今回はかなり長いです。そして案の定サブタイと内容は関係ない!!
日常とはいつなくなるものか分からない。
例えばこの俺は
しかしそんな日常もたった一単語の「転校生」で様変わりするものだと、俺は実感した。なぜなら今日俺のクラスに転校生が来る、と噂好きの奴が流した話で朝のホームルームを前にして教室が騒がしくなってるからだ。
今の時期は進級してから約一か月経った五月。確かにこんな時期に転校など珍しい。正直俺も少し楽しみにしてたりする。だがそれは、俺の隣が空席でない場合を除いてだ。
さっきも言ったがこの時期の転校は珍しい。そうでなくとも転校生というものは休み時間ごとに教室中の生徒だけでなく、隣近所のクラスからも転校生を見にやってきて騒がしくなるイメージがある。
「ほらお前ら座れー。朝のホームルーム始めんぞ~」
担任の井上が教室の扉を開けて入ってくると、クラスメイト達はそそくさと自分の席に戻っていった。俺は空席とは反対の隣の席で寝ている
「ほれ貴志、井上が来たぞー」
「んあー……眠たい」
『バイトするならタウンワークッ!! バイトするならタウンワークッ!! 貴志ィィィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!! まずこの算数を教えてほしいんだたかし。おい、聞いているのかたかし!!! 何を寝ているたか―――』
「うるせえ」
目を擦りながら文句を言うも、なんだかんだと上体を起こし、叫んだやつを一睨みする貴志。そしてクラスメイト達は静かに井上の話を聞いている。そして俺以外のクラスメイト(見た感じ貴志もあまり興味がなさそうだった)が楽しみにしていた転校生の紹介となった。
「それじゃ入ってきて~」
井上に促され、開きっぱなしになっていた扉から一人の女子生徒が入って来た。
第一印象はどこかの奇跡を起こしそうな現人神の髪を黒くした少女、といった所。女性の中では美人の枠に入るのではなかろうかといった容姿に、クラスは静寂に包まれる。女子生徒はそのまま井上の隣に立つと、俺達に一礼した後黒板に名前を書くと、またこちらを向き自己紹介を始めた。
「初めまして。
凛と響くような声で自己紹介を済ませた山風さんは井上に言われた席、貴志とは反対の席まで歩き座る。それから井上から色々言われるも、たいして重要な事じゃないので聞き流す。そしてホームルームが終わり、当然と言うかのように山風さんの席にクラスメイト達が群がる。
騒がしいのは慣れてるのものの、普段通りにする訳にも行かず、鞄から音楽プレーヤーを取り出しイヤフォンを耳に装着する。これでいくらか喧噪を押さえることができる、はず。煩いのには慣れてるも、煩すぎるのは嫌なんだ。
音楽を流しながら机に伏していると、肩を叩かれる。顔を上げると一限目の教師が教卓前で授業の準備をしていた。
「貴志、サンキュ」
「いいってことよ」
貴志と短いやり取りを済ませ授業の準備をする。もちろん隣の集団は既にいなかった。
時間が過ぎるのは遅いもので、あれから三度の騒音を体験してからの昼休み。いつもなら教室で摂るものの今日は食堂へと避難する。誘ったら貴志も付いてきてくれた。食堂では最近売れ始めたアイドルグループの1stシングル「オコメ→タベロゥ」が流れていた。
「それにしても貴志は良かったのか?」
「何が?」
「転校生。ちょっとは興味あったんじゃねえの?」
弁当を食べながら聞くと、貴志は箸を加えながら考える仕草を取る。暫く弁当を食べながら眺めていると、考えがまとまったのか、こっちに目を向ける。
「…………フルーツポンチ」
「は?」
「フルーツポンチまだかなぁ、と」
「……あっそ」
つまるところ転校生に興味はないらしい。デザートの心配をしてやがる。
それから昼休み終了ギリギリまで食堂で駄弁り、教室に戻ると午後の授業を乗り切る為に少し気合を入れた。
「んじゃあ気をつけて帰れよ~。最近ここらで正体不明の通り魔なんかが出るって聞くからな」
帰りのホームルームも特に何事もなく終わり、クラスは帰宅する者、部活動に向かう者、寄り道の計画を立ててる者などに別れ、それぞれの行動を始める。そんな中、俺は帰宅組には加わらず荷物を持って特別棟目指して歩き出す。
俺が部活に入っていることを言うと驚かれるも、所属している部活と状況を言うと納得される。
俺が所属しているのは「オカルト研究部」部員は一人。つまり俺しかいないわけだ。部室は日当たり良好の特別棟二階にある地学準備室。広さはどこぞの古典部より少し小さめ。まあ俺しか使わない事を考えると十分な広さである。部室には対面に置かれた机と椅子。流しにはポットとひっくり返された湯呑がいくつか。
「さて、今日は誰か来るのかね」
独り言ちってから自分の分のお茶を淹れる為お湯を沸かし、窓際の椅子に座り本を開く。
さてオカルト研究部といえば思い浮かべるのは幽霊や心霊現象などだろう。貴志にもそう言われたし、だいたいの人はそう思うだろう。
なぜ急にこんな話を始めたかというと、きちんと理由がある。つい先ほどまでのんびり読書をしていた俺の元に、一人の生徒が扉をいきなり開けてやって来たのだ。まだそれまでなら良い。ノックくらいしろよ、と思わなくもないがそれは慣れた。ただ、やって来た彼女が放った第一声が問題なのだ。
「あなたが幽霊が見えると聞いたのだけど、それは本当なの?」
扉を開けたのは意外な人物、今日転入してきた山風さんだった。
「取り敢えず座って。話はそれから」
話が長くなりそうな気がしたから、開いている席に着席を促す。あ、素直に従うんですね。
「お茶と珈琲、どっちがいい?」
「お茶で」
急須の茶漉しに茶葉を入れ、湧いたお湯を注ぐ。本当はもっとちゃんとした淹れ方があるけど、まぁ器材ないし。
「それでオカルト研究部に用事? それとも俺に用事?」
「あなたに用事って何?」
「……なんでもない」
別に自意識過剰とかじゃない。ちょくちょく俺に用事の人らが来るんだよ。ま、今はそれは関係ないから話さないでおこう。それにオカルト研究部の方に用事みたいだし。
「もしかして入部希望? 悪いけど新入部員とか募集してないから、部活に入りたいなら他の部活にでも」
「そうじゃなくて。もしかして最初に私が聞いた質問の内容も忘れてしまったのかしら?」
「急に毒舌だなおい」
あれ、山風さんってこんなキャラか? 教室で話した覚えがないどころか、声を自己紹介と授業中の受け答えの時しか聞かなかったからな、山風さんがどういう人か知らないな。まあ休み時間イヤフォンで耳塞いでたし、当たり前か。
「えーと、俺が幽霊見えるか。だっけか? 結論から言うと「見える」だな」
「本当に?」
なんで聞かれたことを素直に答えたらさらにそれが疑われるんですかねー。まぁ普通「自分幽霊見えます」なんて言って「はいそうですか」って信じる奴は稀だしな。仕方ないっちゃ仕方ないか。
「論より証拠。見てみるか?」
「私にも見えるの? ていうか、今いるの?」
「百聞は一見にしかず。ちょいとお手を失礼」
山風さんが差し出してきた手を取りちょっと意識を変える。
「これが幽霊たちだぞ」
「な、にこれ……」
山風さんの視界の先には運が良いのか悪いのか、男女一組の幽霊がいた。
『だからな? 男が男を掘るのが大好きで、夜になるたびに隣の家でそんなことが起こらないかなぁ、とか思いながらギャルゲーしてるぜ!』
『へぇ〜、ふ〜ん。そうなんだ』
