とあるゆるめの不死能力《アンデッド》   作:WACK

1 / 13
一章
1話 女の子が飛んで来たぞ


 

 ーーーご案内。

 

 230万人が暮らすこの街は、地図の上にコンパスで円を描いたように、ほぼ完全な丸い形をしています。

 その円の縁は高い壁になっていて、外側と行き来する際には、厳重に警備されたゲートをくぐらなければいけません。

 また、人だけでなく、物資も厳しいチェックをクリアした物しか通過を許されず、危険な物の流入や学園都市内の技術・製品を持ち出される事を防いでいます。

 少し過剰なのでは? と思われるかもしれませんが、お預かりしている学生の皆さんの安全を守るためには、どれだけ注意したとしても、警戒し過ぎという事は無いのです。

 

 名前の通り、ここ学園都市の全人口のうち、180万人は学生です。

 その全員が、外よりも2・30年進歩していると言われている学園都市の技術・知識を学び、充実した生活を送っています。

 学園都市内の学校の教育課程を修了した生徒は、外側の社会の各分野で即戦力として活躍できる事でしょう。

 

 そして学園都市の一番の特色と言えば、やはり超能力開発。

 ご存知の通り、学園都市では超能力を科学的に解析しており、ほぼ全ての学生が超能力を習得するための『時間割り(カリキュラム)』を受けています。

 能力の実践だけでなく、座学で超能力の仕組みや運用方法を学ぶことが出来るため、はじめは能力の強度(レベル)が低かったとしても、どなたにでも最高位のレベル5に到達できる可能性があります。

 

 さて、無事進級された皆さんはこれから中学生としてより質の高い教育を受ける事になりますが⋯⋯

 

 

 ーーーーーーーーーー

 

 

「レベル5、かぁ」

 

 手にした学校案内パンフレットを歩き読みしながら、わたしは路上でぼんやりとつぶやいた。

 書かれている内容はすでに知っている事ばかりだったが、この夏から新しい学校に転校するという事で一応目を通している真っ最中。

 1ページでちょっと読むの飽きてきたけども。

 

「ホントになれるのかなぁ?」

 

 やっぱり飽きたのでパンフレットをぱたんと閉じ、近くにあった風力発電の風車を見上げて違う事を考え始める。

 先生達は事あるごとに『頑張っていればレベル5になれますからね』なーんて言うけど、どうも実感が湧かない。

 学園都市の人口は約230万人。

 そのうち、能力開発を受けている学生は約8割の180万人。学生の約6割はレベル0で、レベル5なんてたった七人しかいない。

 これじゃあ先生のいう事を信用できないのも仕方のない話だと思う。

 わたしの今の強度(レベル)は、3。

 性能的には本来なら2くらいだが、研究価値のある珍しい能力という事でオマケにオマケしてレベル3という所に落ち着いた。

 

「全然上がんないんだけど⋯⋯」

 

 同じところを回るプロペラに、ちょっとだけ同族意識が芽生える。

 ぐるぐる、ぐるぐる⋯⋯。

 レベル3になったのは小学三年生の春頃。

 その時の同級生にはレベル3が一人もおらず、先生にもクラスメイトにも、それはもう騒がれた。

 しかし、だ。

 そこから全く成長しないってなに⁉︎

 

「はぁー」

 

 そりゃため息も出るよ。

 だって四年だよ? レベル3になって四年も経つのにちっとも伸びてないんだよ?

 ため息ついたっていいと思う⋯⋯。

 

「わぷっ⁉︎」

 

 そんな事を考えている時だった。

 いきなり吹いた突風に煽られ、バサバサバサッ‼︎ とパンフレットがわたしの手を離れて舞い上がった。

 

「ああっ⁉︎ ちょっと待って! あ」

 

 ゴシャアッ‼︎‼︎ と。

 ものすごい音が、今まで感じた事の無いほど近くから聞こえた。

 

 ぼんやりと考えごとをしてたせいだ。

 追いかけようとした矢先。

 パンフレットに気を取られて。

 自分がどこにいるのか忘れてた。

 ここは路上で。

 踏み出した先は、車道。

 

 やたらゆっくりな景色の中で、たった今自分がぶつかったものを冷静に見ていた。

 

(わあ。おっきいトラック⋯⋯)

 

 コンテナ、というヤツだろうか。

 大きな鉄の箱がくっついたそのトラックは何故か天井にはり付いていて、虫みたいに頭とお尻がもぞもぞと動いている。

 その様子があんまりおかしくて、ちょっと笑いそう。

 

(あれ? 地面が無い?)

