オーバーロード 『最も幼き最後の円卓』   作:星野荒野

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第二話 『誓いをここに』

 

円卓という部屋を後に二人は進む。この最後の時、もしメンバーがやってくるなら円卓の部屋だろうが二人とももはやその可能性が無いことを自然と理解していた。

沈黙の中ナイヴズはただ一人モモンガと共に出来ることを喜びながらも、今この時を全員で過ごせないことに悲しむしかなかった。

あの栄光の時を。なぜ一緒に過ごせなかったのか。なぜ自分はもっと早く生まれなかったのか…どうしようもない思いが駆け抜けては過ぎ去っていった。

しかし、今はまだ部外者で、ギルドメンバーですらない自分がここにいれるのは幸運だと理解していた。

あの昔、八階層で敗れたかつての自分では見ることが出来なかった、この九階層以降を見ることが許されたのは。

ただのフレンド登録で今ここにいる自分のなんと幸運なことか。神々しいこの空間を歩きながらメンバーになれることを喜んでいた。

そんなことを考えていると十階層へと到達する。

モモンガの許可をもらってやってきたこともあるここには、複数の人影があった。

執事服に身を纏った老人セバスに、六人の特殊な戦闘服の様なメイド服を纏ったメイド達。プレアデス。

唐突にコンソールをいじりだしたモモンガにナイヴズは声をかける。

 

「セバスやプレアデスに用があるんですか?」

「ふふ、そんな名前だったか、ナイブズ君の方がよくしってそうだね」

「もちろん。フレンド権限で読める設定は全て熟読済みです。これでも自称ナザリック大墳墓マニアですよ?」

「ナイブズ君はそうだったね…。あの時から君はずっとここにいてくれた。私は名前すら思い出せなかったのに…あれほどもめた名前だったというのに」

 

モモンガは軽く笑った。

 

「そんな思い出に浸れるのはギルド長の特権だと思いますよ?」

「そうだね。そんなギルド長たるもの、NPCを働かせるべきだな」

 

モモンガは偉そうな自分の言葉に内心で突っ込みを入れつつ言葉を発した。

 

「付き従え」

 

セバスとメイド達は一礼するとモモンガの後についていった。

それを見て古典ゲームのような連なりにクスリと笑みを浮かべたナイブズはモモンガの斜め後ろに付きながら歩いていった。

そうしてやってきたのは半球状の大きなドームの大広間だった。

ソロモンの七二柱の悪魔をモチーフにした彫像と四色に輝くエレメンタルが配置された部屋であり最奥に扉があった。

 

「ここまでやってこれてもこれですからね…」

 

ナイヴズはかつてを思い出して呟く。彫像とエレメンタルが侵入者迎撃用のモンスターであることを知っている今のみとしては八階層を突破できても死んでいただろうと思う。

 

「完全に完成していたらよかったんだけど、途中で製作者が飽きちゃったからね」

「それでもですよ、百レべ、二パーティーくらいは楽勝でしょうね」

「そうだね」

 

そんな雑談を交わしつつ、そこを通り抜ける。

なにやらモモンガが若干慎重に歩く速度を落としたが、ナイヴズは気が付かなかった。

そして最奥の扉に到達する。

モモンガが扉に触れると濃厚な扉に相応しいだけの遅さでゆっくりと扉は開いていった。

 

空気が変わった。

 

そこは広く、高い部屋。一種の神殿のようなそこはまさしくナザリック大墳墓の最奥にして重要箇所玉座の間であった。

 

「いつみてもすごいです」

「ええ、私でもそう思うよ」

 

ギルド長のモモンガですらこの場では感嘆の溜息が漏れた。

ナイブズの語彙ではこの部屋のすごさを語りきれないほどの静謐さと荘厳さを兼ね備えた場所であった。

 

「この場こそ死に場所にしたかったです」

 

ナイブズはそう思わずにはいられなかった。

あの荒野を抜けて、ここで最終決戦を挑みたかったと。

しかし、モモンガはそれを否定する。

 

「今からここは死に場所じゃなく新たな誕生の間だよ、そして最後を迎えるにふさわしい場所…」

「はい、二人の約束の通りにですね」

 

モモンガとナイブズは広大な部屋へと足を踏み出し視線を玉座へと向けた。

そこにいるNPCへと。

 

「アルベド!」

 

ナイブズは玉座の傍にいる女性型NPCへと駆け寄った。

 

「ほんとうにナイヴズ君はアルベドが好きだね」

「ええ、アインズ・ウール・ゴウンの中で一番好きですよ、ね、アルベド」

 

