【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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第十話。なのはさん(28)の交渉

「ふぅ、なのはさんにこの姿を見せるのも久しぶりですね?」

 

「……初対面だよ、このエロガキ♪ プチシューター、シュートッ!」

 

「ちょっ、うわぁああ!?」

 

“……因果応報、であります”

 

 私の名前は高町 なのは。

 極々、平凡な普通の魔道師です。

 好きな言葉は不撓不屈。あと、個人的に女は愛に生きるものだと思っています。

 あっ。でもでも、私は完全に非攻略キャラなので落としたいのならギガパッチを当てて下さいね? とまぁ冗談はそのくらいにして、私は只今、次元航行艦アースラへと乗り込んでいます。

 およそ十年ぶりに乗ったこのアースラもこの頃はまだまだ新しくて、何か凄く不思議な感じがして何か落ち着きません。

 

「はじめまして、このアースラの艦長をしています。リンディ・ハラオウンです」

 

「こちらこそ、はじめまして。海鳴市在住の小学三年生、高町 なのはです」

 

 さてさて、私はこのパチモノ臭い和室でリンディさんと初対面中だったりします。それにしても相変わらずこの人、若くて綺麗だよねー。軽く嫉妬してしまいたくなるくらいに肌とか綺麗だし……。

 全くウチのお母さんといい、リンディさんといい、いい年なのになんでこんなにも若いのか。このリンディさんなんて三十超えてるのに背中から妖精みたいな羽とか出すんだよ?

 しかもそれが普通に似合っているからタチが悪い。いい加減に自重しろと思ってしまう。ちなみに彼女達のこの異常な若さの秘訣は、甘いモノが関係しているのではと私は睨んでいる。だから、私もスイーツを沢山食べることに決めているのだ。

 えっ? そんな言い訳をして、本当は自分が食べたいだけだろうって?

 べ、別に言い訳じゃないもん。これでもお化粧のノリは良い方だし、肌年齢は十代だって言われたこともあるもん! まぁ誰かに見せる機会は、そんなに多くはなかったけどさ……うぅぅ。

 

「??? どうかしたの?」

 

「い、いえ、なんでもないです……」

 

 いけないいけない。今はリンディさんと話をしているんだった、集中しないとね。

 この変な和室の空間には現在、私とリンディさんの二人しかいない。確か昔はここにクロノ君とユーノ君、エイミィさんもいたと記憶しているけど、今は私達二人だけなのである。

 その原因は完全に私にあるんだけど、私は別に気にしていない。だって、スケベでえっちな男の子達にはきちんとした制裁が必要だと思うから。

 

「本当にごめんなさいね、ウチの子が粗相をして……」

 

 私の表情に何を悟ったのか、細い眉を下げて申し訳なさそうに私に謝るリンディさん。その理由は間違いなく今、医務室で伸びている黒色のボロ雑巾である。

 ちなみにクロスケが海の藻屑と化した後、フェイトちゃん達はジュエルシードを持って帰ってしまった。うん。実は見事にじゃんけんで負けたんだよね、私。

 まぁ、フェイトちゃんはじゃんけんで私に勝てたのが嬉しかったみたいで凄く喜んでいたから、個人的には良かったなぁなんて思っているんだけど。

 

 その後にリンディさん達から通信が入って嫌々ながらボロ雑巾を回収、このアースラでクロノ君抜きで話をするってことになった。だけど、艦内に着いてからエイミィさんの薦めでユーノ君が人間形態になってしまったんだ。

 そして、その姿を見た私は即座に思い出してしまう。あれ? ユーノ君って温泉の時、しれっと女湯に入ってたよね? しかも、鼻血を出して倒れてたし。うん、つまりユーノ君も覗き魔の変態さんだったんだぁ……というわけですぐにお仕置きを開始。まぁ、まだ子供だしそんなに気にしなくてもいいんだけどクロノ君を制裁した手前、ユーノ君だけお咎めなしっていうのは不公平だと思ったんだよね。

 

 だから、何発か小さなシューターを連続でぶつける軽いお仕置きをしたんだけど、呆気なくユーノ君はログアウトしてしまいました……防御力に定評のあるユーノ君はどうしてしまったのだろう。

 あっ、ちなみにエイミィさんがいないのは、医務室で二人についてくれているからです。別に私が何かしたからとかではないですからね、その辺は間違えないよーに。

 

「いえ、一応のお仕置きはちゃんとしましたから」

 

「そう言って貰えると助かるわ。全くっ、いきなり女の子の胸を触るなんて……私も後でお仕置きしておかなきゃ!」

 

「あははは……」

 

 ご愁傷様だね、クロノ君。だけど、そのくらいなら安いものだよね?

