とあるヒーローと、悪の組織のボスの話。
設定、世界観は全て適当です。
受験勉強から逃げて書いてみたものです。
つまり適当。設定やら名前やら、世界観が適当です。
それでも読んでやるぜって方はどうぞ!
ーーー誰か助けて!
今日も街で、そんな悲鳴があがる。
それが聞こえれば、俺はそこへ向かって駆けていく。全速力で。
変身用腕時計から光が放たれた。
一瞬で、着ていた制服はヒーロースーツへと変化する。
『ハーッハッハッハッ‼︎』
次に聞こえるのはこんな高笑い。
善良な市民を笑い、悪事を働く、悪の声。
「そこまでだ!」
俺は走りに走って、その悪と対峙する。
「これ以上、悪さをすれば許さないぞ!」
『おやおや、やっとヒーローのご登場か。随分と遅かったじゃないか。こちらはもう、仕事も終わりそうなところだったよ。』
偉そうに、余裕そうに、踏ん反り返ってそいつは言った。
黒く長い髪、サングラス、黒づくめの衣装。
手には死神が持っているかのような、不吉な雰囲気を醸し出す鎌。
絶対的に絶望的な悪の組織の女ボス、アカネの姿があった。
「仕事が終わったんなら、その子をはなせ!」
『何をおかしなことを。悪の組織たるもの、人質を解放するわけがなかろう?』
アカネの部下が抱きかかえている子供が泣き叫ぶ。
少しはなれた場所で、母親らしき女性が必死に子供の名を呼んでいた。
周辺の景色は破壊され、皆は怯えたように座り込んでいる。逃げることも、対抗することも出来ない。
「……なら、お前を倒すまでだ!」
『……はっ。ならば打ち負かしてやるわ!正義の味方の味方、アオイよ!』
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時が変わって、夕方。
いや正確には夕飯時。
「うぅ……いってぇ……」
肩を回しつつ、俺はよろよろと家路についていた。
肩が凝ったとか、そういうレベルじゃないありえないような音が聞こえてくる。痛い。ただ純粋に痛い。
悪の組織との戦いは、アカネ+部下数十人VS正義の味方俺という圧倒的劣勢であったにも関わらず、全ての敵を倒すことができ、勝利を飾った。
『くっ……き、今日のところはこれくらいにしといてやる!覚えていろよ!』
そんな台詞とともにアカネは部下を引き連れて逃げていった。俺は子供を母親の元へ返し、壊された道だの建物だの全て直した。母親からは何度も頭を下げられ、子供からはありがとうと言われ、周りにいた者からは握手やサインを求められた。なので、戦いよりそちらの対応に時間がかかり、帰りが遅くなってしまった。
で、今に至る。
先ほどの活気溢れるヒーローは何処へやら、まるでストレス社会に流されて身も心も廃れてしまったサラリーマンのように歩いていた。
「腹減った……」
夕飯はできているだろうか。
うちは妹が食事係であり、俺の毎日の弁当まで作ってくれている。今日は俺より早く帰っていたから、多分作っていてくれているだろう。
「ただいまぁー……」
やっとこさ玄関のドアを開け、最後の力を振り絞ってリビングへと続く、階段を登る。
「
そんな風に。
声をかけた、俺の妹は。
黒く長い髪、フレームメガネ、黒いTシャツに黒い短パン。
ほんの少し前に俺と戦っていた、悪の組織の女ボスーーーー
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いただきます。
2人で声をそろえてそう言って、俺たちは食べ始める。
今日のメニューはカツカレー。副菜にコールスロー、丁寧に味噌汁も付いている。近くのスーパーのタイムセールに間に合ったので、材料は安く買えたと茜は喜んでいた。
ちなみに、俺が帰っている時にそのスーパーのタイムセールは既に終了していた。
「いいよなぁお前、そんな早く帰れてよ。」
「兄ちゃん今日も遅かったね。ファンが多いからね、兄ちゃんは。」
モテる男は辛いね、と茜は笑った。女子高生らしく。
「しっかし兄ちゃん。今日ほんと到着遅くなかった?ちゃんと走ってきた?私危うく予定外の建物まで壊そうか考えちゃったよ?」
「いや……今日だいぶ距離あったんだよ。あれでも全速力で走ってったんだぜ?戦う体力を使うわけにもいかねぇし。……あ、戦うっていったらお前さ」
そこでカレーを一口食べてから、俺はスプーンを茜にピシッと向けて言った。
「頼むからもうちょい手加減してくんねぇか?一回一回ガチ過ぎて体力もたねぇんだよ。俺より弱くって言わないからせめて対等ぐらいにさ。」
「対等に合わせてるわよ。それでも兄ちゃんが私よりボロボロなのは、兄ちゃんの戦い方が下手だから。」
「ぐっ……⁉︎」
ぐさっときた。すごい刺さったぞ今。
まぁ、ぶっちゃけ言うと茜は強い。めちゃくちゃ強い。
彼女が本気を出して戦った時はいつだったか、マジギレした茜を相手にした時は本当に死ぬかと思った。死にかけた。だから彼女が悪の組織として、俺の敵として成った時、思った。
……うわぁ。俺こいつの事倒さなきゃいけないのかぁ、と。
「そ……そうは言っても、じゃなんでお前そんな元気なんだよ。ちゃんと俺ダメージ入れたのに。」
「部下の子にね、いい受け身のやり方教えてもらったの。」
「マジで⁈」
また力つけやがって!
