波紋の護人 作:嵐壱
『砲兵部隊による
『重光線級の照射は認められず。繰り返す、重光線級の照射は認められず』
『BETA梯団、総数尚も増大中!』
『各戦術機大隊、突撃発起点にて待機。先遣の国連軍4個戦術機大隊は吶喊を開始。各戦術機大隊の吶喊開始まであと240秒』
ヘッドセットから伝わるオペレーターの報告を聴きながら、護人は機体の最終確認をする。と言ってもそれは、半島に来てからの慣例化した行為。整備兵たちは万全に仕上げてくれている、問題はどこにもない。
戦域データリンクでは、既に先遣を務める国連軍の4個戦術機大隊が吶喊を開始していた。先遣として梯団内部の分布状況を後続の本隊へ送り、
護人が率いる斯衛軍の戦力は26機の陽炎だった。半島へ派遣される斯衛軍向けに調整や一部の仕様を変更した上で調達されたそれらは当初36機あった。しかし、精兵と謳われた斯衛と言えども地獄で欠けることなく生き延びることはできなかった。
初陣は皆が無事に生き延びた。1個大隊、36人は誰1人欠けることなく半島での初陣を飾った。けれど、1か月が経つ頃に1人が逝き、3か月で2人が逝き、1人が衛士として再起不能に。半年が経てばとうとう30を下回り、気がつけば10人がいなくなった。7人が九段へ赴き、3人が地に落ちた鳥として本土へ送還され。
「テンペスト各機、聴いてもらいたい」
『各戦術機大隊の突撃開始まで、残り110秒』
何人、逝くのであろうか。この戦いで。
「これまでにない厳しい戦いになる。だけど俺はもう、仲間を喪いたくはない」
言葉通りに都合よく行かないのが現実であると分かってはいても。
「全員、生きて帰るぞ。死に場所を見つけたとか思うなよ? 俺は本土に未来の嫁さん残してるし、お前らにもいるだろ。許嫁、恋人、家族、友人。絶対に死ぬな、これは指揮官としての命令ではない。九條護人としての、俺個人の願いだ」
『残り20秒』
「なぁに、目の大きい妖怪を斬るだけさ。テンペスト各機』
『8、7、6、5』
「斯衛が背負う想い、忘れるんじゃないぞ」
『0』
大地を揺るがし、地を埋め尽くさんばかりの様々な戦術機が跳躍ユニットを吹かし匍匐飛行で吶喊してゆく。不幸中の幸いで、BETA梯団は1つの集団としてまとまっていた。幾つかの集団に別れていれば対処のために戦力を分散しなければならず、各個撃破される懸念があったが1箇所に戦力を集中できる。
上空では光線級の照射を誘因することも兼ねて砲兵部隊がAL弾という名の雨を降らせていた。空間飛翔体を優先的に迎撃する光線属種の性質を逆手に取り、レーザー威力を減衰させる重金属雲を満載したAL弾を砲撃することで戦術機の吶喊を支援する。光線級が迎撃すればするほど重金属雲濃度が増してレーザーが減衰し、戦術機は照射を受けることなく吶喊していく。
大隊単位で吶喊するのも、大規模な梯団の中で長時間交戦が可能だと判断されたためだ。3軍の戦術機大隊は鏃のように梯団の内部を突き進み、奥底に居座る光線級を目がけていく。光線級さえ殲滅すれば、面制圧を迎撃するものはなく15万以上の梯団を殲滅することも不可能ではない。
先遣の国連軍4個大隊から送られてくる梯団の内部情報を頼りに突き進む戦術機大隊。突撃級集団と近接戦闘を繰り広げながらその出口、要撃級集団が群れる集団への道を切り開いていく。
『くそ、思った以上に群れているっ!』
「東ドイツ軍は第一世代機でこの梯団を相手に光線級吶喊を成し遂げたんだ。連中にできて俺たちにできない道理はないだろう?」
