城下町のダンデライオンー櫻田家の次男は変人?ー《凍結中》 作:ションタ
「カ、カナちゃん待って! 私も委員会で呼ばれてるって言ったでしょ?」
「玄関で大声出さないで」
今日は休日。なのだが奏は生徒会、茜は委員会の会議で学校へ行かなくてはならないのだ。
「なんでこんなに早く出るの? まだ時間あるよ?」
「うるさい。アンタと一緒に登校したくないからよ。行ってきまーす!」
茜の誘いを冷たくあしらい、奏は先に出て行ってしまう。
「あら奏ちゃん、休みなのに学校?」
玄関を出るとすぐ、1人の女性が奏に声を掛けてくる。
「おはようございます。臨時の生徒会の招集がありまして」
「あらあら、お姫様も大変ねぇ」
「いえそんな……王族だからといってその様な義務はありません。好きでやっていることですから」
さっきの態度とは打って変わり、喋り方や表情が茜への対応とはまるで違った。
その後ろから––––––
「まってぇー!」
茜が食パンを咥えたまま慌てて玄関から出てくる。そんな彼女の姿に奏は顔を引きつらせるのだった。
*
––––––結局、奏は仕方なく茜と一緒に登校していた。
「……今日だけよ、次からこういう時は葵姉さんに同行してもらいなさい」
「駄目だよ、向こうは普通に休みなのに悪いじゃん……」
「じゃあ、愛しの幸ちゃんにでも頼んでみたら? あの子嫌々言いながらも大抵のことは引き受けてくれるじゃない」
「それこそ駄目だよっ! ただでさえ幸ちゃんにはいつも頼りきりなんだから!」
「……じゃあ修ちゃんの能力で送ってもらうとか」
「……アレにはなるべく借りを作りたくない……」
「アレって……(はぁ……できることならすぐにでも茜を撒きたいところだけど……こうも監視されてたらはしたない姿は見せられないわね……)」
奏は内心溜め息を吐きながらも、茜を撒くための策を考えていた。彼女はまだ諦めていないらしい。
「人見知りがよくクラス委員なんてやってられるわね……」
「学校の皆は昔っから顔見知りだもん!」
「あっそ……。だったら国民のみーんなと知り合いになれば、アンタも楽になるんじゃない?」
「……何言ってるの? 現実的に考えて無理でしょ」
「……」
引いた顔で返す茜に、奏は青筋を立てる。彼女も真面目に言った訳ではない。茜がどんな反応をするのか面白半分で言ってみただけなのだ。
「そもそもなんでクラス委員なんてやってるのよ? 選挙もやる気ないクセに周りからの評価を上げたりして……」
奏は怒りを抑えながら茜に聞く。
「なんでって……集団にはまとめ役が必要でしょ? でも皆やりたがらないし。それにクラス委員やってれば全員に目が行き届くし……。皆が困っていてそれで私を頼ってくれるならちゃんと応えたいでしょ?」
(あーこの子……性格は向いてないクセして潜在的に王族なんだなー)
自分の妹がちゃんと王族の血筋を受け継いでいるんだと改めて感じる奏。茜はと言うと、いきなり黙り込んでしまった奏を見て「?」を浮かべる。
ふと、奏は気になり茜に質問する。
「そういえばアンタ、最近幸とはどうなのよ? 何か進展合った?」
「えっ!? なに突然!!」
「少し気になってね。それでどうなのよ?」
「えーと……特にない…かな……」
「……あれから1カ月以上経ってるのに?」
「……うん」
「でもこの前修ちゃんが言ってたじゃない。『幸は尻や脚派の人間だ』って」
そう、前回の話(第四話)で修が幸の性癖を暴露。彼に大きな恥をかかせたのだ。
「そういう部分であの子を攻めればいいんじゃない?」
「ででででもぉ!! そんな色仕掛けみたいな方法で……その……」
「はぁ……。そんなこと言ってると本当に誰かに取られちゃうわよ? 高校入ってからあの子ファンクラブも出来たみたいだし」
「えっ!? あの幸ちゃんにファンクラブッ!?」
奏の発言に茜は驚倒する。
「“あの”は余計だと思うけど……まぁ噂だけどね。でも、うちのクラスで狙ってる子が結構いたわよ」
「そっそうなの!? ど、どどどどうしよう!!?」
今度はワタワタと動揺する。
「だから色仕掛けでも何でもいいから早く落とした方がいいわよ?」
「でもやっぱりダメだよっ!! 私は幸ちゃんと普通に……その……恋仲になりたい……から」
「それだとアンタ、今となんら変わらない感じで過ごしちゃうじゃない!! それだと誰かに取られるって言ってるでしょ!!」
「でも––––––!!」
「だから––––––!!」
会話がエスカレートし、言い争いになる茜と奏。2人の口論は人通りが多い道まで続いたそうだ。
*
––––––同時刻
場所は変わって幸の自室。
「ふぁ〜………。今何時––––って外が明るいってことは……」
スマホで時刻を確認する。時刻は8時少し前。
「……オールしちまった。ま、いつもの事だしいっか……」
幸は先程まで読んでいた◯ングダムを本棚へ戻すとベッドへゴロリと寝転がる。
(今日は休みだし昼まで寝るか)
目を閉じて眠りに入ろうとする幸。だがそれは叶わぬ願いだった。
バンッ!
