WHITE ALBUM2 Concert route   作:powder snow

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第二十九話

「ふむ。一口にコンビニのプリンって言っても中々侮れないな」

 

 かずさにとっては恒例の食後のデザート。ある意味こちらが主役とばかりに目を輝かせつつ、冷蔵庫から予め買ってあったプリンを一つ抜き取っていく。

 それからテーブルに着くや、表面のフィルムを勢い良くぺりぺりと剥がしていく。

 

「値段は手頃なのにどれも十分に美味しいし。特にセ○ンイレブンのが好みだ」

「……おまえ、近所のコンビニプリン、全種類制覇したんじゃないか?」

「そんなのはとっくの昔に制覇済みだ。あぁ、日本はいいな。プリン以外のスイーツも特別良い物が揃ってる」

 

 そんなことを言いながら、早速ひとさじプリンを掬い取っては口の中に放り込むかずさ。途端、彼女の表情がにんまりとゆる~く蕩け始める。

 春希はそんなご満悦な表情を晒すかずさの隣に陣取りながら、自分用に淹れたコーヒーを啜り始めた。

 

「そういやお前ってデザートに洋菓子ばっか食うよな。もしかして和菓子とか苦手なの?」

「ううん、別に。和菓子も好きだし普通に食べるよ。けど優先順位は洋菓子のが上かなぁ。あ、餡子とクリームが一緒に入ったやつ。シュークリームとかにあるだろ? あれは特別うまいな」

「え? 餡子とクリームが一緒に入ってるのか? シュークリームに?」

「あれ? 春希、食べたことなかったっけ?」

「……ない」

「美味しいぞ。和洋折衷っていうのかな、今度買ってきてやるよ」

「そっか。サンキュな」

 

 かずさの話に耳を傾けながら、春希が脳内メモに“かずさの好物”として新たなリストを追加していく。糖分の取りすぎは良くないが、かといって無理に制限しようとまでは思わない。

 何より甘いものを食べて幸せそうな表情を晒すかずさを見るのは、彼の楽しみの一つなのだ。  

 

「そうだ春希。ちょっと聞きたいことがあったんだよ」

「聞きたい事?」

 

 いつもはプリンを食べながらでも、遠慮なく春希の肩に頭を預けてきたりするかずさが今日はそれをしてこない。

 何故だろうと思っていたら、どうやら質問があったようだ。 

 

「あのさ、瀬之内晶って誰?」

「……いきなりなんだよ。瀬之内……誰だって?」

「それをあたしが聞いているんだっ」

 

 やや憤慨したように、かずさは手にしていたカップをテーブルにコツンと叩き付けた。とは言っても、中身は既にお腹の中なので衝撃で零れたりすることはない。

 

「もっと分かるように言ってくれ。その瀬之内誰だかを俺に聞くってことは、何か理由があるんだろ?」

「瀬之内晶だ。……えっと、今朝あたしが練習に行こうとしたらさ――」

 

 朝は基本的に春希が先に出て、その後にかずさが出発するというのが恒例となっていた。今日も春希を見送った後でかずさが出発の準備をしていたら、突然来客を告げるインターホンが鳴ったのだ。

 春希が戻ってきたのなら態々インターホンを慣らすわけがない。ならばセールスの勧誘かなにかだろう。

 そう思って居留守を使いかけたかずさだったが、あくまで自分は春希の部屋に厄介になっている身分なのを思い出し(春希に迷惑がかかるのはいただけない)しぶしぶ扉を開けたのだ。

 するとそこには、セミロングにやや届かないくらいの髪をした若い女が立っていた。

 瞬間、かずさの警戒心がスパークする。

 

『わおっ。冬馬かずさ。本当にいた!』

『え? あんた誰?』

 

 いきなりぶしつけな台詞を吐く彼女に、かずさが目を細める。

 元々人付き合いが苦手なかずさは、よっぽど扉を閉めてやろうと思ったのだが、尋ねてきたのが女性だったのでそれを寸でのところで思い留まった。

 春希の部屋に女性が尋ねてくる。

 しかも美人。

 これは由々しき事態である。

 

