな」

 

 15年前? そういやあのトカゲ女は自分とこの主神を追放したここと【フレイヤ・ファミリア】を襲撃したって話だったな。

 

「おいジジィ。15年前の事を教えろ」

「いきなりじゃな。じゃがいいぞ。たまには老骨を休めたいと思っとったかなの」

 

 そう言ってその場で座り込んで手招きをするジジィ。聞きたきゃ自分から来いって事かよ、メンドくせぇ。でも俺は黙って応じてジジィの前で座り込んだ。

 

「まず、お前は15年前のカレンをどのくらい知っとる?」

「【黒竜】と二大ファミリア襲撃以外なら元【ゼウス・ファミリア】、オラリオ一のサポートで【助演者(パーティースタッフ)】って二つ名があった位だ」

「ふむ、なら今の印象は?」

「あれだけの実力ある奴がサポートばかりだったってのは信じられねぇ。本気じゃなかったって俺は考えている」

「なるほど。ならまず訂正じゃ。【ゼウス・ファミリア】があった頃のカレンは二つ名にある程度の実力じゃった。つまりベートが思う程の実力は無かったぞ」

「はぁ?」

 

 実力が無かった? 今はアレだけの力があるってのに? いや、ジジィの口ぶりからだと15年前のトカゲ女は本当にサポートだけの女だった訳か? つまりは。

 

「……【黒竜】討伐がキッカケか?」

「そうじゃろうな。カレンが竜人になったのはクエスト失敗してからじゃ。襲撃の後で知った事じゃがアレは魔法による変貌だそうだ。効果は知らないが、食料庫(パントリー)の話を聞いたとき、儂はまだ魔法が発動中の可能性を考えた」

「なんだと?」

 

 15年前の魔法がまだ効果を発揮したままだと? そんな事、あり得るわけ……。

 

「……おいジジィ。そんな事を言うんだったら、心当たりがあるんだな?」

「ああ、あるぞ。それこそ15年前の襲撃の時じゃ。あの時、先に儂らの所へカレンは来た。そしてフィン、リヴェリアよりも儂が先に迎撃に出た。その時のカレンは()()()()()()()()()

 

 角と鱗だけ。言葉通りに捉えるなら今みたいな尻尾と翼がなかったって事か?

 

「つまり何か? ジジィはそのなりかけの状態を知ってるからあのトカゲ女はまだ魔法が発動中って考えてる訳か?」

「まさか。それとはまた別の理由じゃ」

「なんだよ、勿体ぶってねぇでさっさと言えよ」

 

 焦れったい態度にイラついているとジジィは片腕を出して、反対の手で線をなぞる。

 

「儂は渾身の一撃を斧で放ち、カレンは両腕で受け止めた。その後、傷を治すように皮が鱗に変化した。ダメージを与えた所が竜人として変化した」

「はぁ?」

「そうして時間を稼いでいる内にフィンとリヴェリアが合流。そのまま相対となろうした直前、カレンは尻尾を生やした。その結果、儂ら3人を相手取る手数を得た」

「……おい、そりゃあつまり」

「そうじゃ。カレンは竜人となって強くなった訳ではない。戦う度に竜人となり、強くなったと儂は考えとる」

 

 ……確かに、あのトカゲ女は俺たちの所に出る前にオッタルと変な匂いをしてる女と戦ってた感じだ。戦いは見てねぇが最後、気絶したオッタルを運んでた事から間違いなくLv.7以上の力を証明してる。つまりあの直前であの女は強くなって事に――。

 

「ベート、戦って強くなったと考えてそうじゃが正しくは違うぞ」

「はぁあ? 何だよ、それっぽい説明だったろうが」

「いや、戦う度に強くなっているのは恐らく間違っておらん。じゃがそれが、漏れ出た力だとしたらどうじゃ?」

「なんだそりゃ?」

「お前さんだって聞いておるじゃろう。カレンが襲撃する直前、何をしていたのか」

「【黒竜】の討伐だろ? それが何だって―――」

「聞いた話では主力だった眷属は撤退する時点で死亡だったそうじゃ。その殿にカレンは残ったそうじゃ。それが生存メンバーの証言じゃった」

 

 ……おい待て。あのトカゲ女は生きてる。それは事実だ。だが相手は【黒竜】。見たことはねぇがこの世界で頂点のモンスター。【ゼウス、ヘラ・ファミリア】の第一級以上の冒険者が束になっても討伐できなかった世界の脅威。それに生き延びた。つまりそれは――。

 

「あのトカゲ女は、自分の力を制限してる……っ!」

「そうじゃ。【黒竜】を足止め、もしかすれば撤退させるだけの実力を手に入れながらも。しかし戦い傷つく度にそれが解放されている。魔法の力によって手に入れた物ならば、制限しとるとするならまだ魔法の効果は終わっておらんのじゃろう。まるで変わることを拒むかのようにじゃ」

 

 正直、俺はイラついてる。オラリオ、いや世界の頂点に立てるだけの実力がありながらそれを抑えて隠してる。元々から実力を隠していたと疑ってたが、それが確信になるとますます気に入らねぇ。

 

「……言っておくがお前とカレンは違うぞ」

「あぁ?」

「お主がカレンに憤りを感じる理由はわかっとる。じゃがそれをカレンにぶつけるのは的違いじゃ。あやつは誇り高いからの」

 

 ジジィの言葉でイラつきが疑問に変わった。いや、イラつきはまだ残ってるが違うと言われて話を聞く為に黙り込む。それを察したジジィは空を見上げて、どこか懐かしむように語る。

 

「あやつは後悔をせん。手遅れでも、失敗しても、次を見ている。それが【ゼウス・ファミリア】の冒険者カレン・デュラスの信念。決して立ち止まらないその姿に誰もが励まされた。だからこそあやつに同情も嫉妬を決して向けん。それをしてしまえば冒険者として恥であるからだ。―――じゃからベートよ」

 

 見上げた顔をこっちに向けるとジジィは真っ直ぐに俺を見た。それは厳格で、さっきまでのイラつきを一瞬忘れ去る程の真剣さだった。

 

「お前も冒険者である以上、カレンに嫌悪を抱くことは冒険者の未熟とも言える。それが嫌ならば前を向け。歩みを止めるな。あやつに言いたいことがあるならばその姿を捉えるまでの高みに至れ。儂が言えるのはそれだけじゃ」

 

 ……つまり文句が言いたいなら強くなれって事かよ。

 ハッ、上等だよ。だったら強くなってやるぜ。

 

 





ベルの思い出話
「カレン姉・・・・・・じゃないおばさんは月に二、三度は来てくれたよ。お爺ちゃんと何か伝えるために来てたみたいだけど、2人だけの話だから何を話していたかは知らないんだ。でもそれ以外は遊んで貰ったり話も色々としてくれたよ」


ベート、目標を得る。
 自分に似て否なる彼女の半生。それが僅かなら明確になった事でベートは改めて強さを求める。すでに彼女への苛立ちは心の隅に隠れた。


残り3日
 それぞれがそれぞれの準備を行う。 
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