魔法少女まどか☆マギカ × ウルトラマンネクサス   作:ブラッディ

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邂逅 ―ビギニング―

 都市開発が進み、急速な近代化を遂げた街。

 過剰な発展は歪みを生み、邪なるものを惹き付ける。

 

 ここはそんな街、【見滝原】市。

 

 そこで一番大きな病院のすぐ足元に、小さな、しかし、多数の人命に大きく関わる異変が起こっていることに気付いているのは、少女二人と、小さな生物一匹だった。

 

「まどかはこのこと、マミさんに知らせて! 私はここで、キュゥべえと様子を見てるから」

 

 この少女の名は【美樹さやか】。蒼く光る髪と元気印の恋する乙女。

 彼女の幼馴染である思い人は、事故に遭い、この病院に入院している。深刻な怪我を負い日に日に元気がなくなっていく彼は、【この異変】に真っ先に狙われる。だから少女は、この異変の専門家を呼ぶよう、親友に指示した。

 桃色の髪と優しい眼差しの大人しい親友、【鹿目まどか】は、さやかのその恋心を知っていて、見舞いに付き合い、この異変の気配を見つけた。まどかは親友を案じて戸惑ったが、結局走っていった。

 かくして、この場に残るは一人と一匹。

 

「いざというときには、僕と契約するんだ。いいね?」

 

 この生物は【キュゥべえ】。白く不思議な形をした猫のような、魔法の使者。

 彼、いや彼女かもしれないが、とにかくキュゥべえは、才能ある少女と、なんでもひとつ願いを叶えるという【契約】を結ぶ。奇跡の代償に、少女は【魔法少女】の力を与えられ、戦いに身を投じることになる。全ては自己責任。願いは、奇跡は、タダではない。

 

「うん。その時は、私が【魔法少女】になって……戦うよ」

 

 【魔法少女】とは、キュゥべえに選ばれ、願いを叶えることで、宝石【ソウルジェム】と、魔法の力を得た少女のこと。奇跡の代わりに、戦いと過酷な運命を受け入れる契約を結んだ少女たち。

 【魔法少女】は、【魔女】と戦わなくてはならない。

 【魔女】は、【願い】の存在である魔法少女と対極にある【呪い】の存在。その身に宿す【グリーフシード】を核とした怪物(ビースト)である【魔女】は、人の弱った心につけこみ、己の展開した【結界】に人を誘い込み、その心と絶望、そして命を喰らう。

 立ち尽くすさやかとキュゥべえの目の前の壁には、グリーフシードが突き刺さり、今まさに、孵化の時を迎えていた。

 

 険しい表情で見守るさやかと、あいも変わらぬ無表情のキュゥべえの目の前で、グリーフシードに入った皹はゆっくりと増えていく。

 一皹ごとに眉間に皺を増やすさやか。その内心の止まれという祈りも虚しく、不意にグリーフシードから極彩色の闇が噴き出し、さやかとキュゥべえを包み込んでしまう。

 

 大きく歪んだかに見えた景色は、やがて、なにひとつ異常のない、静寂を取り戻した。

 

 少女と生物がこの世界から消えてなくなったことに、気が付いたものは、なし。

 

 

 

 

 

 

 否。実は、気付いたものたちはいた。

 

 グリーフシードから闇が噴出した瞬間。

 遠く離れたダムの底で、サイレンが鳴り響き、非常回転灯が点灯する。

 

《第三種警戒体制》

 

《ナイトレイダー、スクランブル》

 

《ナイトレイダー、スクランブル》

 

 薄暗いブリーフィングルーム内で、思い思いに体を休めていた五人の戦士たちは、黄色い非常灯に弾かれたように動き出す。

 壁のロッカーを各自開けると、身体の各所を保護するアーマーとヘルメットを取り出し、ダークグレーのノーマルスーツの上に着用していく。パーツの多さの割に驚くほど短時間であり、迅速かつ冷静で慣れを感じさせる。装備をすべて身に付けると、別のスペースに納められた大きな銃【ディバイトランチャー】を手に取り、奥のスペースに向かう。壁に背中を預けるような体制で立つと、ジェットコースターの座席のようにバーが降りてきて、その身を固定する。

 五人全員がその体勢に落ち着いたことを確認すると、左端の男が叫んだ。

 

「出動!!」

 

 逞しいその声を合図に、壁のシューターは、五人各自を乗せて一気に上昇。その先の枝分かれしたレールの先には、巨大な空間を抜けて、数機の戦闘機が待機していた。

 

 ここは【フォートレスフリーダム】。

 人類に襲い来る、宇宙から来たとされる脅威の怪物【スペースビースト】に立ち向かうため、国家の枠を越えて秘密裏に設立された地球防衛組織【地球解放機構(TLT(ティルト))】の、関東第三支部基地である。秘密裏の組織であるため、その全容はダムに擬装され、地下にその施設を隠す。

 そして、スペースビーストに実際に立ち向かう【TLT】の実働部隊の名が、【ナイトレイダー】である。あらゆる組織から、ビーストに立ち向かえる特殊な素養が認められた人間が集められ、専門の訓練を受けて戦う戦士たち。いくつかのチームがあるうちの主部隊【ナイトレイダー・Aユニット】が、先の五人である。

 

《Chester α β γ δ》

 

《Prepare for take-off》

 

