「おーい、多串くーん」
遠くから、銀髪の恋人が手を振って小走りでやって来た。通行人がなんだという感じで銀時の方を見ている。そんな無防備な笑顔を皆に見せないで欲しい。
俺だけに笑って欲しい。
好きだけではない気持ち、今この気持ちを伝えるには俺はあまりにも言葉を知らなすぎる。
「なんだ?」
にやけるのを我慢しながら俺は、銀時のフワフワの髪を撫でる。天パーだから触られるのを普通は嫌がるが、俺が“触るのが好き”と伝えると俺にだけは触らせてくれるようになった。こんななんでもない日常が永遠に続けば…。
「なんだじゃなくて、行きたいとこあるから付き合って。」
そう言って俺の腕を引っ張る。
「俺、仕事中なんだけど…」
ため息混じりに言うと、“許可は取ってあるもん”と頬を膨らませて言った。いちいち行動が可愛すぎて怒れなくなる。
連れてこられたのは、映画館。
ん?なにこれ?デート?デートなのか?
「多串くん、財布。」
お金の持っていない恋人からせがまれ、渡す。
「ポップコーンも買っていい?後、コーラも。」
開演まで時間があるらしく、なに味にしようか真剣に悩んでる。
「銀時、俺帰るわ。書類提出今日までだし。」
ばつが悪そうに言うと“やっておくって言ってたよ”ってまた腕を捕まれ会場の中に入れられた。まぁ、たまにはいいか。仕事を諦め、上映されるのを待った。
外に出ると、少し暖かな風が吹いていてその風に乗って桜の花びらが銀時の頭に付いた。
そういえば、出逢ったときも春だっけ?とどうでもいいことを思い出した。
「どこ行こうか?」
「………シ」
肩を揺さぶられ目を覚ますと近藤さんがいた。また、あのときの夢かと一人落ち込んでいると“また観たのか?”と近藤さんに聞かれた。
あの日、どんな映画を観たのかその後どこへ行ったのか今となってはもう思い出せずにいた。
「アイツの場所がわかるまでは、この夢は見続けると思うよ。」
あの日から銀時は姿を消した。なんで、俺になにも告げずに行ったのかふざけるなと怒ってやりたい気持ちと無事でよかったと抱き締めたい気持ちで胸が張り裂けそうだった。
「おーい、たぐしくーん」
外を歩いていると、呼ばれた気がした。銀時?振り向くと若いカップルがいちゃついていた。
「卓司。待ってよ、置いていかないでよ。」
空耳……俺も重症かなぁ?と思いながらあの時の映画館の前を歩く。
上を見上げるとあの時と同じ桜が綺麗に咲き誇っていて、俺の髪の上に花びらが舞い落ちた。
完