【ネタ】逆行なのはさんの奮闘記   作:銀まーくⅢ

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第二十三話。なのはさん(28)の開幕

 そこは全てが砂で覆われた無人の世界。森もなく、海もなく、建造物もなく、あるのはただの砂の山。僅かに赤みの強いベージュ一色のみで構成された殺風景な世界だった。

 乾いた風が吹き、少女の頬へと砂が当たる。それに少なくない煩わしさを覚えるも、敢えて意識さえ向けなければどうということもなかった。味気ない風景を静かに眺め、鉄槌を肩に乗せた少女は一人佇む。その足元には昏倒させた大型の魔獣が横たわっていた。

 

“――――Sammlung.”

 

 何の感慨も浮かべていない表情で闇の書を開き、魔力を蒐集させる。その動作は最早ただの作業でしかなかった。昏倒していた魔獣の呻くような声が聞こえてきたが、何ら思うところも浮かんでこない。

 それなりの速度で書の頁が埋まっていき、今日もその分だけ闇の書の完成へ近づく。だが、少女は決して現状に満足してはいなかった。

 

「ちっ、たったのこれっぽっちかよ。でかい図体してやがる癖にしけてやがるな」

 

 魔獣からの蒐集が終わり、書を確認してみれば埋まっていたのはたったの三頁。その労力に対して対価がまったく見合っていなかった。体躯の大きさと魔力量が比例しないのは何も珍しいことではないが、思わず悪態をつく言葉が零れてしまう。

 

「……焦っても仕方ねぇんだろうけど、やっぱこんなんじゃ効率が悪過ぎる。なんかもっと良い方法はないのか?」

 

 蒐集の量と手間を考えると、魔獣より魔導師や騎士の方が遥かに効率は良い。仮に高ランクの魔導師ならば、一人で何十もの頁を一気に埋めることができるはずだ。現に過去の蒐集の際は魔導師や騎士を狙って蒐集することが多かった。

 しかし、今回はその方法をあまり取ることが出来ない。勿論、蒐集は最優先事項だが、蒐集後の主との未来も重要なのだ。

 ――――はやての未来のために闇の書は完成させる。でも、決してその未来を血で汚すことだけはしない。

 それは既に主の命を破ってしまった騎士達の誓いであり、譲れない矜持だった。逆に言えば、人殺し以外ならなんでもやってやるという強い意志の表れでもある。故に少女は考えた。露見すると面倒な管理局に出来るだけバレないようにするためには、彼らの目の届かない場所。即ち、管理外世界で蒐集していくべきだ、と。そして、管理外世界の人間ならもっと効率良く蒐集することも出来るはずだ、と。

 

「でも、そんな都合の良い奴が簡単に見つかるわけ――――いや、一人いるな」

 

 脳裏に浮かんだのは、リンカーコアの保有者が少ない管理外世界で希少な魔力量を持っている栗色の髪の少女のこと。自分達の主の友人であり、自分とも知り合い以上の関係にある人物のことだ。彼女から蒐集できれば恐らく二十頁は固い。それは先日見舞いに行った時に確認もしている。だが、少女には少なからず葛藤があった。

 

「………………っ……」

 

 それはあの少女が主以外で初めて仲良くなった同年代の子だったから。

 あのいつも阿呆みたいに笑いながら、自分に構ってくる少女を傷つけたくなかったから。

 蒐集の時、必ず激しい痛みが生じる。それは痛みに耐性の低い者なら下手をすれば死んでしまうほどのモノが。だからこそ、彼女が高い魔力を保持しているとわかってからも手を出すことはなかった。手を出す気はなかった。他の騎士達も何も言わなかった。

 

 ――――だけど、はやての状態は日に日に悪化していっている。

 

 最近よく深夜に起き出して、胸を押さえている主の姿が浮かんだ。

 誰にも心配をかけまいと声を殺し、一人で痛みに耐えている主の姿がどうしても頭から離れてくれない。

 

「……はやての為なんだ。全部終わったら絶対詫びを入れる。気の済むまで頭を下げたっていい。それでアイツが許してくれるかはわかんねーけど……それでも、あたしははやてが大事なんだ」

 

 あの優しい主のことを想えば、自分の些細な葛藤などどうでもいいことだ。今、優先すべきは闇の書を完成させ、主の病を治すこと。それ以外は全て些事でしかない。

 だから、彼女が自分を許してくれなくてもいい。嫌われてしまうのは残念だし、悲しいことだけれど、慣れてもいることなのだから。

 

「――――いくぞ、アイゼン」

 

“Einverstanden.”