 フォートレスフリーダム内で、発進シークエンスを行うアナライザーの音声が響き、戦闘機【クロムチェスター】の格納庫が動き出す。回転するように黄色いコンテナがゲートに対応したカタパルトへ位置付けると、コンテナの前面が開き、中からダークグレーの機体が姿を現わす。いずれも、とても飛ぶとは思えないフォルムだ。

 

《Gate number one , Opening in thirty seconds》

 

《All vehicles , Bigin final preparation》

 

 各自割り当てられた機体に乗り込んだ五人は、機体のチェックと発進シークエンスの傍ら、通信機越しに【イラストレーター】と呼ばれる参謀(CIC)から、事態の説明と、作戦指示を受ける。

 

『今回、ビーストが出現したのは、ポイントH-23.M1D22。市街地の只中です』

 

『市街地にビーストが!?』

 

「……」

 

《Chrome Chester Alpha , Bigin final preparation for take-off》

 

 小型攻撃機【クロムチェスターα】。

 通信機越しに聞こえる後輩の声とは真逆に黙々とシークエンスをこなすのは、女性ながら優秀なビーストハンターである【西条凪】副隊長。

 幼少時にビーストに親を殺され、尊敬した先輩が悪魔に変貌するという二つの暗い過去からくる、大きな憎しみを糧に戦い続ける、危うい側面も持つ人物である。

 過去には、いつも張り詰めたような雰囲気を漂わせ、戦闘時には生存者を厭わずビーストを殲滅しようとするなど、危険な兆候が目立った彼女だが、ここ最近は、当の先輩との決着をつけたことや、新人隊員の影響を受けて、そうした面も少し落ち着いている。

 

『現在、ビースト振動波は微弱です。幸いにも、ビーストはまだ、活動を本格化させてはいない。しかし、活動が本格化すれば、犠牲者は膨大な数に上るでしょう。その前に、速やかにミッションポイントに到達し、ビーストを殲滅しなければなりません』

 

「……」

 

《Chrome Chester Beta , Bigin final preparation for take-off》

 

 左右にドラム状のビーム砲を備えた指揮官機【クロムチェスターβ】。

 搭乗するのは、指揮官【和倉英輔】隊長。

 確固たる意思と思想、豊かな教養に裏打ちされた知性と、冷静で素早い判断力を併せ持つ指揮官であり、人格的にも優れた人物である。

 一時期は、部下が闇に落ちることを警戒し、日々の業務に忙殺されて冷徹な判断を下す面もあったが、現在では、部下を信じ、ビーストから人々を守ろうとする熱く正しい本来の使命と意思を取り戻している。

 

『このビーストは、ウルトラマンと同等の能力を備えており、特殊位相空間を展開し、犠牲者を引きずり込むことで、捕食を行うものと推測されます。現在も、位相空間を展開し、力を蓄えている。位相座標を特定し次第、突入し、殲滅してください』

 

「ウルトラマンね……」

 

「また、現れるだろうか……」

 

《Chrome Chester Gamma , Bigin final preparation for take-off》

 

 横に大きく広がったボディの下に、メタルジェネレーターを装備した高速機【クロムチェスターγ】。

 搭乗するのは、女性かつ隊員歴は若いながら、射撃戦のエキスパートである【平木詩織】隊員と、隊長を除き最古参のメンバーであるアナライザーの【石堀光彦】隊員。

 マニキュアをこよなく愛し、隊のムードメーカーとしても活躍する平木隊員と、パソコンをこよなく愛し、地味ながら隊を縁の下からサポートする石堀隊員の凸凹コンビである。

 人に知られたくない過去がありながらも、よくも悪くも変わらない、マイペースな二人でもある。責任や緊張もなく、最も柔軟で自由な立場にいるゆえかもしれない。目立つ活躍は少ないが、二人がなくては隊は回ってはいかないのだ。

 

『なお、先日の、溝呂木慎也との決戦以降、ウルトラマンと闇の巨人、双方とも、振動波が感知されていません。ウルトラマンの出現は期待できないと考えてください』

 

「……姫矢さん、あなたは……。いや、どちらにしても、もうあなたを戦わせるわけにはいかない。必ず僕らで……」

 

《Chrome Chester Delta , Bigin final preparation for take-off》

 

 他の三機と一線を画す大型の機体に、ハイパージェネレーターを搭載したハイスペック機【クロムチェスターδ】。

 そこに、決意の表情で搭乗するのが、新人の【孤門一輝】隊員。

 川で溺れていたところを助けてくれた謎の人物のように人を救いたいという、まっすぐで強い信念に突き動かされてビーストと戦う若き戦士である。

 彼は、長らく苦悩の中で戦ってきた。

 人々を救うことができると信じて、レスキュー隊での特別辞令を受け入れて異動した組織が、蓋を開けてみれば、必要なら民間人を見捨てることも辞さないことをはじめ、納得できない運営とシステムの都合が続々出てくること。それに折り合いをつけ始めた矢先、悪魔と化した人間の卑劣な罠に嵌り、心許した女性を喪い、知らぬこととはいえある少女を戦闘の巻き添えにしてしまい重症を負わせ、ついには引き金を引くことさえ出来なくなり同僚に手傷を負わせた。

 己の信じた道とは正反対の現実に圧され、戦いから逃げ出してしまうほどに追い詰められてしまった孤門は、しかし、周囲の人々との絆と、亡き愛する女性の魂の導きにより、悪意に屈せず、精神的に大きな成長を遂げ、戦場に帰還した。

