提督最前線   作:首輪付きの提督

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第1話:艦娘、哨戒のち接敵

 

 「――にしてもよー、ほんとに必要なのか哨戒(これ)は?」

 

 白いセーラー服の上に無骨な鉄板の肩当、腰の主機(タービン)から()る艤装から伸びる関節を持った(ジョイント)(アーム)に支えられた14㎝の鉛玉を吐き出す銃身が一つ。

 勝気な雰囲気を纏いつつもどこか幼い顔立ちと右目を覆う眼帯。

 潮風を受けたセーラー服の裾がはためき、チラチラとその下を晒す。

 眼帯の少女はそんなことに気を留めずに燦々(さんさん)と輝き、日光と熱を振りまく太陽を睨めつける。

 そんな少女が集中力を欠いてることなど、傍目(はため)からでも明白だった。

 

 少女の問いに、その前を航行する同じ白いセーラー服の少女が背中越しに答えた。

 

 「最近、深海棲艦(あいつら)潜水艦型(サブマリンタイプ)が妙な動きをしてるって大淀が言っていたクマ」

 

――だから気を抜くなと、後ろの少女(いもうと)に釘を刺す。

 

 「そんなことわかってるさ。ただ、ここまでやる必要はあるのか?」

 

 海面が日光を受け、キラキラと反射してまぶしいと妹は足元の海を睨む――潮風を受けうねるように波を打つ海面に立ち、航行する少女らは俗に『艦娘』と呼ばれ、今日(こんにち)の日本における深海棲艦との戦争においては主力を担う存在であった。

 

「木曾は分かってないクマ」

 

 木曾、と呼ばれた少女は自分の姉(くま)が茶化したような語尾とは裏腹に本気で言ってるのだと感じた――がそれも木曾の集中力を取り戻すには至らなかった。

 集中力や注意力の欠けた哨戒など、散歩と何ら変わりはしない。

 

「球磨たちの鎮守府が――提督がどうなったのか忘れたクマか?」

 

 

 現在、彼女らの所属する鎮守府に提督はいない――いなくなってしまった。

激化する深海棲艦との戦争。

 そして、侵攻してきた深海棲艦の防波堤になるのは最前線の近くに位置する鎮守府。

 それが彼女らの鎮守府であった。

 

 最前線というだけあってそれなりの練度と装備を蓄えた強者(つわもの)揃いの鎮守府ではあったが主力艦隊の留守を狙い侵攻してきた深海棲艦に()(すべ)もなく、初の提督の死者を出してしまった。

 

 「……ごめん」

 

 ここがそんな最前線であることを再確認した(きそ)は素直に反省した。

それと同時に木曾は己の一番色濃く焼き付いた記憶の海へと思いをはせる。

 

 

 

 

 

 『木曾だ。お前に最高の勝利を与えてやる』

 

 そんな台詞(セリフ)を着任したての自分はかつての提督に言った――提督は期待しているとかつての自分に言った。

 そして次に会った時には、提督は鋼鉄の臼のような歯に擦りつぶされその命を彼奴(ヤツ)らに貪り食われている所だった。

 鉄と鉄が擦れ、金切り音を出しながら肉と骨を噛み砕く。

 提督の白い制服が赤く、茶色く、黒く黒くひたすらに赤黒く染まる――染められる。

 当時の自分はただその場から逃げ出すのがやっとだった。

 生身の――戦う力のない提督を、その亡骸と敵を背にただひたすら走った。

 

 そして、自分は一度も出撃を迎えることなく提督の葬式の参列した。

――遺体は復元も回収もされなかった。

 目の前の空の棺桶を目の前にして、体の芯から一滴残らず絞り出すように涙を流した。

 倒すべき敵を目の前にして逃げた自分。

 助けるべき命を目の前にして逃げた自分。

 悔しくて、悔しくて、それでもまだ自分が許せないほどに悔しい。

 

 

 

 

「あぁ、悪い。オレが甘かったよ」

 

 記憶の海の航海を終えた木曾は自分の中のスイッチを入れ、気を入れ替える。

 

「素直な妹を持って、お姉ちゃんは嬉しいクマー。それに今日は新しい提督が来るから海上の安全を確実にするために必要なんだクマよ」

 

 

 妹の緊張の糸がピンと張り詰められるのを雰囲気で感じ取った球磨は改めて周囲の警戒を(げん)にする。

 先行した哨戒部隊との合流地点はすぐそこなのに姿が見えないことに不安を覚えた球磨は鎮守府にて提督の代理をする大淀に連絡を取るために回線を開いた(オープン)

 

 「……大淀? 聞こえるクマー?」

 

 『………。』

 

 その通信回線は大淀と繋がることはなく、ただ無音を提供するだけに終わった。

 バカだか生やらのつく真面目な大淀の事だ。

 そんな彼女(おおよど)が自分の仕事を放っておくことなどは球磨には想像することすら出来なかった。

 

 そして、それを裏付けるようにややあって耳に入り込むザザっとノイズ音の後に走るツーという音(ジャミング)と同時に球磨は理解した。

 

 「木曾! 下クマ!!」

 

 球磨の声が上がるのと深海棲艦(ソレ)が海面へと躍り出るのはほぼ同時だった。

自分たちから1時の方向に出現した深海棲艦――海面を割るように這い出た巨大な鋼鉄の顎たち。

 

 「駆逐艦(デストロイヤー)3隻、軽巡洋艦(ライトクルーザー)1隻! 回避優先の単横陣で牽制しつつ撤退、振り切るクマ!!」

 

 

 木曾は主砲に弾を送りながら指示通り球磨の横につく。

 最高の勝利を与えると豪語した自分が提督を見殺しして逃げ、またここでも逃げるのか。

今度は武装もしてる、仲間もいる――それで撤退だと?

 

 

 「木曾はこれが初めての実戦クマね――焦らず、訓練通りにやればいいクマ」

 

 相変わらず球磨はそんな木曾の心中など察した様子はなく、ただ牽制しつつ反転大きく迂回しつつ本来の合流地点を目指すと付け加えた。

 

 

 

 

 木曾は心の中でそっと舌打ちをし、舵を切った。




 こんなに早くもお気に入りに入れてもらえて、なおかつ感想までいただいてとても嬉しく思います。
 本来、週一で更新を……と思っていたのですが、自分の書き物を待っている人がいると思うと居ても立っても居られずに続きを投稿してしまいました。

 艦これの夏イベも然り、次の投稿も週一を目標としていますが未定といった方が正しいかもしれません。



拙い文、小説ではありますが精進して参りますので今後ともよろしくお願いします。
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