とあるゆるめの不死能力《アンデッド》   作:WACK

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6話 どうですか‼︎ すっごいですよね⁉︎ 一度でいいから行ってみたいですよね⁉︎

 

「バカ! けいちゃんのバカッ!」

「ええー。私が悪いのか?」

「悪いに決まってるでしょー⁉︎」

 

 現在わたし達は、ここ柵川中学校の校門前にいます。

 けいちゃんに誘われて学校見学に来ていたんですが、わたしとけいちゃんが調理実習室で大暴れしてしまい。

 何事かと駆けつけた先生にこっぴどく叱られた挙句、学校を追い出されてしまったのです。

 

「ほんッッとにすいません‼︎ もうなんてお詫びしたらいいか⋯⋯‼︎」

「いや、理啓(ことひら)は悪くなかよ」

 

 一緒にいるのは語足(かたり) 雪平(ゆきひら)さん。

 ただ暴れ回るわたし達を見ていただけだったにもかかわらず、巻き添えをくらう形で『下校しろ』と言い渡されてしまったため、わたし達と共に学校から出てきていました。

 

「でも、わたしも暴れちゃいましたし⋯⋯」

 

 雪平さんにはほんとに悪い事をしたなぁ。

 料理をしてた所にお邪魔した上、わたし達のせいで追い出されちゃって⋯⋯。

 

「気にすんなさ。ほら顔ば上げて?」

「そーそー。錏が謝ることないってー」

「けいちゃんに言われたくないよっ‼︎」

 

 全く悪びれた風もなく、幼なじみは平気な顔でのたまいます。

 元はと言えば、けいちゃんが雪平さんをからかうからこんな事になったのにっ! なんでそもそもの元凶が平然としてるのさ⁉︎

 

佩楯(はいだて)は謝れ」

「えー、なんでよー?」

「自分で考えろ」

「はぁ。ほんと私には冷たいよねー」

 

 雪平さんはけいちゃんと目を合わせようともしません。

 馬鹿にされたのがよっぽど頭にきたんだろうなぁ。

 

「私にはハンバーグ食べさせてくれなかったしなー。錏ばっかズルい!」

「ずるくない」

「まだ残ってたんだから食べさせてくれたっていいでしょ?」

「嫌」

「なんでよ!」

「嫌だから」

 

 けいちゃんが何を言おうとも、嫌の一点張りです。

 取りつく島もないって、正にこの事を言うんでしょうね。

 

「あーそうですか! いいもん別にっ!」

「なら最初からいうな」

「ああ⁉︎」

 

 うわ。こ、この雰囲気はマズイ! このまま放っておいたらケンカになっちゃう!

 

「あの! あー⋯⋯こ、これからどうしますか?」

 

 とりあえず割って入ります。なんのプランも浮かんでませんが。

 

「そーだなー。見学も出来なくなっちゃったしなー」

 

 けいちゃんには言ってないよ‼︎

 ⋯⋯あ、でもひとまず止まったみたい。

 

「遊びにでも行くー?」

「あ、うん。そうしよっか?」

 

 けいちゃんが勝手に乗ってきてくれました。

 あ。でもこれって、ひょっとしたらチャンスかも!

 

「えと、雪平さんはこのあと何か予定ありますか?」

「いや⋯⋯別になんも無かけど」

「じゃあ一緒に行きましょうよ! 今日はもうガンガン遊びまくってやるんです!」

 

 ちょっとした作戦を思いついたわたしは、雪平さんを誘ってみます。

 

「⋯⋯私も行って良かと?」

「何言ってるんですか! もちろんですよ!」

 

 怪訝な顔で聞いてくる雪平さん。

 それはそうですよね。何せたった今ケンカになりそうだったヤツと遊びに行こう、と言われたんですから。

 

「一回遊んだらもう友達なんですよ! だから遊びに行きましょう!」

「と、友達っ⁉︎」

 

 雪平さんが目を見開いてびっくりしています。

 そう。これがわたしの作戦。

 雪平さんの話ぶりだと、『友達』という言葉に特別な感情を持っているはず。

 だったらもう無理矢理にでも『友達』だということにしてしまえばケンカしたりしないはずっ‼︎

 

「ど、どうですかね?」

 

 ⋯⋯言ってて不安になってきました。

 だって無理矢理ですし。どう考えてもヘリクツですし。

 

「いや! いきなりそがん友達とか言われてもっ!」

 

 あ、そっち?

 けいちゃんと遊びになんか行かねーよ! ってことじゃなくて?