 如何なる精神への攻撃をも跳ね除け、まっすぐな信念のままに戦い続けた彼は、確かな覚悟と能力を併せ持ち、隊にもそれを及ばせるほどの立派な戦士となった。

 今の彼には、驚嘆はあっても怯みはない。護りたいという信念の元、すぐにでも被害の出かねない市街地での戦いに気合を入れる。

 

『市街地そのものがミッションエリアになるため、避難勧告やエリア封鎖は行えません。郊外の、ポイントH-21.M1D07でストライクフォーメーション。オプチカムフラージュを使い、住民に目撃されることなく、位相座標を特定し、ミッションエリア上空から降下する形で位相境界面に接触。付近の人や建物に影響を与えないよう、可能な限り上空から位相空間に突入し、ミッションを開始してください』

 

《Gate number one open》

 

《All vehicle , take-off》

 

 発進シークエンスが完了し、ダム表面に擬装された三つのゲートが開く。

 そして、ダムに突如として開いた三つのゲートから、4機の戦闘機が、轟音とともに飛び立つ。

 編隊を組んだ4機のジェネレーターの出力が付近を振動させたかと思うと、4機は【機体透明化隠蔽装置(オプチカムフラージュシステム)】の効果により、突然消えてなくなり、あたりは急速に静けさを取り戻した。

 

 

 

「査問会がやっと終わったと思ったらすぐこれだもん。忙しいよねぇ、私達」

 

「しかし、溝呂木がいなくなった途端に、位相空間を展開する能力を持ってる新種のビーストが市街地に現れたってのは、なにか妙なものを感じないか」

 

 平木隊員と石堀隊員の軽口。そのなかに出てきた名前に、誰もが表情を固くした。

 

 【溝呂木慎也】。元ナイトレイダー副隊長。

 優秀なビーストハンターだったが、やがてビーストへの恐怖から逃れるため、自らビーストの統治者【闇の巨人(ウルティノイド)・ダークメフィスト】に成り果てた男。【デスゲーム】と称して、その力をあまりにも残酷にふるい、多くの人の命と心を弄び、孤門や西条、和倉にも深い傷跡を残した悪魔(メフィスト)

 

「妙なものって?」

 

「まるで、溝呂木が……いや、むしろ、ウルトラマンが消えるのを、何者かが待っていたかのような……」

 

 【光の巨人(ウルトラマン)】。

 

 孤門の配属が決まるのとほぼ同時に現れた銀色の巨人。

 当初は、溝呂木のこともあって人型のビーストとも目されたため、チェスターで攻撃したことや、銃を向け合ったこともあった。

 だが、孤門は頑なにウルトラマンを信じ、ウルトラマンもまた孤門を信じた。その孤門を、数々の戦いを経てナイトレイダーのメンバーが信頼し始めたことで、三者に通う信頼が仲立ちとなり、ウルトラマンは共に戦う仲間と認められ、互いに何度も助け合う関係となった。

 その正体は、元戦場カメラマンの青年【姫矢准】。己の身と命を削り、ビーストと、そして己の宿命と戦ったその生き様は、彼と関った皆の胸に刻まれていた。

 

 スペースビーストと人の戦いに大きな変化をもたらした【巨人】を巡る戦いは、先日、ひとまずの決着を見た。

 溝呂木が【黙示録の終焉の地】と称した決戦の特殊位相空間で、姫矢准(ウルトラマン)溝呂木慎也(ダークメフィスト)は、光の中へと消えた。互いの最強の技をぶつけ合った爆炎の中で、姫矢は、最後の一撃を溝呂木に見舞い、光の使命を全うしたのだ。

 

 結果として、溝呂木も姫矢も消息不明。ウルトラマンが再び人間の前に姿を現すのかも、もはやわからない。

 だが、孤門は信じていた。姫矢はどこかで生きていると。光が消え去ることはないのだと。

 

 溝呂木によって世界中で一時的にビースト振動波が高まった反動か、ビーストの活動は一時的に静まり、ナイトレイダーは、一連の戦いの区切りに際し、TLTの幹部らによる査問を受けていた。

 とはいっても、姫矢(ウルトラマン)と親交の深かった孤門、溝呂木(メフィスト)と因縁深い西条、両者に責任を持つ立場である和倉の三名はともかく、平木と石堀は多少ならず蚊帳の外であったのだが。

 

「間もなく、ポイントH-21.M1D07です」

 

 石堀のアナライズが思索をめぐらせていた隊員たちの気を引き締める。指定されたポイント。ここからは既にミッションエリアだ。

 

「一時的にオプチカムフラージュ解除。凪、ストライクフォーメーション」

 

「了解!セット・イントゥ・ストライクチェスター!」

 

 その号令を契機として、クロムチェスターα、β、γは、空中で、重力などの道理を無視した超絶変形合体を行う。地球には過ぎたオーバーテクノロジーにより、空中で三機のチェスターが機体各部を分解変形させ、一直線上に並び、連結する。

 この大型戦闘機の姿こそ、【メタルジェネレーター】を最大限に活用して、ウルトラマンやウルティノイドの作り出す特殊位相空間へ突入する形態【ストライクチェスター】だ。

 

 ストライクチェスターは再びオプチカムフラージュによりその姿を消し、クロムチェスターδと共に戦場へと飛び立った。

 

 

 

 

「本当に市街地の真ん中だ。それにミッションエリアのすぐ近くに病院が……」

 

 到着した両機は、機体性能の許す限り、ミッションエリア上空まで登った。上空から見下ろした孤門は、思わず声を漏らす。

 その声に、平木も言い添える。

 

