人里の絵描き屋 ‐あなたを描きます‐   作:破片

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あけましておめでとうございます…と言いたいですが、私は忌中なので言うのをためらっていた三が日あたりでした。もう遅いですし。




第3-2画 風に背く焔

「藤原妹紅?」

 

 こうして、明香と阿求が協力することが決まり、慧音もその場に呼ばれ、早速一人目の依頼を聞くこととなった。

 

「ああ、明香が倒れていた、迷いの竹林に住んでいるんだが…どうやら、幻想郷縁起(この本)に載ることを嫌がっているようでな。」

「何でですかね…?」

「…恐らく、自分が人間…ただの人間ではないことを気にしているようだ。」

「ただの人間じゃない…?妖怪でもない…ですか?」

 

 明香の言葉に、慧音はうなずき、

 

「ああ…蓬莱の薬を飲んだ…蓬莱人。所謂、不老不死の人間だ。」

「不老不死…。」

 

-つまり、老いることも無ければ死ぬこともない、体の時が止まったような人間。そのような人が実際にいるのだろうか。と、阿求が苦笑しながら、

 

「まあ、これを言っては失礼ですが…私としては少し羨ましいと思ってしまうんですけどね…。」

 

 人であれば一度はうらやましがるであろう、その能力。阿求がそう思っても、仕方がないだろうと明香は思った。

 

「人間でも妖怪でもない…そんな人もいたんですね…。」

「こら、私もその一人だろうが。」

 

 明香のつぶやきに、慧音は苦笑しながら軽く小突く。

 

「え、あ、すみません。」

「それに、お前ももう一人、会ったことがあるぞ?」

「へっ…?」

 

 なんだ、知らないのか、とでも言うように不思議な顔をする慧音。

 

「骨董屋の店主、森近霖之助だよ。あいつも半人半妖だ。」

「……えっ?」

 

-数秒後、阿求の屋敷一体に明香の叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-そして、慧音に連れられ、明香は再び迷いの竹林へと足を踏み入れた。

 

「確か、阿求さんの名前は出しちゃ駄目なんですよね。」

「ああ…だが、出さなくとも難しいと思うぞ。お前を焼くということはないと思うが、画材が焼かれる可能性があるからな。」

 

 冗談じゃない。これは最初、雛を追いかけた時に汚れてしまい、使えなくなり、新しく買ったものだ。それを一ページも使わずに焼かれるのは勘弁だ。

 

「さて…いつもはここあたりで出て来る筈だが…。」

 

 困ったように、慧音は周りを見回す。

 

「私がいるのを警戒してるんでしょうね…。」

「-だろうな。一度誤ってとはいえ、竹林に足を踏み入れてしまったからなあ…。」

 

 ここで帰ってしまうのも何か癪である。というわけで-

 

「…昼食でもとるか。」

「え、いいんですか?」

「ああ、普段はもう帰るのだが、流石にここに長居されるのはあいつにとっても厄介だからな。ほら、明香の分もあるぞ。」

 

 そう言って慧音は箱の中の数個のおにぎりの一つを、明香に差し出した。

 

「あ、ありがとうございます…。」

 

 おにぎりを食べ始めた慧音を横目で見ながら、慧音さんは本当に物知りだなあ、と思いながら、明香も渡されたおにぎりを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

「-おい。ここは散歩に来るようなところではないだろう。」

 

 昼食を終え、慧音と談笑していた時、後ろから苛立ちを隠せていない声が聞こえた。

 

「おお、妹紅か。そうでもないぞ。竹の隙間から、木漏れ日のように降り注いで、風も心地良いだろう?」

「-晴れならな!見ろよ、曇ってるじゃないか!」

 

 慧音の言葉に今まで抑えていたのが爆発したのか、妹紅は灰色の空を指差しながら慧音に詰め寄った。

 

「まあまあ、そう怒るんじゃない。」

「全く…おい、そこのお前。」

 

 慧音のなだめに、妹紅は溜息をつきながら、一歩下がった。そして、明香の方を鋭く睨む。

 

「は、はい…?」

「つい昨日、この竹林に入ったばかりじゃないか。もう一度来るなんて、よっぽど物好きなんだな。それとも…。」

 

 そう言って、視線だけを慧音の方に移す。

 

「-どこかの稗田家にでも頼まれたのか?」

「…わかってるなら早く言ってくれれば良かったものを。」

「何度でも言っているだろう。私は嫌だと。」

「…何故、そこまで幻想郷縁起に載るのを嫌がるんですか?」

 

 そういった明香に、二人の視線が集中した。

 …妹紅は一つ、溜息をつくと、

 