汚い話ししてんじゃねぇよ。見ろ。山風さんがドン引きしてんじゃねぇかよ。あとついでに女の方の幽霊も。
「ね、ねえ」
「あー、悪いな。変な話聞かせちまって」
「いえ、それよりも気になることがあるの」
気になること?今の会話にどこか疑問があるか?いや、幽霊が皆揃ってあんな話ししてるのか、と聞かれれば否定するが。
「幽霊ってゲームするのね」
「ああそれか。あいつら結構色んなことしてるぜ? 廊下見てみな。今の時間だと奇妙なものが見れるぜ?」
山風さんの手を引き廊下に出る一歩手前で止まる。その瞬間、俺の目の前を変則的な動きをしながら通り過ぎる半透明の影。
『ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥエ』
そして静かに扉を閉め、後ろにいる山風さんを見る。
「な?」
「「な?」じゃないわよ。あれはなんなのよ」
「なんでもゲーム実況で見た動きを再現しようとしてるらしい」
「そ、そう」
ま、幽霊にも娯楽が必要で、あいつらも既に失くした命で楽しく過ごしてるってことだろ。
最近だと先週あたり『「ミリオンスライスープロケット逆風の熱線放射電束ミサイルプラズマ幻魔雑霊爆砕金剛跳弾神速ダーク電磁放射電撃曲射陽子ロケット落雷ジャイアントロコ集中稲妻グリフィスローリン三濁流清流タイガー短勁スカイライジングロザリオ塔三龍羅刹十字散水」略して「剣」』を幽霊同士でやってるのを見て呆れたもんよ。話が逸れた。
ちなみに、過去に何回か自分から幽霊などが見えると言った事もあったが、そのたびに「こいつ何言ってんだ? 早く何とかしないと」って顔されてたりした。今みたいに見せれば早いんだが、いかんせんこうして見るにもそれなりの霊感とかが必要なようで、今までのやつらは尽く見る事が出来なかったんだよな……
「ねえ、今のどうやったの?普段は見えないし、今もあなたから手を離したら見えなくなったのだけど」
「波長を合わせたんだよ。相手の中にある僅かな霊感を無理やり膨らませて、見える波長を流し込むんだ」
俺はこれを「チャンネルを合わせる」と呼んでいる。普段は滅多にチャンネルを合わせたりはしない。理由としては何度もチャンネルを合わせると、霊感が上がったりする事があるからだ。
今日も貴志が教室で寝ている時、背後霊的なやつがスゲー叫んでて煩かっなのなんの。貴志は見聞き出来るくせにそれ無視するし。
「はぁ。それで? お前何かされてるのか? 言っとくが幽霊は俺の管轄外だから、もしそれだったら良いところ紹介するが」
「いえ、それも大変興味深いのだけれど、実は教室で面白い話を聞いたのよ。さらに聞いてみるとこの学校にはオカルト研究部があるときたじゃない」
「あー、聞いたって誰に?」
「もちろん井上先生よ」
デスヨネー。この学内で幽霊のこと知ってるの少数だし。つかその「面白い話」が何かは分からんが、井上がここを話したって事は十中八九面倒な事に決まってる。
「……で? 話の内容は?」
「この学校にある七不思議の調査を———」
「断る」
「即答されるとはね」
「確かに去年七不思議の調査をしたが、それについてお前に話すことはない」
「理由を聞いてもいいかしら?」
「いいか、俺は面倒が嫌いなんだ」
「……それが理由?」
「さ、これで話は終わりだ。帰った帰った……あ、帰る前に一つこっちからも聞きたいことがある」
立ち上がった山風さんに制止をかける。その際山風さんは不機嫌そうな表情を浮かべるも、そんな顔しなさんなって。これだけは聞いておかなきゃいけないんだ。
「その話、誰から聞いた?」
「如月さんからよ。一昨日の夜に校舎の廊下を青白い光を見たって。それがこの学校の七不思議の一つって聞いてね———」
一昨日の夜か。そういえばここ一か月相手してなかったな。まさか拗ねたとかだったらシャレにならんな……ふむ、今夜相手してやっかな。必要な物は、まぁ一式持って来れば事足りるか。足りるよな? ま、足りなかったらまたもってくりゃいいか
「———って私は思うのよ。あなたはどう思う?」
「ああ、いい線言ってると思うぞ」
「そうよね。やっぱりあなたもそう思うわよね」
やべ、なんの話してるのか聞いてなかったのに適当に返事しちまった。けど本人は満足気だからいい、のか?
「あー、山風さん。俺用事出来たからもう帰るんだけど」
「あらそう。なら私もお暇しようかしら」
そうしてくれると助かる。非常に助かる。
「ねえ。もしよかったら明日も来ていいかしら」
「はあ?」
「そんな素っ頓狂な声出さなくてもいいじゃない。あなたと話すの意外と面白いと思ったのよ」
思いもよらない発案に呆けている俺を無視して、それに、と続ける山風さん。
「あなたはどうやら、教室で話しかけてほしくなさそうだもの。それじゃあまた」
それだけ言って山風さんは昇降口目指して歩き出す。
明日って、俺部室来れるのかね? 寝てないといいけど。ていうか今日のあれは「面白いおしゃべり」だったのだろうか。
ま、いいか。それよりも俺はやる事やっとかないと。まずは井上の所に行かないとな。
そして時間は過ぎ、時刻は夜の九時。太陽は完全に沈み、月明かりが暗い夜道を照らす時刻。
俺はそんな中、学校の制服を着て外を歩いていた。目指す先はもちろん逢魔ヵ時高校。人っ子一人いないって程ではないにしろ、そんなに人通りがよくない道を選んで、なるべく人に見つからないように向かっている。
だというのにだ。さっきから、いや正確には俺が家を出て少しした辺りから誰かにつけられてるんだよなぁ。しかも生きた人間。まぁ様子からして襲ってきそうにないんだが、気になってしょうがない……仕方ない。よくある手だが、曲がり角で待ち伏せするか。
「まったく。やっと動いたと思ったらこんな時間だし、どこに向かっているのきゃ!」
「誰かと思ったらお前かよ」
俺の後を追って曲がり角を曲がって来たのはなんと驚き、山風さんだった。しかも黒のニット帽やら双眼鏡装備して何してんのこの人。え、何してんの?
「なんでそこで止まってるのよ」
「むしろこっちが聞きたい。お前何してんの?」
「何って、あなたがこんな時間に出かけるから後をつけていたのよ」
なんでこいつは
「それで? あなたはどこにいこうとしていたのかしら?」
「あ? 別にどこでもいいだろ。お前には関係ないからさっさと帰れ」
『ねぇわたしってキレイ?』
学校に向かう為に振り返ると、後ろから場違いな質問が聞こえた。
「は? なにいってんだいきなり」
「今の私じゃないわよ」
「この場には俺とお前しかいないんだから、俺じゃなかったらお前だろ」
再び振り返って山風さんの後ろに巨大な影。その手にキラリと光るナニか。それはなんの躊躇いもなく前に立っている山風さんに振り下ろ———
「危ないっ!」
「え?」
山風さんの手を引っ張るのと同時に影の持つモノが地面のアスファルトに当たる音が聞こえた。その音で山風さんも自分の身に危険が迫っていたことを知り、身を震わせる。
「な、なによあれ」
「さあね。でも地面に当たった物の音からして、持ってるのは刃物。てことは、こいつが最近ここら辺に出るって言われてる切り裂き魔とみた」
「な、なんでそんなに落ち着いてられるのよ。目の前に切る裂き魔がいるのよ」
「取り合えずここから逃げるぞ。っと失礼!」
先に謝罪の言葉を述べてから山風さんの背中と膝裏に腕を通して持ち上げる。所謂お姫様抱っこなるものだ。山風さんから短い叫び声じみたものが聞こえるも、今はそれどころじゃない為移動を優先させていただく!