 

 そのまま見ていると本当に笑っちゃいそうだったので後ろを向こうとした。

 が。

 足元の地面が無くなっていて、体の向きを変えられない。

 

 どうしたものかと思ったが、すぐに解決した。

 周りの方が勝手にぐるーりと回ってくれたから。

 

(おおー! すごいすごい!)

 

 まるで子どもの頃に行った遊園地のアトラクションみたいな光景に思わず心が高鳴ってしまった。

 あれだ。座った椅子はそのままで部屋全体が動くヤツ。

 

 でも不思議だなぁ。

 なんで周りにいる人たちも天井から逆さまにぶら下がっているんだろう?

 しかもみんな顔だけわたしの方を見てるし。

 

(なんかちょっとこわい)

 

 若干ホラーな景色が、これまたゆっくり後ろの方へと流れていく。

 

 ⋯⋯というか。

 わたしはいつの間にこんな摩訶不思議空間に迷い込んだんだ?

 んーと、さっきまでパンフレットを歩き読みしてて、読んでたらレベル5がどーのこーのと書いてあって、それで自分の能力は成長するのかなーと悩み始めて、悩んでたらパンフレットが風で飛ばされて、それから、えーと?

 

(あれ)

 

 ふと気付く。

 相変わらずゆっくり後ろへ流れていく景色だけど、だんだん天井が下がって来てない⋯⋯?

 さっきのトラックがはり付いていたのと同じ、黒っぽい天井が。

 

(え。ちょっと)

 

 やっぱり気のせいじゃない。

 少しずつ、後ろに動くのと同時に下りて来ている。

 

(ちょ、ちょっと待って)

 

 ⋯⋯ヤバい。

 このままじゃ頭にぶつかる!

 しかも下がるスピードが上がってきてるし!

 

(うわ、うわわわっ!)

 

 このままじゃ危ないと思ったわたしは慌ててしゃがもうとした。

 しかし体は動かず、無重力の中みたいに足の方が上がっただけ。

 

 ごつ。

 

(あだっ!)

 

 とうとう天井が頭に触れた。

 しかし。

 天井はまだ止まらない。

 

 がりっ。

 がり、ざりっ。がりごりざりがりごりがりがりごりざりがりごりざりがりがりごりざりがりごっ。

 

 後ろに動き続ける天井はとんでもなく目の荒いヤスリみたいになっていて、わたしの体を消しゴムのように削り取ろうとしている。

 

 最初は頭、次は肩、続けて腕、腰、膝、ふくらはぎ、足の指。

 

 上から順にわたしをひと通り削ると、天井は一度上に動いて体から離れた。

 でもまたすぐに。

 

 ざりがりがりごりごりざりごりごつっがりごりざりざりがりごりごりごりざりがりごりがりがりごりざりざりごりざりざりごりがりっごりざりざりざりざりざりざりざりざざざざざざザザザザザザザザザザァッ‼︎‼︎

 

 再度下りて来た天井はもう離れず、わたしの全身を散々ヤスリ掛けしたところでようやく止まり。

 そこで、わたしはやっと。

 

(あ、これ。天井じゃなくて地面だ)

 

 という事に気づいた。

 

 最初に天井に当たったのは頭。

 ならわたしの体は、頭から地面に叩きつけられた事になる。

 

 ほっぺたとお腹がはり付いてる、って事はたぶん今わたしの体は地面にうつ伏せになってるのかな⋯⋯。

 

 全身が恐ろしく熱い。

 ヤスリ掛けされた摩擦の熱なのか、それとも痛みのせいなのか。

 

 ぶつかったトラックの映像が浮かぶ。

 変な動きをしていたが、あれは何だったんだろう。急ブレーキをかけてタイヤが滑った?

