WHITE ALBUM2 Concert route   作:powder snow

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第十七話

 しんと静まり返った室内に二つの寝息が木霊している。

 そのうちの一つは春希が立てているもの。

 彼はテーブルに下半身を差し入れた状態で横向きになり、身体をくの字に折り曲げながら眠りこけていた。その姿勢は宛ら子供のようだが、まるで母親を求めるように、目の前で座っているかずさの太股に手を伸ばしている。

 もう一つの寝息は訪問者である武也のもの。彼はちょうど春希と対角線になる位置で仰向けになって眠っていた。

 二人とも宴会が始まってから浴びるように酒を煽っていたからか、ほぼ同時に酔い潰れてしまって現在の状況に至っている。その影響で今この部屋で意識を覚醒させているのはかずさ一人となっていた。

 そのかずさは手に持っている缶チューハイを傾けながら、間近で眠る春希の面に視線を落としていた。

 すうすうと静かに寝息を立てる彼の寝顔に見入りながら、春希と武也の二人が部屋に戻って来た時の光景を思い浮かべる。

 

「ただいま、かずさ。色々と土産買ってきたぞ」

 

 春希の言葉通り、彼の手の中には中身が一杯に詰まったビニール袋(コンビニで購入した酒とつまみ)が握られていた。そのあまりの量にかずさは目を丸くしたものだが、それ以上に春希と武也が連れ立って戻ってきたことに驚きを覚える。

 この部屋に戻ってくる時にはきっと春希一人になっているんじゃないか。

 そんな憶測を彼女は心の中で抱いていたのだ。

 だって、春希と武也がどういった内容の話しをする為に出て行ったのかなんて、少し想像すればわかることだ。その上で二人の立ち位置を鑑みれば自ずと結果は予想できてしまう。

 なのに剣呑な雰囲気は何処へやら。かずさの知っている二人の間柄そのものの、遠慮のないやり取りを交わしながらの登場である。

 面を喰らうなというほうが無理な話だ。

 その武也の手にもビニール袋が下げられており、彼は中身を冷蔵庫に放り込むべく歩き出して――途中で一度立ち止まると、ベッドに腰掛けていたかずさに声を投げかけてくる。

 

「冬馬。さっき春希に聞いたんだけどよ、けっこう飲める口らしいな」

「え?」

「酒だよ、酒。めっちゃ一杯買いこんできたから遠慮なく飲んでくれ」

「それは……その、ありがとう」

「とはいってもチューハイやビールしかないけどなぁ。――後で聞かせろよ、あっちでのこと。お前と飲むの初めてだから地味に楽しみにしてんだぜ」

 

 かずさの緊張を解きほぐす為なのか、殊更陽気な口調で語りかける武也。けれど彼の雰囲気が明るければ明るいほど、どうにも釈然としない気持ちがかずさの心の中に沸き上がってくる。

 一体どんな罵倒が彼から飛んでくるのか。そう思って構えていただけに拍子抜けした程だ。

 

「鍋の用意は任せたぞ、春希。冬馬は……そうだな。そこで座って待っててくれ」

「えっと……あたしもなにか手伝……」

「いいよ、かずさ。すぐ済むから。――武也、冷蔵庫に入りきらない分はテーブルに並べといてくれ」

「あいよ」

  

 武也に座ってろと促されるも、かずさは一応春希に窺いを立てた。けれど彼からも“待て”を喰らってしまい、結局行き場を無くした彼女は、大人しくベッドで座っていることしか出来なくなった。

 実際かずさに手伝えることはない(ほとんど春希が前準備を終わらせていた)のだが、それはそれで面白くない。

 その思いが強く表情に現れるが、武也も春希も作業に勤しんでいて気づかなかった。だから準備が整ってかずさをテーブルに呼び込んだ時、彼女が不機嫌そうに眉根を寄せている理由がわからず目を見合わせたものだ。

 

「じゃあ軽音楽同好会、三年ぶりの再会に――乾杯っ!」

 