「幸兄上!!」
扉を思い切り開けて元気良く部屋に入ってきたのは、櫻田家四男の輝だ。輝の不意な登場に幸は眉根を寄せる。
「……んだよ輝? 兄ちゃんオールして眠いんだ……。邪魔しないでくれよォ……」
「母上が『早く起きて朝食食べなさい!』と申しておりますよ」
「えェ……」
「それに朝食の後は僕とキャッチボールしてくれる約束じゃないですか!!」
「……んな事言ったか?」
「はい! 昨日の夜––––––
『幸兄上! 明日の朝食後に僕とキャッチボールしてください!』
輝は漫画を読んでいる幸に聞く。
『あぁ、いいぞいいぞ』
『ホントですか!!』
『あぁ、ホントホント』
––––––と申しておりましたよ?」
「昨日の俺適当だなッ!!」
輝の回想に出てきた自分にツッコミを入れる幸。彼はボリボリと頭を掻いて溜め息を一つ吐くと、何かを決心したように喋り始める。
「仕方ねェ! 弟との約束一つ守れねェようじゃ兄ちゃん失格だしな。うし、朝飯食ったらキャッチボールしに行くぞ輝!!」
「はい! 幸兄上!!」
こうして幸と輝は朝食後にキャッチボールをする事になりました。
––––––この後、幸は赤い悪魔と死闘を繰り広げることになるとはつゆ知らず。
*
––––––場所は戻って茜と奏。
さっきまで口論していた2人は学校近くの通学路まで来ていた。学校の近くだからか、やけに人通りが多い。そのせいで人見知りの茜は、奏の背中にピッタリとくっ付いて恥ずかしそうにしている。
「アンタといると私まで恥ずかしいんだけど……」
「……なんか人前だといっつも良い顔いてるよね。選挙に熱心なのはわかるけど……そこまで世間体気にしなくてもいいと思うよ? 疲れない?」
「それは自分に言ってるのかしら?」
茜の問いに、奏は頭に怒りマークを浮かせ苛立ち声で返す。
「(いい加減ウザいわね……)……お願いだからその手だけでも放してくれないかしら」
「やだ! 走って逃げる気でしょ?」
「逃げないわよ」
「ホント?」
「ホントホント。人前で突然全力疾走なんて余計恥ずかしいでしょ」
「……じゃあ」
茜は掴んでいた奏の裾をパッと放す。
その瞬間、奏は「今だ!」と思い全速力疾走で茜から逃げようとする。がしかし、茜も瞬時に反応し負けじと彼女の後を追いかける。
*
「「はぁ……はぁ……」」
数分後、2人は走り過ぎたせいか、息を切らせその場から動けなくなっていた。その状態で奏が喋り出す。
「アンタ……学校まで……能力でっ……飛んでいけば…っ…いいじゃないのっ……」
そう、茜の
しかし、当の本人は––––––
「そんなの校則違反だよ!」
「なにがどう校則違反なのよ!!」
「そ、それに空を飛んでカメラの上を通ったら……パ、パパパンツ撮られちゃうじゃないですかッ」
「だったらパンツ脱いだらいいんじゃないですかねー」
頰を赤くさせて何故か敬語で言う茜。そんな彼女に少々やけくそ気味に奏が返す。
2人が言い合っていると1匹の猫が2人の近くへやってくる。
「あっ、猫ちゃん!」
と、茜は嬉しそうに猫へ近づき撫で始める。
(可愛い……じゃない! 今がチャンス)
奏は今しかないと思い、茜にバレないようにコッソリとその場から退散する。
「あはは見て見てカナちゃん、この子––––って、カナちゃん!!」
奏がいない事に気が付いた茜は慌てて彼女の後を追いかける。
*
(ちっ…赤か……)
無事茜から逃げる事に成功した奏。だが、途中で赤信号に妨害されてしまう。
「置いてかないでってばー!」
「はぁー……」
信号に捕まっていると、後ろから能力を使って急いで追いかけてくる茜の姿が。それに気がつくと、奏は大きな溜め息を吐く。どうやら彼女から逃げることを諦めたらしい。奏は茜に「もう逃げないから」と一言言おうとする。だが、茜の走る勢いが強すぎて奏を追い越して道路の上で転んでしまう。
「いつつ……」
道路に転んだ茜は、地面に手をついて痛そうにする。
––––––そこへ丁度一台のトラックが彼女目掛けて走行してくる。
「茜っ!」
「んぇ?」
奏は大声で呼ぶが茜はトラックが来ることに気づいていない。
(助けなきゃ!!……ダメだトラックが速すぎて間に合わないっ)
ダーーーンッ!!
