【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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~まだ魔法少女、続けてます~
第十七話。なのはさん(28)の休日


 

 PT事件が解決して早一ヶ月の時が過ぎた。

 穏やかな陽気の春も終わりを迎え、海鳴の地でもじとじとと湿った梅雨の季節が訪れている。そんな中、私はというと早朝からジャージ姿で見晴らしのいい高台の公園で訓練に勤しんでいた。勿論、周囲にバレないように簡易的な結界を張っている。

 

「次でラストだね。レイジングハート、いつものようにカウントをよろしく」

 

 愛機に声を掛け、私は宙に空き缶を放り投げる。

 缶の数は二つ。魔力弾の数は五つ。いつも訓練の最後にやる仕上げの様なものだ。

 

“97、98、99……”

 

「アクセル」

 

 ある程度回数を重ねた後は、弾速を上げる。

 缶と魔力弾が奏でる音のリズムが少しだけ速くなったが、まだまだこのくらいなら全然余裕がある。

 

“997、998、999……”

 

「アクセルっ」

 

 またスピードを上げた。此処から先はちょっとだけ難易度が上がるので、気が抜けない。案の定、僅かに力加減を間違え、高度が上がり過ぎてしまった。でも、まだ許容範囲。弾速はまだ視認できる。もう少しいけそうだ。

 

“4997、4998、4999……”

 

「アクセルっ!」

 

 桃色の影が嵐のように目標を屠っていく。

 最早、光弾は視認できず、二つの缶だけが空を舞う。自然と私の額から汗が滲んできた。

 

“……9997、9998、9999、10000、FINISH!”

 

「っ、シュートっ!」

 

 最後は五つを一つに集束させ、二つ同時に大きく弾く。

 落下する缶は回転しながら弧を描いて、目標であるゴミ箱へと二つともダイレクトゴール。思わず安堵のため息が出た。うん、最後は上手く決められたね。

 

「ふぅ~。……レイジングハート、採点は?」

 

“76点です”

 

「えー、ちょっと厳しめ過ぎない?」

 

 合格ラインは80点。つまり今日は不合格。厳しい愛機の採点に思わず、頬をむーとリスのように膨らます。ミスしたのは自覚しているけれど、もう少しくらい甘くつけてくれてもいいと思う。しかし、我が相棒は訓練に関してはとても厳しかった。

 

“昨日よりタイムも若干遅いです。ミスがなければ90点でした”

 

「むむむ、自覚しているだけに反論が出来ない。でも、何かレイジングハートがいぢわるな気がする……」

 

“いぢわるではありません、これは信頼です”

 

 そう言われてしまうとぐぅの音も出なくなる。私なら出来るという期待の裏返しでもあるとわかるだけに余計に何も言うことが出来ない。私ははぁ、と軽く溜め息を吐くとゆっくり柔軟体操を始めた。鍛練前と鍛練後の柔軟はとても大事。これをサボると後で泣きを見ることになってしまうのだ。

 二十代も半ばを過ぎるとね、色々大変なのですよ、うん。今は前よりも身体がポンコツだから念入りにしないとマジで地獄を見ることになるし……ぐすん。

 

「んんっ、ねぇレイジングハート、今日の朝ご飯は何か知ってる~?」

 

“詳しくは知りませんが桃子が昨日、鮭を冷蔵庫に入れていたので焼き魚ではないかと”

 

「ん~、そっか。なら、ちょっと急ぎ目に帰った方が良いかな。配膳の準備も手伝わないといけないし、ご飯より先に汗も流したいもんね」

 

“Yes, master”

 

 そう言いつつ、十分ほどの柔軟を終えた私は首元の宝石をちょんと指で弾いた後、我が家に向かってラストラン。まぁ、大袈裟にランとは言っても、ジョギング……いや、早歩きくらいのペースなことについてはノーコメントで。とまぁ、こんな感じで私の今朝の鍛練は終了を迎えたのであった。

 

 

 私の名前は高町 なのは。

 身体の怪我も漸く完治し、日々是鍛練を続けている普通の女の子。

 まぁ、フィジカル面についてはすぐには伸びそうにないので、ゆっくり改善していきたいなーなんて思っていたり。あはは、先は長いねぇ……。

 

「ふっふふん♪ ふっふふん♪ ふっふふん♪」

 