いや正直教えて欲しい!
「ごめん兄ちゃん。一応、企業秘密なんだ。」
「だよな……」
考えてみれば悪の組織に教えを請うヒーローってのもな。
正義の心が揺れかけた。危ない、危ない。
「そうだ兄ちゃん。あの子、大丈夫だった?あの後。体調とか気分とか。」
「うん。元気そうだったぜ。」
昼間は天気も良く、気温も高かった。だから俺も、市民の皆様の体調は心配していたのだが……
「そもそもお前の部下が色々手を回してくれてたんだから、そんな心配いらねぇだろうよ。」
そうだ。そうなのだ。
例えば、人質となってた子。
俺がアカネと戦っていて、彼女が振り回す鎌をどうにかこうにか避けながら反撃のチャンスを伺っていた時のことだ。アカネの部下はその子供にスポーツドリンクやらアイスやらを持ってきては
「暑くない?水分補給しっかりね。」
「気分が悪くなったらすぐ言うんだよ。」
と声をかけていた。その子は最初はびくびくしながら対応していたが、次第にリラックスして観戦していた。
また、周りに座り込んでいた市民一人ひとりには
「よかったらこれ、お使いください。」
「長引いてしまい、ご迷惑おかけします。もう少しで終わると思うので……」
という言葉とともに、うちわやら帽子やら、みずみずしい夏野菜を配り回っていた。人間の身体は、水を直接飲むより夏野菜を食べたほうが水分をより多く取り込めるようになっているのだ。
もちろん、それは全て茜の指示である。
お陰で、俺が必死で敵と戦っている中、周りは非常に和やかな雰囲気に包まれきゅうりやトマトをかじっているという、なにやらよくわからない図が出来上がった。
「だって、私達の目的って人質取ったり街壊して困らせることだし。人を傷つけたり命を危険にさらしたりはルール違反なんだよ。建物を壊す時も、中にいる人を全員出してヒーローが後で直しやすいぐらいに壊すのが鉄則だしね。それに熱中症は怖いでしょう。小さい子って特に代謝いいから水分すぐ抜けちゃうからねぇー。」
「うんまぁ……そうっちゃそうなんだけどさ。」
やってる配慮が、いい人のそれすぎる。
「でも、そこに経費かけちゃ組織としても大変なんしゃないの?」
「お金で人の命は買えないよ、兄ちゃん。」
「何それ超かっけぇ!」
市民の皆さまの安全第一ってか!
「でも悪事を働く者として、その信念を曲げる事はしないわ……だから戦いが終わって立ち去る時、私達がやったその行い全ての記憶を市民から消しているのよ!」
それでもって礼を言わせる前に立ち去るとか!
めっちゃいい奴じゃん!
ごっ……と頭をテーブルに伏せ、俺はうなだれた。
「もうさぁ……お前ヒーローやれよ……。俺より強いし、言ってる事もやってる事も、お前のほうがかっこいいよ……」
なんて俺は弱々しく言ってみた。
かんっ、と。
乾いた音がした。茜が持っていたコップを置いたらしい。
「兄ちゃん、顔上げな。」
茜の声のトーンが若干低い事に気付いた俺は慌てて顔を上げた。真面目な話をする時のサインだ。
……ていうか、あれ?もしや怒ってらっしゃる?
