【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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閑話。なのはさん小話集、そのに

~春のあけぼの~

 

 それはとある春の日のこと。

 特にこれといったイベントがあるわけでもない、普通の日のこと。

 平日なのでお仕事のある私は、普段通りに夜明け前の時間には起床していた。

 無論、朝ご飯とお昼のお弁当を準備をするためである。

 

「はぁ~あ……ねむぅ」

 

 小さく欠伸をしつつ、洗面所でぱしゃぱしゃと顔を洗う。

 春とは言ってもまだ朝の気温は少し低いし、水道の水も冷たい。まぁ、目を覚ますということに関しては、うってつけではあるけれど。

 完全に目が覚めた後は適当に身形を整え、下ろした髪を一つに纏めた私の足は台所へと向かう。

 こうして今日も朝から私の戦いが始まった……なーんていうと何かカッコよくない? とか思っているお馬鹿な私は、女真っ盛りの二十八歳。

 

「ん、あれ? 誰か居る?」

 

 台所へ行く途中、ふとリビングへと顔を向けると見慣れた金色の髪が私の目に留まった。

 我が家に金髪は二人いるけれど、娘の方は当然二階で夢の真っ只中。ということは此処にいるのは消去法でフェイトちゃんということになる。でも、私が寝る前には帰ってなかったし、深夜に帰って来たのかな?

 

「あ……おはよう、なのは」

 

「おはよう、フェイトちゃん。深夜の内に帰ってきたの?」

 

「ううん、たった今帰って来た所。だからただいま、にもなるのかな」

 

 私の言葉に軽く笑みを浮かべてそう話すフェイトちゃん。残念ながら私の予想は半分外れてしまったみたいだ。予想が外れたことをちょっとだけ悔しく思いつつ、台所に入った私はエプロンを付けて冷蔵庫を開けた。

 フェイトちゃんが帰っているのは予定外だったけど、二人分も三人分も作る手間はそんなに変わらない。三人での朝ご飯も結構久しぶりだし、ヴィヴィオも喜ぶだろうから、寧ろバッチコイな感じだ。うん、私もちょっと気合いを入れて料理しようかな。

 

「ああ、そうなんだ。それじゃおかえり、フェイトちゃん。今日はお休みなの?」

 

「うん、明後日までお休みなんだ。本当はお昼頃に帰ってくる予定だったんだけど、なのはの顔が見たいなって思って、急いで帰ってきちゃった」

 

 適当に野菜を取り出しながら、話を続けると返ってきたのはそんな言葉。

 普通に聞けば恥ずかしいかもしれないけど、そこはフェイトちゃんと付き合いの長いこの私。彼女がプライベートでは天然さんだということを嫌と言うほど知っているので、軽く笑って綺麗に流すことができる。

 

「くすっ、なぁにそれ? 私の顔なんて珍しいものでもないし、二日前に通信越しで見たよね?」

 

「まぁ、それはそうなんだけど……通信越しよりもやっぱり“生なのは”の方が良いに決まってるもん」

 

「いやいや、“生なのは”って……その表現はちょーとやめて欲しいなぁ。他にも“乾燥なのは”とか“増えるなのは”とかもあったら、何か私がワカメみたいじゃない」

 

 変な表現をしてくるフェイトちゃんに突っ込みを入れながら、私は先にお弁当の方を仕上げていく。とは言っても、昨夜の内に下準備は済ませているから、あとは切ったり焼いたりするだけなんだけどね。

 基本的に私が作るお弁当は見た目は可愛く、実はがっつりが構成テーマ。ちなみにヴィヴィオのより私のお弁当が少し大きめなのは、あわよくばミっくんに私の料理を食べさせようという乙女な心が発動している所為だったり。

 

「……なのはのワカメ、じゅるり」

 

「ん? ごめん、フェイトちゃん。よく聞こえなかったけど、何か言った?」

 

「何でもないよ。ただ、徹夜明けでちょっと眠いだけ……ふぁ~あ」

 

 包丁の音で声がよく聞こえなかったので、聞き返してみたけれど特に問題はないご様子。

 ちらりと見てみると手を口に当てながら小さく欠伸をしているようだし、さっきのワカメがなんとかっていう声も欠伸の時に出た声だったんだろう。

 ……何か妙に悪寒を感じたような気がするけど、それは意図的に無視。

 

「徹夜なんかしちゃ、身体に良くないよ?」

 

「ん~。でも、なのはやヴィヴィオと一緒に朝ご飯を食べたかったし……」

 