「ね、ねえ逃げるってどこに逃げるのよ!」
「ああ!? ンなモン学校に決まってんだろ!」
「はあ!? なんで学校!?」
「分かんねえなら黙ってろ! 舌噛むぞ!」
俺の言葉に納得がいったのか、舌を噛むのが嫌なのか黙った山風さん。後ろからは相変わらず切り裂き魔の足音と、刃物同士をぶつけてる音が聞こえる。
マジであいつはなんなんだ? さっき山風さんの後ろに立っていたとき、山風さんの頭が影の三分の二辺りにあった。
「なあ山風さん。ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「な、なによ」
「身長いくつ」
うん、こんな時に何聞いてんだって顔だな。確かにそりゃそうだ。っともう学校か。これなら影の正体を突き止める時間はもらえそうだ。
「ちょっと耳塞いでろ」
「は? それよりさっきの質問の意味を———」
「叫ぶぞ」
山風さんが耳を塞いだのを確認すると、、大きく息を吸う。ぶっちゃけ走りながらだからかなり辛い。
「二宮せんぱーい!」
そう叫びながら校門を通り過ぎる。目指すは裏門だ。
「山風さん。後ろどうなってる!」
「え、っと。少し離れてるわよ」
「そうか。そりゃ僥倖。降ろすから自分で走れ。んで先に行って裏門開けといてくれ」
走るスピードを少し落とし山風さんを降ろすと、指示通り裏門目指して走り出す。さて、俺は時間稼ぎと行きますか。足元の手ごろな石を拾って影に投げる。あ、避けられた。
「開いたわよ!」
「サンキュー!」
何個か石を投げてから体を反転、裏門を駆け抜ける。その時、通り過ぎ様に山風さんの腕を掴む。
「それじゃあ二宮金次郎像先輩よろしいお願いします」
『わかったよ』
校舎に向かいながら後ろに声を掛けると、後ろから渋い声が返ってきた。さっき見えたから来てくれてたのは知ってたけど、間に合ってくれて良かった。
「今の内に校舎の中に逃げるぞ」
「え、あ、うん」
目指すは地学準備室。一応逃げ先としては悪くないはず。
「さて、少し休もうか」
「いいわよ。その間に色々説明してもらえるのよね?」
「まあこうして巻き込んじまったからな。さっき俺達を助けてくれたのはこの学校の七不思議の一つ「動く二宮金次郎像」だ」
「七不思議、やっぱりあなたは知ってたのね」
「まあな。何分あいつらとは去年からの付き合いだし」
椅子に深く座り話し始める。
「お前が聞いてきたときは面倒と言って断ったが、あの調査について説明するとあいつらに迷惑が掛かるから断ったんだ」
「そう、なのね」
「ま、他の七不思議たちは機会があれば紹介してやんよ」
「いいの?」
「ここまできたらな」
さて、そろそろ移動しますか。山風さんも呼吸と精神が落ち着いたみたいだし、武器も欲しいしな。
「じゃあ次の七不思議でも見に行くか」
「え、二宮金次郎を助けに行かなくていいの?」
「そこ、二宮金次郎像先輩ね。俺らより長くこの学校にいるから先輩つけないとダメだぞ。あと像を抜くと本人から注意されるから気をつけろよ」
「あ、うん」
「んで、助っ人の件だが。お前、素手であの影と戦えるのか?」
「でもここ学校でしょ? 武器になるものなんてあるの?」
「心当たりはある。がその前に行っておいた方がいい場所がある。着いて来い」
地学準備室を出て廊下に出る。うわ真っ暗。さっきまで月明かりがあったのに、今は月が雲に隠れてるからか完全に闇となっている。
「暗くて何も見えやしないじゃない」
「分かってるっての。ちゃんと考えてあるから」
震える手で服の裾を掴む山風さん。俺はそれを無視して口笛を吹く。すると廊下の向こうから三つの青色い火の玉が近づいて来る。
「あれは七不思議の一つ「廊下を漂う火の玉」!?」
「そうだけど、別に驚くことでもないだろ。そんな事より今日もよろしくな」
目の前まで来た火の玉たちに声をかけると、上下にフワフワと動き、俺と山風さんの前に一つずつ、後ろに一つ移動する。
「これで明るくなったろ?」
「まさか、一昨日如月さんが見たのって」
「こいつらの中の一つじゃね? 最近会えてなかったからし、目撃情報があれば俺が動くのを知っててわざと見つかったってとこだろ」
俺の前の火の玉が左右に揺れる。見られたのお前か。こういったことにならない為に、これからはちょくちょく来ないとか。俺が前を歩き移動を始める。
「ねえ。あなたはあの影の正体知ってるの?」
「一応は。けどまだ確定要素がないからなんとも言えん」
「その「一応」を聞かせてもらっても?」
「あの影の大きさはお前の約1.5倍。てことはだいたい二メートルと三十センチ。得物は刃物。この条件でパッと当てはまるのは三つ。八尺様かスレンダーマン、それか口裂け女のどれかだ」
「最初に「私ってキレイ」って聞いてきたから口裂け女じゃないの?」
それなんだよなー。確かに最初会った時にそれ聞かれたんだよな。でも口裂け女って三人姉妹って聞くし、あんなにでかかったっけか?
「相手が口裂け女だったらポマード辺りでけりがついてたから楽だったんだが……」
ポマードが効くのって会ってすぐ、あの質問に答えるときなんだよなぁ。もしあれが口裂け女だったとしても、俺達はその機会逃したから撃退法考えないと。
「相手が何か分からないの?」
「分からないが、分かる方法はある」
俺は教室の扉を開けて中に入り、自分の机からノートを取り出す。
「ってここ私達の教室じゃない。こんな所でいったい何が分かるのよ」
「うるさい。分からないなら黙って見てろ」
鞄からボールペンを取り出しノートに「はい」と「いいえ」を書いて少し離した状態で置く。そして真ん中に紙皿に乗せた油揚げ。
「もしかしてコックリさんでも呼ぶの?」
「どう見たってそうだろ」
「でもこの学校ではコックリさんは動かないと聞いてるわ」
「おーそうかそうか」
俺は山風さんを無視して、二回手拍子を打つ。
暫く待っても何も起きない。
「何も起きないじゃない」
「あ、名前呼ぶの忘れてた」
「はぁ……」
「つーわけだ。出でよ、コン!」
もう一度、今度は名前を呼びながら手拍子を打つ。
さっきと同じように暫く待つ。しかし何も起きない。
山風さんの冷たい視線が背中に突き刺さる。いや、待って欲しい。いつもならこれで来るんだ。なぜ今日は来ない……ふむ。
「そうかそうか。そんなに今日は気分じゃないか。ならこの油揚げは俺が焼いて酒のツマミにでもさせてもらうよ」
『ぬしは未成年じゃろうて』
「やっと出て来たか」
油揚げを皿ごと回収しようとした途端、反対側から白く綺麗な指が皿を摘み止める。顔を上げると頭の上に狐耳を生やした女性が座っていた。
「なんですぐに出て来なかった?」
『理由は呼び出したぬしが一番知っておろうに』
「……なんですぐに来なかった?」
理由が分かってたらこうして聞かねえっての。なんでそんなことくらい分からないんですかねぇ? あなた一応俺らより何倍も長生きしてんだろ?
