魔法少女まどか☆マギカ × ウルトラマンネクサス   作:ブラッディ

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交錯 ―クロスオーバー―

 私たちは生きる中で、いつもなにかを願っている。

 人それぞれ。願掛けを、目標を、物欲を、奇跡を。

 それはどんなものでも、きっと同じ希望。

 もし、その希望がなんでも一つ、叶えられるとしたら。

 そして叶えた希望の代わりに、その先に絶望が待ち受けているとしたら。

 私たちはなにを願うだろう。

 

 あなたは、なにを願うだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 無限に続く円環にも思える歪んで捩れた螺旋階段。

 迫ってくるような回廊。

 場違いに明るい光の指す窓。

 いくつもの柱。

 幾通りもの分かれ道。

 

 全てが目に刺さる白黒。まるでそれはなにかの対立を象徴するように。

 

 そうして走り抜けた先に、不気味な階段と、非常扉。

 

 ゆっくりと開けたその扉の中は、それまでのシンプルな風景とあまりにもギャップのある混沌。

 

 見慣れた町が壊れていく。物理法則などあったものではない。ビルが、車が、木が、宙を舞っている。

 

 空に浮かぶ巨大な歯車と、哄笑を続ける巨大な影。

 

 舞台装置のような、あるいはドレスをまとった女性のような、あるいは竜巻のようにも。

 

 心の郷を蹂躙する圧倒的な力をなんと呼ぶべきだろう?

 

 あえて呼ぶなら、そう、『魔女』。

 

 嘲笑う『魔女』に立ち向かう黒い影は悲しいかな、台風に立ち向かう蟻のごとき蛮勇。『魔女』の笑い声を小揺るがしもしない。

 

 やがて力尽きるその少女を見て私は思わず理不尽を糾弾するが、誰も答えるものはない。

 

 否、あった。

 

「諦めたらそれまでだ。でも、君なら運命を変えられる」

 

 その黒い勇者と反対の白い生物は私を励ますように、儚い明日の行方を示す。

 

 

「避けようのない滅びも、嘆きも、全て君が覆せばいい。その為の力が、君には備わっているんだから」

 

 空の巨大な歯車と反対の小さな存在は私を唆すように、世界を変える力がこの手にあると囁く。

 

「本当なの……? 私なんかでも本当に何かできるの? 私なんかでも本当にこんな結末を変えられるの?」

 

 彼女が私を止める声がする。落下していくその姿は吊られた者にも似て。

 

「勿論さ! だから僕と契約して――」

 

 こんな私でも、なにかできるなら。

 

「――魔法少女になってよ!」

 

 躊躇いを飲み干して。

 私が望むものは……なに?

 

 そのとき。

 

 

 

 

 流星のごとく舞い降りた光が、空を貫いた。

 

 

 

 

 私は見た。

 

 空に居座る【魔女】が、いつのまにか悪魔のような怪物(ビースト)に姿を変えて。

 

 壊滅した故郷の町は、火の海の首都圏大都市ととって代わり。

 

 空を貫く光が徐々に集まり、形を作っていく。

 

 煌めくような銀の光の塊の表面から浮き出るように赤の光の線が走るのが見えたとき。

 

 

 

 

 見上げる私を、私が知っていたはずの幻想が、見下ろしていた。

 

 

 

 

 足元の白く小さなものが呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

               「――【ウルトラマン】」

 

 

 

 

 

 それは子どもの頃見ていた夢にも、欲深い憧れにも似て。

 

 私の視線と光の巨人の視線がはっきりと交わった瞬間、一際強く光が射す――

 

 

 

 

 ――私は、素晴らしく快適な温もりと柔らかな安らぎの空間に包まれ、横になっていた。

 カーテンの隙間から目に刺さる陽光。

 

 むくりと起き上がるとそこには、瓦礫もなければ風もない、いつも通りの私の部屋。

 

 勿論、黒いやつも白いやつも光ってるやつも回ってるやつもいない。

 

 つまり。

 

 

 

「……夢オチぃ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 光は、絆だ。

 

 誰かへ受け継がれ、再び輝く。

 

