現在、夜の8時過ぎ。この深夜とも真夜中とも呼べない時間の中、
誰もいないとある公園で、1人の男の声が響く
「見当たらねぇ。くそっ! どこに逃げやがった」
声を荒げ、誰かを探している男がいる
しかし、男は気づいていない。その目的の人物が実は近くにいることに、
近くの木の影で気配を消し、男が立ち去るのを
……じっと待っていることに
(合流まで時間がないのに、道に迷ううえに見つかるなんて。はやくこの場を離れないと)
ジャリ
「っ!(しまった!!)」
小石を踏む音が響く、後悔してもすでに遅い、男はすでに少女を捉えていた
「見つけたぞ!!」
少女は走り出す。男から逃れるために
(こんな場所で見つかるなんて、誰か助けて!)
第16話「始まりはいつも突然」
時は少し遡る。大会を終え秀吉達と別れた明久とヒロ、
それにツユリの3人は家に帰る途中であった
ちなみに別れる途中、雄二は翔子に襲われていた
いつもの微笑ましい光景に、明久は助けを求める雄二を全力で無視し
友人として彼を暖かく見送った
「明久君って、いつもまっすぐ帰るのに今日はどうしたの?」
「そろそろ食料(塩or砂糖)が底を尽きそうなんだよ、だから買い出しにね」
「へぇ、アキ君って料理できたんだ。すごーい、ねぇねぇ何買うの、何作るの!」
「うん、いつもはちょっと貧相だから今日は豪華に半額弁当を!」
「アハハ、アキ君変なの半額弁当は料理じゃないよー」
「いや、ツユリちゃん突っ込むところはそこじゃないって
(それに弁当を買いに行くだけなのに、何でそんなに闘争心むき出しなの?
まるで戦場に行くみたいだ)」
『おい、ツユリ。約束のプリン忘れるんじゃねぇぞ』
明久達の会話はずむ。
今晩のメニューを考える者。今日の大会を振り返る者。
(安い)プライドを捨ててまで手に入れた、約束のご褒美に期待を膨らませる者
会話の内容は様々、しかし1人だけ会話に参加せず、憂鬱な気持ちでいる者がいた
『はぁ~(せっかくの大会に出られたのに、ヒロの役にたてなかったなぁ)』
マジスはため息をはく。さいわい、明久達に聞かれることはなかった
(このままじゃあ、ぼくはまた……)
ふと、マジスは昔のことを思い出す。ヒロと出会う前の、
自分が目覚めたばかりの頃を―――
――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――
精霊として覚醒した時、マジスはある少年のデッキの中にいた
その持ち主は、デュエルアカデミアに入学したばかりの新人
ましてはデュエルモンスターズを始めて間もない彼の実力は高くはない
負けるたびにカードを買いに行ってはデッキを強化する毎日であった
「おっしゃあ!! ついに念願のレアカードゲットだぜ! となると、どのカードを外すか」
誰しも経験があるだろう、デッキに必要なカードを入れる場合、
デッキから何を取り除くだろうか。特別に思い入れがなければ必然的に、
それは使用頻度が低いカードである
今回、その対象に選ばれたのがマジスだった
「ああ、やっぱこいつを抜くか」
(……はぁ、デッキから外されちゃった。次に入るのはいつになるのかな)
デッキから外されたカードが再び採用される可能性は極めて低い。
だがこの時のマジスはそんなことは知らず、楽観的に考えていた
しかし、この持ち主はあまりカードを大切にする方ではなかった
「あー、でもいちいちカードを戻すのもめんどくせぇなぁ。このカードもそんな
レア度があるわけでもねぇし……捨てちまうか、惜しくもないし」
『そんな! やめてよ、ねぇ、やめてってば!!』
マジスは叫び、懇願した「どうか捨てないで欲しい」と。
しかし、いくら叫ぼうとその声が彼の耳に届くことはなかった。
そして無情にもマジスのカードは外に放り出されていく
『だれか! ぼくの声が聞こえたら返事をして! お願い、たすけてぇ!!』
マジスは助けを呼び続けた、しかし彼がいる場所は人気がなく、
カードも木の枝に引っかかっていて偶然見つける事は難しい
それでもマジスは助けを呼ぶ声を止めることはなかった。
