提督最前線   作:首輪付きの提督

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第4話:煤が舞う海に

 一呼吸おいて海面から爆発音とともに水柱が立つ。

おそらくはさきほど俺が斬り、乱入者によって背後から胸を横薙ぎにされていた敵の軽巡。

いくら強靱な肉体と生命力を誇る深海棲艦と言えど、身体を二分に切り離されては生きる術もないだろう。

 

 

 

 次に身体を二分にされるのが自分にならないよう、相手を注視する。

その挙動の一つ一つを見逃さないように、相手の特徴から戦術を構築していく。

 

 煤にまみれ、鎧は錆と欠損を主張し表面は熱に融解した箇所さえ見受けられ、まともな整備(メンテ)を受けていないことが分かる。

だが、その見た目がその通りの防御力と結びつかないことは深海棲艦で既に学んでいる。

そもそも自前の装甲があるのにも関わらず、重量物(ウェイト)の甲冑を着込む理由はなんだ?

 

 ただの追加装甲であるバルジとは訳が違う。

さらに付け足せば、砲身や魚雷発射管すら積んでいないように見える。

 

 

 

 ならば、代わりの武装とは。

 

 右手の巨大な岩盤の如き漆黒の巨剣を肩に担ぎ、腕に掛かる負担を手と肩で支える八相の崩し(アレンジ)

重量感あふれるそれは、いや実際重量溢れる一撃はこちらにとって被弾すれば致命的だが、相手にとっても致命的な隙を作ることとなるに違いない。

 

 そして、もう片方の左手に握られた黒い細身の長剣は中段よりやや上向けた、上段寄りの中段の構え。

二刀流といえば、本命たる一本目があり、そして相手の攻撃に対する盾の役割を果たす二本目というのが一般的だが。

どうも相手の構え(ソレ)は違うらしい。

 どうやら長剣の方は巨剣(ほんめい)を当てるための(デコイ)か、隙を埋める為の牽制(フェイント)だろう。

本来両手で扱うべきものを片手で扱う以上、どうしても精度も速度、力が両手に比べて劣ってしまう。

ましてや利き手――深海棲艦に利き手なんてあるのかは謎だが――でない方にも取り回しの悪い長剣を握るあたりおおよその出方は推測出来た。

 

 

 「よほど避けるのが上手いか、ご自慢の甲冑(そうこう)らしいな? 」

 

 

 その割には動きの制限が掛かる重装に杜撰(ずさん)な整備状況。

ちぐはぐとも言える相手に思わず苦笑する。

 だがしかし、一撃されど致命的な一撃には変わりはない。

相手に睨みを効かせながら後退し、球磨と木曽に合流する。

 

 

 「おいおい、事前の情報じゃ今頃大艦隊にお守りされてるはずだろ? それがなんで(うえ)から降ってきやがる? 」

 

 

 どうやら心装甲冑(アーマードコア)に関しては事前に知ら(ブリーフィング)されていたらしく、動じない様子で木曽が経緯(いきさつ)を問う。

 

 

 「それに関してはご尤もな意見だが――今は、目前の敵の一掃を優先するぞ」

 

 

 「一掃か! そいつは良いな――最高の勝利とお前に本当(かんむす)の戦闘ってヤツを教えてやるよ! 」

 

 

 木曽が嬉々とした様子で戦闘態勢に移る中、球磨だけが(しぶ)る。

 

 

 「着任する提督は一人って聞いてたクマ――連れがいるなんて聞いてないクマ」

 

 

 面倒が増えたと球磨が愚痴る――護衛対象(ていとく)がいる以上、退却は諦めたようだが新手の登場に不安を隠せないようだ。

しかし、実戦経験の多い球磨が警戒するとは。

あのオンボロ騎士は矛盾だけでなく腹に一物を抱えているらしい。

 

 

 「しかし、新型機を放置しておけば今後どのような被害が出るか分からん以上、そのままって訳にもいくまい」

 

 

 「だよな! えと、なんだ。 お前をなんて呼べば良い? 」

 

 

