私の言葉で喧騒していた場が静寂に包まれる。でも言いたい事を言った私にとってそれは関係なく、そしてここにいる理由もない。すぐにこの場に背を向ける。
「――ッ! おい、テメッ!!」
その背後から正気を取り戻した【
ツツ……。
「ッ……!」
「それ以上は動かないほうがいいわよ。私の鱗は鋭いから」
ま、これで絶対に動かないならもう少し紳士的なんでしょうけど。
「……カレン・デュラス」
そこで名前を呼ばれた。聞こえた方へ顔を向ければそこにはフィンがこっちを見ていた。懐かしい相手だけど、話す気はないわね。
名前を呟かれたに対し、私は返事はせずに今度こそ店を出ようとして、その出入り口にロキ神と【剣姫】がいた。ちょっといい加減にしてほしい。でも、この方を無視するわけにもいかないわね。
「もう出るので、用件は手短にしてくださいロキ神」
「その態度、ホンマにカレンちゃんか。戻ってきてたんやな」
「昨日からです。今日は久しぶりここの味が食べたかっただけです。それも悪酔いした人がいたせいで気分を悪くしましたけど」
「そりゃあ悪いことしたなぁ。おい、ベート縛っとけ」
ロキ神の言葉で何やら後ろが騒がしくなる。特にまだ若い女性二人分の声がノリノリだ。ついでになんか足蹴にする音も聞こえた。
「まぁ後でもっとシメとくけどな」
「別にそこまで……と思いましたけど私だけに対するものでもないですね」
そう言った私の目は【剣姫】を見ていた。確か彼のセクハラ的な発言は彼女に向けられたし、さっきは彼女と仲のいい
「相変わらず察しがいいな」
「それが取り柄ですから」
「取り柄、か。――なぁカレンちゃん、せっかく帰ってきたんやしウチのファミリアにこんか?」
「――どの口が言ってるのですか? 私一人に半壊にさせられたくせに」
あっ、本音が出ちゃった。どうやらベルを侮辱された怒りがまだ胸の内で燃え上がってたみたいね。思わずの事で口を手で覆い、周囲の様子を伺う。目を見開いて驚いている人たちが多数、苦汁を舐めたと言ってるような人たちが少数、縄で縛り縛られて固まってるのが三名だった。
「失礼。少し心が安定していないみたいで口が過ぎました」
「いや、別に気にしとらんで。まぁ寧ろホンネが聞けてよかったわ。カレンちゃんに限ってはウソかホントかわからんしな」
「その理由も気になっての勧誘ですか?」
「そりゃあそうやろ。ま、今回は諦めとくわ」
「次も受ける気はありませんよ」
「だが断る!」
そこで元気よく断られても。神様ってやっぱり個性的すぎる。でも、今はそれに呆れたせいでこっちも熱も冷めたみたい。
「とにかく、気分を変えたいのでそこを通してください」
「なんや、飲みなおしか?」
「違いますよ。でも興味があるなら喧騒が聞こえない場所にいるといいですよ」
「……ああ、なるほどな。ほな、行ってきな」
ようやくロキ神が道を開けてくれた。【剣姫】も一緒に、結局は私に何も言うことなく黙ったままだった。こっちが何者か知らないからどう対応すればいいかわからないところね。それはそれでありがたいけど。ただ他に呼び止めそうなのが1人。その彼に目を向ける。
「……っ」
彼、フィンは明らかに反応を見せた。言葉を飲み込んでる。もしかしたら吐き出すかもしれない。でも、彼以上に話はしたくない。
「貴方は
まっすぐに伝えよう。拒絶を。
「それだけよ。【
【ロキ・ファミリア】、私の家族を奪ったファミリアの団長の貴方とはもう昔みたいな付き合いは出来ないのよ。
その意図を込めて、私は豊穣の女主人から去った。
豊穣の女主人を出た私は
あの子への侮辱は、あの子の未熟さを自覚させた。何をすべきかではなく何もかも必要だと思い知らせて、我武者羅にダンジョンへ足を走らせた。そして、強くなりたいと望む。
そんなバベルの前にある階段に腰を下ろす。
「【グニタヘイズより贈り物を】」
【ミュニアストレジャー】の解除式を唱えて収納していた物をここに出す。出したのは小瓶と
そんな酒が満たされた小瓶の蓋を開け、その中身を一気に仰いだ。何度も味見をし、その上でソーマ神のような依存性を徹底的に排除した美味。今の私にとっては酔いながらも心穏やかにさせた。
「さて」
一献終えると
「奏でるのは、叙事詩『