 武也の音頭で乾杯が取り仕切られ、三つの缶ビールが空中で合わさり鈍い音を奏でる。

 こうして春希作の鍋を肴にしての飲み会がひっそりと開始された。

 当初こそ、この意味不明な状況に戸惑っていたかずさだが、二人の陽気な笑顔にほだされ、幾つも杯を重ねるうちに自然と口数も増してくる。

 あまり人付き合いが得意でない彼女だが、酒の席(春希が傍にいればという注釈は付くが)は嫌いではないのだ。

 

「いい飲みっぷりじゃねえか、冬馬。よし、もう一本いっとくか! 次もビールでいいか?」

「えと、確かチューハイもあるんだっけ?」

「おう、あるぜ。レモンにライム、オレンジにグレープフルーツ。あとハイボールに梅酒も買ってある。どれにする?」

「じゃあオレンジ……」

「オーケイ。――春希、冷蔵庫からオレンジのやつ取ってくれ」

「俺が取るのかよっ」

 

 なんて文句を言いながらも、春希は冷蔵庫からかずさ所望のチューハイを取り出して彼女に手渡した。それを受け取ったかずさが小さく頷きながら礼の言葉の述べる。

 そんな二人のやり取りを眺めながら、武也も手にしていたビールを一気に飲み干していった。

 

「しかし雰囲気変わったよなぁ冬馬。柔らかくなったっていうか、昔はもっとツンケンしてただろ?」

「ツンケンなんてしてなかった……と思う。多分。恐らく……」

「いや、してたしてた。俺にも春希にもまったく遠慮が無かったし。今風に言うとツンデレってやつか」 

「デレてない。それにあたしは変わったつもりなんてないけどな。そう見えるんなら部長のほうが変わったんじゃないか?」

「いや絶対変わったって。こっちで冬馬のこと報道されたりしてるから色眼鏡で見てるだけかもしんないけどよ」

「そんなのはマスコミが勝手に報道してる捏造だ。――真実を報道してくれたのは一人だけ。もっとも触れられたくない過去を全部暴露してくれるっていう盛大なオマケがついてきたけどな」

「……はは」

 

 軽くかずさに睨まれて、春希が愛想笑いを浮かべている。

 先程武也はかずさの雰囲気が変わったと言ったが、本当の意味で彼女が変わる切欠になったのは春希が書いた記事をかずさが目にした瞬間になるのだろう。

 極論を言ってしまえば、三年という時を経ても彼女は本質的にまるで変わることが無かった。故に日本に到着した段階の彼女は“昔のかずさ”であり、武也のいうツンケンしていた頃の彼女になる。

 けれど春希の書いた記事を読み、再会するまで悩み、苦しんで、その先で思いが通じ合い一緒に暮らす仲にまで発展して。その期間が冬馬かずさという女の子の殻を少しづつ破る手伝いをしてくれたのだ。

 春希曰く、本当は面倒見の良い、格好良い奴。そこに女の子らしい柔らかさが加わって。

 冬馬かずさは少しづつ変化していっている。

 

「なんにせよ、良い方向に変わったんならいいじゃねえか。あと俺のこと部長って呼ぶのやめてくれない? もう付属の学生じゃないんだしさ」

「でもあたしにとって部長は部長だ。それ以上でもそれ以下でもないよ」

「……喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、判断に迷う反応だな」 

 

 飲み会の中心には自然とかずさが据えられた。

 武也が聞きたがった彼女のウィーンでの生活やピアニストとしての苦労話。外国という特殊な環境で目にした様々な出来事など。

 かずさが語り、春希と武也が反応する。

 そしていつしか三人が付属の学生だった頃の思い出話に花が咲いて――まるで同窓会のように和やかに場は進行していった。

 けれど誰もたった一つの事柄には触れようとはしない。

 自然と上がってしかるべき名前――小木曽雪菜という名を誰も口にはしなかった。

 きっと三人の誰もがその名を口にした瞬間、この楽しい宴会が終わってしまうことを知っていたからだろう。

 ――いつ、誰が踏み込むのか。

 しかし結局その機会が訪れる前に、春希と武也が酔い潰れて眠ってしまったのである。

 

