真剣で貴方と恋をする!   作:ツラゲ

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1話 東西交流戦前日その1

6月の第1週のある日。

川神学園に行く時間になったので家を出ようとする男が1人。

その男の名は間庭備前。

3人の男女に見送られて現在の家である九鬼極東本部を出るところである。

見送るのは、源義経、武蔵坊弁慶、那須与一。

ここにはいない葉桜清楚と合わせて5人が、九鬼財閥が生み出した『武士道プラン』のメンバー(偉人のクローン)なのだ。

ちなみに、この5人の中で、誰のクローンかを教えられていないのは備前と清楚の2人である。

源義経、武蔵坊弁慶、那須与一の3人は名前がそのまま誰のクローンかを示している。

 

「じゃあケイ、ヨシ、与一。俺は学園行ってくる。与一は2人に迷惑かけないようにしろよ?」

「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。弁慶と与一のことは義経に任せてほしい!義経達は手続きの不備で遅れてしまったが、ようやく明日から転入生として川神学園に通える。義経は楽しみで仕方がない!」

 

目を輝かせる義経の頭を備前と弁慶が撫でる。

義経は、恥ずかしくも嬉しそうな表情をしながら、それを受け入れていた。

本当は5人全員4月から川神学園に通うはずだったのだが、義経達4人の転出手続きに不備があり、先に備前だけ通っている。

 

「行ってらっしゃい。テキトーに頑張っておいで。帰ったらまた2人で飲み交わそうね」

「わかった」

 

義経の頭を撫でていた手を備前の頬に手を添える弁慶。

備前はすぐに理解し、弁慶の体をゆっくり抱き寄せる。

2人は顔を徐々に近づけていき、そっと唇を重ね合わせる。

見ている人間をウットリさせるような、優しくも気持ちのこもったキスだった。

 

「好きだ、ケイ」

「私も好きだよ、備前。なるべく早く帰ってきてね」

 

愛を囁き合う。

弁慶は頭を備前の胸にうずめるような態勢で、幸せそうに頭を撫でてもらっていた。

この2人は隙あらば、自分達だけの空間を作り上げ、周りを辟易させているのだ。

 

「姉御とここまでできるのはさすがだよな…っておい兄貴。そろそろ出ないとセキハンで行くにはキツくなるぞ」

「…んー、確かにそうだな。じゃあ行ってくる」

 

与一の言葉がキッカケとなって、2人は離れる。

備前を見送った弁慶は、離れるキッカケを作った与一を理不尽にも威圧していた。

 

「あ、姉御。俺は兄貴のためにだな……」

「わかってるよ、与一。だから何も言っていないだろう?」

「ででででもなんか怖いぞ」

「そんなはずないだろう。だって私は備前が遅刻しなくて済んで感謝しているくらいなんだから。お礼に今日の鍛錬は私が付き合ってやろう」

「ひっ、ひぃいいいいいいいいい。兄貴、今すぐ帰ってきてくれーーー!!!!」

 

九鬼極東本部から与一の悲鳴が聞こえてくる、そんないつもの朝。

 

 

 

備前は九鬼家のメイドに見送られて、ペットのセキハンに乗って出発した。

学園の近くにある多馬大橋辺りからは学園生の姿が一気に増える。

 

「備前君、おはようございます」

「よう、備前。相変わらずセキハンで登校してんのな」

「ゼンゼン、おはよ~。久しぶりに僕もセキハンに乗りたいのだ。の~せ~て~」

 

備前のことを見知った友達が声を掛けてきてくれる。

順に、葵冬馬、井上準、榊原小雪だ。

3人とも川神一の病院と評判の葵紋病院の関係者である。

 

「よう。学校でなら乗ってもいいぞユキ」

「ウェ~イ。お礼にマシュマロあげるね」

「私は備前君に乗りた「だが断る」…それは残念」

「若への対応がどんどん早くて速くなってるな」

「準、俺はホモNGなんだ」

「やはりお前もロリコニアの住に「ロリコンもNG」…それは残念」

「ホントお前らって兄弟みたいだよな」

「それは嬉しいですね。私達は家族、みたいなものですから」

 

心の底から笑顔を浮かべる冬馬。

 

「本当の家族は俺と九鬼の従者がボッコボコにしちゃったわけだが…」

 

苦笑いする備前。

 

「気にする必要はありません。こんなこと言っては、親不孝者と思われるかもしれませんが、備前君達には非常に感謝しています。父には育ててもらった恩もありますが、私達の一番の障害でもありましたから。正直ホッとしているのです」

 

