【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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第二話。なのはさん(28)の憂鬱

 私の名前は高町 なのは。

 極々、平凡な普通の28歳の女性で……した。

 でも気が付けば、8歳児。何処からどう見ても8歳児。もうね、あれだよ。発狂するとかそれ以前に……寝込みました。

 

 朝から猛烈な衝撃を受けたあの日、何故か小学三年生に戻っていた私は丸一日寝込んだ。もう何もかもがショック過ぎて、布団から一歩も出られなかった。せめて後一日、後一日くらいはリア充生活を送りたかった……。うん、私の気持ちはこの一言に全てが込められていると思う。後一日あれば、私の親友(と書いてリア充と読む)達に惚気爆撃とか、惚気砲撃とか、惚気集束砲とか出来たのにっ! ヴァルキリーズの皆の前で、あ~んとかしながらお弁当を食べれたのにっ! ああ、私のバラ色生活が…………。

 

 そんなことをベットの中で考え続け、静かに枕を濡らしていた私を見て、お母さん達は皆凄く心配そうだった。だけど、ごめん。今の私に皆を気遣う余裕は存在しないの。そう誰かに言い訳しながら、色々と湧き上がる想いを堪えて一日中布団の中で過ごしました。……この日が日曜日で本当に良かったと思う。

 

 そんな人生最悪の日曜日が終わり、次の日。そう月曜日。

 私は高町 なのは、28歳は今から小学校へと通わないといけないのです。……正直、気が滅入る所の話ではない。

 

「なのは、もう大丈夫なのか?」

 

「何処も具合悪くない?」

 

「うん、もう元気だよ」

 

 しかし、これ以上は家族に心配を掛けるわけにもいかない。本音を言うのなら、あと一週間は寝込んでいたいけど……。そんなことを思いながら、私は少し懐かしい高町家の食卓をぼんやりと眺めてみる。

 

「う~ん。やっぱり桃子の料理は最高だな~」

 

「もう、士郎さんったら!」

 

 あれれー? 何故か私のフォークがへし曲がっちゃったよ、えへへ。

 どうやら今日から私もエスパーの仲間入りを果たしたようです。うん、そう言えばそうだったよね。この家の皆は、見ているこっちが砂糖を吐くような桃色真拳の遣い手ばっかりだったよね! もう完全に記憶の底に沈めていたよ!

 昔の私はこの光景を見て、自分だけが浮いているなぁなんて思ってたけど、はっきり言おう。おかしいのは私以外の皆だ、と。

 

「いやいや、本音だよ。こんな美人の料理上手な奥さんを貰えて、俺は幸せ者さ」

 

「ふふふ。私も貴方と一緒で幸せよ」

 

 ……うん。でもまぁ、お父さんとお母さんは許そう。大変遺憾ではあるけれど、百歩譲って許そうと思う。

 二人は夫婦だしね、うん。仲が良いことは悪いことではないよ、うんうん。

 ただしお兄ちゃん、テメェはダメだ。大体、もうこの頃には忍さんと付き合ってたはずだよね、この未来のマダオ……もといヒモ野郎。

 え? あれはボディーガードだって? いいえ、あれはヒモだって皆も言ってました。

 

「ほら美由希、リボンが曲がってるぞ」

 

「あっ……ありがとう、恭ちゃん」

 

 何も気にした様子もなく、自然な動作でリボンを直してあげるお兄ちゃん。

 そんなお兄ちゃんの行動に、少し顔を赤くしながら嬉しそうにしているお姉ちゃん。

 うん。何処からどう見ても普通の兄妹ではありません、本当にありがとうございました。……でも、この頃はまだお姉ちゃんも幸せそうだなぁ。

 

