竜人がいるのは間違っているだろうか?   作:Celtmyth

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彼女たちのティータイム(?)

 ハッキリ言おう。ウザったい程に疲れた。

 古馴染みの所に向かった訳だけど今回ばかりは自分の評価というのものを忘れていた。行く先々で勧誘やら歓喜やら、そりゃあもう大騒ぎ。普通に扱ってくれたのは【ゴブニュ・ファミリア】本拠(ホーム)こと三槌(みつち)の鍛冶場とノームの万事屋ぐらいだった。ここ以外、足を運ぶのは控えとこう。それでも全部を見て回った私は自分で自分を褒めてやりたい。

 そんな私は気分を変えるため、生地店にいた。

 

「何をお探しでしょうか?」

「とりあえず手芸店に卸すのと同等の種類と量をよろしく」

「……はい?」

 

 わかりやすい程に呆ける店員に仕入れと同等の金額を出してあげた事ですぐ動いてくれた。こっちが戦闘服(バトルクロス)だったからファミリア規模での購入だと勘違いしてるみたいだけどその方が詮索されずにいいけどね。

 私は自分が着る分は自分で繕ってる。理由は私が竜人(ドラゴニュート)だからの一言で済む。私以外にいない種族だからそれ専用の服なんてあるはずもない。専用で発注(オーダーメイド)する他はないけどこれまでの15年間、その大半は旅ばかりしていたもんだからそれは枷でしかない。幸い、人間(ヒューマン)の頃から裁縫もやっていたから自分自身のサイズだけを把握していればあとは自分で作る事が出来たから問題はなかった。つまり私の服は戦闘服(バトルクロス)を含めて自作で賄っている。たまに自分以外も作ったりするけどね。

 

「おっ、お待たせしました……。商品は倉庫の方に用意させました……」

「あらありがとう。じゃあこれお支払い」

 

 出てきた店主にドサリ、ではなくドガッと音を立てる袋をカウンターに置く。あまりもの大きさに顔が引き攣っていた。その後、店員に倉庫へ案内されて商品と対面するとそりゃあ山のようだった。普通に何人かで運び出す量だ。普通なら、だけど。

 

「【グニタヘイズの穴蔵、その奥底に宝物を置きましょう。ミュニアストレジャー】」

 

 便利な収納魔法で商品全部を入れる。ただあまり魔法の事は広めたくなかったから案内してくれた店員には先に出てもらってから使用した。結果、私が手ぶらで出てきたのに商品が消えたもんだから大騒ぎ。そこはソクサク逃げたけど。

 

「うーん。買ったわねー」

 

 あとはデザインを決めて何着か縫うだけね。ほとんどが2つ3つ前の流行だったからそろそろと思ってたしね。この際だからベルのも繕って上げようかしら? 村を出てそう替えの服なんてそう多くないだろうし。

 

「……なんだろう。ちょっと泣けてきた」

 

 甥のような子が替えの服をあまり持っていない現実が辛い。ああは言ったけど顔見知りのよしみでもう少し構ってあげよう。そうなると他の目を上手く躱して――。

 と、考え事をしたせいか周囲の気配りが疎かになっていた。この通りを走ってくる人を避けようと、背を向ける形で曲がった。ただそれは当たるか当たらないかのギリギリな距離。

 

 

 

 

 スカートの裾ごと尻尾を踏まれた。

 

 

 

「きゃんっ!?」

「うおっと!?」

 

 踏まれた私の悲鳴と踏んだ人の驚きの声が同時に響く。足はすぐに離れ、私はほぼ反射的に尻尾の踏まれた部分を優しく撫でる。よりにもよって先っちょ。ここって結構敏感なのに。

 

「ご、ごめん! 獣人の子だよね? 尻尾を……」

 

 えっ? この声って……。

 恐る恐ると後ろを振り返って見た顔は、【ロキ・ファミリア】の一級冒険者。【大切断(アマゾン)】のティオナ・ヒュリテ。

 

「あ~……」

 