「市街地戦は初めてじゃないけど、こんな大都市って……」

 

 そこは、つい5分ほど前に、一人の少女が消えた場所。

 【見滝原総合病院】前。

 彼らの察知した【位相空間を展開するビースト】とは、即ち、【結界を張って獲物を引き寄せる魔女】のことであった。

 

「CIC。ミッションエリアに到着。しかし、予想以上に建物が高く、密集している。また、極付近の病院に影響を与えるわけにはいかない。指示を願いたい」

 

『位相座標、位相境界面高度を特定後、両機はジェネレーターをフルドライブさせながら高度を保って旋回してください。ジェネレーター臨界到達と同時にポイント直上から急降下し、高高度から位相境界面に接触。これで、ソニックブームを位相空間に逃がしながら突入できます。病院や市街地への影響はゼロに近いでしょう』

 

 その質問は予想済みだとばかりよどみなく答えるイラストレーターの指示。

 しかしイラストレーターがそうした食えない人物であることは百も承知で、問いかけた和倉や、操縦の西条、孤門は、特に驚きもなく頷く。

 

『正確さと、急降下から位相空間突入までのスピードが肝心です。急降下から僅かの間に位相空間へ突入できなければ意味がありません。また、突入直後、位相空間内の地面に衝突する恐れがあります。突入後はすぐに機首を上げてください。また、位相空間突入後はこちらとの通信が不可能となる可能性があります。その場合は現場での判断でビーストを殲滅してください』

 

「了解。石堀!」

 

「スキャニング……完了! 位相座標と境界面を特定しました!」

 

「よし、孤門、凪! いくぞ!」

 

「「了解! ジェネレーター、フルドライブ!」」

 

 石堀の言葉に和倉が応え、続いて、孤門と凪が同時に宣言し、レバーを一気に倒す。両機は一気にブーストを吹かし、超スピードでの旋回飛行を開始する。

 本来は位相空間への突入を想定していない三機を合体させて突入を可能としたストライクチェスターと違い、初めから位相空間突入を前提として【ハイパージェネレーター】を搭載したクロムチェスターδは、単機での位相空間突入が可能である。そのため両機は、合体の有無によらず、ほぼ同等の速度で旋回している。

 オプチカムフラージュが起動していなくとも、人の目にはもはや見えない速度であった。

 

「メタルジェネレーター、臨界!」

「ハイパージェネレーター、臨界!」

「降下開始」

「位相空間境界面と接触しました。位相同期開始!」

 

 両機は、それぞれのジェネレーターを臨界点までフル稼働させ、位相空間へ突入可能となるとともに、急降下。強烈なGが全身を押し潰そうとするとともに、眼下に広がるミッションエリアに展開された、目には見えない特殊位相空間への突入に移る。位相空間への同期が開始し、両機は機首から、空間を引き裂くように現れた眩い光につつまれ、パイロットのナイトレイダーの視界には、急速に迫り来る建物やアスファルトではなく、位相空間の境界とぶつかる光が溢れる。そして、

 

「位相境界面突破! 位相空間突入に成功しました!」

 

 広がった景色は、溶けたクリームやケーキ、チーズのようなものの巨大な遺物が点在する、奇妙な空間であった。

 

 

 

 

 

 

「なんだここは……」

 

 機首を上げ、両機が安定した飛行を取り戻すと、和倉はそう漏らした。

 ウルトラマンの展開する【メタフィールド】とも、ウルティノイドの展開する【ダークフィールド】とも全く違う、意匠の意図の根本からして全く異なる空間を前に、ナイトレイダーは流石に絶句していた。

 一見、夢の国のようなファンシーさに見せながら、どこか不気味だ。あらゆるお菓子などがことごとく巨大だからか。その全てが毒々しいほどに鮮やかな彩りだからか。その全てが溶けかけたものだからか。その所々に混ざる注射などの異物が放つ異彩故か。

 

「CIC、位相空間到達。……イラストレーター、応答せよ。……予想通りか」

 

 和倉が外部との通信途絶を確認したそのとき、地表を観察していた西条が訝しげな声をあげた。

 

「あれは……」

 

 見ると、包装されたキャンディに目玉のついたような小さな怪物が、位相空間の地に点在し、蠢いていた。

 

「振動波が空間の波動係数と一致しません。恐らく、この空間を作り出しているビースト本体の尖兵としての役割を持つ、小型ビーストであると考えられます」

 

 石堀の素早い分析に納得しつつ、和倉は考えを巡らせる。

 

「ビースト本体との戦闘中に邪魔をされたくはないな。機銃掃射で一掃しろ」

 

 和倉の命令で西条がトリガーに指をかけた、そのとき。

 

「待ってください!」

 

 孤門が焦った声で待ったをかけた。

 

「地上に女の子が!!」

 

 以前にも聞いたような言葉。

 そのときは、西条副隊長は気のせいだろうと疑ってかかり、実際にいても、ビーストとの戦いを優先した。他の隊員たちも、西条ほど極端でなかったにせよ、概ね同じだった。

 だが、今は。皆、孤門の言葉を受けて、弾かれたように眼下に広がる不気味な景色を見下ろし、あるいはモニターとキーに手を走らせ、目を凝らしていた。

 意識することなく表れた、この違いこそ、この数ヵ月で培った、孤門への信頼。ナイトレイダーの絆。

 果たして、その過去と現在の違いは、

 