 何と言っても、君はこの穢れ無き乙女の柔肌に触れたのだから!

 ……別に私のコンプレックスな部分だからとかではないよ、多分。

 

「さてと、此方としては貴女達の詳しい事情や経緯なんかを聞きたいのだけど、いいかしら?」

 

「はい。ユーノ君がここにはいないので、代わりに私がお話します。まず、事の発端は――――」

 

 リンディさんが今までのにこやかな談笑モードから、きりりとした艦長モードになった。その変化を見た後、私も少しだけ背筋を伸ばして話をしていく。

 ちょっとだけ雰囲気に押されて微妙に報告って感じにはなってしまったけれど、寧ろそっちの方がリンディさん的にはわかりやすかったみたい。話の合間で頷いたり、相槌を打ちながら私の話を聞いてくれた。

 それから十分ほど掛けて話を終えて、二人同時にお茶(私のは普通のお茶である)を飲んで一息入れる。

 

「ふぅ、少しというか。かなり無茶なことをしているけれど、複数あるロストロギアを街に放置しているよりは良かったのかもしれないわね……結果的に、ではあるけれど」

 

「……すみません」

 

「別になのはさんが謝ることではないわ、寧ろ誇っても良いくらいよ。それにしても……なのはさんはまだ魔法を始めて、本当に僅かな期間しか経っていないのよね?」

 

「そう、ですね。魔法に触れてからは日々鍛練の毎日です……」

 

 ……本当は二十年くらいやっています、ごめんなさい。でも、そんな事を言うと完全に変人なので私は言いませんっ。

 だから、僅かな期間だけど鍛練を頑張っているんだよっと念の為にアピールしておく。あっ、だけど毎日鍛練をしているのは本当だよ?

 この身体はまだ魔法行使に適しているとは全然言えないからね。

 

「だけど、本当に凄いと思うわ。あれなら管理局でも即戦力……いいえ、既にエースと言ってもいいくらいだもの」

 

「あ、あははは……」

 

 リンディさんはそう言ってくれているけど、私個人としてはまだまだだと思っている。リンカ―コアが覚醒してからそんなに時間も経っていない所為で、まだ不安定な部分もあるし。

 それに何よりまだこの小さな身体に完全には慣れていなくて、違和感が残ってる。腕とかのリーチとかもそうだけど、何より体力が無さ過ぎるのが痛い。まぁ、こればっかりは魔法を使ってもどうにもならないから、地道にいくしかないんだけどね。

 

「でも、不思議よね。術式も魔力運用も全てが最適と言えるものだった。動きもかなり洗練されていたし……まるで、何年も掛けて磨き上げてきた熟練の魔道師のみたいでとても素人とは思えないわ」

 

「へ、へぇ、そうなんですかー」

 

 うぅぅ、流石リンディさん。

 多分、暴走体との戦闘を見ていたんだろうけど、凄く分析されてる……ちょっとの戦闘しかなかったから油断してたなぁ。

 んー、やっぱりワザと荒い部分とか残しておいた方が良かったのかもしれないね。でも戦技教導官な私としては、もっと良く出来るモノをワザとしないなんてしたくなかった。

 個人的にそういうのって何かモヤモヤするから嫌だったんだよね……私の小さなプライドでしかないけれど、どうしても曲げたくなかったんだ。けどまぁ、その所為で不思議がられているんだから完全に本末転倒な話になっちゃうんだけど。

 

「ねぇ、なのはさん。ちなみに局入りとかって、考えてくれていたりする?」

 

 あっ、何かリンディさんの目が光ってる。こう、何か凄くキラキラしてる。

 三十代でそれはキツイですよって言いたいけれど、不思議と可愛く見えるから美人って便利だ。でも、リンディさんってこんなに美人なのに再婚はしなかったんだよねー。

 まぁ一時期、若いツバメを飼っているとかって影で噂されていたけれど。

 

「えーと、将来的にはそうしようかなとは思ってます。ミッドチルダって所にも行ってみたいですし……」

 