『ごめんごめん。あたしの名前は瀬之内晶。一応春希……じゃなくて北原君の知り合い、かな?』

『春希の知り合い、だって?』

『うん。彼、今、部屋の中にいたりする?』

『いない。さっき出掛けたばかりだよ。……本当だぞ』

『別に疑ったりなんてしてないよ。ある意味予想通りだし。それに彼が居たならきっと自分で扉を開けると思うしね』 

『……なんでそういう風に思――』

『ま、居ないんならしょうがないか。潔く出直すことにするよ』 

『え? あと、ちょっと……』

 

 かずさが呆気に取られるくらい、瀬之内晶と名乗った女性があっさりと引き下がってしまう。まるで春希に会いに来たというのは口実で、なにか別の目的あったという風に。

 後に残されたかずさは、彼女の名乗った名前だけが印象的に頭の中に残された。

 という訳である。

 ちなみに瀬之内晶というのは和泉千晶の別名の一つなのだが、それはかずさは元より春希さえ知らないことである。

 

「相手の女、相当に美人だったぞ。さあきりきり吐くんだ。一体誰なんだよ」

「ちょっと待ってくれ。本当に知らないんだ」

「知らばっくれるな。お前を尋ねて部屋まで来た相手を知らないとか、さすがのあたしでも騙されないぞ」

「え、瀬之内晶、だろ? …………う~ん、ごめん。やっぱり思い出せない。どっかで聞いたことがあるような気はするんだけどさ」

「本当に知らないのか?」

「……うん。もしかしたら大学で関わった人なのかもしれないけど……」

「ああ、そういえば色々お節介を焼いて回ったとか言ってたな。お前のことだから困った奴は放って置けなかったんだろ?」

「その部分は否定はしないけど、普通は関わった相手の名前や顔を忘れるなんてないぞ」

「……そっか。まあまた尋ねて来るって言ってたから、その時に真相を暴けば済む話だな」

 

 一応納得してみせて、かずさが小さく頷いた。

 だがその過程で良からぬことを思いついたのか。にやりと悪魔めいたな笑顔を浮かべた。

 

「なあ春希」

「……なんだよ。まだ聞きたい事があるって言うのか?」

「違うって。春希はあたしにゾッコンだから、他の女に色目を使ってる暇なんてないよな」

「は?」

「あたしのことだけ見てるんだよな? だから深く追求はしないでおく。あたしに感謝しろよ」

「あのなぁかずさ。…………確かに俺はお前にゾッコンだ。お前しか見てないよ。だからそんな変な心配してる暇があったら野菜の一つでも食えるようになれ」

「なっ!?」 

 

 彼を照れさせようとしたら、逆に反撃されて自分が轟沈させられた。

 それがなんだか悔しいので、かずさは春希からつと目線を逸らしてしまう。そのままの姿勢で彼女は

 

「……………………なあ、春希」

「なんだよ」

「もういっこだけ、プリン食べてもいいか?」

「駄目だ。一日二個までって約束だろ?」

 

 春希は冷蔵庫の中身を常に把握している。

 故にかずさがズルしてもすぐにばれてしまう。 

 

「ふん。ケチな奴め」

 

 だからこの返答は彼女の中では織り込み済み。

 赤い舌を突きだして、あっかんべーを披露するかずさの照れ隠しだったのだ。

 

  

 

 

「武也ぁ、戸棚から七味持ってきて」

「あいよ。割り箸はこっちの使っていいんだよな? おーい雪菜ちゃん、そっちの準備はどう?」

「もう終わるところだよ。後はこれをどんぶりに盛り付ければ――」

 

 エプロン姿でキッチンに立つ雪菜が、おたまで鍋から中身を掬い出している。

 それからそれを白飯のつまったどんぶりの上からかけていって――

 

「じゃ~んっ。小木曽家特製親子丼の完成ですっ」

 

