俺は老審神者に礼を言って自分の居室に戻る。
広くも狭くもない部屋。
本当ならばもっと多くの刀剣が審神者の部屋にはいるんだろう。
「おぅ、主、おっかえり~。酒呑むかい?」
「呑まねぇよ。程々にしてくれよ?」
「あいよ~。」
俺の傍らにいるのは、振袖を着崩した次郎太刀ことジロたんと・・・。
「履物を脱いでも俺より頭一つ以上高ぇのかよ。」
「主、昼餉は如何致しましょう?先程、野菜を収穫して来ましたが?」
白の襷を袖に通した同じく着物姿の太郎太刀こと、タロたん。
「タロたんはもっとデカいなぁ。しっかし、明治維新の廃刀令以後、士族の中には刀を捨てて鍬を取ったヤツもいるって言うけど、刀剣自身が畑仕事をするってのも感慨深いわ。」
「所詮、刀剣は人を斬る存在。ですが、必要ないのならば、振るわれぬ方が良いのです。」
こういうのって自己存在の否定になるのに、正論をズバっと言ってしまうタロたんは実に痛快でいい。
「タロたんが俺の刀剣で良かった。勿論ジロたんも。」
俺の言葉にタロたんが野菜を乗せた笊を持ちながら薄く微笑み(本人は十分に笑顔のつもりらしい)、ジロたんは俺に向かって盃を軽く上げてみせる。
「それはこちらもですが、その呼び方は再考の程を・・・。」 「はい、却下~。これだけはこんな主のトコに来た不運を嘆いてくれたまえ。」
実はこのやりとりは一度や二度ではない。
が、その度にこうやって却下している。
名をつけて呼ぶ事にどういった意味と効果があるのかは解らないが、"あの件"以来彼等の力は一定水準以下に安定したままだ。
そういえば、名は呪であるって、一番最初に言われたっけな。
これはいよいよ審神者ってヤツの理屈も胡散臭くなってきたな。
「あ、昼は"新人さん"が来てからな。そろそろ来る頃だと思うし、その後に少し"話がある"から。」
俺はさ、自分が決して賢い人間だとは思わない。
考えてみたって"正しい答え"とやらを出せているかなんて、そんな自信これっぽちもない・・・けど、でも・・・。
それでも少なくともコイツ等に対しては誠実でいたいと思う。
「主、入ってもよろしいかな?」
室内にジロたんでもタロたんでもない声が響く。
「あ、主?直?これって、もしかして・・・?」
その声に真っ先に反応したのはジロたんだ。
そして忙しなさそうに、俺と部屋の入口に視線を何度も往復させる。
「ほぅ。」
逆にタロたんは一言呟いただけで、それっきり口を閉ざして沈黙。
本当、対照的な兄弟だわ。
「いいよ、入って。」
「"お初"にお目にかかる俺は・・・。」 「はい、"むねちー"、コレあげる。」
その言葉を全部遮って、俺は室内に現れた刀剣。
"三日月 宗近"に"ソレ"を投げる。
「は?」
"古ぼけたお守り"
それが・・・いや、これは全く俺の想像だけど、このお守りは"どちらが"あげたものかも解らないんだけど・・・あの時、俺達に前に彼が現れたのは、コレに守られていたからだと、そう俺自身が思いたいんだ。
どうしても。
「コイツはな、そりゃあもう霊験あらたかで、あの石切丸が太鼓判を捺すくらいなんだぞー。」
願わくば、再び彼と彼の心を守り給え。
「・・・・・・これはこれは、実に趣深い主の所に来たものだな。」
むねちーは一瞬だけ呆けた後、俺の差し出したお守りを恭しく掲げると、ソレを懐に丁寧にしまう。
それを確認したところで・・・。
「じゃ、むねちーが仲間に入った事だし、今後の事を話そうか。んで、昼にしよう。」
俺はにっこりと皆に微笑む。
「まぁ、前にも言ったが、基本的に俺はオマエ等以外の誰も信用しない事にした。」
「は?」
「主?」
今度はジロたんとタロたんがきょとんとする。
むねちーは何を考えているのか解らないが、にこにこと微笑んだままだ。
「正確にはオマエ等だけは120%信用できる、だ。」
「で、どうしようってんのサ。」
先に我に返るのは、やっぱりジロたんの方が先だ。
順応性があると言うか、あり過ぎると言うのか。
「だからって今のままじゃダメなのは解ってる。」
この世の全てが信じられない、疑惑に満ちているというのならば・・・。
「だから"仲間"を集めようと思う。」
「お言葉ですが主。心から信に値するのは我々達のみと、先程。」
弟より一歩遅れて我に返ったタロたんが相変わらず冷静に私的する。
「別段、周りを信用せずとも、"信用される側"になれないというわけではない、だな?」
「その通り。」
じっと観察していたむねちーが早くも言いたい事を解ってくれたようで、俺に向かって心底楽しそうに微笑む。
「成程。実績、権威、それを主が得れば、自ずと人は集うというわけですか。」
「解っていただけて何よりだ、タロたん。」
「んでもさ、実績は戦ってけばいいとして、その、権威?ってのはどうすんの?」
脳天気に疑問の声を上げるジロたんへ、この酔っ払いめがっ!というタロたんの冷たい目線は、怖いから見なかった事にして・・・。
「ならば、誂え向きなのが"目の前"にいるな、この俺が。」
にっこりと微笑んだまま、事なげにさらりと述べるむねちーに異論はないようで良かったと、内心胸を撫で下ろす。
「馬鹿げたゲームを終わらせるには、結局戦うしかないけれど。消されていくのは俺達と刀剣の"想い"なんだ、放っておけるかよ。まずは全員仲間に入れるぞ、"天下五剣"を。」
過去という亡霊に奪われた未来の全て、取り返させてもらう!
そう意気込む俺はこの時、何故自分が審神者に選ばれたのかをまだ知る由もなかった。
そして天下五剣、ひいては全ての刀剣を揃えるという事がどういう事なのかも・・・。