私の名前は高町 なのは。
極々、平凡な普通の中身が28歳の女性です。
何かもうこの自己紹介の仕方も慣れてきた感じがするよねー。……うん。やっぱり慣れって怖いなぁ。
フェイトちゃんとの初遭遇を終え、アリサちゃん達に上手く言い訳をして誤魔化したその日の夜。夕食後、お風呂を終えた私は濡れた髪をタオルで拭きながら、ユーノ君とレイジングハートに声をかけた。勿論、今後どのように動いていくのか作戦を練るためである。
「ユーノ君、レイジングハート。一歳の男の子を骨抜きにする方法って何か知っている?」
内容は当然のことながら、ジュエルシード集めのこと……ではなく“彼氏育成計画”の方だ。ジュエルシードはどうせ最終的にフェイトちゃんと全掛けして争うのだから、そんなに慌てる心配はない。あとは黒フェイトちゃん対策も立てないといけないけど、優先順位としてはまだ下だ。だから、私は真剣に二人と“彼氏育成計画”についての内容を話し合おうと思った。
「……なのはさん。もう夜も遅いですし、お休みになった方がいいと思います」
“……マスター、きっと今日の戦闘で頭も疲れたのでしょう。もう休んだほうが……”
だというのにユーノ君はおろか、レイジングハートまで私に寝るように勧めてくる始末。……これはあれかな? 二人とも私の精神がおかしくなったとでも言いたいのかな?私は初めから正気だというのに……二人とも本当に失礼だよ、ぷんぷんっ。
二人のあんまりな対応に私は頬を膨らませつつ、、無言でドライヤーのスイッチを入れる。
「ちょっ。な、なのはさん!?」
“マスターが御乱心!?”
すると、
慌てて熱風から逃げ惑うユーノ君とレイジングハートの姿は……うん、ほんの少しだけ面白かったです。
さてさて。そんなこんなで時間も経ち、私の髪もやっと乾いた後。私は二人が真面目に話を聞いてくれないので、一人で作戦を練ることにした。
私の
当然、私の気合いも入るというものだ。まぁ、計画とか練るのって元から結構好きなんだけどね……えへへ。
まず一番のポイントは、彼をいかに早く私にぞっこんにさせるかである。
彼をどれだけ素晴らしい男性に磨き上げても(元から彼は最高だが)、他の女に取れるなんて悲しすぎる……。そんなことは絶対にあってはならないし、あったらもう立ち直れない気がする。
そこで考えなければならないのが、彼との初めての出会い方だ。
これはボーイ・ミーツ・ガール的な意味でも最重要事項であると言える。それに上手くいけば、幼少期だから刷り込みにもなるかも……うふふ。
えっ? フェイトちゃんには違うことを言わなかったかって?
…………私だってそういうミスも偶にはあると思うの、だって人間だもの。あとよく言うのよね? それはそれ、これはこれって! うん、つまりはそういうことなんだよ!
「……何か良い方法はないかな~?」
私はベットの上で足をバタバタさせながら、一人で頭を悩ませる。
ちなみにユーノ君は、タオルをを敷き詰めた特製ベットの上でもうお休み中だ。私がこんなにも必死に悩んでいるというのに、全く何とも暢気な奴である。でも、良い感じの出会い方かぁ。ベタかもしれないけど、パンを咥えて彼と衝突! 大作戦かな?
だけど、あれって実は転校生とかだったりするからこそ、運命性を感じるわけで……。というか、一歳の彼に私がぶつかったら、万が一でも彼に傷を付けてしまうかもだし……うむむ。
突然、空から私が降ってくるっていうのは……ダメだね。そう簡単に飛行許可が取れるとは思えないし、飛行魔法すら満足に出来ない子だなんて思われたくないもんっ。
それと同じように、携帯を落として届けて貰っちゃえ! 大作戦もミッドと地球の携帯では繋がらないので却下だ。それに多分、一歳では携帯を操れないだろうし……あっ、でもレイジングハートなら!
