機動戦士ガンダム~UC(宇宙世紀)変革史~   作:光帝

12 / 82
第十二話 連邦の動向~連邦サイドの現状①~

 

ジオンがお家騒動を鎮静化させた頃、連邦でも変化が起き始めていた。

UC0073年12月。ジャブローにて今後の活動をいかに進めるかの会議が行われていた。

その中にエビル少将がいる。前世のレビル将軍だ。

前世では陸軍派閥出身であったが、この世界では海軍派閥から出世街道を進んだ猛者として認知されてきている。だが、ジャブロー上役の覚えはあまりよくない。

ジャブローでは別の人間2人を高く評価しており、この会議にも出席している。

サミトフ・ハイマン准将とシーサン・ライアー少将である。

 

サミトフ・ハイマンは前世のジャミトフ・ハイマンだ。

前世ではUC0083年で准将だったが、この後世では10年早くその地位を手中に収めていた。

現在は、『大陸間貿易公社』の理事の一人であり、連邦と公社との連絡役でもある。前世よりもしたたかさが見え隠れする人物となりつつあった。

シーサン・ライアーは前世のイーサン・ライアーである。

前世ではUC0079年時で大佐。レビル将軍に対抗意識を持っていたが、階級で出遅れ、MS部隊創設でも先を越され、作戦構想力でも追いつけない男であった。

だが、この後世ではサミトフと手を組んでおり、出世街道を突き進みエビル少将と同格にまで至っている。前世同様、性格は冷徹で兵士を捨て駒にすることもいとわない側面が随所に見え始めていた。

 

会議進行役はメンツが集まったのを確認して開始を告げたうえで、口を開いた。

 

「現在、サイド3周辺のコロニーで治安悪化が報告されている。それに伴って、今後軍としてはどのように行動するべきか?それぞれの立場で意見を自由に発言いただきたい。」

「治安悪化と言っても、暴動が他のサイドに広がるほどではあるまい。無視してよいと小官は考えますが。」

「それも一理あるが、他への見せしめをかねて軍を動かし、牽制に使うという方法もある。」

「そちらは軍を動かすのに理由が欲しいだけではありませんか?MSなどというブリキ人形を量産すると主張した手前、その実用性を内外に見せつけたい腹なのでしょうが」

「陸軍出の大艦巨砲主義者らしい発言です。前時代的考えだから有用性を理解できないのだ。だから懲りずに『戦艦増産、戦艦開発』などと無駄な予算を回しているわけですね。」

「!!貴様、無礼であろう。まがりなりにも目上に対しての発言とは思えん。弁え給え。」

 

エビル少将は会議開始と同時に首を振るだけであった。

普段から反りも合わないサミトフすらも同様に帽子をいじって呆れている。

当然なのだ。

この会議のような押し問答は実は、既に3回目。

各サイドからの自治権主張の嘆願書や参政権主張の意見書が来るたびに同様のことが行われていた。

 

元々、MS開発・量産を推進していたのはエビル少将である。

ジオン公国で発表されたミノフスキー博士の『新粒子論』とそれに関連する『MS兵器案』の重要性をエビルがブレーンとしている『ある男』から聞いたためであった。

当初は、たいしたものではないと思っていたが、ここ2,3年の状況は彼の危機通りになっている。

 

ジオン側におけるメガ粒子兵器の確立。

MSの実用実験の積極的推進とパイロットの育成。

重要拠点の要塞化強行。など、言った通りになっている。

無論、エビルもただ黙していたわけではない。

ジオンのMS開発計画に対抗するために、民間研究機関である『キリシマ研究所』にMS開発を依頼していた。

その結果、ザニーが誕生したわけである。

ただ、当初は各種戦線に対応できる装備も同時開発する予定であったが、事態が急変した。

 