 

「ダメ、ですか⋯⋯?」

 

 ぴしっ。

 と、雪平さんが凍りつきました。

 え? ど、どうしたんですか? なんでいきなり固まるんですか?

 

「あの、雪」

「嫌じゃなかけぇぇえええんっ‼︎」

「ひぅあ⁉︎」

 

 ガッシィ‼︎ と、肩をつかまれました。

 雪平さんが必死の形相です。

 指輪‼︎ 指輪が食い込んでますって‼︎ こ、怖いよ雪平さん‼︎

 

「でっ、でもなんか困って⋯⋯⁉︎」

「困っとらんけん‼︎」

「あ、あの!」

「大丈夫ばい‼︎ 私が理啓の誘いば断る訳なかろーもん‼︎」

「ああありがとーございますッ⁉︎」

 

 ものすごく情熱的にOKをいただきました。

 ⋯⋯まだ会って間も無いのに、何が雪平さんをそうさせるんだろう?

 

「なんな今の仕草⋯⋯反則やろ。でも友達やって。ふふ。理啓と友達。ふふふ。やったばい。こがんかわいか子と友達に⋯⋯ふふふふふ。東京に来て良かったぁ」

「えー、っと」

 

 今度はブツブツひとりごとを言い出した。

 というか、わたしとじゃなくてけいちゃんと仲良くして欲しいんだけど⋯⋯まいっか。

 

「しころー」

「え、なに?」

 

 雪平さんの様子に戸惑っていると、何故か妙にうれしそうなけいちゃんがチョイチョイと袖を引っ張ってきます。

 

「ナイスフィッシュ!」

「何それ⁉︎」

 

 どういう事⁉︎ ナイスフィッシュとか言われてもわかんないんだけど⁉︎ サカナ⁉︎

 

「じゃあ遊びに行こっかー。ゲーセンでいいよね?」

「説明無し⁉︎ このままじゃわたし消化不良だよ! 何なのナイスフィッシュって⁉︎」

「早く来ないと置いてくよー?」

 

 言いながら、けいちゃんは早くも踵を返そうとしてます。

 

「ああっ、ちょっと待って雪平さんがっ! 雪平さん!」

「ふふふ。はよ母ちゃんに報告してやらんば。ふふ。せっかくやけんここはいっちょ写真付きでメールば」

「まだひとりごと言ってる⁉︎」

 

 一体さっきから何をそんなに考え込んでるの⁉︎ しかもなんか笑ってるし!

 

「ちゃんと雪平も連れて来てねー」

「いや待てって言ってるでしょ⁉︎ ってうわ‼︎ なんでもうそんな遠くに⁉︎ ちょっと雪平さんしっかりして! 早くしないと置いてかれちゃう‼︎」

 

 スタスタと離れていくけいちゃんに気が付いたわたしは、慌てて未だブツブツ言っている雪平さんの腕を掴みます。

 

「いや待てよ。写真でちゃんと伝わるかな? やっぱり動画にした方が⋯⋯いやそいでも⋯⋯」

「よくわかんないですけど早く行きましょ⁉︎ けいちゃんが見えなくなっちゃいますって‼︎」

 

 焦ったわたしはとにかく雪平さんを急かします。

 ですが、それでも雪平さんは考え事をやめてくれません。

 ああもうっ‼︎

 仕方ない、わたしも手伝おう! そしたら早く解決するよね⁉︎ ひとりごと聞いちゃいますからね⁉︎ いいですね⁉︎ 失礼しまーす‼︎

 

「うーん。思い切って、こないだテレビで観た『触れる3Dプロジェクター・ポータブル』とかば買わないかんか⋯⋯。あれ、まだ開発途中って言いよったっけ?」

「なんで電化製品の検討をしてるの⁉︎」

 

 さっきから何を悩んでいるのかと思えばっ!