 兎に角、リンディさんが折角話を変えてくれたのだから、それに乗らない手はないよね! というわけで、軽く局入りの話を匂わせておくことにする。

 本音を言えば、後半のミッドに行きたいって理由がメインだったりするんだけどね。

 

「本当!? それなら凄く助かるわ! うんっ、時空管理局は貴女の局入りを心から歓迎します♪」

 

 満面の笑みを浮かべて、私の手を握ってくるリンディさん。

 あ、あははは。相変わらずの人材不足なんだね、管理局って。

やっぱり何処ででもそうだと思うけど、組織で人材不足って永遠のテーマだと思う。かと言って数が多ければいいってわけでもないし……うん、非常に難しい問題です。

 一応、私も教官という立場だったので全く関係のない話ってわけでもなかったし。それにまた局入りするのなら、また教官職に就きたいとも思ってる。

 そんなことを思いつつ、苦笑いを浮かべていると話の内容は徐々に雑談へと移っていった。お母さんや忍さんの時もそうだったけど、私の本来の年齢が近いからかな? 気楽な感じがして、凄く話が弾むんだよねー。見た感じリンディさんも楽しそうに話してるし、まぁ傍から見れば違和感バリバリだとも思うけど……。

 

「――――そんなわけで、凄く良いんですよ!」

 

「むぅぅ。確かに凄く魅力的なのだけど、今は任務中だからこの艦からは降りれないのよ……」

 

「なら、今度休日にでも遊びに来たらどうですか? さっきも言いましたけど、贔屓目をなしにしても、私のお母さんの作るスイーツは一度食べてみる価値があると思います」

 

「そう、ね。丁度有給も溜まってるし、うん。個人的に今度遊びに来るのもアリかもしれないわね」

 

 とまぁそんな感じで後日、リンディさんの地球訪問が決定致しました。

 ふふっ。きちんと翠屋の利益のことも考えている女、高町なのはに抜け目はありません。これでも私はお店の看板娘を自称しているしね……まぁ最近はあんまり手伝っていないけど。

 

「ところでリンディさん、今後のことなんですけど……出来れば、私もジュエルシードの確保に協力させて貰えませんか?」

 

 すっかりリンディさんと“がーるずとぉーく”してしまっていた所為で私達は完全に本題を忘れていた。ここでちゃんとリンディさんに許可を貰わなくちゃ、色々と面倒なことになってしまうのだ。

 結果として一時的にフェイトちゃんと敵対って形になるけど、これ以上の選択を私は思い付かなかった。

 

「確かに此方としても強い戦力はありがたいけれど……できれば、理由を聞かせて貰っても良いかしら?」

 

 少し悩む様な顔になったリンディさんに私は本音を話すことにした。

 とはいえ、そんなに大層な理由があるわけではないけれど。

 

「私は、あの子と……フェイトちゃんと友達になりたいんです」

 

 決して口がうまい方ではない私には、ネゴシエーターみたいに上手く交渉することはできない。というか、交渉事で私がリンディさんに勝てるとは微塵も思えなかった。

 だから、自分の本心を語ることでリンディさんと交渉する。

 これぞ、高町式交渉術の初歩。“まず想いを伝えよう”である。

 

「あの黒い服の女の子?」

 

「はい。いつも無茶なことばっかりしているあの子と、いつも悲しそうな目をしているあの子と。……私は友達になりたい」

 

 確認するように尋ねられたその言葉に私は大きく頷いた。

 もう一度私はフェイトちゃんと友達になりたい。その理由なら沢山持っている。

 “アッチ”でも親友だったからとか。もうあんな狂気に染まった目を絶対にさせたくないからとか。フェイトちゃんに寂しそうにしていて欲しくないからとか。本当に色々な理由がある。だけど、一番の理由は……。

 

「私は、あの子に知って欲しいんです。世の中にはこんなにも楽しいことがあるんだよって。こんなにも暖かな場所があるんだよって。そこに貴女も入れるんだよって。きっと、あの子には笑顔が一番良く似合うと思うから。私はフェイトちゃんに笑顔でいて欲しいって思うから」

 

 ……大好きな親友のフェイトちゃんには笑っていて欲しいと思うから。

 もっと色んな楽しい時間とか嬉しい時間とかを共有していきたいと思うから。

 もしかしなくても、絶対に私の我が儘に過ぎないのだってことはわかってる。

 それでも、私はまたあの子と親友になりたいんだ。

 

