提督最前線   作:首輪付きの提督

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6月14日:ルビの振り直し


第3話:藍と煤と

 

 落ちる――鋼鉄の鎧と神経を首輪を通して繋がる俺には、その感覚が(じか)に伝わる。

全身に掛かる重力と浮遊感に包まれながら、それに意識を取られまいと歯を食い縛り、耐える。

ヘリから安全帯を装着したそれと空挺からの降下のそれとは比較にならない重力に身体が――主に内臓類が悲鳴を上げる。

 

 

 ふと、(そら)に目線を向ける。

 視界一杯に広がる青空に浮かぶ輸送機。

切り裂かれた床の穴から明石(あかし)がその短い行灯袴(あんどんはかま)の裾に片手を、もう一方の手を穴から吹き込む風に煽られ、暴れる前髪を鬱陶しそうに押さえているのが見える。

 距離としては大分離れているものの、神経接続された鎧が男の視力を何倍にも引き上げた上で遠眼鏡(ズーム)が使われているので一切の曇りなくはっきりと見ることができた。

 

 

 「―――!? ――――――っ!!」

 

 

 床から吹き込む風は想像以上に強いらしく、位置関係もあってか手で押さえるだけではその下の布地を隠しきることはできなかったようだ。

抗議であろう声をあえて聞き取ろうとはせず、彼女(あかし)の艶やかな桃髪をさらに淡くした白桃色のソレを網膜にに焼き付ける。

 

 これから俺が向かうのは戦場――如何なる命も平等に扱われる。

平等に死に神はやって来て、その手を引くのだ。

ならば、これくらいは冥土の土産として許されるだろう――それは、三途の川を渡るときに、銭を持っていないだろう事を理解しているが(ゆえ)の行動だった。

 

 

 「……ふぅ」

 

 

 軽く深呼吸。

血管を通して身体中に行き渡る酸素に合わせて、頭からつま先までの神経の一つ一つに集中力を走らせる。

 ――と同時に鋼鉄の鎧が呼吸を始める。

身体から吸い取られた熱量(エネルギー)点火装置(イグナイター)により瞬時に熱エネルギーに変換されていく。

 

 

 ≪メインシステム――戦闘モード起動します≫

 

 

 身体と鎧の間を循環する冷却水と対衝撃用の緩和剤を兼ねた高速修復液がその膨大な熱が搭乗者(コア)に伝わる前に抑え、余剰分の熱は甲冑の隙間から放出され、瞬く間に鎧の周囲を膜状に覆う高熱の大気が形成される。

二つの異なる大気が光を曲げ、やがてはシュリーレン現象となり蜃気楼(もや)を発生させる。

 

 

 

 鎧に息が吹き込まれる一方、搭乗者が棒立ちでは意味がない。

上空からの奇襲――この特大剣を最大限に生かした攻撃とは。

 

 

 下段からの切り上げか――否、上から下段などと威力を半減させるようなものだ。

当然、下段の亜種である脇構えもこれに当てはまるため除外。

 

 中段による攻防一体の構えからの一太刀か――否、防御を考慮せねばならない時点で奇襲とはいえない。

最適解は他にある。

 

 ならば八相か――否、これも違う。致命傷を避けつつ長期戦に持ち込む構えなど(もっ)ての(ほか)だ。

 

 攻撃重視の上段、必殺の斬り下ろし――是、これしかあるまい。

振り下ろす斬撃は最速を誇り、尚且つ剣の間合い(リーチ)を生かすのに最も適しているといえる。

 

 

得物(それ)を両手はこめかみのやや上に、左肘を正面に突き出すように構える。

柄頭を前に、剣先は背面に。

得物を肩に担ぐような構え――これが新陰流における一刀両断、敵を斬り伏せる上段の構え。

 

 若干の崩し(アレンジ)はあるものの、地に足がついている訳でもなければ踏ん張りが効き、力を込めやすい訳でもない現状を考えればこれで良いのだ。

 

 

 

 

 

 群青の外套(マント)の下――背中からまるで鱗が逆立つかのように波を打ち、大口を開ける。

一点に集められた熱エネルギーは背中の大口を通して、一気に放出され、運動エネルギーとなる。

 

 

 

 圧倒的な加速を誇る高速廃熱移動(オーバードブースト)によって一気に彼我(ひが)の距離を詰める。

敵はおろか味方でさえ上空からの襲撃者(おれ)の存在に気付いていない――先頭の敵軽巡に狙いを定め、特大剣を振り下ろす!

 キンッと金属同士のぶつかり合う音ともに、激しく火花を散らす。

腕がじんと痺れ、その手に剣の柄を握っている感覚すら分からなくなる。

急制動が掛かり、身体中の血の循環が止まったせいか視界がぼやける。

 

 

 

 おぼつかない視界で反撃に備え、距離をとる。

いくら奇襲に成功したとはいえ、そう浮かれている時間はない。

―――刹那、首元を冷たい何かが這う感覚に襲われる。

 

 

 「――くっ!? 」

 

 

 危ない――身体が感じた瞬間、考えるよりも速く横へ転がる。

頭から肩へ。

肩から腕と背中、そして脚。

 

 海面に接する部位から廃熱(ブースト)しながら海面を地面でそうするように横転する。

非常に繊細な廃熱操作が必要で一歩間違えれば水中に沈んでいたが、そうせざるえない状況にあった以上やらねばなるまい。

 

 

 実際、死は首があったところを敵軽巡すらも巻き込んで通過していった。

 

 振り下ろした大剣は敵軽巡の左肩から右胸の半ばまで切り裂いていた―― 一撃必殺の太刀を受け、敵軽巡は息を引き取った。

ならば、さきほどの攻撃は?

後続の駆逐艦か?

 

 違う。

いくらなんでも行動が早すぎる。

 

 剣を正眼、中段で構えながらソレを視界に捕らえる。

 

 

 

 

 

 一言で喩えるならば、それは一枚の板だった。

まるで溶岩を冷やして固めた、黒い岩盤。

それは剣と呼べるのかすら分からない程に、重くてぶ厚い刀身。

 

 

 

 「攻撃(さきほど)味方討ち(あやまり)か? あるいは、そういうこと(テ キ)ということか? 」

 

 

 

 

 岩盤の如き特大剣を右肩に担ぎながらも、その左手は別の得物を握っている。

かつては美しい装飾が施されていたであろう甲冑は煤にまみれ、錆と欠損が目立つ。

 

 

 

 目深く被った頭巾(フード)の下からは赤く、紅い狂気(ひとみ)が覗いていた。




 随分とご無沙汰になってしまいました。
遅すぎる更新で、音沙汰もなくすみません。

 気がつけば、こんなに経っているとは……。
いやはや、通りで摩耶様と再会して再婚までできている訳ですよ。

 さて、今回の補足とさせていただきますと。
『煤まみれの甲冑』の敵と『岩盤の如き大剣』あたりですかね。

 これはダークソウル2をやったことのある不死人ならば分かるんじゃないですかね。
あいつですよ、あいつ。煙の。
片手に煙の特大剣とロングソード持った彼は裏切り者、反逆の象徴、黒いカラスと言われていますね。

 また錆と欠損の目立つフードの鎧は喪失者の要素も混ぜてあります。
この二人の装備は私も愛用していて、かなり思い入れがあります。
なので、ちょこっとだけ贔屓がはいるやもしれませんね。





 さて、これからも更新は不定期になると思います。
けれど一度書き始めた以上は誰かが読んでくれようとくれなかろうと、完結まで書き切りたいです。
 これからもよろしくお願いします。
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