機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

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第十一話 新生ジオン

さて、新体制発足に伴ってザビ家独裁体制は大幅に見直されたのはもはや語るまでもないだろう。

今までの公皇をトップに据えた組織体制は事実上解体。

代わりに『円卓議会』を臨時に導入した。

この議会ではそれぞれ内務、教育、治安、軍事、外務、資源、技術の7つの役職で構成される。

それぞれがその手の専門家に一任するやり方だ。

開戦を控えている以上、それぞれの専門家に職務を一任することで国内を安定させることを目的にしている。

最初は『黒鉄会』主動で選定したメンバーを用いることになるが、3年毎に入れ替える方針もすでに公表している。ただ、この制度導入に当たり憂慮することもあった。

戦時突入したがゆえに、国民から批判されないかということである。

だが、それは無用な心配だったようだ。

 

当初、国民の中にはロズルがこのメンバーの中にどうせ含まれると思っていた者が声高に批判したが、彼は既に辞退していることを発表した。

それによって、国民は意外に好感を示している。

結果として、今回は以下のようなメンバーが『円卓議会』の主要メンバーとなった。

 

内務代表:ムハラジャ・カーン(前世のマハラジャ・カーンでこの後世では非ザビ派)

教育代表:カサレフ・N・ミノフスキー(前世のミノフスキー博士)

治安代表:ハルトン・ライリー(黒鉄会メンバー・前世オデッサ基地警備出身)

軍事代表:エギュー・デラーズ

外務代表:ロスター・カーティス(前世のウォルター・カーティス)

資源代表:グライド・ヒープ(前世のユライア・ヒープ)

技術代表:ゲニアス・サハリン(前世のギニアス・サハリン)

 

では肝心のロズルはどうしたか。

彼は、ソロモン守備隊司令官という前世と似たような役職に就き、職務に励んでいる。

ただ、俺が知っていたロズルよりもかなり落ち着いた感じになっていたので前よりも視野の広い采配が期待できるだろう。

 

結果、速やかに確認すべき問題は目の前の『これ』についてだ。

 

今、俺の目の前には後輩がいうところの『リーガン専用リックドムモドキ』がある。

だが、おかしい。明らかに見た目が前回と違う。

 

「あれから2週間しかたっていないのに。実地訓練時のデータ解析と整備点検をすると聞いていたのだが」

「いやー、ツィマド社から新型に使う交換用部品のテストを委託されたんです。で、それも一通り終わって良好な結果だったからついでにそれを先輩の機体に流用してみたんです。意外に親和性が高いから飛躍的な性能向上が」

「それ以前に、これはいったいなんになるんだ!?お前、いい加減にしろよ!!」

 

何しろ、あのズングリむっくりした胸部はかつてのザクのようにスマートになっている。その一方で、両腕・両脚は小さくはなっているがやはり他からするとまだ太い。

それと気のせいだろうか、背面部にすごく不吉なものを背負っているように見える。

 

「・・一つ確認したいのだが、あの背中にあるものは」

「よくぞ聞いてくれました。あれはUC0070の初期試験型MSに搭載されていた高速推進用バーニアです。ジオニック社で当時、3機に試験搭載されたらしいのですが機体が加速に耐えられなかったとかで保管庫で眠っていたのを拝借したしだい」

「よせ、やめろ、聞きたくない!あれはもろに欠陥品だぞ!!」

 

まさに俺の中の『黒歴史』入りしていた兵装と同型だったようだ。しかも、拝借って。

改修は?改善は?してないのか?安全性は?