 敵を一掃することに関しては人一倍乗り気な彼女(きそ)だが、どうも名前を覚えていないらしい。

しどろもどろになり、その威勢を一人で削いでる様子だった。

さながら、喉に引っかかった魚の小骨に咽せているように不憫だったので助け船を出す。

 

 

 「提督でいい」

 

 

 「そ、そうか! なんか悪いな。初対面のお前に助け船出してもらうとは――この木曽、初めての実戦で緊張しているらしい」

 

 

 「初めて(・・・)か。軽く深呼吸して体から余分な力を抜くと良い」

 

 

 同じ艦娘のせいか、明石と同じように(セクハラ)会話する直前、はっと気付き慌てて言葉を付け足す。

違和感なく繋げたつもりだったが、球磨はなんとなく不穏な空気を会話の裏から感じ取ったようで。

 

 

 「姉として妹が餌食(・・)になるのは黙ってみてられないクマ」

 

 

 木曽との間に壁になるように割り込む。

一方その妹といえば、何がそんなに不安なのかと言いたげに首をかしげるばかりで言葉の裏に気付いていない様子だった。

 

 

 「――そろそろ後続が来るクマ!」

 

 

 手前で水柱とともに水飛沫が舞い、砲撃されたのだと理解する。

同時に戦場でえらく悠長なことをしたものだと心の中で自分を責める――陸上自衛隊にいた頃(かつて)の自分ならば犯さなかったミスだ。

どうやら実戦から遠ざかっているうちに(なま)っていたようだ。

 

 

 「敵の砲撃と魚雷に注意しつつ敵前衛の人型を牽制――距離を保ちながら迂回し後続の敵駆逐艦を叩け」

 

 

 俺はこの騎士(こいつ)をやる、と付け足し散開する。

球磨と木曽が魚雷を放ち、俺は魚雷の後ろにつくように海面を走る。

海面に足の触れる直前に廃熱(ブースト)し、また離れる直前にも廃熱を重ね加速する。

海面を踏みしめる度に熱に当てられた塩水がジュッと音とともに蒸発する。

 

 中段の構えから、大剣を右脇に取り、剣先を海面に向け構え直しながら距離を詰める。

左半身を前に押しだし、大剣そのものを身体で隠す――脇構えと呼ばれる構え。

例によって多少の崩しを入れてある。

やや長めの刀身の剣先は海面に触れ、船が船首でそうするように剣もまた海面を割る。

 

 

 「討たせてもらうぞ――灰被り(シンデレラ)!! 」

 

 

 先行していた魚雷が到達する――直前、あの巨剣が海を薙ぎ、巨剣と爆発による二重の水柱が立つ。

元より魚雷には期待していない。

役目(おとり)を終えた魚雷を意に介さず、壁のようにそびえ立つ水柱を突っ切り、背面下段から斬り上げる。

巨剣を振り下ろした右腕を狙った斬り上げは、肩の当て身による接近にて威力を殺される。

彼我の距離はゼロになり、斬り上げは十分な速度に達する前に相手の籠手到達し、阻まれた。

 灰被りは当て身の勢いを殺すことなく、突進に繋げてくる。

 

 

 「――っ! 」

 

 

 こちらも負けじと大剣に力を込め、相対する。

鍔競り合いにも似た体勢で睨み合う。

同じく長物を振るうならば、この距離ではお互いに長所を潰されたも同然。

灰被りは一度は詰めた距離を離すべく振り下ろした巨剣を振り上げようとする。

 

 

 「無駄だ――そのようなデカ物を扱う以上どうしても直前にどうしても予備動作が入ってしまうようだな」

 

 

 岩盤の如き巨剣の腹を踏みつけ、勢いを殺す。

灰被りは何度か力を込め、そのまま持ち上げようとする。

しかしそれが無駄だと判断するや否や、鍔競り合いを続ける左腕の軸をずらし鍔競り合いから逃れる。

籠手の表面を大剣が舐め、火花を散らす――障害物のなくなった大剣はその勢いのまま相手の脇腹に食らいつくもののやはり勢いが乗らずその鎧の表面に食い込んだだけに終わる。

