失踪なぞしません、多分
「…絵描き屋なの?店の名前は?」
「あ、それは…まだ決まってないんですよ、もしかしたらこのままでもいいかなって…。」
そういって苦笑を漏らす。
「それで、博麗の巫女さんが珍しいですね?どんなご用件で?」
その言葉に、霊夢は一瞬息が詰まったが、
「ああ、それはだな、これだ。」
そういって魔理沙は一冊の本を取り出した。あの絵本である。
「あ、あら、それは…?」
明香もその絵本に反応を示した。
「そうだ、お前の絵本だろ?ちょっと気になってな、私が半ば強引に連れてきた。」
その言葉に明香は納得が行った様子である。
「…ちょっと魔理沙、いつの間にその本盗ってきたのよ。」
「盗んじゃいないぜ?本当に借りてきただぜ?金も払った。」
「どうだか。」
…二人の間ではこのような会話がなされていたとも知らずに。
「…それで、その本の何が気になったんですか?えっと……魔法使いさん?」
そういって魔理沙の方をじっと見てくる。
「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前は霧雨 魔理沙。で、この博麗の巫女が博麗 霊夢だ。」
その言葉に、霊夢は「よろしく」といって頭を下げた。
「あ、はい、よろしくお願いします」
それにつられて明香も慌てて頭を下げた。
そして魔理沙は着々と話を進めていく。
「で、この絵本で気になったことってのは…この絵だよ。」
「絵…?」
「この絵、滲みが多いけど、どんな材料で書いてるのか、ちょいと気になってね。」
そして魔理沙は明香の方をまじまじとみる。
「…魔力…関係ではなさそうだな…。」
その言葉に、明香はクスクスと笑い、
「嫌ですね、私みたいな人が魔力を持ってるわけありませんよ。」
そう言って明香は机から赤色の液体が入った容器をとった。
「…魔理沙さんが言ってたのはこれですね…何だと思います?」
その絵の具は有色透明…ではなく、少し濁りがあった。
と、ここで霊夢が呟く。
「…血?」
「へっ!?」
「お前、それは無いだろ、じゃあ他の色はどうやってるんだよ。」
霊夢のつぶやきに明香は驚いたが、魔理沙は冷静に突っ込んだ。
「…そうよねえ…。もしかして…花?」
次の霊夢のつぶやきには、明香はパッと表情を明るくした。
「ええ、花ですよ、よくわかりましたね!」
そう言って霊夢にずいっと近づく。
「…でも、そういう花、どこからとってきたのよ?」
そうすると、明香は急に目をそらし、
「…お花屋のお姉さんから、買ってます…もちろんこうやってることは秘密です…」
…その言葉に、霊夢は呆れ、魔理沙は苦笑を漏らした。
「…まあ…それで…もう一つ聞きたいんだが…。入り口にある絵ってのは…多分、その花の絵の具を使ってないよな?」
「ええ、あれは別ですよ、ただ、あの絵の具はあまり使えないので…実際に買ってる奴…
その言葉に、魔理沙は少なからず驚いたようで、
「岩絵具…あれって、確か高価だったよな?」
「ええ…色彩豊かですから…あと、私は普段は
「…ふむ…たしかここって、人里の端…だったよな?」
魔理沙の言うとおり、ここは人里の端。もっと言えば、人里の外に最も近い場所の一つである。
と、魔理沙が急ににやりと笑って、
「…そうだなー…少し考えておくぜ。」
「え、な、何がですか?」
「ああ、そういえば、ここって絵関係だったら依頼とか受けてくれるのか?」
露骨に話題をそらされたが、明香は魔理沙の質問に少し考えると、
「ええ…蕎麦屋のおじさんに暖簾の文字を描いてくれとも言われましたけど…あらかたのことはするつもりです。」
「そうか…なら、一つ依頼を受けてくれないか?」
すると、明香は表情を明るくして、魔理沙に詰め寄る。
「はい、なんでしょう?」
「…夜空…夜空を描いてくれ。」
その言葉に、明香は首をかしげた。
「…夜空…。」
「ああ、綺麗な黒い空に、満点の星空がある…そんな絵だ。」
-すると、明香はふっと微笑んだ。今まで話していた明香ではない、全てを受け入れるような、優しい笑みだった。
「…わかりました。その依頼、引き受けましょう。」
「…お…おう、いつごろ完成する?取りに来るぜ。」
すると、明香は自分の机に座って、こういった。
「安心して下さい、大体半の刻で終わりますから。」
「お、おう…?そ、そうか。」
魔理沙は、半の刻-一時間でできるのは速いと感心したと同時に、半の刻でどのくらいの絵ができるのかという不安もあった。
「…ねえ、もう私帰っていい?」
「ん?ああ、いいぜ、すっかり忘れられてたな。」
「いいわよ別に、あと、しっかりその絵本、返しなさいよ。」
そういって霊夢は帰っていった。
「…じゃあ、半の刻した後、また来るぜ。」
そう言って店を出て行く魔理沙の背中に、言葉はかけられなかった。
「…あのときの明香の表情……。」
あの微笑んだ明香の表情。そして、作業に入った時の明香の表情。
-あの時私は、どんな表情をしていたのだろうか?
「…おっと、そんなことより…。」
そう言って、魔理沙は箒にまたがり、ある場所へと飛んでいった。
-半刻後。
「魔理沙さん、できましたよ。」
魔理沙が店に入ると同時に、明香はいつも通りの表情で完成した絵を見せた。
「…これは…。」
漆黒ではない、僅かに青色がかった、雲一つない綺麗な夜空。そこに広がるのは、様々な明るさ、色彩で彩られた星々、そして何より、真ん中を貫き、個々の星々が集団となり自分の存在を示している-
まさに、魔理沙が頭の中で描いた光景だった。
「…これで、いいでしょうか?」
呆然としていた魔理沙に、明香は声をかける。
「え、あ、ああ、凄いぜ!あ、代金だな。」
そう言って、魔理沙は明香に指定された代金を払う。と、
「…そうだ、これ、拾ったんだぜ」
そして、魔理沙は一本の鉛筆を取り出した。
「…?これは?」
「そこの黒いので、線が書けるみたいなんだ。それだったら、絵にも応用できるだろ?」
その言葉の意味を理解したのか、明香は驚いて顔を上げ、
「え…いいんですか?あ、ありがとうございます。」
慌てて一礼をした。
と、魔理沙がここで、一つの提案をする。
「…それで、どうする?このままじゃ客はこない、かといって店の名前もいいのは思いつかない……だから…。」
-こうして、入り口にある花の絵の横に、こう書き加えられたのだ。
-『あなたを描きます』
と、言うわけで、最初の依頼者は魔理沙さんでした。
やっぱり魔理沙といえば夜空、星々、天の川。
明香はこんな調子です。そして今回、私が書く魔理沙は優しくなります、多分。
…サブタイトルがこの調子で進むか不安ですが、頑張って行きたいと思います。
この調子で(文字数とかネタとか)進むか不安ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。
次回、第1-3画、『そうだ、画材を集めよう』
-次はあなたを描きましょう。