 そう言われてしまうと私からは何も言えなくなる。

 確かに皆で一緒にご飯を食べた方が美味しいし、そんな理由で頑張って徹夜してくれているのもちょっとだけ嬉しく感じちゃうもんね。

 元々あんまり朝に強くない癖に無理しちゃって~なんて思いつつ、苦笑いを浮かべた私は片手間に作っていたホットミルクをフェイトちゃんにそっと差し出した。

 

「はい、眠気覚ましのホットミルク。ちょっぴりお砂糖多めの私味」

 

「ありがとう、なのは。ん、おいし♪」

 

 眠そうなフェイトちゃんは両手でそれを受け取ると、ゆっくりと口をつける。

 感想はそのほっこりとした笑顔を見れば十分。ちょっとした満足感を感じながら、私はまた調理へと戻った。

 

「あっ、そう言えばね。この前、本局ではやてに会ったよ?」

 

「はやてちゃんかぁ、最近、直接は全然会っていないなぁ……元気にしてた?」

 

「うん、凄く元気そうだったよ。幸せそうに惚気られちゃった」

 

「あはは、あのリア充め……」

 

 それから私達は他愛のない話をしながら、時を過ごした。

 ヴィヴィオのこととか、お仕事のこととか、知り合いにあったこととか。そんな他愛のない雑談をしながら私は料理をしていく。途中でフェイトちゃんが手伝おうか? と聞いてきたけど、それは遠慮しておいた。流石に徹夜明けのお疲れモードの人に料理をさせるほど、私は鬼畜ではない。まぁ、その代わりに夕飯はフェイトちゃんが作ってくれることになったんだけどね。

 

「ねぇ、なのは」

 

「んー? なにー?」

 

 しかし、そんな何処か穏やかな時間は突然終わりを迎えることとなる。

 お弁当の方を作り終わり、今度は朝食の準備へと取り掛かっている私に、フェイトちゃんが少し重みのある声で問いかけてきた。

 

「なのはは……今、幸せ?」

 

「えっ……?」

 

 包丁の動きを止め、思わずフェイトちゃんの方へと私は振り返る。

 だが、さっきまでの笑みを浮かべていた彼女の姿はもうそこにはない。

 今はただ、私の方を見つめる何処か真剣な表情だけがあった。

 

「なのはは今、幸せだって思ってる?」

 

 その問い掛けに少しも戸惑わなかったと言えば、嘘になる。

 当然だ。いきなりな上にイマイチ質問の意味もピンと来ないし、その意図もよくわからないのだから。けれど、フェイトちゃんの目と声が真剣なものだったので、私も真面目に答えるべきなのだと思った。

 

「――――私は幸せだよ」

 

 今が幸せかと問われれば、私の回答はこれ一つ。

 大切な誰かが傍にいてくれる当たり前な日常って、きっと幸せなものだと思うから。とはいえ、本気でそれを理解しているかと言われるとちょっと微妙なのかもしれないけどね。 

 

「仕事の方も特に問題なく楽しくやってるし、ヴィヴィオもちゃんと育ってくれてるもん。うん、私は幸せなんだって胸を張って言える」

 

 ……まぁ、本音を言えば恋人がほしーです、とは流石に言わなかった。

 今はふざける場面ではないってことくらい私にもわかっている。それにミっくんとの仲だって、実は少しだけ進展していたりするのだ。

 えっ? 一体どのくらい進んだんだ? こ、この前、ほんのちょっとだけどミっくんと手を繋げたもん! お前は中学生かよ、という突っ込みは既に愛娘にされているので、ノーセンキューの方向でお願いします。

 

「……そっか、ならいいんだ。いきなり変なことを聞いてごめんね?」

 

「それは別に構わないけど……フェイトちゃん、なにかあったの?」

 

 私の答えを聞いて安堵したように息を吐いたフェイトちゃんは、さっきまでの柔らかな笑みへと戻っていた。ただ、私はどうしてこんな問いをしてきたのかが少しばかり気になっている。

 ――――安堵の表情の裏にほんの少しだけ不安の色を感じたのは、私の気の所為なのかな。

 

「ううん、何もないよ。ただ私も今が幸せだなぁって思っただけ」

 

「それならいいんだけど……何かあったら相談してね。私は親友の力になれないほど、落ちぶれているつもりはないから」

 

「ふふっ。ありがとう、なのは。でも、本当に聞いてみただけなんだ。何でもないから、安心して?」

 

 そう言って、フェイトちゃんは私に笑顔を向けてきた。

 まだ少し気にはなっているけど、何でもないと言われたら更に突っ込んで聞くことは出来ない。

 う~ん、事情はよくわからないけど、フェイトちゃんの担当する事件で何かあったのかな。やっぱり執務官だと色んな種類の事件に関わっているだろうし、精神的にちょっと疲れているのかも。