 

 

「……なんだ。もうすぐ四時じゃないか。けっこう喋ってたんだな」

 

 かずさが時計で時刻を確認し、一人ごちる。

 既に深夜というよりは明け方に近い時間帯。春希と武也が酔い潰れてから既に三十分程度の時間が経過していたが、今から二人を起こして飲みなおすと徹夜になってしまう恐れがある。

 かずさはこれでお開きかなと、手にしていた缶の中身を一息に煽った。

 酒が美味しかったと表現するべきなのか、時間を忘れるくらい楽しい宴会だったので若干の名残惜しさを感じていたが、一人で飲み続けるわけにもいかないだろう。

 そう思ってかずさがベッドに視線をやった時、眠っていた武也が大きく身じろいだ。

 彼女の注意が武也に向いて、程なくして彼は意識を覚醒させ、むくりと半身を起こした。それから寝ぼけ眼を擦りながらゆっくりと席を立つと、そのまま洗面所へと姿を消していく。

 かずさは武也を見送ってからの視線の置き場に困り、結局自身の袂で眠っている春希へと移すことにした。

 

「……あたしより先に寝るなよ。安心したような表情しやがって」 

 

 そっと手を伸ばして、前髪の上から春希の額に触れるかずさ。

 彼女はこうして彼の寝顔を眺めるのが好きだった。

 普段は口うるさい彼も、この時ばかりは一切文句を言わずにかずさの成すがままになってくれる。子供のように無邪気な表情を晒してくれる。

 

「そんなに無防備だと悪戯するぞ?」 

 

 嗜虐芯が刺激されたのか、かずさはこのまま彼の頬に指を伸ばし、むにーと横に伸ばしてみたい衝動に駆られていた。或いは額にマジックで落書きしてやろうかと。

 それで文句を言おうものなら、先に寝る春希が悪いんだとだだを捏ねて、強引に唇で口を塞いでしまえばいい。

 そんな益体も無いことを考えていたら、いつの間に洗面所から出てきたのか、戸口に立ったまま武也が声をかけてきた。

 

「――春希、寝てるのか?」

「うん。眠ってるよ。こうなると中々起きないんだ、春希の奴」

 

 軽く鼻の頭をちょんと撫でて、かずさが柔らかい笑みを浮かべる。

 

「眠りが深いのかなぁ? けど幾ら睡眠時間が短くっても決められた時間になったらキチンと起きるんだよ。それが朝の六時だって寝過ごさない」

「そりゃまた春希らしいな。あいつ時間に凄く几帳面だし」

「それには概ね同意。おかげであたしまで春希の規則正しい生活につき合わされて迷惑してるんだ。あたし的にはもう少し怠惰な生活の方が性に合ってるだけどね」

「……冬馬。春希と同棲してるんだよな?」

「うん。正月からずっと一緒に住んでる。……そういうことだよ」

 

 少し踏み込んできた武也の質問に、かずさが即答する。

 今更惚けても仕方のないことではあるし、彼の言葉の端々から事情を知られている感はあった。なら春希のかずさとしてはそう答えるしかない。

 

「そっか」

 

 かずさの答えに満足したのか呆れたのか。武也は小さく嘆息すると、そのまま冷蔵庫のところまで歩いていった。そして扉を開いてからかずさを振り仰ぐ。

 

「なにか飲むか? まだ幾らか残ってるぞ」

「……ううん。いらない。もうすぐあたしも寝るから。あ、ミネラルウォーターがあったら欲しいかな」

「ミネラルウォーター……水か。ちょうど500mのがあるな」

 

 中から自分用のビールと水の入ったペットボトルを取り出してから、武也がテーブルを挟んでかずさの対面に腰を落ち着ける。そして彼女の前にペットボトルを差し出してから自分もビールを開け放った。

 