同研究所が不正を行ったとして職員全員の隔離と全設備の接収が行われたためである。

職員はその後、エビルの根回しで釈放されたが、研究資料やそれに関連する装置などは『不正に関連する証拠』として返却されなかった。

ただ、その背後にMSの実用性を理解したシーサン・ライアーの影が見え隠れしているのを知るものは少ない。

不正そのものがねつ造されたものだと判明したころにはすでに手遅れだった。

シーサン子飼いの軍事会社『ユーラシアコーポレーション』が自社開発と称してザニーを公表したのだ。無論、エビルは強く抗議した。

だがこの頃、シーサンが国家安全監査官として着任していたことが勝敗を分けた。

彼自身の追及は一切行われず、真実は連邦上層部への賄賂で揉み消されてしまったのだ。

結果、ザニーを開発した『キリシマ研究所』の成果はなかったことにされ、その量産技術のすべてを『ユーラシアコーポレーション』が独占した。

これによってシーサンは連邦上層部のお気に入りとなったのである。ただし、あくまでザニーの位置付けは船外活動と砲撃支援機としてであったが。

結果としてシーサンの狙い通り、エビルは軍上層部から敬遠されるようになってしまいそれに伴ってシーサンが昇進していくことになった。

 

だが、それが思わぬ事態を招く。

エビルやシーサンすら予想していなかったことが起きたのだ。

今までは陸軍・海軍どこの出身であろうとほぼ出世の道は一本であった。

MAや戦闘機に乗り昇進。その後、戦艦勤務を経てジャブロー又は他所地上勤務という経路が当たり前だったのだ。

だが、MSの登場によりその価値観と出世経路が劇的に変化した。

安定していたはずの湖畔に石を投げ込んでしまったのだ。

今までは、陸軍出身の士官が戦艦勤務を終えるとジャブロー栄転というパターンが多かった。

だが、MSでの作業効率短縮は軍務での効率化を推し進めた。その反面、陸軍出の士官はなかなかMSの扱いに難儀するという事態が各所で発生した。一方の海軍出身者たちはMAなどに力を入れていたこともあって適応性が高く手足のように使いのなし始めた。結果的にこぞってMSを歓迎するようになった。だが、それによって派閥化が形成されることになったのである。

 

前世では現場主義のレビル・ティアンムの『強硬派』と、ジャブロー居残り組である『保守派』の二派が目立っていた。だが、この世界ではより極端に分裂していた。

つまり、陸軍出身将校の『戦艦優越主義』と海軍出身将校の『MS優先主義』にである。

 

この事態に至ったとき、サミトフは半ば呆れシーサンは打算による悩み顔になり、エビルは頭を抱えることになった。

結局、その後もズルズルと派閥争いが1年以上続いているわけである。

今回もその傾向があったが、事態は兵士の緊急電で急展開を見せる。

 

「会議の最中申し訳ありません。ただいまサイド3近辺の監視を行っていた船が『新生ジオンの使者』と名乗る者から映像書簡を受け取ったと連絡がありました。ただいま、データを転送いたしますので是非確認ください。」

 

それは宣戦布告そのものの内容であった。

その『新生ジオン』の主張は以下のとおりである。

 

『長きに渡る平等な対談要請をはぐらかされ、あまつさえ不平等な資源を要求され続けた我がサイド3連合体である『新生ジオン』は現在の地球連邦に対して以下の要求をするものである。

 

1.連邦政府管理下のコロニー公社の現地組織への引き継ぎ委託を行う。

2.各サイドの自治権を全面的に認め、各サイドに駐留させている軍艦船の撤収を行う。

3.1および2の要求が2週間以内に行われること。行われた場合、連邦と対等の立場を持つ者として交渉を改めて行う。

 

以上の要求が受け入れられない場合、我が『新生ジオン』ならびにサイド3全国民は全サイド・全コロニー市民の独立と自由を勝ち取るために、総力をかけてここに決起するものである。』

 

これは事実上の宣戦布告であり、国力比9:1と言われる戦いを開始することを向こうから宣言された最初の行動であった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。