不敵に笑って見せたつもりでも、せわしなく瞳を動かしている護人の姿は格好がついてない。おかげで何人かが堪え切れずに笑い出し、護人自身は不貞腐れたようにして頬を膨らませる。
別に本当に不貞腐れたわけじゃない、こうして見せることで少しでも緊張を解きほぐそうとする護人なりに配慮してのことだ。本土に帰って麻衣の顔を拝み、亡くなった叔父に線香を供える。この先の未来があるからこそ、護人はここで死ぬつもりはない。
突撃級はその強固な外殻さえどうにかすれば大した脅威とならない。まぁ、どうにかすることができないのだから脅威であるのだが。
膨大な数の突撃級集団は先遣の国連軍4個大隊と、護人たち数々の戦術機大隊からなる本隊の吶喊により所々で進撃の速度にバラつきが生じ始めていた。そのバラつきが僅かな隙間を生み出し、そこをこじ開けようと戦術機大隊は突破を図ろうとしている。
『正面に突撃級、数30!』
「大した数じゃない、無理矢理にでも通らせてもらう!」
護人の駆る右肩が蒼い陽炎を戦闘に3機の陽炎が続く。突撃砲の弾種を120ミリ散弾に変更、目標は外殻に覆われていない柔らかい脚。4機の陽炎から続けざまに放たれた散弾は迫り来る突撃級の脚を粉砕する。肉片を飛び散らせ脚を止める個体に後続の脚も止まり、その隙をついて悠々と大隊は通り過ぎていく。
突撃級が転身を図り追撃してくることは統計上確認されていない。まして補給が望めないこの状況下、弾薬は少しでも節約したいためわざわざ止めを刺す必要もない。
戦域データリンクへ目をやり、思わず眉を寄せる。友軍の損害が多いのではなく、先遣の国連軍4個戦術機大隊からもたらされる情報の更新頻度が先ほどよりも落ちてきているからだ。4個戦術機大隊、定数を満たしていてもその数は144機。そしてここは最前線、定数割れが普通だ。
もし先遣から送られてくるデータが途切れれば、あとは自分たちで最適なルートを判断していくしかない。先遣の4個大隊は光線級吶喊に長けた部隊であるが故に先遣を任されたのだ、そう易々と壊滅することはないと信じたい。
『テンペスト1、もうすぐで突撃級集団を』
「あぁ、抜けるな」
突撃級の分布密度が薄くなり、足元を群れる小型種の数が散見される。早いところでは、既に要撃級を中核とした中衛集団と交戦状態に入った大隊もあるようだ。
早く行かねばならない、胸の内で小さな焦燥感が芽生える。流石に全ての戦術機大隊が抜けることは不可能だとしても、突撃級集団を突破すれば遮る存在はない。光線級吶喊を成功させねば、突撃級集団が到達し無防備な地上兵力は蹂躙の憂き目にあう。
予備兵力など存在しない。稼働する戦術機の全てを光線級吶喊に賭けたのだ。今は亡き東ドイツの地では、堅牢な要塞陣地を構築したことで地上兵力でも長時間の耐久を東ドイツ軍は可能としたが、ここにそのようなものがあるはずがない。
左手を突き進んでいた帝国軍第371戦術機甲大隊がAL弾を迎撃しなかった光線級の照射を浴び信号弾による救援要請を出しているが、同胞と言えども向かうことは許されない。
「……すまない」
ーーお前たちの分も背負って行くからーー
やがて飽和状態の回線に紛れ込む日本語の絶叫、振り返ることはしないがそれだけで第371戦術機甲大隊が辿った運命を推し量れる。
『約一個中隊程度の生き残りはその場に留まり、囮役をするようです』
データリンクによると、戦術機は不知火と撃震が合わせて9機。友軍を示す青の光点が孤島のようにBETAを示す赤一色の光点に残されていた。残された衛士たちのデータを陽炎のログに記録し、いざというときのために備えておく。
「第371戦術機甲大隊の挺身に報いてやらなきゃな」