 早朝トレーニングという名のちょっとした鍛練(主に体幹トレーニングと魔力弾の誘導操作)を終えた後、汗を流した私は鼻歌を歌いながらタオルで身体を丁寧に拭いていく。

 朝からのシャワーって実は結構身体の負担になるからあんまり良くないらしいけど、このすっきりとした爽快感は何とも言えない心地よさだと思う。あとは冷たい牛乳でも飲めればオールオーケイって感じ。勿論、腰に手を当てることも忘れない。あっ、今、何かオジサン臭いなとか思った人は後で我が家の道場に来るといいよ、たっぷり可愛がって上げるから。

 

「あっ……」

 

 しかし、そんなご機嫌な私の気分は瞬く間に地へと墜ちることとなる。

 何食わぬ顔で脱衣所の扉をがちゃりと開けてきたのは、最近見慣れた我が家の居候くん。もとい、先日すっかり存在を忘れてしまったがために実家に帰れなくなってしまった哀れな小ネズミ君だ。

 まぁ、それは全くの嘘で、実際は発生した次元震の影響でミッド方面に転送できず、暫くの間、高町家に滞在することになったという経緯だったり。

 

「………………」

 

 さて。そんな話は置いておくとして、ここで本日のクエスチョン。

 身体を拭き終わり、下着を手にしている私は一体、どんな姿なのでしょうか。正解は、紛うこと無きすっぽんぽんなのでした。うん、やったね!

 

「あ、あの、その……」

 

 冷めた目をして無言の状態の私が怖かったのか。ユーノ君は顔を赤く染めながらも、何処かしどろもどろなご様子。激しくテンパっているのはわかるのだけど、正直私は言いたい。急いで外に出ようという選択に何故気がつかないの。いやまぁ、テンパってるからこそ、無理なのかもしれないけどさ。

 それにしても、こういう時はどんなリアクションをするのが正しいのだろうか。やっぱり悲鳴を上げるとか? その辺にあるモノとかを投げるとか? レイジングハートを握って砲撃を撃つとか? 何気に最後の奴が一番私らしい気もするけど、残念ながら自分の家の中で砲撃を撃つようなイカれた思考はしていません。

 

「す、すみませんっ! まさかなのはさんが着替え中だとは思ってなくてっ!」

 

「あー、そんなに気にしなくていいよ? うっかり鍵を閉めるの忘れてた私も悪いわけだし……」

 

「そ、そうですか、良かったぁ」

 

 私の寛容な言葉にほっと胸を撫で下ろすユーノ君。ぶっちゃけると、まだ一桁台の毛も生えてないような男の子に自分の裸を見られても特に何とも思わないっていう(ま、ユーノ君は二十年後もアレだったけれど)。それに今の私の身体は起伏もないペッタンコボディだもんね、見てもそんなに楽しくないだろうなとも思う。

 

「だけど、あれれ? 裸を見られても全然平気っていうと何か私が痴女みたいなのでは……?」

 

 私が痴女。私が痴女。私が痴女。やばい、想像してみたら何か普通に鬱ってきた。

 大体、痴女っていうのはフェイトちゃんやプレシアさんのことであって、私のことじゃないっ。

 だって私は脱いでも全然速くならないし、バリアジャケットも露出は少なめにしてるもん。確かにスカートで空とか飛んじゃってるけど、あれはちゃんと下からは覗けないようにしっかり調整してるから大丈夫だもん。中身も普通のパンツじゃないから平気だもん。とまぁそれは置いておいて、取りあえず今、私のやることは一つ……。

 

「ユーノ君の……ユーノ君の……エッチ――――!!」

 

「ちょっ、許してくれたんじゃ……あわわっ!!」

 

 十数個の誘導弾でエロ魔獣ユーノを素早く撃退。こうして乙女の心の平穏は守られたのであった、まる。ふぅ。それにしても、クロノ君だけじゃなくてユーノ君もラッキースケベ属性持ちだったなんて予想外……でもないね、もう遠い記憶だけど昔もなんかそんなことがあったような気がするし。

 う~ん、もしかして私の周りにはそういう男の子しかいないのかな。だとしたら、少しだけこれからは注意しないといけないかもしれない。何と言ってもこの麗しの肌はミっくんだけのものなのだから!

