「ウチは『ふわふわシフォンケーキ』て」
「あ、私もそれがいいです」
「葉月もー!」
島田さんたちは、仲良くシフォンケーキを頼んでいた。
「うーん。じゃあ、僕は『生チョコシフォンケーキ』を。明久には、『白桃のタルト』で」
「じゃ、俺は『レアチーズケーキ』でも」
「鴉、いいの!?」
「んじゃ、俺は――」
「……ご注文を繰り返します」
雄二の注文を遮るように、霧島さんは注文を繰り返す。
「……『ふわふわシフォンケーキ』を三つ、『生チョコシフォンケーキ』を一つ、『レアチーズケーキ』を一つ、『メイドとの婚姻届』が一つ。以上でよろしいですか?」
「全然、よろしくねぇぞっ!?」
動揺したように叫び声を上げる雄二。霧島さんに翻弄される様子って、珍しいよね。
「……では、食器をご用意いたします」
僕たちにはフォークを、雄二には実印と朱肉が用意された。
あれ? よく手に入れられたね。実印とか、実際に家に行かないと貸してくれないかもしれないのに。朱肉と婚姻届は、僕が用意してみました。お幸せに。
「……では、メイドとの新婚生活を創造しながらお待ちください」
そう言って、優雅にお辞儀をしてキッチンに向かって歩いていった。
「……明久。俺はどうしても召喚大会に優勝しないといけないんだ……!」
「あ、うん。それはもちろん僕もそうだけど」
雄二の目から並々ならぬ決意が感じられる。やる気を出すのはいいけど、点数の方をどうにかしてほしい。
「ねえ、竜樹」
「ん? なんだ」
「どうして、そ、その……僕を好きになったの?」
「……」
「……いつ頃から、竜樹は変わってしまったんだろうね……」
僕はしみじみした気持ちになる。もう、分からなくなってきたよ、竜樹。その恋は、世間には厳しいモノなんだ。よく考えて、答えを聞かせて?
ふと、耳を澄ませて聞いてみると、ぞわっと体に悪寒が走る。この気配は……。
『おかえりなさいませ、ご主人様』
『おう、三人だ。中央付近の席は空いているか?』
僕はガクガクと震える。さっきのことが、ずっと頭から離れてくれない。
「お、おい! 鴉、アイツらなんだな?」
「う、うん……。あ、あの……さ、三人だよ……」
隣では、明久たちが言っている。
「あ、あの人達だよ。さっき大声で『中華喫茶で、態度の悪いウェイターがいる』って言ってたの」
「僕たちのクラスを妨害しているのは、あの常夏村コンビなんだね。どうする、雄二?」
「そうだな。――おーい、翔子ぉー!」
「……なに?」
さっきまで、入り口に立っていた霧島さんが、いつの間にか雄二の隣にいた。驚くべきスピードだと言っておこう。
「あの連中がここに来たのは初めてか?」
「……さっき出て行って、また入ってきた。話の内容もさっきと変わらない。ずっと、同じようなことを言っている」
「そうか……よし。とりあえず、メイド服を貸してくれ」
臆面もなく問題発言する雄二。この男、躊躇いや恥じらいというものがないのか。
「……分かった」
迷いもなく、堂々とメイド服を脱ぎ始める霧島さん。
「き、霧島さん!? こんなところで、脱ぎ始めちゃダメですっ!」
「そうよ! ここはゲダモノが沢山いるのよ!?」
「わぁ〜。お姉さん、胸おっきいです〜」
霧島さんを止めようと、姫路さんや島田さんが慌てる。
「……雄二が欲しいって言ったから」
止められたのが不思議そうな霧島さん。雄二の頼みなら、迷いなく実行するみたいだ。
「お、俺はいつお前の着ているメイド服が欲しいと言った!? 予備のヤツがあれば、貸してくれって意味だ!」
「……ちっ。今、持ってくる」
舌打ちして、霧島さんは去っていく。そんなに、悔しいんだ。あとで、雄二に催眠術でもかけてみようかな。
僕は、チラっと中央の席を見た。うう……、さっきのがトラウマになっているのか、体の震えが治まらない。竜樹は心配そうに、僕の背中を擦ってくれた。あの人たちが怖い。
『あの店、汚かったな』
『あの中に可愛いウェイトレスがいたな。俺好みの子だったしな。一発ヤってみてぇー』
『二ーFには行くなって。ばい菌移されるぞ』
なぜか、途中から竜樹が耳を押さえた。何か、聞かせたくないことでも言っていたのかな? あ、目も塞がれた。ということは、抱かれたのかな。耳と目が塞がっているから。
*
耳と目が自由になった時には、もう事は終わっていた。
「あれ? 何があったの?」
「……鴉は何も知らなくてもいい。そのままでいてくれ」
「うん?」
「俺たちも出るぞ」
「あ、そうだね。じゃ、次はどこに行こうか」
そう言って、僕たちは会計に向かう。
「……お会計は、夏目漱石を一枚か、坂本雄二を一名のどちらかとなります」
「あ、それじゃ、坂本雄二でお願いします」
「……ありがとうございます」
そのまま、僕たちはAクラスを出る。さてと、先生に頼まれた用事を果たすために行こうと。