といった挑発めいた言葉を言外に発しながらコックリさんこと、コンを見る。あ、こめかみに青筋が浮かんでる。
『よかろう。そんなに生き急ぐのならば、今ここでぬしの生命の灯し火を消すぞ?』
「お? やれるもんならやってみろよ。それより先にこの八枚四千四百円する高級油揚げを食ってやんよ」
「ちょっと、あなた人外相手に何してるのよ」
何ってそんなの協力願い以外に何があるよ。ただコンの奴が売って来た喧嘩、買ってやりゃにゃコンが可哀想だろうよ。
『先に言いがかりをつけて来たのはぬしじゃろうて……うん? ぬし、今度は何をこの学園に連れ込んだのじゃ?』
「何って、その正体を聞きに来たんだが、何かあったのか?」
『今二宮像から連絡が来たのじゃが、何やら三人に増えたとか。ゆえにそんなに猶予はないぞよ?』
三人に増えたってことは相手は口裂け女でほぼ決まりか。
「サンキューコン。また今度なんか持って来るわ」
『なら今度は日本酒でも頼むのじゃ』
「はいはい。未成年の俺でも持って来れる物を持って来るとするよ。じゃあな」
コンに手を振り教室を出る。向かう先はもう決まっている。
「それで、今度はどこに向かってるの?」
「ここを少し行ったところにある部屋に向かってる」
「この先?」
山風さんは通り過ぎた教室プレートをチラリとハッとなる。やっぱり気付きますよねー。
「まさか七不思議の一つ「入る度に内装が変わる教室」のこと!」
「正解」
っと、到着。さてと、五・七・五のリズムでノックして少し待つ。
『入っていいよ~』
「おいーっす」
中から入室の許可が下りてから扉を開ける。
『お兄ちゃん久しぶり~!』
「おう、久し振りだな」
部屋の中に入った途端、フードを被った子供が抱き着いてくる。後ろで山風さんが驚きで息を呑んでるのが分かる。ま、そりゃそうか。昼にここに来たかは知らないが、ここは基本授業で使う物置だ。けど今の資料室の中は鉈やら鎖鎌、日本刀にお札と様々な武器に成りうる物が揃っているのだ。驚くなと言う方が無理だろう。
「さて、今回は敵さんが口裂け女だから、それ用っぽいのをいくつか都合するか。山風さんは何か使えそうな物あるか?」
「使えそうな物、と言われてはいこれ使えます。って答えれる女子高生が全国にどのくらいいるのかしらね」
そんな呆れたように言わなくても。ていうか、何か運動部系の部活に入ってた、とかないんかね。この部屋には色んな武器類があるから
『お姉ちゃんは誰?』
「あーこいつは山風……」
「初めまして山風皐月よ。あなたは?」
『僕は
自己紹介も済んだみたいだし、何か武器でも探すか。あ、そうだ。
「なあ風雲。もしよかったらこいつに合う武器探してやってくれ」
『は~い。お姉ちゃんついてきて~』
山風さんの事は風雲に任せて、俺は俺で武器を調達しないとアレに太刀打ちできん。
えーっと愛用のこの剣と札を数枚、あとは短刀を念の為に四振りくらいか。
「おーい、準備できたか?」
『一応基本は叩き込んでおいたよー!』
「お、それは助かるありがとな。山風さんは大丈夫か?」
「た、たぶん……」
風雲の頭を撫でながら、すぐそこで肩で息をしている山風さんに確認をとる。まあ風雲のことだからやり過ぎてはないだろう。ただ風雲の「叩き込む」は文字通り脳に直接イメージを送り込むから、体よりも脳が疲労を訴えるんだよな。
「俺は次の場所行くけど、お前はどうする?」
「……次も七不思議?」
「まあ、そりゃあな」
むしろ今この時間に学校関係者はいない。よしんばいたとしても口裂け女の相手になるかどうか。それならまだ風雲に六尺棒の使い方を叩き込まれた山風さんの方がマシだろう。
「なら、行く」
「ペースは落とさないぞ?」
コン曰くそんなに猶予はない。本当なら走りたいが、さすがに今の山風さんを走らせるのは酷。置いて行ってもいいけど本人は来る気満々。それならペースを落とさないでサッサと移動するしかない。
「今日もありがとな」
『ううん! また今度来たとき遊んでね!」
「おう。皆巻き込んで隠れんぼでもしような。っと、ほいこれ。お土産だ」
『わーい!』
鞄から「風雲」と書かれた袋を取り出して渡す。風雲はそれを受け取ると、笑顔になって袋を上に放り投げる。
「んじゃ、またな」
『バイバーイ!』
教室から出てすぐに、最寄りの階段を登る。そのまま三階まで一気に登り切る。後ろを確認すると山風さんはしっかりとついて来ていた。
「ちゃんと着いてこれたんだな」
「バカにしないでもらえるかしら?」
「へいへいって、山風!」
山風さんの背後、後ろが階段だというのにも関わらず山風さんと変わらない高さの影が現れる。俺はとっさに山風さんの手を取り引っ張る。
視線の先、階段の暗がりから出て来たのは、俺が見上げるほどの身長。両手には草刈り鎌。一番目を引くのは耳まで裂かれた口。そう口裂け女だ。
「二宮金次郎像先輩を抜けて来たのか?」
「何を冷静に考えているのよ! 早く逃げるわよ!」
「あぁ、お前は先に行ってろ。場所は北側の女子トイレだ」
俺は短刀を両手に構えると、山風さんの前に立つと口裂け女の注意を引きつける。すぐに後ろで山風さんの走り去る音が聞こえた。よし、これであとは防衛戦だな。
「こいよ。お前の相手はこの俺だ」
『わたしってキレイ?』
「そんなの決めるのは俺じゃねえ。お前自身だ!」
手始めに右の短刀で斬りかかるもアッサリと躱される。反撃とばかりに鎌で返されるも左の短刀で受け止め、弾き飛ばす。
「おいおい、嘘だろ」
『カカカカ』
弾き飛ばしたはずの鎌は廊下に落ちることはなく、その場でクルクルと回る。なるほど、弾くのはダメなんか。それを先に言って欲しかった。
「ま、そんな文句は後の祭り。今は時間を稼げればそれでいいさ!」
俺は短刀を構え、目の前の口裂け女と対峙し直す。
「えーと、ここでいいのよね」
芦屋くんに指示された場所である女子トイレに着くも、転校初日でまだ校内の構造を把握していない私にはここがそうである確信はなかった。けれど入ってみないことには何もないからそっと扉を開け中に入る、
「確か女子トイレの最奥の個室がそうなのよね」
独り言ちりながら一番奥の個室の前で止まり、ノックを三回。
「花子さん、遊びましょう」
返事がない。おかしいわね。如月さんにはこれで大丈夫って話を聞いたのだけど……もしかして芦屋くんの名前を出さないと出てこないとか? そもそも場所を間違えてる可能性もあるわね。
場所の確認の為に一度廊下に出る。
『あなタきれイネ』
「っ!?」
いきなり暗闇から何かが振り下ろされるのが僅かに分かった。思わず持っていた六尺棒でそれを受け止めると、ついて来てくれてた火の玉が相手を照らす。
私よりも遥かに高高い身長。腰まである長い黒髪。手には鎌を持ち、口は右側だけが耳元まで裂けていた。
「口裂け女っ! なんでこんな時に来るのよ」
『ふふふフフふふ』
二撃三撃と攻撃を捌くも、それもだんだんと辛くなっていく。そしてとうとう限界が訪れ、鎌によって六尺棒が壊されてしまった。
衝撃で尻餅をつく私。そんな私に鎌を振り上げている口裂け女。
私はこんな状況なのに、六尺棒を壊したことを風雲くんに謝ることができないことを悔やんでいた。
脳裏には風雲くんと二人で話しているときの会話がフラッシュバックする。
『ねえお姉ちゃん。もし自分じゃどうしようもない状況になったらどうすればいいか、知ってる?』
「? どうするの?」