「いました! よく見つけたわね、さっすが孤門くん!」

 

 少女――美樹さやかを、そして、運命に翻弄される、より数多の少女たちを救うことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 【魔女の結界】内、地上。

 さやかは、必死に恐怖と戦っていた。

 勇んでグリーフシードの見張りとして残ったものの、結界に飲み込まれ、だんだんと増えてきた魔女の尖兵【使い魔】に襲われるのを警戒する。孵ったばかりでお腹を空かせているであろう魔女だ。いきなりどこからか現れてぱくりとやられるかも分からない。持ち物はかばんのみ。【魔法少女体験ツアー】のときのようにバットでも持っていればまだしも、いまのさやかの装備は心もとない事この上なかった。結界に呑まれるとき、近くに停めてあった自転車でも掴んで道連れにすれば、逃げるにしろ振り回すにしろ少しはマシだったのかもしれないと今更ながらに後悔する。

 勿論、いざとなれば、傍らのキュゥべえと契約し、自衛くらいはできる。が、なるべくなら、こんな形でなく、キチンと決意し、願いを吟味した上で契約したかった。……吟味したところで自分が何を願うのか、さやかには薄っすらと予想が付いていたが。

 ともあれ、使い魔たちが己に飛びかかってくるのが先か、親友が憧れの魔法少女を連れてくるのが先か。もしかすれば白馬の王子様のように【思い人】が来てくれたりして……などと現実逃避気味に事態の推移を見守りながら、大きなドーナツのようなオブジェの陰に隠れていたさやかは、信じられないものを目撃した。

 

 結界の赤黒い色の空に穴が開き、そこから、光と共に二つの変な形をした飛行機が飛び出してきたのだ。

 

 まさか魔女か、と思ったが、それにしては敵意を感じない。それに、使い魔たちが飛行機に目を向けて警戒しているようだ。それなら魔法少女の魔法だろうか? それにしてはイメージと違う。

 混乱して呻き声漏らすさやかに、キュゥべえが語りかけてきた。

 

「あれは、【TLT(ティルト)】。魔女と似て非なる、もっと恐ろしい怪物たちを狩るものたちさ」

 

「魔女よりも強い怪物!? 魔法少女の上役ってこと?」

 

「彼らと魔法少女に直接の繋がりはないよ。ただ、彼らの狩る【ビースト】と、魔法少女が狩る【魔女】は、出所は違うけど、性質がよく似ている。だから、いつもは領分を住み分けているのさ。だけど、たまに魔女の中でも特別強力なやつが彼らのターゲットに()()ことがある。そうしたとき、彼らは、魔女にも立ち向かうのさ」

 

 それだけの説明ではよくわからなかった。どのみち、これだけの説明では、さやかでなくとも、誰もわからないだろうが。キュゥべえってたまにそういうところあるよなと思いつつ、さやかは聞いた。

 

「えーっと、つまりどういうこと?」

 

「君を助けに来た者たちと考えていいってことさ」

 

「あ、あー、そうなの?」

 

 それなら安心だ、と思う反面、憧れのあの人の活躍が見られないのは残念だ、と、さやかは思った。……どっちの意味での()()()()なのかは彼女のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

上空

 

「既に位相空間に獲物を引き込んでいたのか!」

 

 和倉が事態を推察する間に、石堀は次の指示を予測し、空間内をスキャン、分析する。

 

「位相空間内スキャン完了! 機を降りての活動は可能です!」

 

 位相空間には、ジェネレーターの出力を保って機体の位相同期を続けなければ、留まれないものもある。また、この見た目から奇妙な空間だ、空気中に毒などが含まれている可能性もあった。だが、スキャンした空間内は、外とほぼ同一の環境になっており、ジェネレーターでの位相同期を保つ必要もない。尤も、それは、ビースト本体を殲滅しなければこの空間から出られないという事でもあったが。

 

「よし、孤門はチェスターδで上空に待機し、ビースト本体に備えろ! 我々は右前方のスペースに着陸し、少女を確保する!」

 

 人を救いたいと、誰よりも強く願う孤門に、上空から見ていろとは酷な指示だと、誰もが思ったが、同時に誰もが、そして、これまでの戦いで経験を積んだ孤門自身も、理に敵った指示だと感じた。

 いつビースト本体が出てくるかわからない以上、全員がチェスターから降りるわけにはいかない。万が一無防備となったチェスター全機を破壊されれば、彼らは大きな戦力を失い、苦戦は必至となる。また、要救助者確保のための地上戦、それも、なるべくならビースト本体が出てくる前に少女を確保する必要があるこの状況では、まとまった人数が必要だ。ストライクチェスターが分離することもできるが、ビースト本体が出現した場合、待機していたチェスター一機での戦闘を強いられるので、一機でもストライクチェスターと同等の攻撃力、速度を誇るクロムチェスターδが適任となる。総合して、ストライクチェスターが降り、搭乗している4人が少女を確保するために地上戦を行い、クロムチェスターδが哨戒、バックアップにあたるのが最も確実なのだ。

 

「「「「了解!」」」」

 

 部下たちの心強い答えを聞き、和倉も頷く。

 ストライクチェスターは、可能な限り少女に近く、ストライクチェスターの巨躯を下ろすのに充分なスペースを狙い、姿勢を保って降下。軽い衝撃とともにチェスターが接地するときには、全員が傍らのディバイトランチャーを手に取り、動く用意ができていた。

 

『よろしくお願いします』

 