 そんなことを考えつつ、裸のままでいるのもアレなので私はゆっくりと服を着始める。そして、もし相手がユーノ君ではなく、ミっくんだったらどうなるのかをちょこっとだけ想像してみた。

 

 

 あの運命の出会いからもう四年。

 中学を卒業してミッドに移住したばかりの私は十五歳、対する彼は八歳(ショタミっくんっ!)。赤い糸に結ばれるように再び出会った私達は互いに重ねた月日の分だけ大きく成長していた。

 二人で再会を喜んだ私達はそれからもよく顔を合わせるようになり、いつしか自然と互いの家を行き来するようになった。そして、そんなとある日にちょっとした事件が起こる。

 

“ご、ごめんなさい。僕、なのはおねーちゃんがいるって知らなくて……”

“もうっ、ミっくん、ちゃんと確認しなくちゃダメだよ?”

 

 私がお風呂から上がった直後に脱衣所に入ってしまい、私の裸を見てしまった幼い彼はあたふたと慌てている。顔を赤くしてぺこぺこと頭を下げる彼にめっ! と優しく注意する私。内心では可愛い彼の反応に悶えてもいた。

 

“くしゅっ。ん、ちょっと身体が冷えてきちゃったかな”

“……本当にごめんなさい。僕、何か暖かいものでも用意するから……って、うわぁ!?”

“こうすれば寒くないね~。ん~、ミっくんって暖かいし良い匂いがする~”

 

 だけど、そんなことをしていると当然、裸な私の身体はどんどん冷えてくる。

 思わずくしゃみが出た私を見て、彼は申し訳なさそうに部屋を出ようとするが、その前に私は後ろから抱きしめた。冷えた私の身体を彼の少し高めな体温がじんわりと温めてくれる。

 

“な、なのはおねーちゃん!? な、なにを……”

“ん、あれれ? 何かお顔がさっきよりも真っ赤になっちゃったね。もしかして照れてるの?”

“て、照れてないよ!”

 

 首をブンブンと横に振って必死に否定してくるものの、彼の顔はリンゴみたいに真っ赤か。完全に照れているのは疑いようがない決定事項だった。そんな可愛い姿を見て、悪戯心の湧いた私が耳にふぅと息をかけると今度は身体をびくんとさせ、小さく縮こまってしまう。……そんな可愛い反応をされるともっと弄りたくなってしまうのは人として正しい感情だった。

 

“ふふふ。おねーちゃん、そういう可愛い嘘つき君にはキスしちゃおっかなぁ?”

“そ、そういうのはもっと大人になってからじゃないと、ダ、ダメだと思いますっ”

“へぇ。なら、大人になればしちゃてもいいの?”

“あうあう……”

 

 一々反応が可愛くて少しS気味になっている私。普段のM気味な私は何処かへ引っ越しました。それからも彼をたっぷり愛でつつ、いい頃合いに私は彼の耳元でそっと囁く。

 

“ねぇ、ミっくん”

“な、なに?”

“一緒にお風呂、入ろっか?”

 

 そして、二人は伝説へ……。

 な~んていうのはどうかな……えへへ。それから二人で洗いっこしちゃったりとかしたら、もう溜まらない! ミっくんの身体はこの私が隅から隅まで綺麗に洗ってあげますよ……当然、素手でねっ。やばいっ、油断すると鼻から熱い情熱とか愛が一気に噴き出てきそうだよ……でへへっ。

 頭をTシャツに突っ込んだまま、くねくねと動く私は絶賛へヴン状態。その後、朝食だとお母さんに呼ばれるまでの三十分間、私は完全に一人トリップしていた。何か途中で誰か入って来たような気がしたけれど、無論私のログには何もなかった。

 

 

 一時間後、私は何食わぬ顔で家族の皆と共に朝食を食べ終えた。何かお姉ちゃんの視線が妙に生温かったような気もするけど、気にしたら負けだと思う。ああ、ユーノ君も普通にご飯を食べてましたよ? 何か最近、耐久力と回復力が猛烈に上がっているらしいです。流石結界魔道師、侮れない。

 さて、朝食を終えたのなら、本来はこれから学校へと向かう時間になる。だがしかし、本日は華の休日、日曜日。全国の小学生は皆お休みなのだ!

