頬に触れられた気がした。
少し冷えた指先で、頬から目元へ、優しく撫でられた気がした。
一回、二回と、目覚めの催促をするように。
重たい瞼を開くと輝き揺れる金色と、その背後に七色の光が見える。
その輝きが髪で、七色がなんなのか。
私が理解した瞬間には私の頬に触れていた手は離れた。
「お姉さまが鬼よ、頑張って探してね」
起きたての耳に届いた声はとても小さく、か細いもの。
言うだけ言ってすぐに離れたのだろう気配も足音もすぐに感じられなくなる。遠のく姿を捕まえようと手を伸ばしてみたけれど、見慣れた揃いのネグリジェはすぐに消え、目の前は見慣れた紅色一色だけになってしまう。
眼前の紅に手を伸ばす。半分押し開けられていた棺の天板に手をかけ半身を起こすと、私の目覚ましは既にどこへと消えた後のようだった。
私を誘った声を探すように起きて、一度羽を伸ばす。
あの子とは違う白い皮膜を広げると先端が少し熱い。
痛むほどではなかったが差し込む日に焼かれ僅かに焦げる我が翼。薄い煙を上げた先端に当たっていた光を追うと半分開けられたカーテンと、外されたタッセルが床に転がっていた。
「こんなに明るい時間からまた悪戯をして‥‥仕方がないわね」
翼から伸びる煙を払うようふわり、浮かんで、くるりと廻る。
緩く廻りながら身体を流し、形だけは置いてある鏡の前に降り立つ。
そのまま寝間着の姿で数秒待つと、いつもはすぐに現れる私の従者が今日は姿を見せない。
私が目覚めたのに来ないなんて、あの子といいなにかあったのだろうか。
考えながらストールを一枚羽織り、とりあえず部屋を出た。
「あら、もうお目覚めですか?」
歩きながら考えていたら声を掛けられた。
声に目を向けると廊下の角で佇む従者、両手にはこれから干すのだろう、洗いたての洗濯物。
「起こされたのよ、あの子を見なかった?」
「私はお見かけしてませんよ」
「ならいい、とりあえず捕まえてくるわ」
「頑張ってください、見つけてもらうまではお着替えもしないと言われてましたし‥‥お揃いになりましたらアフタヌーンティーにしましょう。あ、プリンもすぐに焼き上がるとお伝え下さいね」
あの子が好む赤のストールを差し出しながらそう言い切って、すぐに消えた従者。
遠くの方で聞こえた足音からすれば私とは逆方向へ向かったようだ。
「主に伝言させるなんて‥‥まぁ、いいわ」
きっとグルなんでしょうし。
私の心を差し向けるように鳴った物音を立てる態とらしいメイドには見もせず、そのまま歩む。
向かう先はキッチン、あの子はきっとそこにいる。協力者の手を借りて隠れるならきっとあそこだろう、そう確信してキッチンの扉を開けると、開いたドアの裏側に膝と羽をたたんだ誰かを見つけた。
「見つけたわ」
屈んで小さくなった背に声をかけそっと手を伸ばすと、預かったストールが肩に触れる前に、サイドテールを揺らしながらイタズラな笑みが立ち上がる。
「最初に見つかっちゃったわ、つまんないの」
「さぁ、お終いにしてお茶にしましょう」
「まだだよ? 後三人いるもの、頑張ってねお姉さま」
見つけて終わり、後は優雅にお茶の時間。
そう思っていたけれどなるほど、そういう趣向なのか、二人の言う
私が気がつくと楽しげに笑い、愛らしい八重歯を見せる一人目。薄れていくその笑顔に一人だけズルしてダメよと言ってみたがきかず、微笑みを強められ静かに消えていくだけだった。
後三人、楽しいおしゃべりはまだもう少し先という事ね‥‥
それなら真剣に探してみる事にしよう。
一人残されたキッチンで、私は気合を入れた。
誰も見ていないというのに、何故か大げさに、気合を入れた。