 

 鉄槌の騎士は静かに行動を開始した。

 ――――だが、この時の彼女はまだ知らない。

 知り合いの少女が魔導師であることも。少女の他にも魔導師があの街にはいることも。彼女達の行動が本当に主の為になるのかも。そして 、これから先に何が待ち受けているのかも。

 この時の彼女はまだ何も知らなかった。

 

 

 

 私の名前は高町 なのは。

 ぴょこんと跳ねるツインなテールがトレードマークの文化系少女Aです。

 さて、そんな私は只今リハビリの真っ最中だったりする。まぁ、内容はそんなに大袈裟なものじゃなくてトレッドミルを使って、ただ走っているだけなんだけどね。ああ、ちなみに服装は動きやすいように薄いピンク色のジャージを着用中。ついでに黒いマスクで鼻と口を塞がれております。

 

 えっ? 黒いマスクとかお前、なんか不審者っぽくね? う、うん、そう言われちゃうとちょっと否定できないかも……で、でもでもっ、これってスポーツ用の結構良い奴なんだよ? 花粉とか埃とかほぼシャットアウトしてくれる優れモノだし、デザイン的にも所謂オシャレマスク? と言えないこともないよーな気もするし。

 それに飽く迄これは簡易的な高地トレーニングを行うために付けているのであって、私の趣味とかではありません。高地環境で持久性トレーニングをするとね、相乗効果で全身持久力が増大するんだよ! 血中の赤血球とか筋肉内のミトコンドリアとか数も増えて……うんたらかんたら。んんっ、兎に角! これはちゃんとした訳があってのことなのです!

 

「……はぁ……はぁ……はぁ」

 

 そんな誰ともわからない人達への言い訳を考えつつ、私はせっせかとランニングを続ける。しかし、そこに始めた当初の勢いや清々しさは微塵も感じることができなかった。ランニングフォームは既に崩れ始め、表情も僅かに苦痛に歪んでしまっている。

 

 軽いペースでたったの二キロほど走っただけなのに、もう完全に息切れ状態。勿論、それはマスクをつけているという弊害があったわけなんだけど、それにしたってこの有り様は“酷い”という言葉しか浮かんではこなかった。リハビリを始めて約一ヶ月、私は現状に僅かながら焦りを感じてしまっている。

 

「……はぁ、はぁ……ダメだ、こんなんじゃ、全然ダメ、なんだっ」

 

 ただ単純に筋力の問題だけならば、まだ何とかできた。間接などに負荷が多少掛かってしまうけれど、魔力で身体強化したり、大人モードを使ったりなど、対処する方法がないわけではなかった。

 

 ――――だけど、根本的な体力の問題だけはどうしようもない。

 

 元より魔導師に最も重要なのは魔力でも小手先の技術でもなく、身体の持久力。即ち、体力だったりする。これはスポーツ選手や格闘家などにも言えることだけど、生身で戦う魔道師は身体が一番の資本なのだ。

 戦闘というある種の極限状態の中で、いかに適切な魔法を選択し、的確な行動を取れることができるか。冷静な判断を下すにはまず集中力がいる。そして、集中力を長く持続させるためには最低限の体力が必要なんだ。勿論、直感や経験も重要な要素ではあると思う。だけど、それ以前にちょっと動く度にぜぇぜぇ言っている奴がまともな戦闘行動を取れるわけがない。

 

「……っ、ぷはぁっ。はぁはぁ、はぁはぁ……!」

 

 流石に呼吸が限界に近くなってきたので、ランニングを続けながらマスクを顎の下までずらし、新鮮な空気を必死に取り込む。滝のように溢れてくる汗とバクバクと鳴る鼓動の音は、うざったいので全部無視してやった。この程度のことでへばってなんかいたら、魔法戦なんて夢のまた夢。そもリハビリの意味すらなくなってしまう。

 

 ……私はこんなことでへこたれるわけにはいかない。こんな所で足踏みしているわけにはいかない。最低でも今日のノルマと決めた五キロくらいは絶対に走り切ってみせる。

 

 病院の先生達にはもう何度もやり過ぎだとかもっとゆっくりでいいからとか色々言われているけれど、それでも私はやめるつもりなんてなかった。この程度で歩みを止めてなんかいられない。無理は禁物? オーバーワーク? ふん、上等だよ。道理なんてものは無理を通せば引っ込んでしまうもの。人にはやらなきゃいけない時っていうのがあるの。レイジングハートもない今の私にできることは、身体を出来るだけ元の状態まで戻すことしかないのだから。

 

「…………はぁ、はぁ、はぁ……っっ」

 

 それから約十五分後、どうにかこうにか私はノルマの五キロを走り終えることができた。トレッドミルの機能を停止させ、満身創痍といった様子でふらふらと近くにある休憩用の椅子へと向かう。そして、用意していたタオルを手に取ると私は椅子にぐったりと座り込んだ。

 

「……今の状態だと、本気モードは良くて十分。全開モードなら持って三分くらい、か」

 

 荒い呼吸をゆっくり整えつつ、自分の身体の状況を少し考察をしてみる。リンカーコアの調子は悪くない。軽く誘導弾を作っても痛みもないし、何の問題もなく使用可能だ。というか寧ろ絶好調過ぎて、怪我をする前よりも出力が上がっているような気すらする。まぁ、負傷からのパワーアップなんて漫画に出て来そうな現象がこのTHE・一般人! な私に起こるわけがないから、それは単なる気の所為なんだろうけどね。

