神を喰らうもの 作:荒ぶる人
かなり独自解釈盛り込んでいます。そこらへんご了承ください
昔、俺が12になるかならないかくらいの頃、その時にはちゃんと自分の家があった。
結構小さくて、人には到底自慢できないような自宅で、毎日家族は仕事で大変だったが、いつも俺の帰りを笑顔で迎えてくれていた。
俺はそれがなによりも好きだった。ずっとずっとこんな毎日が続けばいいと、俺は思っていた。
だがその日、そのすべてが破壊された。
建物は腕を横に薙ぐだけで吹き飛び、人は抵抗の余地もなく虫のように踏みつぶされ、人を安全なところへ避難させるための護送車は爆発して燃え上がっている。
地獄、そんなものがあるのならまさにこのような光景なのだろうと幼いころの俺は思った。
悲鳴を上げながら、化け物に四肢をちぎられる母親の姿は、多分一生忘れることは無いと思う。一目散に逃げ出した父親が踏みつぶされてできた血の跡は、見ただけで吐き気を誘った。そして、化け物が姉を口に入れて噛み潰した時の音は、もう聞きたくはない。
俺はただ泣き叫んだ、必死に。声が枯れるまで、喉から血が出るまで、ずっとずっと。
だがその程度で止まるものは存在しない。誰にも、荒ぶる神は止められない。人間に、一生勝ち目はない。
唯一、ゴッドイーター達をのぞいては……
「寒……」
極寒の地の元、俺は右肩に担いでいた金属の塊のようなゴツイ刃物……神器を地面に突き刺した。
神器とは、ゴッドイーターが荒ぶる神を殺すためにつくられた、ゴッドイーターの武器。これを作るために、何人もの人がアラガミに殺されたのだとか。
神器の素材には、アラガミの身体とコアを使って作られている。目には目を歯には歯をというように、神には神なのだ。理屈としてはそんな感じなのだが、この神器は誰にでも扱えるわけではない。神器はアラガミの素材で作られているため、普通の人間が触れれば、それだけで触れた人間は神器に喰われて終わりだろう。
この神器を扱うためには、オラクル細胞と呼ばれるアラガミの超細胞を体に入れて適合させなければいけない。 このオラクル細胞を入れることにより、神器とゴッドイーターは一体化して、そのまま武器として扱える。ただ、このオラクル細胞を体の中に入れる__一般的には適正試験と呼ばれている__事は、血液に猛毒を流しこむようなものだ。ほとんどの人間は、死ぬか、荒神化する。この適性試験によって死んだうちの支部の管理下の人間の人数は、今のゴッドイーターすべての支部を合わせた数を数10倍にしても届かないのだとか。それほどまでに、この適性試験で適合する人間は少ないのだ。それに、適合しなければ死ぬか殺されるかの二択なのだからさらにタチが悪い。
そんな生存確率の低い適合試験を受かり、俺はゴッドイーターとなった。俺の身体は荒神の細胞に侵されている。敵を殺すために敵を体に取り込むなんていかれてると思う、だが、この時代ではそんなことも言っていられないのが現状だ。
「さて、そろそろかな」
そう言って、地面に刺した剣に手をかざすとすさまじい熱気を感じた。ちょうどいいくらいか。
俺の相棒……地面に突き刺さった血の様に赤い剣は、発熱ナイフと呼ばれるショートブレイドだ。特殊な金属を、アラガミのコアによって高温で発熱させているため、アラガミを切った時に切断面が焼ける仕組みになっている。焼ける、というのはアラガミを切った時の話で、もしこの剣で人を切れば焼ける程度では済まないだろう。もっとも、体が切れるというだけで重傷なのだが。
と、それよりも早く討伐対象を探さなければならない。こんな極寒の地に長時間いたら凍傷になりかけない。まあ、凍傷程度であればオラクル細胞を入れたゴッドイーターの身体だとすぐに回復するのだが。それでも、痛いには痛いのだ。回復がいくら早かろうと感覚が変わるわけではないのだから。
ズシリ……
噂をすれば、前方から地面がきしむ音が聞こえた。重量感のある音、多分1トンはあるのではないだろうかと思われるそいつは、ほぼ間違いなく今日の討伐対象だろう。向うから出てきてくれるとは有り難い、探す手間が省けた。
と、そんな巨体は今、足音からしてのそのそと動いている。きっと餌でも探しているのだろう。
俺は地面に刺していた神器を抜く。すると、急に足音が止まった。きっと引き抜くときに神器が鳴らしたわずかな金属音でこちらに気づいたのだろう。やがて対象の足音がまた聞こえ始めた。走っているのだろう、今度はドシドシと荒い音が聞こえる。対象の足音はどんどんと大きくなり、こちらへと近づいてくるのが分かる。
そして、そいつは姿を現した。
