「藤原妹紅?」
こうして、明香と阿求が協力することが決まり、慧音もその場に呼ばれ、早速一人目の依頼を聞くこととなった。
「ああ、明香が倒れていた、迷いの竹林に住んでいるんだが…どうやら、
「何でですかね…?」
「…恐らく、自分が人間…ただの人間ではないことを気にしているようだ。」
「ただの人間じゃない…?妖怪でもない…ですか?」
明香の言葉に、慧音はうなずき、
「ああ…蓬莱の薬を飲んだ…蓬莱人。所謂、不老不死の人間だ。」
「不老不死…。」
-つまり、老いることも無ければ死ぬこともない、体の時が止まったような人間。そのような人が実際にいるのだろうか。と、阿求が苦笑しながら、
「まあ、これを言っては失礼ですが…私としては少し羨ましいと思ってしまうんですけどね…。」
人であれば一度はうらやましがるであろう、その能力。阿求がそう思っても、仕方がないだろうと明香は思った。
「人間でも妖怪でもない…そんな人もいたんですね…。」
「こら、私もその一人だろうが。」
明香のつぶやきに、慧音は苦笑しながら軽く小突く。
「え、あ、すみません。」
「それに、お前ももう一人、会ったことがあるぞ?」
「へっ…?」
なんだ、知らないのか、とでも言うように不思議な顔をする慧音。
「骨董屋の店主、森近霖之助だよ。あいつも半人半妖だ。」
「……えっ?」
-数秒後、阿求の屋敷一体に明香の叫び声が響いた。
-そして、慧音に連れられ、明香は再び迷いの竹林へと足を踏み入れた。
「確か、阿求さんの名前は出しちゃ駄目なんですよね。」
「ああ…だが、出さなくとも難しいと思うぞ。お前を焼くということはないと思うが、画材が焼かれる可能性があるからな。」
冗談じゃない。これは最初、雛を追いかけた時に汚れてしまい、使えなくなり、新しく買ったものだ。それを一ページも使わずに焼かれるのは勘弁だ。
「さて…いつもはここあたりで出て来る筈だが…。」
困ったように、慧音は周りを見回す。
「私がいるのを警戒してるんでしょうね…。」
「-だろうな。一度誤ってとはいえ、竹林に足を踏み入れてしまったからなあ…。」
ここで帰ってしまうのも何か癪である。というわけで-
「…昼食でもとるか。」
「え、いいんですか?」
「ああ、普段はもう帰るのだが、流石にここに長居されるのはあいつにとっても厄介だからな。ほら、明香の分もあるぞ。」
そう言って慧音は箱の中の数個のおにぎりの一つを、明香に差し出した。
「あ、ありがとうございます…。」
おにぎりを食べ始めた慧音を横目で見ながら、慧音さんは本当に物知りだなあ、と思いながら、明香も渡されたおにぎりを食べた。
「-おい。ここは散歩に来るようなところではないだろう。」
昼食を終え、慧音と談笑していた時、後ろから苛立ちを隠せていない声が聞こえた。
「おお、妹紅か。そうでもないぞ。竹の隙間から、木漏れ日のように降り注いで、風も心地良いだろう?」
「-晴れならな!見ろよ、曇ってるじゃないか!」
慧音の言葉に今まで抑えていたのが爆発したのか、妹紅は灰色の空を指差しながら慧音に詰め寄った。
「まあまあ、そう怒るんじゃない。」
「全く…おい、そこのお前。」
慧音のなだめに、妹紅は溜息をつきながら、一歩下がった。そして、明香の方を鋭く睨む。
「は、はい…?」
「つい昨日、この竹林に入ったばかりじゃないか。もう一度来るなんて、よっぽど物好きなんだな。それとも…。」
そう言って、視線だけを慧音の方に移す。
「-どこかの稗田家にでも頼まれたのか?」
「…わかってるなら早く言ってくれれば良かったものを。」
「何度でも言っているだろう。私は嫌だと。」
「…何故、そこまで幻想郷縁起に載るのを嫌がるんですか?」
そういった明香に、二人の視線が集中した。
…妹紅は一つ、溜息をつくと、
