どうも、鉢植えです。
先日のことですが、私はこの、今目の前に居る彼。
赤鬼よろしくな超怖面である彼に買われてしまいました。
彼の名前は私の記憶が正しければクラウス・なんたらかんたらだったはずです。
よく覚えていませんが、はじめの名前がクラウスだったのは間違いありません。
そして現在私が居る場所は、HLでも珍しく太陽光がある、彼の植物畑です。
顔に似合わず、花とか育てちゃうんですねー。
泣いた赤鬼か何かが先祖なのかな?
いや、違うか。
だって彼、吸血鬼倒したりするお仕事する貴族(?)だったはずですから。
吸血鬼…個人的にアーカードとかアルクェイドとか、どう考えても無理ゲーな人たちが真っ先に思い浮かぶんですが、この人、本当によく生きてますよね。
なんて、いえいえ、失礼なことかもしれませんが、割とまじです。
その彼、意外に律儀で、とにかく日に一度は畑にやってきては私および他の植物たちに水をやって、植物たちを愛でて、私を見て唸って帰って行きます。
いや、唸るなよ。なぜ私だけそんな扱いなんですか。
…もうちょい愛でてくれてもいいんだぜ?
ただしノータッチでな。
本日もやってきた彼は小難しい顔をしながら私を見ている。
ふさふさの揉み上げを掠めるか掠めないか辺りで顎をさすり、私を威圧でもするかのように見下ろしている。
よく見るとちょっと怖いな。圧迫感あるわー。
さて、彼はしばらく唸った後、後ろに控えるおじいちゃんに目をやった。
壮絶なにらめっこの末だったからか、つられて私もそのおじいちゃんを見る。
黒のスーツ、白髪に口ヒゲ、それと圧倒的に印象に残る顔の包帯。
えっと、執事?執事であってるかな?
個人的にはイスカリオテの生き延びた人に似てると思うんですよ。
包帯だけですけど。
で、そんないかつい執事が何故に畑にお越しなのですか?
そんな疑問も口に出せず、私は彼らを見比べる。
小首を傾げる私。
何も喋らないまま立ち去る彼ら。
うーん、謎である。
鉢の横にパックのままお供えされた牛乳と角砂糖で本日の食事を取りながら、私は考えた。
やはり全裸というのがまずいんではないだろうか、と。
特注で作ると言っていた服はまだ届いておらず、未だ私は全裸である。
正直植物にそんなこと考えんなよと言いたいが、過去世界には卑猥大根にすら興奮する男達がいたのだし、等身大リアル女子の姿なのは色々と規制される気がする。
乳首も下の口も無い植物だけどな。
小皿の角砂糖をサリサリと食み、腰に手を当てて牛乳を一気飲みした私は決意した。
よしわかった交流しよう。
言葉とか喋れないが交流しよう。
決めた。片手を二の腕に当ててガッツポーズする。
いい加減、暇だ!というのが本心であるが、今の鉢植えに冗談の二文字は無かった。
あと、高級な牛乳で無くていいと言った筈なのに、出された牛乳が美味し過ぎた。
なにこれ私のためなのか、それとも普段からそんなに良い物食べてるのか、どっちだ!?
そんなわけである。
一息ついて準備運動をした私は彼がよく出入りしている入り口を見た。
畑の真ん中辺りにいる私から、人ならば30歩といったところか。
膝を屈伸させ腹筋に力をいれる。
足首が無いためつま先で力を込めて跳ねる事は不可能、つまり腹筋で腿を引き付けて跳躍するのだ。
あの店で使われていた鉢植えはシンプルにバケツの様な金属製で頑丈だったから出来る諸行と言えよう。普通の煉瓦ならまず割れてしまう。
とうっ!
とうっ!
とうっとうっとうとうとうとう…
ついた。
息は荒いし膝は痛いし腹筋は吊りそうだが、着いた。
キッチンに、着いた。
来た道を振り返れば鉢から零れた土がポロポロとしてるが、とりあえずアレは後で片付けるとして、まずは手を洗って冷蔵庫の確認である。
さて、で結局どうなのさ。
牛乳なの?ミルクなの?非売品なの?特級なの?
そもそも何であの紙パック無地なんでしょうね?
