城下町のダンデライオンー櫻田家の次男は変人?ー《凍結中》 作:ションタ
現在幸は、双子の妹の茜。彼の姉である長女の櫻田 葵。同じく姉である次女の櫻田 奏。そして彼の兄、長男の櫻田 修の四人と一緒に学校へ登校していた。
「もう桜も終わりね」
「うん、今週末がお花見最後のチャンスかも」
「花見か……」
彼らがたわいもない会話をしていると、1人の老人が挨拶をしてくる。
「おはようございます」
「「おはようございます」」
「お、おはようございます……。だから、みんなでお弁当でも持って––––––」
そこへ今度は、子連れの女性が彼らに挨拶してくる。
「皆様、おはようございます」
「「おはようございます」」
「バイバーイ!」
「バイバーイ……」
恥ずかしそうに挨拶を返す茜に、葵と奏は「はぁ……」と同時に溜め息を吐く。
「相変わらずだね、アンタの人見知り。どうにかなんないの?」
「奏、そのくらいで」
「だって……」
葵に止められ引き下がる奏。
––––––そう、奏の言うように茜は超が付く程の人見知り。だが、コレは生まれつきという訳ではない。彼女が小さい頃は、誰にでも喋り掛ける元気いっぱいの子だった。しかし、ある日を境に人と接することが苦手になってしまい今に至る。このことに対し、家族皆も散々頭を悩ませてきている。
また、王族である彼らが住宅地に住んでいるのは、国王である父の方針だそうだ。
*
しばらく進むと、彼らの前に一台の監視カメラが現れる。
「ひぃっ!?」
監視カメラを見た途端、茜はすぐに近くの路地へと隠れてしまう。
「週末に監視カメラの位置変わったんだよね。せっかく全部覚えたのに……」
「全部って凄いね……」
「だって映りたくないんだもん!」
「仕方ないだろ。これが俺たちを守るためって事はお前もわかってるだろ」
修の言うように、町中に監視カメラが設置されているのは、王族である彼らを監視し守るための物だ。
「わかってる……。でも、町内だけで2,000以上って多すぎじゃない!? 幸ちゃんもそう思うよね?」
「……」
「あれ?」
茜は幸に同意を求めようとするが、彼から返事が返ってこない。
「幸ちゃん?」
もう一度幸を呼ぶ茜。だが彼には聞こえていないだろう。何故なら––––––
「Zzz……」
幸は目を開けたままイビキをかき、鼻提灯を出しては引いてを繰り返していた。そう、この男は話の冒頭から今までずっと眠っていたのだ。
「出た! 幸の必殺『歩きながら眠る』!」
「しかもこれ、目を開けたまま眠ってるから結構ビックリするのよね……」
「そんなこと言ってないで幸を起こすよ! 幸、起きて!!」
葵は幸の体を揺らして起こそうとする。「パァンッ!!」と鼻提灯が破裂し、幸は目を覚ます。
「んァ、姉さん。もう学校着いたのか?」
「ううん、まだ向かってるところだよ。もう! あれ程歩きながら眠るのは危ないから止めなさいって言ってるのに!!」
葵はぷんぷんと怒りながら幸に注意する。
「ごめんごめん」
幸も葵の注意を素直に受け入れる。
「むっ!」
そんな幸に対し、茜は不機嫌そうに彼を睨みつける。視線を感じるや否や、幸は茜に声を掛ける。
「茜、どうした?」
「幸ちゃんってさ、お姉ちゃんに対してはいつも素直だよね」
「そうか? んなことねェと思うけど?」
「そんなことあるもん! 私が注意してもすぐに言い返してくるじゃん!」
「……何怒ってんだよお前?」
「怒ってないもん!」
口ではそう言っている茜。だが、彼女の表情は見るからに機嫌が悪い。その理由がよく分からない幸は、頭に「?」を浮かべる。
2人がそうしていると––––––
「あっ! もうこんな時間じゃない! 生徒会に遅れるわ! 私先に学校行くから!」
そう言うと、奏は学校の方へ走って行く。
「じゃあ俺も学校でな」
走っていく奏を見た修も、能力を使って先に行ってしまう。
2人を見送った幸は、突然「あっ」と声を出してある事を思い出す。
「悪ィ2人とも。俺コンビニ寄りてェから先に行っててくれ」
「えっ、幸ちゃんも!?」
「幸、コンビニに何しに行くの?」
「ジャ◯プだよジャ◯プ! 今日発売日だから買いに行くんだ!」
葵の問いに、幸は笑みを浮かべながら答える。
そう、彼は三度の飯より漫画が大好き、漫画をこよなく愛している。ジャンルは問わず、沢山の漫画を買っては読み漁っているのだ。
「幸ちゃんもよく毎週買おうと思うよね……」
「漫画は俺の生きがいだからな。んじゃ、俺行ってくるわ!」
「あっ! 幸!!」