かつて【ゼウス・ファミリア】にいた私が好んでいた曲。この曲が流れれば私がいると認知されるほど有名になった。これを流せば神々や古参の冒険者と住人たちは私の存在を知るだろう。誰もが騒ぎ、だからこそ隠れて動かせないための牽制。そして、後ろのダンジョンを走るベルに送る曲。
フードを外し、シルフィードを持つ。軽く弦を撫でて調律を測り、問題がないことを確かめる。
それじゃ奏でよう。懐かしき人と神への挨拶を。
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ダンジョン・第6階層
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「この音色は……」
我武者羅にダンジョンに飛び込み、目につくモンスターを倒し続けた最中で僕はその音色を聴いた。懐かしい
「カレン、姉さん」
あの人だ。あの人が奏でてる。この曲はあの人のお気に入りの曲だ。『アルゴノゥト』を旋律に変えたこの曲。強くなって行けと、伝える曲。
――ビキッ。
「ッ!」
聞き入っていた僕の耳に届いた雑音。振り返ればそこにはウォーシャドーが生まれようとしていた。
「――やってやる」
そうだ、まだ足りない。あの人に追いつくにはまだ力が足りない。あの高みへと届くために、やってやる!!
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豊穣の女主人
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「……?」
喧騒を取り戻してきた店の中で私はそれを聞いた。ハープのような音色だった。誰が奏でてるのかとあたりを見渡すけど、それらしいことをしている人はいない。でもどこか懐かしさを感じさせる曲。
「ほぉ、懐かしい曲や。挨拶代わりか」
するとロキがそんなことを言った。ベートに足を乗せた状態で。
この曲を奏でてる人に心当たりがあるの? そう考えるとさっきまでいたあのローブの人を思い浮かべた。フードを被っていたから顔は見ていない。でもあの人は見ない尻尾を持ってて、それ一本でベートを抑えていた。それだけであの人は強いとわかった
私は無意識に、あの人が何者なのか知りたくなっていた。
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突如として聞こえ始めた弦の調べ。それが何で、誰が奏でているのか気づいた瞬間、15年前の怒りが沸々と込み上げてくる。
「聞こえるオッタル。あの子の曲よ。帰ってきていたのよ」
それに対して我らが主神は高揚とした笑みを浮かべ、視線を北へと向けている。この曲が聞こえているのはその方向、
「ああ、あの子を見つけた日に彼女が帰ってくるなんて。今日はいい日だわ」
「お望みとあらば、彼女をここに連れてきます」
「いえ、まだいいわ。それに貴方だって冷静じゃないでしょ」
見抜かれてしまった。だが仕方がないのかもしれない。あれは俺の唯一の汚点。これを払拭するにはあの女を、カレン・デュラスを打ち倒す以外に術はないのだ。
「でも、それだと貴方も落ち着かないでしょう。一度だけ、彼女とぶつかることを許すわ」
「わかりました」
機会は得た。覚悟しろ、カレン・デュラス。
カレン、オラリオ二大ファミリアのトップとの関係。
フィン・ディムナ
かつては良き隣人であった。若き団長だったフィンは皆を支えるカレンからその心構えを聞き、平凡だったカレンは高みにいるフィンからそれ故の悩みを聞いていた。しかしそれも15年前でその関係は凍り付いた。
フィンとしては罪悪感や後ろめたさはあるがカレンを【ロキ・ファミリア】に迎えたいと思っているが、
オッタル
15年前の襲撃まで特に接点はなかった。オッタルにとってカレンは凡人で目に留まらない程度の冒険者さ。自分、ひいては【フレイヤ・ファミリア】に害をなすとは思ってもみなかった。
しかし襲撃後、竜人となって現れたカレンに敗北。当時の愛用武器を奪われる。しかもそれだけではなく目の前でフレイヤが身に着けていたお気に入りアクセサリーを奪った事で憤怒を抱く。しかしこれが彼がLv.7となり、オラリオ最強【