「…記録って言うのは、いつか、消えるものを忘れないようにするためのものだ。どこかの本は、その物語を忘れないようにするため、歴史書だって、その歴史を忘れないようにするためだ。…私は不死だ。決して消えない。だから、私が記録に残る価値なんて無い。」

 

 妹紅は喋りながら、ゆっくりと背中から炎の翼を生やす。老いず、死ぬことのない、不死の鳥(フェニックス)。まるでその姿は、自分がそのものだと二人に再認識させているように見えた。

 

「…分かっただろ、帰ってくれ。」

 

 そして、妹紅は翼をしまうと、二人に背を向けて、小屋に向けて歩き出す。

 

「…帰ろうか。」

 

 慧音は溜息をつくと、明香の背中をそっと押して、妹紅とは反対の方角へと歩き出した-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-そう、やはり駄目でしたか。」

 

 とりあえず一日目の報告を済ませると、阿求は予想通りだと言う風に、明香と慧音の報告を頷きながら聞いていた。

 

「まあ、私も焦ってはいませんよ。それに、どうしてもダメと言っても、一応慧音さんから聞いた情報を元に描いた絵がありますから。」…でも、と呟いて、阿求は続ける。「折角なら、ご本人の許可を経て書きたいものですけどね。」

「…どうしてそこまで許可に拘るんだ?」

 

-慧音の問に、阿求は微笑みながら、

 

「…記録に残すというのは、後世までその人の存在をしらしめるという役割(もの)です。普段、他の皆さんは事実の物事や物語などを読んでいますが、それは…言ってしまえば、著者の思いを読んでいるのです。どれだけ客観的に見た本であっても、研究とは、その人の興味で成り立つもの。よって、研究本も、著者の思いが篭っているものが多いでしょう。更に、私が書いているのは現在(いま)-他者の事情を勝手に書いてしまうのは、気が引ける、というより-」

「-禁忌-」

 

 阿求の最後の言葉を、明香が呟いた。ええ、と、阿求はその言葉に頷いた。

 

「貴女なら、わかりますよね?明香さん。」

 

 しかし、阿求の問には、明香は頷かずに、

 

「-そこは、絶妙なバランスでしょう。著者の夢-欲望が勝つかどうか。世の中には、まともな調べもなく、勝手に偽ったものを書く人も存在します。」

「だからこそ、私は後世に残すものとして、そのような嘘偽りは書きたくないのです。」

「しかし、現代史というものも-」

 

 慧音の言葉に、「現代史も、著者-著者が亡くなるか、歴史が変わるかすれば、過去のものになります。」と阿求が返す。

 

 

 

 

「…分かりました、それでは、明日も訪ねてみます。」

「あ、まて、明香、それよりも私は、永遠亭の者たちを尋ねた方がいいと思うぞ?」

「永遠亭?」

 

 初めて聞いた言葉というような明香の言い方に、

 

「明香さん、最近、また異変がありましてね…そして、私も記録したんですよ、ほら、この方々です-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここが永遠亭ですか…わかりにくいですね。」

 

 明香の言うとおり、迷いの竹林の、おそらく中心にある永遠亭。竹林を歩いてくると、普通の人なら平衡感覚や時間間隔が狂うので、本来、人がたどり着くのは困難であろう。

 

「ああ…。阿求殿、ついてきてよかったのですか?」そういって明香の反対側-慧音の隣には、阿求がいた。

「大丈夫ですよ、使用人達には許可ももらいましたし、何より、最近起きた異変について、廃れないうちにまた聞いておきたかったので。」

 

 そう話していると、入り口から一人の少女がやってきた。3人の姿を見るなり、明香の方に訝しげな目線を向ける。

 

「あら、稗田家の-あら、そちらのは…」

 

 セーラー服に、桃色の長髪、そして何より、頭から飛び出ている耳-明香は鈴仙の姿に、驚きを隠せなかった。

 

「…兎…。」

「ああ、こっちにいるのは絵栄 明香。阿求殿と一緒に幻想郷縁起の、絵を描くことになった。」

「あら、そうなんですか。そして、またあの異変のことを?」

「ええ、よろしくお願いします。」

 

 阿求が頭を下げる。鈴仙は、「では、こちらへ。師匠と姫様の方へご案内致します。」と言って、阿求たちを通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「-成る程、それで、月の変異を-」

 

 阿求は早速、ここの永遠亭の主治医の立場である、月の頭脳-八意 永琳から話を聞いていた。

 

「ええ、まあ…それ以上は姫様に語っていただきましょうか。」

 