幸は2人の返事を聞かず、コンビニがある方へ走って行ってしまった。
「もう、幸ったら……。茜、私たちは先に学校行くよ」
「で、でも監視カメラが……」
葵は幸に言われたように、先に学校へ行こうとする。がしかし、茜が監視カメラを嫌がり、一向に路地から動こうとしない。
––––––この後、茜の能力を使い学校まで飛んで行こうとするが、速度が早すぎてパンツがまる見えに。そのことを葵に指摘され、茜は恥ずかしさのあまり能力を解除してしまい転落しかけたそうだ。
*
「クソッ! 何で赤マルしか置いてねーんだよ!」
コンビニへ着き、早速◯ャンプを購入しようとした幸であったが、どうもお目当てのジャン◯が置いてなかったらしい。不機嫌な顔をしてコンビニから出てくる。
彼はコンビニから出ると、スマホを取り出して時間を確認する。
「げっ! もうこんな時間かよ!? 急いで行かねェと遅刻しちまう! ジャ◯プは……帰りでいっか……」
幸はジ◯ンプを諦め急いで学校へ向かう事にした。
その途中、学校へ続く橋を渡っていると、下で流れている川で何かを発見する。
(ん、なんだあれ? 猫? しかも溺れんのか?)
そう、彼が見つけたのは溺れている1匹の猫だった。
「はァー……」
その光景を目撃した幸は、大きな溜め息を吐く。
(なんで急いでる時に限って、こういうのに遭遇しちまうかなァ……)
ダルそうな表情をする幸。だが、見捨てるわけにはいかないと思い、彼は猫を助けることにした。
幸が目を閉じると、彼の体の周りを黒色のオーラが覆い尽くす。そして次の瞬間、悪魔のような黒い翼が彼の背中から勢いよく生えてくる。幸はその翼で宙を舞い、溺れている猫の元まで一直線に飛んで行く。
––––––これが王族の血を受け継いだ櫻田家の兄弟姉妹だけが使える特殊能力。
幸の能力は
だが、この能力には一つ問題がある。この能力は少しでも使い方を間違えれば、一瞬にして国––––いや世界をも滅ぼしてしまう程の恐ろしい力を持っているのだ。
今でこそないが、幸は小さい頃ある事を切っ掛けにこの能力に目覚めた。しかし、上手く制御することが出来ず、椅子やテーブル、酷い時には壁などを壊してしまうことが多々あった。そのせいで、幸は周りの人間から避けられる様になってしまった。
このままではまずいと思った総一郎は、奏の能力で能力を封印する特殊な腕輪を生成してもらい、幸の能力を封印することにした。今では訓練のおかげで完全に能力を制御することが出来るようになったが、この能力が危険であることには変わりない。そこで総一郎は腕輪の効果を奏に変えてもらい、1日5分の間だけ使用する事が出来るようにしてもらったのだ。
「おらよっと!」
溺れていた猫を両手で上手く掴むと、橋の上へ戻り着地する。そして幸は猫をゆっくりと地面に下ろす。
「おーい! 大丈夫かァ?」
幸は猫に声を掛ける。猫はそれに対し、濡れた体をブルブルさせ水を飛ばす。その後、猫は幸を見て「にゃ〜」と返事を返す。
「うしっ! 返事が出来るんだったら大丈夫だな。今度は川に落ちんじゃねーぞ」
「にゃ〜」
もう一度返事を返すと、猫はその場を後にする。幸は猫を見送ると、スマホで現在時刻を確認する。
(あーあ、こりゃ完全に遅刻だな……。ま、いっか。どうせ授業出ても寝るだけだしな)
心の中で呟くと、幸は学校の方角へ足を運ばせるのだった。
––––––この後、心配した表情で遅れたことを聞いてくる茜に、理由を話すことになるとはつゆ知らず。
*
––––––放課後
授業が終わり皆が騒いでいる中、茜は1人机に突っ伏して落ち込んでいた。
「楽しい時間ってあっという間よね……」
「茜以上に授業時間を満喫してる子はいないと思うよ」
「アタシもそう思う」
黒髪サイドテールの少女––––鮎ケ瀬 花蓮。
茶髪ポニーテールの少女––––鷹島 美香子が落ち込んでいる茜に話し掛けてくる。
2人は茜と小学生時代からの付き合いで親友だ。
「だってここでは皆私のこと特別扱いしないでしょ?」
「「まぁ友達だしね」」
花蓮と美香子は声をハモらせて返答する。
3人が話していると、茜の姉–––葵が教室まで迎えに来る。
「茜ー! 幸ー! 迎えに来たよ!」
「あ、お姉ちゃん! 今そっちにい––––––」
「キャー葵様よ!」「ホントだ葵様だ!」「葵様サインください!!」「俺と付き合って下さい!!」
「……」
返事をしようとした茜だったが、葵の周りに沢山の生徒が集まり、上手く返すことが出来なかった。
