駆逐聖姫 春雨   作:隙間風

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艦娘の設定ミス修正。


STAGE_06 遊撃・後編

 

 

 

 

嵐の夜。睦月型で構成された駆逐艦隊は、輸送任務の最中に深海棲艦の襲撃を受けていた。

それも水雷戦隊ではなく、戦艦と重巡を中心とした重打撃部隊である。

 

「まずいよ! もう弾薬が……」

「くっ、無駄撃ちが過ぎたか……もう少し私に力があれば……!」

「嵐の中でこれだけドラム缶抱えてるんだもの。性能が落ちるのは覚悟してたけど……」

 

彼女たちは皆練達であった。

この状況下で、損害がいまだに囮役の菊月と如月がそれぞれ小破したのみ、というのがそれを物語っている。

通常であれば何も問題は無かった。

旧型艦ゆえの性能の低さも、突発的に訪れた劣悪な天候も、大型艦との戦力差も、輸送任務ゆえの装備の不足も、補えるだけの錬度が彼女たちにはある。

……だがその全てが揃うとなると、さすがに少々以上に厳しいものがあった。

 

「弱音を吐くな! 生還が最優先事項だ。いざとなったら積荷を捨てて全速で突破するぞ!」

「あーもー、せっかくうーちゃん頑張って資材集めたのにー」

「仕方が無い。背に腹は、代えられない」

 

旗艦の長月が鼓舞する。

彼女たちの提督は、艦娘そのものこそが深海棲艦との戦いにおいて至上の財産であり切り札であると考える人間だ。

資材に余裕が無いわけでもないのに、一度の輸送任務の成否にこだわり艦を轟沈でもさせたら、決して許しはしないだろう。

皆、さしたる未練も見せずに資材を満載したドラム缶を投棄しようとしたその時。

 

『……!?』

 

戦艦級の深海棲艦が、何処からか飛来してきた魚雷の直撃を喰らい、為すすべもなく爆沈していった。

 

「……え?」

「ひょっとして、救援?」

「いや、それにしては何か妙だ」

 

救援ならば何故こちらに通信しようとしないのだろうか。

嵐とはいえ魚雷が届く距離ならば問題なく可能なはずだ。

 

謎の艦娘は深海棲艦のさらに向こう側にいるらしく、夜の闇と嵐に紛れ姿はよく見えなかった。

その艦娘は奇襲の勢いのまま重巡どもに突進、突然の旗艦の轟沈に動きの鈍くなったソレらを高い機動力で翻弄し、次々と魚雷を叩きつけて沈めて行く。

そこでようやく姿を捉えることができた。

 

生気のない青白い肌に、どこか有機的な漆黒の兵装。

そして何よりも、切断された足に括られた、顎を持つおぞましい形状のホバーユニット……。

艦娘ではない!

 

「し、深海棲艦!?」

 

誰かが発したその叫びに、瞬く間に打撃部隊を壊滅させたソレがぴくりとこちらに振り返る。

顔には雷巡級深海棲艦のものと思われる仮面が被せられていたため、表情を確認することは出来なかった。

 

「……来るぞ!」

 

まずい。

何故深海棲艦が同士討ちなどしているのかは知らないが、状況はむしろ前よりも悪化していると長月は判断した。

夜戦とはいえ瞬く間に戦艦や重巡を沈めたその戦闘力も脅威だが、あの機動力が相手ではたとえ積荷を捨てても逃げ切れない。

ここで決着をつけるしかない。

最悪の事態も覚悟し全艦で吶喊する決意を固めた時。

 

「……え?」

 

謎の深海棲艦はホバーを吹かしてその身を軽やかに反転させ、そのまま嵐の夜の闇へと消えていった。

去り際に仮面の下から除く口元が微かに微笑んでいるのを長月は見た、ような気がした。

 

 

 

CASE 07

 作戦名:東京急行

 旗艦:駆逐艦長月

 判定:A

 成功

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐聖姫 春雨

STAGE 06 遊撃・後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正規空母飛龍率いる空母機動部隊は珊瑚諸島沖に出撃していた。

