第25話「写真とマヨネーズと容疑者はムッツリーニ?」
「明久あああぁぁ!!」
「のわっ、危なっ!」
僕を見つけるなり、雄二が怒号と共に飛び蹴りを繰り出した。僕は咄嗟に
身をかがめて回避。一瞬遅れて、雄二の蹴りが前髪を掠めた
「出会い頭に飛び蹴りとは、何するんだ!」
「何しやがるはこっちのセリフだ! 俺が気絶している間に、翔子にとんでもないメールを
送りやがって! 目が覚めたら地下牢に閉じ込められてたぞ!」
メール? ああ確か2話くらい前に、ゴマ団子とは名ばかりの禁断の果実(?)を
雄二が食べて寝込んだ(気絶ともいう)後に『よかれ』と思って送ったあれか。というか――
「雄二! なぜ雄二がここに……逃げたのか? 自力で霧島さんから脱出を!」
「お前は何を言っているんだ」
雄二が呆れの色を含んだ目で見てくる。よく見てみると、雄二の服は所々が、
ほつれれていることに気付く。その恰好が、いかに脱出が熾烈なものだったのかを
雄弁に語っていた
「そういうわけだ、俺も同じ手を使わせてもらう」
「何を企んでいる」
「なぁに、普段ろくに食べずにいる明久が心配でな、これから姫路に差し入れを頼もうと――」
「だらっしゃあああ!」
こいつ、何とんでもないこと言い出すんだ! 今すぐこいつの口をふさがなくては、
今度こそ僕の命が危うい!
「甘い!」
「ちっ!」
気絶させるつもりで力を込めた渾身の蹴りも、雄二に手で払われ簡単に
軌道を逸らされる
「お前の考えは読めているだ。喰らいやがれ!」
反撃とばかりに雄二は再び蹴りを放つ。狙いは僕の頭か!
けど僕もただ黙って喰らうわけにはいかない! 雄二の攻撃に対し、僕は姿勢を低くして
雄二のアゴ目掛けて拳を振り上げる
「明久ぁあああ!」
「雄二いいいっ!」
だが僕と雄二の攻撃は互いに当たる寸前、受け止められた
「如月!」
「ゆうくん!」
「……2人とも、いまは清涼祭の準備で忙しいんだから、体力はそっちに回しなさい
それでも続けるっていうなら、あたしが相手になるわよ」
目を吊り上げ僕らを威嚇する。その表情には怒気を……いや激気を放っていた
腕を掴む手はがっちりと握られて振りほどけそうにない。時折ミシミシと軋む音が
鳴っているんだけど
「……わかったよ」
雄二は攻撃の構えを解くと踵を返し、自分の担当している持ち場に戻っていく。
こいつがこんな簡単に引き下がるなんて。そもそも、さっき自分の策を口にすることから
して怪しい。いったい何を企んでいるんだ、こいつは
「ああ、そうだ明久」
「なに?」
言いそびれたことがあったのか、雄二は歩みを止め、首だけを後ろに振り帰る
「忘れ物だ」
どこからか取り出した写真を手裏剣のように投げる――が、狙いは少しそれ、
写真は隣のゆうくんの方に向かう。彼女は胸元の高さに飛んできたそれをキャッチする
「……」
「ねぇ、その写真何が写っているのさ――」
「はあああっ、セイヤーッ!」
「ゴーゾッ!?」
確認するよりも早く、彼女の両拳と頭突きが、僕の腹部めがけ放たれる!
僕は腕を組み、さらに直撃の瞬間に、腹に力をいれての2重の防御の姿勢をとる
だが彼女の攻撃はそんな防御をたやすく突き破る。腹に一撃をもらった
僕は痛みに耐えかね、その場にうずくまる
「……これは何かしら?」
ゆうくんは持ってた写真を、僕の傍にはらりと落とす。
その写真には、みんながゴマ団子の試作をしている中、こっそりつまみ食いをする
ゆうくんの姿があった
なっ、その写真は今朝ムッツリーニ商会で買ったばかりで、上着ポケットの中に
――ってない! さては雄二、さっきの僕への攻撃は囮で本当の狙いはこっちか!