「わぁー、さすが葵さんだね」
「茜に特別扱いしないのも、ただ単に人気がないだけなんじゃないの?」
「うっ…! そ、そこまで言わなくてもいいでしょ……」
美香子の言葉に茜は胸を痛める。
「ほら、幸ちゃんも何時まで寝てるの! お姉ちゃんが迎えに来たから帰るよ!」
横の席でうつ伏せになって眠っている幸を揺らして起こす。幸は目を覚ますと、顔だけを茜の方へ向けて喋り出す。
「んだよ茜、腹減ったのか? 昼間あんだけ食ってたのによ。この食いしん坊め」
「違うよっ!? お姉ちゃんが迎えに来たって言ったの! 勝手に人を食いしん坊認定しないでっ!!」
「ジョークだろジョーク。んな怒んなくてもいーだろ」
そう言うと席から立ち上がる幸。
「全くもう……。それじゃあ花蓮、奈々子、また明日ね」
「うん、じゃあね茜! こ、幸もまた明日///」
「2人ともまた明日!」
「?……おう、また明日な」
茜と幸は2人に別れを告げて葵の元へ向かう。その際、幸は花蓮の頰が急に赤く染まったことに疑問を抱いく。「アイツ風邪でも引いてんのか?」と、考えていると––––––
「櫻田兄! 少し話しがあるから職員室まで一緒に来い!」
メガネ、髭、そしてボサボサした髪をしている白衣姿の男性教師––––間島に声を掛けられる。因みに彼は、幸と茜のクラス担任教師で数学を担当している。
幸は間島に近づき、げんなりした顔つきで喋り出す。
「……それって明日じゃ駄目なんすか?」
「駄目だ。明日でも明後日でも明々後日でもなく今日しか駄目だ」
「弥の明後日も?」
「駄目だ」
「チッ、わかりやしたよ。茜、姉さんと先に帰っててくれ」
「うっうん、わかった……」
茜は残念そうなに返事をする。幸はそれを聞くと、間島と一緒に職員室へと向かう。
*
––––––場所は変わって職員室。
間島は自分の席に腰掛けており、一方幸は座っている間島の前でダルそうに立っていた。
「なんすか先生。朝の遅刻の件についてっすか?」
「いや、それなら城の方から連絡があったから大丈夫だ」
「へェ〜」
幸は興味なさそうに自分の頭をポリポリ掻く。
「担当直入に聞くが、お前俺の授業が嫌いなのか?」
「いえ、んなことないっすよ。先生の数学の授業はとてもためになって––––––」
「嘘つけ。お前毎回俺の授業眠ってんじゃねえか」
「あら、なんで知ってんすか?」
「他の教師は誤魔化せても、俺の目は誤魔化されねえよ」
「チッ」
「舌打ちすんな。話しを戻すぞ。このままいけばお前一学期は痛い目に合うぞ? この前の小テストも名前とマリ◯?の絵しか書いてなかったぞ」
「先生、あれはマリ◯じゃなくてル◯ージっす」
「そんなのはどうでもいいんだよ。で、どうすんだお前?」
「今度はル◯ージじゃなくワル◯ージを描こうかと思いやす」
「だから、そんなことはどうでもいいって言ってんだろ。真面目に答えろ」
「……まァいざとなったら姉さんや姉貴に教えて貰うんで大丈夫っす」
「人任せかよ……。妹と兄には頼らねえのか?」
「茜は自分のことで手一杯だし、兄貴は…………無理っすね」
「だな」
幸の言葉に間島は同意する。そして何故か酷い扱いを受けている修。
「まぁお前がいいならいいんだが、赤点だけは取んなよ。補習に付き合うの面倒いし」
「結局自分が嫌なだけかよ……。もういいっすか? 帰りにジャ◯プ買いたいんで」
「おう、今日はとりあえず帰っていいぞ」
「んじゃ、さいならー」
右手を上げ別れを告げながら歩き出す幸。
「櫻田兄! ちょい待て!」
少し進んだ所で間島に呼ばれる。なんだと思い幸は間島の方へと振り返る。
「お前が◯ャンプ読み終わったら、次は俺に貸してくれねえか?」
と、間島は満面の笑みで幸に言う。
この時幸は思った。「駄目だこいつ…早くなんとかしないと…」と。
*
帰宅途中、コンビニに寄って念願だったジャ◯プを手に入れた幸。「帰ったらすぐに読まねェとな」と、考えながら歩いていると––––––
(ん? あれ茜か? 先に帰ったはずじゃ……)
双子の妹––––茜がいた。とりあえず、幸は茜に声を掛けることにした。
「おーい! あか––––っ!?」
幸は途中、茜の名前を言いかけた所で口を止める。なぜ彼が途中で止めたのか。それは、茜の側に地面にめり込んでいる無残な中年男性の姿が目に入ったからだ。
「っ!?」
茜も幸の存在に気づいたようで、顔をビックリさせる。
(ここ幸ちゃん!? なんでこんな所に!? どどどうしよう。この光景だけ見たら私が襲ったって想われちゃうよっ!!)