「そう……。でも、何でそこまで思うのかしら? まだ彼女とはつい最近会ったばかりなのでしょう?」

 

「時間なんて関係ないって思っています。あと、似ているから」

 

 あの悲しくて寂しいのに、誰にも言わない所が。

 何でも一人で抱え込めばいいと思っている所が。

 自分の本当の気持ちを誰にも伝えられない所が。

 ……私は良く似ていると思うから。

 

「似ている?」

 

「私の大好きな親友に。そして、遠い昔の私の姿に。今のあの子はとてもよく似ている、だから私はあの子を絶対に放っては置けません」

 

 私はそう言うと、リンディさんの翡翠色の瞳を見つめた。同じようにリンディさんも私の瞳を見つめ返してくる。けど、私は逸らすことなくその瞳を見つめ続けた。

 少しの間だけこの部屋に沈黙が訪れ、時間の流れが遅くなったように感じられる。でも、もう此方から話す言葉は何もない。私の言いたい事は全て伝えたつもりだ。あとはリンディさんの判断を待つだけ。

 これで、もしダメと言われるのなら私は――――。

 

「……わかりました。私の指示には必ず従うと誓ってくれるのならば、貴女の参加を認めます」

 

「っ、ありがとうございます!」

 

 私はすぐにリンディさんへと頭を下げた。

 よかった。どう考えても理由が私個人の感情でしかなかったから、てっきりダメと言われるかと思ってた。まぁ仮に断られていたら、勝手に動く気満々だったとは……言わぬが花である。

 

「ただし、ちゃんと従って貰いますからね?」

 

「はいっ、ハラオウン提督のご厚意に感謝します!」

 

 念を押してくるリンディさんに私はお礼の意味を込めて、ビシッと敬礼をする。もう二十年くらいしている敬礼だ。指の先まできっちりとお手本通り……なはずなんだけど、この小さい身体だと全然締まらないっていう。

 うん。何処からどう見ても、子供が頑張って背伸びをしている感じにしか見えないっ。

 

「ふふっ。ではよろしくお願いしますね、なのはさん」

 

 ほら。リンディさんも軽く笑っているし、多分、凄く微笑ましい感じになってるんだろうなぁ。

 はぁ~。何だろう、この凄く空しい気持ちは……。私は内心で静かに溜め息を吐くと、早く大人になりたいと強く想うのであった。

 

 

 

 

 こうして私、高町 なのはは一時的に管理局に協力することとなる。

 リンディさんとの話を終え、家に帰った私は夕食後。お母さんに暫く家を空けることを伝えた。ちなみにお父さん達は鍛練に出掛けていて、この場にはいなかったりする。

 

 私はリンディさんに話す許可を貰ったので、この際だからとお母さんに魔法のことを全て話した。きっと後々局入りするのなら両親に話さないわけにもいかないからって判断だとは思うけど、すぐに許可をしてくれたのはありがたい。

 

 まぁ、どうやら私が影でこそこそと何かしているのはバレバレだったみたいだけどね。あと、お母さんだけに話したのは特に理由はなくて、何となくである。

 ちょっこだけ本音を言えば、お父さんとお兄ちゃんが自分も行く! とか言い出しそうな気がしたからだったからだけど……お姉ちゃんは、お父さん達と鍛練に出掛けちゃったから仕方がなかったんだ。

 ……決して除け者にしたわけではありませんよ?

 

「わかったわ。士郎さん達には明日、私から話をしておきます。……だけど、絶対に元気な姿で家に帰ってくること! これはお母さんとの約束よ?」

 

「うん! ありがとう、お母さん!」

 

 全ての話を終えると、お母さんは了承してくれた。私はお礼を言うと思わずお母さんに抱きつく。そんな私を優しげな表情で抱きしめてくれるお母さん……うん、何だろう。こう上手く口では言えないんだけど、凄く心が落ち着いていく感じがする。これが母の暖かさって奴なのかもしれない。

 そして、きっとフェイトちゃんはこういう母の温もりを強く求めているんだと思う。だけど、プレシアさんが昔と同じなのならば、フェイトちゃんの望みを叶えるのは凄く難しい。

 

 確かにフェイトちゃんはリンディさんの養子になってから、幸せそうに生活していた。それは間違いないと確信出来る。でも、同時にフェイトちゃんがプレシアさんのことを忘れることは決してなかった。