 それ今考えないとダメ⁉︎ てかどういう流れでその思考に行き着いたのか全然わかんない‼︎

 

「と、とにかく行きましょう雪平さん! ほら早くっ! カメラの事は後にしてくださいってうわまたウフウフ笑い出した! ああもう、しっかりしてくれないと本当にけいちゃんに置いてかれってもうアイツ見えねえぇぇえええ⁉︎」

 

 ⋯⋯どこまでもマイペースな幼なじみに1日に2度もおいてけぼりにされたわたしは頭を抱えてうずくまりました。

 

 

 □□□

 

 

 大きく『PLAYLAND』と書かれた看板。

 耳を(つんざ)く電子音。

 けいちゃん行きつけのゲーセンの前に、わたし達は立っていました。

 

「ここがゲーセンね⁉︎」

「⋯⋯そーですね」

「ゲームのいっぱいあるとよね⁉︎」

「⋯⋯そーですね」

 

 盛り上がる雪平さんに、わたしはついていけません。

 

「あ、あれ? なんか怒っとる?」

「⋯⋯いいえー」

 

 怒ってはいないです。

 怒って『は』いないです。

 

「じゃあ、疲れとっと?」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 そうですよ。

 疲れたんですよ。

 わたしは疲れたんですよぉぉおおお‼︎

 だって雪平さんがですね⁉︎ なかなか正気に戻ってくれなくてですね⁉︎

 ここまでずーっとわたしが引っ張って来たんですよ‼︎

 引っ張るだけならまだ良かったよ‼︎ そこが問題じゃないんだよ‼︎

 周りの視線がすンげぇ痛かったんだよッ‼︎

 ⋯⋯どうして?

 どうしてかって⁉︎

 思い浮かべてみたらすぐわかりますよ‼︎

 

 わたし

 認めたくないけど、良く小学生に間違われるくらい小柄な体格。

 

 雪平さん

 良く高校生に間違われるけいちゃんより背が高く、風貌は金髪ピアスにゴツい指輪。

 

 さあ、どうですか。

 周りからどう見えるでしょうか。

 おわかりですね?

 

 答え

『ブツブツ言いながら一人で笑ってるヤンキーを、小学生が必死に引っ張って歩いてるの図』

 

 こんなの怪しまれるに決まってんだろぉぉおおおおおおおおお‼︎

 

「⋯⋯大丈夫ね?」

 

 はっ。

 わたし、いまなにを。

 

「あ! 大丈夫ですから!」

「そいなら良かばってん⋯⋯」

 

 いけないいけない。完全に自分の世界に入っちゃってた。

 昨日けいちゃんが言ってた『そういうとこがある』ってコレなのかも⋯⋯。

 まさかの場面で気づいてなかった自分を発見しそうになり、頭を振って意識を切り替えます。

 

「そ、それよりほら! 早く入りましょう!」

「ほんとに佩楯はここにおると?」

「そのはずですよ? ここ、けいちゃんの行きつけで」

 

 ドン。

 

 その時、雪平さんばかり見て歩いていたわたしは、ゲーセンから出てきた誰かにぶつかりました。

 

「あっ! す、すみません!」

「こちらこそごめんなさい! ちょっとよそ見しちゃってて」

 

 すぐに謝ってくれたその人は、すごく感じのいい女の子でした。

 

「どうしたのー?」

 

 少し離れたところで、その女の子の連れらしき人が声をかけています。

 

「なんでもないでーす! じゃ、私行きますね?」

「あ⋯⋯はい」

 

 気もそぞろに、わたしは返事をしていました。

 見送った女の子はすぐに呼んでいた連れと合流し、何やら話しながら行ってしまいます。

 

「はー⋯⋯」

「どがんした?」

「あ、いえ。あの制服⋯⋯」

「制服?」

 

 わたしの気がそぞろになっていた理由。

 それは、ぶつかった女の子の連れが着ていた制服のせいで。

 

「あれ、常盤台の制服ですよ」

「ときわだいって、なん?」

「え⁉︎ 雪平さん知らないんですか⁉︎」

 

 驚愕です! 学園都市に常盤台を知らない人がいるなんて!

 

「超エリート校の常盤台中学ですよ! ホワイトハウスにも勝っちゃうって噂の!」

「そ、そがんすごか学校ね?」

「すごいなんてモンじゃないです‼︎」

 

 思わず熱がこもります。

 わたしも学園都市に在籍する身、常盤台には少なからず憧れがあるのです。

 

「生徒二百名のうち、レベル5が二人! レベル4が四十七人! 残りは全員レベル3! あの有名な超電磁砲(レールガン)もいるんですよ⁉︎」

「あ。そん人は聞いたことある⋯⋯」

「さらに! すっごい英才教育でも有名で、ヘタな大学よりも生徒の学力が高いって話です! そして何よりっ‼︎」

「な、何より?」

「お城みたいな内装の校舎‼︎ 高級レストラン並みの超豪華な給食‼︎ 周りの『学舎の園(まなびやのその)』までヨーロッパの観光地みたいになってるんです‼︎」

「そ、そーね」

「どうですか‼︎ すっごいですよね⁉︎ 一度でいいから行ってみたいですよね⁉︎」

「え⋯⋯まあ」

「ですよねー‼︎ わかりますよ‼︎ 誰だって行ってみたくなりますもん‼︎」

 

 なぜか雪平さんのほっぺがひくひくしてるように見えますけど、きっと気のせいです!