南方海域における制海権をより確固としたものにするために、残存敵部隊を捕捉、殲滅することが目的の作戦であった。

その作戦はつつがなく終了し、現在帰路についていた。

小破者すら出さない、激戦区である南方海域での作戦としては稀に見るほどの快勝であったが、艦隊の面々の顔は今ひとつ晴れていなかった。

 

「何か今日の海、おかしかったよねー。

 楽はできたんだけどさ、何か不気味……」

 

僚艦の一人、重雷装艦の北上がぽつりとつぶやいた。

そう、おかしかったのだ。

まず敵の数が想定よりも遥かに少なかった。

そして、出会ったとしても敵艦隊のことごとくが半壊していたのだ。

今回の作戦の最大目標である深海棲艦の上位種、装甲空母姫に至っては、出会った時点で中破相当の損害を受けていた。

 

「ひょっとして、私たちの前に他の艦隊が出撃していたのでしょうか?」

 

同じ重雷装艦の大井が首を傾げる。

その可能性は高かった。

司令部の数は多く、艦隊同士で作戦がかち合うことは稀にあることだったのだ。

 

「ま、帰還してから提督に確認すればいいことよ」

 

結果的に状況が悪い方向に転がったわけでもなかったので、飛龍はそれ以上考えることをやめにした。

 

 

 

 

 

帰路の途中、もう一人の正規空母である蒼龍は飛龍にこっそりと尋ねた。

 

「ところでさ飛龍。何でさっきのアレ見過ごしたの?

 飛龍の判断だからとりあえず信じたけどさ」

「ん? ああ、蒼龍も気付いてたんだ」

「うちの江草隊は索敵も偵察機並みにこなすからね。

 そっちの友永隊だって見つけてたんでしょ?

 たった一匹しかいなかったみたいだけど、下手したら挟撃されてたかもよ?」

 

アレというのは作戦中に二人の艦載機が発見した一体の深海棲艦である。

その深海棲艦は珊瑚諸島にある一つの小さな島の中、砂浜にて眠りについていた。

ソレは両足を腿から喪失しているという痛々しい姿とは裏腹に、とても安らかな寝顔だった。

例えるならそれはまるで、一仕事(出撃)終えてから入渠(バケツ)を済ませ一杯(燃料缶)やった後のような、実に清々しい爆睡っぷりであった。

……ように見えた。

 

何とも気の抜けるような有様ではあったが、深海棲艦は深海棲艦である。

たった一匹とはいえ魚雷の一撃で大破も轟沈も十分に有り得るのだ。

慢心は厳に慎むべきであった。

 

「うーん……。私も最初は叩くつもりだったんだけどさ」

 

飛龍が首をかしげながら言葉を切り、やがて自信満々の笑顔で蒼龍に告げた。

 

「多聞丸がね、言ったのよ。"アレは味方だから気にするな"……って」

「あー……なるほど。山口司令が言ったなら仕方ないわ、うん」

 

正直何だそれはと思わないでもない。

かつての司令官の渾名を口にする飛龍に、蒼龍はまた始まったよ、と内心で溜息をついた。

まあ多分飛龍の頭の中にいる妖精さんのようなナニカなのだろうと蒼龍は諦めもとい納得することにしている。

 

自分の姉妹分とも言える相手に随分な感想を抱いている蒼龍だが、これでも絶対といえる程度の信頼は抱いてもいるのだ。

でなければ艦隊の命運がかかっていたというのに、深海棲艦が味方だなどという戯言をスルーしたりはしない。

 

蒼龍が知る限り。

飛龍がかつての司令官の名前を出した時、どのような状況であっても判断を間違えたことはなかった。

 

(そういえば江草隊の妖精さんの報告もなんか曖昧だったなぁ。

 深海棲艦だけど深海棲艦じゃないとかなんとか。

 確かに深海棲艦が陸で寝てるところなんて初めて見たけど。

 リンクして姿を確認した限りじゃ、どう見ても深海棲艦にしか見えなかったんだけどなぁ……)

 

まぁ妖精さんはある意味艦娘以上に不可思議な存在だ。

妖精にしかわからない何かがあるのかもしれない。

 