『助けを呼べばいいんだよ。それだけで―――』
そう、そうだったわね。私は武器は失くしたけれど、まだできることがある。
息を大きく吸うと、つい数分前に別れた彼の名前を呼ぶ。
「助けて! 千景ぇぇぇぇ!!」
―――それだけでお兄ちゃんは助けに来てくれるよ。
「おうともよ! 道がなけりゃ作ればいい、そう全てを壊すんだ!」
次の瞬間、芦屋くんが腕をクロスさせながら窓を突き破って来た。
『な、ニもの……?』
「貴様らに名乗る名前は無い!」
ビシィと足元の口裂け女を指し言い放つと、私を女子トイレに押し込むと自分も中に入って扉を閉める。
山風さんを女子トイレに入れ、俺はすぐに扉に札を貼る。
「これでしばらくは入ってこれまい」
「……その、ありがとう」
「気にすんな。俺の方こそ悪かった」
ここまで来れば華さんが手伝ってくれると思ってたんだが、まさか華さんが出てこないとは。
「華さーん、なんできて来れなかったん?」
最奥の扉を連打しながらトイレの花子さんこと、華さんに呼びかける。
後ろで山風さんが何か言いたげな雰囲気を醸し出してるも無視。あの札で止められるのは数分。その間に華さんに応援要請しないといけないからな。
『なによ、長いこと放っておいて今さら。私の気が変わるとでも?』
「いや、そもそも華さんの気とか知らんし。てか手伝ってほしいんだけど」
『チャットマッテテー』
「ちょっとじゃないんだな。いやマジで早くしてくんない?」
「ねえ芦屋くん。あなた誰と話しているの」
「誰って、そんなの華さんしか……ってまた悪戯してるのか。時間ないんだから無駄なことしてくれるなよ」
華さんって偶に特定の相手にしか見えない悪戯するんだよな。
俺は辺りを見渡すと、二つある水道の片方に近づく。すると、蛇口の上の空間が歪みおかっぱヘアーの少女が空中に浮いていた。
「華さんみっけ」
『見つかっちゃったか。それで? 私と結婚してくれる気になった?』
「話が唐突過ぎてついていけない」
『私と結婚して下さい』
「言い直せって言ってんじゃねえよ!」
『酷い。この間婚約指輪くれたのに……』
「覚えてねえよ」
つか婚約指輪買った事すらねえよ。なに言ってんですかね、この幽霊は。
『私よりそこの女を取ったのね!』
「マジで何ほざいてんだよ」
『なら私とその女、どっちがいいの!?』
「その選択肢ならまだ山風さんを選ぶわ!」
死んでる人間と生きてる人間なら、誰だって生きてる人間選ぶでしょうに。そこ山風さん。なんで照れてる。
『そんなことどうでもいいから! とりあえずヤらない?』
「既成事実を作ろうとするな」
『君の
「じゃかましい!」
ほら華さんがボケ倒すから山風さんが呆けてるじゃねえか。さっき照れてたけど。
「そもそも華さん、見た目から結婚できんでしょうに」
『ならこれならどうかしら?』
華さんの周りの空間が歪んだと思ったら、女子高校生風の華さんが浮いていた。
俺が言いたいのは
「さ、世間話はこの辺にして」
『そうね。まずはあいつらをどうにかしないとね』
「気のせいかしら。増えてない?」
扉の外を見ると、口裂け女が三人に増えていた 。どうりでさっきから扉を引っ掻く音が途切れないと思ったら。できれば各個撃破したかったけど、仕方がない。
『というか、二匹はあんたが連れてきたわよね?』
「あ、バレた?」
「どういうことよ」
「さっき窓を割って来ただろ? そん時屋上で二人相手取っててな、そいつらが下りて来たんだろ」
『屋上から窓割って下りてくるとか、人間ってすげえ。いや、こいつがおかしいだけね』
華さんが何やら失礼なことを言ってるが無視無視。問題はここをどうやってでるか、だ。さすがにトイレの窓から飛び降りるわけにはいかないし……あ、そうだ。ちょっと脳内会議でもしよう。
【コレガ】押し扉の向こうに敵がいます。どうすればいい?【ワカラナイ】
1:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
どうすればいいと思う?
2:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
扉と敵の密着度は?
3:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
完全密着
4:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
相手の性別kwsk
5:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
相手三人。全員女。両手に鎌持ち
6:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
おい扉、そこ代われ
7:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
>>6お前死ぬ気か
8:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
扉を思い切り開けて壁とサンドイッチ
9:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
追撃に扉越しに蹴り
10:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
>>8
>>9採用
11:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
冗談で言ったら採用されたンゴwwwwwwwwwwwwwwwww
12:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
皆、丸太は持ったか! イクゾー!
13:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
最近は角材もいいらしいな
14:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
ところでおやつはいくらまで?
15:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
遠足じゃねえんだぞ! 倍の六百円に決まってんだろ!!
16:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
おやつと言えば、皆はキノコたけのこどっち派?
17:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
キノコだろJK
18:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
>>17は?たけのこだろ、お前頭大丈夫か?
19:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
>>17
>>18お前ら何言ってんだよ、パイの実こそ至高だろ。
20:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
>>19介錯してやるハイクを読め!
21:以下、名無しにかわってゴリラ食べたいがお送りします
こいよ>>20、銃なんか捨ててかかってこい!