痛む腹部を抑え、雄二にアイコンタクトを飛ばす
(謀ったな雄二! 大人しく引き下がったのも、このためだったんだな)
(それはお互い様だ。これで俺の気はすんだ。じゃあな)
(雄二いいいいっ!!)
雄二は片手をあげて去っていく。何か一言言ってやりたいが、痛みでまだ声がだせない
「まぁいいわ。ほらあーちゃん、いつまで寝ているの、この角材を切るから
ちょっと手伝って」
痛みが弱まったタイミングでゆうくんが言ってくる。ここで逆らっても
しかたないので僕は起き上がり、言われる通りにする
僕がしっかりと角材の端を押さえたのを確認するとゆうくんはのこぎりを手に、
片足で角材の一辺を押さえ、ギコギコと切り始める。
――ほほう
「……」
切るのに集中している彼女は気づいていない、今のこの状況に。僕は彼女に悟られない
ように、視線を不自然がないくらいに、ゆっくりと下に向ける。そこは――夢が広がっていた
片足で角材を支えるように持ち上げているので、スカートとニーソの間、その
僅かに見える太ももの絶対領域が目と鼻の先に!
さらに、のこぎりを扱うときの上下運動でスカートもそれに呼応するように動き、
大胆に捲りだして絶対領域のその先が今にも見えそうではないか!
まったくゆうくんもリアルファイトなら隙を見せないのに、こういう所でガードが
甘いんだから。気づいたのが僕のような紳士だからよかったものを。ちょっと無防備
すぎないかな……下から覗かれても気づかなそうだ
いやいや、僕は覗こうとなんてしないよ。いまのこの状況はあくまで清涼祭の出し物の
準備をしていて、その過程で偶然こうなっているだけで、僕に悪意はない……ないけど
偶然て重なるものじゃない? だから偶然たまたま見えてしまってもそれは罪には
ならないよね? そもそもスカートのその先を追い求めるのは男としての本能、
本能に従うことが罪だとでもユートピア! ……落ちつけ明久! 自分でも何を言って
いるのかわからなくなってきたぞ
ふー、ふー、よし落ち着いたぞ。もう少しで見え――ガキン! ……ガキン? 何今の音?
「なっ!?」
視線を上げると、ゆうくんが使っていたのこぎりは根元から折れていた
「ゆうくんって、不器用なんだ」
「そんなことない! これはのこぎりが悪かっただけよ。こっちのを使えば」
羞恥で顔を赤く染めながら、苦しい言い訳をするゆうくんは誰の返事を聞く間もなく、
傍にあったのこぎりを掻っ攫い、再び角材を切り出す。心なしかさっきのより勢いをつけてだ
「ほら見なさい、さっきのは偶然かなんかよ。大体のこぎりがそうそう折れるわけ
……あっ!」
再び嫌な音が響く。もちろんその正体はのこぎりが折れる音だった。しかも今度のは
言い訳のしようがない、折れる瞬間をこの目で見たのだから
「……」
ゆうくんは折れたのこぎりを呆然と眺めるだけで、何も言えずにいた
しかしどう使ったらこんな折れ方が出来るのだろうか。ナナメに折るなんて
「祭りの準備にこの手のアクシデントはつきものよ。これが若さゆえの過ちってやつね」
「若さって?」
「振り向かないことよ」
決め顔で宣言するが、折れたのこぎり片手に言ってもイマイチ決まらない
それに言葉の使い方も間違っている気がするのだが、それはこの際、粗末なことだ
問題は、僕が千載一遇のチャンスを逃してしまったことだ
「はぁっ」
「どうしたのよ。ため息なんてついて」
「いや、なんでもないよ。それよりも、のこぎり片づけないと」
「?」
僕は適当に言って誤魔化す。本人を目の前に『君のスカートを覗いていたのsa!』
なんて言う度胸は僕にはない
だけど希望は失われたわけじゃない。それは何故かって? ここにはムッツリーニが
いるのだから。彼こそが僕に残された最後の希望だ! 彼なら僕が至れなかった
楽園をカメラに収めているに違いない。その証拠に――
「だれだよ、こんなところにペンキを溢したのは――ってなんだムッツリーニか」