 

「それよりも私、お腹が空いちゃったよ。なのは、朝ご飯はまだ出来ないの?」

 

「うん、もうちょっとで出来るよ。あ、ヴィヴィオを起こして来てくれると嬉しいな」

 

「わかった。なら、起こしてくるね」

 

 精神的な問題だと結局は自分次第だから、私がどのくらい力になれるのかはわからない。

 だけど、せめて家の中くらいはフェイトちゃんにゆっくりしてて貰いたい。美味しいモノを食べて、のんびり休息が取れれば少しは元気も出るはずだもんね。

 そう心に決め、朝食の仕上げに入った私は気がつかなかった。

 

「……ねぇ、なのは」

 

 私の後ろでフェイトちゃんがもう一度だけ振り返っていたことに。

 そして、ぽつりと言葉を漏らしていたことに。

 

「私はいつまで、この家にただいまって言っていいのかな?」

 

 私は一生、気がつくことが出来なかった。

 

 

 

 

~Ex-ep2 白き亡霊~

 

 

 なのはママがこの世から去って、もう一年の時が過ぎた。

 お墓を荒らした犯人は未だ捕まっておらず、何の情報も入ってはいない。

 一時期は私の周りも凄く騒がしかったけれど、それも今は落ち着いて来ている。

 そんな中で、私こと高町 ヴィヴィオはというと……。

 

「さてと。それじゃ、ヴィヴィオ。午前の訓練を始めようか」

 

「はい、先輩っ! 今日もよろしくお願いします!」

 

 なのはママの作った隊に入隊し、日々激しい訓練に励んでいた。

 教導隊という一線級のエース集団の中でも、その実力が極めて高いと言われている隊。

 時空管理局本局武装隊 航空戦技教導隊第6班、通称高町ヴァルキリーズ。

 今の私はその隊の新人で、一番の下っ端である。

 

「ほら、もっと動いて! 身体だけじゃなく、頭も動かして! 判断はもっと素早く!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「そうやってすぐに立ち止まらないっ! 続けてもう一発いくよ!」

 

「はぁ、はぁ、は、はいっ!」

 

 新入りの私の指導を担当してくれているのは、なのはママの彼氏さんだったミっくん。普段は凄く穏やかで優しい人なんだけど、教導の時は人が変わったように厳しくなる私の先輩。ちなみにミっくんっていうのは、なのはママが彼に付けた渾名だったりする。

 

「よし、これでお終いだね。お疲れ様、ヴィヴィオ」

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……あ、ありがとう、ございました……」

 

 訓練終了の知らせを聞くと同時に、私は地面の上に倒れ込んだ。

 学生時代もトレーニングはしていたけれど、やっぱり本職は訓練濃度がケタ違い。当然、私との実力も向こうが断然上で、唯一自信のあった体力も完全に負けていた。実際に私の訓練を終えたミっくんは今も息を切らしていない。 

 

「う~ん、やっぱり最後に模擬戦はきつかったかな。でも、ここだとそれが伝統だから諦めてね?」

 

「……うぅぅ、なんて嫌な伝統。一体、誰がこんな伝統なんかを……って、もしかして……?」

 

「うん、なのはさんが決めたらしいね」

 

「なのはママェ……」

 

 ――――よぉし、最後に模擬戦しよっか♪

 うん、なのはママが笑顔でそう言っているのが簡単に目に浮かんできた。

 大体、笑顔でそんなことばっかりしているから、いい年になっても彼氏が出来なかったんだよ。スバルさん達もあの時の笑顔は若干トラウマだって言ってたし。

 

「はい、息はもう整ったみたいだけど、水分補給もちゃんとしておこうね」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 身体を休めながら私が亡き母のことを思っていると、ミっくんがドリンクとタオルを渡してくれる。汗を拭き、ドリンクを飲むとレモンのほのかな酸味と蜂蜜の優しい甘さが口の中に広がった。実はこのミっくんお手製ドリンクが訓練明けの私のささやかな楽しみになっていたりする。

 

「……ふぅ、つ~か~れ~た~」

 

「あはは、本当にお疲れ様。でも、大分良くなったよ?」

 

「本当ですか? 全然、先輩には勝てる気がしないんですけど……」

 

「それはまぁ、僕は先輩だからね」

 