この時の彼には実態化する力はない、もしこの状態で、雨が降ってカードが濡れたり、
風で道端まで飛ばされ踏みつけられでもしたら……そう思うと怖くて仕方がなかった
幸か不幸か、雨や強風がくる事はなかった。でも今の状態が続いて何日たっただろうか
その間、マジスのことに気づいた者は1人もいなかった
『……ぼく、このまま死んじゃうのかな』
精霊に死の概念があるのかはわからない、だがマジスの気力は既に限界に達していた、
涙も枯れはてて流すこともできない。そしてその時が間近に迫っていた、
雲行きが怪しくなり遠くから、ガガガ―――ン、と雷音が聞こえてくる。
「う~ん、多分このあたりだと思うんだけど」
『っ!!』
マジスの耳に1人の少年の声が聞こえた。
少年は彼がいる木からおよそ2m離れたところにいる、
もし気づいてくれれば見つけてもらえるかもしれない。
マジスは少年の顔を見た瞬間、理由はわからないが確信に近いものを感じた。
もしかしたら、彼なら、っと、だから最後の気力を振りしぼり叫んだ
『……た……す、けて。ぼくは……ここに……いる……よ』
マジスの声が聞こえたのかどうか、わからない。しかし
「あれ? あんな所にカードがある」
少年は、視線をあげると、木の枝にカードが引っ掛かっていることに気づくと、
少年はカードがある木まで近づき、枝を上りカードを拾い上げる
同時に雨が降り出してきた、少年は急いで木から降り雨宿りの為、学園に足を走らせた
「ひどいことするなぁ、カードを捨てるなんて。もう少し遅かったら雨で濡れるところだったよ」
『……』
マジスは、この少年に感謝していた。見つけてくれたのは偶然かもしれない、
マジスの声が聞こえていたのか解らない。でも、たとえ言葉が通じなくてもいい、
今のこの気持ちを伝えたかった
『……あ、りが、とう』
「……? 気のせいかな。今、声が聞こえたような」
『っ!!(この人、もしかして!!)ぼくの声が、聞こえる……の?』
どこからか聞こえた声に、少年は辺りを探していたが。少年が今いる場所は放課後を過ぎた
誰もいない教室。聞き間違いか、と思ったときもう1度声が聞こえた。
ふと少年の視線は、手に持っているカードへと向ける
『やっぱり!!』
「うわぁあああ!! カードからお化けがでた!」
疑念は確信へと変わり、マジスは少年の前に現れた。
逆に少年は突然、声が聞こえたかと思いきや、手にしていたカードから半透明状の、
同じイラストのモンスターが現れたことに驚き、脚を滑らせ尻餅をついてしまった。
マジスはその光景を見て失礼だとは思ったが、思わず苦笑してしまう
『はじめまして。ぼくはマジック・ストライカー、デュエルモンスターズの……精霊です』
少年――遊佐 弘人――ヒロは、突如現れた精霊に聞きたいことが山ほどあったが、
どうやら彼は疲労がたまっていたようで。あの後、急に倒れてしまい、
半透明の体はカードに吸い込まれるように消えてしまった
彼をこのままにしておくこともできず、取りあえずカードを家まで持ち帰り、
カードを机の上において一晩待ってると、彼は再びヒロの前に姿を現した
「……えっと、おはよう。で、いいのかな? あっ、あとこれ残り物で申し訳ないけど食べる?」
ヒロはマジスの前にお皿を持ってくる、その上にはマジス用に合わせたのか、
小さめのおにぎりが置いてあった。温め直して少したつのか、ほんのり湯気が出てる
『えっと……せっかく作ってくれたのに、ごめんなさい。ぼくは食事を取らなくても大丈夫だし、
第一ぼくは実体化する程、力はないんだよ。今はこれが限界』
「そうなんだ、え~と、まずは、何から話したらいいのかな?」
今は土曜日のため、時間はたっぷりとある。ヒロとマジスは、約2時間ほど掛けてお互いの事を
話した。マジスは何故あの場所にいたのか、その過程を
そして、ヒロも話した。あと時間、何故あの場所に来たのかを
ヒロはここ最近、あの近くを通ると声が聞こえていたそうだ。
初めは勘違いかと思ったが、近くを通るたびに声は鮮明になっていく。
原因を調べるためにあの場所に行き、そして偶然、マジスのカードを見つけた……らしい