 こうして今はまだ見ていられるけど、二十年後は本当に酷い。

 二十年後、アラフォ―になっても独身だったお姉ちゃんは……もうね、目がやばいの。カップルを見る目が異常なの。そして、最終的にはお兄ちゃんと忍さんの息子を……げふんげふん。とまぁ、そんな未来のお姉ちゃんではありますが、私は大好きです! 唯一、自信を持って言えることがあるとすれば、お姉ちゃんが居たから私は頑張れた! あれだよね、自分よりも下の人が居ると安心できるよねー。

 勿論、そんな事を本人に言ったら眼鏡を外して斬りかかって来るから、口が裂けても言わないけど。

 

 

 さてさて。そんな楽しい? 食卓を終えた私は学校の制服に身を包み、バス停で待機。待っている間にも、私の気分は急降下の道を辿り続けています。

 

「おはよーございます」

 

 ようやくやって来たバスの運転手さんへの挨拶も、こんな風に凄く適当なものだった。きっと20年前の私なら、もっと元気よく挨拶をしていたことだろう。だけど、今の私には無理。精神的に無理。マジで鬱なの。

 大体、朝から両親と兄妹の砂糖を吐くような桃色攻撃を食らったばかりなのだ。テンションが上がるはずがないじゃない……。

 

「おはよう、なのは」

 

「おはよう、なのはちゃん」

 

「うん。二人とも、おはよー」

 

 幼き姿の親友達に笑顔で挨拶をしつつ、気分は未だ超ダウナ―。

 ……正直、これからのことを思うと、かなり憂鬱だった。

 

「?? 何か元気がないわね?」

 

「なのはちゃん、どうかしたの?」

 

 当然、そんな私を見て、不思議そうな顔をするアリサちゃんとすずかちゃん。

 此処で昔の私なら何でもないよって言って、二人を余計に心配させるんだけど……今の私は違う。もうそんなに純粋な私ではない、穢れきった大人なのだ。

 

「……うん。昨日、夜遅くまでゲームしちゃってたから、少し寝不足なんだ……」

 

 見よ、この華麗な言い訳を。勿論、眠そうな表情を作るのは忘れない。これなら何処からどう聞いても嘘には聞こえないはずだ。でも、大人になると言い訳ばかり上手くなるなんて、この頃は考えもしなかったなー。

 

「もう! ちゃんと寝なくちゃ駄目じゃないっ!」

 

「大丈夫? なのはちゃん?」

 

 そんな風に幼き自分を思い出して、遠い目をしている私。

 アリサちゃんの注意もすずかちゃんの心配の声も、半分くらいは耳から通り過ぎていました。

 

「うん。大丈夫だよ、すずかちゃん」

 

「はぁ……。ま、着いたら起こしてあげるから、少しでも寝てなさい」

 

「ありがとう、アリサちゃん」

 

 うん、こんな汚れた私には二人の純粋な眼差しが酷く堪えるよ。そんなことを思いながら、私は学校に到着するまでタヌキ寝入りすることにしたのであった。

 

 

 学校に着けば授業がある、それは当り前のことだ。学生の基本は学業、それは世界の常識である。だが、そんな授業も今の私には拷問に他ならない。

 

 

 算数の時間。

 授業中に当てられた私は、黒板にすらすらと計算式を書いていく。かなり昔のこととはいえ、一度はやったことのある問題だ。しかも小学生レベル。当然、間違えるはずもなくて……。

 

「はい、高町さん。大正解です! 皆、拍手!」

 

 こうして先生の褒められ、クラスの皆から大袈裟な拍手まで頂いてしまいました。本当にやめて! もうこれ以上、私のSAN値を削らないで! そんなことを内心で叫びつつ、私は笑顔で席へと戻っていく。

 

「凄いね、なのはちゃん!」

 

「むぅぅ。なのは、やるわね……」

 

「にゃはは、偶々だよ」

 

 親友達からの賞賛の声に、私は少し顔を引き攣らせながらお礼を述べた。

 ……もう本当に勘弁してほしい。

 

 

 体育の時間。

 大人になってからは、大分克服した私の運動嫌い。というか、この頃の私は運動神経が擦り切れてるとしか思えない。だから、今も……。

 