“マスター。そんな珍妙な顔を向けて来ないで早く寝て下さい、明日に差し支えます”
「……はぁ~い」
私が期待の篭った目を愛機に向けると、とても冷たい声が返ってきた。機械音声なのに何故か不機嫌だとすぐにわかる声色である。
どうも、さっきドライヤーの熱風を浴びせたことでレイジングハートは怒っているらしい。それでも私の体調の事を考えて早く寝ろと言ってくるあたり……とても世話好きな相棒だ。そんな事を思い、私は少し笑みを浮かべつつ、電気を消して布団を被るとまた考えを纏め出した。
多分、中学を卒業するまではミッドに移住させて貰えないだろうから、隣に引っ越してきましたー作戦も無理。つまり、私は彼の幼馴染ポジションにはなれないってこと……むむむ。
となると、優しい憧れのお姉さんポジションを狙うしかない。なのはお姉ちゃん……うん、これは何か凄くいい響きかも。しかし、それもすぐにタマね……いや、“ナノ姉たまんねェ!”と変わるわけだ。
ふむふむ。だとすれば、彼がもう少し大きくなってから近場の公園とかで遊んであげればいいのかな? 偶然を装えばそれくらい上手く出来ると思うし、結構現実的かも……。
夕陽に染まる公園。
さっきまで共に遊んでいた子達も帰ってしまい、彼は一人ブランコに揺られている。そんな彼(四歳仕様)に優しく声を掛け、そっと微笑む私(十一歳仕様)。
“おねーちゃん、だ~れ?”
“私? 私の名前は高町 なのは”
うん、始まりはこんな感じで良いと思う。
あとは此処からなんやかんやして、仲良くなればいいのだ。私はイメージする、常に
夕方の公園で遊ぶ彼と私。
ブランコ、滑り台、ジャングルジム、etc……。
沢山の遊戯を遊び尽くしていくうちに、彼はだんだんと私に心を許していく。私はそんな彼を常に優しい笑顔で見つめていた。でも、楽しい時間はすぐに終わってしまうもの。日が暮れてしまえば、私達はお別れしなければならない。
嫌だと駄々をこねる彼。私はちょっと困り顔。そんな対照的な二人はとある約束をする。
“もう今日はお別れだけど、またきっと会えるよ”
“……ほんと? ぜったいにあえる?”
“うん、君がそれを望むのなら必ず、ね”
不安げな顔をしている彼の頭を撫でて、私は笑顔でそう告げる。
なぜなら私にはわかっているのだから、私と彼は絶対運命で繋がっているのだと……。
“それなら、ぼくまってるよ!”
“ふふっ、今度会う時はもっと素敵な人になっててね?”
そう言って、彼の頬にちょんと唇を落とすと私は優雅に去っていく。そして彼はそんな私の後ろ姿をずっと見つめる、その幼き胸に淡い想いを残したまま……。
な~んていうのはどうかな……でへへ。やばいっ! これってかなり良いっ! これぞ、幼少期の出会いって感じで何か運命っぽいよ! というか私、キスしちゃってるー!? ふふふ、もう仕方ないなぁ……えへへ。
私は布団の中で色んなことを妄想しながら、くねくね動き、ごろごろ転がる。途中で、レイジングハートに何度か注意されたけど、そんなの知らないもん! そして、そのまま私の妄想タイムは夜が更けるまでかなりの時間続くのであった。
そんな日から暫く経った、とある全国的な連休の日。私達高町家は例年通り、皆で温泉へと行くこととなった。今回はアリサちゃんやすずかちゃん達も一緒なので、かなりの大人数である。
実は前日の晩から私のテンションはもの凄く高く、中々眠れなかった(なんか変な所だけ小学生みたいでちょっと恥ずかしい)。
でもでも、私は仕方がないとも思うのだ。だって、温泉だよ? 美味しい海の幸だよ? 二泊三日だよ? これでテンションの上がらないような奴は、もう空気が読めてない奴だと私は思うの! それにヴィヴィオ達と旅行に行くと、何故か普通の旅行にならないんだもん! だから、偶には私だって普通の旅行を楽しんだっていいと思うんだ!
「温泉、楽しみだね~」
「ねぇねぇ、温泉の後は卓球しようよ、卓球!」
「んー、私はおみあげを見たいかも……」
私は車内で親友たちと話をしながら、ふと娘達と行った数々の旅行のことを思い返す。気が付けば、魔法少女ではなく拳系少女に育ってしまった私の愛娘。いや、別にそれはいいのだ。何か健康的で良いとも思うしね。ヴィヴィオがやりたいって言うのなら私も止める気はありません。
でもね、誰も友情まで拳で勝ち取ってこいとは私は言っていませんよ?
