「い、いらっしゃいませ……」
よりによって、こんな時に来なくてもいいじゃないか! 僕が一体、何をしたんだと言うんだよ!
しかも、こいつ……やけに僕の尻を触ってくるんだけど! こんなに羞恥を受けるとは思わなかった。
「……お客様。当店はお触りバーではございませんので、店員へのセクハラはご遠慮ください」
「いいじゃんか、昔からの知り合いだし」
「……きゃー、竜樹。僕、襲われちゃうよー」
棒読みで言いながら、地味にお盆で攻撃する。時々、パターンを変えながら叩く。
「鴉、大丈夫か!」
ガラッと、ドアを勢いよく開けながら、竜樹は現れた。もう、ツッコミを入れるのも疲れてきた。アイツ、絶対に人間じゃないよ!
「げっ!」
「あぁ、お前か」
「すみません。コレ、僕の知り合い……でした、多分」
そう言いながら、接客の続きを再開した。内心、とても穏やかには……いられないけど。
*
僕は、学園長室に向かう。今回の清涼祭に掛かった費用を報告しに。普通、生徒がやることではないけど、僕の場合は生活のために始めたことである。それがいつの間にか、店として成り立ったのだ。
「二年F組の鴉です。学園長、失礼します」
ノックしながら、そう言って入った。毎度、いつものことだけど、礼儀は大事だと思う。
「ふん、遅かったね。さっさと、言ってくれないか」
「それでは、早速……今回の清涼祭に掛かった費用は――」
そう言って、帳簿を開いて見せる。今回、やはりステージにかなり出費してしまった。急いで、一週間で仕上げたから余計に掛かってしまったのが、ちょっと悔しい。
「失礼しまーす」
「邪魔するぞ」
ノックと挨拶もしないで、開けちゃったのか。二人とも、礼儀が欠けているのかな。
「お主ら、全く敬意を払っておらん気がするのじゃが……」
「……返事が来るまで、廊下で待っててほしかったよ。大事な話をしているのに」
僕は帳簿を閉じて、振り返る。
「鴉のいうように、アタシの返事を待つよう言ったはずだがねぇ」
「あ、学園長。優勝の報告に来ました」
「言われなくてもわかっているよ。アンタたちに賞状を渡したのは、誰だと思っているんだい」
相変わらず、罵るんだなぁー。でも、慣れてきちゃったのは、ちょっとおかしいのかな。
「こいつらも、ババァのせいで迷惑を被ったからな。元凶の顔くらい拝んでもバチは当たらないはずだ」
「……ふん、そうかい。そいつは悪かったね」
意外です。学園長に、そんな気持ちがあるとは。いつも、口汚いのが日常だったのに。でも、学園長も人でしたね。
『ワシらにも、そやつらの特徴を教えてくれ!』
そんな声が聞こえてきた。多分、いつもの事だと思う。
「学園長、どうしますか?」
「業者に依頼しといてくれ。アイツらが、何を仕出かすか分からないね」
「……分かりました。では、手配しておきます。予想では、教頭室が半壊するかもしれませんね」
僕はそう言って、学園長室を出て行く。明久たちは、おそらく花火に目が行くはず。特に、明久は観察処分者だから、召喚獣は物に触れる。それで、火のついた花火を投げるつもりなはず。
「……西村先生に報告しようかな」
廊下を歩いていると、窓の向こうに明久たちが見えた。……う、うーん。僕は何も見てない。見てないったら見てないのだ。教頭室に向かって花火が飛んでいるなんて、見てないに決まっている。
「Oh……。もう、文月学園が潰れそうだなー、もう、どうにでもなーれ☆」
「お、おい……? 鴉、何を言ってんだ?」
「あ、西村先生。その……向こうを見て、ください」
その瞬間、大きな爆発音がした。それと同時に、何かの崩れる音も聞こえる。そして、もう一発放たれる花火。
「……すみません。現時点で、全職員の給料が34%カットになりました。ついでに、ボーナスもカットです。今、学園長からの伝達が来ました」
携帯を片手に、西村先生を仰いだ。僕も商売している身であり、文月学園の一スポンサーもしている。だからこそ、他のスポンサーからも、文月学園の内のことも説明を求められているのだ。
「そうか」
それだけ言って、西村先生は常人離れした動きで、明久たちの元に向かっていた。
「――はい、ほぼ伝達は終わりました。ただ、業者に頭を下げるとなると……」
どうしよう、お得意先とはいえ、こう短期間に依頼しなきゃならないなんて、苦笑いされちゃうよ……。