 黄金色に輝く豪勢などんぶりを片手に華麗なポーズを決めていた。

 ここは水沢家にあるダイニングキッチンである。場には家人である依緒、彼女の幼馴染でもある飯塚武也、そして来客として小木曽雪菜の姿があった。

 といっても何か特別な催し物があったわけじゃなく、単に話し合いの場所として依緒の家が選ばれたというだけだ。

 朝から三人で集まり、それぞれの近況やらを報告しあっていたのだが、昼時も過ぎればお腹も空いてくる。当然の如く何か食べようということになり、そこで雪菜が“簡単なもので良ければ作るよ?”と手を挙げたのだ。

 幸い依緒以外の家族は外出していたので、キッチンを借りて料理していたという訳である。

 メニューは先程雪菜が言ったように親子丼。

 雪菜は手早く三人分の料理を用意すると、お盆に乗せて二人が待っているテーブルまで運んで行った。

 

「おぉ、さすがは雪菜ちゃん。色合い良し、香りも良し。どっかの誰かとは違ってめっちゃ美味そうじゃん」

「ほほう。そのどっかの誰かとは、もしかしてあたしのことだったりするのかな武也~?」

「どっかの誰かとはどっかの誰かのことだ。依緒、もし自覚があるのなら精進したらいいじゃないか」

「……くっ。いつか見返してやるから」

 

 歯噛みする依緒を尻目に、武也は笑顔で雪菜からどんぶりを受け取る。

 その返しとして彼女に掌サイズのカップを手渡した。

 

「えっと、ほうれん草?」 

 

 雪菜の呟きが示すように、カップの表面には大きく“ほうれん草”の文字が躍っていた。ポットからお湯を注ぐだけで完成してしまうインスタントの味噌汁である。

 一人暮らしなどでは重宝する一品だが、何故それが大量に水沢家にあったかは内緒らしい。

 それから依緒が各自の前にお茶を用意して、これで昼食の準備が整った。

 

「お茶、熱いけどいいよね? あ、漬物もあるから一緒につまんでちょうだい」

「遠慮なくいただくぜ。しかしマジで美味そうだなこの親子丼。卵のとじ加減とか最高に好みだ」

「期待してくれてるところ悪いけど、至って普通の親子丼だよ?」

「至って普通大歓迎。雪菜ちゃんの料理の腕は知ってるよ。さあ熱いうちに食っちまおうぜ」

 

 手を合わせて、いただきます。

 こうして三人での昼食が始まった。

 

「ねえ依緒。こないだの夜だけど、わたしがいなくなった後で春希くんのこと引っ叩いたんだって?」

「――んぐっ!?」 

 

 始まったのだが、雪菜の最初の発言に、いきなり出鼻を挫かれることになる。

 

「……だ、誰に聞いたのよ、そんなこと?」

「武也くん」

「あ、あんたねぇ……」

「話の流れってやつだよ。それに隠すことでもないだろ?」

「そうだけどさぁ……」

 

 ばつが悪そうに依緒が言葉を濁す。

 雪菜の様子を心配して武也が連絡を取った時に、うっかり口から零れたのだ。

 

「……反省はしてるよ。あの時はちょっと頭に血が上りすぎたってさ。でもいきなりあんな話聞かされたら冷静でいらんないよ」

「そいつには同意するが、ちょっち手ぇ早すぎじゃね? ついでのように俺も殴られたんだけど」

「あんたには謝ったじゃん。……春希、怒ってるかな?」

「気にしてないってよ。というか自分の所為で俺と依緒を喧嘩させちまったって謝られたくらいだ」

「なんだかそれ、春希くんらしいね」

 

 三人が顔を見合わせて、なんとも言えない複雑な表情を浮かべる。

 それから各自、味噌汁やお茶を飲んで間を取った。

 

「……武也くんは知ってたんだよね? 春希くんとかずさが一緒に住んでるって」

「まあな。クリスマス以降の春希の様子が気になっててよ。でも中々会えねえもんだから直接マンションまで乗り込んでったんだ。雪菜ちゃんとの絡みもあったし、クリスマスのこととか責任も感じてたし」