 フェイトちゃんにとって、きっとあの人は“特別”なのだろうと思う。

 あんな別れ方をしたのにフェイトちゃんはテスタロッサの姓をずっと外さなかったしね。

 

「親子って難しいなぁ……」

 

 ぽつりとそんな言葉を漏らす。はぁ、本当に私はどうすればいいんだろう。

 フェイトちゃんの願いを叶えてあげたいとは思うけど、私には出来ることが殆どない。というか、家族関係の話に他人が横からしゃしゃり出てくるのは何か違う気もする。

 私にアリシアちゃんの蘇生が出来るような知識でもあればまた違うのかもしれないけど、そんな知識は当然持ってないし……。

 そんな風に色々と思い悩んでいた私の頭に、ぽんと優しく暖かい掌が乗せられた。そして、その手はゆっくり撫でるように私の頭の上を動いていく。

 

「お母さん?」

 

「なのは、親子なんてそんなに難しいものでもないわよ?」

 

「えっ……?」

 

「大切なものと気がつけるか、気がつけないか。親子に重要なことはそれだけだと私は思うわ」

 

 そう言って、お母さんは優しく私の頭を撫でてくれる。

 本当に絶妙な力加減のそれはとても気持ちが良く、私は目を細めて受け入れた。でも、お母さんの言っていることも一理あるような気がする。

 親子とか家族って近くにありすぎて気がつきにくいけど、凄く大切なものだもんね。だけど……。

 

「でも、それが一番難しいんじゃないのかな?」

 

「そうかもね。だけど、難しいと思うから難しいの。簡単だと思えば凄く簡単なことよ」

 

 ……そう言われてみると、そうなのかもしれない。

 あのプレシアさんを言葉だけで完全に説得できるとは思えない。

 だけど、ほんの小さな切っ掛けを与えることだけでも出来れば……フェイトちゃんへの見方を少しでも変えてくれれば何とかなるかもしれない。

 勿論、希望的観測は混じっているし、そもそもプレシアさんと話が出来なければ何の意味もないけれど。

 

「けど、やってみる価値はある、よね」

 

 よし、今度はプレシアさんとちゃんと話をしてみよう。

 よくよく考えれば、私ってあの人とちゃんとお話したことってないしね。あの人が何を考え、何を思い、何をしたいのか直接聞いてから、どうするのか考えてみよう。

 フェイトちゃんにもプレシアさんにも一番いい選択が何なのかを、一緒に考えてみようと思う。取りあえず、今はそんな感じでいいや。こういうのは深く考えても解決するわけでもないもんね。

 あっ、でもお母さんに言わなきゃいけないことがあった……。

 

「ねぇ、お母さん」

 

「んー? なぁに?」

 

「私は、お母さんが大好きだからね?」

 

 うー。自分で言ってみたものの、これはかなり恥ずかしいかも。

 だけど、こんな機会でもないと絶対に言えないことだし……重要なことだと思うんだ。こういうの気持ちって言える時にちゃんと伝えて置かないと、後悔してしまうことになるからね。

 それに“アッチ”で私は最高の親不孝なことをしてしまったから。

 子供が親よりも先に死ぬなんて、親不孝以外の何物でもないし。

 

「…………っ、なのは!」

 

「お、お母さん!?」

 

 そんなわけで、自分の本音を伝えてみたんだけど……何やら、お母さんの様子が変です。膝に乗っていた私を強く抱きしめると、すりすりと頬を擦りつけてきます。

 って、痛い痛い、摩擦で頬が凄く痛いっ。

 

「もうっ、この娘はなんて可愛い子なの! やっぱりウチの子は最高ね!」

 

 これがデレ期!? デレ期なのね!? とか言いつつ、私を思う存分愛でてくるお母さん。いやいやいや、デレ期って何!? と突っ込みを入れたかったけどそれ所ではなかった。

 何処からそんな力が湧いてくるのか不思議なほどに私を撫でまわし、抱きしめ、すりすりしてくるお母さん改め、この親馬鹿。魔法なしだと戦闘力が5以下のゴミ虫な私では、抵抗も全く意味がありませんでした……。

 

「んぅ~~。ウチのなのはが可愛すぎる~~!」

 

「にゃ、にゃぁああああ!?」

 