 

「とまぁそんな感じです!」

「な、なるほど」

「常盤台のこと、少しはわかりました?」

「⋯⋯理啓が憧れとるとは良くわかった」

 

 そりゃ憧れますよー。並大抵のことでは入れない学校ですもん。

 

「いやー、良いものを見ました。常盤台の人もゲーセン行くんですねー!」

「そいよりさ⋯⋯早よ入らん?」

「あ、そうですね! 入りましょうか」

 

 常盤台の人のおかげで疲れも吹っ飛びました。もー常盤台サマサマですね!

 元気が復活したわたしはウキウキしながらゲーセンに入ります。

 さてさて、けいちゃんはどこかなー?

 

「おっそい‼︎」

「ほぅあ⁉︎」

 

 発見早々けいちゃんに怒られました。

 

「何やってたんだよー! 待ちくたびれたっての!」

「ご、ごめ⋯⋯あ?」

 

 脊椎反射で謝りそうになったわたしはふと気づき。

 

「違うじゃん‼︎ けいちゃんが置いてくから待つことになったんじゃん‼︎」

「言い訳かよー」

「言い訳じゃない‼︎ 事実じゃん‼︎」

「あっははは! 似てる似てる!」

「はあ⁉︎ いきなり何⁉︎」

「え、警備員(アンチスキル)の先生のマネでしょ?」

「してねぇぇええええ‼︎」

 

 なんでこの状況でわたしがモノマネしてると思ったの⁉︎ どう考えてもおかしいでしょ⁉︎

 

「理啓も大変やね⋯⋯」

「ゆ、雪平さぁん」

 

 あなたはなんて優しいの?

 そんなこと言ってくれたのは雪平さんが初めてだよぉ。

 

「甘やかすなよー」

「佩楯が悪い」

 

 冷たく言い放つ雪平さん。

 いいぞー。もっとこらしめてやってください。

 

「あーあ。さっきまで佐天がいたのにさー」

「え⁉︎」

「そうなの⁉︎」

「そだよー」

 

 いきなり出てきた佐天さんの名前。

 予想外の話に、わたしも雪平さんもひどく慌ててしまいます。

 

「どこ⁉︎ どこにいるの⁉︎」

 

 わたしは焦って店内を見回しました。

 佐天さんの、あの去り際の様子がどうしても気になってしまって。

 

「もうどっか行っちゃったよ。錏が遅いからさー」

「そう、なんだ⋯⋯」

 

 しかし、一足遅かったようです。

 雪平さんも気にしてるし、気に障ることを言っちゃったのか聞きたかったんだけどな⋯⋯。

 

「ほんとに、錏達が来るほんのちょっと前だったんだよ。すれ違ったりしなかった?」

「いや⋯⋯」

「全然⋯⋯」

 

 がっくり肩を落とす雪平さんとわたし。

 二人とも見落とすなんて考えにくい。

 ってことは、わたし達が来たのと反対方向に行っちゃった、ということでしょうか?

 

「なんかあったのか?」

 

 わたし達が沈んでいるのを感じたけいちゃんは、そう聞いてきました。

 

「⋯⋯けいちゃん、佐天さんの様子はどうだった?」

「様子?」

「何か、変だったりしなかった?」

 

 質問に質問を返す形になっていますが、けいちゃんはそれで汲み取ってくれたようです。

 こういう時、なにか理由が無い限りけいちゃんは絶対ふざけたりしません。

 

「いや、いつも通りだったよ? 普通に話して、普通に笑ってた」

「そう⋯⋯」

「心配なら連絡してみるか?」

「んーん、大丈夫。佐天さん元気だったんだよね?」

「すげー元気だったよ? めちゃめちゃはしゃいでたし!」

「⋯⋯そっか!」

 

 どうやら、わたし達の気にし過ぎだったみたいです。

 

「変なこと聞いてごめんね?」

「全然いいって!」

「ほら、雪平さんも。もう気にしなくて大丈夫ですよ」

「うん⋯⋯そうやね」

「そうですよ! すぐゲーセンに来てたくらいですもん!」

「そ、そうよね! わかった、私ももう気にせん!」

 

 やっと雪平さんも笑顔を見せてくれました。

 うんうん、今度会った時に聞いてみたらいいんだよ。

 それで、もし怒ってたら、わたしも一緒に謝ろう。

 佐天さんならきっと許してくれるはず。

 

「さ! わたし達も遊びましょー!」

 

 少しだけ大げさな仕草で言いました。

 わたしも気にしませんよー! と、雪平さんに伝えるつもりで。

 すると、早くもけいちゃんが雪平さんにちょっかいを出し始めます。

 これは⋯⋯けいちゃんなりの気の回し方なんでしょうか?