まぁ色々と事情もあったし、私が言えた立場ではないのかもだけれど……それでも、と思ってしまうのです。ママとしての意見を正直に言うと、もう少しだけおしとやかに育って欲しかったよ。……学校では“ごきげんよう”とか言ってるのにホント、誰に似たのかなぁ。
それでね。そんな娘と旅行に行こうとすると、何故か他の皆も着いて来て訓練合宿になるんだ……。確かに日頃からの訓練は大事だよ、うん大事。だけどね、日頃汗水垂らして働いているママ的には、のんびりとした旅行だってしたいよっ! 何で毎回毎回、大人数で模擬戦とかしなくちゃいけないの!? いや、確かに私も訓練メニューを考えるのは嫌いではないんだけど……正直、毎回それはどうかと思うんだ。
しかも極一部の奴らは、彼氏付きで参加とかしやがって……あのくそリア充共め。当然、夜は皆が彼氏とイチャコラムフフするので、私はフェイトちゃんと二人で悲しく晩酌。酒を煽りながら愚痴を言う私にフェイトちゃんが“なのはには私がいるよ”と笑顔で囁くのは最早デフォルトである。
大体、何が“彼も参加したいって言うので、連れてきちゃいました☆”だっ! あのブルー&オレンジコンビめ。まぁ、念入りに隙間なく誘導弾で囲んで、バスターで綺麗にブチ抜いたら次からは連れて来なくなったからいいけど……。私だって、偶には……偶にはっ……うぅぅ、がおぉぉっ~!!
「なのは、突然どうしたのよ?」
「大丈夫、なのはちゃん?」
「えっ? ……あっ、何でもないよ! ああ、早く着かないかな~♪」
いけない、いけない。何かもう少しで狂化するところだった……。
えっ? お前、既に狂化しているだろうって? ……もうっ、そんなことあるわけがないじゃないですか! やだなー。私は何処からどう見ても、極々平凡で心がピュアな女の子ですよ?
まぁそんなつまらない話はどこかに置いておいて、今は温泉ですよ、温泉! 温泉っていいよねー。日本人と言えば温泉! みたいな感じもするもん。長年、ミッドに住んでいた者からすれば、本家本元の温泉を楽しみたいと思っても仕方がないと思うんだ。
それに確かジュエルシードも宿の近くに落ちてて、フェイトちゃんとも二度目の会合をするはずだからソッチの心配もなし。多分、フェイトちゃんは私との勝負を待っているはずだから、今の内にリフレッシュして最高の状態でお相手をするの! ってことで、ジュエルシードのことは温泉を楽しんでからでも遅くはないよねー。そんな事を暢気に考えつつ、宿に到着した私達は早速温泉に入ることになった。
「ふっふふん♪ ふっふふん♪」
「何かなのはちゃん、今日は凄くご機嫌だね?」
私が鼻歌交じりで着替えをしていると、隣にいたすずかちゃんが苦笑しながら声をかけてくる。確かに自分でも浮かれてるなーと思うけど、どうやら周りから見てもそうらしい。お母さん達もそんな私の様子を見て、何やら嬉しそうに笑っているし。
「えへへ。実はこの旅行、凄く楽しみにしてたんだ」
「そっか。なら思いっきり楽しもう?」
「うんっ!」
すずかちゃんの言葉に大きく頷き、私は温泉に入る用意を完全に終える。後は、アリサちゃんとすずかちゃんを待って……って、あれ? アリサちゃんは? そこまでいって、ようやくアリサちゃんがいないことに気がついた。しかし、何度か周りを見渡すと、すぐにアリサちゃんを見つけることに成功する。……何やら揉めているようだ。
「こらっ、ユーノ! 暴れないの!」
「キュッー! キュッー!」
何やら必死に逃げるユーノ君とそれを押さえつけるアリサちゃん。一体、何をしているんだろう? まだアリサちゃん、服着たまんまだし……。でも、確かにあれでは着替えなんて出来るわけがありません。つまり、私はまだ温泉に入れないというわけで……これはかなり由々しき事態なの。
大体、ユーノ君は何をそんなに騒いでいるの? 一応、ペットの持ち込みは可だったはずだけど……。
「アリサちゃん、ユーノ君は私が預かるよ」
とはいえ、このままでは埒が明かないので私がユーノ君を確保することに。すると不思議なことに、私が捕まえるとユーノ君が大人しくなった。何? ユーノ君ってアリサちゃんが苦手だったの?