 その言葉だけを残して。

 

 姫矢 准は、消えた。

 

 

 

 

 

 新宿地下の異空間【終焉の海】で繰り広げられた、二人の巨人と6人の人間による知られざる死闘から明くる日。

 

 それを知るものにも、知らぬものにも、平等に来る朝がこの一家でも始まろうとしていた。

 

 いい夢とも悪夢とも言えない『変な夢』をみた少女。

 

 薄い色の髪と華奢な身体。瞳に優しさの光を宿す柔らかな面差しの可愛らしい少女【鹿目まどか】の朝は、弟と一緒に母を叩き起こすことから始まる。

 

 が、弟【タツヤ】は、今日は朝からクレヨンを散らかして落書きにお熱である。見たところ灰色のクレヨンと黒のクレヨンが、その身を削りに削って猛烈に働いているようだ。黒い蜥蜴と灰色の人影だろうか? 周りの水色は空かな?

 そうして熱心な弟の絵を観察するまどかに、専業主夫の優しい父【知久】は、一人で母を起こしてくるよう伝える。

 まどかは母が頭まで被っている布団をひっぺがすことで速やかにミッションをコンプリートすると、大きな鏡の前で二人並び、世間話に花を咲かせながら身支度をする。

 この母【詢子】は、まどかに半分血を流してるとは思えないほど意思のはっきりした才色兼備のキャリアウーマンだ。メイクも手際よく、世間話で手つきが淀むのとは全くない。それどころかまどかの身支度よりもはるかに手間のかかる自身の身支度を先に済ませ、髪をリボンで束ねるのを手伝ってくれる。

 自身には幾分派手に思われる赤のリボンを母に勧められたまどかは、とりあえずそれで髪を束ねてみて、鏡を見て具合を確認する。

 

 この大きな鏡といい、全面ガラス張りの壁といい。

 この『見滝原』では標準的な様式とはいえ、ちょっとどうなんだとまどかはふと思ったりする。

 ここ十数年で急激に近代化を遂げたこの町は、近代化しすぎて方向性が若干迷子とネットで評判の町だ。

 見滝原の町並みには緑もほどほどに残りつつも、ともすれば悪趣味にも見えるほどに手の込んだ建物が立ち並ぶ。近代化どころか近未来化した設備、近代化しきれない人々の心、昔ながらの制度。それらが共存、というよりはむしろ混在する一種歪な故郷。

 それが、まどかの14年生きてきた小さな世界だった。

 

 

 身支度を終えると朝御飯だ。

 父のご飯は簡単な朝御飯でさえも絶品。

 弟もクレヨンと画用紙を放り出して席に着き、口の周りをベタベタにしながらジャムをたっぷり塗ったパンを頬張っている。

 

『新宿地下を中心に発生していた連続失踪事件は、新種のウイルスが原因であることがわかりました。このウイルスは夢遊病のような徘徊の症状を――』

 

「怖いねぇ。まどかもタツヤも、手洗いとうがい、しっかりね」

 

「私は~?」

 

「君は言わなくてもしっかりしてるからね」

 

「あらら。じゃあ……言われなくてもしっかり遅刻しないように出発しようかな~」

 

 珍しく朝からつけていたニュースを聞いての会話。

 

 さらりと母は出立を告げる。

 当然のように台所仕事の手を止めて振り返った父とキスを交わし、息子の額に口付け、娘とハイタッチを交わすと、颯爽と職場という戦場へと起つのだ。

 

 かっこいい、とまどかはいつも思う。

 こんな大人になれたら……。

 

 ともあれ母の出立はまどかの出立とほぼ同時刻だ。

 父に言われたまどかはパンをくわえると、小走りに家を飛び出した。

 

 太陽燦々。いい朝だ。

 

 まるで、生まれ変わったような綺麗な朝。

 

 

 

 

 

 

 その時。

 まどかには知る由もなかった。

 このなんでもないはずの朝が、知るはずのなかった世界への最初の扉であることを。

 

 

 

 

 

 

 まどかの飛び出して暫くの鹿目家。

 

