【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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第十四話。なのはさん(28)の信念

 

 時計の針は少しばかり遡る。

 なのはが単独で時の庭園へと乗り込んだ頃、此処次元航行艦アースラにいる時空管理局員達もまた動き始めていた。

 

「艦長、なのはちゃんが一人で乗り込みました!」

 

「……そう。急ぎ武装局員に準備をさせて」

 

 報告を受け、アースラ艦長リンディ・ハラオウンはほんの小さく溜め息を吐き、手元にあったお茶をずずっと一飲みして静かに気を押さえる。

 先日の単独行動から僅か二日である。昨日お説教もちゃんとしたはずである。なのになのははまた単独行動を起こしたのだ。これで溜め息を吐くなというのは無理からぬことであった。

 これが正式な局員ならばもっと厳しく罰するべきなのだろうが、彼女はあくまでも一協力者。しかもまだ幼い少女である。提督の役職を持つリンディでも、少々その扱いには困っていた。

 

「……………………」

 

 しかもタチが悪いのが、彼女が既にエース級の実力を持ち、大抵のことを一人でなんとかなってしまう事が出来ることだ。そもそも高町 なのはという少女には何処かチグハグな面が多々ある。

 第一に、魔法に関しても触れて僅か一ヶ月ほどなのにもかかわらず、明らかに熟練の玄人の動きをしていることが挙げられるだろう。

 いくら天賦の才があったにしても、彼女の動きも術式も魔力運用も荒が無さ過ぎる、洗練され過ぎているのだ。更に言えば、どこの教導官だと思わせる程にその指導力も抜群に高い。正直に言えば、彼女の魔道師としての実力は“異常”の一言に尽きる。

 第二に、彼女と会話していても時折思うことなのだが、容姿と中身が釣り合っていないこと。少女というよりは同年代や少し年下の後輩と話しているような感覚に襲われるのだ。

 彼女の精神年齢が高いと言われれば確かにそうなのだが、それにしても少し落ち着きがあり過ぎる。しかし、かと思えば、今回や前回の様に衝動的な動きも多いのだ。それが結果的に彼女の全体像をあやふやにしていた。だが、それでもリンディは一つだけ確信していることがある。

 

「……悪い子、ではないのよね」

 

 それは彼女の人格が善良なことだった。

 甘いと言われれば、その通りだろう。仮にも敵対している側の人物を危険を冒してまで助けにいくなど、無茶を通り越して無謀であるとも言えるだろう。

 しかし、危険な場所へ一人の少女を助けにいける彼女の勇気は賞賛されるべきものであるとリンディは思っていたし、好ましいとも思っていた。

 心配な面としては、少々自分の身を省みない所があることであるが、彼女の周りには不思議と人が集まっていく。そのことを思えば周囲の者達が気を付けておけば問題ないとも言える。

 

「――――まぁ、でも帰ってきたらお説教はしなくちゃいけないわね」

 

 お説教することはリンディの中では確定事項である。

 だが、同時になのはの行動に納得できる部分もあった。彼女自身もまた強い憤りを感じていたからだ。同じ子を持つ母親として、まだ幼い少女にプレシアが行った所業は到底許せるものではなかった。無論、プレシアが行った理由はわかっている。その悲しみの深さを予想も出来る。しかし、それでも納得はすることが出来なかった。

 

「母さ――艦長っ! 今は暢気にお茶を飲んでる場合ではないでしょう!?」

 

「少し落ち着きなさい、クロノ。とりあえず、プレシアの本拠地の座標も判明したわ。後は乗り込むだけ……武装局員達は?」

 

「後五分ほどで全ての準備が完了します!」

 

 声を上げるクロノを尻眼に残りのお茶を飲み干しつつ、内心でまだまだ感情のコントロールが甘いなとリンディは思う。

 このような時に指揮官が慌ててもどうしようもない。トップはどしんと構えていてこそなのだ。いや、もしかしたらクロノはちょっと気になる女の子が危険な目に合うのが心配なのかもしれない。

 まぁ、本当にそうだとしたらこの仕事命っぽい息子に来た春なので、実に頑張って欲しい所だ。

 

「では、僕だけでも先行して……!」

 

「なのはさんの実力は貴方もよく知っているでしょう? そう易々とやられたりしないわ。それに戦力の逐次投入は下策よ」

 

「っ、それはそうですが、どうにも不審な点が多すぎます! 大体、本拠地を移動させてないなんてどう考えても……」

 