 

 次に身体の方だけど、コッチはまだ私が満足いくほど回復しているわけじゃなかった。ベッドの上でこっそり筋トレをしていた効果なのか、元から筋力が全然なかったからなのかはわからないけれど、筋力は六割方は戻ってきている。でも、一番肝心の体力の方はまだまだ全然だ。なんとか戦闘することは可能だと思うけど、連戦なんて絶対に無理だし、アレで意外と体力の消費が激しい大人モードなんか使用したらきっと三分も持たない。……本当、ウルトラ○ンもびっくりの短さだ。

 

「――――三ヶ月、か。別に舐めていたわけじゃないけど、こんなに痛いとは思わなかったな」

 

 そんな言葉と共に小さくない溜め息が零れた。この前、看護婦さんにちらっと聞いた話だと、本来なら寝ていた期間の三倍くらいリハビリに費やさないと自立した行動は取れないらしい。となると、私の場合なら単純計算で九ヶ月。そう考えたら、魔力的な要素が関与したとはいえ、約一ヶ月でここまで動ける状態に回復できたことは喜ばしいことなのだろう。

 

 少し状況は違うけど、あの撃墜事件の時だって完全復活まで半年くらいは掛かったわけだし、それに比べればかなり速い回復スピードだってことは、私も重々理解している。

 

「だけど、今はのんびりしている時間はないんだ。もう蒐集も始まっているみたいだし、クリスマスまであと一ヶ月しかない。そして何より、目的のわからないあの子達のこともある」

 

 脳裏に浮かぶのは私を撃墜したあの三人組のこと。正直な話、目的や行動指針がはっきりしているヴィータちゃん達よりも彼女達の方が厄介だと思う。言ってしまえば、彼女達は私にとって最大のイレギュラー。その存在も目的も行動も全てが不明だ。その所為で彼女達がこれからどういう行動を取っていくのかを予測することも難しい。

 

 まぁ、あちらも私に何か思うところがあるみたいだから、待っていればその内向こうからやってくるかもしれないけれど……。

 

「でも、そんなの待ってなんていられないよね。あの子達には聞かなきゃいけないことが山のようにあるんだから」

 

 自然とタオルを握る手に力が込められた。そして、胸の奥から少しだけ強い感情が溢れてくる。自分でも理由は良くわからないけれど、何故かあの私にそっくりな子のことを考えると妙に落ちつかない気分になる。焦りを感じるというか、危機感を覚えるというか。あの子にだけは絶対に負けたくないと敵対心が募ってしまう。

 その所為か今の私はヴィータちゃん達のことよりも、あの子達の方へと意識の大半を向けてしまっている。

 自分でも少しは自覚しているのだ。今の私は優先順位がずれてきている、と。

 

「……とにかく、来週にはフェイトちゃん達の裁判も終わるんだ。そうしたら、レイジングハートも帰ってくる。だから、私が動くのはそれから。……今はまだ我慢する時なんだ」  

 

 思考をなんとか切り替え、近くにあった自販機で飲み物を買うと私はそれを煽るように飲み始めた。本当は温めの奴をちょびちょび飲んだ方が良いらしいけれど、そこを敢えての一気飲み。これはある種の気分転換であり、八つ当たりなのだ。

 瞬く間に缶の中身を飲み干し、アルミ缶をべこっと握り潰すとちょっと遠いゴミ箱へとシュート。開け口が大きいから外れようがなかったけど、それでも上手くゴールすれば気分が僅かに持ち直った。うん、私って意外と単純な奴なのかもしれない。

 

「――――よしっ、今度は柔軟してから筋トレ擬きだね。ファイトだよ、私っ!」

 

 私はむんと体を伸ばし、自分にエールを贈った。

 うん、今日も頑張って~いきまっしょいっ!

 

 

 

 

 それから数日後の夜のこと。

 夕食の時間を終え、消灯までの時間をのんびりと過ごしていると、突然世界が変革したかのような感覚を覚えた。途端にひと気の全く無くなってしまった病院内。ベッドの上で寝っ転がっていた私は少し気だるげに身体を起こし、背後の開いている窓の方へと言葉を投げかける。

 

「――――夜に女の子の部屋に無断で入ってくるのはマナー違反だよ?」

 

「………………ちっ」

 

 背中越しに小さな舌打ちが聞こえてきた。

 私はゆったりとした動作で振り返り、侵入者へと目を向けると……思わず戸惑いの声を上げてしまう。

 

「え、えーと?」

 

 そこにいたのは、赤いゴシックでロリータな服装の小柄な人物。帽子にアクセントとしてついているのろうさなど、もう完璧に誰だかわかるその人物は何故か目の周囲を隠すだけの妙な仮面をつけていた。いや、一応仮面をつけている理由はなんとなくわかる。私とは直接面識があるわけだしね、変装のためにつけたんだろうなってくらいは予想できる。でもね、私は声を大にして問いたい。

 なんでその仮面をチョイスしちゃったの!? 変装ならもっと色々やり様があるよねっ!? というかこれはアレなの? ゴスロリ仮面、一体何者なんだ……とか私に言って欲しいの!?