ナイヴズはモモンガの問いに答えながらもその視線をアルベドから離すことは無かった。

純白のドレスを纏った美しい女性NPC、ナザリック大墳墓階層守護者統括アルベド。

それを知った瞬間から、ナイヴズは彼女に一種の恋をしていたからだ。

美しい微笑を浮かべた彼女を女神の如く敬愛しているナイヴズ、触れることが許されないことが余計にその思いを強くしていた。

 

「ほんとキレイですよねアルベド」

 

ナイヴズの言葉に頷いてモモンガは答えた。

 

「何回もせがまれてここに入ってきたけど、ホントそうだよ、っとどんな設定をしていたかな?」

 

横に立つアルベドを眺めながらコンソールを開きアルベドの設定を閲覧する。

隣から覗き込んだナイヴズも一緒に眼にする。

がそこに浮かんだのは長大な文章だった。

ずらりと並んだ文字の列に二人は圧倒される。

 

「すごい、これ文字限界まで書かれてますよ」

「アルベドの設定はみんなで考えたからいろいろ詰まったんだよね…」

 

アインズ・ウール・ゴウンのメンバーは設定好きが多かったためこうなっていた。

二人はユグドラシル終了まで僅かながら時間があるため流し読みながら閲覧していく。

そして長い文章を飛ばしに飛ばし最後に辿り着いた文章で二人の思考は止まった。

 

『ちなみにビッチである』

 

「えええええええええええええ!!!」

 

ナイヴズは思わず声を上げた。

 

「ここまで聖女の外観しといてビッチはないでしょう!!」

「ビッチって……罵倒の意味だよなぁ」

「はい、ですがこんなの間違ってます!」

「アルベドを作ったのは…タブラさんか、ギャップ萌えだからなぁあの人」

「ダブラさんとは語り合ったことありますが、ギャップ萌えは間違っています!清純派こそ正義です」

「いくらなんでも…これはなぁ」

 

二人でアルベドを見る。この外見でビッチは酷いだろうと。

各メンバーが作ったNPCは子供であり遺産。そのNPCの頂点がこれでは悲しすぎると。

 

「うーむ」

「変えれないんですか?」

「ギルド長特権を使えば…まぁ…」

「変えましょう!」

「そうだね、ナイヴズ君の言うとおりこれは変更しよう、ギルドメンバーの間違いは正すべきだ」

 

即座にビッチの文字が消された。しかし、限界まで敷き詰められた文字にぽっかりと穴が開くのはそれはそれで問題の様な気がモモンガにはしていた。

 

「何か入れた方がいいかな」

「上手い文章…聖女であるとか?」

「ただし聖女である、ってしても一文字余るな」

「何かあります?」

 

モモンガは何か考えたのち、アルベドとナイヴズを交互に見た。

そして僅かに苦笑を浮かべるとこう打ち込んだ。

 

『ナイヴズを愛している。』

 

「え」

「最後だしね」

 

なんだか、友達の恋路を応援しているようで恥ずかしくなったモモンガは即座にコンソールを消した。

 

「え、ちょっとモモンガさん!?」

「気にしない気にしない」

「いいんですか!?これ!?ってっぇえええええ」

「ほら時間が無いよ、約束を果たさないと」

「そうですけど、嬉しんですけど…」

 

ぶつぶつとつぶやきながらナイブズは玉座から降りて行った。

そしてモモンガは満足感と若干の恥ずかしさから目を逸らし玉座へと腰かける。

ナイヴズはくるりと袖を広げながら回転しモモンガに相対するとさっきまでの感情を押し殺してモモンガに向けて跪いた。

 

「NPC達よひれ伏せ」

 

モモンガはNPC達に臣下の礼をさせると満足げに頷いた。

時間を確認すると23:55:48となっていた。

十分な余裕があった。

 

「さて約束の時だ始めよう」

「はい!」

 

モモンガの声にはっきりと頭を下げて答えるナイヴズ。

二人は同時にコンソールを開きほぼすべての情報をシャットアウトした。

残ったのは一つの情報画面だけ。

 

スタッフを構えモモンガは声を張り上げた。

 

「新たなるギルドメンバーとなることを望む者よ」

 

「………はい」

 

「メンバーの一員として心を一つにし、困難を乗り越えることを誓うか!」

 

「……はい!」

 

「いかなる時もメンバーとして恥じぬ行いをすると誓うか!」

 

「…はい!」

 

「メンバーと力を合わせ共にあることを誓うか!」

 

「はい!」

 

「誓いをここに!今新たなギルドメンバーを迎えることをギルド長モモンガが認める!」

 

その言葉と共にナイヴズのコンソールに新たな通知が来たことが知らさられる。

それはナイブズが待ちに待ったギルド、アインズ・ウール・ゴウンからの招待状だった。

万感の思いをもってそれを受け止めたナイヴズ、あとはYES、NOのボタンを押すだけだ。

ナイヴズは指をいっぽん伸ばしそれに近づけた。本当の体ならきっと震えていたことだろう。

そしてイエスのボタンが押され、全てのコンソールが消えた。

 