「行くわよ、なのは!」

 

「っ……痛っ」

 

 アリサちゃんの投げたボールを避けることも出来なかった。別にボールが見えないわけではない。寧ろ、魔法弾の速度に慣れ切っている私にとっては遅すぎるくらいの速度だ。ボールの入射角度からボールの通る道筋だって、はっきりとわかるのだ。なのに、このポンコツな身体は少しも思うようには動いてくれない。ぴくりと少し動いただけで、あとは完全に棒立ちである。……心底、この身体になったことが嫌になった。

 

「大丈夫、なのはちゃん?」

 

「ごめん、なのは。大丈夫?」

 

「にゃはは、速くて避けられなかったや」

 

 心配して駆け寄って来た二人に、私は手を振りながらそう返し、外野へと回る。そして、ボールが飛んで来なさそうな場所まで歩いて行って、思いっきり溜め息を吐いた。……やばい。小学校ってこんなに苦痛なものだったっけ?

 

 

「――――そう言うわけで、皆さんも何か将来にやってみたいことを見つけるのも良いかもしれんませんね」

 

 道徳の時間。

 そんな先生の言葉を最後に、午前中の授業が終了した。

 はっきりと言おう、私はあと三年も小学生をやれる自信が全くない。ああ、砲撃がしたい砲撃がしたい砲撃がしたい砲撃がしたい砲撃がしたい……。壊れたラジオのように、心の中でリピート。うん、自分でも結構、末期だなって自覚している。

 

「なのはちゃん」

 

「お昼だから屋上に行きましょ?」

 

「えっ? ……ああ、うん」

 

 そんな私の所に親友達からお昼の御誘いがあった。持ってきたお弁当を取り出し、私達は三人で屋上へと向かう。

 

「なのはちゃん。もしかして、まだ具合悪い?」

 

「うん……何か今日はダメみたい」

 

「もう夜更かしなんてするからよ! 今日は帰ったら、早く寝ることね」

 

 お昼を三人で食べながら、そんな話をする。どうやら、まだ朝の言い訳が通用しているようだ。でも、明日からはどうしよう。はぁ、また何の別の言い訳を考えないと……。

 

「さっきの先生の話だけど、二人は将来の夢とかってある?」

 

「私は、機械系に興味があるから大学の工学部に入りたいかな?」

 

「そう言えば、すずかはそういうの好きだったわよね~。忍さんの影響?」

 

「ん~そうかも。まぁお姉ちゃんは少しマッド過ぎる気もするけど……」

 

 明日から使う言い訳を考えている間に、話題は将来のことについてへと変わっていた。そう言えば、昔にもこんな話をしていた覚えがある。

 昔、私は何と言っていたのだったっけ?

 

「アリサちゃんは何なの?」

 

「私はパパの会社を継がないといけないからね、経済学部って所かしら?」

 

「ははは、帝王学とかも必要そうだね」

 

 ……今更ながらに心底思うんだけど、これってどう見ても小学生の会話ではないよね。もっとほら、二人ともケーキ屋さんとかお花屋さんとか言ってても良い年齢だよね。この頃の私を含めて、ちょっと精神的に大人過ぎないかな? と私は思う。

 

「なのはは、やっぱり翠屋の二代目?」

 

「ふぇ? んー、私は……」

 

 アリサちゃんに話を振られ、私の将来か……とふと考えてみる。

 だが、その答えはすぐに出た。ううん、最早一択しか答えは残っていないのだ。

 

「私、高町 なのはは幸せなお嫁さんになります!」

 

『えっ?』

 

 多分、今日で一番元気良い声が出たと思う。

 ちらりと親友二人の様子を窺うと、二人とも驚きで表情が固まっていた。でも、私はそんなことは気にしない。一度上がったテンションはそう簡単には下がらないのだ。

 

「見晴らしのいい場所に綺麗な白い家を建てて、大きな犬を飼うの。子供は二人、女の子と男の子!」

 

「あ、あははは……」

 

「そう、なんだ」

 

 私の途轍もなく大きな夢に二人は動揺を隠せない。

 ふふふ、だがそれも仕方のないことだ。自分でも叶えられる自信など無いのだから! というか、自分の灰色な未来を知っているから余計にだ……!

