いや、ついに宿題が本格化してきたり…いえ、さぼってました、ごめんなさい。
「…『あなたを描く』ねえ…。」
そう呟いて明香は作業台の椅子の背もたれに身を任せた。
「…結局、どういうことなのかしら…。」
…そもそも、と明香は考えなおした。
「…さて、たまにはでかけますか…。」
そう言って、明香は重い腰を上げて、軽く支度を初めた。
扉を開けると、眩しい光が目に入ってくる。明香は思わず目を細める。
まだ午前中とはいえ、見事な快晴。春の終わりごろ、明香にとってはこの日差しは久しぶりなものだった。
そして、ゆっくり目を開け、
「さて…どこに行こうかしら…?」
明香はとりあえず、鈴奈庵の方面へと向かうことにした。
「あら、明香ちゃん、おはようねえ」
そういって道を歩いていた明香に店内から声をかけたのは、お世話になっている
「あ、おはようございます。」
「あら、大丈夫?元気が無いかしら?暗いわよ?」
その言葉に明香は少なからず驚いた。思った以上に制作に時間をかけすぎているせいか、自らの精神的疲労も気付けていなかったらしい。
「ええ…仕事が少なくても、絵を描くのは時間がかかるものなので…。」
「あらあら…。気をつけてね?」
「ええ。」
すると、お姉さんは手をうち、明香にこう提案するのであった。
「そうだ。明香ちゃん、子供は好き?」
「へっ…?」
いきなりの言葉にきょとんとする明香。
「え、ええ。好きですよ。子供は…。」
「なら、そうね、子供たちに絵を描いてあげたらどう?」
「へ…子供、ですか?」
「貴女、時々あの本屋に絵本を売りにいってるでしょう?でも、絵本すら買えないって子供も多くてね。貴女、自分の本が売れてるところ見たことあるかしら?」
言われてみれば、と明香は思い出す。
「…ありませんね、そもそも古本屋の人の出入りそのものをあまり…。」
「そうでしょうそうでしょう?今は丁度寺子屋の時間よね。行ってみたら?」
「…寺子屋…でも、許可は貰えるでしょうか?」
その言葉を口にすると、とたんに花屋のお姉さんは難しい顔をした。
「それなのよね。何せ、その教師が妖怪だもの。」
「へ、妖怪…?」
妖怪。それはこの人里の外には沢山いることは知っている。しかし、人里の中に妖怪?
「そう。歴史の知識は確かよ。夜の見回りとかしてるところとかも見かけるわ。」
「へえ…。」
と、ここで花屋のお姉さんは声を潜めてこういった。
「でも、やっぱり妖怪ってところで、毛嫌いしてる人も、少なからずいるみたいでね…。」
-人間と妖怪。その2つが共存するのは難しい。やはり、妖怪が人里に住んでいるのが不安な人たちもいるようだ。
「…私も時々見るけど、挨拶したらちゃんと返してくれるし、悪い妖怪には見えないけどね…。」
そう言って、お姉さんは首を傾げ、頬に手を当てた。
-聞いているうちに、明香の中には興味が静かに湧いていた。実際に妖怪を見てみたい。そして、妖怪はどんなことを思っているのか-
「…あの、寺子屋って、どこでしょうか。」
明香は、画材が入った鞄を肩にかけ直しながら、お姉さんにそう聞いた。
そして、明香は教えられた場所-寺子屋の正門前にたどり着いた。
-すると、すぐに異変に気がついた。
「…静かね…休み?」
そう。あまりにも静かなのである。
寺子屋なのだから、少しは子どもたちの元気な声とかが聞こえてきてもいいだろう-と、明香が思ったその時。
「いってぇー!」
いきなり子供の大声が聞こえてきた。
その声に明香は思わず正門を開け、庭から声がしたであろう教室を覗いた。するとそこには-
「全く、寝るんじゃない、今は大切なところなんだぞ!」
そう言って男子生徒を叱り、黒板にさっさと戻る、女性の姿が目に-
-映るはずなのだが、明香の目に映ったのは、睡魔に負けたであろう生徒の数だった。