 

「へ、変態さん、なの……?」

 

「誰が変態だ! 誰がっ!」

 

「いや、だってそれ……」

 

 夜に窓から侵入してくるゴスロリ仮面を変態以外の何と呼べというのか。幾ら同僚兼仲の良い友達だからって、これは流石にフォローしきれないよ。つーか、私のヴィータちゃんに対する信頼とかイメージを本気で返して欲しい。

 おふざけキャラや天然キャラなどのキャラの濃いメンバーの中にいる、とても希少な常識人枠だったのに……これじゃあ、常識人枠が私だけになっちゃうじゃないっ。

 

「変装の時は仮面って昔から決まってんだろーが! それにこれは古来よりベルカに伝わる伝統的な仮面なんだよ!」

 

「そ、そーなんだ」

 

 仮面を馬鹿にされたと思ったのか、激怒するゴスロリ仮面の言葉に私は顔を引き攣らせながら頷く。

 で、伝統なら仕方がない、のかな? それによく見てみれば、なんか蝶々みたいな形で結構可愛く見えないことも……ごめん、やっぱ無理。

 私も某臓物が飛び出ちゃったアニマルとかって結構好きだったから、ヴィータちゃんの好きなのろうさの可愛さっていうのはまだなんとなく理解できるけど、その仮面の良さは全くわからない。というより、リアクションに凄く困るから本気で止めてほしい。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 それから暫し無言で見つめ合う、私とゴスロリ仮面。時刻は八時のゴールデンタイムの真っ只中である。正直、私達は一体何をしているんだろう? って本気で悩みました、まる。

 だけど、このままじゃあ話も進まないので、私から話を切り出してみることに。

 

「それで今日は私にどんな用があるの? 個人的にクリスマスにはまだチョーとばかり早いような気がするのですが……」

 

「いや、別にサンタってわけじゃねーから。プレゼントとかねーから」

 

「えー。でもでも、服だって赤いしー。靴下の用意はまだしてないんだけど、今からでも間に合うかな?」

 

「だからあたしはサンタじゃねーって! てめぇ、本当はわかってて言ってるだろ!?」

 

 何となくヴィータちゃんがここ来た理由はわかっているけれど、とりあえず普段通りにからかってみる。うん、このボケると中々良いテンポで返ってくる突っ込み。まだまだ錬度は足りていないけれど、いいセンスだよ。ヴィータちゃんの伸びしろにおねーちゃんは凄く期待しています。

 

「あはは、ごみんごみん。あっ、でもその服可愛いね。凄く似合ってると思うよ」

 

「お、おぅ、サンキューな。って違う違うっ!あーもうっ、いつもなんか調子狂うんだよな、こいつ!」

 

 ヴィータちゃん、地が出てる地が出てる。褒め言葉にちょっと照れ臭そうにしている姿は可愛いと思うけど、声とかは全く変えていないんだから、もっと上手くやらないとバレバレだって。私がちゃんとお約束ってやつを理解しているから何も言わないけど、これが空気読めない人だったらもう大怪我しちゃってるところだよ?

 

「ええいっ。穏便に行こうと思ってたけど、もういい! こーなったら、さっさと終わらせるっ!」

 

 私と話をしていても埒が明かないと思ったのか、ヴィータちゃんはアイゼンを起動させた。そして、そのままこちらへと向け、一度だけ目を閉じると――――

 

「……ちょっとだけイテーかもしれねぇけど、我慢しろよ!」

 

 ――――そう言って、鉄槌を振り下ろした。

 それはヴィータちゃんの本気を知っている私からすれば、明らかに全力ではないとわかる緩い一撃。恐らく魔導師ではない私を気絶させるために弱めた攻撃なのだろう。だが、デバイスはなくても私は魔導師だ。こんな緩い一撃くらいは防ぐことが出来る。

 

「――――――っ!?」

 

 私の前に現れた桜色の障壁がヴィータちゃんの攻撃を完全に防いだ。

 自分の攻撃を防がれたことに目を大きく開き、驚いた様子のヴィータちゃんだったが、反射的に後退すると私から距離を取った。

 仮面越しでも彼女が混乱しているのがわかる。それはそうだろう。ただの魔力を持っているだけの少女と思っていた相手が、魔道師だったのだから。

 

「お前、魔導師だったのか……?」

 

「……………………」

 

 それは困惑と動揺が混じったような声だった。だけど、私はそれに答える言葉を持っていない。

 ……本当ならここは黙って蒐集されても良かった。レイジングハートもない現状で戦ってもヴィータちゃんに勝てる可能性は限りなく低いし、後々闇の書の話をする時にも負い目から耳を傾けてくれやすくなるだろうなんて打算も浮かんだ。いや、一層のことここで蒐集を条件に闇の書の異常を話しても良かったかもしれない。