 わざとらしい声を漏らしつつ視線を逸らす、フリをして周囲を確認する。そして彼女以外にも【怒蛇(ヨルムガンド)】ティオネ・ヒュリテ、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤ・ウィリディス、そして【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 うん、逃げよう。

 

「さよなら」

 

 首を前に戻して私は一目散に走り出す。

 

「あっ、ちょっと待って!」

「お断り」

 

 絶対に絡まれる。どういった理由で、までは候補があり過ぎて逆にわからない。早く遠くへ――。

 

「待ちやがれぇ!!」

 

 これまた粗暴な言葉が大きな声で、街路の一部(・・・・・)と一緒に飛んできた。

 さすがの私でも度肝を抜かれて足を止め、もう一度振り返る。この時、【ロキ・ファミリア】の少女たちは追ってくる様子はない。3人は【怒蛇(ヨルムガンド)】に目を向け、そしてその彼女の足元は引っぺがした街路がある。

 これは、逃げたほうが面倒になるわね。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

「ええ、ありがと」

 

 あれ以上の被害が出る前に今はカフェのテーブルに座っている。剥がした街路は大きな部分だけを戻した上で「立ち入り禁止」で区分けしておいた。こっちはあとでギルドに報告しないといけないけど。でも本当に修繕費はどこから出すのかしら。私は勘弁よ。

 

「さて。お互い気分転換にあそこにいたから後腐れがないようにしましょう」

 

 私の視線の先、円形のテーブルで私と挟むように座っているのは【怒蛇(ヨルムガンド)】の彼女。他の3人は先に帰っている。つまり本当に用があるのは彼女だけだ。そして今、その目は敵意に近い何かを含んでいる。

 

「……単刀直入に聞くわ。あなたと団長の関係は?」

「ただの顔見知り」

 

 即答で正直に答えた。ただし今の私自身が見ている関係だけど。その結果、【怒蛇(ヨルムガンド)】の敵意が更に膨れ上がる。周囲の人たちが震える程に。

 

「ふざけてるの?」

「まさか。でも付け加えるなら『今は』って言葉ね。昔は友人の関係だった。……これ以上の事は野暮ってものだと思うけど?」

 

 【勇者(ブレイバー)】の個人的な事を聞いてなくても【ゼウス・ファミリア】の事は知っているはず。ただの一方的な認識だけどさすがに知ってるでしょう。

 その認識は当たっていたみたいだった。この言葉に彼女は口を噤んだ。

 ふむ、これじゃいけないか。

 

「肯定と受け取るわ。でもここで話を終わらせても後腐れになるわ。当たり障りがないものなら答えてあげるわ」

 

 まったく、自分でも呆れるくらいにお人好しね。昔ばなしを教える義理もないのに。ただどんな感情であれ同じファミリアにいる人を心配するのは、私も一緒だからね。

 

「昨日、団長が思い詰めていた。いつもはそんな私たちの手前、そんな顔は見せなかった」

「そう」

「リヴェリアやガレス、他にも昔からいる団員たちに聞いたけど15年前の事以外は教えてくれなかった」

「そう」

「でもその話も他でも知ることのできる程度だった。アンタには同情はする。でもあの団長があそこまで思い詰めるアンタは、団長の何?」

 

 【勇者(ブレイバー)】の何か、か。私にとっては元・友人の現・顔見知り。それ以上もそれ以下でもない。彼が私をどう思ってるなんては私が知るはずもない。いや、あえて(・・・)知らないフリをしてるのでしょうね。

 

「【勇者(ブレイバー)】と初めて会ったのは彼がLv.3、私がLv.2の頃だったわ」

 

 だから私は、彼との出会いを話す事にした。

 

「二級冒険者と言っても彼は小人族(パルゥム)。それを認められない連中は多かった。その時も同レベルの冒険者に絡まれてたわ」

「もしかして、助けたの?」

「まさか。寧ろ彼は上手くあしらってたわ。私はただその流れを見ていただけ。ただ縁ってものはあるものでね。最初の用事でポーションの箱買いに来たら彼も同じ用事でね。そして私たちが望む分の在庫がなかった。だからその場で交渉になったの」