「うん、お願い。それにしてもユーノってお風呂嫌いなの?」
「んー。家では暴れたりはしないんだけどなぁ……」
いつも家では洗面器にお湯を入れて洗ってあげるんだけど、特に嫌がったような感じもなかった。どちらかというと、乾かす時の方が嫌がったくらいだ。でも確かに顔色も何か赤……いや青いし、汗もダラダラ流しているし……う~ん、本当にお風呂嫌いなのかも?
だが、私がそんなことを考えていたのも少しの間だけだった。
なぜならアリサちゃん達の準備も整ったので、やっと温泉に入れるようになったからだ。要するに偉大なる温泉の前にそんな些細なことは、完全に私の頭から放り出されたのである。…………後にユーノ君を襲う惨劇は、アースラが地球に来た日に行われる、フフフ。
「ふにゃぁ……」
温泉に入ること早一時間。
私は絶景の露天風呂に浸かりながら、半分くらい蕩けていた。いや、正確には垂れていた。俗に言う“たれなのは”である。
「あらあら、なのはは意外と温泉好きだったのね?」
「何かすごく蕩けてるね、なのはちゃん」
傍にいるのは、お母さんと忍さんの二人。お姉ちゃんやノエルさん達はサウナの方にいっちゃったし、アリサちゃんとすずかちゃんはもう先に上がっていきました。一応、私も後からおみあげ売り場で合流予定です。
ああ、ちなみにユーノ君は何か鼻血を吹いてぶっ倒れました。どうやら体調が悪かったようです。……今日は何かミミズ以外の美味しいモノを食べさせてあげようと思います。
「うん、温泉って凄く気持ちがいいもん。あとは上がってから、海鳴温泉サイダーを飲めば完璧だよ~」
「ふふっ、そうね。なのはがそんなに喜んでくれると私も嬉しいわ」
温泉上がりの冷たいサイダー。カラカラの喉に通る爽やかな冷たい炭酸。海鳴天然水を使った地サイダーは可愛いラベルに進化して、なんと驚きの200円ぽっきり! うん、これは絶対に美味しいに決まっているよっ! ……本音を言えばアルコールが欲しいところではあるけれど、そこはちゃんと我慢します。
「ねぇねぇ、なのはちゃん。いきなりな質問なんだけど、なのはちゃんは好きな子とかっていないの?」
「ふぇ? 好きな子、ですか?」
私がぼんやりとそんなことを考えていると、何やら忍さんが目を輝かせて話を聞いてきた。しかも内容が好きな子について……うん、本当にいきなりである。
詳しく話を聞くと、どうやらすずかちゃんはそんな話を一切してくれないのでつまらないらしい。……いやいや、だからって私に聞いてくるのはどうなの!?
「そうね。私もなのはからそんな話を聞いたことがないから、ちょっと気になるわ」
そう心から突っ込みを入れていた私に、お母さんからの援護射撃が飛んでくる。しかも、お母さんの目も何故かキラキラしていた。ああ、女の人って何歳になっても恋バナって好きだもんね……。
「えっと、んーと……秘密です」
そんなことを思いながら私は答えようと口を開き、何故か秘密という濁した答えを言った。はっきりといないと言えば話はそこで終わったはずなのに、何でか私はそう言ってしまったのだ。……もしかしたら、本当は誰かに彼のことを話したかったのかもしれない。
「ええ~、誰もいないんだからいいじゃない~」
「そうそう。恭也や士郎さん達、勿論すずか達にも絶対に黙ってるから、ね?」
当然、二人は更に聞き出そうと私に詰め寄ってきた。しかも、なにやらさっきよりも目の輝きが増している。
……これはかなりマズいことをしたかもしれないなと思いつつも、不思議と嫌だとは思わなかった。
「それに、秘密ってことはいるってことよね?」
だからだろうか。お母さんがその言葉を言った時に、もう話しても良いかなと思ってしまった。隣で忍さんもうんうんと頷いているし、もう逃げ場はないようにも感じたのも理由の一つではあるけれど。軽く溜め息を心の中で吐くと、私は正直に話すことにした。勿論、色々と誤魔化しを入れてだけれど。
「……実はいます。ちょっと年下だけど……」
私が小さな声でそう言うと、お母さんと忍さんが黄色い悲鳴を上げた。もうそこからは怒涛の質問攻めである。しかも私も答えていくうちにだんだんと興が乗って来てしまったから、さぁ大変。そもそも、私はまだ彼との惚気話を今までまともにはしていなかったのだ。そんな私が彼の話を始めて簡単に止まるだろうか、いや止まらないっ!