「忙しいのに汚すなよ。おーい、誰か片づけるの手伝ってくれ」
「いやまて! ちょうどペンキの赤が足りなくなってきたんだ。これで代用できないかな
ほら、資源は無駄にはできないだろ」
「……お前、天才か!?」
鼻血の海に身を沈めようとも、カメラだけは決して手離さないムッツリーニが
そこにいるから
「いやいやいや、みんな何で落ち着いているのさ! って誰も聞いてくれない!」
ヒロが慌てるも誰も気にした様子はない。ここではよくあることだからね
「はぁ、取りあえず輸血の準備しなきゃ」
――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――
「ってなことがあったんだよ」
「それで、ムッ君は大丈夫なの」
「うん、ちょうど輸血パックが最後だったから、危ないところだったよ」
「ヒロもだいぶ輸血準備が手慣れてきたよね」
「ははっ、だんだんこの状況に慣れつつある自分が怖くなってきた」
ヒロ達に昨日のことを話そうと思ったところ、『どうせならお茶でもしながら
話さない?』というゆうくんの提案で『DK堂』って名前の喫茶店に集まっている
それぞれ適当に注文を済ませ、しばらくは何気ない話をしながらのんびりしていく。
雰囲気が和んだタイミングを見計らって、ゆうくんが順を追って語りだした
「――というわけなの」
10分ほどで語り終えると、ゆうくんはコップを手にして喉を潤す。
「ナンバーズは手に入ったはいいものの、手掛かりは0、また振り出しに戻ったのよね」
「お姉ちゃんあのね……そのことなんだけど。こ、これ!」
と、ヒナさんが少し躊躇いながらも、意を決っして手帳のようなものを手渡す
「これは?」
「えっと、ナンバーズに関係している事件がないか調べてみたの」
「これを、ヒナが1人で?」
「その、遊佐君たちと一緒に」
「そうだよ~。頑張ったんだから」
「いつのまに」
まさか僕らの知らない所でヒロ達がそんなことをしてたなんて、ちょっと驚きだ
「昨日、明久君と優希さんが2人でこそこそしてた間に、チョットね」
僕は今の言葉に含んだ意味に気づいて、苦笑する。どうやら、ゆうくんと単独で
動いてたことは、全員にばれてたみたいだね
「でもね、まだ調べ始めたばかりで確証があるわけじゃないけど、
それでも、少しでもお姉ちゃんの力になれればと思って」
「ありがとうヒナ。今後はそれを参考に探してみましょうか」
「お姉ちゃん……うん!」
「それじゃあ、まずは――」
「お待たせしました。こちらご注文のお品です」
今後の方針も決まったところに、丁度いいタイミングで、ウェイターがトレイを持って
やってきた。どうやら思ったより時間が経っていたみたいだ
「ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「ええ、大丈夫です」
料理をテーブルに置き、注文の確認を終えたウェイターは、
軽くお辞儀をするとカウンターまで下がっていった
「まぁ、話はこの位にして食べましょう」
皆それぞれ運ばれてきたデザートに目を向ける。僕が頼んだのはドーナツだ。
シンプルなリング状の型、その上にうっすらと塗したシュガーパウダーと、
生地の間にカスタードクリームを乗せた。見た目はドーナツ屋でよく見かけるものだ
僕はそれを手に取る。それは少し前に揚げあがったのを持って来たのか、ドーナツはほんのりと
温かった。それを口まで運ぶとシュガーパウダーの甘い香りが鼻孔をくすぐる。
僕は我慢できず、咀嚼する。高温の油で揚げた生地はもちもちとして、
口いっぱいに油と砂糖の甘さが広がる
次に広がるのはカスタードクリームだ。生地のほうを甘めにしたのか
クリーム事態は甘さは控えめだ。その代わりに卵をふんだんに使っていて、まろやかさと
コクががあり。また後からくる『お酢』の酸味もまた、生地と絡み合って何とも言えぬ味わいが
口中に――ウヴァ!?