 

「それで、休日は家族皆でピクニックとかに行って……」

 

 女の子はヴィヴィオで、旦那様は彼で。男の子は彼と私の子供。子供達が遊んでいる所を私と彼が二人で笑いながら、見ていて……やばい、何か凄くいい。

 

「でも、偶に旦那様と二人っきりでデートにも行ったりもしちゃって……えへへ」

 

 いけない、想像し出したら何か止まらなくなって来た。頬も完全に緩みっぱなしだ。でもいいよね、想像するのはタダなんだもん。幾らでも想像してあげるよ!

自分で言ってて何か悲しくなっても来たけど……全部無視。

 

「ア、アリサちゃん。なのはちゃんが……」

 

「……ええ、あれは完全に壊れてるわ」

 

 結局、昼休みが終わるまで私は妄想の中にいた。当然、そんな私を見て、二人がそんなことを言っていたとは知る由もないことだ。

 

 

 

 そんなこんなのテンションのアゲサゲが激しかった学校もようやく終わった。二人と別れて家と帰還し、お風呂に夕食を終えた私は自室のベッドの上で考え事をしている。

 無論、これからのことについてである。どういう訳があって今の状況になったのかは全くわからない。だけど、このままだと私はまたジュエルシード事件や闇の書事件に巻き込まれると思う。

 いや、勿論無視しても良いのだろうけど、腐っても私は二十年近くも局員をしていたのだ。危険なロストロギアを放っておくという選択肢を私は取ることが出来ない。そもそも、闇の書事件に関してはきっと無条件で関わってくる。それに、やっぱり魔法は私にとって無くてはならないものでもある。

 ならば、昔のようにどちらの事件にも関わっていく方が良い選択だと思えた。となると、残る問題は……。

 

「ユーノ君は別にどうでもいいとして、はやてちゃんも焦る必要はない。となると、フェイトちゃんはどうしよう……」

 

 仲の良い親友だったフェイトちゃん、彼女の最後に見た姿が忘れられない。

 あの綺麗な目に狂気の光を宿して、私は刺してくるフェイトちゃんの姿は今でも鮮明に思い出せる。

 でも、どうしても私はフェイトちゃんのことが嫌いにはなれなかった。だって、当然だよ……。

 

「私達は親友なんだもん、ね」

 

 多分、もっとフェイトちゃんと話をしていれば良かったんだ。

 私が彼と仲良くなってから、フェイトちゃんの様子が少し変になったのはわかっていたのだから。もっとちゃんと向き合えば良かったんだ。そうしたら、あんなことにはならなかったのかもしれない。

 

「はぁ……」

 

 思わず、重い溜め息が出た。正直、少し落ち込んでいる。話し合いはとても大事だってわかってたはずなのに、私はまた失敗しちゃった。でも、同時に一度失敗しちゃったからもう次は失敗しないと決意もする。

 

 これからはもっと良い方に考えていこうと思う。多分、この不思議な現象は神様が私にやり直しの機会をくれたんだ。もっと早く私にバラ色の人生を歩めって神様が言っているんだよ! とはいっても、私の彼氏は彼以外に選択する気はないから……よしっ決めた!

 

「ささっとPT事件も闇の書事件も解決して、早くミッドに行こう!」

 

 私はそう心に決めると思わず立ち上がり、窓を開ける。窓から見える空には沢山の星が輝いていた。そんな空に向け私は宣言する。

 

「絶対に彼とのバラ色人生を私は取り戻してみせるっ!」

 

 そしてその後、夜中に五月蠅いよと家族皆に怒られた……。

 でも、私は負けない……! 私の栄光をこの手に掴むまではっ!

 

  


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