「彼は凄く頑張り屋さんなんです。私と初めて会った時も――――」
「それで、笑った時の顔が凄く可愛くて――――」
「彼と一緒にいると、こう胸がポカポカしてきて――――」
最早マシンガンのように私の口は、言葉という弾を撃ち放っていった。だけど、私の彼氏自慢を二人はふむふむと笑顔で頷きながら聞いてくれる。そのことが嬉しく、私は更に沢山の話を続けていった。そして……。
「――――そんなわけで彼はすっごく優しいんです! 彼こそが最高の男性だと、私は思います!」
私は彼のことを語り終えると、最後にそう締めくくった。魔法関係のこととかを省いて違和感がないように子供に置き換えての話だったので、凄く頭を使って大変ではあった。こんな時はマルチタスクを鍛えてて良かったと心底思う。
「なのはは、本当に彼の事が好きなのね?」
「うんうん。なのはちゃん、凄く楽しそうな顔で話してたよ」
「そ、そうかな? えへへ」
二人の指摘に私は照れくさくなり、ぽりぽりと頬を掻く。そんな私の様子を二人は優しい顔で眺めていた。でも、あれだね。何かこうしてみると不思議な充実感があるんだね……。皆があんなにも惚気話をしたくなる気持ちが少しはわかった気がするよ……まぁ、もう聞くのは勘弁だけどね!
私はそう思いながら、湯船に全身を浸けた。半身浴みたいになっていたから上半身が冷えたのである。とまぁ、ここで話が終われば良かったのだ。そうすれば、あんな失敗をしなくても良かったのだ。しかし、残念ながらそうはならなかった。
「だけど、最高の男性っていうのは訂正しないとね。最高の男性は私の士郎さんだもの!」
何故なら、お母さんが変な対抗意識を燃やしてきたからである。しかし当然、そうなってくると私達が黙っているわけがない。私と忍さんはすぐさま、抗議の声を上げた。
「いえいえ桃子さん、私の恭也が最高の男性ですよ!」
「最高は私の“ミっくん”に決まってるよ!」
……もうそこからは酷かった。露天風呂に浸かりながら、三人して自分の男の良い所を上げまくっていったのだ。だが、それは決して喧嘩にはならなかった。私達はそれぞれの言葉に、時に共感し、時に反論し、時に涙し、時に笑い合った。温泉で繰り広げられる、年齢の異なる三人のがーるずとぉーく。だがこれが意外と楽しく、盛り上がったのだ。……何故か義兄弟ならぬ、義姉妹の誓いを結んでしまうほどに。
後日、その光景を目にしたお姉ちゃんが“私だけ仲間外れだよぉ……”と嘆いていたのは全くの余談である。しかし、本当にそのくらいに盛り上がっていたのだ。だから、ミスがあったとすれば、些か“盛り上がり過ぎた”ことである。更に付け加えるなら、途中から忍さんの頼みでノエルさんが持ってきた飲み物が全ての原因である。
温泉に入って五時間後、私達はお姉ちゃんやノエルさん達に救助された。まぁ、簡単に言うと私達は三人揃って、見事にダウンしてしまったのだ。……ぐでんぐでんに酔っぱらったと言い換えてもいいかもしれない。
でもそうなってしまうと、私は当然夜も爆睡なわけでして。
ジュエルシードが発動しても、全く目を覚まさないわけでして。
どんなにユーノ君やレイジングハートが起こしても起きないわけでして。
私が目が覚めたら朝で、もう全てが終わっていました……。外ではスズメがちゅんちゅん、隣ではユーノ君がさめざめと泣いていました……。
……私、高町 なのははやってしまったようです、てへへ☆
ちなみに、そんなことを全く知らないフェイトちゃんはというと……。
――ジュエルシード封印から五分後――
「なのは、遅いなぁ……」
「そうだね~」
――更に三十分後――
「フェイト~、もう帰ろうよぉ」
「ううん、もう少しだけ待ってみよう?」
――更に一時間後――
「フェイト~」
「……なのは、どうしたのかなぁ」
――更に三時間後――
「……ぐすっ……なのはぁ」
「フェイト、今日はもう帰ろう……」
「……ぅん」
かなりの時間、待ちぼうけを食らってたみたい☆