(妖精さんといえば一航戦の赤城さんも頭の中に何か飼ってるみたいだし。

 ひょっとして私や加賀さんの中にもいたりするのかな……)

 

それ以上想像すると怖いことになりそうだったので、蒼龍は考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

……司令部への帰還後、飛龍たちは知ることになる。

この日。先の嵐の影響で通信に障害がかかっており、前線の司令部間での情報伝達が遅れているところがあったことを。

そして飛龍たちの前に出撃した艦隊などおらず、それどころか当時作戦海域において、敵の潜水艦隊や打撃部隊、対空迎撃部隊などが当初の想定よりもだいぶ多数配備されていたことを。

 

もしも情報無しにぶつかっていれば、大打撃を受ける事は免れなかっただろう。

そして、だからこそ司令部や飛龍たちは青ざめながらも当然の疑問を抱いた。

 

「そんなものはいなかったはずだ」

 

……と。

 

飛龍たちが思い当たるのは半壊した主力部隊をはじめ、海域の所々に見え隠れする交戦の跡だった。

そしてその主力部隊にいた上位深海棲艦、装甲空母姫の断末魔である。

彼女は自分たちでない誰かを見据えながら、確かにこう言った。

 

『ウラギリモノメ……!!』

 

……と。

しかしこれらの情報と、孤島にて能天気に眠りこける変わった深海棲艦とを関連付けられる者は、今の時点では皆無であった。

 

 

 

 

 

CASE 15

 作戦名:珊瑚諸島沖海戦

 旗艦:正規空母飛龍

 判定:S

 完全勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南方海域サブ島沖での激戦の中消息を絶ち、生存が絶望視されていた軽巡洋艦神通。

彼女が近隣の泊地にて保護されたという報告を受けたのは、嵐が去った数日後の事だった。

 

「神通、ただいま帰投しました」

「うむ。貴艦の生還を心より喜ばしく思う」

 

普段より滅多に厳つい表情を崩すことの無い鉄の男が、この時ばかりは安堵の表情を隠せていなかった。

負傷により陸軍から転向してきたという変わった経歴を持つこの提督は百戦錬磨の叩き上げである。

初老の域に差し掛かっても鍛えられた肉体は衰えを見せず、陸軍にいた頃は生身で深海棲艦を屠ったなどという噂話まであった。

提督業に就き、一からやり直しとなってからも黙々と己の業務に励み、着実に戦果を上げ続け、そして今では元帥の地位にある。

艦娘が戦場の主役となった現代において、英雄と呼ばれる数少ない人間の一人であった。

 

「治療の際、記憶に一部障害があると報告を受けているが……」

 

いつになく気遣わしげに聞いてくる提督に若干の面映さを覚えながらも、神通は表情を改めた。

 

「……申し訳ありません提督。あの場では一部虚偽の申告をしてしまいました。

 これを私の一存で公にしていいことなのか、判断することが出来なかったのです」

「……何があった」

 

ただならぬ事情を察し、即座に鉄人の雰囲気を纏う提督。

 

「…………」

 

神通はしばしあの夜の出来事をを頭の中で整理する。

提督も急かすことなく話の続きを待つ。

 

「……私を轟沈の間際から救ったのは、深海棲艦でした」

 

そうして神通はあの夜に何があったのかを語り始めた。

 

 

 

 

 

南方海域の制海権を賭けて戦う上で最大の鬼門となったサブ島沖。

十重二十重と張り巡らされた深海棲艦による防衛線は長い間歴戦の提督たちをも苦しめた。

各鎮守府の艦娘たちを総動員させ、夜戦による一点突破を幾度も試みることで最終的にどうにか制圧には成功した。

しかし深海棲艦も再度奪い返さんと襲撃を繰り返す。

依然この海域は激戦の続く南海最大級の超危険海域である。

 

「不覚、というわけでもありませんか……」

 

艤装は完全に損壊し肉体もまた満身創痍の軽巡洋艦神通は力なく海上を漂っていた。

嵐の夜にまぎれ突如サブ島沖に襲撃してきた深海棲艦の大群。

警邏および残敵の掃討任務についていた神通率いる第二水雷戦隊は、艦隊でも極限に近い練度を誇る精鋭中の精鋭である。

警戒を怠るようなことは有り得ず、嵐の中でも襲撃自体はたやすく察知できたし、逆撃を仕掛け多数の深海棲艦を撃破もした。

 