廃墟から除くその体は金色、頭はお面のような赤色の甲殻で覆われており、背中には大きなパイプがくっついている。骨格はゴリラのような感じだが、見た目はゴリラと似ても似つかない。高さ3メートルくらいはある巨体に二本の大きな剛腕。面の下にある、裂けてしまうんじゃないかというほどの大きな口は人一人分は入りそうだ。
間違いない。猿神コンゴウ、俺の今回の討伐対象。
「たく、いつ見ても不細工な面だよな……」
そう言うと、向うはそれに反応したかのように大きな雄たけびを上げた。木に降り積もった雪が振動でどさどさと落ちていく。
戦闘の始まり、ここからは気は抜けられない。無意識に腕に力がこもる。
「行くぞ……」
先に動いたのはコンゴウ、その大きな巨体を持ち上げて俺のいるところへのしかかって来る。それを軽くステップでかわしたが、コンゴウがのしかかったまわりには小型のクレーターができていた。あれをもしまともに喰らったらどうなるかなんてのは考えたくもない。
そして、そのおかげでできた隙のうちに大きな腕に向けて神器を振り下ろす。コンゴウの身体は硬い甲殻で覆われているので、一回斬るだけで切断とはいかない。少し傷ができる程度だ。だからさらにそのまま、横、縦、斜めに連撃を入れた後、散々斬ったことによりできた甲殻の割れた部分に、体の全重力をのせた神器を剛腕に突き刺した。神器が3分の一程埋まるが、貫通はしない。全く、甲殻を砕いて傷口から刺しているのにこれとはどれだけ頑丈なんだか。
コンゴウは、その程度気にしていないのかゆっくりと立ち上がる。そして今度は涎を垂らしながら大きな口を開いて噛みつきにかかって来た。一瞬血のような鉄のにおいがしたのは気のせいではないだろう。
だが、襲い掛かる口を俺は避けはせずに、そこに向けて神器を横に薙いだ。裂けそうなくらいの大きな口が、本当に裂ける。今度はちゃんとザクリと気持ちのいい音が聞こえるのと共に、肉が燃える音と肉の焦げた臭いにおいが鼻に着く、飛んで火にいる夏の虫とはまさにこの事だ。
口は結構どの生物もやわらかいので弱点であることが多い。コンゴウだってそうだ、硬い甲殻は口の中になんてつけられるものではない。
「ゴあァ!?」
コンゴウはたまらず悲鳴を上げて退いた。もちろん、休憩を与えようなんて思わない。
後ろに後退したコンゴウに追撃を与えるべく、俺は前方ステップに合わせて腹部を突き刺す。またもや気持ちのいい音と焼ける匂い。コンゴウは腹部も甲殻で覆われていないので斬りやすい。腕は筋肉質なので甲殻の下からも硬かったが腹部は別だ。脂肪の塊に鉄の塊が突き刺さる。そしてそのまま横に薙ぐと、血が地面に飛び散って白い雪に滲んでいく。
たまらずコンゴウは腕を顔に当てて丸まった。防御しているつもりなんだろうがそれこそ隙の塊である。今度は後ろに回り込んで尻尾を切り刻む。コンゴウは尻尾も案外脆い。というか俺の「ショートブレイド」という武器種ではここが一番効く部位なのだとか。
一回二回三回四回……尻尾は何度も切りつけると、やがてつながっている部分がなくなり胴体から離れて宙を舞う。尻尾が回転をしながら落ちていき、雪に埋まった。
切断面からはまたも大量の出血。だが、出血はすぐに収まり切断面は無くなる。尻尾が生えて来るなんてことは無いにしろすごい再生力である。
このまま畳みかけれれば、と思ったが、流石にそう簡単にいくほどアラガミは弱くはない。
「グゴアァァァァ!!」
コンゴウは本日2度目の雄たけびを上げた。目を赤くして息を荒げているところを見ると怒っているのだろう。 怒って動きが単調になってくれればうれしいが、アラガミは馬鹿ではない。むしろ怒ることによりオラクル細胞を活性化させて、動きが俊敏になり力が上がるのだ。つまりここからさらに気を引き締めていかなければならないというわけだ。
コンゴウは自分の身体で直接攻撃するだけの脳筋ではない。背中のパイプは周りの空気を集めて圧縮し、それを打ち出すことができる。剛腕を使ったパンチやプレスよりもこちらの方が気を付けるべきかもしれない。空気弾は直接攻撃よりは殺傷力は低いが、弾が早い。また、空気弾もパイプから打ち出すだけではなく、敵のいるところに空気を圧縮させたり自分のまわりで爆発させたりと種類も豊富だ。この空気段位被弾してその後連撃でプレスなんて喰らったら重傷を負ってしまう。
コンゴウはこちらを睨むと、パイプに空気を圧縮させていく。早速撃ってくるようだ。横へ二歩ステップ、すると先ほどまで自分のいたところの雪が爆発音とともに舞っていた。相変わらず恐ろしい、だが空気弾は撃った後には必ず隙ができる。ここを逃すわけにはいかない。
またもや前方ステップで発熱ナイフを突き出す。今度の狙いは腹ではなく頭。突き出したショートブレイドは、狙い通りにコンゴウの左目を貫いた。
今まで以上に苦しみの悲鳴を上げるコンゴウ、ここで一気に畳みかける。