 

「あ。ねえ理啓」

「な、なんですかー?」

 

 けいちゃんに完全に背を向けて、雪平さんはわたしに話しかけてきました。

 スルー! ついさっきまでけいちゃんと普通に話してたのにー。

 

「これは何ばするゲーム?」

「えっとー」

 

 指輪がたくさんついた指の先にあるのは、一台のゲーム機。

 

「これは、格闘ゲームですね」

「かくとう?」

 

 おや、この反応は。

 

「雪平さんって、ひょっとしてゲーセンに入るの初めてですか?」

「初めてばい! 地元にも無かったし。やけん教えて?」

 

 おおう。わたしも全然ゲームできないんだけどなぁ。

 

「えと、このボタンとレバーを使ってですね」

「ふんふん」

「画面の中のキャラクターを戦わせるんです」

「ほあー⋯⋯」

 

 説明を聞きながら、雪平さんはデモ画面に釘付けになってます。

 

「それで、こっちに基本の操作の仕方が書いてあって、あとここに技の出し方が⋯⋯ん?」

 

 画面の端を指さした時、雪平さんの妙な声が聞こえてきました。

 

「あの、雪平さん?」

「お、お、そこ、え、あっ、ほっ」

 

 ⋯⋯⋯⋯。

 これってもしかして、画面のキャラと一緒に戦ってる?

 

「なにやってんのー?」

 

 ほったらかされたけいちゃんが寄ってきて、不思議そうに尋ねてきました。

 

「しっ! ちょっと静かにしてて」

「んんー?」

 

 ちょっかいを出さないようにけいちゃんに釘をさします。

 が、余計にわからなくなってしまったようです。

 

「ねえ、気になるなら一回やってみたらいいんじゃないの?」

「いいから。ジャマしないであげよ?」

 

 けいちゃんの勧めは、とりあえず留めておきます。

 普通とは違う楽しみ方ですけど、雪平さんが夢中になってますからね。

 こういうのもアリなんじゃないかと。

 

「よ、てっ、うお⁉︎ うおおおお⁉︎」

 

 ほんの少し目を離した矢先、突然雪平さんが興奮しはじめました。

 

「どうしました?」

「理啓っ‼︎ なんか出た‼︎ 手ぇからなんか出たよ⁉︎ なんな今の⁉︎」

「⋯⋯あー」

 

 アレの事ですね。

 うーん⋯⋯格闘ゲームを初めて見た人にどう説明したものか。

 と考えていると、横からけいちゃんが得意満面しゃしゃり出てきました。

 

「知らねーの雪平? 今のは気! 気を出したんだよ!」

「き⁉︎」

「そう!」

「きば出したと⁉︎」

「そうだ‼︎」

「きって何や⁉︎」

「気は気だよ‼︎」

「きかー‼︎」

 

 ⋯⋯なんのこっちゃ。

 

「はー、面白かった! 最近のゲームはすごかんねー!」

 

 あ、デモ画面が終わったみたいです。

 めっちゃハマってましたねー。

 

「やってみますか? これ」

「いやいや! きは出しきらんけん無理よ! 見るだけで十分!」

「そ、そうですか」

 

 なんか、すごく勘違いなさってるような。

 いいのかなぁ⋯⋯。

 

「じゃあさー」

「ん?」

 

 いつの間にか、けいちゃんは違うゲーム機の前に移動していました。

 

「コレやろうよコレ!」

 

 親指でクイクイさしているのは、(まご)う事無きあのゲーム。

 

「お⁉︎ そっちのは何ね⁉︎」

「これはなー‼︎」

「これは⁉︎」

「ザ・パンチングゲームッ‼︎」

「おおー‼︎」

 

 ノリノリ。ノリノリです。

 ノリノリすぎて、さっきからけいちゃんと方言で話していることに気づいてません。

 ⋯⋯まあ、二人が仲良くなれそうでなによりですけど。

 というか雪平さん、あなた絶対わかってないよね。

 

「どがんすっと⁉︎ どがんすっと⁉︎」

「じゃあゲーセン初心者のために説明しまーす!」

「はいっ!」

 

 キラッキラの瞳で手をあげる雪平さん。

 え。というかけいちゃん、今のわかったの?