「そうだったんだ、それで、君はこれからどうする? 元の持ち主を探す、とか」
『それは……わかんない』
お互いの情報交換を終え、今後のことを考えるマジス。あてなんて当然ない
先程ヒロが言ったように、元の持ち主を探すというのもあまり良い案とは思えない
持ち主にはマジスの声も姿も見えない、その上1度は捨てられた身である、
仮に返しに行っても、また捨てられてしまうかもしれない。
しかし、助けてくれたヒロにはこれ以上、迷惑もかけたくもない。
マジスは途方に暮れていると
「もし、君さえよければ。これからも家にいない?」
『……えっ!?』
突然のヒロの一言に困惑するマジス
自分の中で、答えはすでにある。しかし、つい聞いてしまった
『……どうして?』
「いや、君のステータスを見せてもらったんだけど、僕のデッキに合いそうだったし
……それに、せっかくこうして知り合えたのに、このままバイバイ、ってのも寂しいから、かな」
『っ!!』
自分を必要としてくれることが、マジスには堪らなく嬉しかった。でも
『……でもぼく、弱いよ。それで捨てられたわけだし』
……同時に、怖かった。また捨てられて、あの孤独を味わうのかもと思うと、
つい、心にもない言い訳で逃げようとしてしまう。
しかし、ヒロはマジスの方に手を伸ばしながら言う
「言ったでしょ? 僕のデッキには合いそうだ、って、それに強いとか弱いとか。
そんな事は関係なく、僕は君と友達になりたいんだよ」
『……本当に、いいの?』
「僕は、もう自分の気持ちは伝えたよ。後は君次第だよ」
ヒロは優しくそうマジスに言う。マジスは恐る恐る、手を伸ばし、
ヒロの手を正確には指先をつかむ。実態がないため、形だけだが2人は互いに握手をした
「それじゃあ、よろしくね、マジス。僕の名前は遊佐 弘人、ヒロって呼んでね」
『マジス? それってぼくの事?』
「そう、マジック・ストライカーじゃあ長いから、略してマジス。……いやかな?」
『……っ』
マジスは首を振って違うと、表す。何故、返事をしないのかというと、もう限界なのだ。
不安や喜び、いろんな感情が渦巻いて、マジスの瞳には枯れたはずの涙が溜まっている。
そして、今の一言が決め手になったのだろう。マジスは泣きながらヒロの胸元に飛び込む
『うぁあああぁあああ! ヒロっ! ヒロっ! うぐっ、うっ、うわぁあああぁああああ!!』
「よしよし、今まで寂しかったんだね。もう我慢しなくていいから、今は泣いていいんだよ」
ヒロはそれ以上何も言わず、胸元で泣きじゃくるマジスの背中をさすりっていた、
彼が泣き止むまで。
この時、実体化していないはずのマジスは確かに、背中に感じた。
ヒロの手の温もりがしっかりと
その後、幼馴染のツユリにあっさり見つかると、彼女も精霊のドゥローレンを紹介し
ヒロの家は(実際はツユリの家だが)賑やかになった
マジスもいつの間にか実体化できるようになり、今では一緒に食事をとるようになり
それから何日かたって現在に至っている
(……いや、ヒロはそんなことはしない)
思考は現実に戻る。マジスは首を振り、一瞬頭に過ぎったことを否定する
「また、捨てられるのではいか」と疑惑を抱く自分を
(あの日から、ずっとヒロの役に立ちたいって思った。けど、なかなかデュエルで
ボクを使ってくれない)
役に立ちたい、その思いは日に日に増していく。だからもどかしい、
使ってくれないヒロに……彼の役に立たない自分に
(わかってる、ヒロは今までのデュエルでも最善の手で頑張っている。
だからこれは単なるボクのワガママだ。
それに、ヒロ達に出会ってボクの毎日は幸せだ。……だからこれ以上望んじゃダメなんだ)
彼が自分の中で踏ん切りを付けようとしたとき、ふと声が聞こえる
――――ケテ
『ん? ねぇ、ヒロ今何か言った?』
「えっ、なんの事?」
「ヒロ君?どうしたの」
「マジスがなにか聞こえたみたい」
『う~ん、助けを呼ぶような声が聞こえた気がしたんだけど、気のせいか―――』
――――ダレカ、タスケテ!
『いや! 気のせいじゃなかった。誰かが助けを求めているんだ!