 

 血の気の多い冒険者同士にしては平和的だったわね。そう言う意味じゃ彼で良かったのかもね。

 

「その時の交渉は互いに最低限の線引きをした上で残りを平等に上乗せする形で終わったわ。でもお互いに話しやすくてね。それからは会うことも増えていった。しかも冒険者として違う方向を進む同士でね。自分の成長の為に相談もしたわ。私は彼から戦い方を中心に、彼は私に仲間たちとの付き合い方とかをね」

 

 最後の言葉で【怒蛇(ヨルムガンド)】は驚いて目が大きくなる。気付いたみたいね。当時の私との会合が今の【勇者(ブレイバー)】が団長として必要な能力を持つに至った事を。

 

「その日々がどうだったかと聞かれたなら私は充実して楽しかったと答えるでしょう。でも今はどうかって聞かれたなら、会いたくないと答えるわ」

「……ッ。どうして」

「彼は【ロキ・ファミリア】の一員として私がいたファミリアを潰し、私は【ゼウス・ファミリア】の一員として彼がいたファミリアを襲撃した。私はその日に怒りや怨みにケリを付けた。でも彼は違う」

「違うって、何がよ」

「残念だけどそれを私が口に出来ないわ。彼が思い詰めている原因の私がここで断言するのは、個人としての彼の為にはならないわ」

「……彼って!」

 

 バンッ! と【怒蛇(ヨルムガンド)】はテーブルを叩いた。片手の拳で、それで真っ二つに割ってしまう。でも私は動じなかった。

 

「それだけ団長の事を知ってるクセに、なんでそんな態度を――」

「嫉妬を当たり散らすんじゃないわよ」

「ッ!」

「同じ女だから貴女が彼にどんな感情を抱いてるのか見てればわかるわ」

 

 彼女が彼に恋慕していることはわかる。その事について言えることはあるけど、そしたらどうなるかしらね? 後腐れなくって言ったけどそれは叶わないようだから言った方がいいか。

 

「私を認められないならそれでもいい。でも彼の気持ちを癒したいならその行動をしなさい。不満があるなら受け止めるわ。会わせたいなら力づくでも引っ張りなさい。考え抜いて彼に出来ることを貴女がしなさい」

 

 これはお節介じゃない。ただ辛辣に、そして乱暴に背中を押そうとしているだけだ。これで転び倒れたって気にしない。でも、彼を想いながら止まる女性なら諦めた方がいい。真っすぐな道を進む彼に僅かの寄り道をさせるくらいに。

 この私の思い通りに彼女が受け取ったかはわからない。でもこの言葉で一触即発の雰囲気が静寂の物に変わっていく。

 

「……私は団長を元気にしたい。その気持ちは誰よりもあるわ」

「そう」

「その為ならアンタを引き摺り出す事だってやるわ。覚悟しておきなさい」

「ええ、その時は逃げずに迎えるわ」

「……ありがと」

「お礼を言われる事なんてしてないわ」

 

 と、言ってもその時は素直に会ってあげると言ってるようなものだしね。

 【怒蛇(ヨルムガンド)】はそれ以上は何も言わず、背を向けて行ってしまった。

 

「……ここぐらいは私が払って置くか」

 

 割れたテーブルとティーカップを見下ろして、すぐに空を見上げる。

 まったく、【猛者(おうじゃ)】以外に引っ張り出そうとする人が増えちゃったわね。

 

 

 

 






==========
 夜の黄昏の館より
==========

「ティオネ。ギルドから器物損害の届出とその罰金の知らせが来たが何かしたのか?」
「え?」
「あとある店の備品を壊したと言う目撃情報もあるんだか?」
「え?」








カレンの元・「友人」の理由。
 本当なら友人関係だったが別々のファミリアの眷属である手前、表立ってそう吹聴するのはお互いに立場が危うくなる事だった。特にオラリオの二大最強である【ゼウス・ファミリア】とその座を狙っていた【ロキ・ファミリア】は尚更だった。故に2人の関係は『隣人』だった。

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