 

「こういう時だけは小学生で良かったなぁって思うよねー」

 

 アイスを咥えつつ、ソファで寝っ転がりながら朝アニメをのんびりと眺める。珍しくアリサちゃんやすずかちゃんと遊ぶ約束もしていなかったので、本日は完全フリー。一人で外に出るのもダルイので、今日はお家でまったりゴロゴロモードでいく予定だ。

 ちなみにお母さんとお父さんはいつも通り翠屋でお仕事。お兄ちゃんは忍さんとデート。お姉ちゃんはお友達の家に遊びに行くとのこと。お兄ちゃんは肥溜めにでも落ちればいいよと素直に思う。

 

「なのはさん、何でこのロボットは武器がドリルしかないんですか?」

 

 朝食に使ったお皿を洗い終えたのだろう。濡れた手を布巾で拭きながら私の隣に来たユーノ君がそう尋ねてくる。ただ何もせずに居候させてもらっているのは忍びないという理由から、最近の高町家のお皿洗いはユーノ君の担当となっていた。子供がそんなに気にしないでもいいのにとも思うけど、まぁ、本人がしたいというのなら私は止める気はありません。

 

「男のロマンだからじゃないかな」

 

「えっ? ドリルって男のロマンなんですか?」

 

「そうらしいよ。確かドリル本体というよりもドリルに象徴される不退転の生き様、みたいなのが男のロマンなんだとかなんとか、前に誰かが言ってた気がする」

 

 ユーノ君に詳しく説明しながらも、私はあんまりドリルに魅力を感じてはいなかった。まぁ、私は女なので男のロマンが理解できるわけがないのだけれど。それに私はどっちかって言うとビームとか大砲とかの派手な方が好みだ。あっ。でも、個人的にライト○ーバーはブンブン振り回してみたい。ザンバー、私もやってみようかなぁ。

 

「生き様、ですか」

 

「ほら、ドリルって真っ直ぐにしか進まないでしょ? それがどんな窮地でも決して後ろには下がらず、己の信念を見失わないっていう男のあるべき姿の体現なんだってさ」

 

「なるほど。何か、なのはさんみたいですね」

 

「……それはどう意味なのかな、ユーノ君? 返答によっては色んなコースを私は用意しているよ、うん」

 

「いや、ほら。なのはさんって一度決めたら、迷わず一直線って感じじゃないですか。だから、なんか似てるかなーって……お願いですから、レイジングハートを起動させないでください!」

 

 ……まぁ、ギリギリで及第点かな。これで男らしい所です、何て言われたら私の愛機が迷わず火を吹いている。

 大体、麗しき乙女に向かってドリルと似ているとはどういうことなのかと小一時間。たとえ、思っていたとしても言ってはいけないことってあると私は思うよ、ぷんぷんっ。

 

「ねぇ、ユーノ君」

 

「??? なんですか?」

 

「……いや、なんでもないや」

 

 ユーノ君の中での私のイメージって一体どうなってるの? とは、流石に聞けなかった。

 べ、別に聞くのが怖いなぁなんて思ってないんだからね! 勘違いしないでよね! ……うん。久々にツンデレってみたけど、やっぱり私には合わないね、コレ。

 そんな事を考えて微妙な心境となった私は溶けかけのアイスをパクリ。溶け出して手に付いてしまった液体も可及的速やかにペロリと舐めとった。

 

「うわっ、ベトベトしてる。ユーノ君、ティッシュを一枚取ってくれない?」

 

「えっ? ああ、どうぞ」

 

「ん、ありがとう」

 

 バニラが付いてベタついた手を拭きとり、棒に巻きつけゴミ箱へドボン。綺麗に入ったことに満足しつつ、顔を向けるとアニメはもう佳境に移っているようで、ヒロインの女の子が魔法で大人の姿になる所だった。というか熱いロボットモノと可愛い魔法少女モノは相反すると思うんだけど……視聴率とか大丈夫なのだろうか? まぁ、最近は熱いバトル展開な魔法少女モノが多いっていう話だけどさ。

 

「そう言えば、なのはさんの大人モードって純粋なミッド式じゃないですよね?」

 

「うん、そうみたいだね。ぱぱっと感覚で組んじゃったから私もイマイチよくわかってないんだけど……」

 

 ごめん、嘘です。大人モードはまるっきりヴィヴィオの術式のパクリで、少しだけベルカ式が混じってます。けど、ここでベルカ式なんて私が知っているのはおかしいので絶対に言いません。