そう思うと嫌な汗が出てくる。
いや、マジで頼む。話をするだけで終わってくれ……!
「兄ちゃん。」
「は、はいなんでしょうかアカネサン。」
かたことなのは気にしないで。
「……確かに、兄ちゃんは弱いし、私は強い。正義の味方でいるのが辛い事はよくわかる。兄ちゃんの事を思うと、変わってあげたいと思うよ。それが兄ちゃんの頼みならなおさらだ。けど……」
だけど。
茜は口調を強くして言葉を続けた。
「それは、それだけは出来ない。私は悪の組織の人間。その信念だけは曲げられない。だから全身全霊を尽くして正義と戦うわ。それが悪として正義に対する最大で最高の礼儀ってものだと思うから。これからも私は敬意を持って兄ちゃんと戦い続ける。だから兄ちゃんは正義の味方として最大限の力で向かってきて欲しい‼︎」
「………………‼︎」
おお…………。
説教覚悟というか、死闘覚悟で身構えていたため、なんというか、お世辞無しに感動してしまった。
悪に励まされる正義ってあり得ないと思うけど。
そんなの今はどうでもいい。深いい話タイムはそんな設定も無視出来る。
「茜……ただの戦闘狂で戦ってる強すぎな妹だと思ってたけど、そんな素晴らしい志で俺と戦ってくれていたなんて……俺、もっと頑張るよ!もっと強くなってお前と戦うよ!」
「その意気だよ兄ちゃん!」
妹に励まされる兄。いやいいんだよそんな事。
今、この兄妹はスポーツマンシップに則りこれからも正々堂々戦い続ける事を誓ってるんだ!
「まぁ、ぶっちゃけ言うとヒーローになっちゃうと黒着れないから嫌なだけなんだけどね。」
「雰囲気が台無しだぁーーーっ‼︎」
兄をその気にさせといてそれを言うのか⁈
「だってー、黒以外に私になにが似合うっていうの?黒色ほど私の美しさを引き立てる色はないよ?」
「赤でも着てろ!」
茜だけに。
その衝撃(ショックとも言う)の強さのおかげで、俺は気になっていた茜に聞きたかった事を思い出すことが出来た。
「雰囲気で思い出したんだけど、茜、お前またボイチェン変えた?」
ボイチェン。ボイスチェンジャー。声変えられる機械のことね。
「あっ!やっぱりわかってくれた?ビッ◯カメラで一番性能いいヤツ買ったの!」
「……ちなみにそのお金はどこから。」
「手持ちがちょっと足りなかったから、兄ちゃんに渡すはずだったおこずかいから。」
「人のこずかいでボイチェンを買うんじゃねぇぇぇぇぇ‼︎」
もうお分かりかと思うが、金管理もこの家は茜が行っている。
「てか兄ちゃんもボイチェン使ったほうがいいよ?地声だと兄ちゃんだって知り合い居た時バレちゃうよ?」
「買う為の金がお前のボイチェンになってるんだよ!」
裏声で喋るのも結構キツイんだよ!
戦う以外で気苦労が絶えないんだよ!
「じゃ、兄ちゃん。」
ぱんっと茜が一つ手を叩いて、合わせた。
その形は、綺麗に空になった皿に向かって合わせる、ごちそうさまのポーズ。
「そんなわけで明日も誠心誠意、戦おうね。お皿洗いよろしく。」
笑顔でそう言うと、茜は自分の皿をシンクまで運び、テレビを見る為にソファへと向かった。
それはさながら、どこにでもいる女子高生のように。
さっきまで正義と悪を熱く語っていたのが嘘のように。
昼間に悪の組織として戦っていた姿が夢かのように。
「……ったく。」
俺は力なく笑った。
これは、俺も疲れたなんて言ってられねぇな。
明日への体力を取り戻す為、まずはパパッと洗い物でも済ませるか。
残り少なくなったカレーを平らげ、俺は洗い物を始めるのであった。
編とかついていますが、とりあえずこれで終わりです。
……本当に適当過ぎた泣。
こんなの書きたいなぁと思って、思うがままに書いた結果ですね。もっと面白く書ければなぁ……。
読んでくださった方ありがとうございました!