あれのために俺がこの世界に転生できたのではなかったか。

 

「大丈夫ですよ。前の実験機と違って先輩の機体は高速での移動にも耐えられるようになっています。それに、念のためにリミッターを付けていますので最大出力下で利用するかはパイロットに一任できるようにしましたし。」

「誰でもいいから、俺にふつうの機体をあてがってくれよ。」

 

毎回、この後輩は俺が必要なものは作らず紙一重の物を作る変な癖がある。

連邦との開戦が近日に迫ったため、機体の確認に来たらこのありさまだ。

俺でなくても、頭を抱えたくなる衝動に駆られるはずだろう。

ただ、いいこともあった。ザクに代わる量産機が作戦実行用の主要部隊に先行配備されることになったのだ。ジオニック社・ツィマド社共同開発機『ドムB型』である。

当初は、重力環境下での運用を追及した『A型』という機体が開発されていたようなのだが、我が『黒鉄会』の要請で宇宙空間における戦闘を追及することになったため、そちらはペーパープランのままとなり同時進行していた『B型』が日の目を見ることになったのである。

 

『黒鉄会』の技術者に確認したらやはり、A型は前世のドム。B型は前世のリックドムであることが確認できている。ただ、A型のペーパープランは現在進行中の『重力化実験計画』なるものにつかえそうなので有効利用されるらしい。まあ、いいことなのだろう。

ただ、前世のリックドムには稼働時間がドムの4分の1というのが問題であったとある筋から聞いたことがある。量産機として致命的問題ではないのかと確認してみた。

すると、機体肩と腰回りに小型のプロペラントタンクを取り付けて長期運用を可能としたらしい。

涙ぐましい努力が見え隠れしてくる。同時に、俺の後輩が新世代量産機を模索中とのことだ。

あれに任せて大丈夫なのだろうか?

いや、オーダーメイド機や武器開発などは認めてもいいのだが、量産機開発向けの技術者ではない気がするのである。まあ、抑え役もたくさんいるから大丈夫だろう。

そう思おう。いざ、俺に何か言われても俺は何もできない。

 

次の日、俺は『作戦』実行に備えて俺の部下にあたる連中と顔合わせを行った。

なぜ今頃かと思う者も多いだろう。答えは単純だ。

兵員不足である。ベテランだけでは戦はできない。

しかも今回の作戦はおそらく今後を左右する。

そこで急遽、ジオン軍学校の上級生から優秀な者を繰り上げ卒業させてそれぞれの部隊に配属させたのである。そして、その中には『黒鉄会』で最初に俺に声掛けしてくれた青年もいた。

 

「リーガン少佐。私も少佐殿と同じ部隊に配属されることになりました。ご指導のほど、よろしくお願いします。」

「いや、私より俺の先輩方にいろいろ学んだ方がためになる。」

 

そんなことを口に出していると全員が首を左右に振っていた。

なぜ振る?俺よりお前らの方が宇宙空間内での作業経験があるはずだろう。

あれか、前のモビルスーツ酔いが原因か。あれこそ誤解であるはずだ。

俺が少佐に出世する一つの遠因となったMSへの試乗者全員が、『あれはザクではない!あれは別の何かだ!!』と口をそろえて叫び、俺は部隊内で『裏のエース』などと呼ばれるようになっていた。俺はそんな大それたもんじゃない。

 

「デラーズ閣下も少佐のことを評価してましたよ。自分がいないのに計画を遂行した手並みが見事だったとか。」

「光栄なことだよ。まあ、どれくらいこの隊にいる事になるかわからないが、しばらくよろしく。ええっと」

「デラーズ閣下から名前を聞きませんでしたか?何でも驚くからそのうち折を見て話すとおっしゃっておられたのですが。」

「いろいろ、ゴタゴタしてたからな。おそらく間がなかったのだろう。」

 

これには確信がある。この短期間で情勢が変化したのだから、そんな暇はなかった。

 

「では改めまして。私、シュルベル・ガトーと言います。以後、ご教授お願いいたします。」

「は?」

 

すごく覚えがある名前だった。そして、なぜデラーズが俺に黙っていたのかが理解できた。

 

「・・すまないが、君の前世は」

「前世では『アナベル・ガトー』で知られておりました。もっとも、私が覚えてることは断片的にしか覚えてないので。」

 

実に残念そうに語っていた。だが、言われてみれば納得はする。

実直な性格。それに繰り上げ卒業でここにそのまま配属されたということはMSパイロットとしては優秀ということだろう。下手したら、すぐ抜かれるかもしれない。

 

また一人、問題のある後輩が増えたのではと考える俺であった。

 

 


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