 台所周りをひとまず片付けた知久は、息子の絵を見ていた。

 タツヤは気分よくクレヨンを走らせていたが、父が後ろから見ていることに気付くと振り返り、頬を緩ませて楽しげに、それでいてどこか必死な様子で語りかけた。

 

「うぅろらまん!」

 

 うぅろらまん。

 それがここ最近、タツヤの描いているこの灰色の人影のことだと知久は知っていた。タツヤはいつもこの人影のことを知久に教えてくれる。和久は要領を得なくてボキャブラリーも当然ながら少ない三歳の息子に耳を傾ける。

 

 うぅろらまんは強いこと。

 うぅろらまんは空を飛べること。

 うぅろらまんはキラキラしていること。

 うぅろらまんは両腕を十字に組むポーズをとること。

 

 そして、うぅろらまんがヒーローであること。

 

 世の親の大半がそうであるように、知久はそうした我が子との触れ合いがどこまでも好きだった。そうしているだけでも充分な幸せを感じていた。

 一頻り話したら満足したらしいタツヤは、えへへと姉そっくりの笑顔を見せると、なにかの歌を口ずさみながらクレヨンをまた走らせ始めた。昼の空かと思ったが何故か黄色い三日月が現れた。

 知久は暫く様子を見ていたが、やがて息子に一声かけると立ち上がった。

 家庭菜園の時間だ。

 

 庭で伸びをしながら、菜園の植物たちと一緒に光合成。

 そしてしゃがみこみながら、タツヤの絵を思い出してはその特徴を呟いていた。

 

 

「銀の体に、黄色い瞳。赤いラインの巨人。

 

 

 

 ぼくらのヒーロー【ウルトラマン】……か」

 

 

 

 その日こそは、幾重もの螺旋に連なる新しい運命の日。

 

 

 

 

 背が高くて元気で強気な【美樹さやか】とたおやかでちょっと浮世離れしたお嬢様な【志築仁美】の親友二人といつも通り待ち合わせ。連れ立って登校したまどかは、そこで定められた出会いを果たす。

 

 担任の紹介で教室に入ってきたのは転校生。

 長い黒髪と鋭い瞳。どこか冷たくすらりとした雰囲気。心臓病で長らく入院していたというが、言われなければそうとは思えないほど力強い立ち姿。物静かなのに異様に強い存在感。その名は、【暁美ほむら】。

 

 不思議なことに、今朝の夢で出てきたあの少女にそっくりだった。

 

 

 

 

 

 

 世界という大舞台の歯車を噛み合わせる大きな出会い。

 

 だが、()()()()の歯車はずっと前に狂っていた。世界を動かした出会いは、実はもっとずっと前に訪れていたのだ。

 

 この【見滝原】のすぐ隣町、【風見野】の遊園地で。

 

 

 

 

 彼は夢を見ていた。

 

 広大で鬱蒼とした森の中にある、見たこともない遺跡の中をさ迷う夢。いくらさ迷ってもそこは薄暗い夜明け間際のような光景のまま。この辺りが如何にも夢だ。

 まさしく変な夢。

 といっても、この夢の目的地がどこなのかはうっすらと分かる。誰かが呼んでいる気がしていたし、そもそもこの夢はご丁寧にも、如何にもゴールといった風情の建物を見せてから始まる。始めの場所は全景を一望できる丘。そこに立って普通に風景を見たとき一番目立つ、遺跡のメインと思われる塔のような建造物がどうも怪しい。

 しかし、彼はあえてそこには向かわなかった。この広くて不思議な世界をもっと味わっていたかった。

 

 俺は()()()()()()、こういうところを見られるだろうか。夢ではないこの足で。この目で。

 

 そんな風に夢の中であてもなくぶらぶらしていた彼はしかし、

 

「起きろっつってんだろ! このっ、バカ憐!!」

 

 耳元の高い声と頭の衝撃に叩き起こされてしまった。

 

「痛ってぇ! なんだ!? バンニップ!?」

 

 慌てて上半身を跳ね起こすとそこには

 

「誰が怪物バンニップだこの野郎!?」

 