 わたし『どがんすっと』って意味がわかんなかったんだけど⋯⋯。

 

「まずコインを入れてー!」

「おおっ!」

 

 いや、そこ盛り上がるとこじゃないです。

 

「このグローブを着けまーす!」

「おおー‼︎」

「は⁉︎ な、なんでわたしの手にはめるの⁉︎」

 

 突如、伸びてきた魔の手によって、わたしにグローブが装着されました。

 

「そして拳を構えてっ‼︎」

「おおおっ⁉︎」

「え、ちょ、ホントに⁉︎ 待って待って‼︎」

 

 焦るわたし!

 構わず盛り上がる二人!

 そしてっ‼︎

 

「ブン殴るッ‼︎‼︎」

「おおおおお⁉︎」

「はひ⁉︎ ほ、ほあー‼︎」

 

 ぱすん。

 がっこん。

 

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯どうなったと?」

 

 説明しよう。

 わたしが渾身の力でブン殴った的は後ろに45度ほど傾き。

 しかし強大なスプリングの力によってそれ以上倒れる事は無く。

 不屈の闘志で歴戦の勇者の如く再び立ち上がったのだ。

 

 SCORE 0kg

 GET RAEDY?

 

「⋯⋯⋯⋯」

「えと、どんまい?」

「うるッせぇんだよバカヤロォォオオオオオオ‼︎」

 

 変な気を使わないでけいちゃん‼︎ 笑えばいいでしょ⁉︎

 笑えよ‼︎ もうやったのに『準備はいいか?』って言われてるわたしを‼︎

 そんな気まずい顔しないで笑って流してくださいお願いだからっ‼︎

 

「えーと⋯⋯ま、まあこんな感じでココを叩くだけだよ」

 

 気を取り直して、けいちゃんが再度説明をします。

 よ、良かった。引っ張らないでちゃんとスルーしてく

 

「倒れんように?」

「はぐうっ‼︎」

「し、しころー⁉︎ 気をしっかり持て‼︎ 傷は浅いぞ⁉︎」

「え? え?」

 

 今だけは‼︎

 今だけは雪平さんのその純粋さが痛すぎますっ‼︎

 

「あの! あのっ!」

「ち⋯⋯違うんです⋯⋯雪平さんっ」

「え、ち、違うと?」

「錏! お前そんな体でっ」

「いいんだよ、けいちゃん。わたしがちゃんと伝えるから⋯⋯それが役目、だもん」

「く⋯⋯っ‼︎」

「雪平、さん」

「は、はい」

「倒して⋯⋯」

「えっ」

「倒してっ⋯⋯そいつ、を。思いっきり、倒してっ⋯⋯‼︎」

「倒すと?」

「わ、たしの、かわり、に⋯⋯。お願い。そい、つ、を⋯⋯」

「し、しころ⋯⋯?」

「⋯⋯⋯⋯」

「しころ? しころっ⁉︎」

「⋯⋯⋯⋯」

「しころぉぉおおおおッ‼︎」

 

 

 

 

      こうして

     希望は託された

   一つの命と引き換えに

  みなが悲しみに包まれる中

  力なく横たわる彼女だけが

  笑みを浮かべていたという

     それはまるで

 もう勝利を手にしたかのような

    安堵しきった笑み

    物語は受け継がれた

    遺された者たちは

     決して忘れない

    命を捧げた彼女の

 

 

 

 

 

「何ばしよっと?」

「ちょっとー‼︎ なんで止めるんですか‼︎ 感動のラストシーンだったでしょ⁉︎ あとちょっとでスタッフロールだったでしょー⁉︎」

「あ、ご、ごめん。気にせんで続けて?」

「一回止まったらもうムリですよぉ‼︎」

「だ、だって。知らんやったとやもん」

「ほらけいちゃん。もう終わりだよー」

「ぐしっ。し、しころぉ⋯⋯!」

「え⁉︎ 本当に泣いてるっ⁉︎」

 

 あー、っと。

 マジ泣きするけいちゃんを見たら冷静になりました。

 どうやらわたしもゲーセンの魔力に取り憑かれていたようで。

 雪平さんに言えた立場じゃないですね。

 

 一度も倒れていないため、ずっと対戦相手を待つ画面のままになっているパンチマシンの前では、わたしに託された希望(グローブ)を持った雪平さんがまごまごしていました。

 