「ぶっ!?」
「ツユリちゃん!」
「だ、大丈夫ですか!?」
「どっ、どうしたの、」
僕が吹き出したことで、正面にいた雨宮さんにクリーム状のものが掛かる
皆の目が僕と雨宮さんに集まる。けど僕はそんなこと気にする余裕はなかった、
だって――
「これ、カスタードじゃない。マヨネーズだ!」
「「「はっ?」」」
「ふぇぇん。アキ君ひどいよぉ。ベトベトするぅ~」
僕が口にしたことが予想外だったのか、三人とも疑問の声を漏らし、僕と皿を交互に見返す。
僕もにわかには信じたくない、カスタードクリームだと思っていていざ口にしてみれば、
その正体はなんと子供からお年寄りに幅広く愛され、さらには少年誌の付録にものり、
とある考古学を学ぶ学生いわく『世界で一番偉大な食い物だ!』と謳われている
あのマヨネーズだった
「取りあえず、まずはマヨネーズを落とさないと。ツユリさん少しじっとしててくださいね」
「うん」
隣に座っていたヒナさんはハンカチを取り出すと、そのまま雨宮さんの顔についた
マヨネーズを拭っていく
「はいこれで終わりました。なんともありませんか」
「うん、ありがとうひなちゃん。少し匂いが残っているけど大丈夫だよ。
けどアキ君が急に白いものを顔にぶっ掛けてきたからビックリしたよ」
雨宮さんお願いだからもう少し選んで! 間違ってはいないけどさ、それじゃあ僕が
変態に聞こえるんだけど。ほら、他の席からシャッター音が聞こえてくるんだけど
「誤解を招く言い方はしないでよ、掛けてしまったのはマヨネーズだから!」
って、しまったああぁぁ! 事実だけどよけい意味不明なことになってしまった!
周囲の目が、疑いから変質者を見るようなそれに変貌していく! やめて!
携帯を構えないで!
「どうかされましたか?」
騒ぎに気づいたののか、店長のD・遠藤さんが駆けつける。事情を話すと、
彼の表情は困った顔になっていく
「またか」
「またって?」
「話をする前にお客様。そのままじゃ気持ち悪いでしょう、奥の部屋に簡易ですがシャワーが
あります。使ってください」
「いいんですか」
「元はと言えばこちらの不祥事ですから、これくらいはさせてください。それと着替えですが
ロッカーにウチの作業服がありますので、それでよろしければご自由に使ってください」
「ありがとうございます」
店長にお礼を言うと、シャワー室へと走っていった。彼女が見えなくなるのを
確認した店長は、一呼吸の間をあけて話し出す
「うちでホールをやっている小錦って子が、ここ最近あることで悩んでいて。
今日みたいな出来事が今月で、5回目になるんです」
「それって、カスタードとマヨネーズを作り間違えるほど深刻なものなの」
「それがね、なんでもストーカー被害にあってるそうで」
店長の開口一番に、なにやら物騒な単語が出てきた
「数日くらい前から、誰かの視線を感じるようになって
ひどいときは、着替え中の盗撮写真を送ってきたこともあるそうです」
「覗きだけでなく、あまつさえ盗撮だなんて、最低ね。あーちゃんもそう思うよね」
「全く、同じ男として許しがたいことだね」
どこからか『お前が言うな!』って声が聞こえる気がするが、何故だろう。
まぁいい、重要なのはそこじゃない
「警察には知らせたの?」
「もちろんです。けど足取りは掴めていなくて。ただ、幸いと言っていいかはわからない
ですが、ここ最近は被害にあっていないそうです」
その時
「キャアアアアアッ!!」
「今の声って」
「更衣室のほうからだ。ついてきて!」
僕らは遠藤さんの案内の元、雨宮さんがいる更衣室まで駆けつける。
扉のドアに手を掛けた状態で、僕は一度振り返る
「開けるよ」
「ええ、でも慎重にね」
「わかった。 ……!」
何が起こっても対処できるよう慎重にドアを開ける。すると、ドライヤーがいきなり
飛び込んできた! 視界の奥では、 バスタオルを片手に雨宮さんが、ボールを投げた
体勢をとっている。どうやらこれを投げたのは彼女のようだ……なんて状況判断している間に、
ドライヤーは目と鼻の先まで迫っていた!