 何にしても、それを見ておかしいと思って笑いそうになったわたしの方がどうかしている。

 

 ぼんやりと自分の置かれた状況を確認していると、知らない人の声が耳に届いた。

 

「え、事故?」

「女の子が飛んで来たぞ」

「ちょっと⋯⋯ヤバくない?」

「頭からいったよね」

「うわぁ、あんなとこから飛ばされてきたの⋯⋯?」

「絶対やべーってコレ」

「生きてるのかな⋯⋯動かないけど」

 

 たくさんの足がわたしに近づいてきた。

 みんな口々に感想を述べているが、たぶん全部わたしの事だ。

 

「おい、そのままトラック行っちまったぞ」

「え、ひき逃げ?」

「それより誰か通報! 通報しないと!」

 

 だんだん騒ぎが広がる中。

 

「ちょっとどいて下さい‼︎ すいません‼︎ ちょっと道空けて‼︎」

 

 一際大きな声が聞こえてきた。

 

警備員(アンチスキル)です‼︎ 離れて下さい‼︎」

 

 その声に従い、周りに集まっていた足たちが少し離れる。

 入れ替わりに近寄って来た足がわたしの前に止まり、膝をついて覆いかぶさるようにしてしゃがみ込み。

 ドラマかなんかで聞いたことあるような台詞をわたしに投げかけてきた。

 

「大丈夫ですか⁉︎ 声聞こえてますか⁉︎」

「あ、はい大丈夫でーす⋯⋯」

 

 わたしがむくりと起き上がると。

 

「「「うわあぁぁああああっ‼︎⁉︎」」」

 

 わたしを除くその場の全員がオバケでも見たように叫び声を上げた。

 

 いや待って。なんで声かけて来た警備員(アンチスキル)さんまで後ずさりしてるの?

 

「ええっと」

「あ、あなた、何ともないの⁉︎」

 

 質問されたので、とりあえず自分の体を見まわしてお答えする。

 

「めっちゃひりひりします⋯⋯」

「いやひりひりって」

 

 ちゃんと答えたのに、警備員(アンチスキル)さんはなぜかドン引きしてますね。

 

「と、とにかくコレ着て! そのままじゃちょっとまずいから!」

 

 と言いながら、警備員(アンチスキル)さんは脱いだ上着を無理矢理気味にわたしの肩にかけてくれた。

 

 あー、わたしの服ボロッボロですもんね。

 お気に入りだったのになぁ⋯⋯。

 

「ありがとうございます」

「⋯⋯本当に大丈夫? あ、このまま道路にいると危ないわね」

 

 そう言うと、周りを見回しながら立ち上がり。

 

 

「皆さん! 危険なので歩道に移動して下さい! ⋯⋯歩けそう?」

「はい。歩けます」

「⋯⋯歩けるのね」

 

 いやだから引かないでくださいってば!

 

 警備員(アンチスキル)さんに促され、わたし達もとりあえず歩道に上がると、たくさんの好奇の目にさらされる事になった。

 

 こ、こんなに人が集まってたんだ。恥ずかしい⋯⋯。

 

「それじゃ、あっちまで行きましょうか。お話を聞きたいから」

「は、はい」

 

 指の先を見ると警備員(アンチスキル)の車が反対車線に停まっているのが目に入った。

 

 なるほど、来るのがやたら早かったのはすぐそこにいたからなんですね。

 

 無線で話しながら歩く警備員(アンチスキル)さんの後ろにくっついて歩いている間も、ずっと周りから視線を注がれ続けた。

 肩にかけてもらった上着をぎゅっと握りしめて視線をガードしながら車のそばまで移動すると。

 

「じゃあ質問していくけど、本当に大丈夫ね?」

「あ、大丈夫です。もうだいぶひりひりしないです」

「⋯⋯そういう事ではなかったんだけど。というかもうひりひりすらしてないのね」

 

 やっぱりドン引きする警備員(アンチスキル)さんは、呆れたような顔でそのまま質問タイムに突入。

 

「じゃあまず。あなた、お名前と学年は?」

 

「えと、理啓(ことひら) (しころ)、中学一年生です」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。