波紋の護人 作:嵐壱
戦域を匍匐飛行で進む戦術機部隊があった。数は僅かに30を下回り、定数割れを起こしているのが窺える。機種はF-15J、日本帝国がライセンス生産した第二世代戦術機で89式戦術歩行戦闘機、陽炎と呼ばれていた。
その右肩には各々の出自を表す色が、その左肩には帝国を示す日の丸が。朝鮮半島で戦う日の丸の戦術機は多いけれど、右肩に出自を表す部隊は一つしか存在しない。
「こちら帝国斯衛軍独立派遣任務部隊。大東亜連合軍機へ、後は俺たちが引き受ける」
『こちら第132戦術機大隊、すまない恩に着るっ! 大隊は弾薬、推進剤共に平均3割を切っている。被害の大きい戦術機中隊を先だって後退させる、すまないが援護頼む』
「承知した。テンペスト各機、聴こえてたな? 大東亜連合軍の後退を援護する、奴らを全て通すな」
『承知っ!』
部下たちの復唱を聞きながら、右肩を蒼く塗装した陽炎に搭乗する衛士は素早く戦域データリンクを確認する。砲兵の弾薬消費量は39%、各地にて予備指定されていた帝国軍の戦術機部隊が大東亜連合軍と入れ替わり前線に躍り出ている。
データリンクにより前方には大東亜連合軍の戦術機大隊を示す緑の光点と、それを今にも飲み込もうとする赤の光点が表示され。定数36機から構成される筈の戦術機大隊は、その数を斯衛よりも大きく減少させていた。別に珍しいことじゃない、寧ろ定数を維持している戦術機大隊、或いは中隊の方が珍しい。
斯衛に与えられた任務は、消耗した大東亜連合軍の戦術機部隊と交代して防衛線を維持すること。既に国連軍の戦術機部隊が
第132戦術機大隊を構成する1個中隊、5機の戦術機が後退してくる。網膜投影された映像には手腕や跳躍ユニットを破損させたF-18Cが不安定で断続的な戦闘機動を描きながらも懸命に安全圏まで逃げ延びようとする意志が感じ取れた。
『コノエのブシか、助かるっ! 後は頼んだぜ!』
擦れ違い様に投げかけられた言葉は、期待の色が滲みでていて。斯衛の武勇は帝国軍のみならず、共に戦う大東亜連合軍や国連軍までに広まっている。
右肩を蒼く塗装した陽炎は、先人を切って抜刀しながら梯団へと吶喊をかける。斯衛が積極的に吶喊することで奴らの注意を引き付け、第132戦術機大隊の後退を迅速にするためだ。奴らにとっては撤退中の部隊よりも、吶喊を仕掛けてくる部隊を脅威と認識する。
「兵器使用自由、斯衛の力を見せつけてやれ!」
こうしてまた、斯衛の武勇が半島で戦う3軍に響き渡るのであった。1998年、5月が終わろうとしていた頃である。
▽
前線から幾多もの戦術機部隊が帰投してくる。軍や部隊の所属を問わず戦術機は赤黒い体液に塗れ、手酷い傷を負った機体も多い。各々の野戦基地へ帰投してくると、多くの整備兵や後方要員が様々な想いを秘めて出迎える。
出撃した時よりも戦術機の数が少ないことに涙を流す者、反対に1人も欠けることなく無事に帰ってきたことを喜ぶ者。少数の誰かが命を落とし、多数の人命を救い続ける日々。
今回の戦いでは予備指定された帝国軍も例外ではない。寧ろ、予備だからこそ後退が許されないのだ。帝国軍を補完するだけの予備兵力は無きに等しい。
その中にあって異色の戦術機部隊が帝国軍の野戦基地へと帰投してきた。数は30を僅かに下回り、右肩には出自を表す色がある。蒼を筆頭に赤、山吹、白、黒の5色があるけれども、皆が帝国の誇る精兵。地獄に慣れた帝国軍は元より、大東亜連合軍や国連軍ですら光明のように彼らを見ている節がある。
大陸で帝国軍は日本が誇るサムライと呼ばれることはあった。熾烈な戦いぶりは正にサムライ、されど斯衛という本物のサムライではない。半島に派遣された斯衛は将軍を守護する本物の侍、武士であるから否が応でも注目を集めた。
帝国軍ではあの九條家の者が率いる斯衛というだけで士気が上がり。大東亜連合軍は本物の侍、武士の戦いを見ようとして。国連軍は日本帝国の中枢にいる者が率いる部隊、どうにか前線の士気高揚に使えないか悩んだという。
「左腕と右の跳躍ユニットを酷使し過ぎたか、戦闘中に動きが鈍くなった。念入りに整備しといてくれよ」