「ヤベェ、収集つかなくなった……」
『何してんのよ』
「なんでもない。合図したら華さんは扉でサンドイッチよろしく」
『はいはい』
女子高校生風華さんは白く光る棒を二つ作ると、片方を山風さんに渡して扉にふよふよと近づく。俺と目を合わせ頷くと、札を剥がして勢いよく扉を開ける。その勢いは、まるで大切なものの仇をとるかのようだった。そして扉に密着していた口裂け女たちを壁でサンドする。
俺がトイレ出るタイミングで隙間ができてたから、予定通り蹴りの追撃を加える。
『それで、どこに行くの?』
「室内はマズイから屋上で」
「どうして室内はダメなの?」
「あいつらの鎌、無尽蔵に増えんだよ。なら逃げ場の少ない中より逃げ場のある外に行くだろ? んで、あいつらの動きも制限したいから屋上がいいわけよ」
『なるほどね。分かったわ』
華さんは後ろから飛んできた鎌を棒で叩き落としながら頷く。そして再び屋上へと駆け上がっていく。扉を開けたらなんと頼もしいことに、二宮金次郎像先輩が背の薪をヌンチャク状に繋げて立っていた。
「二宮金次郎像先輩、どうしてここに!?」
『華さんがここまでの道を作ってくれてね。おかげでこうして助っ人に来れたよ』
『さっきの戦いっぷりを見て助っ人が必要だと思ったのよ』
華さんが山風さんをチラリと見る。
まあ確かに一般人の山風さんに急に戦えってのも限界があるしな。
「なんにせよ助かります。さ、時間もないですしここで終わりにしましょう」
ちょうど扉から出てきた口裂け女達を見て剣を構える。華さんと山風さんも棒を、二宮金次郎像先輩はヌンチャクをそれぞれ構える。
最初に動いたのは俺。右端にいる口裂け女に剣で薙ぐように斬りかかる。しかし最初同様アッサリと躱され、口裂け女は右に大きく移動する。だがそれは計算通り。むしろそうなるようにワザと大きいモーションで剣を振るったのだから。
他の二人をチラリと見ると、既に華さん、山風さん、二宮金次郎像先輩が接敵していた。
「さて、俺から逃げられると思うなよ?」
『そこ! キリッとか言ってないで真面目に戦いなさい!』
「……へーい」
別にキリッとかは言ってないんだが、華さんに怒られてしまった。解せぬ。
さて、気を取り直して口裂け女と向かいあう。ぶっちゃけあの増える鎌をどうにかしい……んだけど、妙案が浮かんでこない。ま、なるようになるしかない!
飛んで来た鎌を剣で弾いて距離を詰め、左手に持つ短剣で斬りかかるもやっぱり鎌で止められる。そして何度か鎌で斬ったり短剣で斬ったりを繰り返している内に、解決策が浮かんだ。
《華さん、ちょっち相談》
《手短に》
行動を防戦に切り替えて華さんに念話で語りかける。
この念話はある程度の距離なら口に出さずに相手と会話ができたりするという優れもの。
まぁ念話するには相手と親しくないとダメとか、ある程度霊感とかないといけないとか、思考回路がないとできないから誰とでも出来るわけじゃなかったりする。七不思議連中だと火の玉だけが念話が出来ない。
《とまぁ、そんな感じで行きたいんだけど》
《いいと思うけど、貴方最初嫌がっていたじゃない》
《時と場合による! 二宮金次郎像先輩は何か質問ありますか?》
念話で華さんにザッと説明すると呆れられた。二宮金次郎像先輩にも念話が繋がっていたから、話は分かるはず。
《その作戦だと僕が参戦できないけど、それは理解してる?》
《もちろんです。むしろどれだけ時間まで逃げるかなので、逆に二宮金次郎像先輩はいない方がいいです》
《なるほど。それもそうだね》
若干失礼な言い方になってしまったも、二宮金次郎像先輩は足が遅い自覚があるらしく、頷いてくれた。これが大人の余裕ってやつか……
《それじゃあ始めるわよ》
華さんの念話を最後に一旦切る。それと同時に華さんは黒い靄で山風さんの視界を塞ぐ。俺は受け止めていた鎌を大きく弾き、そこに華さんの持っていた白い棒が飛んで来て対峙していた口裂け女の体勢を崩すと同時に俺の視界も黒い靄で覆われる。
『お待たせ』
数秒後、靄がなくなった視界には目を抑えている三人の口裂け女がいた。
『ほら、早く逃げるわよ』
そんな光景を見ていたら華さんに急かされた。俺は山風さんの手を引き校舎内へと続く扉へ走る。そしてどこにいるか分からないコンに念話を繋げる為、校舎内全域に念話を飛ばす。
《コン、アレやるから準備よろしく!》
《うむ。ではいつもの場所にて用意しておくのじゃ。ほれ風雲。そちも手伝うのじゃ》
《はーい》
あ、風雲も近くにいるんだ。まあそれなら準備もそんなに時間はかからんでしょ。
「じゃ、鬼ごっこといきましょうか」
「ねえ、その前に準備って何?」
「後で分かるって」
山風さんの質問を流し、後ろから飛んできた鎌を横に向けて弾き、壁に刺す。鎌を蹴りさらに壁に押し込み簡単に抜けないようにする。
『アンタ、それ後で二宮に怒られるわよ』
「直せばモーマンタイ!」
華さんに注意されるも、状況か状況なだけに見逃してほしい。
それから山風さんの手を引き走り回る事数分、風雲から念話が飛んでくる。
《お兄ちゃん、準備できたよ!》
《サンキュ!》
「それじゃ華さん、例の場所で落ち合おう!」
『囮は任された!』
その場に留まった華さんを置いて俺らは部室に向かって走る。
「ちょっと! 華さん置いていっていいの!?」
「あの人は人じゃないから死ぬことはない。それが分かってるから本人も囮を了承したんだし」
まあ「死ぬ」ことはなくても「消える」ことはあるんだけど、その原因は物理じゃないからどっちみち心配はしてない。
その証拠に窓の外に部室前の廊下の窓まで白い通路が出来ている。華さんのサポートだ。ありがたい。
「へい二人ともお待たせ!」
『やっほー! さっきぶりだね。お姉ちゃん、ちゃんと戦えた?』
「その、あまり戦力にならなかったわ。しかもあなたに貰った六尺棒も壊してしまったし……」
『ふーん。まーまー気を落とさないで、ね?』
何やら風雲と山風さんが話しているも、今はそれどころじゃない。
「コン、説明よろしく」
『先に伝えた通り、あとはぬしの言霊だけじゃ』
「了解」
コンからの短い説明に頷いて返す。そしてポケットから一枚の札を取り出し、部室の壁にできた札の門に向かって投げる。札が当たった途端に木造だった壁が歪みはじめ、数秒後には壁の原型を留めていなかった。
「な……によこれ」
「なにって、異界への門以外に何があるよ」
「異界のへ門ってなによ」
「そのままの意味なんだが。あ、間違ってもその歪んでる空間触るなよ? どこに飛ばされるか分からんから」
「分からないって、どこに飛ばされるのよ」
「いや俺も入ったことないから知らんて……って話してる場合じゃないか」
山風さんと話してると部室の扉が勢いよく吹き飛ばされる。いったい誰が直すと思ってるんだか……
「まあいいや。取り敢えず一人目だ!」
俺が握ってた剣の柄頭を二度叩くと刀身部が分裂し、蛇腹剣本来の機能を取り戻す。そして最後に入ってきた口裂け女に向けて剣を振るい、捕らえる。
「行けぇぇぇ!」
『がガががガガ?』