 しかし、だ。ここで蒐集されてしまうと私は暫く魔法を使えなくなってしまう。明日にはフェイトちゃん達がレイジングハートを持ってきてくれると言うのに、またお預けになってしまう。今の私はとてもじゃないけど、それに耐えられそうになかった。

 

「……いや、コッチだって色々と黙ってたんだ。あたしらが文句を言う資格はねぇか。けど――――」

 

 ヴィータちゃんの目が明らかに変化したのがわかる。今までの親しい者に向けていた瞳が一瞬だけ哀しみ色に変わり、すぐに戦う者のそれへと変わった。

 騙していたわけではない、なんて口が裂けても言えない。当然、罪悪感もあった。だけど、ごめんね、ヴィータちゃん。私、ただ待つだけなのはもう我慢の限界なんだっ。

 

「――――もう遠慮する必要はねぇな!」

 

 先程よりも鋭く降り下ろされた迷いのない一撃。

 それはヴィータちゃんにとって、私が完全に敵となった証でもあった。

 振り下ろされた鉄槌を今度はバックステップで避けると、私は牽制のために魔力弾を放つ。

 

「んなもん、効かねぇよ!」

 

 だが、それは蠅を払うかのようにアイゼンを一振りされ、瞬く間に全て掻き消されてしまった。そして、ヴィータちゃんはそのままお返しと言わんばかりに、私へと鉄球型の魔力弾をアイゼンで打ち付けて飛ばしてくる。

 っっ、無詠唱じゃ牽制にもならないみたいだねっ。

 

「――――――っ!」

 

 鉄球と障壁がぶつかった瞬間、鉄球が炸裂。

 激しい閃光と共に爆発を起こし、私の視界を遮った。

 しかし、ヴィータちゃんの攻撃はまだ終わってはいない。

 

「オッラァァァア!!」

 

 咆哮と共に私へとヴィータちゃんが吶喊してきた。

 まともに受けても耐えきれないと素早く判断を下し、私は大きく後方へと飛ぶ。

 振り抜かれた横からの一閃。当然、大した準備もなく張った障壁は脆くも砕け散り、私も吹き飛ばされた。だが、吹き飛ばされている最中、私は呪文を口にする。

 

「――っ、リリカル・マジカル! 福音たる輝き、この手に来たれ。導きのもと鳴り響け! ディバインシューター……シュートッ!!」

 

 少々非効率的ではあるが、呪文を紡げは僅かに威力を上げることができる。それは愛機のいない今の私にとって、とても重要な要素だった。空中で体勢を整えつつ、壁に足を向けて着地。ヴィータちゃんへと指先を向け、十数個の誘導弾を撃った。

 

「…………っ!」

 

 更に追撃を加えようとしてた向かってきていたヴィータちゃんは、至近距離から放たれた誘導弾に少しだけ驚いたような顔を見せる。しかし、そこは冷静に追撃を止め、障壁を張ることで何なく防いでいた。

 詠唱ありなら牽制が出来ることを確認した私は病室から撤退しつつ、時間を稼ぐためにもう一つのトリガーを紡ぐ。

 

「バースト!」

 

 その言葉と合図に残っていた誘導弾が全弾爆裂する。

 直接的なダメージにはとてもなりそうにないが、目くらまし程度の効果は十分あるだろう。とは言っても、それは本当に僅かな間だけのこと。この稼いだ時間の内に私は探さなければいけないものがある。

 

「……うっ、これしか使えそうなヤツはないのかな。剣とか槍なんて上等なモノは端から期待してはいなかったんだけど……」

 

 自分の病室を抜け出し、近くにあった部屋で私は武器の代わりになりそうなモノを物色し始めた。身体強化をしているとはいえ、このポンコツの身体では拳でガチンコなんて無理過ぎる。アイゼンと打ち合えるモノがここにあるとは到底思えないけれど、何もないよりか幾分かマシなはずだ。

 

 えっ? だったら、打ち合わなければ良いじゃないかって? あーうん。そう出来るのなら私もそうするんだけどね、元々私って回避型じゃないからちょっち厳しいんだ。一応近接対策が全くないってわけじゃないけど、それにしたって何かしらレイジングハートの代わりが必要になるわけで。それに回避しまくっていても、多分すぐにスタミナ切れで詰んじゃうという罠。えへへ、実は私、普通にピンチだったり。

 

「うん、もうこれでいいや。あとは――――っ!?」

 

 結局、一番始めに目に止まったヤツを選び、私はもう一度気合いを入れ直した。しかし、その最中に大きな魔力反応を感じ、慌ててその場を退避する。

 ――――瞬間、私がいた部屋ごと大爆発が起こった。

 

 

 

 

 

「……あー、少しやり過ぎちまったか?」

 

 自分の攻撃で一部が大惨事な病院を見て、ゴスロリ仮面……んんっ、ヴィータちゃんはバツが悪そうに頬をかいていた。どうやら目くらましを受け、まんまと逃げられたことにちょっと腹が立っていたらしい。