蒼の強化装備を纏った護人は機付きの整備士にそう声をかけ、喧騒に満ちた格納庫内へ視線を巡らせた。野戦基地に斯衛専用の戦術機格納庫があるはずもなく、帝国軍が使用する格納庫の一角が割り当てられている。
前線から帰投し機体の洗浄や整備が行われる戦術機たち。その殆どが撃震や陽炎で、純国産機にして世界最初の第三世代機である不知火の数は少ない。量産機の実戦部隊引き渡しから実に4年が経つけれど、帝国本土の部隊ですら全域に行き届くほど配備されてはいなかった。
「九條少佐、お疲れのところを申し訳ありませんが中将閣下より出頭命令です」
「ん、承知した。久嘉、悪いけど後を頼む」
副官を務める赤の衛士に部隊のことを頼み、護人は自身を呼び出した者の執務室へ赴いた。まだ年若く、加えて蒼の強化装備は何かと目立つ。何よりも九條家の者だ。慌ただしくすれ違う帝国軍の将兵は必ず脇に控え最敬礼をもって迎える。
一方の護人は本土にいた頃よりそういったことに慣れてるので軽く答礼をするのみ。帰投から間もなくどんなに疲労が残っていようと、そこは五摂家に連なる者。斯様な様子は見受けられない。
「九條護人少佐、入ります」
野戦基地と言えども執務室、それも部屋の主は半島に在る帝国軍の総司令官を務める男。簡素ながらも帝国の武人らしい様相を持った室内には、2人の男がいた。内1人は知っている。帝国陸軍中将
蒼の強化装備を纏っているからか、はたまた顔を知っているのか。恐らく前者だろう、俄かに驚愕の色を滲ませた眼鏡の男を尻目に彩峰中将は労るような口調で声をかけた。
「戦線より帰投し、疲れている所を申し訳ない九條殿」
「いえ、上官の命令に服従することが軍人の責務、我ら斯衛は半島に在る限り帝国軍の指揮下に置かれる。幾ら私が九條家の者として斯衛を率いていようと、彩峰閣下が気になされることはありません」
「そう言ってくれると助かる、普通ならばそう返すべきなのですが。階級こそ下にあれど九條殿は私のような無骨者の上に立つ存在であることは変わらないはず」
「そういう人でしたな、閣下は。して、一体どのような御用件で?」
階級こそ少佐であれど半島に唯一展開する斯衛の指揮官を務める九條家の者、それだけで目に見えない影響力を持つ。彩峰中将や主だった将校に呼ばれることはこれまでにもあったが、戦場から帰ってすぐというのは初めてだ。
何かしら重要な用件ということだけは確かだが、皆目見当もつかない。本土で何かが起こったのだろうか、それとも半島でのことか。
「狭霧中尉、すまないが私と九條殿の2人にしてくれないか」
「はっ」
狭霧と呼ばれた眼鏡の男が退出し、彩峰中将は深い息を吐いた。それは伝えるべきかどうか苦悩してるようにも見えなくはない。
「閣下、一体どうしたというのです。それほどまでに私へ伝え難いことなのでしょうか?」
「いえ、1人の子を持つ親として苦悩してるのだよ九條殿。伝えられる側が私の娘ならば、哀しみに暮れることは間違いない」
「なれば尚のこと教えて頂きたい、例えどんなに辛いことだろうと後悔だけは致しません。寧ろ、心残りを抱いたまま戦場へ向かうことだけは避けたい」
「……九條實護殿の容態が急変、今から4時間前にお亡くなりになられたとのこと。国防省を介して城内省から私宛に秘匿回線を用いて、九條殿へ直接告げられるよう厳命されました」
本土で九條家を統べる叔父が、亡くなった。元々身体の弱いことは知っていたが、まさかそこまでとは。驚きがまず浮かび、次いで叔父との記憶が走馬灯と呼べばいいのか、脳裏を駆け巡っていく。
護人の実父、九條家の先代当主が急逝して当主を務めた叔父。麻衣との婚約を静かに認めてくれ、その為に家督の相続権を捨てることも苦笑交じりに承諾してくれた。もっと幼き時分には、実の子のように可愛がってくれ養子にならないかと誘われもした。
「叔父上が、亡くなったか……最期を看取れず、申し訳ない」
ともすれば震えそうになる声を、何とか押し留めて。涙を決して見せることはなく、静かに慟哭の念へと護人は駆られた。同胞が散って逝くのと異なる喪失感が底なしの穴として穿たれたかのようだ。