 クロノの言いたいことはリンディもよくわかっていた。

 先日の竜巻の時には、場所を特定させないためにアースラに攻撃を仕掛けてきたような相手である。それが今回に限っては娘とその使い魔を逃がしているのにもかかわらず、本拠地を動かしていない。

 ……正直に言えば、相手の動きが怪し過ぎるのだ。

 

「誘い、でしょうね。加えてプレシアがなのはさんの戦闘力を知らないとはとても思えないわ。ならば、何か捕らえる策があるのか。あるいは――――」

 

「――――自分の力に絶対の自負があるのか、ですか?」

 

「恐らく、だけどね。エイミィ、プレシアのデータを出してくれる?」

 

「わかりました」

 

 エイミィが手元のパネルを素早く操作すると、モニターに一人の女性の映像と情報が映し出された。黒髪に白衣を着た女性、今回の被疑者プレシア・テスタロッサ。

 余り時間がなかったのでそこまで詳細な情報ではないが、今見るべき点はきちんと押さえてあった。

 

“魔道師ランク条件つきSS”

 

 その情報を見て、この場にいる数人が息を飲んだ。

 現在時空管理局に所属する魔道師の中でAAAランク以上の魔道師は5%未満である。それより上のSSランクの魔道師ともなれば、1%を割り込むことだろう。

 勿論、戦闘はランクだけで決まるものではない。だが、一つの目安にすることは出来る。そも、SSランクは壁を超えたある種の別格的な存在であった。局員達が驚くのも仕方がないと言える。

 そして、そんな相手とこれからリンディ達は戦わなければならないのだ。

 

「……艦長、なのはちゃんは大丈夫なんでしょうか?」

 

「プレシアの力が衰えていなければ、きっとなのはさんでも苦戦は免れないわね」

 

 エイミィが心配そうな問いかけにリンディはそう答えた。

 管理局に協力してくれている現地の魔道師、高町なのは。先も挙げたとおり彼女の実力はかなり高い。少なく見積もっても彼女はアースラ最高戦力であるクロノよりも強いことだろう。ランクで言えばSランクといったところであるだろうか。

 ただ不安材料として、今回の戦闘は屋内であることだ。何度か戦闘中の動きを見ていたが、彼女は空戦タイプのように思える。相手の実力が未知数なのに加えて、屋内で動きを制限された状況。しかも場所は相手のホームだ。

 決して口には出したくはないが――――彼女の勝算はかなり低い。

 

「クロノ。仮にプレシアが当時の実力のままだとして、一対一で貴方は勝てる?」

 

「っ、それは……」

 

 思わず、口を濁したクロノにリンディは鋭い目を向ける。

 彼女自身、酷い事を言っている自覚はあった。だが、今は客観的な意見が欲しかった。その意図が伝わったのか、苦い表情を浮かべながらクロノは口を開く。

「実際に対峙して見ないことには、はっきりとは言えませんが、かなり厳しいかと思います」

 

「そうね、同意見だわ。私も今回、かなり厳しい戦いになると思っている。相手は次元跳躍魔法まで使える程の実力者。例えなのはさんとクロノが共闘したとしても、簡単に倒せる相手ではないでしょうね」

 

 この際、武装局員のことは除外しておいた。

 彼らのことを軽視したわけではないが、プレシアの相手をさせるのは流石に酷であると考えたのだ。

 人数の利点を生かしてという方法もないわけではないが、下手をすれば増援が足を引っ張る形になりかねない。それは結果として最悪な形である。

 となると、なのはへの援軍はクロノ一人を送るべきなのだが……それでも急造の連携で何処までいけるものか。

 

「……………………」

 

 リンディは腕を組んで、一度目を閉じた。

 ……実は他に手がないわけではない。寧ろ最初にそれを考えたくらいだ。

 だが、それはリンディにとって苦渋の選択でもあった。

 管理局員としての自分を取るか、個人としての自分を取るか。

 

「艦長、武装局員の準備完了しました!」

 

 そう声が掛かると少し大きめに息を吐いて、リンディはゆっくりと目を開く。

 転送ポートで待機する武装局員達、ブリッジにいるメンバー達、そして息子のクロノ。それぞれがリンディを見つめ、その言葉を待っていた。

 ――――ごめんなさい、なのはさん。貴女に負担を掛けるわ。

 内心で遠くで戦っている少女に謝罪をしつつ、リンディは指揮官らしい凛々しい表情で言葉を発す。

 