まずは、要撃級を狩ることで。眼前にはしわがれた顔に近い器官を持ち、戦術機の装甲を一撃で大破状態にまで追い込む強力な前腕を持った要撃級たち。彼方では黒煙と断続的に砲声が鳴り、吶喊した部隊は今もなお進撃を続けていることが確認できた。
データリンクで確認してはいるが、自分の目と耳で確かめる方が良い。そこに味方が生きてまだいることは確かなのだから。
「テンペスト各機、
『承知っ!』
梯団の中衛に吶喊した戦術機大隊は5個、そして既に3個大隊が突撃級集団の突破を断念、或いは突破ならずに壊滅している。先遣の国連軍4個戦術機大隊は要撃級を相手にしながら最奥まで近いようだが、既に2個大隊の信号が消失していた。
右手を併走する大東亜連合軍第227戦術機大隊は後続の吶喊を支援するために敢えて残り、進路を確保するらしい。後続の国連軍第76戦術機甲大隊と左手の帝国軍第23臨時集成戦術機大隊も突撃級集団の突破を果たそうとしている。
『リッカー1よりテンペスト1、光線級を頼む。お前たちなら、コノエ部隊のブシなら殺ってくれると信じている! 俺たちが退路を確保しておく、絶対に帰ってこいよ』
『リンクス3よりテンペスト1、こちらもだ。後ろは気にするな、推進剤が尽きれば俺たちが抱えてでも連れ帰る。安心して突き進めっ!』
「承知した、感謝する……その代り、俺たちを必ず連れ帰させてくれよ? 俺、今度国に帰ったら結婚すんだからな」
リッカー1は大東亜連合軍第227戦術機大隊、リンクス3は恐らく戦死した大隊長に代わって国連軍第76戦術機甲大隊の指揮を執っているのだろう。
『知ってるかテンペスト1、そういうことを言う奴に限って死んでしまうジンクスがあるんだよっ!」
「だからこそ、だ。俺は絶対に死なないって戒めだよ」
併走する、または後続の思いを受け取りながら、斯衛はいよいよもって要撃級集団との戦闘に突入する。目標はこの先にいるのだから。
『ははっ、護人様。まさか今年中に婚姻するとは聞いておりませんでしたよ』
「あ、誰が今年中と言った。今度国に帰ったときだよ、それが何時になるかは分からないけど少なくとも半島が危機的状況を脱した後だな!」
半島へ赴く前、丁度昨年の今頃だったか。兄貴分として慕う野心にカシュガルまで攻め落とす心意気でかかれと発破をかけられたっけ。同時に、気負いすぎるな、と。今の自分はどうなのだろうか。気負いすぎているのか、それすらも分からぬ。多くの命が散る様を見届け、また天命という名の抗えない運命により逝った叔父の死。
背負うモノは多い。散って逝った者たちの想い、斯衛が光線級を殲滅すると信じて退路を確保するために留まってくれた友軍。報いなければ、応えなければ。いや、ければじゃない。報いるんだ、応えるんだ。
そう、新たな決意を刻んだときにソレは起こった。
『な、第9戦術機大隊が一瞬にして消えただとっ! グリント1、おい、グリント1、ダヴェン、応答しろ、おいっ!』
飽和状態の回線が一瞬だけ静まり返り、やがて多くの問いかけや遺言、絶叫が溢れかえる。データリンク上では遂に中衛の突破を果たした最後の先遣部隊、第9戦術機大隊の残存機体が一瞬にして消滅していた。激戦を潜り抜けて尚も20機近く残存していたはずなのに。
更に中衛へ吶喊した1個大隊が姿を消す。そんな中、護人だけが言葉を発することなく上空に輝く、そして遥か彼方の地平で連鎖する光芒を認めた。極太の、重金属雲の影響を受けない光芒を。
「重光線級……っ」