……誰しもが最悪の事態を想定しただろう。
茜がトラックに引かれたと……
だが––––––
「はぁ……はぁ……はぁ……」
––––––茜は無事、しかも無傷だった。
奏が咄嗟の判断で茜とトラックの間に壁を生成しそれは防がれた。
奏は道路の上で座っている茜に近づきと、彼女を思い切り抱きしめる。
「力を過信して無茶しないで。体は普通の女の子なんだからね」
奏は抱きしめながら茜に聞こえる程度の声で言う。茜はと言うと、まだ状況を理解していないのか呆然とした表情を浮かべている。
「おいおい! 危ないだろッ!」
そこへ、トラックの運転手が2人に怒鳴り込んでくる。
「申し訳ございません。急に飛び出したりして……。ご迷惑をお掛けしました」
頭を下げて運転手に謝る奏。運転手も2人が王家の子供だと気づくと態度を変える。
「い、いや、まぁ……車も無事だったから––––––」
「ただ、あなたもかなり制限速度を超えていた様にうかがいました。この子にもしものことがあれば、“うちの次男”が黙ってないので以後お気を付け下さい」
「こ、ここ幸様がっ!? はっはい、すすすいませんでしたっ!!」
黒い笑みで話す奏に、運転手は慌ててトラックに乗り込みその場から去っていく。
「カナちゃんありがと……」
「ったく、1人で満足に登校もできないの?ってそれはいつものことか」
「すいません……。でも、なんであの時“うちの次男”って言ったの?」
「そう言った方が効果があるのよ」
「幸ちゃん……」
理由を聞いた茜は幸のことを不純に思った。
*
「……とりあえず、壁は空き地に置いてきたけど、後で責任持って処理しなさいよね」
「う、うん……。ていうかあの壁なに?」
「強力な衝撃吸収材でできた塊よ。発明されるのは20年後ってところかしら。咄嗟の判断としてはナイスチョイスだったでしょ」
「でも無駄に大きくなかった? いつものカナちゃんならもっと要領よく生成で––––––」
「ほら、学校着いたわよ」
茜の質問に奏は無理やり誤魔化す。その際、彼女は頰を少しだけ赤くさせていたそうだ。
*
––––––茜と奏が無事学校に着き、少し経った頃。
「うぷっ……気持ち悪ィ……」
「幸兄上、大丈夫ですか?」
「……大丈夫に見えるか?」
「……いいえ」
幸と輝はキャッチボールをするために公園へ向かっていた。因みに2人の手にはちゃんとボールとグローブもある。
「母さんの奴、毎日毎日あんなモン出しやがってェ……」
「仕方ないですよ幸兄上。好き嫌いは悪いことですから」
「そーだけどよォ……。お前だって毎日毎日グリンピース出されんのは嫌だろ?」
「それは……そうですが……」
「だろォ」
歯切れが悪そうに答える輝に幸が言う。
2人が嫌いな食べ物について話していると、奇妙なものが目に入る。
「あん? なんだあのでっけェ壁? 遊◯王のゲート・ブロッカーか?」
「幸兄上、さすがに違うと思うのですが……」
「ん、まァちょいと気になるし行ってみようぜ」
「はい」
話し合った2人は、空き地の真ん中にドンと聳え立つ大きな壁に近づいてみる。壁の周りには、輝と同い年くらいの子供が5、6人集まっていた。幸はその内の1人に声を掛ける。
「おい少年、ちょっと聞きてェことがあるんだが」
「あっ、幸様と輝様だ!」
少年がそう言うと、他の子供たちも壁から2人の方へ視線を向ける。
「この壁が何なのか、お前ら知ってるか?」
「いえ、僕たちも知りません……。遊ぶために来たのですが……」
「……これが邪魔で遊べない、と?」
幸の問いに子供たちは全員首を縦に振る。