「私達、アースラクルーは第一目標を――――時の庭園内部の魔道炉を叩くこととします!」

 

 プレシアのランクは“条件付き”SS。

 それはプレシア個人が莫大な魔力を保有しているわけではなく、媒体から魔力供給を受けることでそれを自身の魔力として運用できる特殊技能の持ち主である事を示していた。

 ならば、その供給源を先に叩いてしまえばプレシアの力を落とすことが出来る。加えて、庭園の動きを封じることによってプレシアの逃亡を阻止することも出来る。

 勿論、この作戦にも欠点がある。暫くの間、プレシアの相手をなのはに全て押しつけることになるのだ。彼女は協力者とはいえ、民間人の少女。それを半ば捨石のように使わなければいけない苦肉の策であった。しかし、彼女達は管理局員だった。常に最善の選択をしないといなければならない。例え、それがどんなに残酷なものだとしても。

 

「先にプレシアの力を削ぎ、その後、可及的速やかになのはさんを救援してプレシアを確保します! ……未来の同僚が一人で戦っているわ! この作戦はスピードが肝心よ! 各員の奮戦に期待します!」

 

『了解っ!』

 

 リンディの敬礼に一斉に答礼した後、クロノ達は時の庭園へと転移していった。

 それぞれの想いを胸に秘め、こうしてアースラクルーも最終局面へと参戦していく。

 

 

 

 

 

 

 

 なのははプレシアとの戦闘。

 クロノと武装局員達は魔道炉の封印。

 各員がそれぞれ、自分のやるべきことに集中している中、場面は高町家へと移り変わる。なのはが飛び出した後、此処高町家ではなんとも重苦しい空気が流れていた。

 

「――――フェイト」

 

 アルフは布団の上で眠っている己が主人を悲しげに見つめ、小さく名前を呼ぶ。だが、返事は帰って来ることはない。ただ胸が静かに上下しているだけだった。

 彼女も本心ではなのはと共にプレシアを殴りに行きたかった。しかし、今、彼女は身体中が傷だらけのボロボロ。とてもではないが戦闘など出来そうにない。故に悔しさを感じながらも、今のアルフは自分の主の手を握りしめることだけしか出来なかった。

 

「…………っ……」

 

 そんな様子を傍で見ている少年もまた同じようなもどかしさを感じていた。

 ジュエルシード事件の発端となった人物、ユーノ・スクライアである。今、彼は一人悔しさを噛みしめていた。綺麗に正座をして座っている彼の手は固く握りしめられ、色が白く変わってもいるようだ。

 ユーノは思う。本当に彼女を一人で行かせて良かったのか、と。

 敵の本拠地にたった一人で乗り込むなんて、幾ら彼女でも無茶である、と。

 しかし、ユーノは彼女にフェイト達のことを頼まれていた。それは言い変えてしまえば“援護”ではなく“待機”を命じられてしまった事に等しかった。そして、そのことが少なからず彼はショックであった。

 互いの力量差を考えれば仕方がないとは思う。自分が行っても足手まといだっただろうとも思う。でも、それでも一言“一緒に来て”と彼は言って欲しかったのだ。隣に立つのが無理でも、せめて彼女の背中ぐらいは守りたかったのだ。

 

 元々、ユーノにとって高町 なのはという少女は複雑な存在である。

 負傷していた所を助けてくれたこととジュエルシード集めに協力してくれたことには、深い感謝を。

 自分が持っていたデバイス、レイジングハートを完璧に使いこなしていることには、大きな驚きを。

 僅か一ヶ月で自分など及びも付かない程の魔道師になった彼女が持つ類まれな魔法センスには、小さな嫉妬を。

 本当にユーノが抱えるなのはに対する気持ちは色々と複雑なものがある。

 だが、決してユーノは彼女のことが嫌いにはなれなかった。

 

 確かに自分の扱いはかなり酷い。冗談のように何度もミミズを食べさせようとしたり、ドライヤーで追いかけられたりもした。

 というか、もう殆ど人間扱いされてはいなかったと思う。更に彼女は時折奇行が目立つ。突然、わけのわからないことを言い出したり、妄想の世界に入って行ったり。本当に変な行動が多過ぎで、それを止めるストッパー役をユーノはレイジングハートと共に続けてきたのだ。

 しかし、同時にそんなちょっとだけ慌しい毎日が楽しいと思うようにもなっていた。知り合いの誰もいない世界の中で孤独を感じなかったのは、彼女のお陰であると思ってもいた。