光線級を遥かに超えるレーザーを持ち、外皮は要塞級並に固く有効打を与えるには戦術機の持つ突撃砲では難しい。要塞級を仕留めるには120ミリによる結合部への集中射、機甲部隊による砲撃、対艦ミサイルや艦砲の直撃でもしない限りは成しえない。
『サベージ1よりHQ、重光線級のお出ましだ! 既に2個大隊が喰われている、重金属雲濃度を上げてくれ。でなければ狙い撃ちにされるぞ!』
現在の重金属雲濃度では光線級のレーザーこそ減衰できても重光線級には無意味だ。しかし、これ以上濃度を上げればデータリンクに異常を来す恐れがある。第二世代機はさほど影響を受けないだろうが、多数が現役で運用され続けるF-4、撃震など第一世代機はそうもいくまい。
直後、網膜上に多数の警告、何よりも光線照射の赤い文字が躍り出る。同時に前面の要撃級集団が左右に別れようと動き始めーー。
「っ、各機要撃級を盾にしろ! レーザー照射が来る!」
言うよりも先に陽炎の跳躍ユニットを吹かしギリギリのところで要撃級を盾にすることができた。瞬間、大気を震わせる極太の閃光が一直線に放たれ、そして。
そして、閃光に触れていないにも関わらず5機の陽炎が跡形もなく消滅した。
『ゆ、幸平ァっ!?』
『光線級よりも威力が高いと聞いていたが、掠りもせずに戦術機が消滅するだと!? この化け物がっ』
回避が間に合わなかったのか、だが撃震ならいざ知らず機体は第二世代機の陽炎だぞ。衛士も半島を共に生き抜いてきた精鋭。照射の範囲が広すぎるのか、回避が間に合わないほど狙いが正確なのか。
過剰に張られた重金属雲により一部の戦術機大隊と通信が切断、しかし極太の閃光は未だに地上を奔りともすれば光芒となって空にも向けられている。データリンクに影響を与えるほどの重金属雲濃度ですら、さしたる減衰が見受けられない。
照射源を光芒の位置、光線級の位置とを照らし合わせ戦域データリンクへと反映させる。光線級が群れる更に向こう、最低でも10体の重光線級がいることは確かだ。その事実を知り護人は暫し愕然とする。重光線級の照射を避けながら光線級を殲滅し、更に要塞級を突破して重光線級を撃破しなければならないことに。
「今は前を見ろ! 悲しむのは後だ、でなければ俺たちも遺体を残さず逝くことになるぞ。弾薬、推進剤は考えるな、重光線級の下へ到達することを考えろ! 帰りの分は気にするな、国連軍の戦術機大隊が俺たちを連れ帰ってくれる」
約束したリンクス3は先ほどの照射により反応を消失したが。指揮官を立て続けに喪い、重光線級が登場してもなお第76戦術機甲大隊の統制は乱れていなかった。それだけの練度を持つのなら、確実に生き延びて自分たちを拾ってくれるとの確信がある。
36ミリの斉射を要撃級に喰らわせながら、
『バロー1よりテンペスト1、一足先に光線級の下へ行かせてもらう。俺たちがしくじった時は頼んだぜ!』
「バロー1、できれば光線級を全て仕留めといて欲しいんだが。重光線級を俺たちは叩く」
『はっ、無茶な要求だ。1個大隊が今や7機だぞ。だが、了解した。あんたらなら重光線級を殺ってくれるはずさ』
『こちらサベージ1、俺たちも光線級の下へ辿り着く。道は空けておいてやる、その代わりしくじったらただではおかんぞ。大隊各機、46大隊の残余と共にこれより光線級吶喊を開始する! 重光線級はコノエが仕留めてくれる、俺たちが連中の道を切り拓くんだ』
大東亜連合軍のF-18Cが照射を諸に浴びながらも光線級の下へ続々と吶喊していく。全ては斯衛に道を空けるため。斯衛ならば仕留めてくれる、その確かな想いと共に彼らは死を恐れていなかった。立ち塞がる光線級と要塞級に少しでも穴を穿てば、そこから斯衛が向かってくれると信じて。