「そしたら冬馬さんが春希の部屋にいたってわけ?」

「いや、俺が行った時は春希だけだった。けどすぐ後で冬馬が帰ってきて。部屋の様子を見た時に“女連れ込んでんな”って直感したんだけどよ、いやいや、さすがに冬馬の姿を見た時は驚いたぜ」

「……女連れ込むって、あんたじゃあるまいし。それに春希にそんな甲斐性や度胸ないでしょ?」

「あんまあいつを舐めんなよ。春希の奴結構モテるんだぜ?」

 

 モテるっても俺ほどじゃないけどな、とナチュラルに付け加えてしまい、女性陣から冷ややかな視線を受ける武也。

 その圧力から逃げるように軽く咳払いしてから

 

「まあ、あいつだって男だってことだ。落ち込んでる時に女に優しくされれば逃げたくもなるさ。ましてや雪菜ちゃんにフラれた直後なら尚更だ」

「武也っ」

「あ……」

 

 武也の失言を依緒が咎める。

 

「……いいよ。本当のことだし。春希くんに対して相当酷いことしたって自覚あるもん」

「けど雪菜ちゃんだって切羽詰ってたんだろ? ずっと溜め込んでたもんが溢れ出しちまっただけなんだろ? そりゃ全く非がないとは言わねえけど、春希が悪い部分だってあった。今回はちょっとお互いタイミングが悪かっただけで――」

「その件に関してはあたしも雪菜に言いたいことがあるんだけど、今は置いとく。でさ、今の話を総合すると、雪菜にフラれたから春希はひょっこり自分の目の前に現れた冬馬さんに逃げたってこと?」

「………………」

 

 依緒の発言を受けて、雪菜と武也が難しい表情で顔を見合わせた。

 

「なによ、どうしたのよ?」

「……春希くんの相手がかずさじゃなかったら、わたしもそう思ったかもしれない。けど違うよ。この三年間――ううん、わたしが春希くんと出会う以前から、彼の一番はずっとかずさだったんだから」

「そんなの分からないじゃない」

「わかるよ。……わかっちゃうんだよ」

 

 雪菜が辛そうに眉根を寄せる。

 真一文字に結ばれた唇は、痛いくらいに力が込められていた。

 

「じゃあこのまま春希のことは諦めるの? 好きなんでしょ春希のこと。冬馬さんに取られたままでいいっての!?」

「おい、依緒」

「武也だって言ってたじゃん。春希にとっての一番は雪菜なんだって。あたしだってそう思うよっ。このままじゃ……雪菜があまりにも可愛そうだ」

「それは――」

 

 一度は口を開きかけた武也が、喉元まで出かかった言葉を無理やり飲み込む。

 春希と一緒にいるべきは小木曽雪菜である。

 ――もしかしてその前提が間違ってたんじゃないか? と。

 かずさと再会した後の春希と直接話し、またかずさとも話して、武也の中で少しだけ疑問が芽生えていたのだ。

 もし春希にとっての一番がかずさであると認めていれば。もし彼とかずさがうまくいくように立ち回っていれば。もっと違った結末――例えばここに居る誰もが笑って過ごせるような未来があり得たんじゃないか。

 そう思い至るようになったのだ。

 自分達の行動こそが春希達を苦しめていたんじゃないかって。

 けれどさすがに雪菜を前にしてそんな台詞は口走れない。まだ心情的にはかずさよりも雪菜の側に重きを置いているのも事実なのだ。

 極端な話をすれば、もし春希が雪菜との復縁を望めば、武也は今すぐにでもその後押しをするだろう。

 

「……覆水盆に返らずじゃねえけどよ、もし大晦日に春希と冬馬が再会してなけりゃ、全然違った展開になってたんじゃねえかなぁ」

「そんなの全然意味のない仮定じゃないっ!?」

「まあ……そうだな」 

「武也。現に春希は冬馬さんと同棲してるんだよ? 今話すべきは雪菜の為になにが出来るかってことで――」

「俺達に出来ること……」

「あるよね? 絶対あるはずだよっ」

「ちょっと待って、依緒」

「……なによ」

 

 にわかにヒートアップしかけた依緒を雪菜が宥める。

 