 つまり、ユーノにとって高町 なのはは恩人だったのだ。

 だからこそ、そんな彼女に頼られなかったことが悔しかった。

 力になれない自分の未熟さが心底悔しかった。そして、それ以上にユーノは彼女のことが心配だった。

 

「ユーノ君、大丈夫よ。あの子は負けないわ」

 

「いや、でも……」

 

 そんなユーノの様子を見て、彼の心境を察したのだろうか。

 なのはの母である桃子がユーノを励ますように声を掛けてきた。娘であるなのはと良く似た容貌の彼女は、人を安心させるような柔らかい笑みを浮かべて“我ながら何も根拠はないんだけどね”前置きを置いた後に口を開く。

 

「母親の勘って奴なのかしらね? 私はあの子が全部終わらせて、無事に帰ってくるって確信があるの」

 

 そう話す彼女の様子に、陰りのようなものは何処にもなかった。

 言葉の通り、彼女は本当にそう確信しているのだろう。無論、それはなのはのことを心配していないといことではない。生まれ故に母というものを良く知らないユーノに母親の勘というものはイマイチよくわからなかったが、それだけなのはのことを信頼しているということは彼女の様子からよく理解することが出来た。

 

「それにね、あの子は“高町 なのは”なのよ?」

 

「えっ?」

 

 ユーノは思わず素っ頓狂な声を出し、頭の上に疑問符が沢山浮かべる。

 そんな何を言っているのかわかっていない様子のユーノに、何処か自慢げに胸を張って桃子は言う。

 

「――――あの子は私と士郎さんの娘で、恭也と美由希の妹なの。だから、絶対に大丈夫よ」

 

 それは何の根拠もない言葉だった。

 だが、その言葉に高町家の面々は笑みを浮かべつつ、頷いていた。

 きっと他の三人もそう確信しているのだろう。そんな高町家の様子を見て、敵わないなとユーノは思った。

 家族の絆とでも言うのだろうか。なんだかそれを見せつけられたような気がして、少しだけスクライアの家族達のことが恋しくなった。連絡もせずに勝手に飛び出した自分。きっと帰ったら怒られるだろうと思う。

 でも、そんな怒られている自分の姿を想像して、ちょっとだけ彼の胸は暖かくなった。

 そしてユーノは思う。きっと高町 なのはの強さの秘訣の一つは此処にあるのではないか、と。

 信頼して自分の帰りを待ってくれている人たちがいるからこそ、彼女は強いのだろう。どんな時でも絶対に此処に帰ってくるのだと強く心に決めているのだから……。

 

 ――――とまぁ、このまま終わればいい感じで良かったのにと後にユーノは語る。

 だが、残念なことにここにはいるのはあの“なのはさん”の家族達である。そうは問屋が卸さないのは、多分運命なのだろう。

 

「でも、ちょーとなのはは一人で頑張り過ぎかなぁって思う面はあるよねー?」

 

「まぁ、なのはは昔からかなり頑固なところがあったからな」

 

「あの子は一度こうと決めると、最後まで突っ走ってしまうしな」

 

 少し暖かな空気になったからだろうか。

 表情を緩めながら、末っ子のことを話し始める高町家の面々。

 しかし、そんな空気が後の混沌へとアシストをしてしまうこととなる。

 

「それにしても、う~ん。男子は三日会わないと成長していると言うが、女の子も同じなんだなぁ」

 

「あら? 士郎さん、それは間違いよ。女の子は月日では変わらないわ」

 

「ん、そうなのか? なら、何が原因で変わるんだい?」

 

 士郎の問い掛けに、桃子の目がきらんと輝く。

 そして、チェシャ猫のような嬉しそうな笑みを浮かべると、本日最大の爆弾を投下した。

 

「ふふっ、それはずばり恋よ! 恋すると女の子は成長するの!」

 

「ああなるほど、恋か……ん? コイ?」

 

 自信満々の桃子の言葉に納得しかけ、途中で妙なことに士郎は気がつく。

 恋すると女の子は成長する+なのはが何時の間にか成長していた=なのはが恋をしている(やったね!)。

 そんな単純な方程式が彼の中に出来たのは、同じように首を傾げていた面々と全く同じタイミングだった。

 

『な、なんだってー!?』

 

 桃子、フェイト、アルフの三人を除く面々が一斉にそう叫ぶ。

 そこからはもうカオスだった。“誰だ!? 誰が相手なんだ桃子!”とか“まさかユーノ君、君ではないよな、よな!?”とか“私、なのはに先を越される!?”とか“え? え? え?”などと実に騒がしい展開となった。