「ふっ!」
「ツユリちゃん、だいじょ――あいたっ!?」
僕は体を腰の位置にまで後ろに仰け反って回避する。頭上を通り過ぎさったそれは、
僕の後ろにいたヒロの顔面にヒットする
あ、危なかった。咄嗟に体が反応したけど、密かに練習してた『マトリックス避け』が
役に立つなんて。ふっ、僕だって、いつまでもヤラレてばかりのキャラじゃないんだ!
ゴキッ ←腰を痛めた音
ゴン ←頭を激しく強打した音
バタバタ ←痛みに悶える音
「ぬおおおおっ、こ、腰と頭が、僕の大事な脳細胞がぁ!」
これじゃあ避けるよりダメージが大きいじゃないか!
「落ち着いて! あたし達よ」
「あっ、ユッキー、ヒナちゃん。ふええええん、怖かったよ~!」
床に転がる僕と、ヒロを無視して、ゆうくんが雨宮さんを止めに入る。
そこで僕らに気づいたのか、目に涙を浮かべながら雨宮さんは駆け寄ってくる
「なにがあったの」
ヒナさんに宥めてもらって少し落ち着いた雨宮さんは、少しづつ語りだす
「それがね、シャワーを浴びていたときに、変な音がして、気になって窓を開けてみたの。
そしたら、木に誰かいて、何か投げて去っていったの」
「その何かってこれかな。これは、写真? ……っ! ゴメン!」
落ちてた写真を拾い上げて中身を確認するが、すぐに写真から目を逸らす。
その写真にはシャワー中の雨宮さんが映っていたからだ。
さいわい大事なところは、アニメみたいに不自然な湯煙に隠れてはいたが、
僕の中で罪悪感が芽生える。いくら不可抗力とはいえ、本人を目の前に
こんなものを見てしまったことに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる
「ツユリ、犯人の顔は見た?」
「ううん、一瞬だったし、怖くてすぐに部屋に逃げたから」
「参ったわね。見つけようにも、手掛かりがないんじゃ」
『そいつなら俺が見たぜ』
困り果てたとき。話を聞いていたのか、ドロロがにゅっと姿を現した
「どうかしました?」
「いえ、なんでもありません!」
っと、ここには僕らだけじゃないんだ。遠藤さんには精霊は見えない、
僕らは遠藤さんに聞こえないように少し離れて、小声で話す
「ドロロ、それは本当なの!?」
『ああ、だが素早くて顔までははっきりとは見えなかったがな。性別は男だ、背はやや小柄で、
身のこなしは忍者のように軽く――』
その特徴を聞く限り、当てはまる人物に1人心当たりが、いやまだ確証がない
決めつけはよくな――
『あと、カメラを持っていたな』
疑念が確信にかわった瞬間だった。そう思ったのは僕だけでなく
「……ひょっとして、ムッツリーニ君がやったの」
「もしそうだとしたら、これは不味いわね」
「確かに、これは一大事だ」
もしムッツリーニが捕まったりでもしたら、大変なことが起きてしまう
取り調べを受ける
↓
カメラ没収
↓
中身を改められる
↓
ムッツリーニの写真(盗撮)の数々
↓
デリート
↓
世界は世紀末状態
そんなことになってしまったらムッツリーニが経営するムッツリ商会は崩壊!
これは性欲を持て余す僕達男子高校生には死活問題だ。やがて衝動を抑えられなくなった
彼らは暴走し、魑魅魍魎跋扈する地獄絵図となる。そんな破滅の未来、何としても
回避しなければ!