 と喚く、長い赤毛の少女。八重歯と剣呑な眼差しが目立ち、可愛らしい顔つきが狂暴な野犬のように見える。

 

「だってなんでも食うし」

 

「なんでもは食ってねえよ!食えるもんだけ!」

 

 口汚い口調にはあまり似つかわしくない甲高い少女の声が起き抜けの耳によく響く。頭がガンガンする。

 

「起こしてくれるのは嬉しいんだけどもうちょっと優しく、妹が寝坊助さんのお兄ちゃんを起こす感じでさぁ」

 

 散らかった部屋にくしゃくしゃの寝床。散乱した風船やキグルミ。それら雑多な全てを平等に照らす朝日。

 容貌の整った茶髪の青年の文句を、少女は鼻息ひとつで冷たくあしらう。

 

「おっさんが話があるってさ。すぐ来いよ」

 

 少女は素っ気なく言い放って後ろを向く。少しは片付けろよとぶつくさ言いながら、部屋に散らばっている品物を蹴飛ばしつつ出ていってしまった。

 

 誓って言うが、二人は同棲している恋人同士だとかそういうわけではない。二人とも【針巣】という気のいいおっさんの下、同じ遊園地に住み込みバイトで働いているだけだ。

 ついでに言うと5つ程年下の少女の方が、バイト歴では先輩である。

 

 がしがしと頭を掻いた青年は、ベッド下から取り出した黒い箱から機器を取り出し、付属のベルトを腕に巻き付けた。

 

「いつもながら本当キッツいよな、杏子は」

 

 ぶうたれる青年に、機器の電子音が計測を終えたことを告げる。

 

「……それで、こんな俺に君はなにを望むんだ?」

 

 【憐】と呼ばれた青年は誰にともなくごちると、今朝の夢を思い返しながら着替えに立った。

 

 

 

 

 

 

 

 話は見滝原に戻る。

 

 入院明けで体調が不安定だから保健委員に保健室に案内してもらいたいと、保健委員である自分に声をかけてくれたときにはなにごとかと思った。

 案内するはずが何故か先導され、その力強い歩みについて歩く。

 なぜか彼女は保健室の場所を知っていた。まあ、それ自体は退院からの登校初日なのでまず保健室に行ったとも説明が付く。問題はまどかに声をかけてきたこと。どうも、二人きりになる切欠が欲しかっただけのようだ。

 そしてやっぱり彼女は、教室棟を抜けて渡り廊下に二人きりになった途端振り向いて、こんなことをまどかに告げた。

 

「鹿目まどか。貴女は自分の人生が貴いと思う? 家族や友達を、大切にしてる?」

 

「今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わないことね」

 

「さもなければ、全てを失うことになる」

 

「貴女は鹿目まどかのままでいればいい。今まで通り、これからも」

 

 彼女はどういう意図でそれを言ったのか。

 これ以上もないほど冷たい表情で言われたその言葉は、つららのような鋭さでまどかの心を突いた。

 まどかはいつだって思っていた。取り柄のない自分。変われない自分。自信を持てない自分。誰かがいないとなにもできない自分。

 元気で運動神経のいいさやか、美人で優秀なキャリアウーマンな母、可愛くてモテてなんでもできる仁美。『取り柄』のある人々に囲まれたまどかは、優しい笑顔の裏で日頃から劣等感に苛まれている。それは思春期の少年少女が皆当たり前に陥る感傷ともいえよう。

 ほむらの鋭い相貌の奥に夢と同じ哀願の色が宿っていたことに、圧倒されるまどかはついに気がつかなかった。

 

 そんなことをまどかに言った彼女は、美人で勉強も運動もなんでもできた。なんのとりえもないまどかにあんなことを言っておいて自分はこれである。

 今のまどかにとってほむらの言葉は、お前はそれでお似合いだと笑われているように聞こえていた。まどかの劣等感を責め立てる呪いの言葉のように。

 

 その日の帰り。

 さやかの用事につきあってショッピングモールのCDショップに寄り道したまどかは、不思議な声を聞き付けた。

 

『助けて……まどか……!』

 