 私の言葉に笑ってミっくんはそう言ってくる。

 悔しいけれど、この人に私は本気で勝てる気がしない。というか、この隊の人で私が勝てると思える人がいない。

 必死に裏を掻こうとしても、寧ろ私の成長を楽しんで笑みを向けてくる人の集まりだもん、ここ。正直、あの独特な笑顔で私の攻撃を軽く討ち破ってくるのは、止めて欲しいと切に願う。なのはママが特殊かと思ってたけど、基本的にこの隊の人は似た様な感じだった。

 それにしても、よくなのはママはこの人を彼氏に出来たよね。身長は少し低めだけど、容姿は良い上に、家事やらなんやら出来ないことが少ない位に何でも出来るし。うん、心底不思議だ。家でのなのはママを知っているから格別にそう思う。

 

「ねぇ、ミっくん。ミっくんはなんでなのはママと恋仲になったの?」

 

「……これはまたいきなりな質問だね、ヴィヴィオちゃん」

 

 だからだろうか、気がつけば私はそう問いかけていた。

 本当は傷口を抉るようなことをしてはいけないと思うけど、一度は聞いておきたかった質問でもある。ちなみに先輩ではなくミっくんと呼ぶのは、プライベートな質問だからだ。 

 

「んー、一つ一つ挙げていくとキリがないんだけど……一番は笑った顔が好きだったかな?」

 

「笑った顔?」

 

「そう。あの人の笑顔を見てると何かこっちも自然と笑顔になっちゃうんだ。上手く口では言えないけど、元気をくれるというか、明るくなれるというか。そんな不思議な力があったかな」

 

 そう言って、ミっくんは何処か遠い目をしていた。

 もしかしたら私のお父さんになったかもしれない人は、いつもはもっと明るくて頼りになるのに、今はちょっとだけ弱々しく見えた。……まだ一年しか経っていないのだから、それも当然なのかな。

 

「兎に角、あの人の笑った顔が大好きだったよ。もっと近くで見ていたいって思ったし、僕がもっと笑わせてあげたいって思った。それがあの人と恋仲になった理由だよ」

 

 でも、この人は知らない。

 なのはママの本当の死因をこの人は知らされていない。

 あの事件はガス漏れによる悲しい事故死として世間に公表されていた。

 理由は色々あるらしいけど、私は局員が無理心中をしたという凄く大きなスキャンダルを隠したかったからじゃないかと思っている。

 正直、あの事件の後の私は余裕が全くなくて、気が付いたらそうなっていたという感じだったから本当の所はよくわからない。アレ以来、ハラオウン家の人達とは疎遠になっているから尚更である。

 

「ヴィヴィオちゃんはあの人によく似ているね。笑った顔がそっくりだよ」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん、少なくても僕はそう思うな」

 

 本当は真実を伝えるべきだと私は思ってる。

 葬儀の時に自分のことで一杯一杯だった私に、優しく声を掛けてくれたこの人には伝えるべきだと思ってる。でも、それははやてさん達に止められてしまった。知らない方が良いこともある、と。

 それで結局、一年が経った今になっても私は彼に伝えられていなかった。

 ――――きっと私は怖がっているのだ。

 本当のことを知った時にこの優しい人が壊れてしまわないかが、怖いのだ。

 

「さて、と。そろそろ昼食にしようか? あんまり遅くなると食堂も込んじゃうからね」

 

「……っ、うん、そうだね。何だか私もお腹が空いちゃったな」

 

 一度ぱんと拍手を打つと、ミっくんは瞬く間に普段の柔らかな表情に戻っていた。

 既にその顔からはさっきまでの哀愁のようなものは微塵も感じられない。

 この辺の切り替えの速さも私は見習うべきなのだろう。

 

「ヴィヴィオちゃんは今日は何を食べるの?」

 

「んー。今日はお米の気分かも?」

 

 そんな会話をしながら、私達は食堂へと向かっていく。

 いつか彼に伝えられる日が来るのだろうかと、自分の胸に問いかけながら。

 そして、その日は遠い日のことではないと、不思議と確信していながら。

 

 この数日後、事件は起こる。

 次元世界を揺るがす様な大きくて、悲しい事件が起こる。

 始まりは一つの大きな情報が私達の元に届けられたことからだった。

 

 

 

「襲撃、ですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

 とある日の午後。

 午前の分の訓練を終えた私とミっくんは、我が隊の隊長から急遽呼び出しを受けた。

 そして、そこで聞かされたのはなのはママの遺骨に関わる事件の情報。

 

「どうやら幾つかの管理世界に点在していた部隊が突如襲撃に遭ったらしいの。そして、これがその時の映像よ」

 

「っ、これって!?」

 