「ありがとう彩峰中将、他に城内省は何か」
「特に何も。追って報せるとのこと」
「そう、か……」
彩峰中将の執務室を後にした護人は、ただ1人になりたくて宛がわれた居室へと真っ先に駆け戻った。しかし、道中には事情を知らぬ将兵がいる。哀しみに暮れた顔を見せれば下手に動揺を与えかねないため、一見すると急いでるように切迫とした足取りで。
慣れるべきことではないのに。半島で死と日常が重なった日々を送ってきた所為か、哀しみに暮れてはいるものの仲間の死と違う類というだけでそれ以上の哀しみが沸いてこない。
居室の硬いベッドに強化装備を纏ったまま横になり、人の目がないことを確かめた途端心の内に抑え込めていた感情が涙となって溢れ出てくる。声を押し殺して九條護人は静かに慟哭した。
天命だったのだろう。大陸より迫り来る絶望とは別の、やがて訪れる絶対的な死の運命。寧ろ、帝国がまだ戦火に曝されてない内に逝ったことは幸せだったのではなかろうか。だけど、あまりにも早い。若過ぎる。天命だと納得しなければ、信じられない、信じようともしない自分がいる。
「まだ楓は14だぞ叔父貴、早いじゃないか……っ。それに、俺と麻衣の正式な婚姻も見届けるって言ったよな。どうして、どうして逝くんだよ……親父も母さんも、叔父貴も皆、どうして……俺たちを残して先に逝くんだ」
戦場帰りで疲労が溜まっていたことに加えて、叔父の訃報。何時しか護人は深い眠りにつき、麻衣がいれば心を激しく痛めるほどの哀しみに満ちた顔をしていた。
▽
UNブルーと呼ばれる国連軍所属を示す青い塗装のF-4、ファントムが屹立し、突撃砲の銃口こそ上に向けているものの訪れる軍人たちを威圧するように頭部を向けている。同様のファントムが他に3機、更には装甲車や歩兵の数も多い。
帝国軍、大東亜連合軍の野戦基地よりも後方にあるというのに物々しい警備をされた国連軍の司令部。彼らが何故そこまで恐れているのか、その理由は程なくして分かった。
フェンスの向こうに並ぶ粗末なバラックやテント。痩せ衰え、蹲る人影。現地住民らしき者もいれば、明らかに大陸出身の顔立ちも見受けられる。人類の戦線が縮小する度に追い立てられた難民たちは、どこへ逃げても無駄だと諦観の念が漂った瞳をしている。
「酷いものだ、せめてここよりも後方へと誘導できれば良いのだが……国連軍にその余力はない。現地住民は土地を離れ避難することを拒み、大陸より逃れた難民はどこまでも追ってくる絶望に打ちひしがれている」
「そしてこのように支援も足りていない、と。難民を支援するはずの国連がこの有り様ですか」
「人があってこそ国は成り立つ。彼らが半島を脱するまで、我らがここを引くわけには参りますまい」
もしもの時、国連軍は難民を見捨て軍の撤退を優先するだろう。昨年の10月より戦場を共にしてきた友軍ではあるが、鉄原ハイヴの建設による戦線の後退が決定された際に彼らは現地住民の救助や難民の退避も行わずに後退した。
現地住民が避難を拒んだのもあるが、しかし護るべき存在を見捨て軍の被害を抑えた国連軍に含むところはある。いつまでも半島の戦線を維持できるはずはないが、無辜の民が半島を脱出するまでは彩峰中将の言う通り引くわけにはいかない。
「此度の会議、凶報でなければ良いのですが……」
「こうして我らが国連軍の司令部へ召喚されただけでも、何事かが起こったことは確かですな九條殿」
先の戦いより2日。九條護人は彩峰中将や帝国軍の主だった将校と共に国連軍司令部で行われる会議へと出向いていた。帝国軍はバンクーバー協定に則り一応は国連軍指揮下で大陸派兵を行っているため別におかしくはないのだが、大東亜連合軍の司令官なども交えて会議を行う際は必ず何事かがある。
護人の顔色は疲労が色濃く表れていたが、それを連日の戦闘に流石の九條護人も参ってるのだと同行する将校たちは解釈していた。疲労の理由を知っているのは彩峰中将と、護人の副官を務める赤の男だけ。