「テンペスト各機、聴いてたな。俺たちは多くの血を、命を、想いを背負っている。彼らのためにも、絶対に重光線級を仕留めるぞ! 各機隊形を維持し、
突撃級集団は地上部隊に迫りつつある。重光線級の照射は後続に向けられており、損害が拡大していく。中衛に吶喊した大隊がいようとも、そこから光線級の下へ向かうことは厳しい。なればこそ、大東亜連合軍の戦術機大隊が命を賭して道を切り拓いてくれる今しかチャンスはない。
最初にして最期、最大のチャンス。失敗すれば戦線は崩壊し大勢の命が亡くなり、BETA梯団は帝国本土へと向かう。最悪の事態だけは避けねばならない、死に場所を見出したわけじゃないがそれこそ命を捨てることも前提に。
ーー麻衣、俺は絶対に帰ってくるからなーー
『コノエ部隊! 道は切り拓いた、後を、俺たちの
最後の光線級を殲滅し終え、要塞級を相手に無理矢理こじ開けられた隙間。F-18Cの殆どが損害を追い、中には跳躍ユニットを喪った機体もある。帰還は絶望的、そうまでして託された想いを無駄にできるはずがあるか。
「この大任、九條護人の名に懸けて必ずや成功に導いてみせる」
今生の別れ、1機のF-18Cが要塞級の鞭に跳ね飛ばされるがひしゃげた腕は最後まで突撃砲のトリガーを引いていた。跳躍ユニットを破損し、けれど戦車級に喰われることを良しとしない1機は枯渇寸前の推進剤を全て用いて跳躍ユニットを臨界寸前まで出力を上げ自爆する。
1機、また1機と散り逝く戦士たち。彼らは身命を賭して斯衛の道を切り拓いた。彼らだけじゃない、自衛するだけでも困難なはずの損害を負った戦術機大隊が、帝国軍、国連軍、大東亜連合軍の違いを超えて吶喊してくる。飽和した回線において唯一聞き取れる単語は斯衛と後を頼んだというもの。
重光線級を狩ると信じて斯衛を送り出した彼らは、斯衛のために退路を確保しに来たのだ。既に満身創痍、下手をすれば自分たちが帰れなくなるのに。
『行けコノエっ! サムライ魂を見せつけてやれ!』
『あんたたちに助けられた命なんだ、ならばあんたたちの為に使う!』
『重光線級殺しは東ドイツ人でも、まして白人の得意芸じゃないことを証明するんだ、コノエのブシ!』
『九條少佐、あなたならば我らが明日を、光を掴み取ると信じておりますっ』
『無事に帰ってきたら指揮官の惚気話を皆で聴くぞっ! 日本に帰ったら結婚するらしいからなっ』
斯衛に近づく要塞級や要撃級を排除し、斯衛を狙った重光線級の照射に巻き込まれようとも。朝鮮半島の、後ろにある帝国の未来を斯衛に賭けて。
『重光線級、数は15!』
周囲の要撃級が退路を確保してくれている味方に排除されるなか、悠然と佇む単眼の怪物。全ての瞳が照射を止め、猛然と突っ込んでくる斯衛を捉える。
「各機、
幾度目か分からない予備照射感知警告音を耳にしながら、21機の陽炎は舞うようにして突撃砲の砲口を向ける。BETAへの抱く様々な思いを、ここに辿り着くまでに背負った想いを、この一撃に宿して。
「撃てぇっ!」
連続した砲声と重光線級の照射は同時だった。盾にできるBETAは少ない、斯衛を重光線級の下へ送るために周囲のBETAを排除した弊害であった。
回避が間に合わず2機が消え去り、1機も運悪く要撃級の強力な一撃を管制ユニットのある胸部へ貰いバイタル消失。視界の片隅にそれを抑えながら、
「東ドイツ軍が重光線級と初めて殺り合ったとき、長刀で目玉を抉り出した猟奇的な衛士がいたんだっけな」
