鉢植えというのは、暇な時にすることを探すのに忙しい生き物らしい。
本日も街は異界風。
緑色の葉に天井からの太陽光を浴びて滴を揺らす朝。
草木が複雑にも美しく飾られたガラスの温室の庭では、いつも少し涼しい風を送る空調機器が日も昇らぬ時間に稼働しだして、ヘルサレムズロットならではの霧から植物を守る為に湿気を飛ばすことで朝がはじまる。
私が庭に来て7日が過ぎた。
いつも来るクラウスの表情も見慣れてきて、しかし彼から未だ声を掛けて貰えない私は隣の鉢植えであるゼラニウムに少し愛着を持ちつつある。
なにが彼の心をそんなにも閉ざすのだろうかね、ゼラさん。
裏声(彼きっと植物フェチなのよ)
成る程、普段ロリ同人誌買ってる奴が男の娘同人誌買ってみたら案外萌えなかったと、そういうわけか。はらたつわー。
まだ今日は開かない扉を見た。
あの扉の向こうで料理をした昨日。人の居ない時を見計って再び近づきたい冷蔵庫があそこの先にある。
大根…私の、そぼろ大根…。
この悲しみを表現したくて、鉢植えの上でバランスを取って体育座りをしてみた。
やや正面に体重を傾けて膝をそっと曲げるのだから危なっかしい鉢のぐらつきを抑えてしゃがむ動作は今でも慎重を要するのだが、どうにも、しゃがんだ後も収まりが悪いのは何故だろう?
…ハッ!?
この身体、前世の時より胸が大きいぞ!
だからどうした。
自分で自分にツッコミを入れ、ため息を吐いた。
相変わらず全裸のように見える姿だが、私は植物だ。人間の時のような柔らかさには欠けるし、暖かくもない。
しかも彼は他の人に私を見られている、むしろ見せている。普通に考えて置き場に困るのではなかろうか。私もあの時はありがたいと思いましたが敢えて言う。何故買ったし。
…暇だと、どーでもいいことを思うのも少しは楽しいのだからくだらない事を考えているのだ。
構われない、暇である、少し疎外感を感じる。ならばどうするか?ならばどうしたいか?
料理がしたい!!!
暇なら暇で、美味いものを食べてゴロゴロしたい!
意気込みを新たに、私は本日も調理場を目指しだした。
今日はまだミルクと角砂糖というメルヘンな主食も食べてないので腹ぺこである。その勢いたるや昼の学食へ駆け込む男子高校生にも負けぬであろう。
しかし、たどり着いた調理場にて私は唖然と口を開けて顔を白くする羽目になった。
そぼろ大根が無いのだ!
なんたる、こと。
私の楽しみであった一夜置きそぼろ大根が、その器ごとスッカリ冷蔵庫から消えてしまっている。
目をやれば、同じ器が洗い場に健在しているが中味は無い。
私は膝から崩れ落ちそうな心を必死で繋ぎ、一先ずいつものパック牛乳を開封して片手鍋を取り、その上で逆さまにひっくり返して中味を全て火にかけた。
沸騰して膜を作らないように、ゆっくり木ベラでかき回す。
初めは中火で、鍋がぬるくなるのを感じたら少し強めの弱火にし、角砂糖を3つ鍋に落とす。
湯気でコンロ周りも暖かくなり始めた。
ふと、上の棚を見上げる。
木編みの丸い籠、の中に収まる茶色と白の丸。海外では卵を冷蔵庫に入れない家もあると聞いたことはあるが、なるほど、こうなるのか。
背伸びをして指先で掴んだ卵をまじまじと見て、これは鶏の卵かそれともHL特有の怪鳥のものかと少し考えた後、ものは試しと小さな銀のボウルをひとつ出して割ってみた。
至って普通の卵であり、黄身であり、白身である。
少しばかりオレンジが強い気もするが、これくらい普通に日本でもあった程度だ。気にはならない。クリスマスカラーとかでなくて何よりである。
木の籠に入っていたからなのか、卵から僅かに香る木の匂い。これは鼻をスゥと通るセイジに似ている。
大さじのスプーンを使って選り分けた黄身を匙の上で崩して、薄く湯気が立ち上る鍋に入れてから木ベラで静かにかき混ぜ火を止めた。
それと、戸棚からバニラエッセンスを少々拝借。
ミルクと黄身のマーブル模様が渦となり、薄いクリーム色が全体に広がって完成するのは、
甘い香りが頬をくすぐる、昔懐かしのホットミルクセーキ。
誰のかは知らないが両手で持っていないといけない程の、大きなマグカップへミルクセーキを注いだなら、余った分は鍋に入れたまま鍋敷きを敷いて机の上に置く。
ぐうぐう鳴るお腹。
甘くて暖かいミルクセーキ。
ホットだけにホッとする私は舌を出してマグカップを傾ける。
程よい緩さである。
何杯かマグから飲んでから、残りの一杯を余して満腹となってしまい、私は再びそれを冷蔵庫に託す事にした。
鳥そぼろ大根の事を少し考え、今度は無くなっても然程気にはならないのを踏まえて、Drink me!(私を飲んで)のメモを貼って調理場から立ち去るとしよう。
意気揚々と帰る道すがら、後ろで椅子が動く音を聞いた気がした。
またキャラとからんでない?
二人いましたが、お気づきではありませんか?