 レイジングハートに教えて貰ったっていう言い訳も考えたけど、完全にミッド仕様の彼女がベルカ式を知っているわけがないもんね。ちなみにクロノ君やリンディさんの追及も同じように言って誤魔化していたりする。

 

「……普通は魔法を始めて一ヶ月で新しい魔法を作るとか出来ないですからね?」

 

「あはは。その辺はこう、気合いとかやる気とかで意外と何とかなるよ?」

 

「いや、気合いって言われても……」

 

 じと目を送ってくるユーノ君に私は苦笑いを浮かべる。まぁ、普通はそう簡単に新しい魔法を組んだりは出来ないもんね。でも、スターライトブレイカーをリアルに一ヶ月くらいで組んだ私はそのことを教導隊に入るまで全く知らなくて、先任の教導官に思いっきり呆れられたという苦い記憶があったりなかったり。うん、あの頃の私は色んな意味で若かった。

 

「所でさ、ユーノ君は私が学校に行っている間はいつも何をしているの?」

 

 魔法の話は個人的にあんまり触れたくないので、私はすぐに話題を変えることに。それにユーノ君が我が家の居候になってもう一ヶ月くらい経つわけなのだが、私は普段彼が何をしているのかあんまり知らない。前に聞いた時は図書館によく行ってるみたいだったけど、今は変わっているかもしれないし。

 

「えっと、前と変わらず殆ど図書館に行っていますね。興味深い本も多いですし、お店の方のお手伝いは桃子さん達に断られてしまったので……」

 

 図書館、か。私にはあまり馴染みのない場所だなぁ。自由研究とかの調べ物とかで何度か行ったことがあるくらいしか利用してないし。これがすずかちゃんみたいな読書好きなら良く行くんだろうけど……。

 

「なら、あんまり街の方には行ってないの?」

 

「はい、そっちの方には基本的に行きませんね。前に歩いていたら、お巡りさんに声を掛けられましたから」

 

 あー。確かに平日の日中に小学生くらいの子がうろうろしていたら、声を掛けられるのは当然かもしれない。何か普通に馴染んじゃってるけどユーノ君って身分証とかもないわけだし、お巡りさんに捕まると色々と面倒なことになっちゃうのは確実だ。

 ん、あれ? でも、アリサちゃんやすずかちゃんと遊ぶ時はいつもフェレットモードになってるし、時間がなかったからジュエルシードの探しの時にも街の案内っていうのはちゃんとしてなかったよね。それってつまり、ユーノ君はあんまりこの街に詳しくないってこと? うわぁ、なんかちょっとだけ申し訳なく思えてきたかも。主に今までの扱いとか。それに確か居候もそろそろ終わりになるはずだし……うむむ。

 

「よし、ユーノ君っ!」

 

「は、はい?」

 

「今日、私とお出掛(デート)しよっか?」

 

「えっ……?」

 

 

 というわけで、急遽始まった私の独断と偏見による海鳴市案内。人はそれをただの思い付きな暇つぶしともいう。しかし、思い立ったが吉日、その日以降は全て凶日とも言うくらいなのだ。その言葉が正しければ、私の行動は間違っていない……はずである。

 

「ここから先が商店街。スーパーよりはちょっとお値段は高めだけど偶におまけしてくれるし、商品の質も結構良かったりするかな」

 

「向こうに見えるのが私の通ってる小学校。前にジュエルシードの封印をしに行ったから覚えているでしょ?」

 

「それでアッチがユーノ君が倒れてた公園。池にはカモ先生っていう偉大なる人生の先人がよく気持ちよさそうに泳いでるよ」

 

 それぞれの場所へと赴き、私は一つ一つユーノ君に説明をしていく。もう知っている所の方が多いかもしれないけど、一応念の為に全部していった。

 初めの頃は何か凄く緊張してあたふたしていた様子のユーノ君も今では笑顔を見せてくれているので、問題はないと思う。まぁ、何をそんなに緊張していたのかは謎のままだけど。

 

「そう言えば、レイジングハートと初めて会ったのもあの公園だったよね。レイジングハートは覚えてる?」

 

“当然です。あの日、私は私の運命と出会ったのですから”

 