「春希から少し話は聞いてる。三年前のことも、今回のことも」

「……」

 

 こうして酒を用意し対面に座った武也を見れば、話をしようという意思表示なのは見てとれる。そして冒頭の問い掛けを聞けば内容も分かってしまう。

 そのかずさの予測通り、武也はいきなり切り込んできた。

 

「正直言っちまうとだ。どうしてお前なんだって思う。雪菜ちゃんみたいな良い娘をふってまで、なんでお前を選ぶんだって思うよ」

「っ……」

「だってそうだろ? お前と春希は三年離れてた。連絡を取り合ってもいない。その間雪菜ちゃんはずっと春希を想ってて……春希も雪菜ちゃんのこと思ってたはずなんだ。結局は受け入れなかったけどな」

 

 かずさのことを忘れられなくて。

 だから雪菜を受け入れられない。そのことについてはもう何度も言葉を交わしている。

 

「気、悪くしたか?」

「……別に。女としてあたしが雪菜に優ってる部分なんてないからな。だから春希があたしを選んでくれたことは嬉しいけど、本当に幸せなことだけど、何故って思う気持ちはあるよ」

「雪菜ちゃんは逆のこと思ってそうだけどな。――冬馬かずさにだけは敵わないって」

「そんな、こと……」

「とまあ、そんなこんなで春希は雪菜ちゃんを遠ざけてて、かといって他に女を作るかっていうとそんな気配もない。偶にコンパに顔を出してもすぐに帰るし、塾での教え子に告白されて即日フったって話もあるくらいだ」

「告白……。あのさ部長。春希って、モテたのか?」

「それをお前が言うか? 小木曽雪菜と冬馬かずさに好かれるような男が他の女に好かれないわけないだろ。でも決して春希は距離を縮めようとはしなかった。俺はてっきり雪菜ちゃんとの間にあるわだかまりがネックになってて、それが解消されればって思ってたんだけどよ。なのに……」

 

 武也が本音を吐いてきたので、かずさも偽らず本音で返す。

 女として雪菜には負けているかもしれない。けれど春希に対して抱いている気持ちだけは負けてはいないと。

 

「でもだからって、あたしは春希を二度と諦めようとは思わない。三年間、ずっと後悔してたんだ」

「後悔、か。けど三年前のことはお前と春希が100%悪いんだ。恋人同士の二人の間に割って入って、春希もそれを認めちまった。冬馬も春希も傷ついたんだろうけど、やっぱり一番の被害者は雪菜ちゃんだよ」

「わかってる。それはわかってる。けど……」

 

 喉元まで出かかった言葉を無理やり飲み込んで、かずさがきつく唇を噛み締めた。

 当時、春希と雪菜が付き合っていたのは周知の出来事であり、事情を知らない人物からすればかずさが横恋慕したと取られても仕方ないのだ。

 どんなに春希がかずさのことを思っていたとしても。

 どんなにかずさが春希に恋していたとしても、浮気だったという事実は消えはしない。

 けれど、もう少し踏み込んで事情を見てみれば事態が変わってくる。

 雪菜は知っていた。

 春希がかずさに恋していたことを。

 かずさが春希のことを強く想っていることを知っていたのだ。

 自身が出会う前よりもっと以前から、二人が惹かれあっていたことを知っていて、その間に割り込んだ。

 

『――ねえ、春希くん。よけてもいいんだよ?』 

 

 学園祭後の第二音楽室で、雪菜は自分から春希に迫り、キスをして、彼を自分のものとした。

 雪菜もある事情から必死だった。

 だからかずさは彼女が抜け駆けしたとか、卑怯な真似をしただとかは思っていない。それどころか、三年前のことは自分が悪いと認めてさえいた。

 けれど――

 

「あたしが、先、だったんだ……っ」

 