 結局、お母さんの奇行はお父さん達が帰ってくる頃まで続いた。

 勿論、可愛がり攻撃をモロに受けた私は大変疲労困憊することとなる。しかしそれでもボロボロの身体を引きづり、学校を休むことの連絡をアリサちゃんとすずかちゃんにメールで送信するまで私は耐えた。うん、褒めてくれてもいいと思う。

 そして、その翌日……。

 

「今回、ロストロギアの確保に協力してくれることとなった現地の魔道師である……」

 

「高町 なのはです。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」

 

 アースラの懐かしい面々前に立ち、私は笑顔で元気よく挨拶をする。

 こういうのは第一印象が凄く大事なのだ。初めから暗い子だな~なんて絶対に思われたくはありません。

 

「それから、彼女の使い魔の……」

 

「ユーノ・スクライアです……って、リンディさん! 僕は使い魔じゃありませんよ!?」

 

 リンディさんの軽い冗談で、アースラのメンバー達ににこやかな笑みが生まれる。うん。こういう所を見ると、私はまだまだ敵わないなぁって思わされる。

 私もヴァルキリーズの皆の前で軽いジョークとかを言う時もあったんだけど、アレって地味に難しいんだよね。滑ったりすると裏で小一時間くらい立ち直れなくなるし……まぁ、それで落ち込んでいたところに優しいミっくんがフォローをしに来てくれたりするから、役得役得とか思ってたこともあったけどっ!

 まぁ、完全に弄られ役になってしまったユーノ君にはドンマイとしか言えません。こういう時の第一印象って以外と消えにくいものだから、多分ユーノ君は弄られ役に決定だよ!

 

「いいじゃないか、使い魔でも。どうせ君はいつもフェレットの姿なんだから」

 

 そしてアースラの元祖弄られ役? なクロノ君がユーノ君にニヤニヤとした顔を向けています。どうやら、二人で医務室に寝ていた時に仲良くなっていたようです。

 いや、クロノ君としては自分が弄れる奴が来て嬉しいのかもしれないけどね。ああいう所を見るとまだまだ子供なんだなぁと思うよねー。まぁ、二十年後にはいつも反抗期な子供達に悩まされるパパさんになっちゃうんだけど。

 

「だから、僕は使い魔じゃないって何度も言っているだろう! この痴漢野郎!」

 

「なっ!? アレは完全に不可抗力だ! 大体、君だって女湯に入っていたらしいじゃないか、この淫獣!」

 

 いきなり始まった二人の喧嘩にアースラの人達は、微笑ましそうな笑みを浮かべて見ている。かくいう私も非常に生温かい目で二人を見つめております。

 だけど、それってどちらも私は被害者なんだよね……思い出したら、ちょっとだけイラッとしてきたかも。

 

「なんだよ、このチビすけ!」

 

「うるさい、このフェレットもどき!」

 

 はいはいはい。仲が良いのは大変結構だけれど、今は一応会議中な訳だし、もうそのくらいにしておこうね?

 誰も注意しないから別に気にしなくてもいいけど、アースラじゃなかったらすぐにお説教モノだよ?

 そんなわけで私は二人を軽く注意することにする。

 

「二人とも、ちょっと静かにね?」

 

『はい、申し訳ありませんでした!』

 

 あ、あれれ? 何もそんなに過敏に反応しなくてもいいんだけど……。

 それに私、結構優しい声で言ったよね。もしかして、そんなに怖かったのかな?

 だとしたら、もの凄くショックなんだけど……あと相変わらず変な所で息がピッタリだよね、君達。何か武装隊の人達から、すげぇなとか。ブリッジの人達から、完全に尻に敷かれているのねとか。そんな声がひそひそと聞こえるけど、私は気にしないもん。うー。

 

「……短い間とはいえ、君はよく彼女と一緒にいられたな。正直、ウチの艦長よりも怖いぞ?」

 

「クロノ、人間の適応能力って意外と凄いんだよ? それに、なのはさんは厳しかったりもするけど、本当は優しい人だから……」

 

 ん? 今度は二人でこそこそと何を話しているんだろう。

 偶にこっちをちらちらと見てるし、私の事でも話しているのかな?

 なーんてね、そんなわけがないか。まぁ、男の子同士で話したいことでもあるんだろう。

 

「う~ん、そうなのか…………っ!?」

 

「……おい、なんで顔を赤くしているのさ」

 

「こ、これはちがうっ」

 

 あれ? クロノ君がこっちをじぃーと見てきたから、軽くウィンクをしてみたんだけど……変だったのかな?

