炎天に陽炎揺らぐ交差点にて、突如『異世界への門』が現れたのである。
三つほど。
ここに、異世界の帝国軍・死の支配者・冒険者・自衛隊の四つ巴の戦争が開始される。
その日、午前十一時五十分、東京都中央区銀座は地獄と化した。
炎天に陽炎揺らぐ交差点にて、突如『異世界への門』が現れたのである。
溢れ出した中世風の軍勢、ファンタジー風の異形たちは、その場に居合わせただけの市民を無差別に虐殺しはじめたのだ。
「大丈夫かっ!」
彼(三十三歳)は不幸だった。ごく一般的なオタクにして自衛官である彼は、都内某所で行われるイベントに行く途中、この異変に巻き込まれたのである。
彼が不幸だったのは自衛官であり、かつこの超常的事態をある程度理解できてしまうオタクであったことだ。
つまり、事態を飲み込んで行動出来てしまったわけである。
そして、レンジャー徽章持ちのごく一般的な彼は慄き動けなくなった警官に襲い掛かろうとした、翼竜から落下した中世風の兵士を兵士が持っていたナイフで刺し殺すと、警官に向かって声を荒げた。
ここで警官に接触できたのは幸運だった。彼がそう考えた時、警官が彼の背後を指さし叫ぶ。
「後ろからっ!」
「なぁっ!?」
彼が振り返った時、翼竜に跨る騎士が槍を構えて急降下するのを見て、彼は死を覚悟する。
ならば伝えなければならない。
「皇居だっ! 江戸城に市民を避難させっ―」
「アサシネイト!」
少女の声を聴くとともに、彼は目の前に迫った騎士が騎乗する翼竜が両断されるのを目撃する。
竜を斬られた騎士は宙に放り出され、アスファルトに叩きつけられてバウンドするとぐったりと動かなくなった。
唖然と口を半分開ける彼の前に、少女は軽やかに着地し、気づかわし気な表情で座り込む彼に手を差し伸べる。
「大丈夫か?」
「に、忍者ぁっ!?」
「うむ、私は忍だ」
彼は少女の黒装束を見て素っ頓狂な言葉を吐き、ポニーテールの小柄な(ちみっこい)くのいち少女はその言葉に何故か満足げに応じる。
とはいえ、彼とてこの異常事態にそれなりに適応してきたところだ。目の前のちみっこは少なくとも市民を害する存在ではなく、今のところは味方と考えて良いだろう。
良いんじゃないかなぁ。たぶん。
半ば願望の入り混じった考えを確認すべく、彼は少女に話しかける。
「君は味方でいいんだな?」
「そうだ」
なかなかに簡潔な受け答えをする少女であると彼は評する。彼にとっては話しやすい類の女性だ。
「なら、協力してくれないか。市民を皇居に避難させたい」
「皇居?」
「ああ、あそこは元江戸城だからな。相手は火砲のない中世の軍隊みたいだから、立てこもるなら皇居以上の場所は無い」
そう説明すると、少女は頷き「主君に伝える」と言って右手を耳に当てて宙に向かって独り言を始めた。
奇怪な行動に見えるが、賢明(オタク)である彼はこれを念話的なものであると見抜き、彼女には同じような仲間たちがいることを類推する。
「主君って、本物の忍者なんだな…」
こんな可愛らしいクノイチを配下にする主君とやらはさぞリア充なのだろうと考えつつ、彼は後ろの警官に同じようなことを伝え、行動を開始した。
◆
アキバの街のトランスポート・ゲートをくぐり抜けて、彼らは見慣れた廃墟と化していない秋葉原を見上げ、息をのんだ。
帰ってきたのだ、日本に。
目の前にはアキバの街とは明らかに異なる、自動車があり、アニメ風のキャラクターが描かれた看板などが飾られた、活気ある街の姿。
ゲームの世界、〈エルダー・テイル〉の世界に酷似する異世界の都市《アキバ》ではなく、本物の日本の東京、秋葉原だった。
「やったっ、帰ってきたんだ!!」「ひゃっほぉぉっ!!」
彼らは口々に喜びの声を上げる。道行く野次馬たちは、そんな彼ら、西洋風の鎧や巫女服、魔法使い的なローブに身を飾る彼らを奇異の目で見つめる。
「なんだ映画の撮影か?」「統一感のない世界観だな」「コスプレ? クオリティ高いな」
公共の場でのコスプレは基本的にマナー違反であるが、彼らの背後にある巨大な門の存在が人々にこれをイベントか何かと勘違いさせたのだろう。
道行く人々は珍しがり、スマホのカメラを向けて勝手がってに写真を取り出す。中には一緒に写真をねだる者までいる始末。
そして彼らの方はというと、日本に帰れたという喜びに気分が高揚しているせいか、周囲の人々のそれを快く受け入れ、中にはポーズを決めて撮影に応じる者までいた。
ところが、
「え、エルダー・テイル知らないの?」