「わたしね、かずさと会ったよ。会って話をしたんだ」

「え? 冬馬さんに会ったって……それって何時のこと?」

「おとといの夜。かずさがわたしに会いに来てくれたんだ」

「冬馬が雪菜ちゃんに?」 

 

 この件は武也も初耳だった。

 

「最初は驚いたけど、それでもかずさが会いに来てくれたことが嬉しかった。だってかずさはわたしのこと怒ってるって思ってたもん」

「それ、逆じゃないの?」

「ううん。違うよ」

 

 その部分だけはキッパリと雪菜が否定する。

 

「色々なことを話して。春希くんについてもぶっちゃけて。全部じゃないけどわだかまりも解消したし、かずさと話せて良かったって思ってる」

「それって仲直りしたってこと? 許したの、冬馬さんのこと?」

「許すとか……元々わたしとかずさは喧嘩なんてしてないよ。――すれば良かったのかもしれないけどね。だから仲直りしたってよりは、あぁ、かずさはまだわたしのことを友達と思ってくれてたんだって、それが嬉しかった」

「もう……。どんだけお人好しなのよあんたは」

 

 呆れたように依緒が掌で顔を覆ってしまう。 

 依緒にとって冬馬かずさという人物は、何処までいっても雪菜の彼氏を寝取った女なのだ。

 

「えっとね、その後で春希くんとも会ったよ。酔っ払ったわたしを家まで送ってくれたの」

「……雪菜」

「わたしのことおぶってくれて、重くなかったかなぁ?」

 

 あまりに嬉しそうに雪菜が話すものだから、依緒は返す言葉も無く絶句してしまった。

 無理に笑っているという感じではないのだ。

 これでは諦めの境地ではないか。そう思って依緒が唇を噛む。

 

「雪菜ちゃん。春希の奴なにか言ってなかったか?」

「特別なことはなにも。わたしも結構酔っててね、細かいことはあんまり覚えてないんだ。けどいつもの春希くんだったと思う」

「じゃあ雪菜、このまま泣き寝入りするつもり? あの二人のこと認めて?」

「依緒。さっきから結構言葉きついね。そんなにかずさのこと嫌いだった?」

「べ、別に嫌ってるわけじゃないよ。ただ雪菜と冬馬さんなら雪菜の味方をしたいってだけで……」

 

 雪菜に指摘され、依緒が視線を逸らす。

 昔から彼女は頭に血が上ると言葉も荒くなる傾向があった。良く言えば正義感が強く、反面視野が狭い部分もあるという訳だが。

 

「――諦めたわけじゃないよ」

「……え?」

 

 だから依緒は雪菜の言葉を聞き間違えたと思った。

 驚いたように目を見開く依緒に、雪菜が間違いじゃないとばかりに補足していく。

 

「三年間、ずっと遠くから見てきた。三年間、ずっと思い続けてた。邪険にされたら心が痛いくらい締め付けられるし、でも彼の笑顔を見たらそれが幸せなものに変わるの。春希くんの細かな仕草にも目を奪われて…………本当、彼に翻弄されっぱなしだね」

「雪菜?」

「わたしの名前を呼んでくれるだけで嬉しいの。彼に触れられたらそれだけで舞い上がっちゃう。嫌なところもあるし、駄目な部分も知ってる。でも彼の素敵なところが全部覆い隠してしまう」

 

 ほうっと一息吐いて、こう付け足した。

 

「まるで全てを染め上げてしまう雪のように」

「……」

「彼に力一杯抱きしめて欲しいって思ったら駄目かな? もっと近くにいたいって思ったら駄目なのかな?」

  

 そこに大切なものがある。

 それを示すかのように雪菜が胸元にそっと掌を添えた。

 

「春希くんのことが好き。大好き。この気持ちだけはかずさにも負けてないって思ってる」

 

 想いよ、届け。

 今度こそ、彼の元まで。

 

「だからわたしは――彼に告白しようと思ってるの」

 

 そう宣言した雪菜の表情は、とても晴れやかなものだった。

 

 

 

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