「…記録って言うのは、いつか、消えるものを忘れないようにするためのものだ。どこかの本は、その物語を忘れないようにするため、歴史書だって、その歴史を忘れないようにするためだ。…私は不死だ。決して消えない。だから、私が記録に残る価値なんて無い。」
妹紅は喋りながら、ゆっくりと背中から炎の翼を生やす。老いず、死ぬことのない、
「…分かっただろ、帰ってくれ。」
そして、妹紅は翼をしまうと、二人に背を向けて、小屋に向けて歩き出す。
「…帰ろうか。」
慧音は溜息をつくと、明香の背中をそっと押して、妹紅とは反対の方角へと歩き出した-
「-そう、やはり駄目でしたか。」
とりあえず一日目の報告を済ませると、阿求は予想通りだと言う風に、明香と慧音の報告を頷きながら聞いていた。
「まあ、私も焦ってはいませんよ。それに、どうしてもダメと言っても、一応慧音さんから聞いた情報を元に描いた絵がありますから。」…でも、と呟いて、阿求は続ける。「折角なら、ご本人の許可を経て書きたいものですけどね。」
「…どうしてそこまで許可に拘るんだ?」
-慧音の問に、阿求は微笑みながら、
「…記録に残すというのは、後世までその人の存在をしらしめるという
「-禁忌-」
阿求の最後の言葉を、明香が呟いた。ええ、と、阿求はその言葉に頷いた。
「貴女なら、わかりますよね?明香さん。」
しかし、阿求の問には、明香は頷かずに、
「-そこは、絶妙なバランスでしょう。著者の夢-欲望が勝つかどうか。世の中には、まともな調べもなく、勝手に偽ったものを書く人も存在します。」
「だからこそ、私は後世に残すものとして、そのような嘘偽りは書きたくないのです。」
「しかし、現代史というものも-」
慧音の言葉に、「現代史も、著者-著者が亡くなるか、歴史が変わるかすれば、過去のものになります。」と阿求が返す。
「…分かりました、それでは、明日も訪ねてみます。」
「あ、まて、明香、それよりも私は、永遠亭の者たちを尋ねた方がいいと思うぞ?」
「永遠亭?」
初めて聞いた言葉というような明香の言い方に、
「明香さん、最近、また異変がありましてね…そして、私も記録したんですよ、ほら、この方々です-」
「…ここが永遠亭ですか…わかりにくいですね。」
明香の言うとおり、迷いの竹林の、おそらく中心にある永遠亭。竹林を歩いてくると、普通の人なら平衡感覚や時間間隔が狂うので、本来、人がたどり着くのは困難であろう。
「ああ…。阿求殿、ついてきてよかったのですか?」そういって明香の反対側-慧音の隣には、阿求がいた。
「大丈夫ですよ、使用人達には許可ももらいましたし、何より、最近起きた異変について、廃れないうちにまた聞いておきたかったので。」
そう話していると、入り口から一人の少女がやってきた。3人の姿を見るなり、明香の方に訝しげな目線を向ける。
「あら、稗田家の-あら、そちらのは…」
セーラー服に、桃色の長髪、そして何より、頭から飛び出ている耳-明香は鈴仙の姿に、驚きを隠せなかった。
「…兎…。」
「ああ、こっちにいるのは絵栄 明香。阿求殿と一緒に幻想郷縁起の、絵を描くことになった。」
「あら、そうなんですか。そして、またあの異変のことを?」
「ええ、よろしくお願いします。」
阿求が頭を下げる。鈴仙は、「では、こちらへ。師匠と姫様の方へご案内致します。」と言って、阿求たちを通した。
「-成る程、それで、月の変異を-」
阿求は早速、ここの永遠亭の主治医の立場である、月の頭脳-八意 永琳から話を聞いていた。
「ええ、まあ…それ以上は姫様に語っていただきましょうか。」
その話を明香は縁側で慧音と座りながら聞いており、永遠亭は病院であり、今回の変異の黒幕だということは理解できた。-最も、明香は異変というものがどういうものか、まだ知らないのであるが。