会議室には既に大東亜連合軍の司令官以下が着席して談笑を交わしていた。彼らは帝国軍の姿を見るや否や、親しげに声をかけて来る。大陸や半島での勇戦、帝国軍の練度の高さに大東亜連合軍は幾度か助けられたことがある。それは帝国軍も同じ。
「アヤミネ中将、あちらの軍人はどのような者だろうか」
幸い国連軍の将校がまだ到着してないこともあって両軍の和やかな雰囲気が会議室を包んだ頃、大東亜連合軍の司令官は見慣れぬ2人の軍人について訊ねた。帝国軍とは違う装いで、何よりも目立つのはその色。蒼と赤を纏う2人は当初より大東亜連合軍の将校から注目を受けていた。
「あぁ、彼らは斯衛の指揮官と副官を務める者ですよフェン中将」
「なんと! 彼らがコノエ、日本の将軍を護る本物のサムライだと。いやはや、あのような若者までいるとは、流石と言うべきか。コノエ部隊の勇戦は我が軍で大いに広まっている、一つ顔合わせをお願いしたいのだが」
隠すことなく告げるその実直さに押されたわけではないが彩峰中将は快く了承し、離れたところにいる護人を招く。
「帝国斯衛軍独立派遣任務部隊、指揮官の九條護人少佐です」
てっきり20代後半だろう赤を纏った男が指揮官と思い込んでいただけに、まだ年若い護人を茫然と見つめる。20には至ってないはずだ、東洋人は欧米人に歳よりも若く見られがちだが、蒼を纏う斯衛の指揮官は外見相応の年齢だろう。
「失礼だが少佐、歳は幾つだね。あぁ、自己紹介がまだだったな。大東亜連合軍朝鮮半島派遣部隊司令官、ハイ・フェン中将だ」
「よろしくお願いします、中将。私は1980年の生まれ、今年で18です。このような若造で大層驚かれたことでしょう」
「九條少佐は将軍家に連なる血筋で斯衛軍でも有数の武人、確かに若いですが貴軍で広まっているという斯衛の勇戦もこの方があってこそですよフェン中将」
日本における武家の理解が浅い外国人のために噛み砕いて彩峰中将が補足すると、合点が行ったのか頷くフェン中将。日本の将軍家に連なるならば斯衛を率いることは理解できる。有数の武人というのも、あながち間違いじゃないだろう。斯衛の勇戦は噂通りなのだから。
「日本の先行きは明るいことだ、少佐のような若者がいるのだからな」
これからも頑張れよ、そう肩を叩かれて会話は終わる。青いBDUを着た国連軍の将校が幾人かやってきて、和やかな雰囲気に包まれていた会議室は緊迫としたものに変わった。
各々が空いた席に着席するのを見届けて、室内の照明が暗転する。その中にあってプロジェクター投影されたスクリーンだけが輝いていた。映し出されたのは、衛星からの映像だろう。草木が生えぬ不毛の大地は平に均されそこがどこだかは分からないが、中国かソ連のいずれかに違いない。何せ、大地を蠢く奴らがいるのだ。
「我が軍、及びソ連軍の偵察衛星によって新たにBETA侵攻の予兆を捉えた。これは今から21時間前、国際戦略目標H18ウランバートルハイヴの物だ。ハイヴ周辺のBETAが活性化、急激にその数を増やしながら南下を開始している」
国連軍将校の物言いに、居並ぶ帝国軍と大東亜連合軍の将校たちは一様に押し黙る。ただでさえ鉄原にハイヴの建設を許してしまい、そこから湧き出るBETA相手に戦線を維持するのがやっとだというのに。
ウランバートルハイヴのBETA群が南下してくれば、間違いなく鉄原ハイヴのBETA群と合流するはず。それは考えたくもない悪夢、いや、悪夢は夢だからまだ良い。これまでの生き地獄が生温い、本当の地獄が朝鮮半島を襲うこととなる。
「大規模BETA群の侵攻目標は未だ判然としません。敦煌ハイヴ、または重慶ハイヴのBETA群と合流し中華戦線へ向かうことも予想されます。確かなのは南下していること、それも83年に東ドイツのエルベ川以東を喪うことになった大規模侵攻と同数のBETA群が、です」
「それでは最低15万のBETAが何処かのハイヴと合流し戦力を増強させてから来ると」
「そうなります」
罪はないけれどもこの忌々しい事実を語った国連軍将校に恨めしい視線が向けられるなか、護人は記憶を手繰らせ83年の大規模侵攻に関してあるだけを思い出す。遡ればそれは、必ず歴史の教科書に習うところまで。