神通は旗艦として僚艦を指揮しつつ誰よりも勇猛に戦った。

中、大破者が増え継戦の限界を悟ると殿を務め、さらに多くの深海棲艦を嵐の海に沈めた。

しかし、あまりにも多勢に無勢であった。

 

沈めても沈めても次々と現れる海の怨霊ども。

現れる艦種はバラバラで編隊すら組んでいなかった。

考え無しにただ物量を叩き付けただけの、仮に人間同士の戦争で行ったなら、歴史に残るような愚策であり愚行であった。

もっとも、だからこそ少数で増援の艦隊が到着するまで渡り合うことができたのだが……。

 

代償として今、神通は南海にて沈もうとしていた。

仲間の離脱を確認した後、死中に活を求め敵陣に単身吶喊し中央突破に成功した神通は、だがついにそこで力尽きてしまったのだ。

なまじ敵陣奥深くまで切り込んだために、不運な事に味方の索敵網にも引っかからなかったのだ。

 

「皆は無事に増援と合流できたでしょうか……」

 

その時、どこからともなく声が聴こえてきた。

奈落の底から響くような、生気の感じられない、しかし生者の感情は確かに込められた不思議な声。

 

『アアモウ、疲レマシタ……。砲弾モ魚雷モスッカラカンデス。

 一体何ダッタンデスカ、アノ深海棲艦ノ大群ハ……』

「…………」

 

神通は精魂尽き果てていたが、首だけを辛うじて傾け、声の主を探した。

 

『ナンダカ私達ガ行ッタ夜戦突破作戦ヲ中途半端二真似タヨウナ――ウン。

 ――ソウソウ、アノバケツ飛ビ交ウ大破祭リ大作戦ニハ私モ何度カ参加サセラレ…………ッテ?』

「…………」

『…………』

 

神通は今度こそ不覚を覚えた。

今わの際とはいえ、深海棲艦を前にこのような荒唐無稽な幻聴を耳にしてしまうとは……。

だが神通を見下ろす深海棲艦は幻覚というわけでもないらしい。

 

「姉さん、那珂……後は頼みました……」

 

己の最期を悟り、神通はゆっくりと目蓋を閉じた。

 

『ダダダ、大丈夫デスカー!?』

 

 

 

 

 

次に神通が目覚めたのはとある孤島の浜辺だった。

 

「…………え?」

 

冷静な神通もさすがに状況を飲み込むことが出来なかったが、とにかく身を起こし身体の状態を確認する。

轟沈寸前の損壊を受けていたはずの身体と艤装はほぼ修復されており、気だるさは残るものの身体を動かすにも支障はなかった。

辺りを見渡せばそこには空になった修復剤(バケツ)があり、中には燃料缶と弾薬が少々入っていた。

 

「これは、一体……」

 

島には見覚えがあった。

確かこの付近に、自分の所属する所ではないが味方の泊地が存在したはずだ。

 

「…………」

 

ここで神通は昨夜の記憶を思い出す。

深海棲艦の大発生、力尽きた自分、そして……。

神通は再度バケツの中の燃料と弾薬を見る。

南方海域で動き回るにはまったく心許ない量だが、近場の泊地まで辿り着くには十分な量。

 

「……そういう事、なのでしょうか?」

 

どうにも自分だけでは判断できない。いや、するべきではないだろう。

何にしてもまずは自分の鎮守府に帰投し、提督に報告する必要がある。

神通は意を決し、バケツの中の補給物資に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

「……以上です」

「ふむ……」

 

神通からの話を聞き終えた提督はひとつ頷くとしばし沈黙を保っていたが、やがて慎重に口を開いた。

 

「……その、話の中にあった深海棲艦だが」

「はい」

「足が無く、ホバーのようなものを、身に付けた姿ではなかったかね」

「!?」

 

寝惚けるなと一喝されることも覚悟していたが、帰ってきたのは予想外の答えだった。

 

「はい、仰るとおりです。……アレをご存知なのですか?」

 