『任せて。あなたも、哨戒に集中しなさい』

 

『了解!』

 

 和倉の耳に通信機越しの孤門の声が届く。焦りではない、確かな信頼に裏打ちされた委任。孤門の願いを託す言葉。

 それに応えて、これもまた通信機越しに応える副官の声。嗜めではない、やはり、確かな信頼に裏打ちされた了解。西条自身の、そして、隊の背中を託す言葉。

 決してよくない方に安定していた隊が、孤門が入ったことで、そして、ウルトラマンや溝呂木との戦いをともに切り抜けていくことで、確実にいい方向に変わった。和倉自身の、諦念と妥協によった考え方も、初心に返ってきた。

 感慨を感じながら、和倉は号令をかけた。

 

「行くぞ!」

 

 ナイトレイダーがチェスターから降り立つと同時に、周囲の小型ビーストは一斉に視線をこちらに向けた。

 数が多すぎ、いちいち相手にしてはいられない。ならば。

 

「凪! 詩織! ランチャーをガンナーに変型! 奴らを遠ざけ、少女の元に走り抜けろ! 石堀は俺とバックアップ及び退路の確保だ!」

 

「「「了解!」」」

 

 言うが早いが、西条と平木は手に持つ銃に手をかける。銃身の下の一部を取り外し、細くなった先端を折り畳むように手前に倒すと、グリップを外して上から付け直し、全体を前後上下逆に構え直す。

 万能銃【ディバイトランチャー】は、大型砲型の【ディバイトランチャー】から分離変形させることで、拳銃【ディバイトシューター】と、機関銃【ディバイトガンナー】に、状況に応じて機能を変えられる。ディバイトガンナーは、一発一発の威力は低いが、掃射に優れた形態だ。

 

 二人はガンナーを掃射しながら、少女の元に一散に駆けていく。撃ち漏らしが稀に接近してくるが、ガンナーの柄や腕に装着した多機能通信解析機器【パルスブレイガー】のスタンガンモードで殴り付け、続けて蹴りつけて引き剥がすと、空かさずもう一人が、吹き飛んだビーストに止めを指す。その分、生まれた隙は、手が空いた一人が対処する。完璧なコンビネーションの前に、如何なる数とスピードで襲いかかって来ようとも、二人の戦士の武骨ながら堅実な足取りを止めるには至らない。

 小型ビーストを遠ざけて、少女への道を作ると考えていた和倉だが、予想以上に小型ビーストは撃たれ弱かった。ディバイトガンナーでも当たったものから消し飛んでいき、思いのほか簡単に道が出来上がっていった。その分アタックはかなりのスピードだが、ほんの二、三日前に溝呂木との生身の戦闘でスピードに圧倒されたことから、白兵戦における高速戦闘の訓練を行っており、なんとか対抗できていた。

 残った二人もガンナーに持ち替え、先行した二人の後ろから飛びかかるものを殲滅しつつ、その作り出した道を維持することに努める。

 当然ながら、四人とも誤射するような愚は犯さない。また、自分達の後ろを気にすることも忘れない。

 

 手に持った銃で次々と使い魔を葬り近付いてくる四人を見て、さやかは混乱するやら安心するやら驚くやらだった。

 尊敬する先輩魔法少女【巴マミ】と同等以上に鮮やかな手並みだ。しかし、衣装からして黄色と白を基調としふわふわファンタジックなマミと、紺色と黒を基調としてガチガチハードに固めた彼ら。その違いが全てを象徴しているかに思えた。

 あらゆる形状の銃とリボンの魔法と、踊るような身軽な動きを駆使するマミの戦法には、華と破壊力と多様性があり、絵本に出てきてかっこよく悪者を退治しそうな力強さがあった。一方、今こちらに来ている彼らには、無駄な動きが一切なく、堅実に足を運び、なにやら変形するごつい銃やキックやパンチをしながら進撃している。洋ゲーに出てきて容赦なく怪物を吹き飛ばしてそうな感じの強さだ。

 あらゆる点で対照的。ド派手でド迫力のマミのほうが贔屓目も込みでどうしても強そうだが、しかしこの人たちも大概、強そうな雰囲気が半端ではない。色々と比べるのが間違いとすら思える。あの分だと、もう間もなく、走っている二人はこっちにたどり着いてくれるだろう、と、さやかが安心しかかったそのとき、

 

「さやか、油断しないで! 僕らも気付かれたようだ! 囲まれているよ!」

 

 キュゥべえの声に、はっとして周囲を見回すと、いつのまにか、円陣のように使い魔に囲まれていた。

 油断した。評論家気取りで救援の人たちをマミさんと見比べている間に、とんでもない数だ。

 それもジリジリと包囲を狭めてきている! 脈動する様に蠢く使い魔たちの絶妙に統制の取れていない動きは、かえってさやかを怯ませる。

 慌てて後ろに下がろうとするが、弱り目に祟り目、後頭部をなにかにぶつけた。そう、さやかの後ろには、今の今まで隠れていた大きなドーナツ。さっきまでさやかを隠してくれるそれなりに心強い味方だったはずののオブジェが、ここへきて立ちはだかる障害物という敵となってしまった。

 これでは退路がない!