こんな時であるというのに、何故かそれを思い出して。腹部の表皮が粉砕され大量の体液を撒き散らせた重光線級の単眼に74式長刀を、一閃。膜のようなもので眼球を保護する暇もなく、74式長刀の一閃によって粉砕された。止めを刺さなくとも、レーザー発振器官の眼球さえ潰せば無力化したも同然。
予備照射感知警告音が絶え間なく響き渡り、掠らなくとも戦術機を消滅させる極太の閃光が至近より襲いかかる。またしてもそれを躱した陽炎は照射のインターバルを利用して手近な重光線級へと接近する。眼球を襲ってくるものとして膜を展開させたまでは良かったが、それがこの個体にとって不運となった。
光線属種は決して誤射をしない。言い換えれば同じBETAに対して照射をしない。光線級吶喊中にBETAが左右へ別れるのも、光線属種が照射を行うため。
それを逆手に取り右肩の蒼い陽炎は、護人は眼球を膜で覆った個体を盾とした。一時的であれ膜を閉じたのならば照射の危険はない、他の個体からの照射を機体が感知しようとこの個体を盾にする限り警告音は響かない。
兵装担架に積んであるもう一門の突撃砲を稼働させ、右手に保持する突撃砲の弾種選択。先ほどと同じ120ミリ
久方ぶりに聴いた予備照射感知警告音が鳴る。つまりは、今至近距離より砲撃を加えた個体は完全に息絶えたということ。重光線級を無力化しただけでない、初めて撃破したのだ。
『護人様、ご無事ですか!?』
「1体無力化、1体撃破したところだ。機体は無理させ過ぎてちょいと悲鳴を上げてるけど」
それでも、残りの重光線級を狩る間は保ってほしい。15体いた重光線級のうち無力化した数は6、完全に撃破した数は護人の仕留めた個体のみ。
周囲に群がるBETAの密度が俄かに高まり、照射を避けても要撃級の一撃を貰いかねない。手腕を破損した陽炎も見受けられる。護人たち斯衛を迎撃するために照射されるレーザーの余波に巻き込まれ、退路を確保する戦術機の何機かがまたもや消滅していた。
弾薬、推進剤、衛士、全てが限界に近かった。斯衛が6体もの重光線級を無力化したが、まだ9体も残っている。突撃級集団の先鋒は、地上部隊の目と鼻の先まで迫っていた。残された時間も少ない。
斯衛の残った陽炎は17機。新たに2人の衛士が機体諸共消え去っていた。
『護人様、意見具申。残った我ら全員で近接戦闘を仕掛け、この一撃で仕留めましょう。退路を確保してくれる友軍の限界も近いです』
「駄目だ、まだ数が多すぎる。もっと数的優位を作り出してからだ」
『しかし』
尚も言いつのろうとする譜代の衛士に、有無を言わせぬ口調で護人は厳命する。
「駄目だ、斬り込みは最後の手段とする。失敗すればそこで終わりだ、今は砲撃戦で確実に数を減らす。それに」
既に慣れたとはいえ冷や汗を搔く極太の閃光を、蒼き陽炎は
それをこの若き武人は、難なくやって見せた。陽炎は同じことができるのならば構わないと言外に告げている。護人にできたのであれば不可能ではないのだろうが、あの斑鳩公が駆る試作機を相手に瑞鶴で相手取った腕を持つ衛士と同じことをしてみせろと言われてできるだろうか。
「俺みたいに照射を躱せる訳ないだろ、奥の手は最後まで取っておくものさ」
だから、と護人は続ける。砲戦で無力化できなくとも損傷を負わせた個体は自分で止めを刺すからと。その言葉に武士たちは唖然とし、悪戯好きの小僧みたいな微笑みを湛える護人を見て納得してしまった。九條家のやんちゃ坊主ならばやるだろう、と。
実際に照射を躱す様をこの目で見れば信じるしかあるまい。自分たちをここまで信じて送り出してくれた者たちのように、我らも九條護人を信じようではないか、と。