提督はまた少しの間沈黙し、他言無用だ、と前置きした後続けた。

 

「幾つかの鎮守府から目撃及び遭遇例が報告されている。

 話を総合すると、どうやら艦娘が危機に陥ると突然現れ、それを助けるような行動を取るらしい」

「……それは」

「はじめは甘えの抜けぬ駆逐艦どもの下らん噂話と捨て置いたが。

 最近別の司令部や鎮守府からも似たような報告が無視できぬ数、上がってきていてな……。

 この上貴様までもが遭遇したと言うのであれば、もはや捨て置けんな」

「どうなさる、おつもりでしょう」

 

ほんの僅か微妙なニュアンスを含んだ神通の問い。

提督はそれに表情を変えることなく答える。

 

「さてな。今の段階ではどうとも言えんが……」

 

そこでいったん言葉を切り、提督は神通を見据えた。

 

「貴様は我が司令部の要の一つだ。その貴様の命が救われたならば……。

 私にとってもその者には大きな借りが出来た事になる。

 誰かも分からん相手から、借りっぱなしのままでいるのは性分に合わんな」

「提督……」

「……さて。重ねて言うが今回の話、他言は無用だ。

 確かなことなど何も分かっていないのだからな」

「はい」

「神通。貴艦にはしばし休養を命じる。

 疲労を抜きつつ姉妹や僚艦に無事な姿を見せてやれ。

 話は以上だ、退出してよし」

「はい、失礼しました」

 

退出した神通を見送り、提督は表情を変えぬまま溜息をついた。

 

「艦娘の味方をする深海棲艦、か。

 同じく独自に動く戦艦級の新型に、今回の深海棲艦の大量発生……。

 深海棲艦のなかで、何かが変化しつつあるのかもしれんな……」

 

 

 

 

 

CASE 26

 任務名:警備任務(サブ島)

 旗艦:軽巡洋艦神通

 判定:E改めB

 旗艦轟沈改め戦術的勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえねえ聞いた? 吹雪ー!」

「うん? 何のこと?」

「よその司令部の奴から聞いたんだけど、最近南方海域で謎の深海棲艦が出現するんだってさ!」

「謎の深海棲艦?」

「なんでも、私たち艦娘がピンチになるとどこからともなく現れて、他の深海棲艦をやっつけてくれるんだ! 格好良いよなー!」

「深雪ちゃん、また妙な噂話を……」

「なんだよー。今回は色んな鎮守府で噂になってるらしいんだぜー?」

「この前の艦娘が深海棲艦になるって話もデタラメだったじゃない。

 また加賀さんや長門さんに不謹慎だって怒られるよ?」

「うっ、それは勘弁……」

「ほら、そろそろ遠征の時間だよ。一緒に行こう」

「おう。あ、そう言えば今度の遠征が南方海域なんだよな。出てこないかなー」

「あのね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私たちの始めた遊撃支援作戦は意外なほどに順調でした。

ある時は護衛や輸送任務の支援を。

またある時はこっそり海域攻略に参加したり。

はたまた力尽きて轟沈しかけた艦娘を保護したこともありました。

 

全て影ながら、なのですが。

私の容姿は艦娘だった頃と比べても、青白い肌の色を除けばほとんど変化がありません。

そのため身元がバレてしまうと困るので、身を隠しての支援が難しい時は、撃沈した雷巡から剥ぎ取った仮面を付けています。

何故かワタシにはかなり不評なので必要がないときは付けていませんが。格好良いのに。

ちなみに空母ヲ級の外套も着けたかったのですが、ワタシが全力で止めるのと、あとホバーに巻き込みそうなので断念しました。

 

そんなこんなで今日も今日とて艦娘支援!

深海棲艦になってしまったけど私は元気です。はい!

