機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第十話 脱却

 

リシリアの決起からようやく1日がたとうとしていた。

ジレン爆殺未遂の真実も派閥関係者の事情聴取であらかた浮彫になりつつある。

 

ジレン暗殺未遂は例のジレンの小姓2人を抱き込んだ犯行であった。

2人の両親を人質にして実行犯に仕立てたことが分かったのである。ただ、爆破直前に連絡員が入ったことで仕掛けていた場所からジレンが離れてしまい、命を奪うには至らなかったのが誤算であった。そのため、スケープゴートにジレンの周りを排除しようと考えて今回の騒動を考えたらしい。

 

「しかし、皮肉なものだ。その当のジレンがあの状態だとわかっていたらあの女もここまでしなかっただろうな。」

「同感です。」

 

ロズルとデラーズ、そして俺はジレンに直接面会してきた帰りにそうぼやくことになった。

確かにジレンは生きていたが、当初の報告とはかなり状況が違っていたのだ。

報告では左目の失明に全身火傷となっていたが、実態はさらに重症だった。

何しろ両目とも完全に失明、しかも爆発物の破片で脊椎損傷による下半身不随であると説明されたのだ。

ぶぜんとした顔つきで、爆破前と変わらずに指導者然とした雰囲気を出していたが、どう見ても執務継続は不可能だ。戦闘指揮など論外だろう。

つまり引退は決定的だ。

 

(リシリアは労せずして実権を手にできた可能性もある。少なくとも先の『ヒュドラ文書』の内容を実施することはもう不可能なのは誰の目から見ても明らかなのだから、わざわざジレンの周りをさらに削る意味はなくなっていた。今度本人に教えてやるか?)

 

そんないやがらせのようなことを考えていたが、それどころではないことを思い出して顔を引き締めた。緊急時とはいえ、予定を大幅に繰り上げた上に独断で計画を実行した。

正直言えば早すぎると思えなくもない。

 

「決起のことを気にしているのか少佐?」

「さすがに早すぎました。準備にもう少し余裕を持ちたかったと思いまして。」

「気持ちは私も同じだ。だが、ジレンが開戦を考えていたほどならもはや避けられないのも事実だ。後は、進むしかない。」

 

そう、どちらにせよ進むしかもはや選択肢はないだろう。

このお家騒動もいずれ連邦に知られる。いや、既に知られていると思うべきだ。

ならば、向こうに出鼻をくじかれる前にこちらから先手を打って行くべきなのである。

 

 

デラーズと今後の意思を確認し合ったその日の午後、ロズル・ザビが演説台に立った。

立場としては総帥代行。あくまで仮という肩書だ。ただし、それもおそらくこの時までだろう。

 

『知性と勇気を併せ持ったジオン市民諸君。先日、我が兄にして総帥であるジレン・ザビが暗殺されかけたことはすでに見聞きしていると思う。そして、その実態が何であったかも大半の者がすでに知っているはずだ。』

 

既に昨日のリシリア謀反の詳しい経緯はあえて国民全土に流している。本来は隠すべきなのかもしれないが、戦時中に暴露されて士気が下がるよりは潔く公表する方がいいという判断である。ロズルは一拍間をおいて再び口を開く。

 

『我がザビ家の権力争いが危うく国を破滅へ導くところであったと、私はその肉親として何らかの責任を取らなければならないと考えた。そこで私は現在、ザビ家関係筋の政治団体と右翼組織の解体を警察に厳命している。・・無論、私もこの演説後に総帥代行を正式に辞任する予定である。』

 

国民全体からざわめきが聞こえてきている。

無理もないことだろう。ザビ家はジオン・ガイクン(前世のジオン・ダイクン)無き後、その意思を継ぐ者としてレキン公皇が先頭に立って、政治・軍事両面で発言力を増大させていった歴史を持つ。それを当のザビ家の一人が否定するような発言を行っているのだ。

 

『我が父、レキン公皇も正式に引退し公皇そのものの位も排棄することを決定している。もはや私の発言に実行力は失われつつあるといえるだろう。ただ、国民諸君。今少し、私に耳を貸していただきたい。我が国は現在、生きるのに精一杯なこの状況に置かれてなお搾取される立場にある。誰に?

聞くまでもない。地球に住む特権階級者、そして連邦政府によってである。』

 

ロズルの演説は当初、デラーズが代理で読み上げるつもりでいたが、今回の騒動と今後のためにも自分が行うというロズルが買って出ている。いささか酷であると思いながら。

何しろ、我が『黒鉄会』はザビ家独裁から脱却することこそが連邦との戦争に対処するために必要なことだと考えていたからである。

 

『連邦政府に対し、我々は長い間自治権独立を訴えてきた。だが、連邦政府はそれを拒否するばかりか我がサイド3をはじめ他のサイドに対しても植民地のような扱いをいまだに続けている。これを容認することはザビ家としてではなくジオン軍人として看過できない。

だが、連邦の力は巨大であり、戦力差も圧倒的である。それに対抗するにはあるものが必要だ。それは何か?国民皆の誠意と協力である。

この戦いは我々ジオンだけのものではない、ましてザビ家の覇権目的でもない。全サイドの独立と自治権を勝ち取るための戦いである。どうか、今少し私に、いや軍に力を貸していただきたい。』

 

この演説は賛否両論で紛糾したが、賛成派が大多数を占めた。

ザビ家支持者もいたことは確かだが、コロニーの自治権確立はもともとザビ家が実権を握る前であるジオン・ガイクンの意思でもある。

かくして、ロズルを軍の象徴に据えた新体制の下、連邦との宣戦布告に踏み切ることとなったのである。

 


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