蛇腹剣で捕まえた口裂け女を一人、門目掛けて放り投げる。放り投げられた口裂け女は歪んだ空間に触れた途端、吸い込まれていった。残った口裂け女達が呆気に取られてる間に、華さんが片方の口裂け女を白い棒で突き飛ばし、そのまま再び蛇腹剣で捕らえ、門に放り込む。てか華さんいつの間に来たし。
『ア、アはハははハ!!』
「逃がさないわよ!」
二人目の口裂け女を相手取ってる間に残った口裂け女が破られた扉から逃げようと走り出した。それは回り込んでいた山風さんに止められる。口裂け女は一瞬驚きで動きを止めるも、鎌で山風さんを吹き飛ばし走り出すも、スグに体は止まってしまう。もちろん俺が捕まえたのが原因だ。
「言っただろ。俺から逃げられると思うなって」
『にンげんフゼイが……』
『案外人間も馬鹿にできないものよ? 少なくともこいつは、ね』
華さんはそう言うと口裂け女の足を払い門に突き飛ばす。俺もそれに合わせて蛇腹剣を振る。前二人と同様に門の中へと消えていく口裂け女。
「これで一通り解決か?」
『そうだったらよかったんじゃがのう。連れの女、血が止まっておらんぞ?』
「はぁ!?」
コンの言葉に山風さんを見ると、確かに肩の傷口から血が流れ続けていた。
いったいいつ傷を負った? そんなの決まっている。さっき口裂け女に鎌で吹き飛ばされた時だ。クソッ! ここまで来て死人を出したなんて笑えねえぞ。しかも俺の目の前でだなんて。
「コン、今日あのヒト来てるよな?」
『彼奴なら毎日のように来ておるぞ?』
「サンキュ。悪いんだけど、
『はいはい。それじゃまた後でね』
部室にコンと風雲の二人を残し、俺は山風さんを抱えたまま廊下の窓から飛び降りる。すぐさま足元に白い足場が出来上がりそこに着地。そして空中に足を踏み出し、先導するように伸びていく白い道を駆け下りる。
「先生! 急ぎで診てもらいたいんだけど!」
『あぁいらっしゃい。静かになったから、来るとしたらそろそろかなと思ってたよ』
目的の場所である保健室を蹴破るように開けながら、中にいる黒衣を着た先生に声をかける。先生はすでに準備ができているようで大鎌を肩に担いでいる。俺はベッドに気を失っている山風さんを寝かせると急いでその場を離れ、鎌を振り上げる先生を見る。先生はそのまま躊躇うことなく山風さん目掛けて鎌を振り下ろす。
『さ、これでバッチリだよ』
「毎度のことながらありがとうございます」
『そんあお礼を言われる程の事でもないよ。ボクができるのは精々この程度。他の皆と違ってボクにはこれしか取り柄がないからね』
先生はそれだけ言うと備え付けの椅子に座る。俺は傷口が塞がり、規則的な呼吸をしてる山風さんが寝てるベッドのそばに置いてある椅子に腰かける。
『あんまり乙女の寝顔をみるものじゃないわよ?』
「って言ってもやることないし」
『それならボクと一戦やるかい? 華さんも一緒に』
『遠慮しておくわ』
「俺も今日は」
先生がトランプを出したので俺と華さんは揃ってお誘いを辞退する。
せっかくのお誘いなんだし、と最初の数回は遊んだものの、先生は強い。豪運なんてレベルじゃない程の運の持ち主故に、イカサマなしで手も足も出ないんだよね。一回トランプ以外なら、と七不思議の五人と俺、貴志で人狼をやったんだがなぜか先生の一人勝ち。人狼でしかも村人だったのに一人勝ちってなんだよって思うかもだけど、なぜかそれが起きた。
「う、うぅ……」
『彼女、気がついたみたいだよ』
保健室で待つこと数分、先生の言葉で俺と華さんは山風さんのベッドに近寄る。
「目覚めた?」
「うん……ここは?」
『ここは保健室だよ』
「そうなんで……」
山風さんは頭を軽く振ってから先生を見上げると、まるでこれから死ぬかのような表情を浮かべて固まった。
どうしたのかと俺たちは顔を見合わせる。さっきまでの俺たちの行動から分かる通り、今いる保健室には危険となるモノはない。しかし現に山風さんは命の危機に瀕したかのように固まってる。
『あ、もしかしてアンタの格好に驚いたんじゃない?』
『ボクの?』
「先生なんか変な恰好してるかな?」
華さんに言われ先生は鏡の前に立つ。いやいや、そんなことしても先生姿映らないでしょうに。
俺は内心ツッコミを入れつつ、改めて先生の姿を見る。全身を覆うような黒いローブ。肩に担いだままの大鎌。頭に斜めがけにされた髑髏を模した仮面。これは完全に死神のそれだ。
うん、これは事情知らなかったら恐怖でしかないわ。
「あー山風さん、見た目怖いけど、このヒト七不思議唯一の良心だから安心して大丈夫だ」
『ちょっと、それじゃあ私が良心じゃないみたいに聞こえるんですけどー?』
「ごめん先生と風雲、二宮金次郎像先輩が七不思議の良心だった」
『あとで屋上』
「断る」
華さんは自分が良心に入ってないことに怒ってるみたいだけど、今のやり取りと最初のやり取りのどこで良心を感じろと?
『そんなわけでボクは基本から応用まで治療に特化してるんだ』
「もしかして七不思議の一つ「保健室の死神」ですか!」
『その呼び方はあまり好きじゃないんだけど、まあここの生徒たちからはそう呼ばれているね』
華さんと茶番してる間に山風さんと先生が仲良くなってるんだけど。やっぱり良心は置いといてもフレンドリーな七不思議の一角なんだよなぁ。
「まぁ何はともあれこれにて問☆題☆解☆決」
「じゃあ説明してもらえるわよね?」
解散の準備を始めようとしたら山風さんに肩を掴まれた。
説明ねぇ、さすがに全部話すには時間がないんだよなぁ。今午前三時過ぎてるし。この後のこと考えたらとてもじゃないけど時間がない。何より俺が説明する気が全くない。ならば俺が取る行動は一つ。
「時間が時間だから、知りたかったこと一つだけ答えるよ。あとは放課後にでも」
そう、誤魔化す。
山風さんは少し考えたあと了承の頷きを返してくれる。まぁ夜遅くの疲れた今の頭と、寝て起きてスッキリした頭、どっちが良いか考えたら間違いなく後者でしょ。
「それで? 何を教えてくれるのかしら?」
「七不思議最後の一つ」
「本当!?」
俺がそう返すと、山風さんは身を乗り出してくる。
あの、近いです。話すんでもう少し離れて下さい。おい華さん。なぜ笑い転げてる。
「最後の七不思議は「門」だ」
「門ってあの異界への門だったかしら? あれの事?」
「はいはい詳しいことは今日の放課後ね。危険はないと思うけど、念の為風雲から護送用の式神を貰ってくるから、校門で待ってろ」
まだ何か言いたげな山風さんを保健室に置いて俺は部室で片付けをしているであろう風雲とコンの元へ向かう。それから風雲に訳を話し、式神の札を二枚貰い組み合わせる。効果としては送り届けた後に手元に戻ってくるようになるだけ。これで証拠は隠滅できる。
俺はそれを持って校門へと歩を進める。
「お、いたいた。ちゃんと来れたんだな」
「もしかしなくても馬鹿にしてるわよね?」
「失礼な。それよりほれ。これが式神な。一応言っておくが、寄り道とかしたらすぐ分かるからな?」
「それ、どういう意味よ」
「そのままの意味だ。式神にGPS機能みたいなのがついてんだよ。ほらもう行った行った」
山風さんに式神を渡し立ち去るのを待つ。何回かこっちを見た山風さんだが、俺が見ていることに苛立ったのか、観念したのか真っすぐと家への道を歩き出す。