 その話を明香は縁側で慧音と座りながら聞いており、永遠亭は病院であり、今回の変異の黒幕だということは理解できた。-最も、明香は異変というものがどういうものか、まだ知らないのであるが。

 

「分かりました。」

「姫様は隣の部屋におられますので-」

 

 そして、後ろで襖が開き、失礼します、という声が聞こえた。

-すると、今度は明香の背に向けられて、永琳の声が聴こえる。

 

「-さて、私が聞きたいのは、貴女についてよ。」

「へっ、私ですか?」

「ええ…貴女は実際はこの永遠亭に用は無いわね?」

 

 その言葉に、明香は俯き、頷いた。

 

「…はい、妹紅さんが、幻想郷縁起に乗りたくないっていて…。」

「ああ、それで、明香は妹紅が断る理由が気になってな。永遠亭に行けば、少しは詳しい理由が分かるんじゃないかとな。」

「成る程…それじゃあ、話しましょうか、そのことについて。でも、それだけじゃね…。」

 

 そして、明香の鞄の方をチラリと見るなり、

 

「…そうね、私が話すから、それを聞きながら、貴女は絵を描いてもらえるかしら?」

「へ?あ、はい…じゃ、じゃあ…。」

 

 そう言って、明香はテキパキと準備をすすめる。

 

「…絵描きって言うのは嘘じゃないみたいね…。」

「-師匠。彼女が、先日迷いの竹林で見たという少女です。」

 

 知らずの間に部屋に入ってきていた鈴仙が、永琳に素早く耳打ちした。

 

「…そう。不思議ね、そのまま真っすぐ進めば永遠亭(うち)につくって…。偶然にもそうならないようにしてる筈だけど…。分かったわ、ありがとう。」

 

 永琳の頷きに鈴仙は一礼すると、部屋を出て行った。それと同時に、明香の絵の準備も完了したようだった。

 

「-それじゃ、本来は姫様が話すべきでしょうけど、話しましょうか、藤原家と姫様-蓬莱山輝夜の、因縁を。」

 

 

 

 

-そして、明香は知った。

 

 藤原妹紅と蓬莱山輝夜の因縁、蓬莱人になったきっかけ、そして二人は殺しあっている、さらに-

 

 

「-藤原妹紅についてだけど、つい最近、姫様が呟いたのを聞いたのよ。「あいつ、今もまだ死にたがっているのね。」って。」

「-死にたがっている…?」

 

 思わず明香は描いていた絵の筆を止め、そう繰り返した。といっても、殆んど絵は完成したものだったが-

 

「ええ、私も意味がわからなかった、最初は。でも、私も蓬莱人。少し視点を変えれば、すぐに分かったわ。」

「流石、月の頭脳だな。」

 

 別に大したことはしてないわよ、という永琳の言葉を聞きながら、明香は考えていた。

 

-死にたがっている。じゃあ、何故、妹紅はあんなにも記録に残ることを拒んだのか-

-もし、阿求の考える方向で行くと、書物というのは、死んだことを忘れないように、ということである。

 

 

 

 

-もしや-

 

 

 

「そうか…そういうこと…だとしたら……。」

「…参考になったようね。」

「ええ、ありがとう御座いました。」

 

 そう言って、明香は徐ろに立ち上がる。

 

「鈴仙、彼女を連れて行ってあげなさい。」

 

 そして、永琳は襖の向こう側にいる鈴仙に声をかけた。

 

「…分かりました。」

 

 そして、襖を開くと、「ついてきて、こっちよ。」といって、明香もそれに頷いて、今回は何も持たず、鈴仙の後をついていった。

 

 

 

 

「…絵栄明香…不思議な子ね。」

 

 静寂が二人を包んでいると、永琳がぽつりと呟いた。

 

「やはり永琳も気にかかるか。」

「あら、慧音も?」

「ああ…彼女のあれは、能力なのだろうか…。」

「…貴女の能力で見れないの?」

 

 慧音の能力は、歴史を食べる程度の能力。つまり、相手の歴史を見て、それを消すことができるのだ。

 しかし、慧音は首をふると

 

「不思議なものでな…彼女の歴史、無いわけでは無いろう。ただ、何かに塗りつぶされてるかのように、私に出会う少し前の記憶-そこまでしか見ることが出来ないんだ。」

「-何ですって-?」

 




気がつけば4000字オーバー…集中すれば出来るんですね、自分でも驚いております(汗)
さて、このままだと次回で妹紅編も終わりそうです。


やっぱり感想が来ると嬉しいものですね。
お気に入り登録もしてくださってる方々には感謝です。


では、次回は少し短くなるかもしれません…。

第3-3画、『過去は灰へと』





-次はあなたを描きましょう。
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