いざ、ご対面~!
開いた大きな冷蔵庫の扉の向こう。
キラキラ輝く整理整頓されたビンや箱の傍ら。
今朝飲んだと思わしき牛乳がザっと見て20パックは積まれている。
開けた扉にはこれまた美しいワインやベーコンやなんかよくわからないものが整頓されており、封の開いた牛乳の無地パックが…
あー…把握した。
やばいわ、あの赤でかい人。
素でおぼっちゃまだわ、お金持ちだわ、常飲だわおっそろしー。
そして冷蔵庫の品揃えも半端ない。
醤油あるし、味噌もあるし、うわ、味醂まであるよ凄いな。
此処って元とはいえど
あーでもアメリカ産の日本調味料って結局アメリカ改造されてて不味いという噂があるな。
どれどれ、産地はどこですかー。
日本、鳥取、熊本、新潟。
まじで何処からどうやって経由して取り寄せたのか気になるわ。
そして、私は見つける。
賞味期限切れかけの鳥のひき肉と、丸ごと一本縦に置かれた大根を。
もうこれは、私へ対する挑戦状と受け取った。
台所を探索して、鍋二つ、包丁、まな板を引っ張り出し、調味料を並べる。
まず下準備だ。
片方の鍋にたっぷりの湯を沸かす。
その間に大根を良く洗って、かつら剥きにしたあと、厚めに切って、半月にする。
鳥のひき肉は解凍して塩を振って軽く混ぜ、もう片方の鍋にサラダ油とごま油を半々に敷き、色が変わるまで炒めていったん火を止める。
鍋の湯が煮立ったら、湯に香りが薄く付く程度の量で昆布投入。
同時に酒と大根投入。酒は日本酒をちょっと多めに入れていい。
で、昆布はとろみが出て煮崩れる前にさっと引き上げる、目安は味が無くなるのでそれくらい。
大根は茹で上がるのに時間がかかるので、このまま放置する。
置いておいた鳥そぼろに水、みりん、酒を投入し煮立たせ、砂糖、醤油で好みの味に調整。
汁をやや多めにして、気に入った味になったら火を止める。
個人的には甘めがお勧めだ、後でご飯に掛けたら美味しいように仕込む。
さて、まだ茹で上がらない大根の鍋に醤油を薄く色付く程度で投入し、少し汁をコップに拝借する。
この汁は冷まして、片栗粉を溶いて、大根に掛ける前に冷めてしまう鳥そぼろを温めなおす時に投入する。
此処から茹で大根の火加減を見るために竹串を持って鍋に向かう。
一番真ん中の辺りに指して茹でれたかを見るのだが、大根が徐々に汁を吸って半透明になっていくのがわかるだろうか。
これが真ん中辺りまで侵食したと思ったらぶっ刺す。
あんまりにも煮過ぎると、さくふわっとした大根の食感が保てないので、よく鍋を見張る必要がある。
うん、いい感じに煮えたであろう。
竹串がスッと抜けたのがその印だ。
大根鍋の火を止めて、汁がたっぷり入れれるような器に茹で上がった大根だけ盛り付ける。汁は放置。
仕上げに、鳥そぼろを再度火に掛けて、手早く溶いた片栗粉と回し掛けて混ぜ合わせた。
軽く泡が浮かんで来たら火を止めて大根の盛り付けてある器にぶっ掛ける!これだよこれ!
この状態で完成である。
ホクホクの薄味大根に、甘辛い鳥そぼろを纏わせた姿はとても美味しそうだ。
個人的には一晩置いて煮凝らせた姿はテロと言っても過言ではない。
そぼろ汁をご飯に掛けて食べるときとかまさに至福である。
誰も逆らえはしないだろう旨さと魅力がそこにある。
…あ、ご飯、炊いてない。
残念だが、此処はあきらめる他あるまい。
出来立て大根をひとつ摘まんで食べ、後はラップして冷蔵庫に放り込む。
そういえば炊飯器が無いのだ。米…炊きたいのに、ちくせう。
後片付けをしながら、とぼとぼと畑に帰り、私は不貞寝することにした。
明日、明日こそ米炊いて食べてやる!そう誓って。
おなかすきました、か?
がんばって作ってみて下さい、美味しいですよ。