「なら、援護射撃も頼むな。なあに、俺は死なないよ。言ったろ、俺には麻衣がいるんだって」
この戦いを終わらせる。120ミリの砲撃を受けながらも予備照射は感知されていく。全てがただ1人突っ込んでくる護人へと向けられて。照射を躱し、単独で重光線級1体を無力化、もう1体を撃破した九條護人を重光線級は最大の脅威と認識したらしい。
9つの単眼が、護人を捉える。砲撃を受け実際に照射できたのは4体、だが4つもの閃光が無慈悲にも護人を襲った。ロケットモーターを天下し、左手に構える長刀を地面へと突き立てることで強引に照射を回避し、
1体が集中砲火を受け体制を崩したのを確認すると、その個体の軸上に躍り出ることで他の個体からの照射を避ける。抉られた腹部へと照準を合わせ、120ミリ徹甲榴弾を2門の突撃砲から同時に放つ。それぞれ2発ずつ計4発、体内へと吸い込まれた砲弾は炸薬を起爆させ内側より重光線級の命を狩り取った。
「残り8!」
差はあれど殆どの個体が砲戦により傷を負っているのを認め、120ミリ
まるで学習してるのか、元よりその程度の知能はあるのか。いや、あくまで戦闘に最適だからこそ取った判断か。何にせよ、通常ならば動きが止まる部分を強引に動かし続けてもいるため、いよいよもって機体の限界も近づいていた。
120ミリの弾倉が尽きた右腕の突撃砲を投棄し、両手に構えた長刀を右下段より120ミリ
「各機、抜刀! 一気に片をつけるぞ!」
残り7体、1体を護人が相手取るにしても残りは6体。16機の陽炎でかかれば無力化は可能と判断し、突き刺さったままの長刀を引き抜く陽炎。右肩の蒼は体液に汚れ蒼黒く変色し、各部のフレームも悲鳴を上げている。先は長くない。
「あと7体、せめて1体はっ」
推進剤残量が危険域に達するが構うことなく重光線級へ斬りかかる。流石に機体の限界から躱しきることができず左腕が消滅し、追い討ちをかけるように消滅した左腕部から推進剤が漏れ出ていた。まだ戦える、景気よく吹き飛ぶ程度の推進剤も共に。
突撃級集団の先鋒が地上部隊の前面にまで迫り、機甲部隊が砲撃を開始した。他方、各戦術機大隊の損耗率は全滅と言って良い域に達しつつある。
「何人お前たちに殺された、お前らの下へ俺たちを向かわせるために何人が死んだ!」
身体も機体も限界が訪れたことを自覚しながら、血が逆流してくるのをどうにか抑えながら。叫ばずにはいられなかった。見捨てざるを得なかった同胞がいる、己の命と引き換えに道を切り拓いてくれた者たちがいる、そして今もなお重光線級を殲滅することを信じて退路を確保するために戦い続ける仲間たちがいる。
データリンク上でまた仲間の光点が消えた、重光線級も同時に。
「俺たちを、人類を見くびるなよ糞ったれのBETAどもが!」
長刀を振り上げた陽炎の頭部センサーユニットと、重光線級の忌々しい眼球と、眼と、視線が交差したかに見えて。
「斬り裂け、陽炎ぉおぉっ!」
極太の閃光が視界に広まったのと長刀を振り下ろし、同時に跳躍ユニットの出力を限界まで上げたのはどちらが速かったか。閃光に包まれる瞬間、愛する娘の名前を言おうとした護人の口元が最期まで言葉を紡ぐことはなかった。
武ちゃんでもない限り重光線級を相手に無双はできるはずがありません。
大東亜連合軍は他にF-4、F-5系統やMiG-23、MiG-25を運用してるかなぁと。TEのガルーダ小隊がホーネット運用してたのでF-18Cしか作中では描写しませんでしたけど。
F-18E、在日米海兵の機体しか……第103戦術歩行戦闘隊のF-14Dと共闘する海軍のF-18Fってのも良い……。