「違う、ムッツリーニはこんなことしない!」
ムッツリーニはたとえ盗撮や覗きはしても、ストーカーなんて人に迷惑をかける
最低な行為は絶対にしない奴だ
「ねぇこれって、ナンバーズが関係しているのかな?」
「もしそうじゃないにしても、あたしは犯人を許せそうにないわ。
たとえ土屋くんだったとしても」
「だったら、僕が無実を証明して見せる! ムッツリーニのためにも」
うん、嘘は言ってないよね
「どのみち、詳しく調べてみないとわからないわね。犯人はどこに逃げたかわかる」
『あっちだ』
ドロロが前足で器用に指さす。方角がさえわかれば、まだ見つけられるかもしれない
「みんな、行けるよね」
「うん!」
「もちろん」
「がんばるよ、お姉ちゃん」
僕も無言でうなずく
「捜査開始!」
こうして、僕らのナンバーズ探しは始まった
「……ところで、見たってことはドロロも近くいたのよね。……エッチ」
『違っ、妙な気配がしたから心配で――様子を見にいっただけだ! んなんじゃねぇ!』
――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――
「と言って意気込んだものの、今のところ収穫はなしか」
まずはムッツリーニのアリバイを聞くため、彼がいる保健室に向かったのだけど。
そこにムッツリーニの姿はなかった。携帯に掛けてみるが、一向に繋がらない
雄二や秀吉に訊いても、事件が起こった前後でムッツリーニを見たって
話はなかった
「せめて、ムッツリーニの無実だけでも証明出来たらいいんだけど。
とりあえず一度戻ってみよう、ヒロたちの方で何か掴めたかもしれない」
DK堂に戻ると、他に怪しい人がいないか、探しに行ったヒロと雨宮さんが
帰っていた。あっ、僕に気づいて雨宮さんが手を振ってる
「あっ、アキ君お帰り~。どうだった」
「ダメ、ムッツリーニと連絡つかない。ってあれ、ゆうくん達は?」
イスに腰かけて、進捗状況を聞いてみようとするが、2人が戻っていないことに気づく
「ああ、明久君、お帰り。如月姉妹なら、何か犯人を特定できるものがないか
辺りを調べているところだよ。さっき戻って来たけど進展はないって」
「そうか。ところでそっちはどう?」
「ツユリちゃんと回って、容疑者らしい人を3人見つけたよ」
「本当!? よくそこまで絞れたね」
「ドロロのおかげで、ある程度特徴は掴めてたからね。後は事件が起こった前後に
カメラを持ってる人を見つけるだけだからそれほど難しいことじゃないよ」
だとしたら、どうして浮かない顔をしているんだ
「ここまでは順調にいったんだけど、どの人も一癖あって、だれが犯人かまでは
わからないんだ」
「僕にも教えて、どんな人だったの」
「それが――」
――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――
side:ヒロ
◇ ◇ ◇ 容疑者その1 名前:門屋 士(モンヤ ツカサ) ◇ ◇ ◇
1人目の容疑者は門屋 士さん、DK堂から200メートルほど離れた商店街で発見。
辺りをキョロキョロと何かを探しているようだった
「すみません、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「い、いいけど、き、君たちは」
背丈はたしかによく似ているけど、体格はひょろっとして、失礼だけどモヤシ
みたいと思ってしまった。とても俊敏な動きが出来るようには見えない
「――友達が被害にあって、それで僕達で調べているところなんです」
「そ、そうなんだ。で、でもボクは何も知らないよ。ボ、ボクはただ、
清涼祭で使えそうな写真を撮りに、き、来ただけなんだから」
でも、声を掛けただけで共同不振な態度が怪しい。ここは少し踏み入ってみようか
「写真見せてもらってもいいですか」
もしこの人が犯人なら、簡単に見せてはくれないだろう
「い、い、いいよ。こ、これ。き、今日は良く撮れているん、だよ」
「そうなんですか……え!? こ、これって」
思いのほか簡単に差し出したことに、目を丸くする。そして写真を見て、
今度は言葉を失った。
歪み、それにピントがあってなさ過ぎて、2重に写っている
まるで世界そのものに拒絶されているみたいだ
この写真を自信ありげに見せる彼に、どう言葉を掛けたらいいか、
ボクには言葉が見つからない。良く言えば個性があって独創的。悪く言えば――
「この写真、いろいろブレてて、トンデモジョーズ――あっ、間違えた。トテモジョーズだよ」
「ツユリちゃん!」
ボクがどう言葉を選んで応えようか悩んでいるというのに。横から覗いていた彼女は、
慣れないお世辞を言おうとして失敗。しかも片言だし。この子は嘘が下手なんだから!
そんなことを言われたら、門屋さんは怒るに決まってるじゃない
「し、し、失礼だな君は! こ、これは、ボ、ボクが上手く撮れないんじゃない!