 

『よくない弾け方してるなぁ……』

「何か言いました?」

『いや、別に』

 

ともあれ今日の作戦海域はサーモン海です。

私にとって全ての終わりであり始まりでもある海。

ワタシの索敵により、そこに深海棲艦の大群が集結しつつあるという情報を得て、こうして向かっています。

 

ですが、海域に到着した時、私が感じたのは強烈な違和感でした。

目の前には深海棲艦の残骸が海面に散らばっています。

 

『……集まっていた深海棲艦の反応がどんどん消えてる』

「それは艦娘の攻撃じゃないのですか?」

 

サーモン海深部は開放された今でも、幾つかのわずかな経路を少しでも外れれば強力な深海棲艦が大量に出没するという、南方海域でもサブ島さえも超える危険海域中の危険海域です。

私もワタシの索敵能力がなければ、ここでの活動は断念せざるを得なかったでしょう。

 

この海域の危険領域に出撃する艦隊ならば精鋭中の精鋭が選ばれるはずです。

万全の状態なら敵艦隊を鎧袖一触で蹴散らせたとしても不思議はありません。

ひょっとしたら私の出る幕は無いかも、とも思いたいのですが。

 

『片方はそうだと思う。だけどもう片方あるんだ』

「それは、一体?」

『片方は消え方に動きがある。たぶんこっちは艦娘だと思う。

 だけど、ひとつところで暴れまくっているこっちは……何なんだ?』

 

ワタシの索敵では深海棲艦の動きは探れても、艦娘の動きは探れません。

しかし深海棲艦を攻撃する存在なんて、私を除けば艦娘くらいしかいないと思うのですが……。

 

「……二面作戦?」

『わからない。だんだん二つの反応が近付いてるみたいだけど……。

 とにかく気を付けて、何かいつもと様子が違う……。嫌な予感がするんだ』

「この海域で嫌な予感なんてしないほうがおかしいですけどね……」

 

嫌な予感、というのは私も同意見でした。

さっきから背中がチリチリして仕方ありません。

この先に進むべきではないと本能が訴えかけているような……。

ですが、それならなおの事艦娘のピンチかもしれません。

私は弱気を捨て、更に海域を進みました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「加賀、損害状況はどうだ?」

「飛鷹、大鳳、陸奥が中破、貴女と私と大和が小破。

 今のところ進軍に問題はないけれど……」

「これ以上ダメージが重なると撤退も難しくなる、か」

 

潮時だ、と長門は判断した。

一応とはいえ既に開放した海域である。

ここで更に危険領域に踏み込むリスクを犯す意義は皆無であった。

 

「レ級を捕捉出来なかったのは残念だが……。

 いや、口惜しいがこの損傷では出会ったとしても勝てんか」

 

一度だけ会敵したことのある、あの紅い焔を纏った新型戦艦はまさに怪物という呼び名が相応しかった。

戦艦の火力と装甲、正規空母の制空力、重雷装艦の雷撃を兼ね備えるという反則存在。

あの時は司令部の主力艦隊をぶつけることで何とか撃退はできた。

しかしこちらの損害も大きく、轟沈せしめるには至らずに取り逃がしてしまった。

 

奴は何故か随伴艦を伴わず、常に単独で行動している。

そのため上位種の識別名である姫や鬼の名こそ付かなかったが、確実にそれ以上の脅威となる存在であった。

その戦艦レ級が、最近このあたりに出没するという情報を得て、再びこの危険領域へと踏み込んだのだが……。

 

「ま、正直ここでの戦いは運も大きく絡むわ。

 そういう意味じゃ私や大鳳は外したほうがいいかもね?」

「えっ」

「バカを言うな陸奥。運が絡むというのには同意するが、お前たちを外すつもりは毛頭ない。

 悪いがもうしばらくはこき使わせてもらうぞ」

「あらあら」

「とはいえ、今日のところは撤退するしかないがな。

 新手に出くわさないうちに引き上げるぞ!」

 

その時。

周辺に索敵機を飛ばし、警戒に専念していた飛鷹が突如悲鳴のような声を上げた。

 

「さ、索敵機撃墜されました! 直前に見えた艦影は間違いなくレ級です!