冬馬の言葉に準も頷く。

小雪は、チョウを見つけて追いかけていたのですでにいなかった。

それにきづいた準が慌てて小雪を追っていった。

ひとまず3人と別れて先に登校する。

 

ドスドス、ドスドス。

 

門をくぐり、所定の場所にセキハンを繋いで、校舎に入る。

備前が所属するクラスは、2-Sだ。

教室の前で、マルギッテと出会った。

 

「間庭備前、今日も宜しくしてやろう。感謝しなさい」

「よう猟犬。勝負ならまた今度にしろ」

「生意気な口の利き方はやめなさい。私に命令できるのは、中将とお嬢様だけだと知りなさい」

「毎回俺に負けておいてよく言う」

「くっ……」

 

悔しそうな顔をする猟犬と呼ばれたマルギッテ・エーベルバッハ。

妹分のクリスティアーネ・フリードリヒ(クリス)に続いて5月に編入してきた。

猟犬の異名を持ち、有名で有能な軍人という評価を受けているが、戦闘狂。

備前に勝負という名の奇襲を仕掛けたが、あっさりと返り討ちにあった。

チワワ呼ばわりされたことに腹を立て、時間さえあれば勝負を挑もうとするようになった。

そのことがキッカケで備前はマルギッテを姉のように慕うクリスにも睨まれることに。

 

「よう英雄と女王蜂」

「おお!我が親友、備前ではないか!おはようだ!!」

 

そう言って、備前を抱擁しようとしてくる英雄。

九鬼英雄。

九鬼財閥の御曹司で2-Sのリーダー。

備前にとって英雄は、自分達武士道プランの生みの親の長男であり、家主の息子であり、野球馬鹿だが器の大きさを見せてくれる親友である。

幼い頃に備前が英雄を従者に内緒でホテルから連れだしたことで、英雄はテロによる航空機のホテル衝突事件から逃れたこともあった。

九鬼一族に勝るとも劣らない激運・第六感の持ち主で、恩人でもある備前を英雄は一番信用している。

それは備前が英雄と離れ、他の武士道メンバーと小笠原諸島で暮らしている間も変わらなかった。

 

「間庭さん、おはようございます(よう、色ボケ仙人)」

「ああ(人のこと言えんのかお前?)」

「お元気そうで何よりです(ああん?なんのことだ?)」

「いつも家で顔合わせてるからわかるだろ?(まあわからないならいいや。そのうち教えてやるよ)」

「それもそうでした(チッ、まあいい)」

「あずみ、どうかしたのか」

「何でもありません!!英雄様ぁ☆」

「そうか、それでは我は一子殿のところに行ってくる」

「はい!いってらっしゃいませ、英雄様!☆」

 

忍足あずみ。

英雄に仕える万能メイドにして、九鬼家の使用人たちの統括役。

九鬼の従者部隊の1位であるが、九鬼に仕える従者部隊の一部に疎まれている。

忍者という過去を知っているのは意外と少ない。

英雄がいないところでは性格や言葉遣いがキツくなる。

 

冬馬、準、小雪の3人組と入れ違いで、ウッキウキで2-Fに出かけていく英雄を見送ったあずみは案の定豹変した。

 

「おい井上、焼きそばパンとコーヒー牛乳買ってこい。当然ダッシュでな!」

「ついでに準、カツサンドとタマゴサンドと牛乳頼む。30秒以内な!」

「あの~お金は?」

「つけとけハゲ」

「この前俺と賭けして5万負けただろ?」

「あんまりだああああああああああああああ」

 

半泣きで走り去る準。

それを冬馬と小雪は楽しそうに見ていた。

 

「ユキ。肩揉んでくれや」

「おー。めっさ頑張る」

 

小雪は嫌がる素振りを見せずにあずみの肩を揉み始める。

 

「ユキは素直で可愛いな。おい、そこの庶民A、扇子であおげ」

「誰が庶民Aじゃ!高貴な此方になんという口の言う口の利き方なのじゃ!!」

「あ゛あ゛ん?」

「にょわ?!」

 

結局、言われたとおりに扇ぎ始める庶民A。

その正体は不死川心、名門と言われた不死川家の娘である。

イジられキャラで愛されキャラとして存在している。

 

「買ってきたぞおおおお。ゼーハーゼーハー」

「早かったなハゲ。褒めてやる」

「遅かったな準。15秒遅刻だ。でもサンキューな」

「ゼーハーゼーハー(こいつら普段は軽口叩き合ってるくせにこういうところではいいコンビになるんだよな)」

「おいハゲ、紅しょうがが少ないぞ。買い直してこい」

「これ1個しかなかったんで勘弁して下さい」

「こっちはちゃんと美味しいサンドイッチだ。ただまあ、低脂肪の牛乳買ってくるとか何考えてんだよハゲ!とは思うけどあんまり気にするな」

「それ絶対気にするやつだよね?!気にしろって言ってるよね!?」

「まあ今度買ってくるときは覚えといてくれってこと」

「また買ってくるのか……」ゲッソリ

「5万円」

「わかってるよ」

「ならいい」

(委員長の写真に大金注ぎ込んじまって、備前への支払いができないとは不覚…。明日5万円持ってこよう。絶対に!!!!)