「2019年じゃなくて、20XX年? 嘘だろ?」
「俺、こんなアニメ知らないんだけど」
彼らが秋葉原の人々と話し、情報を交換する内に彼らの間に不安が広まり始める。そして、
「すまない、電話を貸してもらえないか?」
「……通じない? そんな…、そっちはどうだっ!?」
「ダメだ。俺も、実家にも嫁さんにも通じねぇ」
「どういうことだよ!!」
彼らは俄かに混乱し始めた。さらに彼らに混乱を齎したのは、
「なんだアレ?」
「翼竜に乗った騎士?」
見上げた空に飛ぶ、翼ある竜に跨る騎士。ゲームの世界において竜に騎乗するというのは無くはないが、
それが急降下し、秋葉原の人々を襲い始めたのを見た瞬間、彼らの混乱は頂点に達した。
「何なんだよっ、俺たちは日本に帰ってきたんじゃないのかよ!!」
嘆くように叫ぶ。ようやく戻ってこれたと思ったのに、なぜ? どうして? 彼らは失望に沈み、崩れ落ちる。
しかし、その絶望を払しょくするように青年の声が響いた。
「アストラルバインド! …アカツキ、頼む!」
「了解っ!」
眼鏡をかけた白いローブマントの青年の声と共に、騎士と翼竜の体が光のロープによって大地につなぎとめられる。
そしてそれを、騎士の乗る竜を、小柄な忍者衣装の少女が一撃で引き裂いた。
それを見届けると眼鏡をかけた白いローブマントの青年は、右手を耳に当てて携帯電話にでも向かうように独り言を始める。
「クラスティさん、秋葉原の守りをお願いします。それと斥候部隊を…、はい、とにかく情報を集めなければいけません」
◆
東京千代田区富士見。人々は突如現れた異様な建造物を見上げ、顔を青くしてうずくまった。
何百年も海底にあったものが地殻変動で隆起し地上に現れたかのような、深い緑がかった黒の岩で出来た、悍ましく理解不能な角度によって造形された、門というべき建造物。
それが陽炎の中から瘴気を伴うかのようにして現れたのだ。
そしてそこから溢れ出したのは、盾と剣を手にした無数の骸骨たち、死臭漂わせる異形多たち。そして、鰐や蜥蜴を人型にしたかのような屈強の戦士たち。
そして、
「随分ト文明ノ進ンダ世界ノヨウダナ」
2.5mはある巨体の、悪魔が歪めきった蟷螂と蟻の融合体とでも言うようなライトブルーの二足歩行の怪物が門の向こうから現れる。
その彼に骨の魔法使いとでも言うような邪悪な存在の一体が震えうずくまる一般市民を指さし声をかける。
「コキュートス様、あの者たちは如何いたしましょう?」
「御方ハ、マズハコノ世界ノ情報ヲ欲シテオラレル。平和裏ニ、無傷デ《ナザリック》ニ連レ帰ルノガ良イダロウ」
蟲の怪物はそう応える。
謎の遺跡で発見された異界への門。彼の主人たる死の支配者は、門の向こう側の断片的な情報を得たのち、この異界につながる門に強く執心され始めた。
彼の同胞たる悪魔の男は盟主たる御方の意志を正確に理解し、同じ守護者たちにそれを分かりやすく説明してくれた。頭の上がらない思いだ。
曰く、御方がこれだけ異世界の情報を強く望まれるのは、この異世界が今ナザリックのある世界よりも重要であると御方が判断されたからだ。
つまり、今我々のある世界の征服事業を中断してまで欲っしておられるのだ。門の向こう側の世界を。
ならば、我々は御方の望みを叶えるべく、この新世界を我らが御方に捧げなければならない、と。
「分かりました。では、総員、当初の計画通り門の周囲を確保するとともに、無抵抗な者は無闇に傷つけずに攫え! 抵抗するならば殺して構わん!」
死の軍隊が動き出す(誤発注)。
◆
その日、日本は銀座、秋葉原、富士見に現れた三つの『門』により異なる世界との接触に至った。
銀座には青い水晶のブロックを隙間なく積み上げて作られたような重厚な方形の門。
そこからは中世ヨーロッパの鎧に似た武装の騎士と歩兵、ファンタジーにありがちなオークやゴブリンなどの怪物たちが溢れ出した。
千代田区富士見にはこの世ならぬ悍ましい彫刻のなされた、異様な角度をもって形成された深海のように暗い岩で出来た洞窟のような門。
そこからはこれまたファンタジーにありがちなスケルトンやゾンビなどのアンデッド系モンスターの大軍、そしてリザードマンや悪魔の軍勢が溢れ出す。
そして最後、秋葉原には赤茶けた一枚の岩をくり貫き、中央に大きな円形のサークルといった形状を装飾した、柱に蔦の絡まる門。
ここからはファンタジー風の、しかし和風とか洋風とか統一性のない装いの、獣耳やらエルフ耳だの統一性のない種族の集団だった。