「えと、えと?」

「大丈夫ですか?」

「と、とにかくこれば倒せばよかとよね?」

「そうですよー。思いっきりやっちゃってください!」

「思いっきり⋯⋯わかった!」

 

 雪平さんはそう言うと、マシンの方へ振り返り。

 肩幅の倍ほど足を開いて腰を落とし。

 一度肩の高さまでゆるりと上げた腕を胸の横まで下ろして止め。

 そして。

 

「シッッ‼︎」

 

 ドッバァン‼︎

 

 裂帛の呼気と共に放たれた大砲のようなパンチは。

 

「⋯⋯は?」

 

 わたしに一瞬言葉を失わせました。

 マシンからは、的が倒れた時のSEらしき『ドゴォォン‼︎』という音が鳴り響き。

 

「えと。す、すこあ⋯⋯え」

 

 驚きで茫然としたまま画面に視線を向けたわたしは、またしても目をむいてしまいます。

 

 SCORE 118kg

   GREAT‼︎

 

「ひ、ひゃくじゅうはち⋯⋯」

 

 こ、これ女子中学生が出していいやつなの⁉︎

 中身はほわほわしてるのになんで戦闘力は外見と見合っちゃってるの雪平さん‼︎

 

「理啓?」

「ひゃいッ⁉︎」

 

 画面を食い入るように見ていたわたしは、記録を叩き出した当人のことを失念していました。

 

「あの⋯⋯どうやった? ちゃんと出来た?」

「でっできましたんでないですか⁉︎」

 

 わたしのひっどい返答を聞いた雪平さんは。

 

「ぷっ!」

 

 グローブを着けたままの手で口元を隠し。

 

「なんで理啓が(なま)っとるとー? あっははは。おかしかー」

 

 少しだけ背中を丸めて、控えめに笑います。

 

「はー、楽しかね! こがん楽しかとは学園都市に来て初めてばい」

「初めて?」

「今まで学園都市に友達おらんやったけんねー。初めての友達が理啓で良かったぁ」

「あ⋯⋯」

 

 その様子を見ていたわたしは、場違いかもしれませんが、自分の見る目は正しかったと改めて感じていました。

 

「ふふっ」

「あ! なんで理啓も笑いよると⁉︎」

 

 おっと危ない。声に出てたみたいです。

 

「いえいえ。なんでもないですよー」

「むぅ」

 

 わたしの言い方が納得いかなかったのか、雪平さんは口を尖らせています。

 ほんとに外見と中身がちぐはぐだなぁ。

 

「しかし、頭にある感じと違っとったなー」

「え?」

「久しぶりやったけん、へたっぴになっとっとやろか?」

 

 ⋯⋯久しぶり?

 

「え、コレやるの初めてじゃないんですか?」

「初めてよ? さっき言うたたい」

「でも、いま久しぶりって」

「ああ違う違う!」

 

 グローブ付きの手をプルプル振って訂正する雪平さん。

 

「マジメにツキば打ったとが久しぶりやったと」

「つき?」

「そう」

 

 つき。ツキ。月。

 ⋯⋯?

 

「えっと。それ標準語ですか?」

「え⁉︎ 違うと⁉︎」

「いやわかんないですけど」

「ええー⋯⋯他に言い方知らんとけど。方言やったとかなぁ、正拳突きって」

「⋯⋯え⁉︎ 正拳突き⁉︎」

「あ。わかったと?」

 

 さすがにそれは聞き覚えがました。

 格闘技に(うと)いわたしにも。

 

「それ! あの、アレですよね⁉︎ 瓦を割ったりする⋯⋯!」

「うん。空手のヤツ。瓦は割ったこと無かけど」

「カラテ‼︎ 雪平さんカラテやってるんですか⁉︎」

「えっと、やって『た』やけどね?」

「だからあんなすごいパンチだったんだ⋯⋯!」

「ちょっ⁉︎ や、やめてよぉ。全然すごくなかってぇ⋯⋯」

「パンチマシンで3ケタ出す人が何を言ってるんですか!」

 

 雪平さんは顔を真っ赤にして恥ずかしがってますが、わたしには何が恥ずかしいのか全然わかりません。

 ⋯⋯あ。

 そういえばさっきの格闘ゲームの時のあれ。

 あれってたぶん、自分がやった事あるから思わず熱くなっちゃったんだね。

 