 そんな彼女の少しばかり上空には、左手に薄茶色の布で包まれた新たな武器を持った白い戦闘衣の少女……つまり、私が安堵の息を吐いていた。

 

「……ふぅ。バリアジャケットが間に合わなければ、即死だったの」

 

「――――っ! ちっ、無傷かよ」

 

 私の声を聞いて、即座に此方に鋭い視線とデバイスを向けてくるヴィータちゃん。

 そんな彼女に対して私はぽんぽんと身体についた埃を払いながら、にやりと余裕の笑みを向ける。……内心で冷たい汗を掻いていたのはここだけの秘密だ。

 

「ふふん、あんな攻撃じゃ私に傷をつけることは出来ないの。だけど、あの範囲攻撃はちょっとやり過ぎじゃないかな」

 

 本当はかなりギリギリだった癖に軽口を叩く私、プライスレス。

 ぶっちゃけた話、あと少しでも退避するのが遅かったら私は確実にノックアウトされていたと思う。しかし、そんなことは億尾にも出さず、平然とした表情を私は浮かべた。いや、浮かべていなければならなかった。ただでさえ、色々と不利な条件が揃っている状況で精神的な余裕まで失ってしまったら、私の勝機は完全になくなってしまう。

 

「さてと、それじゃあ始めようか。第二ラウンドの開幕だよっ!」

 

 新たに手にした相棒(仮)をドンと構え、私は周囲に発生させた十を超える数の魔力弾を放った。先程は牽制すらならなかった詠唱なしの魔力弾。だが、それも個々ではなく数個を集束させてぶつければ、多少は有効なものとなる。だが、ヴィータちゃんは向かってくる魔力弾を避けや受け流し、払いなどを駆使しながら、どんどん距離を縮めてきた。

 

「テートリヒ・シュラーク!」

 

 気合いの入った声と共に回転をつけた横薙ぎの一撃が私を襲いかかってくる。恐らく無手のままだったならここで障壁を張り、その盾ごと吹き飛ばされていたことだろう。けれど、今の私には頼りになる相棒(仮)がいるのだ。こんな一撃、怖くなんてない!

 

「…………っ!」

 

 お腹の底から息を吐き、相棒(仮)を両手で握り締めた私はその一撃を見事防いでみせた。……うん、大丈夫だったみたいだね。本当は一発で壊れるんじゃないかって内心ビクビクものだったけれど、この感じなら問題なく打ち合えそうだっ!

 

「お返し、だよっ!」

 

 アイゼンを力一杯押し返し、お返しに魔力弾を至近距離からお見舞いする。残念ながら全弾避けられてしまい、怒涛のような連撃が返ってきた。だが、私はそれを打点を少しずつ受け流し、上手く捌いていく。金属同士がぶつかったような高い音が何度も響き、周囲に火花が散る。そして、今一度大きく相棒(仮)とアイゼンをぶつけ合い、私達は同時に距離を大きく取った。そして、今度は空中を舞台に高速戦が始まる。

 

 

『――――――ッ!!』

 

 夜空に二色の魔力光が走り、デタラメな曲線を描きながら激しくぶつかり合った。

 逃げるように先を行く桜色と後を追従するかのように動く赤色。二色は絡み合うように衝突を繰り返す。両者の攻防はほぼ互角。しかし、それぞれの表情はかけ離れたものだった。

 

「はぁ、はぁ……シュートッ!」

 

「しゃらくせぇっ!」

 

 苦しげに息を吐き、顔を歪めながら魔力弾を放つ私。少しだけ苛立ったような顔をしているものの、その他は全く変わりない様子のまま魔力弾を打ち払うヴィータちゃん。どちらの方に余裕があるのかは一目瞭然と言える。戦闘が始まって早五分。私の顔には濃い疲労の色が浮かんでいた。だが、その瞳だけは未だ死んでいない。

 

「はぁ、はぁ、こんのっ!」

 

 もう何度目になるのかわからないぶつかり合いが起こった。以前として相棒(仮)は健在だが、包んでいた薄茶色のカーテンは既にボロボロ。破けた箇所から桜色の残滓が漏れ始め、カーテンに流していた魔力が徐々に漏れてしまっているのが手に取るようにわかった。そして、それは対峙している相手にも伝わってしまうというわけで。

 

「妙にかてぇと思ったら、ずっと魔力を流していやがったのか」

 

「にゃはは、バレちゃったか。ちょっぴり加減は難しいけど、やってみれば意外とできるよ。ぶっつけ本番でもいけたくらいだし」 

 

 僅かに驚きの表情を浮かべるヴィータちゃんに私は苦笑いでそう答える。相棒(仮)がアームドデバイスであるグラーフアイゼンと打ち合っても壊れなかった理由は実に単純明快。身体強化の時に魔力を流すのと同じように、ただ魔力を流して強化していただけなのだ。勿論、デバイスみたいに親和性は高くないし、限界量も低いから加減が難しかったけれど、まぁなんとかなりました。ふふ、魔法歴二十年は伊達じゃないの! とか言ってみたり。