 憐は夢の中の呼び声を無視してぶらついていたが、まどかは無視できなかった。尤も憐も『助けて』と呼ばれればすぐに駆けつける好青年ではあるが。

 まどかは声に導かれるように暗い路地の奥の奥に入り込んでいく。進めば進むほど暗くなるその道はまるでその運命を暗示しているかのようで。

 

 そしてまどかは出会う。

 ふわふわの白い謎の生き物、としか形容しようのないその生き物と。

 一応、猫とフェレットを足したような生物と呼べるだろうか。その生物は傷だらけで、突如まどかの眼前に転がりでたのだった。

 それを見たまどかは当然、仰天した。優しさという概念を人の形に固めたような人間であるまどかは、その生物がおよそまどかの知るどの生物とも結び付かない外観をしていることもさておいて、迷わず手を伸ばした。

 直後に視線の先の暗闇から滲み出るように歩み出た襲撃者が、今朝の転校生暁美ほむらであることに二度仰天した。

 彼女が身を包む寒々しい薄紫と黒を主とした服は、柔らかな薄いベージュの見滝原中学の制服と意匠が似ているだけに、二割増で冷たい印象を彼女に与えた。左腕に丸い金属の盾のようなものを着け、右手に持つ鈍く艶めく拳銃がこちらを睨み付ける瞳と一緒にギラギラ光る様は、まどかにこれ以上もないほど恐怖を与えた。

 なけなしの勇気を振り絞り、何故この小動物を攻撃したのか、そもそもあなたは何者なのか、問いかけるまどか。しかしほむらは、そいつを置いて去れとにべもない。

 気圧されながらも抱えた小動物を差し出す様子もないまどかに、ほむらはいよいよ険を深める。

 

「……そうね。そう言われて傷ついた生き物を見捨てるような人ではないわよね、あなたは」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()呟くや長く美しい黒髪を一振りしたほむらは、足跡を地面に刻み付けんがごとく殊更ゆっくりと、一歩一歩、まどかに歩み寄る。

 突如、さして広くもなく薄暗いその場所に白煙が吹き込み、立ち込めた。

 どこからか入手した消火器を手にしたさやかが現れ、ほむらを牽制しつつまどかに逃げるよう促す。ほむらの真意がどうあれ、傷だらけで助けを求める小動物とそれを抱えた親友に銃片手に歩み寄る姿はどう見ても悪魔。立ち向かうさやかはさしずめ騎士だ。

 小動物を抱えたままのまどかが駆け寄ると、さやかは空になった消火器をほむらに投げつけて身軽になり、一緒に必死に走った。

 

 走り抜けたら、そこは異世界だった。

 

 薄気味悪い倉庫がある点から急に悪趣味なネオンの光のようなもので照らされる。ミラーボールのようなものは当然なく、なんとなればまどかたちを照らすでもないのに闇に包まれていたはずの壁や地面が斑模様のように怪しく発光する。

 驚いて立ち止まった二人の周囲は、見る間に蝶を誂えた道路標識のようなものや、路面電車の横断歩道を思わせる信号にフェンス、雑草が漠然と不規則に交じり合う、なんとも不気味な空間へと、見る間に姿を変えた。

 異様な雰囲気に怯えて身を寄せ会う二人を、どこからともなく湧き出した毛玉のようななにかが取り囲む。毛玉に文明開化時代の偉い人の写真でよく見る髭と紳士帽をつけ、紐か蔦のような細い触手を生やした先に鋏を持っているそいつら。

 見た目だけなら毛玉のようになった羊や猫のようになかなか愉快なものだ。しかし、そいつらがまさにセーターにくっつく毛玉のごとくまとわりついてくる有様を見て、そうした類の愉快な生き物だとはとても思えなかった。あぁ、こいつらがまどかの抱えてきた白猫もどきの吐き出した毛玉ならどんなによかったか。

 雁首揃えて見せつけるように鋏を開いて閉じてと弄びながら方位を縮めてくるのは、控えめに言っても友好的とは言い難い。「お前の首を切ってやろうか」とでも脅しかけられていると見えた。