「分かりました。」
「姫様は隣の部屋におられますので-」
そして、後ろで襖が開き、失礼します、という声が聞こえた。
-すると、今度は明香の背に向けられて、永琳の声が聴こえる。
「-さて、私が聞きたいのは、貴女についてよ。」
「へっ、私ですか?」
「ええ…貴女は実際はこの永遠亭に用は無いわね?」
その言葉に、明香は俯き、頷いた。
「…はい、妹紅さんが、幻想郷縁起に乗りたくないっていて…。」
「ああ、それで、明香は妹紅が断る理由が気になってな。永遠亭に行けば、少しは詳しい理由が分かるんじゃないかとな。」
「成る程…それじゃあ、話しましょうか、そのことについて。でも、それだけじゃね…。」
そして、明香の鞄の方をチラリと見るなり、
「…そうね、私が話すから、それを聞きながら、貴女は絵を描いてもらえるかしら?」
「へ?あ、はい…じゃ、じゃあ…。」
そう言って、明香はテキパキと準備をすすめる。
「…絵描きって言うのは嘘じゃないみたいね…。」
「-師匠。彼女が、先日迷いの竹林で見たという少女です。」
知らずの間に部屋に入ってきていた鈴仙が、永琳に素早く耳打ちした。
「…そう。不思議ね、そのまま真っすぐ進めば
永琳の頷きに鈴仙は一礼すると、部屋を出て行った。それと同時に、明香の絵の準備も完了したようだった。
「-それじゃ、本来は姫様が話すべきでしょうけど、話しましょうか、藤原家と姫様-蓬莱山輝夜の、因縁を。」
-そして、明香は知った。
藤原妹紅と蓬莱山輝夜の因縁、蓬莱人になったきっかけ、そして二人は殺しあっている、さらに-
「-藤原妹紅についてだけど、つい最近、姫様が呟いたのを聞いたのよ。「あいつ、今もまだ死にたがっているのね。」って。」
「-死にたがっている…?」
思わず明香は描いていた絵の筆を止め、そう繰り返した。といっても、殆んど絵は完成したものだったが-
「ええ、私も意味がわからなかった、最初は。でも、私も蓬莱人。少し視点を変えれば、すぐに分かったわ。」
「流石、月の頭脳だな。」
別に大したことはしてないわよ、という永琳の言葉を聞きながら、明香は考えていた。
-死にたがっている。じゃあ、何故、妹紅はあんなにも記録に残ることを拒んだのか-
-もし、阿求の考える方向で行くと、書物というのは、死んだことを忘れないように、ということである。
-もしや-
「そうか…そういうこと…だとしたら……。」
「…参考になったようね。」
「ええ、ありがとう御座いました。」
そう言って、明香は徐ろに立ち上がる。
「鈴仙、彼女を連れて行ってあげなさい。」
そして、永琳は襖の向こう側にいる鈴仙に声をかけた。
「…分かりました。」
そして、襖を開くと、「ついてきて、こっちよ。」といって、明香もそれに頷いて、今回は何も持たず、鈴仙の後をついていった。
「…絵栄明香…不思議な子ね。」
静寂が二人を包んでいると、永琳がぽつりと呟いた。
「やはり永琳も気にかかるか。」
「あら、慧音も?」
「ああ…彼女のあれは、能力なのだろうか…。」
「…貴女の能力で見れないの?」
慧音の能力は、歴史を食べる程度の能力。つまり、相手の歴史を見て、それを消すことができるのだ。
しかし、慧音は首をふると
「不思議なものでな…彼女の歴史、無いわけでは無いろう。ただ、何かに塗りつぶされてるかのように、私に出会う少し前の記憶-そこまでしか見ることが出来ないんだ。」
「-何ですって-?」
気がつけば4000字オーバー…集中すれば出来るんですね、自分でも驚いております(汗)
さて、このままだと次回で妹紅編も終わりそうです。
やっぱり感想が来ると嬉しいものですね。
お気に入り登録もしてくださってる方々には感謝です。
では、次回は少し短くなるかもしれません…。
第3-3画、『過去は灰へと』
-次はあなたを描きましょう。