確かに、この光景だけを見れば茜が中年男性を襲ったように見えるが、実は違う。
茜と葵が歩いていると、途中で引ったくりと遭遇。茜は能力を使って犯人を捕まえようとしたが、思った以上に力を使ってしまい今の状況に至るという訳だ。
このことを知らない幸は、茜が中年男性を襲ったのだと完全に勘違いしていた。現に彼は、口をあんぐりと開け呆然とその場で立ち尽くしているからだ。
「……」
「こっ幸ちゃん、あのね」
茜は一刻も早くこうなった経緯を幸に説明しようと話し掛ける、が––––––
「あ……」
「へ?」
「茜が、あの純粋で優しかった茜が知らねェおっさん襲ってるゥゥゥゥ!!!」
「お、落ち着いて幸ちゃん!? 違うから!! 私襲ってないから!!」
「茜が…茜が…あの茜が……」
「お願いだから説明させてぇぇぇ!!!」
動揺する幸に茜は必死で説明しようとするが、全然話しを聞いてくれない。
「……何、この状況……」
そこへ葵が遅れてやって来る。葵は全く状況が飲み込めず、少し離れた場所から二人を見ていることしか出来なかった。
––––––この後、動揺している幸に説明したり、騒ぎを聞きつけて人が集まりだしたり、茜が顔を赤くして恥ずかしがったりと色々大変だったらしい。
*
––––––夜7時
テレビのニュースでは、幸が溺れた猫を助け出したシーンや茜が引ったくりを捕まえたシーンなどが放送されていた。
「やっぱり恥ずかしいよ……。毎週テレビで放送されるなんて」
「だな。溺れた猫助けたくらいでテレビに出さねーでほしいわ……」
ひどく羞恥な表情の茜。その隣では幸が呆れ果てていた。
「2人とも頑張ったんだからいいじゃない」
「そうそう。国民に皆の事を知ってもらうのも仕事よ」
「はァ……」
葵と母の五月の言葉に幸は頬杖を付いて溜め息を吐く。
「それに3年後には選挙もあるしな」
「いいな〜、二人ともテレビに映って!」
修もテレビから視線を外し幸と茜に言う。
櫻田家五女の光は、テレビに映る2人を見て羨ましそうにしている。
『では、ここで最新の世論調査による支持率を発表したいと思います』
『今回の調査の結果からいいますと、世代を問わず第一王女の葵様が人気を集めています。後は第二王女の奏様の人気も高いですね』
––––––何故ニュースでこのような話しをしているのか。それは修の言った3年後に行われる選挙の為だ。この選挙の結果で次期国王が櫻田家の兄弟姉妹の中から選ばれる。町中に設置されてる監視カメラもそのための物でもある。
『末っ子の栞様がなったら楽しそうですよねぇ』
『私も応援しています』
(なんか軽すぎないかな……)
緊張感のない専門家の会話に、茜は色々と心配になってしまう。
『次回の世論調査では、ひったくり犯を捕まえた茜様の支持率も確実に上昇すると思われます』
画面が切り替わり、茜の姿がテレビにデカデカと映し出される。
「いやー!! これ以上映さないでー!!」
「いい加減なれなよー」
「ほー、監視カメラしっかり押さえてんな」
「だな」
「もう勘弁して……」
「ただいまー」
茜が頭を押さえ恥ずかしがっていると、父の総一郎が帰宅する。
「あ、パパ! お帰りなさーい!」
「あら、ホントに早かったわね」
「はい。お前たち、週末は何か予定あるか?」
「え? 別にないけど」
「どっか連れてってくれるの!」
「いや、急な話だが、お前たちのテレビ出演が決まってな」
「へ?」
総一郎の発言に茜、修、光の3人は首を傾げる。そんな中、幸は1人「面倒くせェ」と呟き再びテレビに視線を向けるのだった。
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