 わけのわからない言葉のようなものを発しながら、数を増やして包囲をつめてくるそいつら。

 

「冗談だよね……私、悪い夢でも見てるんだよね……ねえ、まどか……!」

 

 夢で見た少女。夢で見た生き物。悪夢のような光景。

 

 怯えて問いかけるさやかの隣で抱えた生物を抱きしめるまどかこそ、目の前で起こっていることが夢のように感じられた。

 

 そう、夢であったなら。これが今朝と同じように夢ならば。

 

 最後には、光とともにヒーローが現れるはずなのだ。

 

 まどかが夢の中の光を思い出したその時。

 

 果たして、ヒーローは……いや、ヒロインは現れた。

 

 空から降ってきた長い鎖が二人を囲むように円を敷き、周囲はマーブル模様の優しい色の光に包まれる。光の中からはじき出される毛玉たち。

 奥から歩み寄ってきたのは、金髪を巻き毛にした女性。スタイルのいい、これまた美人だ。同じ学校の制服を着ているので先輩のよう。ほむらが細く鋭く硬そうなら、この人は緩くおっとりして柔らかそうな。

 彼女はまどかの手の中のものを【キュゥべえ】と呼んだ。まどかが「呼ばれたんです」というと、彼女は得心がいった様子を見せた。

 そこまでも驚きの連続だったが、彼女はさらにまどかとさやかの度肝を抜く。

 彼女が黄色い宝石のようなものを両手で前にかざすとまばゆい光が噴出し、その姿を制服から白と黄色の清純なお嬢様狩人といった衣装に変えた。一跳びで棒高跳びのオリンピック選手より高く飛び上がったかと思えば、その背後に夥しい数の長銃が現れ、腕の一振りとともに一斉に掃射。流星群もかくやという弾丸の雨あられが一帯をなぎ払い、毛玉たちは文字通り片付いてしまった。

 呆然とするまどかたち。すると周囲は揺らぐようにしてもとの陰気な倉庫に戻った。

 

 歓声を上げるさやか。

 遅ればせながらほむらが現れるが、黄色のお姉さんはあしらうように言う。 

 

「【魔女】は逃げたわ。すぐに追いかけなさい。今回は譲ってあげる」

 

 その申し出にほむらはまどかを見て食い下がる様子を見せるが、黄色のお姉さんは空かさず一言。

 

「呑みこみが悪いのね。今日は見逃して上げるといってるの。お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいとは思わない?」

 

 なだめるような声色と微笑には、しかし明確な敵意と威圧。一触即発の雰囲気に身構えるまどかと、それをかばってほむらを睨むさやか。

 三人をじっと見つめていたほむらは状況不利と見たか、踵を返すと背後の影の中へ去っていった。

 

 まどかとさやかは安堵の息を吐き、先輩らしき黄色のお姉さんを尊敬の目で見つめる。

 二人を襲ったピンチ二つをものの二分で解決してしまった彼女。まさにヒーローだった。

 

 黄色のお姉さんは宝石から光を照射し、白い生き物に治療を施した。

 白い生き物はまもなく目を覚ました。

 彼は【キュゥべえ】と名乗ると、黄色のお姉さんを【マミ】と呼んで礼を言った。

 マミがまどかとさやかに水を向けると、キュゥべえは二人に向き直り、愛らしいしぐさとともに名指しでこう言い出した。

 

 

 

 「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ!」

 

 

 

 

 

 

 ――目覚めのときは、近い。

 

 

 

 

 

 to be continued――

 




次回予告

キュゥべえ「あれはティルト。魔女と似て非なる、もっと恐ろしい怪物たちを狩るものたちさ」

さやか「つまりどういうこと?」

孤門「振動波増大……来ます!」

和倉「何!?」

Cross Episode 2
  邂 逅
―ビギニング―

さやか「……【魔女】」




グランテラ編までのネクサスは四話1エピソードなのでこれもとりあえず四話まで読んでください
ところでネクサスで一番可愛いのは理子ちゃんか瑞生か葉月だろうけど、まどマギで一番可愛いキャラってタツヤだよね?(真顔)
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