せ、世界の方が撮られたがってないだけなんだ!」
『その言い訳は無理があるんじゃないかな?』っと反射的に思ったが、それを口に
するわけにはいかない。悪いのはこっちだし、この場は謝るしかない
「す、すみません」
「ごめんなさい」
「ふ、不愉快だ。し、失礼するよ! 全く、どうして誰も僕の実力を理解できないんだ」
当然、こんなことで門屋さんの怒りは収まるはずもなく。彼は不機嫌なまま
行ってしまった
◇ ◇ ◇ 容疑者その2 名前:相川 初(アイカワ ウイ) ◇ ◇ ◇
二人目の容疑者は、相川 さん。DK堂でケーキを食べている所で見つけた
「この辺はよくこられるのですか」
「ああ、写真撮るって楽そうに見えるけど、色々歩き回るから結構体力を使うんだよ?
時々甘い物が食べたくなってね。ここには今来たところさ」
さっきの門屋さんとは正反対でポッチャリとしている。
この体格じゃあ、門屋さんとは逆の意味で俊敏な動きは無理そうだ
「それで何かあったのかい? 俺に聞きたいことがあるんでしょ」
ボクが、どこから話したらいいものかと考えていると、逆に相川さんから話を振ってきた。
思いのほか協力的なことに、内心ホッとし、ボクは相川さんに事件のことを話した
「おいおい、まさか俺を疑っているのかい? この腹じゃあそんな動きは無理だよ」
自虐的な笑みを浮かべ、自分のお腹を撫でる相川さん
「それに ほれ。今日撮った写真だ、どこも怪しいもんはないだろう」
手渡れた写真を受け取り確認する。所々ぼやけているのが混ざっているが、
さっきの門屋さんほどヒドイ出来じゃない。それ以外は特に怪しい所は……なさそうだ
「ありがとうございます。ツユリちゃん、行こう」
「あっ、待って! うわっ!?」
写真を相川さんに返し、これ以上聞けそうにないので次に向かうとする。
少し離れた場所で休んでいたツユリちゃんに、ボクが声を掛けると、彼女は慌ててやってくる
そんなに急いだら転ばないかと心配になる。と思ったボクのカンは正しかった。
案の定彼女は自分で自分の足を引っ掛けてしまう
転ぶ寸前のところを相川さんが、手を掴んで受け止めてくれた。
よかったあのままだと、頭から地面にダイブするところだ
「大丈夫かい、きみ?」
「う、うん。ありがとう」
「いいって、着慣れてないんだから無理ないさ。次からは気をつけなよ」
ボクらはもう一度相川さんにお礼を言って、今度こそその場を離れた
◇ ◇ ◇ 容疑者その3 名前:詩島 剛(シジマ ツヨシ) ◇ ◇ ◇
最後の被害者は詩島 剛さん。この先の湖のある公園にいて、どうしてか、
茂みに身を隠し、カメラを構えて何かを待ち構えているようだった
「知らねぇよ」
「じゃあなんで、こんなところに隠れてたの。それもカメラを持って」
「俺はタダ、ここでネェちゃんを待ってただけで、何も変なことはしてねぇよ」
彼の体型は太ってなく、痩せすぎてもいない。3人の中では、最も一番ムッツリーニ君の
体型に近かった
「お姉さんを? 待ち合わせでもしてたの」
「いんや、これから進(ススム)兄さんとデートだからさ。俺がこっそりついて行って、
このカメラで2人の思い出を作ってあげようと思ってさ」
「進兄さん? 兄妹でデートなの」
「ちがう、ちがう。俺が勝手にそう呼んでいるだけ。俺のネェちゃんってさ、
普段は無愛想なのにさ、進兄さんの話になるといつも嬉しそうに話すんだよ。
親も親戚もいない俺には、たった1人の家族なんだ……だから幸せになってほしい」
不思議とその言葉には、どれだけお姉さんの思っているのかが伝わってくる。
そんな人が犯人なわけない、と僕は思いたい……尾行さえなければ、
もっと素直にそう思えるのに
「ところで、そこの君可愛いね。1枚いい?」
「え、ええっと――わわっ!」
詩島さんは返事を待たずにシャッターを切った
「何するんだ、いきなり失礼でしょ!」
「ゴメン、ゴメン。でも俺、『追跡、撮影、いずれも~マッハ!』が心情なもんで」
口ではそう言っているが、特に悪びれた様子はなく。彼はポラロイドカメラで現像した