 もう完全に部屋の中にあった重い空気は何処かに吹き飛び、横で話を聞いていたアルフでさえも思わず苦笑いを浮かべてしまうほどであった。

 そんな皆の様子を見ながら、桃子は一人安心したような笑みを見せる。心の中で娘にばらしちゃってごめんね、てへっと呟きながら。

 

 だが、桃子のこの行動は結果として良かったのかもしれない。

 何故なら……。

 

「なの、は……」

 

 それが一人の少女を目覚めさせる切っ掛けとなる言葉となったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 流した涙の分だけ強くなれるなんて言葉は正直、私は嘘っぱちだと思う。

 だって泣いてるだけじゃ何も変わらないし、嘆いてるだけじゃ何も始まらない。

 何かを成したいのなら、まず自分が動かなくちゃいけない。

 

 流した涙を拭って立ち上がろうよ。後ろなんか向いてないで前を見つめようよ。

 ――――今という現実がどん底だっていいじゃない。

 今が底なら、後は這い上がっていくだけだよ。

 ――――先の見えない暗闇だっていいじゃない。

 先が見えないのなら、手探りで前に進んでいくだけだよ。

 

 進むべき道はきっと一つだけじゃない。

 現実は白と黒みたいに綺麗に別れてもいない。

 どれが正しいとか、どれが間違ってるとか誰にもわからない。

 けどさ、私は貴女にこれだけは言えるよ。

 ――――貴女は絶対に私が止めてみせる。

 

 

 激しく揺れる庭園。周囲に吹き荒れる突風。迸る落雷。

 そんな災害クラスの嵐の中に飛び込んだ私は、当然無傷とはいかなかった。

 それはバリアジャケットについている傷を見れば、一目了然だろう。だけど、それでも私の動きが止まることはなく、動き続けた。そう、こんなもので私は止まっているわけにはいかないのだ。

 

「こんのっ……!」

 

「っっ!!」

 

 立つべき床が徐々に崩れ始め、庭園崩壊のタイムリミットはどんどんと迫っていく。そんな最悪のコンディションの中、私とプレシアさんは再び杖を交えていた。

 私は彼女を止めるために。彼女は私を排除するために。

 それぞれの想いの向きは正反対ではあったけれど、多分、杖に込めた想いの大きさは同じだった。

 

「こんな終わり方で、貴女は本当に満足できるの!? 納得できるの!?」

 

 魔力弾の斉射後、愛機による鍔迫り合いが起こり、また激しく火花が散る。

 だけど、被弾ゼロのプレシアさんと数発被弾している私。どちらが優勢なのかはもう明らかだった。

 しかし、それでも少しも引くことをせず、私はただ真正面から彼女とぶつかり合う。

 

「全部を投げ捨てて、全部を置き去りにして、あるかもわからないものを追い求めて! 貴女は、それで幸せになれるって本気で思ってるの!?」

 

「……っっ…………」

 

 杖を交えながら、間近で私はそう声を張り上げる。

 ただ愚直に。ただ真っ直ぐに。ただ全力で。彼女に想いの丈をぶつけていく。

 ……少しでもこの人に私の想いが届きますようにと、願いを込めて。

 確かに逃げれば楽にはなれるんだろうとは思う。嫌なことから、見たくない現実から、理不尽なこの世の中から。逃げることが出来るのならば、誰だって楽になれるんだと思う。

 いや、もしかしたら貴女はこれを逃げだなんて思っていないのかもしれない。先を見ているって思っているのかもしれない。だけど、だけどさ……。

 

「それはただの現実逃避だよ! いい加減、目を覚まして! いつまで幻を愛しているつもりなの!」

 

 この人は求める力が大きくなり過ぎて、何かを愛することを忘れてしまっているんだと思う。いや、愛が変質してしまってるんだ。だから、ずっと幻を見ている。

 最愛の娘の万能の幻を自分で作って、ずっとずっと追いかけてる。

 ――――そんな生き方、哀し過ぎるよっ。

 

「っ、うるさいっ!」

 

 プレシアさんの声に共鳴するように、落ちてきた紫雷を間一髪で回避する。

 本当に驚くべきことに、プレシアさんはジュエルシードの魔力を不完全ながら制御していた。まぁ元より、ジュエルシードを使って旅立とうとしていたのだからこれくらいは当たり前なのかもしれない。けれど、今の状況でこれは凄く厄介だった。