1978年に北大西洋条約機構軍、ワルシャワ条約機構軍合同の一大反攻作戦、パレオロゴスが発動された。今は第4と第5の計画が発動し、当時はまだ第2の計画から導き出された理論を元に
当時の人類は、各国は、人々は、どれほどの希望をパレオロゴス作戦に賭けていたのか。冷戦状態にあった東西両陣営が手を取り合い、一眼となって劣勢を覆すため挑んだこの作戦に。
国際戦略目標H05ミンスクハイヴ攻略を掲げ、各国は主力の30%と引き換えに3か月を掛けてミンスクハイヴ周辺の脅威を排除してこれを包囲した。劣勢の続く人類にとって正に光明であったろう。
しかし、その光明は短く儚いもので終わった。ソビエト連邦陸軍第43戦術機甲師団・ヴォ-ルク連隊がハイヴ内へ突入に成功するも、観測データを持ち出した少数の戦術機を残して数時間後に全滅した。
その後のフランス、西ドイツ政府による戦略の相違、ソ連政府がBETA由来物質の独占を目論み各国で利害の対立へと発展し、総反撃の如く湧き出たBETAを前にして作戦は失敗に終わる。ソ連軍はシベリアへ、その他の欧州各国軍はポーランドへ撤退するがパレオロゴス作戦で醸成された相互不信を決定付ける事件が起こる。
西側諸国の、ポーランド撤退だった。
ワルシャワ条約機構軍を見捨てる形で西欧諸国は本国へと帰還し、またソ連からの援助が減少したことも相俟って東欧諸国は早々にポーランドの放棄を決断することになる。
ワルシャワ条約機構軍は多くの血を流してポーランドを護れず、自分たちを見捨て撤退した北大西洋条約機構軍を恨み。北大西洋条約機構軍はまるで自分たちこそが正義だと言わんワルシャワ条約機構軍の態度へ不快感を露にし。
そして1983年、ミンスクハイヴより湧き出た西欧大規模侵攻の
「もしこのBETA群がここ、朝鮮半島に来るものと考えて国連軍はどうするつもりなのだ」
「迎え撃ちます、将来発動される大陸奪還に向けてこれ以上の戦線後退は認められません」
良く言う、どうせ戦力不足だからと帝国軍に増援を要求するだろうに。しかし、半島が落ちれば次は帝国本土だ。斯衛として、九條の者として、何よりも1人の民間人として引く気は毛頭ない。本土には護るべき民が、愛する娘がいる。
「しかし、戦力はどうする。現状では明らかに戦力不足は否めない。迎え撃つと断言した以上は国連軍に何かしらの策があるのだろう?」
彩峰中将の問いに、初めて国連軍将校は人間らしい戸惑いの表情を見せる。それを見かねてか、代わって発言したのは国連軍の司令官を務める初老の男性だった。
「国連太平洋艦隊の一部、及び帝国海軍日本海艦隊が来援に来るよう現在交渉中だ。それでも戦力不足は否めないが、ここを喪うわけにはいかない。従って、敵梯団に大隊規模で光線級吶喊を敢行、光線級を殲滅後に砲兵、艦砲による面制圧を行いながら機甲部隊の直接火力でもってこれを殲滅することを基本方針とする」
ギャンブルそのものだと誰かが舌打ち交じりに呟いた。護人自身も同じ気持ちだ、鉄原ハイヴのBETAと合流すれば間違いなくその数は膨れ上がる。最低でも15万以上のBETAを相手に光線級吶喊を仕掛けるならば、戦術機の損害は馬鹿にならない。
例え大隊規模で吶喊しても、だ。全ての大隊が光線級までたどり着けるはずがなく、仮に辿り着いて光線級の殲滅に成功しても離脱する推進剤、弾薬が枯渇している可能性も大きい。そしてこの規模の侵攻には間違いなく奴が、重光線級が紛れ込んでいるはずだ。
「殆どの戦術機大隊が定数割れを起こしている、下手すれば2度目の侵攻は防ぎ切れないぞ」
「2度目が来るまでには大規模な増援が来ているはずだ、現有戦力で対処するしかない」
フェン中将の苦言を国連軍の司令官はあっさりと斬り捨て、強引に会議を終了させてしまった。憤懣やるかたない者、納得できなくとも理性では割り切る者など様々な反応を見せるが決まった以上は仕方のないこと。
「麻衣、俺は生きて帰るからな」
83年の大規模侵攻云々はシュヴァルツェスマ-ケンです(一応補足)
さぁて、絶望的な戦いが起こるか、どうなるか、お楽しみに!