・・・えっと、こっちの方だ!』
「マジスっ!」
「どこいくんだよ、ヒロ!」
「ヒロ君、ちょっと待ってよ!」
マジスが突然反対方向に走りだす。そばにいたヒロがいち早く気づき、彼を追いかける
突然ヒロが走りだした事で戸惑う明久とツユリは出遅れてしまう
マジスを呼び止めようとするも、彼は一向に振り向かない
ヒロは見失わないようにするだけで精一杯だった
『ヒロ、あれ!』
「………っ!!」
しばらく走っていくと、近くの公園にたどり着く
そこでヒロの視界に2人の人影が見えた
1人は、髪はセミロングでそれを頭の後ろで2つに束ねてゴムでまとえてある、
青いブレザーに、赤と紺の入り混じったスカートの制服を着て、
年は明久たちと同い年くらい少女だ
もう1人は、彼女と同じような制服を着ている男性。
ただし何か呟き、血眼になって少女に近づいていく、
どうみてもこっちは怪しい
「もう逃げられないぞ、大人しく貴様が持っている『それ』をよこせ」
「いやです! これは絶対にあなた達に渡しま―――きゃっ!」
彼女は両手で何かを大事そうにかかえている、男から逃げようとしたが、
振り返るひょうしに足をつまづいてしまう
「ふん、散々手間を取らせやがって、さぁ渡せ! 貴様の持つ No.(ナンバーズ)を」
「・・・・・・はぁ、はぁ、待ってて、今・・・・・・クソッ!」
ここまで休みなしの全力疾走で走ったせいか、息が上がり、足はふらつき
思うように走れない。ヒロは自分の体力のなさを呪う。
男はゆっくりと彼女との距離を縮めている1歩、また1歩と彼女に近づいていく
2人との距離はまだあり、たとえ体力が残っていても、とても間に合わない。
そう思った瞬間、ヒロの隣りを駆け抜ける者がいた
「だらっしゃああああぁぁぁぁぁ!」
「ぐふぉあ!」
明久が飛び蹴りを繰り出し、男を吹き飛ばす
「明久君!」
「もう、ヒロってば急にどこかに行くんだもん、見つけるの苦労したんだよ」
「えっと、それは……ゴメン。僕も無我夢中だったから、……そうだ君大丈夫だった?
えっと、僕の名前は遊佐弘人」
「えっ、その、あっ、ありがとうございます。私、如月と言います」
呼吸を整え、ヒロは彼女に手を差し出し立たせる。見たところ転んだこと以外は
外傷はない
「……ん?」
ふと気づくと、さっきからヒロ達を凝視し、心無しか驚いている
「あの、僕達の顔になにかついてますか?」
「えっ? いや…その…あなた達、精霊がついているのですね……と」
「「え?」」
突然のことで驚く2人
「じつは、私にも見えるんです。デュエルモンスターズの精霊が」
「「えぇ!!」」
2人はより一層驚く
「………気づいてなかったんですか、って! こんな事をしている場合じゃなかった
すみません! 突然ですが、この場所にご存知ないですか」
何かを思い出し、慌てた様子で何かを書いたメモを差し出す、それは住所を書いたメモだった。
内容を見ると、そこには見覚えのある場所が書いてある事に、明久は首をかしげる
「あれ? このメモに書いてある住所、僕が住んでいるマンションに近いような」
「本当ですか!」
詰め寄る彼女、戸惑う明久はヒロに話を振ってみる
「ヒロ、どうしようか」
「とりあえず、彼女の言うとおり一旦ここを離れてツユリちゃんと合流しよう」
そうしてこの場を離れようとしたとき
「そうは……させるかぁぁ!」
「ぐはぁ」
「明久君!」
攻撃が浅かったのか男の目覚めが思ったよりも早く、反応が遅れてしまった
近くにいた明久を殴り飛ばす
「クソッ、ようやく獲物を見つけたというのに妙なガキどもに邪魔されるは、最悪だ!」
「ヒロ、逃げるんだ!」
「逃がすかぁ! こうなりゃ、『闇のゲーム』でそいつからナンバーズを奪い取る!」
男は懐から1枚のカードを取り出し正面にかざすと、足元から漆黒の闇が霧のように広がり
瞬く間に彼女を包み込もうとした
「危ないっ!」
「きゃっ!?」
闇が彼女を包み込む寸前、危険を感じたヒロが彼女を突き飛ばす。そのとき、彼女の手から
デッキケースが離れ、ヒロの足元に転がり落ちる
そしてヒロは闇に飲まる
「なっ、何だこれ!」
デッキケースを拾い、周囲を見渡すと。それはまるで霧状の闇がドームのようになっており、
向こう側が見ようとしても、霧が深く見わたすことができない
この異様な雰囲気に、マジスは怯えヒロの傍を離れようとしない
しかし、異変はそれだけでは終わらない、男がデュエルディスクを展開すると、
ヒロのデュエルディスクもそれに呼応するかのように動き出す
「っ、デュエルディスクが勝手に!」
「こいつは好都合だ、この中はすでに外と隔離されている。助けを呼ぼうが無駄だ。
ここから出たければ、デュエルで俺に勝つことだ。そして俺が勝てば貴様が持つ、
ナンバーズのカード渡してもらおう」
「(……やるしか、ないのか)わかった、そのデュエル受ける」
覚悟を決め、2人は距離をとり、開始の合図を告げる
「「デュエル!!」」
おわり