このうち最初の青い門から溢れ出した軍隊が戦闘態勢に入り、銀座に居合わせた人々に無差別に襲い掛かった。
彼らはそのまま進軍し、多くの市民を虐殺したが、しかし、これに呼応して無防備な市民を守るべく動いたのは、赤茶けた岩の門から現れた雑多な装いの者たちだった。
彼らは不思議な、魔法としか言いようのない力を使って奮戦し、多くの市民たちを守ったが、数には劣っていたため、取り逃がした多くが東京を荒らしまわることとなる。
混乱に拍車をかけたのは、悍ましい彫刻のなされた門から現れた、骸骨兵やゾンビたちの死の軍隊だった。
これらのホラー系モンスターらは無抵抗な市民を数人ほど捕まえては門の向こう側に攫うとともに、門の周囲の守りを固め、警官隊との消極的な睨み合いに終始していたが、
しばらくしてから青い門からの軍勢との偶発的な衝突と共に、大規模な戦闘へと雪崩込んだ。
さらに、その異様な容姿と気味の悪さから、赤茶けた岩の門の者たちとの衝突が始まり、銀座を中心とした皇居周辺は三つ巴の混戦という阿鼻叫喚へと放り込まれた。
『銀座・富士見事件』
歴史に記録される複数の異世界との接触は、二つの激戦地の名を執って後にこのように呼ばれることとなった。
◆
「困ったことになったね」
巨大な円卓の一席にて、眼鏡の青年がそう口に漏らす。
《航海種》なる異世界人との交渉に成功し、トランスポート・ゲートによる世界間移動は確かに成功した。
そして、確かに彼らは《日本》の《秋葉原》に転移することが出来たわけだ。
エルダー・テイル世界の格好を維持したままとはいえ、そのあたりはロデリックさんの所で解決できる問題であったはずだ。
「しかし、別の世界の日本とはね」
「あちらさんは何と?」
「どうやら、向こうの日本で複数開いた異世界の門に引っ張られる形でエラーが起きたのではないかと。ただ、向こうに開いた他の2つの門についての調査を依頼されましたが」
通信によれば、《航海種》側は何とか対応策を出すと回答してもらったものの、プレイヤー側の精神的ダメージは少なくない。
我々プレイヤーが帰りたかったのは、我々のいた《日本》だ。家族や愛する人々を残した《日本》であり、それがいない《日本》ではない。
とはいえ、
「一応、世界を繋ぐことは可能であると実証できたわけです。今は向こうと連携しつつ、門の調査を行う必要がありそうですね」
幸い、先の戦いで多くの《日本人》を救い、自衛隊との協力で二つの門の勢力を向こう側にまで押し返したことで、あちらは我々に好意的だ。
手に入れた向こう側の新聞や雑誌などからは十分にそれを読み取ることが出来るし、何より一応は同じ日本人としての意識もある。
ならば、向こうに一方的に利用されないよう、慎重に、しかし確実に前に進まなければならない。
そうでなければ、彼女にどやされてしまうだろう。
「じゃあ、まずは日本政府との窓口ですけど…」
「もちろんお前だろう、腹黒眼鏡」
◆
「申シ訳アリマセン、アインズ様。予想以上ノ反撃ヲ受ケ、力及バズ、門ノ向こう側確保ニ失敗イタシマシタ」
「え?」
「アインズ様、連れ帰った下等生物どもについては、ニューロニストに任せるという事でよろしいでしょうか?」
「は?」
おかしい。
《死の支配者》は元々、向こうの世界とは平和裏に接触しようと考えていた。100年ほど昔の地球の日本だったけど、それでも彼の知っている文明、文化。
こちら側は容姿的にアレだけれども、あの頃の日本といえば専守防衛だし、こちらが基本的に専守防衛に努めていれば、派手な戦闘には発展しないはずだった。
なのに、何故か守護者たちが勝手に門の向こう側を制圧しようとして、しかも自衛隊と謎の冒険者と戦闘状態になっていた。
さらに、何故か向こう側の《日本人》数名を拉致して、監禁してしまったらしい。今、拷問にかけるかどうかの瀬戸際のようだ。
「アルベドよ。その者たちはナザリックに何の敵意も持っていなかった一般の民だ。拷問は行うな。丁重に扱い、情報を聞き出せ。……これはセバスに全て一任する」
「はっ、畏まりました」
《死の支配者》はそう命じると、心の中で頭を抱えた。
どうしてこうなった。
続きません。
ゲートの二次創作かいてみたい。ロゥリィ猊下に踏まれたい。
オーバーロードもカッコいいね。あんな笑顔の絶えない墓場に私も行ってみたい。
ログ・ホライズンもすごい面白い。アカツキはちみっこ可愛い。
で、混ぜてみた。
この後の展開? さあ?