 むぅ、やっぱり慣れないことはするもんじゃないね。よし、ウィンクは永久封印します。それにしても、本当にあの二人は凄く仲良しさんだなぁと思う。もうユーノ君も敬語を使ってないし、何か私だけ除け者にされたようで少し寂しいかも……。

 

「リンディさ~ん」

 

「あら? どうしたの、なのはさん?」

 

「クロノ君達が私抜きで楽しそうにしているので、少し寂しーです」

 

 というわけで、私はリンディさんの所にいってみることに。

 今はそんなに忙しそうでもないし、皆も雑談しているみたいだから、多分大丈夫だと思う。

 べ、別に男の子にどう話しかければ良かったっけ? なんて思ってはいません。……本当に思ってないんだからね?

 

「あらあら、女の子を放っておくなんて二人ともダメダメねぇ。うん。それなら、私とお茶でもしましょうか?」

 

「はい!」

 

 リンディさんは少し困ったものを見るような目でクロノ君達を見ると、すぐに私に笑みを向けてそう言ってきてくれた。流石リンディさん、実に話のわかる女性である。

 う~ん、私もこういう気配り上手な大人になりたかったなぁ。そうすればもっとモテたかもしれないのに…………はっ、私にはミっくんという人がいるというのに、こんなことを考えてしまうなんて! ご、ごめんね、ミっくん。でもこれは浮気ではないの!

 前にも言ったけど、なのはの心は常に貴方と共にあるからっ!(注:相手は一歳である)

 そんな言い訳を遠いミッドの地に送りつつ、私はリンディさんが入れてくれたお茶を一口飲んで……噴き出した。

 

「あ、甘い……」

 

「あら? なのはさんはミルクと砂糖を入れない派だったかしら?」

 

「そ、そうですね。どちらかと言うと、ストレート派です」

 

 これも別に飲めないってことはないんだけど、不意打ちだと結構ダメージが大きい……。リンディさんお手製の場合は砂糖とミルクの比率がちょっと異常だから、ドロドロ一歩手前だしね。

 まぁ味的には、薄い抹茶オレもどき砂糖増加中♪ って言えば、伝わるかな。あとコレを飲んだ後は、きちんとうがいをしないと虫歯になるので気を付ける必要があったりもする。

 

「ふふっ、クロノきゅん×ユーノきゅん。今回はこのネタでイケる!」

 

 私がそんな緑茶もどき(リンディ仕様)を少ししかめっ面で飲みつつ、リンディさんと談笑していると何やら不穏な声が聞こえてきた。良く見ればブリッジのメンバー達が、未だに仲良く話をしているユーノ君とクロノ君を見つめて何やら盛り上がっているみたいだ。

 

「馬鹿なことを言わないで! ユーノきゅん×クロノきゅん、これに決まってるでしょ!」

 

「ねぇ。なら、いっそのことなのはちゃんをフタ○リにさせて二人を同時に責めちゃうって感じにすればっ……」

 

『それだっ!』

 

 ……あ、あはは、聞かなかったことにしようかなー。

 そう思いつつも、私は苦笑いを浮かべたままリンディさんに話を振ってみる。当然、一緒にその声を聞いていたリンディさんも苦笑いだ。

 

「リンディさん。何か私の名前が出て来たんですけど、アレって……」

 

「う、う~ん。流石に私も人の趣味にまでは口を出せないのよね、あははは……」

 

 今まで全く知らなかったし、知りたくもなかった真実。アースラのブリッジが結構腐っていたよ、てへっ☆

 そんな衝撃の真実を目撃して、私は強く思ってしまった。

 

 そんなのでいいのか? 時空管理局。

 これで大丈夫なのか? 時空管理局。

 

 そして、そこの中心にいていいのか、エイミィさんっ。

 というか将来の旦那さんをネタにしてていいの!?

 あっ、逆に旦那だからアリなの、かなぁ?

 

「で、でも、管理局全体があんな感じではないのよ? アレは、その……極一部の人だけだからね!」

 

 私が遠い目をしているのを見て、リンディさんが凄く必死にフォローしているのが凄く印象的でした まる。うん、ちょっとリアルに局入りを考え直そうかなぁ……なんてことを思っている私は気づいていない。

 自分も結構同じ穴の狢だということに……。

 

 


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