「も、もう止めよう? 違うゲームばしよう?」

「ええー。もっと見たいです」

「いや、私はよかよ⋯⋯」

「おおっ。やってくれるんですか?」

「は⁉︎ なしさんなっと⁉︎ しとなかって!」

「梨さん、ナット⋯⋯え?」

「なしさん急に通じんごんなっとー⁉︎」

「梨サンキュー⁉︎ つーじんごん⁉︎ 納豆⁉︎ んー⁉︎」

「なんしぃぃいいい⁉︎」

 

 突然よくわからない言葉で話し始めた雪平さんと、そのせいで大混乱に陥ったわたし。

 その会話は、とんでもなくカオスなものになってしまい。

 雪平さんが、『もうパンチマシンはやりたくない!』と言っているのだと理解できるまで、しばしの時を要しました。

 

 

 □□□

 

 

「けいちゃーん? なんか雪平さんが、もうゲーセンを出たいってー」

 

 数分後。

 未だに座り込んでいたけいちゃんに、わたしは声をかけています。

 

「⋯⋯けいちゃん?」

「ひっぐ、ひっぐ! しごろぉ⋯⋯!」

「ま、まだ泣いてたの⁉︎ というかなんでそんな琴線に触れちゃってるの⁉︎」

「なん、なんかっ。すっげー悲しぐ、なっちゃっだぁー!」

「なんでよもー⋯⋯困ったなぁ」

「いっかいっ。抱ぎしめていい?」

「え、ヤだよ。鼻水ダラダラだし」

「ぶぐぁぁあ! しごろがヤダって言うぅー!」

「ちょっ! なんでさらに激しくなるのさ⁉︎」

 

 こ、困ったなほんとに。

 雪平さんが外で待ってるから早くしないといけないのに。

 あ! そうだ!

 

「けいちゃんけいちゃん」

「んぅぅ?」

「さっきのパンチマシンね、あと一回残ってるんだ」

「それがなん、だよぉ」

「これ叩けばスッキリするかもよ?」

「すっぎり⋯⋯?」

「そ。バシーンって叩くの」

「たたく⋯⋯」

「そう」

「ごれを、たたく」

「そう!」

「思いっぎり!」

「そう⋯⋯え?」

「しごろのかたぎをとるっ‼︎」

「ち、ちが‼︎ 思いっきりじゃな⋯⋯‼︎」

「ぬぐぅぁあああああッ」

 

 瞬間。

 さほど広くない店内に。

 生身で殴ったとは到底思えない、雷鳴のような轟音がはじけ。

 崩れ落ちた。

 

「ぐっ、ふぁ⋯⋯」

 

 わたしが。

 

「なっ‼︎ なにやってんだよ錏っ⁉︎」

「あはは⋯⋯」

 

 なにやってるか、って?

 けいちゃんが、本気で叩こうとしてたからさ。

 体を張って割り込んだんだよ?

 パンチマシンと、けいちゃんの間に。

 じゃないと、けいちゃん壊しちゃうでしょ?

 でも受け止めきれなかったみたい。

 機械、ちょっとズレちゃったね?

 あはは。

 

「⋯⋯すっきり⋯⋯した?」

「する訳ないだろ⁉︎」

 

 あらら。残念。

 

「び、病院行かないとっ‼︎」

「大丈夫だよー⋯⋯すぐなおる、よ?」

「ダメだって‼︎ 雪平はどこ行った⁉︎」

「⋯⋯そとー」

「わかった‼︎」

 

 もー、大げさだなぁ。

 能力でケガなんかしないのに。

 

 わたしを抱えあげるけいちゃん。

 そのとき、体に力が入らないわたしの頭がカクンと動き。

 顔が向いた先には、パンチマシンの画面。

 

 あー。

 ほんとにけいちゃんは強いなぁ。

 わたしを間に挟んでも、あんななんだ。

 

 

 

 SCORE 729kg

 marvelous‼︎‼︎‼︎

 

 

 

 

 □□□

 

 

 

 おまけ

『先程の雪平さんの台詞を訳すと』

 

「も、もう止めよう? 違うゲームをやろう?」

「ええー。もっと見たいです」

「いや、私はいいよ⋯⋯」

「おおっ。やってくれるんですか?」

「は⁉︎ なんでそうなるの⁉︎ やりたくないって!」

「梨さん、ナット⋯⋯え?」

「なんでそんな急に通じなくなるのー⁉︎」

「梨サンキュー⁉︎ つーじんごん⁉︎ 納豆⁉︎ んー⁉︎」

「なんでぇぇえええ⁉︎」

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