ばかりの写真を見る。その出来にご満悦な顔で、それをヒュっと手投げする
「いい画だったでしょ?」
余程自信があるのか、詩島さんは決め顔で言った。たしかにその出来は、他2人よりも
綺麗に撮れている。自慢するだけのことはあった
「じゃあ、俺はこれで失礼!」
「あっ、ちょっと待って! まだ話は――ってもういない!」
「早いねぇ~、もう見えなくなっちゃったよ」
ろくに話も聞けず。止める暇もないまま、詩島さんはあっという間に去ってしまった
――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――◇――――――
side:明久
「ってな感じだよ」
「うーん」
話を聞く限りだと、最初の門屋さんは常に挙動不審、カメラの腕は壊滅的だけど、
それは僕らを欺くためにワザとってことも考えられる
詩島さんは体格も近く、身体能力も高いから犯行自体はそう難しくなさそう。おまけに
写真を見せびらかすところなんて、犯人とやっていることが似ているのも気になる
逆に相川さんは一見怪しいところはないけど、でも現場のすぐ近くにいるから
3人の中で最も犯行がやりやすい、か
「ダメだ、色々考え出したらみんな怪しく見えてきた」
「でしょ?」
「共通点とかないかな」
「きっと皆、仮面をかぶっているんだよ」
「共通点と言ったら、全員がすぐに現像できるポラロイドカメラを持ってた
ってことくらいだし」
「他にないかな?」
「ちょ!? 2人とも私のボケを流さないでよ!」
やはり、真犯人なんてなくて。ムッツリーニが何か関わりがあるって方が
現実的な考えなのかな。いやいや、僕が信じなくてどうするんだ。
なにか見落とてないか、もう一度考えるんだ
「あと思いつくのは、犯人は撮った写真以外証拠を残してないから、
そうとう手練れってことくらいかな」
……ん? なんだろう、今の言葉、何か引っ掛かる
「ねぇ、雨宮さん。犯人は写真を投げて、すぐ逃げていったんだよね」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「うーん?」
何だろう……この違和感は。いや、違和感はもっと前から感じていたはず。
そう確か、ムッツリーニの仕業じゃないかと疑った時だ。
でも、それが何に感じていたことなのか――
「そうか……繋がった! そういうことか」
頭打って心配だったけど、杞憂だった。むしろ――
「脳細胞がトップギアだ!」
「わかったのアキ君?」
「いや、まだ犯人の目星はついてないんだ。わかったのはムッツリーニの無実を
立証できることだけで」
「それだけでも前進したよ。ヒロ君も頑張って! アキ君に先を越されちゃう」
「って、雨宮さんも一緒に考えようよ」
「私、こういう小難しいこと考えるの得意じゃないから!」
人の事はいえないけど、そんな自慢げに宣言することじゃないよね!?
「僕もあと一歩で繋がりそうなんだけど、それが何かわからなくて。
……ああ、もうしょうがない!」
何かを思い立ったのか。ヒロは壁に向かう
「よっこいしょ」
軽く勢いをつけて、壁に足を置く形で逆立ちをし始めた
「ヒロ、いったい何しているの」
唐突な行動に首をひねらせていると、雨宮さんが自慢げに説明し始める
「これはヒロ君のシンキングポーズなんだよ。これをすると何か閃くんだって!」
胸を張って解説する雨宮さん。今の彼女は店長のご厚意で、DK堂の制服を着ている
その服は店長の趣味なのか、メイド風な衣装で、やたらとスカートが短い。
そんな彼女が逆立ち状態のヒロの傍にいるということはつまり……そのスカートが
見えそうなんだ
「見えてきそう?」
「……もう少し、あとちょっと」
ただでさえ2人の立ち位置は危ないというのに、ひざを抱えてヒロの前に座りこむ雨宮さん。
ヒロの返答もあって、色々と誤解を招きそうな光景だ
「見えた!」
見えたの!?
「見えたって、何が」
「もちろん、犯人だよ。ツユリちゃんのおかげでね。お手柄だよ」
「本当なのヒロ君!」
「いったい誰が」
「それはね――――だよ」
TO BE CONTINUE : 次回に続く