「幸兄上、どうします?」
「どうしますも何もなァ。コイツら困ってるみてェだし、何とかするしかねーだろ」
「さすが幸兄上です! そう言ってくれると思ってました!」
頭をボリボリ掻きながら話す幸に輝は嬉しそうな表情をする。子供たちも幸の発言に歓喜の声を出す。
「輝、能力発動すっからボールとグローブ持っててくれ」
「わかりました!」
「お前らも危ねーから下がってろ」
そう告げると幸は
輝と子供たちは幸に言われた通り空き地から離れた場所で彼を見守る。
「おし、そろそろだな」
幸の右腕に集まった闇の塊は、だんだん
「おらァッ!!」
するとさっきまで聳え立っていた壁はどこえやら。「ドォーーーン!!」と大きな爆発音を上げると、壁は跡形もなく消えてしまった。
「粉砕!玉砕!大喝采! ほれお前ら、壁はもう片付いたぞ」
幸が呼ぶと子供たちは彼を取り囲むように集まってくる。
「すっげー幸様!!」
「あれが幸様の能力なの!!」
「かっけー!!」
「俺今度幸様に票入れるよ!!」
「さすがです!! 幸兄上!!」
子供たちはキラキラと目を輝かせ、幸に尊敬の眼差しを送る。その中に輝もちゃっかり混ざっている。
(めんどくせェ〜……)
そんな子供たち+輝を幸は心内鬱陶しいと思うのだった。
*
謎の壁を破壊した後、公園へ向かった2人は一通りキャッチボールをした。今はベンチで休憩中だ。
「ほれ、さっき自販機で買っといたお茶だ」
「ありがとうございます! 幸兄上!」
輝はお茶を受け取ると、蓋を開けてゴクゴクと飲み始める。よっぽど喉が乾いていたようだ。
それを確認すると幸は輝の隣に座る。輝が飲んでる間、幸はボー然と空に浮いた雲を見上げている。
ふと、幸はあることが気になり輝に聞いてみる。
「なァ輝……最近学校はどうだ?(––––––って、俺は何母親みてーなこと聞いてんだ!!)」
幸は問いかけつつ自分の問いにツッコム。
––––––彼が何故こんなことを聞いたのかというと、ある理由がある。まず、輝はこの歳ですでに厨二病に目覚めている。そのせいで輝に友達が出来るのか少し心配していた幸。彼は小さい時、能力の強大さや目つきの悪さで友達と呼べる人物は全くいなかった。彼はそれ程気にしてはいなかったが、もし弟も自分と同じ立場になっていたら助けてやりたいと思い聞いたのだ。
輝は最初キョトンとした表情を浮かべていたが、すぐに笑顔に変わり幸に答える。
「すごく楽しいですよ! 新しい友達もたくさん出来ましたし!」
「そうか……」
輝の答えに思わず頬を緩ませる幸。
(こんだけ笑えるなら心配する必要はねーな)
「幸兄上はどうですか?」
「ん? 俺か? そうだなァ……。まァぼちぼち楽しんでるよ……」
「そうですか! それは良かったです!」
そう言うと、輝はもう一度お茶に口をつける。
幸はベンチから立ち上がり輝に言う。
「輝が飲み終わったらキャッチボール再開させっぞォ」
「はい! 幸兄上!」
幸に元気良く返事をする輝。
––––––この後もう少しキャッチボールを楽しんだ幸と輝だったとさ。
–––––––*–––––––
おまけ:怒りの幸
幸「なァ姉貴、茜がトラックに引かれそうになったって本当か?」
奏「え?本当だけど……。––––––って、アンタ何持ってんのよ!!」
幸「見りゃわかんだろ、ハンマーだ。これでそのトラック野郎をぶっ叩きに行く」
奏「お、落ち着きなさいよ!!」
幸「HA☆NA☆SE」
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