神器を両手で構えて、手元のスイッチを押した。すると神器から黒い頭部が生えてきた。
捕食形態、これがあるからこそ俺たちはゴッドイーターと呼ばれている。この黒い頭部は完全にアラガミだ。貪食で、アラガミを食べる事に飢えている。この頭部が生きたアラガミを食う事によって、神器を通して俺の身体を食ったアラガミのオラクル細胞で強化させる。この状態をバースト状態という。バースト状態では攻撃力が桁違いに上がる。自身の肉体と神器が、オラクル細胞により一時的に強化されるからだ。
バーストした俺は、コンゴウの身体を何度も切りつけた。あれだけ硬かった甲殻も、今は一撃入れるだけで砕けていく。全身の甲殻を砕き、むき出しになった肉を切りつける。何度も悲鳴を上げていたコンゴウだったが、やがてその悲鳴は力のないものとなっていき、やがて力なく前方に倒れ伏した。
「……終わりか」
そう言うと、一気に疲れが体に押し寄せる。バースト状態が解けたのだ。バーストが解けると、バースト中の疲れが一気に体に来るので倦怠感がすごいが、慣れれば気にはならない。というかその程度でいちいち座り込んでいたらアラガミに喰われる。
コンゴウが死んだことをもう一度確認すると大きく息を吐いた。全くやな仕事だ、今日だけでも一苦労なのに明日は明日でさらにアラガミを狩りにいかなければならない。荒ぶる神と人間の戦争には終わりが来るのだろうか?
まあ、少なくとも俺の生きてる間はずっと続きそうだ。
「さてと……」
もう一度、今は力なく倒れているコンゴウの顔を覗き込んだ。
「……何度見ても憎たらしい顔だ」
そう言って、コンゴウの死体を睨み付ける。
俺は昔このコンゴウに自分の家族を皆殺しにされた。勿論こいつとは別の奴だが。
俺の住んでいたところは昔、アラガミの大群によって襲撃を受けた。アラガミ防護壁に穴をあけ、そこから群れでやってきたらしい。その時の事はよく覚えている、燃える街、泣き叫ぶ人々、辺り一面に広がる血の海。その中で俺たち家族が逃げていたところにちょうどこいつが現れた。コンゴウが俺たちを見つけた時に、不気味な笑いで口の端を釣り上げた時には恐怖で立ってさえいられなかった。そのまま俺の家族は死んでいき、最後の最後で殺されそうになった時に現れたのがゴッドイータだった。その時、まだ幼かった俺は、命を助けてもらったのにもかかわらず、どうしてもっと早く来てくれなかったってずっと泣き叫んでいた。
そこから、俺はゴッドイーターに連れていかれ、オラクル細胞の適性検査を受けた。適性があると分かるとすぐさま適性試験を受けさせられた。俺は身寄りが無かったため、死んでも何も問題はないいい人材だったのだろう。そして、その時見事に適性試験を抜けてゴッドイーターとなり、今に至るのだ。ちなみに、その時適性試験を俺以外も数人受けていたのだが、全員死んだ。俺と同じくらいの女の子、中年の男、二十歳くらいの青年……色々な人がいたが、全員無残な死に方をしていた。誰一人として人間としての原形をとどめてはいなかった。その時も結構吐きそうになっていた気がする。
まあ、昔の話だ。どうでもよくはないが今は気にならないし、昔を気にしたって変わりはしないんだからしょうがない。一番大切なのは今なんだ。
「まあ、仕事で死ぬにしても、俺はこんなふうには死にたくねえな……」
そう言って、死体のコンゴウにもう一度剣を力強く突き刺した。そして、武器を捕食形態に移行させる。黒い頭部は死体の肉を貪り食い、コンゴウのコアを見つけるとそれを抜き取る。まだ死体からは素材が取れるが、素材の方は後で来る調査の人達に任せて問題はないだろう。
「さて、帰るか……」
そう言って、無線機を取り出した。繋がっているところは決まっているので上の部分にチャンネルのネジはついていない。
「今終わった、さっさと帰りたいから現場までヘリ来てくれない?後素材の回収はいつも通りって伝えといてくれ」
『了解しました、今すぐそちらへ向かいます。アラタ様はそちらで待っていてください』
「ご丁寧にどーも、別にそんな口調にならなくてもいいのに。俺は様を付けられるほど偉くなった覚えはないぞ」
『いえ、アラタ様はゴッドイーターです。それだけで、あなたは私達人類の希望なんです』
「大袈裟な、まあとりあえず待っとくわ。場所は高い廃墟の天辺とか分かりやすいところで手でも振っておく」
そう言って、通信を切って無線機をポケットにしまった。
「やっぱ寒いな……」
戦闘前から降り続ける雪は、今になっても止まる気配はない。ただ、俺の神器の近くだけは、雪が解けて地面が露出していた。
なんででしょうか、コンゴウの描写かいてるとき風来のシレンってゲームのマゼルンって敵がものすごい頭に浮かんできた。全然似てないのに……