 

「だけど、もう限界みたいだね。これじゃあ、ただのボロ雑巾だもん。なので……えいっ」

 

 もう邪魔な存在に変わってしまった薄茶色カーテンを私はぽいっと剥ぎ取った。月の光が優しく照らす中、今まで謎のベールで包まれていた相棒(仮)の真の姿が晒される。

 

「っっ!? そ、それはまさか……!」

 

 相棒(仮)の真の姿を見て、ヴィータちゃんが目を丸くした。

 そう、それは武器と言うにはあまりにも細すぎた。

 細く、薄く、軽く。そして 何より繊細すぎた。

 それは正に――――モップだった。

 

「って……本体はただのモップかよ!?」

 

「あっ、今モッピー……じゃなかった、モップのことをちょっと馬鹿にしたでしょ? これって掃除にも使えるし、武器にもなる優れモノなんだよ? しかもメイドさん達の持つ三種の神器の一つでね、意外と凄い子なんだからね!」

 

 相棒(真)を馬鹿にされたような気がした私は思わず頬を膨らませる。だが、ヴィータちゃんの目は言っていた。攻撃力たった1のゴミめ、と。確かに某ゲームではそうだったことを私も知っている。しかし、だ。私の魔力の影響で桜色のオーラを纏っているこのモップ(桜)の攻撃力は倍ドンまで跳ね上がっている。決して、弱い武器ではないのだ。

 えっ? それって1が2になっただけじゃないかって? …………ノーコメントで。

 

「さぁ、解放した我がモップ(宝具)の力! その目にしかと焼き付けるといいよ!」

 

「はん! この鉄の伯爵、グラーフアイゼンにモップごときが敵うわけがねぇ!」

 

 ちょっとしたインターバルが終わり、私達は再び戦闘を開始する。巧みなトークで体力回復の時間を稼ぐという作戦(大嘘)が上手くいったので、先程よりは少し回復していた。とはいえ、またすぐにへばってしまうことは目に見えている。故に私は体力が切れていない内に大きめダメージをなんとか与えなければいけなかった。誘導弾で牽制をしつつ、私は決定打となるタイミングを見計らう。

 

「古来よりこの国では、竹箒は空を飛ぶための道具! デッキブラシはダンスのための道具! そして、モップは戦闘用の武器だと相場が決まっているのっ!」

 

「いや、普通に全部掃除用具、だからな!」

 

 突き・薙ぎ・払いの動作を組み合わせて連撃を放った。先程よりも武器が軽くなっている分、そのスピードは結構なものだ。だが、それをヴィータちゃんは全て捌き切り、大きく弾いた。そして、ガードがガラ空きになっている私へとハンマーを振り下ろす。

 

「なっ……!?」

 

「――――かかったね」

 

 しかし、それは私のバインド付きのシールドによって阻まれてしまった。桜色の障壁から伸びた鎖がヴィータちゃんをアイゼンごと拘束し、その場に留める。それを確認した私は後方に距離を取り、詠唱を始めた。

 いくよ! これが私の対近接必勝パターン!

 

「リリカル・マジカル! 福音たる輝き、我が手に集え……」

 

 私の足下に大きな魔方陣が展開される。砲身となる右手を前へと突き出すと、四つの環状魔法陣が右手に取り巻いていく。いつもより断然に長く掛かるチャージの時間。レイジングハートがいないから仕方がないのだけれど、やっぱりちょっともどかしかった。

 

「撃ち抜け閃光っ! ディバイン……」

 

 ヴィータちゃんを捕まえている拘束は未だ解けていない。

 もう少し時間があったなら、解除することができただろうと思う。

 でも、今は私が撃つ方が早かった。

 

「バスターッ!!」

 

 突き出された掌から、桜色の閃光が放たれる。

 およそ四ヶ月ぶりに撃った砲撃は瞬く間にヴィータちゃんを飲み込み、吹き飛ばした。

 バインドからの全力バスター、しかも直撃。流石にこれで倒せたなんて微塵も思ってはいないけど、きっとダメージは通っているはず……。

 

「はぁ、はぁ……なんとか上手くいった、かな」

 

 肩ではぁはぁと呼吸をしながら、そう呟いた。

 全力で砲撃を撃った影響なのか、はたまたデバイスがない状態で撃った所為なのか。理由はわからないけど、今の一発でかなり魔力も体力も消費してしまったらしい。だが、今はまだ気を抜くわけにはいかない。誘導弾を数発分セットし、煙が立っている場所を私は油断なく見据える。

 今の一撃で倒せているのなら、それに越したことはないんだけど……そんな淡い期待を抱きながら、私は相棒(真)を握る手に力を込めた。

 ――――しかし、やはり現実はそう甘くはいかないようだ。

 

「……グラーフアイゼン。ロードカートリッジ」

 