 中途半端に食い込んだ大剣を次の攻撃に移行させるべく、剣を引き抜こうとするがそうはさせまいと漆黒の長剣が振るわれる。

 

 この灰被りが先にやったように身体を移動させ当て身に近い形でその斬撃を受け止める。

大振りの横薙ぎに対して、肩を相手の手首に当て斬撃そのものを殺す。

しかし、相手はこの当て身を読んでいたらしく、受け止めた肩に鈍い衝撃が走り、一拍おいて熱を帯びた痛みが広がる。

 相手は長剣を握る角度を微調整し、実際肩で受け止めたのは柄頭だった。

鈍器のような用途にも使われるその部位をまともに受けた右肩の装甲は凹み、内部骨格(ほんたい)にひびを入れる。

 

 

 《右肩部に被弾――破損を確認。内部骨格、作戦行動に支障あり》

 

 

 無機質なアナウンスが流れ、身体の状況を報告する。

凹んだ装甲にどこかひびがあったらしくそこから耐熱、耐衝撃用の緩和剤たる高速修復剤が流れ身体の修復に手間取っているのが分かる。

 しかし、撤退を推奨しないあたりこの鎧は内部骨格すらも消耗品の一つだと考えているらしい。

現に内部骨格よりも外骨格である装甲の凹みと穴を優先して修復している。

 

 痛みを訴える身体に鞭を打ち、吼える。

激しく痛む右腕の主張を意識の外へ追いやり、無理矢理繰る。

伸ばした右腕は灰被りの捉え、捕らえた。

ありったけの力を振り絞り手前へ手繰り寄せる――頭巾から覗く紅い双眸の下――鼻骨を狙い、額のぶちかます。

 同時に瞼の奥で火花が散ったような刹那的な衝撃に襲われるが、ここで攻勢を止めるわけにはいかない。

 

 

 

 巨剣の腹を踏む左足を軸足にして、右足で相手の右腕――その関節部の肘を蹴り上げる。

強く握った巨剣の柄と蹴りの板挟みになり、意外とあっけなく折れる。

鎧ではない。

別の硬い何かが折れる音が鼓膜と蹴り上げた足から伝わる。

 

 

 「これで終わりではない」

 

 

 短く告げ、次の行動へ移る。

蹴り上げた脚を戻す勢いで相手の膝を刈る。

踵落としの容量で遠心力を加えた鋭い踵は膝を覆う堅牢な鎧を物ともせず、衝撃を内部へ伝導し破壊する。

 

 

 『―――――ァァ!!!! 』

 

 

 手負いの獣にも似た咆吼ををあげ、膝を着く灰被りの騎士。

その膝が崩れる動きに合わせて再度、頭部へ蹴りを放ち――振り抜く。

 

 

 つま先が顎先を捉えた。

得物と同じ漆黒の騎士が仰向けに倒れる。

頭巾から長い黒髪が零れる。

しかし、頭巾が落とす影によってその表情を窺い知ることは出来ない。

 

 

 「――この髪は……。 」

 

 

 

 熱に焼かれたのか、痛んでいるのが分かる。

甲冑と同じく、ろくな手入れをされていないのだろう。

髪――ましてや人外の毛髪に関しては専門外なのだが、痛んでいることの他に一つだけわかることがある。

 

 

 

 

 「もしや、女性……か……? 」

 

 




なにやら説明文やらなんやらで読みにくいかもしれません!
思いっきり作者レベルが足りてませんね。
――暗い穴で作者のレベルは上がりますかね?



それで、今回は解説という解説もないです。
これはもう読者様の想像力による補完してくださいとしか……。

ただ、煙の騎士レイムの二刀流による偏差斬撃やその一撃一撃が重いことを察していただけたらなぁ、と思います。
召喚できるNPCもあっという間に溶かし、大盾すらスタミナごともぎ取っていくその様は……あぁ、心が折れそうだ。


 最後になりましたがちょこちょこ前の話とかにも加筆があるので気が向いたときにでも目を通していただけたら幸いです。
誤字脱字、および『口調がへん』『この設定矛盾してる、設定が違う』など感想などあれば自分の血肉になりますので、こちらも気が向いた時にくださればうれしいです。
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