「新たなギルドメンバーに祝福を!」

 

瞬間ギルドメンバー善因の紋章が掲げられた旗の元に、ばさりと新たな旗が一枚垂れ下がった。

そこにはナイヴズ=村正を象徴する紋章が記されていた。

横顔の鬼を抽象化し、それを斜めに走る螺旋図。

まさしく自分を象徴するものだとナイヴズは感動ではちきれんばかりに胸がいっぱいになった。

 

「モモンガさんこんなもの用意してたんですね…」

 

顔を落として涙をこらえきれなかったナイヴズは涙交じりに言葉をはいた。

 

「何年ぶりかの新たなギルドメンバーの誕生ですからこれくらいやらないとって思いまして」

「でも誓いの言葉なんだか結婚式みたいでしたよ」

「し、仕方ないじゃないかいいのが浮かばなかったんだから」

 

モモンガのその言い方がおかしくてナイヴズは笑いだした。

それに釣られたモモンガも怒りのアイコンを表示しながらも声は笑っていた。

 

時間は23:58:15を刻んでいた。

 

ひとしきり笑った二人はもう一度玉座に位置した。

モモンガは背を玉座に乗せてゆっくりと天井に顔を向ける。

ナイヴズはアルベドと玉座と反対位置でモモンガを守るようにたった。

NPC達は跪いたまま。

もう、最後の時間が迫っていた。

 

「過去の遺物か…」

 

唐突にモモンガが声をだした。

モモンガが何を思っているのかナイヴズにはわからなかった。

しかし邪魔をしてはいけない何かであるとナイヴズは思った。

呪文のようにギルドメンバーの名前を呟いていくモモンガ。

四十人、そして、

 

「ナイヴズ=村雨」

 

自分の名前が呼ばれたことが嬉しくて…今ここにいる自分が過去になったようでナイヴズは一つ年を取ったような気がした。

 

「楽しかった…」

「そうですね…」

 

モモンガは深く、疲れたように玉座にもたれ掛った。

ナイヴズはそんな彼を見て…天を、高い天井を見上げた。

やっとかかった自分の旗。

アルベドとの思いが遂げられた今。

満足しているか…ナイヴズの中に答えは無かった。

時間が迫っていた。

23:59:50.51.52

 

「モモンガさん」

「なんだい?」

「また、……いえ…何でもありません」

「そっか…」

 

また会いましょうとは言えなかった。言ってはいけない気がした。

だから誤魔化して目を閉じた。

別れの挨拶は言えなかったから。

ゲーム終了のボタンだけを残し何も言わず立ち去ることにした

 

55.56.57.58.59.

 

0:00:00

 

俺はその瞬間に合わせてボタンを押した。

幻想の終わりと共に意識は……途絶えた。

まるで引きちぎれるかのように……

 

ーーーーー

 

夢を見てた。

夢を見ていました。

夢の中の僕はまるで子供だった。

夢の中の自分はまるで大人だった。

無邪気な子供。残酷さも天真爛漫さも理解していないただの子供だった。

大人ぶった子供。ただ世間の合間を滑ることをして安心する大人だった。

そんな子供が上を向く、何かに気が付いたように

そんな大人が下を向く、何かに驚いたように

その二人が、視線が合わさった瞬間。

何かが引き千切れるかのような音と共に何かがぶつかり合った音がした。

まるで体が半分になるかのように、まるで体を無理やり繋げたかのように。

その瞬間。自分は僕となり私は俺となった。




佐藤 良平
討伐戦参加時で21歳の大学生。
高校3年時点で早々に大学受験を合格、ちょっと暇になったので評判を聞いたユグドラシルをプレイし始めてドはまりする。一時期ゲームには

まり過ぎて進級が危ぶまれるほどだったが、突然に猛勉強を開始、無事に4年で卒業。学校推薦を受けれる程度の優秀な成績であり大手企業も

狙えたが、なぜか地元の中小企業に入社。以降そつなく仕事をこなす。
本編開始時点で26歳。
両親健在、兄が一人。
ペロロンチーノと個人的に友誼を交わしたせいで(鬼畜系)エロゲスキーになったり、ぶくぶく茶釜には男の娘がいかに素晴らしいか語られたせいで、男の娘スキーになったり、ダブラスさんとはヒロインのキャラはどれがもっともすばらしいかと激論をかわしたせいで、ギャップ萌えも素晴らしい、しかしヒロインは素直であればこそ最高!と内心決定したりと、その他面識があったナザリックギルメンの影響を強く受けている。
自称『ナザリック大墳墓マニア』
ナザリック守護者等各キャラ設定は熟読済み。
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