 小木曽雪菜のファーストキス。そして春希もそれが自身のファーストキスだったと今もって思っている。

 しかし真実は違うのだ。

 あの日、疲れから眠りこけてしまった春希を前にして、かずさは溢れる思いを止めることが出来ずに唇を重ねてしまっていた。

 不意打ちのような卑怯な真似をしてしまい、その羞恥に耐え切れず逃げ出してしまったかずさだが、先に春希と唇を重ねていた事実は覆らない。

 好きになったのも。キスを交わしたのも。身体を重ねたのも、かずさが最初。

 今にして冷静に鑑みると、あの場面を雪菜に見られていたからこそ、彼女は多少強引ともいえる手段に打って出たんだとかずさは気づいている。

 だがそれを口にする必要性はないとも思っていた。

 こうして今は春希の隣にいられるのだから。今更言うべき言葉ではないはずだと。

 

「先って……冬馬?」 

「ごめん部長。なんでも、ないよ」

 

 かずさの悲痛な表情を、武也は自分が責めてしまったからだと誤解する。あながち間違いではないのだが、別に彼は今更三年前のことを糾弾する為にかずさに話を振ったのではない。

 それこそ詮無いことだ。

 だから彼は少しだけ口調を弱めて、本題に入ってしまうことにした。

 

「けど、今回はあの時とは事情が違うからな。一概に誰が悪いってわけでもないんだが――――なあ、冬馬。春希のこと、どう思ってる?」

「え?」

「好きなのか、春希のこと。久しぶりに会って盛り上がってるとか、気の迷いってことはないか?」

「いくら部長でも怒るぞ。あたしは春希のことが好き――ううん。好きなんて言葉じゃ足らないくらい愛している。何を引き換えににしたって失いたくないんだ。彼の傍にいたいって思ってるよ」

「……本当だな?」

「くどいな。どうしてそんなことを聞くんだ?」 

 

 問われて、武也は一度かずさから視線を外して考え込む仕草を見せた。

 話す内容を迷っているのではなく、話すべきなのかを迷っている。

 彼としても苦渋の選択なのだ。けれどそれ以外に道はないと思い決めて、かずさを再び正面に捉えた。

 

「冬馬。俺からの願いは一つだけだ。――三年前のように春希の前からいなくならないで欲しい。もう二度とあいつを一人にしないでやってくれ」

「……部長?」

「今度お前と離れることになったら、きっと春希は壊れてしまう。それくらいお前に参ってる」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。部長は……雪菜の味方じゃないのか? あたしと春希を別れさせたいって思ってるんじゃないのかよ?」

「……雪菜ちゃんの味方なのは否定しない。さっきも言ったように春希は雪菜ちゃんとつき合うべきだって思ってたさ。けどな、俺は春希の味方でもあるんだよ」

 

 もし雪菜と春希が付き合っていて、既に将来を誓いあっていたというなら話は別だろうが、現状春希の意思を無視してまでかずさを遠ざけようとは武也も思っていない。

 

「今のあいつを見て、話を聞いて、そして冬馬、お前のことを直に見て。それが春希にとって正しい判断になるって信じてるからこそ頼んでるんだ」

「部長……」

「なにせ前例があるからな。その上で雪菜ちゃんとも仲良くやってくれりゃ文句はないんだけどよ……」

 

 武也の要求が――昔のように雪菜を交えて三人で仲良くやっていく。それがどんなに難しいことかは皆わかっている。

 わかっていて、願ってしまうのだ。

 

「……酔ってるのかな。うまく言葉が出てこないが、まあ一考くらいはしてくれ、冬馬」

 

 そう言ってから武也は再び身体を床に横たえる。

 

「寝るわ。朝になったら起こしてくれると嬉しい……」

「それは春希に頼んでくれ。あたしはきっと爆睡してるから」

「……はは。けど春希なら放っておいても起こしてくれそうだなぁ」

 

 じゃあ、おやすみ。そう告げて武也が言葉を切る。

 かずさは視界から消えた武也から再び春希に目線を移すと、彼に覆いかぶさるようにして耳元に唇を寄せる。けれど結局はなにも言葉にうせず、代わりに春希の頬にキスをしてから身体を離していった。

 

 

 

 

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