 モニターに映ったのは少しだけ不鮮明な映像だった。

 だけど、それでも私にはわかる。いや、見る人が見れば誰でもわかる。

 白いバリアジャケットに桜色の魔力光。顔はバインダーで隠れてはいるけど、見間違えのない栗色の髪のサイドポニー。そして、何よりもその戦闘スタイルは……。

 

「なのは、ママ……!」

 

 見つけた。ようやく手掛かりを見つけた。

 思わず、私の握る拳に力が入る。それは漸く手掛かりを見つけたことによる歓喜とやっぱり利用されてしまったという悲嘆。その二つが混じりあったためにした行動だった。

 そんな私の姿をミっくんと隊長の二人は暫し見つめ、少しの間を置いて話を続ける。

 

「そう、誰がどう見てもなのはさんよね。そして、それが一番の問題なの」

 

「……なるほど」

 

「えっ?」

 

「ほら、あの人って局員なら誰でも知っているくらい名前も姿も有名だったでしょ? だから、局員の士気が下がりに下がりまくちゃって、非常にあわわ~な感じらしいの」

 

 説明されると簡単に理解できた。

 さっきも言ったようにアレがなのはママだということは誰にでもわかるのだ。

 ――――あのエースオブエースが敵に回った。

 その事実だけで、局員達の士気を下げるのには十分。それだけなのはママの戦歴は有名だし、その存在は大きい。

 

「なんでも“白き亡霊”なんて呼び名もついたらしいわね。本当、皆そういうの好きよね~」

 

「“白き亡霊”」

 

 強ち間違っていないのがまた何とも言えない気分になる。

 自分の大好きな母親がそんな呼び方をされていることも、悲しく感じてしまう。

 それにこの映像のなのはママは十中八九……クローン体。

 

「それで僕達が呼び出された理由を聞いてもいいですか?」

 

「あっ、そうだったわね。何か対策チームを作るから出向せよ、だってさ。上の偉~い人からの招集だから断る権利は当然なし♪」

 

 考えれば考えるだけ暗くなっていく思考は隊長に告げられた言葉を聞いて、一旦頭の片隅へと追いやった。

 対策チーム。そこに入れれば、私もこの事件が追える。上からの招集っていうのがどうも妙な予感がするけど、この際その辺は無視でいい。

 

「……僕だけじゃなく、ヴィヴィオもですか?」

 

「う~ん。正直、私もまだ早いと思うのだけど……」

 

 ただ、隊長とミっくんは私の出向には反対のようだ。

 まだこの隊に入ってからそんなに経ってもいないし、私はまだまだ未熟なのだ。それも当然だと私でも思う。

 

「私、やります! いいえ、私にもやらせてくださいっ!!」

 

 だけど、ここで引き下がるわけには絶対にいかない。

 折角見つかった唯一の手掛かりなのだ。私はこの時のために局入りしたと言っても過言ではない。

 大体、なのはママのお墓を荒らした犯人を見過ごすなんてことが私に出来るはずがないじゃない。

 

「と、後輩は言っているわけなんだけど、どうする? 指導先任さん?」

 

「……………………」

 

 隊長の言葉を受け、悩むように顔を顰めたミっくんに私は真剣な目を向けた。

 悩む彼の気持ちがわからないわけではない。正直、かなり危険な事件だということは嫌でもわかるし、あの人の娘である私の事を心配してくれているもの凄く良くわかっている。

 でも、今は退けない。ここで退いたらどんな結果になっても絶対に後悔してしまうから。

 

「……わかりました。できるだけのフォローはします。それに決定事項なんですよね?」

 

「まぁね。元々、出向命令は二人に来てるわけだし~」

 

 小さくない溜め息を吐いた後、ミっくんは渋々了承した。

 あっけらかんとした隊長の様子にまた溜め息を吐いている所から、苦労人の気質も窺える。

 今更訂正する気は微塵もないけど、ちょっとだけ申し訳なかったかなと私は思った。……今度、何か奢ってあげよう。

 

「ヴィヴィオ。多分、僕と一緒に動くことが多いだろうから、ちゃんと指示には従ってね?」

 

「はいっ!」

 

 ぴんと指を立てて言い聞かせるようにそう言ってくるミっくんに、私は元気よく返事をした。

 こうして、私達二人は連続襲撃事件の対策チームへと出向することとなる。

 未だ見えぬ敵への憤りや、体験したことのない事件に対しての小さくない不安もあった。だけど、それ以上の大きな決意がある。

 そんな様々な想いを胸に秘め、私は前へと進んでいこう。

 そう心に誓うと私は、もう一度だけ強く拳を握りしめた。

 

 


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