“Explosion”

 

 耳に届いたのは、囁いたように小さな声だった。だけど、それは確かな重みの持つ声。ギミックが動き、薬莢が落ちる音が聞こえる。そして、爆発的に高まった深紅の魔力光が私の目に映った。

 

「ラケーテン……」

 

 そんな声と共に、赤い影が突如現れる。

 すぐさま誘導弾を放つも、その勢いを止めることが出来なかった。

 デバイスについたブースター機構を使い、最速のスピード私へ突撃してくる。

 

「ハンマーーッッ!!」

 

 それは純粋に敵を粉砕するためだけに振るわれた鉄槌の一撃。

 最早、回避をする余裕などなく、私は相棒(真)で受けるように構え、その目前に桜色の障壁を全力で展開する。それは現状で出来る精一杯の防御態勢であり、今の私の最強の盾だった。

 

「――――っ!?」

 

 しかし、それでも彼女の攻撃を防ぐには至らない。

 更にギミックから数発分の薬莢が飛び出し、ブースターの威力が増した。

 じりじりと尖端についているスパイクが障壁にヒビを入れていく。

 

「ぶち抜けぇええっ!!」

 

“Jawohl!”

 

 まるで脆いガラスのように私の障壁が砕け散った。

 続く相棒(真)も柄の真ん中部分から呆気なくへし折られる。

 あっ……と声を上げる間もなく、私の胸に抉り込むようにスパイクが突き刺さった。

 

「~~~~~っ!!」

 

 地上へと叩き落とされた私はまるでゴム毬のように地面を数回バウンドする。なんとか悲鳴だけは意地で上げなかったものの、全身に走った痛みで息が出来ず、目から涙が溢れてきた。しかし、滲んだ視界の端にグルグルと回転しながら突っ込んでくる赤い影を捉えると、半ば本能的に防壁を張る。

 

「これでトドメだぁ!!」

 

 再び、スパイクの先端と桜色の障壁が激しく火花を散らした。

 私の両手には隕石でも落ちてきたかのような重い衝撃が襲いかかってくる。

 けれど、全力で展開した防御すら突破したような攻撃を即席の盾のみで防ぐことができるだろうか。

 ……当然、答えは否。子供でわかるような簡単な答えだった。

 

 

「――ぁ、ぅ……っ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……怪我人に負けるほど、あたしはまだ落ちぶれてねぇよ」

 

 擦れるような呻き声を上げる私の上からヴィータちゃんのそんな言葉が降ってくる。

 ああ、やっぱり私の身体のことを気にしてくれてたんだ。全然カートリッジを使わないから、なんか変だなって思ってた。でも、手加減されていたのはちょっと悔しい、かな。

 内心でそう呟きつつ、私は敗北を受け入れるためにそっと瞳を閉じた。浮かんでくる僅かな後悔と敗北の味をしっかりと噛みしめながら。

 

「……安心しろ、命まで取る気はねぇ。痛いのはほんのちょっとの間だけだ」

 

 どこか苦みを含んだヴィータちゃんの声が、薄れゆく意識の中でやけに大きく聞こえた。だが、それと同時に意識の外皮の部分を掠っていくものがある。

 

 ――――呼んで。

 その声は私の幻聴だったのかもしれない。ただの気の所為だったのかもしれない。

 しかし、どうしても聞き逃せないものだった。聞き流してはいけないものだった。

 

 ――――呼んで、なのは。

 誰かが私に呼び掛けている。私の名前を必死そうに呼んでいる。

 応えたいと願った。応えなくちゃと想った。応えると決意した。

 

 ――――お願い、なのは。

 それは鈴のように綺麗な声。どこか聞いていて安心させてくれる声。

 ……私の大切な親友の声。

 

「――――ごめんな」

 

 ――――私の名前を呼んでっ!

 だから、私は迷わず彼女の名前を口にした。

 

「フェイト、ちゃん」

 

 高い金属の音が周囲に鳴り響く。

 私が目を開ければ、そこには頼もしい親友の後ろ姿があった。

 

「――――良かった、今度は間に合った」

 

 夜空に靡く金色の長い髪。

 はためくマントは彼女にとても似合う漆黒。

 

「……ずっとね、後悔してたんだ。今度は私が助けるって約束したのに。肝心な時に何の力にもなれなくて、知った時にはもう手遅れで。しかも傍に行くことすらできなくてっ。すごく、すごく悔しかったんだっ」

 

 顔を伏せ、震えるような声を出すフェイトちゃん。

 その紡がれた言葉には様々な感情が混じり合ったような響きがある。

 

「でも、今度は間に合った。間に合うことができた……だから、今なら言える。あの時に言えなかった、一番伝えたかった言葉を贈れる――――なのは」

 

 己が愛機である戦斧に込める力を強めながら、フェイトちゃんは顔を漸く上げた。

 そして、ちらりと私の方へ笑みを向け、こう叫んだ。

 

「――――君を、助けに来たっ!!」


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