 

「う、うわ! こ、来ないでよ!」

 

 慌てて通学鞄を振ってみるが、当然というか、堪えた様子はない。素知らぬふりで距離を詰めようとし続ける使い魔。キュゥべえ曰くの『ティルト』なる彼らもそれなりに近くに来ているが、間に合うかどうか。

 彼らとの戦闘で、この使い魔たちはその気になれば交通事故並のスピードで突撃をかませることを既に見た。一対一ならまだしも、囲まれたまま四方八方から来るとしたら、運動神経にそれなりに自信のあるさやかといえど、避けられるとは思えなかった。まして迎撃などもってのほか。こんな鞄や生身の体では結果は見えている。

 

「ひっ」

 

 ドーナツの上に突然乗り上げてきた使い魔に驚いて、さやかは悲鳴をあげて転倒した。その大きな目に、自分の怯えた顔が写ったのが分かった。もはや奴らと自分の間に距離はほとんどない。

 大きく伸び上がる用意をする使い魔の背後、さやかの視界に入るのは溶けた食べ物の山ばかり。それが、すぐそこに迫る未来の自身に見え、さやかは思わず目を瞑ってしまった。使い魔たちの宴のお菓子にされる――

 

「さやか、無理だ! 僕と契約して魔法少女になるんだ!」

 

 キュゥべえの叫びに、さやかは思わず、願いを告げた。なにも考えられなかった。

 

「助けて!!」

 

 ただ一言だけの無心の願い。

 

 だが、その願いがキュゥべえに届くことは……残念ながら、なかった。

 

 

 

 

 なぜなら。

 

「大丈夫!?」

 

 さやかの耳に届いたのは、鋭い銃声と、使い魔の断末魔。

 

 そして、女性の声。マミさんの、優しさに溢れた声ではない。女性としては低めの、強く、硬く、しかし、ほんのりと暖かさを感じる声。

 

「あっ……」

 

 目を開けたとき、さやかは、ダーググレーのゴツい格好をした女性の背に庇われていた。後ろにも誰かいるようで、背中を支えてもらっているようだ。

 

「私たちが来たからには、もう安心よ」

 

 これは、後ろの女性の声。明確に安心させようという意図が感じられる声だ。あの、先輩を思い起こさせる……。

 

 さやかの願いは、キュゥべえ()()届かなかった。

 なぜなら、キュゥべえが叶える前に、叶ってしまったから。

 

 ナイトレイダー、西条凪副隊長と平木詩織隊員は、間一髪のところで、要救助者、美樹さやかの確保に成功した。

 

 

 

 

『こちら平木! 少女を確保しました! 怯えていますが、目立った外傷なし!』

 

 通信で聞こえた先輩の声に、孤門は安堵した。副隊長も平木隊員も、確保した要救助者をみすみす死なせるような人ではない。見たところ、地表を埋め尽くさんばかりだった小型ビーストも数を減らし、ほとんどいなくなっている。もう大丈夫だ。

 孤門が一息ついたそのとき、位相空間内の溶けたクリームかチーズが滴っているような乳白色の壁に罅が入り、目の前のディスプレイが鋭く警告音を発する。

 

「振動波増大……ビースト本体が来ます!」

 

『何!?』

 

 和倉が声をあげると同時に、壁をぶち破って、ついに魔女(ビースト)本体が姿を現した。

 

 

 

  c h a r l o t t e 

 

 

 

 壁をぶち破って現れたのは、小さなぬいぐるみのような、可愛らしい何かだった。一見して、生物かどうかもわからない。

 

「……【魔女】」

「え?」

 

 さやかの呟きに思わず問い返す西条だが、

 

「振動波確認! 間違いない、ビースト本体です!」

 

「獲物を横取りされそうだから、本調子じゃないのを押して、慌てて参上ってわけ?」

 

「あぁ、叩くなら今しかない!」

 

 石堀と平木の会話で状況に再び目を向ける。あんな見た目ではあるが、むしろ、あんな状態でのこのこ出てきた飛んで火に入る夏の虫、と考えるべきか。

 

「詩織は引き続き少女を護衛! 石堀は退路を確保し、詩織の援護! 凪は俺とランチャーに切り替え、ビーストを掃討する! 孤門はビーストをロック! 巨大化したら即座に撃て!」

 

「「「『了解!」」」』

 

 和倉の指示で全員が動き出す。

 平木は、引き続きさやかに付き、近寄る使い魔(小型ビースト)――尤も、今や魔女(ビースト本体)の方が使い魔(小型ビースト)よりも、なお小型だと判断せざるを得ないが――にディバイトガンナーを掃射し続ける。もはや数も減り、初めほどの圧力は感じない。石堀の援護もあって、護衛は一人で充分だった。

 西条と和倉はディバイトガンナーを、再び破壊力に優れたディバイトランチャーに変型させ、強力なエネルギー弾を魔女(ビースト)に連射する。魔女(ビースト)は、やはり力がないのか、フラフラと弾丸に吹き飛ばされてばかりだ。

 

 これならいける。

 

 さやかも含め誰もがそう思った。

 そのとき、上から様子を見ていた孤門だけは、僅かに違和感を感じた。

 

 フラフラと撃たれ、吹き飛んで……まるで凧のような何気ない動きではあるが、しかし段々と、確実に、副隊長たちとの直線距離間に、障害物がないコースへと……?