いや、数ではない。数は大して多くはない。ざっと15人前後と言ったところだろうか。
驚いたのは割合である。何故なら、起きているのは-さっき起こされた生徒を除けば、たったひとりだったのだから。
「え…静かだったのって、このせいなのね…。」
明香が呆然としていると、男子生徒が窓を向き、こちらに気がついた。
「せんせー、ふしんしゃ!」
「はっ?」
まさか自分の事をいっているのか、冗談はよしてくれと思ったのだが、こんな午前中に無断で潜入をして、窓から呆然と見ていた事を思い出すと、明らかに不審者扱いされてるのは自分であると気がついた。
「ん?」
と、女性がその言葉にこちらを見た。すると、
「静かに自習をしているように。」
と生徒に言うと、窓を開け、
「…どちら様だろうか。今は講義中なのだが。」
「え、あ…いや、たまたま通りかかったら、急に叫び声が聞こえたので…えっと…。」
慧音の誰も近づけないような雰囲気にしどろもどろになりながらも、明香は答える。と、ここで寺子屋の鐘がなった。
「おっと…ちょっとまってくれ。」
そして、慧音は子供たちに授業終了の旨を言い、教室を出たと思ったら、こちらに歩いてきたのだ。
「丁度講義も終わったことだし、少し話を聞こうか。たまたま通りかかったのは嘘なのだろう?」
バレていた。悪い印象を与えてしまったと思った明香はさらに口ごもってしまった。
「え、あ、はい…。」
-と、慧音は微笑み
「っと、悪かった。少しピリピリしてしまっていたな。さあ、こっちだ。」
その優しい微笑みに、明香は思わず呆然としてしまっていた。先程までの雰囲気とは一変してしまっている。
「………………。」
明香は黙る。-何かに縛られている…
-授業を聞いてくれない生徒。
-妖怪が夜侵入してこないかの見回り。
-そして、何よりも、人間の妖怪への偏見-
「…あの、大丈夫か?」
「え…ひゃあ!?」
気がつけば、慧音の顔が目の前にあるのにすら気がついて無かった。
「だ、大丈夫です、すみません」
「…?そうか、こっちだ。」
「は、はい。」
そう言って、前を見て歩き出した慧音は、不思議な感覚を覚えた。
明香が先ほどまで浮かべていた-悲しそうな表情に。
「…ほう、花屋の。」
「ええ、まあ…すみません、何も考えずに…。」
明香はとりあえず、慧音の仕事場であろう場所に通され、ここにきた経緯を話していた。
「それで…君は、絵描き…で、いいのか?」
「ええ。あ、すみません、明香といいます。絵栄明香。」
「ああ、すまない、自己紹介がまだだったな、私は上白沢慧音。」
と、外の方が何やら騒がしい。
「……はあ……全く、客人がきてるからって…。」
どうやら子供達が盗み聞きをしようとしているようだ。
慧音は子どもたちを叱ろうと、扉に手をかけたが-
「あ、ちょっと待って下さい。」
「…どうした?」
そう言って明香の方を向き直った慧音は-また、先ほどのような誰も近寄らせない雰囲気をまとっていた。
再びその雰囲気に気圧されそうになったりながらも、明香は画材を持った。
「私が行きますよ」
「…いや、いい。折角の客人なのだから…。」
「いえ、勝手に入ってきたのは私ですから。」
そう言って、慧音を軽く押しのけ、扉に手を掛けようとした時-
-その手を払われた。
「……大丈夫だ、客人は座っているといい。」
顔は伏せてあってわからなかったが、その殺気にも似た気配に、明香は思わず後ずさり、画材を落としてしまった。
そして、ゆっくり慧音は外へ出た。
-縛られている…他にも、何かに-
花屋の…おばちゃん大活躍ですね
今回は明香から行きました。
他にも小鈴ルートとかあるんですけどね…阿求とかも
こういう風に分けるとルートが無数に出来上がって大変ですね(汗)
では、次回…
第2-2画 『解き放たれる緑』
-次はあなたを描きましょう。