序章 ゲームソフト
俺、夜弥和斗が、最も居心地の良い場所であるところの我が城・自室から離れ、人の多いオタクが忌み嫌い避けるこの商店街に来ているのには、今日発売するカクゲー「ストライカー・ストライク」にあった。
PC用のゲームソフトなのだが、それ故にコマンドも多く、60を超えるキャラクターが生み出すボリューム的楽しさも相まって、瞬く間にゲーマー達の注目を浴びた。
しかし、残念ながら俺はまだ中2のため、ネットでの予約ができない。
そのため、こんな商店街にやってきている、というわけだ。
しかし、それには相当な気力を要したことは、もはや言うまでもないだろう。オマケに、空からもオタクには縁のない日光が照射されており、その威力は、ゲーム内で敵からレーザーを浴びるのに等しい。というのは若干言い過ぎなのは否めないのだが。
そんなことを考えながら歩いていたからか、俺は人にぶつかってしまった。
「うわ!」 「大丈夫ですか?」
だが、かなりのスピードで歩いていたにも関わらず、飛ばされたのは俺だった。
謎現象に驚く俺に、人の良さそうな青年は、俺を心配する素振りを見せた。
「はい。すみません・・・」 「いやいや、いいんですよ」
青年は困ったように頭を掻いたが、やがて思いついたように、下げていたバッグをあさり、やがて一冊の白い本を取り出し、俺に向ける。 どういう意味なのか計りかね、俺が首をひねると、青年は
「もらってください。これは、きっとあなたの役に立つはずです」 「いや、しかし・・・」「遠慮なさらないくてもいいんですよ」
そう言って微笑まれてはしがない中2の俺としては、恐縮し、有り難くいただく他に選択肢はない。俺が欲しかったわけではない。断じて。決して。青年はもう一度微笑み、「ありがとうございます」と言って、更に「家に帰ってから読んだほうがいいですよ」と言い残し、雑踏に消えた。
「・・・?」
不思議な青年だった。それに、「家に帰ってから読んだほうがいい」という言葉の理由もわからないままだ。
タイトルを見るだけならいいだろうと、俺は本の表紙を凝視した。
「インフィニティ・ファイター」
その本は、そんなタイトルを冠していた。
次の瞬間、俺は、この本が自分にとって大きな意味を持つものであろうということを、直感によって感じた。 理由はわからない。 あるのかどうかも。根拠すらもわからない。
それでも、俺は再び直感により、この直感が正しいものであろうことを感じた。
「ストライカー・ストライク」のことなぞ、もはや頭にはなかった。久しぶりに心は沸き立ち、足は踊る。 俺は、気の悪くなりそうな雑踏に向けて、力強く一歩を踏み出した。