 ま、間もなくここにやってきます!」

 

長門はギリ、と歯を噛み鳴らした。

 

「……総員戦闘配備。状況は厳しいがここでヤツとケリをつける。

 大和、お前の火力が頼りだ。砲撃でまともにヤツの装甲を撃ち抜けるのはお前しかいない」

「は、はい!」

 

その時、味方のものではない艦載機の飛行音が聞こえてきた。

 

「敵影確認、レ級です!!」

「来たか……対空戦闘用意! その後の雷撃にも用心しろ!」

 

死闘が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あい、つは……」

『……最悪だ……』

 

かつて私を沈め、私が深海棲艦になるきっかけとなった存在。

 

戦艦レ級。

 

交戦している艦娘たちの会話から、それが司令部でのヤツの呼び名と知ります。

深海棲艦が消え続けていた地点は二つ。一つは予想通り艦娘のものであり、もう一つはこのレ級だったのです。

 

『あいつ、艦娘と敵対しながら深海棲艦まで沈めてたのか……!?』

「こんなの想定外にも程があります……」

 

私は岩陰に身を隠しながら、最悪を超えた最悪の状況に歯噛みしました。

私がその場に辿り着いた時、既にその戦いは終わりかけていました。

 

長門型や大和型といった名だたる艦娘たちが揃って中、大破に追い込まれ、戦闘力はほぼ喪失しているといっていい状態でした。

艦娘にいまだ一人も轟沈者が出ていないのは、さすがの精鋭ですが……それでも長くは保たないでしょう。

しかし精鋭部隊の壊滅と引き換えに、あいつも少なくないダメージを受け、航空能力も一時的に喪失しているようでした。

だというのにあいつは紅い焔を纏いながらヘラヘラとタガの外れたような笑顔で、艦娘たちを追い詰めていきます。

 

「エリート……」

 

戦慄する。

ただでさえ反則的なまでに強かったあの怪物が……エリート、化?

 

『あいつ、ワタシの感知に引っかからなかった……。

 少なくともまっとうな深海棲艦じゃない』

 

まっとうな深海棲艦じゃない。どういうことなのでしょうか。

確かにあいつは他の深海棲艦と比べて異常な点が多過ぎますが……。

常に単独で現れ、過剰なまでの戦闘力を持ち、そして同じ深海棲艦をも攻撃する……。

 

……あれ?

これってどこかで……。

 

『……撤退しよう。艦娘たちの事は気の毒だけど、さすがにもうどうにもならない』

「……いいえ、交戦します」

 

っと。考えるのは後回しです。

これだけの危機、早く救援に入らないと手遅れになってしまいます。

 

『正気……な訳はなかったな、今更。ここで死ぬ気?』

「それも違います。彼女たちの撤退を支援します。幸い轟沈者もまだいないようですから。

 あいつも少なくない損傷を負っているし……いざとなったら私に考えがあります」

『そう……なら止めない。ただ、いざとなったらワタシと交代することを躊躇わないで。

 今回ばかりはさすがに私だけじゃ荷が重過ぎる』

「……はい。ありがとう。それでは行ってきます」

 

彼女たちが素早く撤退を判断してくれればいいのですが。

そして私は生ける災厄の前に姿を現します。

 

「やめなさい!」

 

私の声に弾かれたように振り返った災厄の紅い瞳が、何故か狂喜に染まりました。

なんでですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

###TIPS

 

リンク

 艦載機の妖精さんと視覚を共有する技法。慣れていないと酔う。

 機種によって距離的制限があり、通常は遠距離でのリンクは索敵機や偵察機でなければ不可能。

 

 

英雄

 通常の攻撃が効かないなら相手の力で倒せばいいじゃないという理屈で、

 上陸してきた深海棲艦を次々とブン投げて首をへし折りまくった過去を持つ。

 彼曰く「人型でない駆逐級のほうが倒しにくかった」

 倒せないとは言っていない。

 別名リアルチート。

 

 

サーモン海深部

 海の地獄。

 深海棲艦の精鋭が所狭しとうろつき、接敵するや砲弾も爆撃も魚雷も雨あられと飛んでくる。

 接敵しなくてもそれなりに飛び交っている。誰が何と戦っているのかは不明。

 というか敵の数が多過ぎて運が悪ければ常時交戦状態となってしまうことも。

 錬度や装備だけではどうにもならない場所である。

 

 

 

 

 

 




装甲空母姫、どこで戦っても苦戦した記憶がありません。
弱くはないはずなんですが……。
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