 

『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ』

 

 少し距離を取って、対峙する。

 二人とも肩で息をしているのはご愛敬の一つだなんて内心で苦笑しつつ、私は頭を抱えていた。

 私単体VSプレシアさん+魔道炉+ジュエルシード。うん、それなんてチート。それは撃ち合いで競り負けるわけだよね、完全に出力で負けるわけだし。そして、それは要するに……。

 

「もう諦めなさい。貴女では私には勝てないわ」

 

「……そうかもしれない、ね」

 

 私の勝ち目は薄いって、ことだ。

 基本的に私ってば砲撃ゴリ押しタイプなわけだし、撃ち負けてしまう現状ではどうしたって決定力に欠けてしまうわけでして。あはは、マジで勝てる気がしませんよ。

 ……もう本気でカートリッジが欲しい。猛烈に欲しいよ。心底欲しいよ。

 本当、ここまで劣勢な展開もかなり久しぶりだと思う。お腹も鈍痛が全然引かないし、所々身体に火傷もあるし、血も出ちゃってるし。この状況、私は戦闘民族じゃないからワクワクなんて全然しないっていうのに、全く。本当、困った困ったな展開だよね、いや本気で。

 とはいえ、もう諦めるのかと言われれば、そんなわけないんだけど。

 

「でも、もう勝ち負けの問題じゃないんだよ」

 

 正直もう勝ち負けなんてどうでもいい。勝ち目が薄いとかもどうでもいい。

 どんな大層な理由を並べた所で、それは私が諦める理由にはならない。

 多分、此処に来た時のままだったら、私は簡単にやられてしまっていただろうと思う。此処に来た時、私は怒っていた。プレシアさんがフェイトちゃんにした仕打ちに激しく怒っていた。けど、恐らくそれだけでは今のプレシアさんの重い攻撃には耐えられなかったと思う。

 だって、私の怒りの感情とプレシアさんのアリシアちゃんへの執念だったら、確実に向こうの方が大きかったもんね。初めから想いの大きさで負けているんだもん。きっとちょちょんと呆気なくやられていたんじゃないかなって私は思うんだ。……でもね、今はそうじゃないよ。

 

「私はね。正直、貴女のことがあんまり好きじゃない。でも当然だよね。貴女はフェイトちゃんを泣かせるし、沢山酷いことするし、私のことを殺させようともしたんだもん。そんな人をすぐに好きになれるほど、私は人間出来てない」

 

「なら――――」

 

「だけど、私は思っちゃったんだよ。自分でも馬鹿だなぁって思ってはいるんだけど」

 

 そう言って私は思わず苦笑いを浮かべた。

 元より自分の頭が良いとは思っていなかったけど、此処までとは思っていなかった。まぁ、でも私の最終学歴は中学だもんね。しかも今では小学生だし、頭が良いわけがないじゃない。

 それに正直、今はあんまり頭が良くなくて良かったなとも思ってる。そのお陰で小難しいことなんて考えないで、ただ一直線に思ったように行動することが出来るのだから。

 

「ただの憎い敵だって思えれば、簡単だったろうね。力になりたいなんて考えなければ、楽だったろうね。でも、私は貴女を救いたいって思っちゃったんだ」

 

「っっ!?」

 

 ただこの人を助けたいって思った。

 ただこの人の力になりたいって思った。

 勿論、怒りの感情もまだ残ってるよ。それとこれとは別問題。

 だけど、今はこの人を助けたいって気持ちの方が強くなってる。だから、私はその気持ちのまま突き進むんだっ。

 

「だからその為だったら、私は勝てなくても戦うよ。偽善者だって罵られても良い。邪魔者だって嫌われても良い。……悪魔だって言われても構わない」

 

 呼吸を整え、しっかりと愛機を構え直す。そして、彼女を見た。私を何処か困惑したような表情で見ている彼女を見た。

 一人の友人として、あの子を泣かせたこの人の凶行を止めたい。

 一人の母親として、娘を亡くして苦しんでいるこの人の姿が見ていられない。

 一人の人間として、この人に優しい世界もあることを知って欲しい。

 そんな沢山の想いが私の胸に浮かんでくる。だからこそ、私は……。

 

「私は、私のエゴで貴女を救ってみせる!」

 

 ――――貴女をここで止めよう。

 誰に何と言われても。それがたとえ、間違った答えだとしても。

 

 


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