 

「砕け散れぇ!!」

 

 未だ冷めやらぬスペースビーストへの憎しみを心底に僅かに迸らせながら、西条は一歩前に出て、とどめの一発を発射。

 その一撃は、魔女(ビースト)の胴を撃ち抜き、背後の壁まで貫通した。

 

  腹を撃ち抜かれた魔女(ビースト)は、不気味に膨張した。これは、スペースビーストが爆散する予兆。このあと、ビーストはその身を破裂させるように……と、ナイトレイダーは思った。

 

 だが、

 

「まだだ!」

 

 孤門の叫び通り、魔女(ビースト)は、まだ終わっていなかった。

 魔女の膨張した人形のような体から、黒い球体のようなものが吐き出されたかと思うと、それは空中でさらに膨張。

 次の瞬間、黒く間抜けな姿と顔をした竜のような魔物に変化し、西条らめがけて、大口を開け、一気に肉薄する!

 

 速すぎる……!

 

 歴戦のナイトレイダーが、思わず虚を突かれるほどの驚異的な接近。ここに至って、魔女(ビースト)の人形のような姿は擬態で、この竜のような姿こそが本体なのだと、疑うものはいなかった。

 

 それこそ、歴戦の魔法少女さえ葬る強豪。お菓子の魔女【Charlotte(シャルロッテ)】。

 

 しかし、歴戦のビーストハンターもさるもの。油断なくディバイトランチャーを構え続けたために、シャルロッテ本体の出現と接近の瞬くような間にも、進行を妨害しようと西条と和倉は数発放つことができた。

 その数発は、ダメージを与えはした。

 だが、シャルロッテは僅かに顔を顰めながらも止まらない。吹き飛ばされたふりをしながら、障害物がないコースにその身を運んでいたのはこのためだったのだ。多少のダメージを省みず、生まれて始めての獲物に喰らい付く為に、こいつは初めから位置取りを計算していた……!

 

 

 

 魔女シャルロッテ。その性質は「執着」。欲しいものは全部、絶対に諦めない。

 

 今ほしいのは、新鮮で、豊かな感情に満ちた肉。

 

 故に、 絶 対 に 諦 め な い 。

 

 

 

 さやかは、それを凝視したまま、とっさに目を反らすことさえできなかった。まるで時間が止まっているような感覚。

 

 私を助けに来たばかりに、何も関係ない人が死ぬ……?

 

 銃を構えた人の目と鼻の先まで肉薄し、あんぐりと口を開けた魔女。その動きはまるでスローモーション。

 

 私がここに残ったから……? まどかと一緒にマミさんを探しにいってれば、この人は戦闘機を降りてくる必要はなかった。

 

 今に魔女はその口を閉じて……女性の、首から上が見えない……そんな未来が、すぐそこに迫っていた。迫っていると思った。

 

 私がカッコつけて意地張った所為で……。

 

 もう一人、私を守って使い魔と戦っていた人が私に覆いかぶさる。残酷シーンを見せないように……?

 

 なんだか耳鳴りがする。いや、これは、むしろ空気を引き裂くような音。

 

 

 ――――諦めるな。

 

 

 そして聞こえたのは、女の人の断末魔でなく、魔女の咀嚼音でもなく、魔女の悲鳴と、鼓膜をぶち破らんばかりの爆発音だった。

 

 

 

 

 

 

 

「副隊長ぉおおおおお!!!」

 

 通信機のついていないさやかには聞こえない、孤門の叫び。

 シャルロッテの本体が飛び出した瞬間、孤門がとっさにひいたトリガーは、ただちにシステムに伝令し、クロムチェスターδの副武装、ミサイル【アビロック】を放った!

 発射された四発のミサイルは、ディバイトランチャーに小揺るぎもしなかったシャルロッテの横腹に次々と直撃し、その図体を『く』の字にへし曲げて派手にふき飛ばす!

 

 無論、それを黙って見ているナイトレイダーではない。ミサイル発射を見て取った途端、平木はさやかに覆いかぶさり、他の隊員たちも対衝撃姿勢をとる。特に極間近でミサイルに煽られるのを予見した凪は咄嗟にディバイトランチャーを投げ捨てて横っ飛びに身を投げ、ミサイルが魔女(ビースト)に直撃した衝撃をなんとか殺した。

 追撃に移るチェスターδを見て、一同はすぐに体勢を立て直す。受けた衝撃が大きいはずの西条も平然とした様子で立ち上がっては振り向き、ディバイトランチャーを拾い上げつつ、平木とさやか、そして通信機越しの和倉に声をかける。

 

「チェスターに戻ります。ディバイトランチャーでは奴は倒せない」

 

 和倉は通信機越しに聞こえた進言に、即座に判断を下した。

 

「孤門! 我々が搭乗する間、ビーストを引き付けろ! 殲滅してしまっても構わん! 凪と詩織は少女を護衛し、チェスターまで戻れ! 少女は凪とともにチェスターαに同乗させる! 石堀、先に戻りシステムをスタンバイ! 俺は凪たちを援護する!」

 

「「「『了解!」」」』

 

 事態についてこれていないさやかを引っ張り起こしつつ、平木は言った。

 

「言ったでしょ? もう安心よって!」

 

 ウインクつきの宣言は、色も装備も戦い方も違うのに、何故かさやかにマミを思い起こさせた。

 

 

 

 絶対に諦めない。

 

 それは、ウルトラマンとともに学んだ、孤門の、ナイトレイダーの戦い方でもある。

 

 

 

 

 

 to be continued――

 




石堀「奴を倒すにはどちらかしかない」

さやか「怖くないんですか?」

西条「何?」

吉良沢「初めまして」

Cross Episode 2
   予 兆
―プロフェシー―

吉良沢「【暁美ほむら】」

ほむら「……」
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