『良いのかい?』
「何がですか」
式神が手元に戻って来るまで待ってると、二宮金次郎像先輩に声をかけられる。
『いや、君がいいならそのままでいいんだ』
「? どういうことですか?」
『何でもないよ、それじゃあね。あとしっかり校舎の修復はしておいてね』
「はーい」
そのまま校舎の修復をしているメンツの元へ行き、朝日が昇る前には何とか終わらせることができた。俺は皆にお礼を言ったあと、部室棟に備え付けてあるシャワー室で汗と汚れを流し、予め用意しておいた新しい制服に袖を通し、HR前のチャイムが鳴るまで部室で寝ることにした。
『のう千景よ』
「なんだよコン」
壮絶な眠気と戦い抜いた放課後、部室で布団を敷いて寝ようとしていた時唐突にコンが出てきた。
こっちから用事があるときは出で来るの渋るくせに、こういうときはアッサリ出てくんのな。
『ちと賭けをしてみないか?』
「内容は?」
『今日ここに来客があるかどうか、じゃ』
「んあ……いいぞ。来ない方にこの先一か月の油揚げな」
『じゃあウチはあ昨夜の油揚げを所望す』
お互いの賭け品が出揃ったところで俺は布団に潜り込む。
どうせ今日は誰も来ないんだ。山風さんだって教室では昨日の昼間と同じ態度だったし、ちゃんと働いたようでなにより。
そんなことより、ほら。睡魔への防壁の最後の一枚が今壊されようとしてる~。
「千景いるかしら!!」
今日の睡魔はどうやら騒がしいようで。ていうか現実にも何か影響及ぼしてね? 地響きって程じゃないけど揺れを感じるんだけど。
「起きなさいよ。なに布団まで敷いて寝ようとしているの? 昨夜の約束果たして貰うわよ」
「昨夜って、結婚は無理だって話だろ。華さんしつこい……?」
布団を剥ぎ取られ、台詞的に華さんぽかったテキトーなことを言いながら目を開けると、そこには山風さんが腰に手を当て立っていた。
「……毎朝味噌汁を作ってください?」
「は?」
「あーいや、何でもない。それよりなんで山風さんがここに? 何かの依頼ですか? それなら今眠いので明日出直して貰ってもいいですか?」
『千景よ。そろそろ認めたらどうじゃ?』
いやいやコンさん。いったい何を認めろと? 山風さんは昨夜七不思議の一つ「揃わない七不思議」こと目撃した一般人の記憶消去で記憶なくしたんじゃないの?
『まさか気付いてなかったの』
「おや華さんまで」
「華さんとコンさん昨夜ぶりですね」
およ? なんで山風さんは二人を認識できるんだ?
『まさかコン説明してないの?』
『てっきり他のが説明してるのとばかり』
「二人は何の話してるんだよ」
華さんとコンがよく分からない会話をしている。こうなったら風雲あたりに念話で聞いてやろうか。むしろそうした方が早いのでは? てなわけで早速。
《風雲風雲。こんな早くから悪いんだけど、ちょっといいかな?》
《どうしたの?》
《どうやら山風さんに門の記憶消去が聞いてないみたいなんだ。それにコンと華さんの二人は心当たりあるみたいなんだけど、風雲はなんか知らない?》
《あー、お兄ちゃんは知らないんだっけ? 普段お兄ちゃんが見てる幽霊たちと僕達のチャンネル? ってやつは違うんだよ。だからお兄ちゃんがチャンネルを合わせてないのに僕達が見えた山風さんは、僕達を見る力があったってことだよ》
《つまり?》
《昨夜のこと全部覚えてるよ。門さんの記憶消去は僕達を見ることのできる人には効かないから》
なんてこった……てっきり門の効果で記憶が消えると思ってたから説明をこの時間にするって言って逃げたのに。これじゃあ説明するしかねえじゃねえか。あれ? でも貴志は記憶が消えてないよな? あいつもそういうのがあるって聞いたことないんだが。
《先日千景が連れてきた時にチャンネルを合わせたじゃろう。元より力があったからの、合わさって見えるようになったんじゃろうて》
《ぶっちゃけ、昨夜も最後の方は念話に参加してたわよ? もっとも聞く事しかできなかったみたいだけど》
《まじかー》
「あら千景君? どこに行こうとしてるのかしら?」
「ちょっとそこまできゅうりを求めに」
「きゅうりを求めるために旅に出る? 自分で育てなさいよ」
言い訳としては厳しいと思ったが、思ったよりもバッサリと切り捨てられた。てか昨夜の保健室での華さんが笑い転げてたのってこれが原因か?
《ええそうよ》
《華さんあとで幻想壁破砕の刑ね》
《なにそれ》
《幻想壁破砕、当たった相手は消滅する》
まあ皆の様子からして二宮金次郎像先輩もわかってたみたいだし、もしかしたら俺以外の全員が気付いてた可能性が……
「さて、じゃあ何から説明してもらおうかしらね。千景君」
「さっきから気になってたが、なんで名前で呼んでるの?」
「ダメだったかしら?」
「別に悪くないけど、どういった心境の変化よ」
「なんだっていいでしょ! それよりそうね。最初はあなたと七不思議の皆との出会いかしら」
山風さんのキラキラと輝いてる視線に根負けするしかなく、俺は眠い目を擦りながらコーヒーを淹れ話し始める。
ほらな? こうやって日常は簡単に壊れるんだ。ま、これもまた日常になった時、今度はどんな非日常的なことが起きるのか、それが楽しみでもあるんだがな。
【七不思議まとめ】
「夜中に動く二宮金次郎像」
通称:二宮金次郎像先輩。
主に校舎外の見回り、外敵処理を担当している。背中の薪を連結させ、ヌンチャクにして戦うことが出来る。像なのに動きは俊敏。
「廊下を漂う火の玉」
通称:炎達
千景が夜の校舎を徘徊するのに明かり役として連れ添う、文字通り千景に一番近い存在。昼も偶に出てくるらしいが、周りが明るい為視認できない。
「動かないコックリさん」
通称:コン
着物に狐耳狐尻尾とコックリさんらしい見た目。話し方もどこか老人調。好物は油揚げ。
正しい呼び出し方は五十音と「はい」と「いいえ」の書かれた紙と十円玉を用意し「コックリさんコックリさん」とよく聞くあの文句を言えばいい。千景は力技で油揚げと「はい」と「いいえ」の紙だけで呼び出した。
「入る度に内装の変わる教室」
通称:風雲
この部屋の主であり、管理人でもある。昼は郷土資料室だが、夜に一定のリズムでノックすると武器庫に変わる。風雲は武器庫に置かれているモノを全て扱える。
千景が初対面の時「風雲って言うんだ、ふ〜ん」と冗談を言ったところマジ切れしたらしい。
「女子トイレの花子さん」
呼び名:華さん
三階北側女子トイレ最奥の個室に住み着いている。遊ぼうと誘うと遊ぶ時もあれば
基本的に妖力的なモノの形を変えて武器にし、戦う。形状、質量などは定まっておらず、華の好きなように使える。
「保健室の死神」
呼び名:先生
黒衣に大鎌、髑髏の仮面と死神にしか見えないが、傷付いた者を鎌で斬ることで傷を癒すヒーラー役。
なお、無傷の者を鎌で斬ると、相手の命を刈る。
「揃わない七不思議」
呼び名:門
恥ずかしがり屋で普段は校門と一体化している。強い力を感じると姿を現わす。
一定の条件を満たしていない者が通ると、校内で目撃した怪異の記憶がなくなる。その為、七不思議達が千景の気を引くためには校外にいる者に見られなければならないとか。