 そう言えば、そんなことも言ったような気がするかも。だけど、初対面の人に“私が貴女の運命の相手だよ(きりっ”って、二か月前の私ェ……。多分、長年の愛機に会えてテンションが上がってたんだろうけど、その台詞は正直ないと思う。あーあー。何か自分のドヤ顔とかを思い出してきたら猛烈に恥ずかしくなってきたっ。なので、取りあえず……。

 

「あははっ、そんなことよく覚えてたね。嬉しいよ、このこのっ!」

 

 私は巧みな指捌きで胸元にある愛機を弄りまくることにします。

 ちょぴっとだけ私の顔が赤いのは、きっと太陽光線の所為だ。うん、そうに決まってるよっ。

 

“マ、マスター、だからそこは触っちゃダメだってあれほど……ひゃんっ!”

 

 ふふん、もう貴女の弱い所は完璧に熟知しているの。もっと良い声で啼かせてあげるから、覚悟するといいよっ! そんなことを思いつつ、弄る私の手は止められないし、止まらない。……少なくとも私の顔の熱が引くまでは止まってあげないもんっ。

 

「ははっ。相変わらず、二人は仲が良いですよね」

 

「もっちろん! 私とレイジングハートは唯一無二の相棒だもん! ね、レイジングハート?」

 

“はぁ……はぁ……。は、はぃ。その通り、れす”

 

「あ、あはは……」

 

 そんなこんなでわいわいと結構楽しく? 会話をしていく私達。

 当然、今日の予定は何もないので、私の案内はまだまだ続いていった。例えば、お昼に入ったよくあるファーストフード店で、新商品の激辛バーガーに悶絶したり。

 

「ゆ、ユーノ君、水を……。~~~~っ!?」

 

「な、なのはさん、大丈夫ですか!?」

 

「み、水が痛ひ……」

 

 ゲーセンの格ゲーでフルぼっこにしたり。

 

「ふふん、海鳴の殲滅姫と恐れられた私の実力を見せてあげるよ!」

 

「あ、あの~。僕、完全な素人なんですけどっ……うわっ、いきなりハメ技!?」

 

 逆にエアホッケーでフルぼっこにされたり。

 

「……むぅー」

 

「いや、そんなに睨まれても……何かごめんなさい」

 

 コイン稼ぎを狙ってやったパチンコが大フィバーしたり。

 

「流石、私の黄金騎士っ! 時代に輝いてるね!」

 

「これで28連……だと!?」

 

 シューティングゲームで協力プレイをしたり。

 

「なのはさん、左方から新たな敵増援を確認! 来ます!」

 

「りょーかい! こっちは私が抑えるよ!」

 

 兎に角、私達は遊びまくった。だけどプリクラだけは取らなかった。やっぱり初めて撮る男の子とのプリクラはミっくんと取りたいし、手帳とかに張ってにやにやしたいもん。個人的には携帯の電池の所もアリだと思うけど、アッチだと携帯は使わないので、泣く泣く却下の方向で。

 とまぁ、こんな感じで私の海鳴案内は終わりを迎えた。後半は殆どゲーセンにいたよーな気もするけど、気にしたら負けだと思う。

 

「なのはさん、今日はありがとうございました」

 

「別にお礼なんていいよ、私も久しぶりに外で遊べて楽しかったもん。ユーノ君も楽しかったかな?」

 

「はい、凄く」

 

「ふふっ、なら良かった。また機会があったら行こうね?」

 

 そんなことを笑顔で話しつつ、私達は我が家へと帰宅していく。

 ゴロゴロ寝て過ごす予定だった私の大事な休日が一日潰れてしまったけれど、ユーノ君が喜んでくれたならやって良かったかなと私は思えた。

 こうして私の貴重な休日は幕を閉じ――――

 

「あれ? もしかしてユーノ君?」

 

 ――――るはずだったんだ、そんな声が聞こえる前までは。

 声のする方に振り返ってみると、そこには五つの人影。

 その中心には周囲を最近家族になったのであろう騎士達に囲まれている、私よりも短めの茶色な髪の車椅子に乗っている少女。そう。彼女は私の同僚でもあり、仲間でもあり、親友でもある同じ歳の女の子。

 

「やぁ、はやて。図書館以外で会うのはこれが初めてだね」

 

 次の事件……闇の書事件の最重要人物で、闇の書の最後の主、八神 はやてだった。

 

 


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