 

固く決意した準だった。

 

 

 

朝のホームルームが始まる時間になり、担任の宇佐美巨人先生が来る。

 

「うぃーす。今日は通常の授業を全て中断して明日の東西交流戦の準備に使ってもらう。終わったら各自解散してよしだとさ。早く帰れるのは羨ましいよホント。準備する奴はまあ頑張れや」

 

Sクラスは他校で言う特進クラスのことで、各学年の上位50位以上の成績優秀者が集まったクラスである。

試験で50位以下になったものはS落ちと言われ、即刻別のクラスに落とされる。

自分達を特別な人間と思っている人も多く、他クラスを見下しがちであるので、

他クラスから疎まれている。

クラス内でも競争意識があり、相手を蹴落としてでも順位を上げたいという人が多いため、クラスの雰囲気が悪く、ピリピリしていることが多い。

東西交流戦のような武を競う系のイベントの参加率は群を抜いて悪い。

 

東西交流戦。

天神館との学校ぐるみの決闘のこと。

西の有名校である天神館が、東高西低を否定しもっと評価されるべきと多方面に喧嘩をうっていたのを川神学園が買った形。

建前としては人材交流と競争による教育の一環。

本音はムカつくから殴り合って決着つけようぜ。

 

「備前君はこの後どうしますか?遊撃として独自に動く予定ですよね」

 

冬馬が備前に話しかける。

 

「ああ。だから適当に狩る俺は打ち合わせ必要ないな」

「でしたら、これから作戦参謀本部で会議が開かれるのですが一緒に行きませんか?」

「まあいいが、頭使うのは得意じゃないから行っても意味ないぞ?」

「備前君は転入してきたばかりにもかかわらず、年度初めの試験で30位だったと記憶しているのですが……」

「たかが学力試験と頭の良さを一緒にしちゃイカンだろ、常識的に考えて。それに実戦より不得意だというのは事実だしな。そういう訳であまりにも高度な話だったら、俺は先に帰るぞ」

「大丈夫です。顔だけ出していただければ、と思っているのでそれで構いません。それでは茶道室に行きましょうか」

 

手を繋ごうする冬馬。

それをあっさりと躱す備前。

 

「ホモと手なんか繋ぐわけないだろ。ホモはNGだって言っただろうが」

「私は両刀使いなのでホモもOKです。フフフ」

「聞いてないし、興味ないから!」

 

結局、備前は冬馬の手を払い続けながら茶道室に移動するハメになった。

それでも冬馬は嬉しそうにしていた。

 

「失礼します。Sクラスの代表として葵冬馬と間庭備前、参りました。総大将の九鬼英雄は後で来るとのことです」

 

到着を知らせて、中へと入って行く冬馬。

それを見て一瞬帰ろうかと思ったが、後でどうなるかわからないと思い直して、ため息をつきつつ後に続いた。

 

「うーっす」

「げぇっ!間庭!」

 

備前の顔を見た瞬間、顔を青くした人物がいる。

その名は直江大和。

2-Fに所属しているものの、成績は学年でも上位だ。

知り合いや仲間内からは軍師と呼ばれている。

 

「おお。直江じゃねえか。一昨日賭場で会ったばかりだよな」

「そそそ、そうだな」

「おや。すでに2人はお知り合いでしたか。その割には大和君の様子がおかしいのですが…」

「ああそれは多分「ストップ!」…何だ直江?」

「神様、仏様、間庭様。どうかご内密にお願い致します」

「ほう。あの直江君にここまで言わせるなんて、やはり備前君は只者ではないようです」

「俺としては只者扱い大いに結構なんだが、まあいい。では直江、貸し1…いや、一昨日と合わせて貸し2だ」

「…ハイ。ジヒノココロヲアリガトウゴザイマス」

「大いに感謝するが良いぞ!」

 

勝ち誇ったような表情の備前と、がっくりとうなだれる大和。

そして、体育座りでヤドカリになりたいなどとブツブツ呟きはじめた。

参謀の中核を担う1人がこのテンションのままでは、作戦参謀本部を開いた意味が無くなるとの判断によって、備前は退室することになった。

 

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