オーバーロード二次創作 久々ログインで異世界転移 作:結城マサヒト
闘技場にて戦闘能力が維持されているかテストする為、モモンガは闘技場の隅に立てられた藁人形にゆっくりと指を伸ばす。自らを見つめる
きちんと攻撃魔法も発動するよう願いつつ、指先に力を集め、そして力ある言葉を紡ぐ。
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藁人形へと突きつけた指の先で、炎の玉が膨れ上がり打ち出される。狙い通りに藁人形に着弾し、火球を形成していた炎はぶつかった衝撃で弾け飛びながら、内部に溜め込んだ炎を一気に撒き散らす。
すべて一瞬の出来事。焼け焦げた藁人形以外に何も残りはしない。
「―――アウラ。別の藁人形を準備せよ。」
「あ、はい、ただいま!早く準備して!」
アウラの指示により、待機していた2体のモンスター、体長3m程ある巨体は隆々とした筋肉で構成されており、さらに鋼鉄以上の硬度を持つうろこで覆われている55レベルのモンスター。
アウラの
ドラゴン・キンが藁人形から離れた所で、新たに<
「完璧だ」
攻撃魔法も無事発動し、ユグドラシルからの経験と知識も有用だという事が確認でき、満足感が呟きとなってこぼれる。
「モモンガ様、藁人形をもっと準備した方がよろしいですか?」
アウラが不思議そうに問いかける。アウラにしてみれば、モモンガが強力な術者である事は前から知っており、これくらいの芸当はなんら不思議は無いからだ。
「……いや、それには及ばない。もっと別の実験を行いたいからな。その間に―――ヤスヒロさん、相手は何が良いですか?」
「――まずは、
この後、モモンガは<
モモンガやヤスヒロはもちろん、アウラやマーレでもすぐに倒せる程度の強さしか持たない30レベル台のモンスターだが、防御力とHPが低い代わりに敏捷度と攻撃力が高く設定されている。加えてモモンガの所持するアンデット強化スキルにより強化され、速度に限ると40レベル後半の性能を持つ。
―――ユグドラシルの性能のままではそれでも弱すぎるが、ユグドラシル通りの性能を維持出来ているか、実際にゲームではない戦闘で実際の性能を十全に引き出せるかを確認する為には手頃な相手だ。
モモンガはヤスヒロの言葉に頷き、―中位アンデット作成―のスキルにより切り裂きジャックを呼び出す。何も無い空間から湧き出るように現れたのは、笑った表情のマスクを顔に嵌め、ピッチリとしたトレンチコートのような服を身に纏い、まるで服の装飾のように包帯が絡み付いている。
これといった刃物は所持しているように見えないが、手の爪は鋭く長く伸びており、ユグドラシルではおなじみの肉体武器である事を示している。
甲高い声を上げているモンスターを見据えながら、ストレージから1本の剣を抜き取る。
カテゴリーは長剣に属しているのだが、大きくした腰鉈のような外見をしている。刃は黒く染まっており、刃渡り65cm程はあるだろうか。
ヤスヒロ本来の主武装である
訓練で即死されてもあまり意味が無いし、レベル差のある雑魚モンスターに手こずっても示しがつかない、という妥協をとった武器選択である。
「では……モモンガさん、お願いします!」
「―――わかりました。」
モモンガに戦闘開始を頼むと、声には出していないが命令を下したのか
開始時には7,8m程あった距離をなんなく詰め、鋭く尖った爪を突き出してくる。握った剣の剣先を下段に構えたまま突き出された爪を一歩横にズレる事で回避すると、それに合わせて切り裂きジャックも追撃をかけるべく体を捻って逆の手を突き出す。
もう一度軽く横にステップを刻んで避けると、今度はフックのような軌道で頭部を狙って爪が突き立てられる。こちらは後ろに一歩下がって避け、連続して繰り出される攻撃に備える。
突く――避ける
フック――避ける
視界から外れる為、大きく膝を落としてからの攻撃――避ける
左右に体を振っての攻撃――避ける
フェイントからの足払い――避ける
繰り出される攻撃を避けつつ思う、―――遅いのだ。
現実ではあり得なかっただろうし、戦闘に入る前には全く感じなかったのだが、いざ戦闘を行ってみるとまるで
初めは一歩ズレるように避けていたのだが、3,4撃避けた後はあえてギリギリで避けるようにしてみるも、相手の攻撃が当たるという事もなく軽々と避ける事が出来る。
切り裂きジャック程度の敏捷度だと、ユグドラシルの時も同じように避ける事が出来た。これは近接戦闘能力も維持されているか―――そう考えつつ、もう一つの確認は不十分だと感じる。
それは、戦闘で恐怖を感じるかという確認だ。
ユグドラシルの世界では痛覚はほぼ無いに等しい。大ダメージを与える攻撃を受けても、軽くぶつかった程度の衝撃しかなく、恐怖など感じなかった。
しかし今は痛覚がどうなっているかわからない、死んでしまった際に蘇生が出来るかもわからない以上、恐怖を感じるかと考えていたのだが、相手が弱すぎて確認の意味がない。
これ以上は無意味―――そう判断して切り裂きジャックの突き出した手へと、右手に握った切断剣を振るう。
結果は切り裂きジャックの手が舞い、切断された腕から勢いよく血が
「……特になんとも思わない、か。」
自らが振るった剣により、切り裂きジャックの首を刎ね飛ばして消滅させたのだが、召喚モンスターとわかっている相手を死滅させた事になんとも思わない事は理解出来ても、噴出した血液を見ても特に何も感じなかった。
通常の精神をしていたらありえない事だ。―――しかし、この結果から心に抱いていた仮説の信憑性を強める。
アンデットの持つ基本特殊能力の一つ、精神作用無効が発動しているのでは。という仮説が。
そもそも異世界に転移したのに随分と冷静さを保てている。そこから思いついた仮説だったのだが、信憑性が増した――。そして事実だとすれば、おそらく他の特殊能力も有効と考えて良いだろう。
これなら、ユグドラシルのほぼ全ての能力を維持出来ていると考えて良いだろう。
安心と興奮から喜色を浮かべるも、精神作用無効の影響からか、やはりすぐに喜色は少なくなる。とはいえ全く無いというわけではないので安堵する。全く感情の無い存在というのも怖いものだと考えて。
「お疲れ様です、ヤスヒロさん。流石ですね。」
「えーっと……お疲れ様です。」
「お、お疲れ様です。ヤ、ヤスヒロ様。」
「……ありがとうございます、モモンガさん。アウラとマーレも。と言ってもただの準備運動だけれどね。」
思考を巡らせていると、モモンガから労いの言葉がかけられる。それに従うように、切り裂きジャック程度に訓練していた事を不思議そうに見ていたアウラとマーレも労いの言葉をかけてくれる。
「では……予定通り、次のモンスターを呼びますか?」
「ええ、お願いします。――予定通りのヤツでいきましょう。」
こちらの確認はあらかた終わったのだが、これで終わっては
そして能力が維持されていても、3年間のブランクで戦闘勘も鈍っている。それを取り戻すには訓練も必要だ―――。
そう考え、次の相手をする為に再び剣を構える。